ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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第十三話 「チートすぎない?」

◇◇◇◇◇

 

 バーテックスの攻撃を避けながら、斬りながら後悔の念がグルグル回ってしまう。アタシはあの子達をこんな事に巻き込んでしまった。大赦に命じられたから、御役目を受ける可能性は低かったから……そんなもの何の言い訳にもなりはしない。

 アタシは何も知らずに慕ってくれる大切な後輩達と妹を騙していたんだ。勇者部なんて表向きの居場所を作っておいて、そこに皆を閉じ込めていた。

 

「このっ…! しつこいっての…!」

 

 敵の攻撃が激しすぎて近づくことができない。精霊による神樹様の御加護があるからダメージはまだ受けていないけど、さっきからずっと避けたり斬ったり飛び跳ねたりで疲労は蓄積される一方だ。

 

 あのバーテックスは動きは遅いけど、遠くから光弾を撃ってくるわ追尾する爆弾を一度に何個も飛ばしてくるわで苦戦してしまっている。アタシの武器はモロ近距離戦用の大剣……いきなり相性最悪の敵が来るなんてふざけんじゃないわよ…!

 

「わあっ!?」

「っ、樹っ!!」

「だ、大丈夫…!」

 

 見れば少し離れた所にいる樹にも容赦なく攻撃が降り注いでいた。なんとか樹も避け続けているけど、もし樹の身に何かがあればと思うと罪悪感はますます大きくなってしまう。

 

 本当はあの子もほむらと一緒に逃げてほしかった。バーテックスの存在を知っていたアタシには戦わなくちゃいけない理由も責任もある。それでいてあの子達にはそれらは何一つありはしない。戦うのはアタシ一人の役目だと思っていた。

 だけどあの子はアタシを一人にしないと……何があってもついて行くと言った。昨日にもその言葉は聞いていたけど、実際に命の危機に陥ろうとしてもその意思が変わらなかった樹の事を姉として誇りに思った。少しだけ救われた気がした。

 

 アタシは姉として、勇者部の部長として皆を救う。例え皆に嫌われたとしても…必ず……

 ……やらないといけない事が残っていたわね。無事に逃げられているのか確認して……謝らないと。今までずっと真実を隠し続け、純粋な気持ちを裏切ってしまったあの子達に。許されるなんて思ってないけどね……

 

 戦闘中だけどスマホを取り出して友奈に電話をかける。東郷を連れて行ったから間違いなく二人揃っている筈だし、ほむらも合流しているかもしれない。

 さすがのあの子達でもアタシに恨み言の一つや二つはあるのかもしれないけど、それらは皆を元の日常に帰した後にまとめて聞くから……

 

『風先輩!』

「よし、繋がった…!」

『風先輩、大丈夫ですか!? 今戦ってるんですか!?』

「こっちは樹と二人でなんとかする! そっちこそ大丈夫!? それと友奈達の所にほむらは、合流できてる!?」

『……私と東郷さんは大丈夫ですけどほむらちゃんはここにはいません。多分別の所に隠れているんじゃないかって……』

 

 ……合流できていない……か。でも友奈と東郷は無事みたいね。ほむらも、あの子は状況を冷静に判断できるだろうしきっと大丈夫よね……大丈夫……なのかしら…? ちょっと妄想が炸裂して思いっきり取り乱してたけど……

 

 そんな中でもバーテックスは空気を読まずに爆撃してくる。こっちは通話中だってのに、礼儀知らずの相手までやってられるかっての!

 

「……友奈…東郷、黙っててごめんね。三人ともアタシが助ける!」

『……風先輩はみんなのためを思って黙ってたんですよね。ずっと一人で打ち明ける事もできずに……それって勇者部の活動目的通りじゃないですかっ!』

 

 壁を蹴って崖を登る中、思いもしなかった友奈の励ましの言葉に驚いた。あの子の言葉にはアタシを非難する気なんて1ミリたりとも含まれていない。いつも通りのアタシを信じてくれている物だった。

 

『風先輩は悪くない!』

 

 その言葉を聞いた時、アタシの心を蝕んでいた黒い影がパアッと晴れた気がした。樹海に飛ばされてからのアタシは今の今までどうしようもない罪悪感や自己嫌悪で不安だった。

 敵と命懸けで戦う使命に勝手に巻き込んだんだ。本当に……無事で済む確証なんてありはしない。仮に無事に勝利して元の世界に戻った所で、勇者部の今まで通りの日常なんて送れなくなるんじゃないかって怖かった。

 勇者部は適正値が高い子を一カ所に集めるための単なる隠れ蓑。だけどアタシは友奈や東郷、ほむらに樹と一緒に活動する日々が楽しくて幸せで大好きだった。今のアタシから勇者部を失う事はまさしく心臓が裂けるぐらい苦痛な事に違いない。

 

 そんなアタシの心境を知ってか知らずか、友奈はアタシを許してくれた。いや、許す許さない以前にあの子はアタシが悪いと全く思っていなかった。

 

 本当に、素晴らしい後輩と巡り会えたのね、アタシってば……

 

「……っ! しまっ…」

 

 注意が戦いから外れてしまっていたからバーテックスの攻撃がすぐそこまで迫っている事に気づくのに遅れてしまった。敵を破壊しゴミのように蹴散らす光弾が眩い光と共に襲いかかる。

 

 避けるのは……っ、無理…! 間に合わない! せめて大剣でガードして衝撃に備えるしか!

 

 勇者になった以上、アタシの防御力は通常時よりも遙かに超えているけど間違いなくダメージは受けてしまう。

 だけど倒れるわけにはいかない…! アタシが皆を守るんだから! 絶対に五人全員揃って勇者部の日常に帰るんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………え…?」

 

 明らかな異常に戸惑いが隠せなかった。目の前まで轟音と共に近づいていた光弾……アタシに直撃するまで2メートルも無い所で、それは停止していた。

 ついさっきまでうるさくてイライラされっぱなしの爆音も全然聞こえない。完全に無音な世界と化していた。

 

 驚いた事はもう一つあった。アタシの腕を誰かが掴んでいた。今この場にはアタシ以外誰もいなかったというのにいつの間にか彼女はそこにいた。安全な所で隠れているとばかり思っていたアタシの後輩が。白い変わった制服に身を包んだ三人目の勇者が……

 

「……気を付けてください。この手が離れてしまえば、再びあなたの時間も止まってしまう」

「ほむ……ら?」

 

 ……暁美ほむらが気持ち悪いほどにやけて、とろけきった表情で立っていた。今までにない不気味な笑みでもあって、何がそんなに愉快なのか分からないから正直気味が悪いんだけど? 

 

「……え~っとほむら? その格好って…」

「私も戦います。あなた達二人だけに背負わせませんよ」

「……そ、そう? ありがとねなんか…」

「礼を言われるほどではありません。むしろ遅くなってしまってごめんなさい」

 

 言ってる事は大真面目なんだろうけど表情筋が崩壊しちゃってるせいで台無しだ。そういえばほむらは魔法少女物のアニメが好きってのが判明したんだったっけ。まさかそれで? 魔法少女じゃないけど自分が勇者に変身したから嬉しすぎてこうなっちゃった感じ?

 

 ……アタシの中のほむらのイメージが過去最大級に崩れてきてるんだけど。クールキャラって最初は思ってたんだけどなぁ……多分ほむらってド天然か自分から意識してクールぶってるだけだわコレ。

 

「……ってそうだ、コレ今どうなってんの? アタシとほむら以外何も動いてないみたいだけど」

 

 ほむらのキャラ崩壊スマイルのインパクトが強すぎて後回しになったけどこっちの方も異常だ。よく見ればあのバーテックスですら固まっているし、アタシ達がこっちに来る前の時みたいに何もかもが止まっている。

 

「ですから私が世界の時間を止めているんです。動けるのは能力を発動した私と、私が触れている風先輩だけなんです」

「時間を止める!? そんな事できんの!?」

「風先輩も何かしらの能力が使えるんじゃないですか? 私が勇者になった時に自然とこの力が使えるようになっていたんです」

 

 ……いや、確かにアタシもまだ使ってないけど能力っぽいのはあるわよ? でもそれはこの大剣をもっと巨大化させるっていうアタシの武器を強化するものであって、世界に干渉するようなぶっ飛んだ能力じゃないんだけど……

 

「とはいえ時間を止めてからここまで来たのでもうそろそろ厳しいです。後6秒ぐらいで動き出します」

「ああ、時間制限があるのね。って6秒!?」

「そうですね、時間が止まっているのに6秒って考えるのはおかしいですね」

「言ってる場合か!」

 

 思った以上に猶予が無さすぎて慌ててこの場から離脱する。ほむらは私の腕を掴んだまま一緒に離れたけど、ほむらの言う通りなら手を離されたらアタシが動けなくなるから当然の行動と言える。

 その後すぐにアタシ達がいた場所が爆発し、そこでほむらも手を離す。なんやかんやでほむらには助けられたわね。

 

「お姉ちゃん!」

「っ! 樹危ないっ!!」

 

 だけどバーテックスはアタシ達に甘くない。今度は樹目掛けて爆弾が三つ迫っていた。しかも運の悪いことに樹はアタシが助かった事に気づいてなく、意識もさっきの攻撃の着弾点に向いていて自分が狙われた事に気づいていない。

 樹がそれに気づいた時にはさっきのアタシと全く同じ状況ができあがっていた。違う点は樹は自分の身を守る術はなかった事……

 

「た、助かりました…ありがとうございます。ほむらさん」

「当然の事をしたまでよ。無事で良かったわ。樹ちゃん」

「……チートすぎない? 時間停止って」

 

 瞬きする間もなくまたまた世界が硬直していた。アタシの手を取った方とは逆の右手には危機が迫っていた筈の樹の左手が握られていた。時間を止めてアタシの時みたいに樹を助けたんだって簡単に想像できる。

 

「……さて、二人ともいいかしら」

 

 三人手を繋いだままの形だけど真剣(ガチ)なトーンでほむらが呼びかける。表情もいつも通りの凛とした物に戻っていた。本当に良かった。これでこそうちのほむらよ。

 

「二人が戦っている時から見ていたのだけど、攻撃の手数が多すぎて近づけずにいるのよね?」

「まあそんな所。近づけたらワンチャンあるのよねぇ」

「あの、それってほむらさんの時間を止める力があればいけるんじゃないかな?」

「正解。時間はもうしばらく止まったままよ。よってこのまま突き進むわ!」

 

 つまり止まって対処ができないうちに必殺の一撃を叩き込むってわけね。散々好き勝手やってくれたお返しをしてやろうじゃないの。満場一致でほむらの提案が受理されてバーテックスがいる方へと飛び立った。

 ほむらの能力が発動している間はボーナスタイムかって言いたくなるほど楽勝だった。光弾も追尾爆弾も何一つ襲ってくる事なくバーテックスに接近できた。

 

「樹ちゃん、そのワイヤーを一本風先輩に繋げて。私が直接触れてなくても間接的に繋がっていれさえすれば止まった時間の中を動けるわ」

「はい!」

 

 樹の武器のワイヤーがアタシの体に巻き付くとほむらはアタシの手を離す。けれども説明通りほむらが樹と手を繋いでいたから、ワイヤーで樹と繋がっているアタシも問題無く動けていた。

 

「風先輩、お願いします!」

「任された!!」

 

 地面を強く蹴ってバーテックスの全長よりも高くジャンプする。大剣を元の大きさの何倍にも巨大化させて力任せに大きく振り下ろす。

 

「うぉおおおりゃぁああああ!!! 唸れアタシの女子力一閃んん!!!」

 

 アタシ達三人以外の時間が止まってる以上バーテックスが回避行動を取れるわけがなく、バーテックスの頭部に大剣が深々と突き刺さる。ここにきてバーテックスもアタシの大剣を通して時間が動き出すものの完全に手遅れ。アタシの女子力は勢いが低下する事を知らぬままバーテックスの体を真っ二つに両断した。

 

「やったぁ!! お姉ちゃんすごい!!」

「これで終わり……っ!? 風先輩!」

「まだ終わりじゃないわ! バーテックスは普通の攻撃じゃ倒しきれない! 時間が経てば回復してしまうの!」

 

 ほむらの時間停止も時間切れみたいで世界が再び動き出す。それに含まれるのはアタシが叩っ斬ったバーテックスも例外じゃない。二つに分かれた体をくっつけて元通りにしようとしていた。

 だけどダメージはかなり大きい筈。アタシ達がすぐ近くにいるのに攻撃してくる気配がない。回復の方に力を入れている証拠だ。

 

 ならば今が絶好のチャンス。これから封印の儀に入る!

 

「バーテックスを倒すには封印の儀式っていう特別な手順を踏まないといけないの! 二人ともそいつを囲んで!」

「「はい!」」

 

 言われた通りに散ってアタシも囲めるよう移動する。邪魔もなかったからスムーズに位置につくことができた。

 

「二人ともついた!? 次はコイツを押さえ込むための祝詞を唱えるんだけど魂を込めさえすれば言葉は何でもいいわ! おとなしくしろコンニャロー!!」

「魂を込めるたって…ええっと……ティロ・フィナーレ!!」

「「何それ!?」」

「……忘れて」

 

 よく分からん言葉だったけど封印が開始されて御霊が出てきたから魂はしっかり込められていたみたい……ティロ・フィナーレ?って名前がこの場で出てくるなんてあの子やっぱり中二病…?

 

「それより風先輩! あれは何なんですか!」

「え…ああ、あれは御霊って言っていわゆるバーテックスの心臓! あれを壊せばこっちの勝ちよ!」

「壊す……私にはできそうにないわね…!」

「そういえばほむらさんの武器って……」

「……この盾よ。時間を止める事しかできないの」

 

 マジかい…! 能力が強力すぎるとは思ったけどその分攻撃手段が無かったのね。ならもう一発アタシがやるしかない! 封印にもカウントダウンが存在するし急がないと!

 

「ぐっ、堅い!」

 

 四角錐の御霊の上に飛び乗り大剣で叩きつけるも弾かれてしまう。この御霊、本体とは違ってかなり堅くて小さい痕しか残っていなかった。これじゃあおそらく樹のワイヤーでも難しいかもしれない…!

 ……尚更、アタシがなんとかしないと! バク宙をして後ろのバーテックスの頭に飛び移り、更に空高く飛ぶ。体を捻り、遠心力や重力、女子力を最大限にまで使った渾身の一撃で御霊を叩く。ただ食らわせる事だけを考えた一撃故にアタシは受け身を取れずに落下してしまうも御霊はまだ壊れていなかった。

 

「くっ…! 罅が入っただけ…!」

「お姉ちゃんの女子力が足りてないよ! それにこれ、樹海が枯れてる?」

「長い間封印していると樹海が枯れて現実世界に悪い影響が出るの!」

 

 こりゃあいきなり絶体絶命のピンチね……でも立ち止まってはいけないのよ!

 勇者部六箇条一つ、なるべく諦めない。アタシは勇者部部長、犬吠埼風! こんな所で負けていられるかってのよ!

 

 

「みんなあああああああああ!!!!」

「…っ! この声!」

「……あの子も覚悟を決めたのね」

「友奈さん!」

 

 ピンクの光がこっちに目掛けて飛んでくる。戦いの運命を受け入れ、大切な人達のために力を得た少女。アタシの自慢の後輩にして仲間が拳を握り締めて御霊に突撃する。

 

「勇者パァアアアアアンチ!!!」

 

 友奈の拳が御霊の罅を打ち抜き大きく亀裂が入る。全体的にボロボロになった御霊は砕け散り、砂と光になって消滅した。本人はまだ実感がないみたいだけど間違いない…!

 

「やった……のかな?」

「友奈ぁ! やったよ! ナイス友奈!」

「倒した…? やったぁ」

「そうよ! すごいよ友奈!」

 

 たまらずアタシは友奈に飛びついた。一事はどうなることかと思ったけど誰も怪我が無くバーテックスを倒しきれた。その事実が嬉しくて仕方なかった。

 

「おいしい所は全部友奈に持っていかれたわね」

「でもみんな無事で本当に良かったです!」

「ほむらちゃん! 樹ちゃん! 大丈夫だった!?」

「ええ、ありがとう。来てくれて助かったわ」

「あはは……私は疲れちゃいました……もう限界ですぅ」

 

 ……今回は後輩達に随分助けられたわね。これから先何が起こるか分からないけど、何が起ころうとも必ず皆アタシが守り通してみせる!

 

 

◇◇◇◆◆

 

 こうして私達の最初の戦いは勝利を収めた。勇者となった私達の戦いはまだ始まったばかりだけどなせば大抵なんとかなる。時間停止能力を得たほむほむに敵はないのだから。




【勇者ほむほむの時間停止】
 一回に停止できる時間は最長二分。原作ほむほむと違って二つの砂時計の砂を落とすことで、ほむほむによる時間が停止した世界を動かす。一分までは一つの砂時計で時間を止め、それ以上止める場合にはもう一つの砂時計の砂を落として一分間延長が可能。途中で強制解除も可能。
 時間停止中はほむほむが触れているもの、ほむほむと間接的に繋がっているものも止まった世界の中を動ける。離れてしまえばそこで時間は止まってしまう。
 時間遡行能力、収納能力はない。












 時間停止を一回使用する毎に左手の甲のトケイソウの刻印が一部色付く(最大五回)。刻印が全て色付いている状態では時間停止能力は使用できない。
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