ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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第十四話 「ずっと願っていた」

 辺り一帯に色鮮やかな花弁が舞い上がったと思うと私達は学校の屋上に立っていた。勇者の装束から制服に戻っていて、現実世界に戻れたんだって実感する。

 

「東郷さん!」

「友奈ちゃん…!」

 

 友奈が駆け寄った所には東郷もいた。バーテックスとの戦闘では一人だけ姿が見えなかったから心配していたけど、彼女も無事だったからひとまずホッとした。私も東郷の方へと近づき、もう大丈夫そうだと伝える。

 

「……ほむらちゃんも戦っていたのよね?」

「ええ。直接戦闘じゃなくて二人の支援だったけど」

「そういえばあの時一体何があったの? 風先輩と樹ちゃんが危ないと思った途端にあの大きな敵がズバーンって真っ二つになっててビックリしちゃったんだけど」

「それは私の力、時間停止能力を使った結果よ」

「時間停止!? それって漫画で強い敵とかが使ったりするあれのこと!?」

「敵が使うかどうかはともかく、多分友奈が思っている通りのものよ」

 

 キラキラ輝く目で私を見つめてくる友奈に内心私も得意気に答える。やはり時間停止能力というのは素晴らしい力ね。今回の敵は回復していたけど、相手によっては気づかれる事なく、時間を掛ける事なく倒せる必殺の能力。

 結論ほむほむマジ最高。ルックスもキャラも能力も、何もかもが至極の存在。異論は認めない。断じて!!

 

 ……東郷はあまり面白い反応をしていないわね。むしろ全然元気そうに見えない。普通はみんな無事に戻って来れた事に安堵しそうなのに、それよりも何かを思い悩んでいそうな感じに見えるのだけれど。

 

「はいはーい、盛り上がってるところ悪いけど全員注もーく!」

 

 風先輩が私達に微笑みかけると外を指差す。そこに広がっているのはいつも通りの何の変哲もない私達の街。だけどさっきまで戦っていたからこそ、風先輩が何を言いたいのかがすぐに分かる。

 

「守れたんですね。この世界を」

「ええ。アタシ達以外の皆は今の出来事に気付いていないけど間違いなく、この日常をね!」

 

 バーテックスの目的はこの世界の要である神樹様の破壊。そうなってしまえば私達の生きるこの世界も崩壊の一途を辿る。神樹様の御利益なんてずっと疑っていたけど、あんな化け物が攻めてくるぐらいだったら本物だって認めざるを得ない。あの戦いはまさしく人類が生き残るための防衛戦だった。その戦いに私達は勝利したんだ。

 

「あー、でもこっちの世界の時間は止まったままだったから今はモロ授業中だから」

「「ええっ!?」」

 

 突然のカミングアウトに友奈と樹ちゃんが揃って声を上げる。私としては止まっていようがいまいが、一回樹海に飛ばされて戦って今現在屋上にいる時点で授業を抜け出している事実に気付いていたから最初から諦めていた。

 

「まあ後で大赦にフォロー入れるよう言っておくから」

「ならよかったぁ…!」

 

 その一言で二人も安心したみたいで溜め息を吐いた。大赦はただの宗教じゃなくてこの世界の中心たる組織だった。その発言力は他の何よりも上回っているのだろう。授業をサボタージュしたと咎められる心配はないに違いない。

 

「ほむらが来てくれたおかげでアタシと樹は無傷で乗り越えられた。友奈が来てくれたおかげであのバーテックスを倒しきれた。本当にありがとう」

 

 改めて感謝の言葉が伝えられる。そういえば友奈も勇者になれていたのよね。勇者として戦う覚悟を決めるのは生半可な気持ちじゃ通らない。

 私達が戦っている間に彼女が一体何を思っていたのか、友奈はその想いを話し始めた。

 

「嫌だったんです……誰かが傷つく事、辛い思いをする事が」

「友奈…」

「だから、みんながそんな思いをするくらいなら私が頑張る! そう思ったらいても立ってもいられなくって勇者になってました」

「友奈らしい覚悟の決め方ね」

「えへへ~。だから私は自分がやりたいようにしただけなんです。大好きな勇者部の一員として」

 

 あんな状況になっても友奈は友奈ね。確かに私もお礼なんて必要ない。私自身が望んだ通りに動いただけなのだから。

 だから私は彼女の肩に手を置き、この場で誰よりも格好良かった彼女に微笑んで答える。

 

「お礼なら私よりも、一番勇気を出してみんなを…風先輩を助けた子に言ってあげてください。ね、樹ちゃん?」

「ほむらさん…!?」

「本当は怖くて仕方なかったでしょうに、真っ先に風先輩の側にいるって言った時のあなたは本当に格好良かったわ。頑張ったわね」

「………ぅぅ…うう…!」

 

 樹ちゃんを褒めると彼女は嗚咽をこぼし体を震わせた。私の言葉で緊張の糸が切れてしまって怖かった事を思い出してしまったり、みんなが助かった事に安心したりで心の中がごちゃごちゃになっているのだろう。

 その中でも自分の精一杯の行動が賞賛された、大好きな姉を誰よりも助けたのが自分だったと言われたのが嬉しくて、樹ちゃんはもう感情を抑えられなかった。

 

「おいで、樹」

「っ…! お姉ちゃん!!」

 

 風先輩に飛びついて色々な感情が混じり合った涙をこぼす。風先輩はそんな樹ちゃんを優しく抱きしめ、彼女の事を心から誇りに思うのであった。

 

「ありがとね樹。樹はアタシの最高の妹だから…!」

「怖かったよぉ、お姉ちゃぁん…! あんな事になるなんて聞いてないよぉ…! うえぇぇん!」

「よしよし……冷蔵庫のプリン、アタシの分も食べていいからね」

「あれ元々私のだよ~!」

 

 微笑ましい姉妹のやり取りに私達もクスリと笑みをこぼしてしまう。

 

「………」

 

 ただ一人、東郷を除いて。

 

 

◇◇◇◆◆

 

『うぉい勇者部の御三方!! 授業中にいきなり消えるなんて何があったのさ!!』

『怪物と戦っていたのよ』

『んなわけあるかい!!』

『えっとね? ちょっと樹海の中で迷子になってて…』

『友奈ちゃんも突拍子のない嘘吐かないでくれる!?』

 

 紗彩ちゃんの質問責めを受け流して普段通りの生活に戻る……なんて都合がいい展開にはならなかった。風先輩曰わく、戦いはまだ始まったばかり。バーテックスはまだまだ残っているという事実を突きつけられていた。

 

「名前が乙女型だったという事は……色々あるけどもしかすると星座…黄道十二星座なのかしら? となると残る敵の数は11体…?」

「11体かぁ……結構多いんだね」

「あくまで私の予想よ。どっちみち詳しい事は明日風先輩が教えてくれるわ」

 

 友奈ちゃんとほむらちゃんが今後の事について話し合う。本当の事はなるべく早く知りたかったけど、風先輩は大赦に報告しなければいけないらしい。そのため放課後にいなくなってしまうから今日の勇者部の活動は無し。色々あって疲れただろうし、明日知っている事を全部話すという流れになって解散した。

 

 よって学校が終わった今はいつもより早めの下校。友奈ちゃんとほむらちゃんの三人で買い食いをしながら時間を潰していたのだった。

 正しくは私達三人と二匹だけれど……

 

「それにしてもほむらちゃんのその猫ちゃん、すごく懐いてるねー」

「みたいね。甘えん坊なのかしら」

『♪』

 

 ほむらちゃんの膝の上にいる、撫でてやると喉をゴロゴロ鳴らし出したのは彼女が勇者になった時に現れたという黒猫。精霊と呼ばれる神樹様の使いだとかで私達以外の人には見えていなかった。

 この精霊が力を貸してくれるからこそ戦えるそうで、いろんな力を与えてくれるらしい。

 

「友奈の精霊はマイペースな感じね。牛鬼、だったかしら?」

「うん、そうだよ。それに食いしん坊っぽいかな」

 

 そう言って私達が目を向けた先にいるのはふわふわと宙を浮いている白い牛の精霊。これが友奈ちゃんの精霊であり、ほむらちゃんのとは違ってかなり好き勝手に動き回っていた。

 友奈ちゃんが買ったお菓子を差し出すと遠慮なく口の中に頬張ってしまい、さらに多くのお菓子の献上を促していた。

 

「あはは…私の分が無くなっちゃうよ」

「毎日これが続いたら大変ね。お小遣いまで無くならないよう気を付けなさい」

「はう! 食べすぎちゃダメだよ牛鬼!」

 

 慌ててお菓子を隠して自分の精霊を注意するも、肝心の牛鬼は眉一つ動かさない。ちゃんと言われた事が分かっているのかしら?

 

 すると牛鬼はお菓子を諦めたのか違う方を向く。ほむらちゃんの膝の上でスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てる猫又に。

 そのままゆっくりと近づいて、表情は変わらないもののジーッと見つめ出す。口を大きくあけて、その頭をバックリ呑み込もうとした。

 

「ほむぅーーー!?!? 何てことしようとしてくれるのよこの白饅頭!?」

「牛鬼!? その子はお菓子じゃないよ!!」

 

 咄嗟に牛鬼の頭部を鷲掴みして自分の精霊を守った。逃れようと必死にバタバタ抵抗しているけれど、ほむらちゃんも大混乱で気にする余裕がないみたい。

 

「友奈! 今後こんな事がないようしっかり教育しなさい! 危うくエイミーがマミるところだったわ!!」

「わ、分か……マミるってなに…?」

「本当は猫又って言うのだけれどエイミーって名前を付けたの。ずっと前から黒い猫を飼うとしたらエイミーにするって決めていたの」

「そうなんだ~。それでマミるって?」

 

 確かに何だろうマミるって? 動詞なんだろうけど意味が全然分からない。

 だけどほむらちゃんはその疑問に答えることなく、逆に怪訝な表情で私に話しかけてきた。

 

「東郷、一体どうしたのよ?」

「……えっ、何…かな?」

「どうしてこの子の名前について何も言ってこないのよ。エイミーよ? あなたが嫌いな英語圏の名前」

 

 ……あ、言われてみればそうね。あまりそう言う名前はお勧めできないけど今の私にその事を指摘する精神的余裕は無かった。ずっと頭の中がモヤモヤしていて聞き流しそうになっていたのだもの。

 

「東郷さんこっちに戻って来てからずっと元気がないよ」

「……うん。自分でもよく分かってるの」

「勇者の事でしょう?」

 

 ……やっぱりほむらちゃんには気付かれちゃうか。

 私は力なく頷き、自身の胸の内を吐き出した。

 

「……私だけ変身しなかった。友奈ちゃんもほむらちゃんも樹ちゃんも変身して戦ったのに、私一人だけ遠くで怯えているだけだった。私は勇者部の足手まといなんだって思い知らされた感じがしてならないの」

「そんな事ないよ東郷さん…」

「……ほむらちゃんも言ってたでしょ? 怖かった筈なのに真っ先に風先輩のために勇者になった樹ちゃんが格好良かったって。それなのに私は、国や大切な人達の危機を前にずっと友奈ちゃんの背中に隠れて……敵前逃亡」

「と、東郷さーん…?」

 

 今日の私がいかに愚図だったのかを思い出して情けなくなる。風先輩は知っていたとはいえ皆を助けるために真っ先に戦いに。樹ちゃんはそんな風先輩を一人にしないために、ほむらちゃんも二人の窮地を救うために。そして友奈ちゃんは私達全員のために。

 

 私だけが逃げた。一人敵の攻撃に怯え、恐怖し、皆の力にならなかった役立たず…それが私だった。

 樹ちゃんはそんな恐怖を押し込めて頑張った、友奈ちゃんも勇気を振り絞った、ほむらちゃんも守り抜く覚悟を決めた。私はただ後ろから必死に願うだけだった。最後まで誰かに頼るだけ、そんなの無責任極まりない勇者部の足手まといじゃない…!

 

 自己嫌悪で自分自身が嫌になる一方。そんな中ほむらちゃんが諭すように問いかけてきた。

 

「ねえ東郷、本当にあなたはただ逃げるだけだったの?」

「えっ?」

「戦わなければって意思を完全に放棄して、世界や友達はどうなってもいいから自分の命だけは助かりたいって思っていた?」

「っ!? そんな酷い事思っていないわ!」

「ええ、あなたがそんな無責任な事を思うわけがない。私と友奈の友達の東郷美森ならきっと、私達全員の無事をずっと願っていた……違うかしら?」

 

 ……違わない。けれどそれに何の意味があるというの。皆が頑張っている間私は何もしていなかったのよ。正直ほむらちゃんが何を言いたいのか全然分からない。

 

「東郷さんはずっと皆を心配してたでしょ。私が勇者になる前にも危ないからって必死になって止めてくれたよね」

「やっぱりね。あなたも戦っていたじゃない」

「え?」

 

 ますますわけが分からない。あんな醜態を晒しておいて、どこをどう見れば私も戦っていたなんて答えになるのよ。

 ほむらちゃんの雰囲気は私を皮肉っているものではない。本心から来ているものであり、同時に私の苦悩に半ば呆れている様にも見えた。

 

「例えば…そうね、東郷はチア部…あの部活ってどういう役割があるのか知ってる?」

「……誰かを応援する…?」

「それだけなら気持ちが込もっていれば誰でもできるわ。チア部っていうのは自分達もその人達と一丸になって戦う部活なのよ」

 

 私は足が動かないからチア部の助っ人に出た事はないからよく分かっていない。ほむらちゃん達は何度も紗彩ちゃんに引っ張り出されていたからそういう物だって体験していたのだろう。

 

「彼女達は応援やパフォーマンス、何よりも仲間を信じる想いを武器として戦う、言わば彼女達は後方支援。けれどその存在が表立って戦う仲間達の強大な支えになるのよ」

 

 間近で見てきてその重要性を学んだ彼女の言葉に思わず息を呑む。直接手を貸さずとも、自分達を心から信じてくれる人達の想いがあれば百人力……何故だか知らないけどふとそう思えてきた。

 

「何も勇者になって戦う事が全てじゃない。あの場で東郷は私達全員の無事を祈っていた。それってつまり、あんな状況になってもあなたも私達を見捨てずに支えるって意味で立派に戦っていたのよ」

「ほむらちゃんの言う通りだよ! 私は東郷さんがいたから、悲しませたくなかったから勇者になれたんだ」

 

 友奈ちゃんが笑顔で私の手を取って肯定してくれる。私は断じていらない存在なんかじゃないと。

 

 人は時と場合によって臨機応変に自分ができることをすればいい。そして今回の私がやるべき事だったのは、最後まで四人全員を信じ抜く事だった…? 皆がまた無事に戻って来て笑い合える日々を迎えるために……

 

「第一あなたは自分を責めすぎているわ。あなたを批難できる者なんて誰もいない。いたら……私が許さない」

「私達は何があっても、どんな時でも東郷さんの味方だよ! だから東郷さんも、これからも私達と一緒にいてくれたら嬉しいな!」

 

 ……あぁ、何だか二人が眩しい……。ずっと私を蝕んでいた無力感が晴れてきそうだった。

 そうか……結局はただの劣等感だったんだ。身近な人達が動けたのに、自分だけ皆のように動けなかった事を情けなく思ってしまっただけ。

 

 怖がっていたのだって本当は恥ずべき事じゃないのかもしれない。むしろ私が何か恥ずべき行為をしただろうか? いいえ、そんなわけがない。

 私にはこんなにも掛け替えのない大好きな友達がいる。そんな彼女達にも泥を塗るような真似はできる筈がない。

 

「ありがとうほむらちゃん、友奈ちゃん」

 

 ……でもね、自分だけ安全なところから皆が傷付くであろう戦いを見てるだけなんてやっぱり嫌よ。

 思えば私はずっと助けられてばっかりだった。

 

 不安でどうしようもないままこの街に引っ越してきたけど、友奈ちゃんとの出会いがそんな不安を消してくれた。

 

 誰かに迷惑をかけ続ける毎日を送ることになると抱いていた鬱屈な気持ちを、ほむらちゃんが友達になってくれたことで思わなくなった。

 

 そんな二人に支えられて馴染めてきた学校生活も、風先輩に勇者部に誘われてもっと楽しくなった。

 

 樹ちゃんも勇者部に入ってきて、私をもう一人の姉のように慕ってくれる後輩ができたおかげでもっと幸せになれた。

 

「……私も覚悟を決めました」

「「えっ?」」

 

 私はいつも皆に守られていた。だから次は……

 

「私が勇者になって皆を守る!!」

 

 五つあった花の芽の最後の一つ。それが今、青いアサガオの花を咲かせた。




次回 
ヘイト爆稼ぎバーテックス×3「「「メガロポリスが戦う前から覚醒済みなんて聞いてねえ!!」」」
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