ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
そんなこんなで、ミラランお疲れ様でした!
暁美ほむらの心は一つ。
「………死にたい」
「「「「…………」」」」
光を失い深淵になっただけでなく淀みきった目のまま結界内の太い樹木の壁に両手をついてうなだれる。一生ものの大失態を特に親しい人物四人全員の前で晒してしまった。これから先一体どうやって接していけばいいのか全く分からない。
みんなと今まで通りに過ごせなくなるんだったらいっそのこと……
「……ほむら…その、気持ちは分かるけど今はそれどころじゃないの。アタシ達はこれからこの世界を壊す敵と戦わなければならない」
「敵…?」
「戦うって…」
このまま身投げでもしようかと思いかけた所でハッとした。私が魔女だと思い込んだ『バーテックス』とは何なのか。何故私達がこんな所に呼び出されたのか。
その答えが今風先輩が言った、敵と戦うという事と繋がったからだ。私達は魔女とかそういう勘違い以前に、本当に危機に瀕していたのかもしれない。
「そういえば、この点って何です?」
友奈がスマホの画面を見ながら疑問を尋ねる。風先輩から見るように促されていたそれにはマップが表示されていた。かつて勇者部に入部した際に風先輩にダウンロードするように言われたSNSアプリ。このマップはそのアプリの中に内蔵されていた隠し機能とのことだ。
そこには私達勇者部五人の位置と名前、そしてもう一つ『乙女型』と書かれた点も……まさか…!
「来たわね…!」
「……えっ」
全員揃って『乙女型』がいる方向を見る。距離はまだ遠いものの、何か大きいモノが浮遊しながら少しずつ迫ってきている。
全身白とカーネーションピンクの異形。ボロボロな布のようなものをマフラーのように身にまとい、不気味さを醸し出している。
当然動物だとかロボットだとか、そういう分かりやすいものじゃない。異質な生命体が……正真正銘の化け物が出現していた。
「あれが…バーテックス…!」
「……そう、世界を殺すために攻めてくる人類の敵よ。バーテックスの目的はこの世界の恵みである神樹様に辿り着くこと。そうなった時、世界は…死ぬ…!」
「「「…っ!?」」」
……嘘でしょ……あんな化け物と戦えって言うの…! しかも世界の存亡を賭けるなんて、ただの中学生の私達がどうこうできるわけないじゃない!
「どうして私達が…」
「大赦の調査で最も適正があると判断されたの。戦う意思を示せばこのアプリの機能がアンロックされて
スマホのマップ画面を別の物に切り替えると植物の芽のようなアイコンが表示されていた。私達が戦う意思を示した時、この芽は花を咲かせて神樹様の……勇者になる……魔法少女じゃなくて、勇者になる…………勇者ぁ!!?
ちょっと待って!! 私はほむほむよ!? 『魔法少女まどか☆マギカ』の超重要メインキャラクターの暁美ほむら!! 時間遡行能力を持ち、ゴルフクラブに始まり銃火器に爆発物、果てはタンクローリーを(物理的に)乗りこなす魔法少女暁美ほむらに転生したのよ!!?
それがこの世界では魔法少女が存在しないから変わりに勇者になるなんてどんな因果をしてるのよ!!? 勇者なんて肩書き、勇者部以外の物を背負うなんて思いもしなかったわ!!
しかも話から察するに私は神樹様に勇者になれる人間だと太鼓判を押されてる! 神様に魔法少女じゃなくて勇者をやれって言われてるの!? どうなってるのよ私の運命は!?
「皆、あれ!」
「…っ、危ない!」
遠くにいるバーテックスが一瞬光ったかと思うと、その光が恐るべき速さで私達の方へと飛んでくる。動けない東郷を私と友奈が、樹ちゃんを風先輩が咄嗟に庇うと、光は目の前の太い樹木に直撃し爆発した。爆風が巻き起こり辺りに悲鳴と煙が立ち上る。今の爆発のレベルが危険なものであったのだと理解できてしまう。
これは……まさに魔女戦と同じく命懸けの戦いになる…!
「な、なに!?」
「私達のことを狙ってる…!?」
「……こっちに気が付いてる…!」
「あんな物をまともに食らったら死ねるわよ…!」
「……っ、東郷さん…!?」
「駄目……あんなのと戦うなんて……」
東郷は完全にバーテックスに怯えてしまい震えていた。無理もないわよ…! 勇者になれば戦う力が得られるといっても、みんなただの女の子なのよ…! そう簡単に命なんて懸けられる筈ないじゃない…!
そんな中、風先輩が前に出る。その表情は既に覚悟を決めている者だった。
「……友奈、ここはアタシに任せて東郷を連れて逃げて」
「えっ、でも先輩…」
「早く!!」
「は、はいっ!」
風先輩の気迫に圧されて東郷の車椅子を押してこの場から逃げる友奈と東郷。これであの二人が狙われるリスクは減ったけど……
「お姉ちゃん!?」
「樹とほむらも逃げて!」
「……っ!」
私も逃げるべきなの…? きっと風先輩は勇者になるつもりだ。勇者になって、あの化け物と戦って私達を助けるために。
私も風先輩と一緒に戦う……そう言おうと思ったのに無情にも私のスマホの機能はロックされたままだった。何故か私にはまだ戦うための意思が不足していると取られていた。
「駄目だよ!! お姉ちゃんを残して行けないよ!!」
「樹ちゃん…!」
「樹……」
「ついていくよ…何があっても!」
そう宣言した樹ちゃんの目には風先輩に負けず劣らない決意に溢れていた。最愛の姉を一人にしない……大切な人を側で支えたい……誰にも負けない確固たる意思を持ち合わせている。
「……ほむらは安全な所に隠れていて。アタシ達は神樹様に守られているから大丈夫」
「………はい」
悔しかった。あんなにも魔法少女になりたいと、暁美ほむらとして魔女と戦って、原作では辿り着けなかったハッピーエンドを掴み取る事を夢見ていたくせに、肝心な時に動けない自分が。
……後輩も前に出るというのに私はなんて情けないの。望んでいた魔法少女ではないけど、勇者になって戦う事が正解じゃないの?
それなのに、滑稽にも程があるわ…! 私が抱いていたのは戦う意思なんかじゃなくて幼稚くさい単なる願望なんだって突き付けられた気分よ。
「樹、続いて!」
「う、うん!」
風先輩と樹ちゃんがスマホの咲き誇った花のアイコンをタップすると、二人を黄色と緑色の花吹雪が舞い、光が包み込む。
風先輩の格好が制服からマジカルな黄色を中心としたデザインへと変化する。髪の毛も茶色から黄色に、ツインテールからおさげをツインテール状にしたものに。そして彼女の身の丈ほどある大剣が出現し、その柄を強く握り締めていた。
樹ちゃんもマジカルな緑色のゆったりとしたデザインに。風先輩が戦士とするならばこっちは賢者のようだと思わせる。髪飾りが付き、右腕にも蔦が巻きついたようなわっか状の飾りが付いていた。
………これが勇者……魔法少女にも見えなくない?
未練がましく魔法少女の姿と重ね合わせるも、状況がそれを許さない。再びバーテックスが攻撃を開始。二人目掛けて先程と同じ爆発する光を放つ。
着弾し轟音と爆風が巻き起こるも、二人はそれを突き抜けて遙か高く、遠くに跳躍した。身体能力も大幅に強化されるらしい。これはまさしく魔法少女……って、そんな場合じゃないわ! 早く私も何とかしないと…!
原作だってそうだった……いくら強力な魔法少女でも死ぬ時は簡単に、あっさりと死んでしまう。二人があの化け物に殺されないなんて保証はどこにもない! 早く私も参戦してみんなの生存率を上げなければいけないのに……!
「……どうして…! どうしてできないの!?」
戦う意思はこれでもかというほど感じているのに、未だにアイコンは芽のままだ。私の何が足りないっていうの……
私は自分の命の危機をさほど怖いものとは思っていない。既に一度
だからこそ、力があればすぐにでも敵を叩きに行けるのにそれができない。先輩と後輩の危機をただ眺める事しかできない。
遠くではバーテックスが絶え間なく二人に白い卵状の爆弾を飛ばしていた。風先輩が大剣で斬ったり樹ちゃんが右腕からワイヤーを飛ばして切断していく度に二人の周りが爆風に包まれる。その攻撃の嵐のせいで二人は防戦一方だった。
このままでは本当に命が危ないのに…! 絶対に風先輩も樹ちゃんも犠牲になんかなってほしくない!
『あなた達にお勧めの部活はここにあるわ!』
ふと一年前の出来事を思い出す。いきなり声を掛けてきては勇者部なんて変な部活に勧誘してきた変な先輩……私に勇者部という素敵な居場所をくれた、誰よりも頼れる先輩。
『嬉しかったんです私。会ったことのない私のためを思ってくれたことが』
数週間前に初めて出会った後輩。かつて私が貰った幸せを分けようとして空回ったけど、想いは全て伝えられた……樹ちゃんが幸せになるための成長を楽しみにしていた。
『慣れているなんて、そんな悲しいこと言わないで。私が言えたことじゃないけど友達が怖がられるのを認めたくないの』
私の大切な友達。暴走しがちな所が玉に瑕だけど、誰よりも周りの人達を思いやっている優しい子。彼女の献身的なサポートや発想には誰もがいつだって助けられてきた。
『よろしくね、ほむらちゃん!』
私自身を変えるきっかけを与えてくれた初めての友達。手が掛かるし困らされた事も両手では数えられないほどの問題児。だけどそれが友奈の魅力で不快に感じた事など一度もな……あるけど彼女がいてくれて本当に幸せだった。
私がこの世界で出会えた大切な仲間達。私が死ぬことは別に恐くない。だけど彼女達が傷つく事が何よりも恐ろしい。私の世界が欠けてしまうのが怖くて仕方がない。
私はただ、みんなが無事でいてほしかった。思えばほむほむに転生した時からそう思っていた。私が心から望むのは、暁美ほむらの大切な存在全ての幸福。
我が最愛のほむほむを救う……それが私の願いであり、推しに捧げる全てである。だから……
結論から言うと、私に必要なものは戦う意思なんかじゃなかった。関係ないとは言い切れないけど、あくまで私のその意思というものは魔法少女になりたいと、嬉々として命を棄てたがる歪んだ願望という淀みが混じった欠陥品にすぎなかった。純粋な決意……私が本心から貫き通したい事こそが勇者になるために必要なものだった。
私は暁美ほむら、大切な人を守るために運命の迷宮に閉じ込められた少女。その力の源はどんな絶望に陥っても絶対に鹿目まどかを守ることにある。
ならばほむほむではなく私は? 私には鹿目まどかという大切な人はいない……だけど他にはいる。絶対に失いたくない大切な仲間達が……
結城友奈
東郷美森
犬吠埼風
犬吠埼樹
私は……暁美ほむらは彼女達を守りたい! 勇者部の幸せを壊させない! そのためならば…!
「神様でも悪魔でも何でもいい!! 私に何もかもを守り抜く力を寄越しなさい!!!」
瞬間、白紫の花弁が咲き乱れる。白い光が私の体をを包み込むと、今までにない力が湧いてくる。
讃州中学の制服から別のコスチュームへと変化する。鋭角的なデザインが施された白と紫の改造制服。脚も露出の無い黒のタイツとハイヒールが一体になったような物に。
早い話が暁美ほむらの魔法少女服と極めて近い。左手に紫の籠手が着けられており、甲にはソウルジェムではなく白紫の花が刻印されている。
そして左腕には円盤形の盾が。中心に時計のムーブメント、その両サイドに丸い砂時計が付いている。私の頭の中にこれの使い方や能力が一気に流れ込んでくる。
おまけに宙に一匹の黒猫が浮いていた。ただしゆるキャラみたいなデフォルメ化がされていて、尻尾が二つに分かれていた猫又である。
この子に邪気は感じられない。むしろ私の側に寄り添う形であり、味方側なのだろう。
勇者、暁美ほむらが樹海に立つ。大切な存在全てを守るために……今現在戦っている二人の窮地を救うために。
魔法少女になる夢を完全に切り捨て勇者となった私は決意を新たに高らかに声を上げる。
「ほむほむキタアアアアアアアアアアアア!!!!」
『!?』
すぐ側の猫又がビクッと驚き飛び跳ねた。勇者の衣装も盾も本物のほむほむを彷彿させる。決意を新たにしたところで結局私は重度のほむほむ狂信者である事に変わりない。隠しきれていないにやけ顔のまま、ほむほむは戦場へと飛び立った。
暁美ほむら
年齢:13歳
所属:市立讃州中学校2年3組 勇者部
肩書き:勇者
身長:156cm
趣味:ほむほむ
出身地:香川県
好きな食べ物:うどん、東郷のお菓子、風の手料理
武器:盾
精霊:猫又
花:トケイソウ
花言葉:「聖なる愛」「信仰」「宗教的熱情」
精霊はほむほむの始まりとも言える黒猫のエイミーから。
ほむほむと言えば彼岸花だけど、あれはぐんちゃんの花だし……色的にもほむほむであり、花言葉もこのほむほむに適していたのでトケイソウになりました。