ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
せめて週2、3話のペースで投稿していきたいけど……ただできる限り努めさせていただきます。
「起立、礼。神樹様に、拝」
「はい、皆さんさようなら」
早いもので私が讃州中学に入学してから二ヶ月が過ぎていた。その日々は学業、部活動と共に充実しきっていたものであり、かつての私の憂いを消し去るのに十分な時間だった。
「あれ、暁美さん。これから部活なの?」
「ええ。放課後に部室に全員集合って部長から連絡が来たのよ」
「勇者部って言ったっけ? この時期に呼び出されるなんて大変だね」
「全くだわ。緊急連絡だかなんだか知らないけど、そんなのこんな時にわざわざ集まらないで通知を送ればいいだけの話よ」
まあそんなところが犬吠埼先輩らしいけど、なんて続けて言うと、クラスメートの彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「? どうしたの?」
「ううん、何でも……ただ暁美さんが楽しそうにしてたから」
「……そう」
実際楽しそうにしていたんだって自分でも分かってしまう。勇者部としてみんなと一緒に活動するあの時間は、既に私にとって大切なものに違いない。
だからこそ私は絆されてしまった。かつて私を怖れ、避け続けていた級友すらも懐くほどに。
「あ~あ、勿体ないことしちゃったなぁホント。何で小学生の頃は暁美さんを不良だなんて思い込んでたんだろ」
「さあ? あなたが分からないあなた自身のことを私が分かるわけないじゃない」
「たぶん……いや、きっと……ううん、絶対。暁美さんが私に近寄るなオーラを飛ばしていたからのハズ……おそらく」
「よく本人の前でそんな曖昧すぎる啖呵を切れたわね」
「でも訂正するほど間違えてはいないと思う」
「……悪かったわね」
クーほむを止める気は今も昔も全く無い。魔法少女という重要なアイデンティティが無いからこそ、残ったほむほむ要素をなんとしてでも守り抜くことが私の使命。
だから誰かが私の事を避けても仕方がないことだと割り切っていたし、人付き合いも全然築かなかった。ただしそこに未練があったと言われれば、それを否定することはできなかった。
そんな偽りの仮面が勇者部として活動していく中で自然と剥がれかけていた。今の私には前みたいに人を寄せ付けない雰囲気は消えかけていたらしい。
別にそうなるよう意識していたわけじゃない。ただ普通に、暁美ほむらとしての新たな日常を送っていただけである。
「ねえねえ、暁美さんのとこの部活動って他の所の助っ人も受け持つんだよね?」
「ええ。運動系なら友奈が、文化系は東郷が活躍してくれるわ」
「へ? 暁美さんは?」
「私はどっちともできるわ。犬吠埼先輩もね」
「はーっ、さっすが暁美さん」
気がつけば私を恐れるような視線は感じなくなっていた。逆に友好的な声を掛けられるようになり、小学生の頃とは違う、平凡で充実した学生生活となっていた。
今話している彼女も、最初は目を背けたり何故か顔を真っ赤にしていたけどよく一緒に過ごすようになる。授業中に二人組を作ってと言われても困ることはない。
……そうなった最初のきっかけだけは腑に落ちないけど。おのれ友奈東郷。
「……それで、もしかしてあなたは助っ人の依頼をしたいの?」
「イエ~ス!! 再来週の土曜日にうちの遠征に来てください!!」
興奮気味に言うものだから下心丸見えよ。彼女の部活動ってあれで、私にも一度勧誘してきたし。
ただまあ、勇者部としてせっかくの依頼を断るわけにもいかないわ。
「分かったわ」
「いゃっほうぅ!! これでついに暁美さんのチア姿が「犬吠埼先輩を派遣するわ」ズコォ!? そこは暁美さんが来てよぉ!!」
「悪いけど私はチアリーディング未経験者なの。この時期じゃロクに練習もできないし諦めてちょうだい」
「いけずぅ!!」
ふっ、あなたの魂胆なんてお見通しよ。クーほむのチア姿を拝める機会なんてそう易々訪れるだなんて思わないことね。
「うー! いつか絶対にチアガールやってもらうから! 結城さんと東郷さんにも協力してもらうもん!」
「はいはい……もう行くわ。また明日」
何やら最後に不穏なことを言っていたけどそれは今の話じゃない。未来の出来事だというのならそんな運命なんて変えてみせる。だって私は暁美ほむらだから。
「また髪を掻き上げてかっこつけちゃって。暁美さんかわいい」
「黙りなさい」
ほむほむがかわいいのは当然の摂理として、ファサ…が通用しなくなったのは解せない。乱発しすぎたかしら?
家庭科準備室の一室の扉を開けて中に入る。ここが勇者部の部室であり、私達が集まる憩いの場でもある。
「失礼します。こんにちは、犬吠埼先輩」
「おーほむら、いらっしゃーい」
「ほむらちゃん、いらっしゃーい」
「いらっしゃい、ほむらちゃん」
「みんなもう来てたの。私が最後ね」
1年上の犬吠埼先輩、友達の友奈と東郷、そして私の四人が讃州中学勇者部だ。てっきり犬吠埼先輩のことだからもっとたくさん部員を勧誘するんじゃないかと思ったけど、私達三人が入部するとそのまま活動に乗り出したのだった。
「それで、緊急連絡とありましたが一体何なんです?」
今の時期に部活動を行うのは学校側から禁じられている。それなのにわざわざ部室に集合するなんて考えもつかない。
「……今日呼び出した訳を話そう。アタシからではなく、友奈が」
「友奈?」
「何かあったの? 友奈ちゃん」
「……東郷さん……ほむらちゃん……」
東郷が心配げに友奈を見る。東郷がこの場にいる中で一番付き合いが長いのは友奈であり、なおかつクラスも同じ故に一緒にいる時間も一番長い。そんな大親友が緊急と称し、勇者部部員みんなを集めた事が不安のようだった。
加えて先程まで笑顔を振り蒔いていた友奈が犬吠埼先輩に発言を促されると同時に一変。緊張や焦りが混じったものとなり、さらに東郷の不安を煽る。
「昨日アタシは友奈から相談を受けたの。だけどこの件はアタシ一人だけじゃなくて二人の力も借りたい」
「……っ! 友奈ちゃんどうしたの!?」
「落ち着きなさい東郷」
「でも!」
「……友奈、話して」
足が動かないというのに身を乗り出して友奈に詰め寄る東郷を咎める。心配する気持ちはよく分かるけど、まずは話を聞かないことには始まらない。
それに犬吠埼先輩は既に聞いているようで、私と東郷の力を必要としている。
きっと大丈夫。私達三人の力があれば、友達の窮地ぐらい救える筈よ。私は讃州中学勇者部、暁美ほむら。今がテスト勉強期間でみんな時間があまり取れないとはいえ、その程度の障害なんて簡単に乗り越えて早く友奈の憂いを解決……し……て…
……………ねえ……もしかしてそういうこと?
「東郷さぁん!! ほむらちゃぁん!! テストの内容が全然頭に入らないんだよー!!!」
「………テスト…?」
今は6月、中学校から始まる試験の第一回、中間テストが来週に控えていた。この時期生徒はテストに集中するために部活動が禁じられており、各自勉強に励まなければいけないのだ。
そして友奈ははっきり言えば頭が悪い。一人でテスト勉強したところでどうにもならないくらい。
……心配して損したわ。犬吠埼先輩め、勿体ぶって話のスケールを大きくしよってからに。どう考えても普通に伝えればいいだけの話じゃない。
「と言うわけで! 今日から勇者部全員で勉強会を開きましょうってことで! ウチには成績優秀のほむらがいるし、アタシも勉強はできる方だから、分からないところは何でも聞いてよね」
「ありがとうございます風先輩!! ほむらちゃん!!」
「……やるなんて一言も言っていないのだけど」
「ええ!? 見捨てないでー!!」
東郷も急な落差に脳の処理が追いついておらずポカーンとしてる。そして私自身溜め息しか出てこない。二人の行動パターンにもようやく慣れてきたと思っていたけど、それでも呆れないってことは難しすぎるわ。
◆◆◆◆◆
「……そこはまずこっちの式を優先するの。他の問題も同様、これが付いている問題では必ず先に計算しなさい」
「おおっ! なんだか分かってきたかも!」
「言っておくけどそこは初歩中の初歩よ。そこができないと話にならないわ」
「ひえ~っ!」
ひとまず今現在の友奈の学力を確かめてみたけど割と悲惨だったわ。引き受けた以上友奈の成績向上は努めるけど骨が折れそうね。
とはいえせっかくの勉強会。青春時代にしか味わえない貴重な集まりでもあるわけで楽しくないこともない。私は完全に教える側の人間になったけど。
「えーと……ここの問題はどう解くんだコレ?」
「……ああ犬吠埼先輩、そこは前の問題の答えが間違えてます。そもそも別の方式を使ってしまっていますから。正しくは……」
「へ? ……なんで中二の内容が解るのよ…?」
それはもちろん前世の記憶があるからに加えて、小学生の頃はひとりぼっちで何もやることが無かったから、クーほむ要素を高めようと先の勉強もしていたから。
中三はおろか高校の内容も余裕でできるのよ。ゆくゆくは弾道計算も瞬時にできるようになりたいわ。
「東郷は解らないところはあるかしら?」
「ううん。私は大丈夫よ」
「なら友奈に国語を教えてあげて。私は犬吠埼先輩の勉強を見るから」
「えっ!? いやアタシは勉強できるって言ったでしょ?」
「勉強できるからと言っても解らないところが無いわけではないでしょう? 勉強会なんですから今の内に覚えた方がいいですよ」
「……後輩に勉強を教えられるって結構複雑なんだけど」
「まあほむらちゃんは優等生ですから」
けれども実際に犬吠埼先輩に教えることも多くはない。本人が言う通り正解している問題の方がほとんどだし、別に私が教えなくても良い点数には届く筈。
問題はやはり友奈ね。全教科ボロボロだし、これはテスト期間ギリギリまで使わざるを得ないかもしれないわ。
私には余裕があるけどもう少し東郷にも手伝ってもらおうかしら。
「東郷、英語も教えてもらってもいいかしら?」
「んん゛!?」
「え」
え、なに? 何でそんなにばっちりと目を見開いてるの? 何で冷や汗を流しながら小刻みに震えてるの? もしソウルジェムがあったら即行で魔女化するんじゃないかってぐらい絶望の表情なんだけど。
「と、東郷さん…?」
「もしかして東郷、英語は全然できないとか…?」
いつもと全然違った様子の東郷の姿に二人が恐る恐る声を掛ける。
「………ど」
「「ど?」」
「どうして英語なんかを勉強しなくちゃいけないのよ!!?」
「「東郷(さん)!?」」
机にバンと叩きつけながら東郷は理不尽な怒りを爆発させた。その目にはうっすらと涙が滲んでいて、この世界の不条理を激しく憎んでいた。
「我が国は偉大なる祖国の日本よ!? 敵国の言語を嬉々として習うなんて言語道断!! そもそも中学校の授業にそんな異物を取り込ませたのも向こうに我々を洗脳する意思があったからこそ!! そんな間違いが西暦の時代から何百年も続いているのよ!? いい加減皆目を覚ますべきなのよ!! 神樹様が私達日の国の人々を助けてくださったのも我が国の方が正しかったからという立派な証拠なの!! このまま外国の異文化を取り入れでもしたら誇り高き我らが大和魂も汚されるのよ!! 私達には祖国を護らなければならぬ義務がある!! 英語を学ぶということは百害あって一利無し!! より強き日本帝国を築き上げる為にも───────────────」
「諦めなさい東郷。これが義務教育なのよ」
「ほむらちゃあああああああん!!!?」
後日談というか、今回のオチ。
中間テスト自体はとくに何の問題もなく終了した。私の結果は言わずもがなだけど全教科トップ。いつもは不気味そうに感じてしまうクラスメートの視線も、今回は一変して尊敬を宿したものがほとんどで、違和感を覚えるものの気持ち良いものだった。
友奈も全教科平均点以上を取れており、その喜びようは見ていて楽しくなれそうなものだった。私に感謝の言葉を叫びつつ勢い良く抱きついてきたのを見たクラスメートの彼女がまたしても顔を真っ赤にしていたけど、いったい何だったのかしら?
犬吠埼先輩も学年順位が一桁台であり、過去最高点を取れたと言っていた。妹に話すのを楽しみだと言いながら、勇者部全員の健闘を祝してうどんを食べにいこうと先輩ながら一番はしゃいでいた。
そして東郷……学年の順位は私に次いで二番目となっていた。つまり英語の点数も高得点だったということになる。東郷に英語を叩き込むのはかなり苦労したけどなんとかなって良かったわ。本人はしばらく死にそうな表情になっていたけど。
そして後に、犬吠埼先輩がチア部に助っ人に行った際に男子に告白されてしまい、その事をしつこく武勇伝として語り続けるようになってしまう。
まさか誰かにチアほむを見せた方がマシだったと思う日が来るなんて……