ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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 前回誤字報告ありがとうございます。
 今回は前半が消化試合、後半が日常パート

 ……前回に詰め込んだ方がバランスよかったなぁ、1万字近くなってしまいました。配分調整ミスがなかなか改善できないorz

 大満開の章の制作スタッフに、拝。


第十六話 「憧れの人」

 東郷との連携プレーで三体のバーテックスに決定的なダメージを与える事に成功した。とはいえ放置していたら奴等は回復してしまうから早急に封印をして完全に倒しきらねばならない。

 

 私と東郷が狙うのは一体だけ奥にいる射手型のバーテックス。蟹型と蠍型のバーテックスは友奈達三人に任せるとしましょう。

 

「「封印開始!」」

 

 ボロボロになった射手型の体から核となる御霊が出現する。私には攻撃手段が無いからここから先は東郷の仕事。銃口を御霊に向けて引き金を引く。

 

「…っ! 速い…!」

 

 しかしその一撃は一瞬で高速で動き出した御霊に避けられてしまう。バーテックスの周りを激しく飛び回り、攻撃を当てるのももはや至難の業。前回のバーテックスの御霊といい、連中は最後の最後まで面倒な性質を持っているのね……

 

「もう一度時間を止めるわ。その隙に…」

「大丈夫よ。私に任せて」

「……ええ。頑張って」

 

 私の提案をきっぱりと断る彼女の顔には絶対に当てるという確固たる意思があった。ならば私がする事は時間を止めて彼女をサポートする事じゃない。笑顔で友達を信じる事……大丈夫、東郷なら必ずやってくれる。

 

 ズドンッ!!

 

 風を切りながら無尽蔵に飛び回る御霊。封印の時間制限の時まで止まらないであろうその結晶の中心に、銃声と共に風穴が開く。

 御霊は鮮やかな光となって空に昇り、バーテックス諸共樹海から消滅した。有言実行、東郷は歴戦の銃士のようなセンスを以て人類に仇なす敵を屠ったのだった。

 

 戦場を征した私達は軽く息を吐いて向き合い、お互いの健闘を讃えた心地良いハイタッチの音が鳴る。

 

「あなたなら仕留めきれるって信じてたわ」

「ほむらちゃんのおかげよ。支援ありがとう」

 

 二人で一体のバーテックスは仕留められた。他のみんなは、残る二体の敵は……やっぱり大丈夫そうね。

 

「あの大きいの……風先輩の剣?」

 

 距離が離れていても見えた光景、風先輩が巨大な大剣で御霊を凪払いぶっ飛ばす。その先で友奈が飛んできた御霊を全力の拳で殴り抜いて粉々に砕いた。

 

 もう一方ではいくつにも増えた御霊が樹ちゃんのワイヤーでまとめて拘束されている。強く絞められて御霊は次々と寸断されて消滅し、残った本体も耐えきれずにバラバラになった。

 

「終わったのね…」

「ええ。私達の勝利よ」

 

 新たに二つの光が昇って敵の巨大な姿はどこにも見えなくなる。かくして二回目の勇者の戦いも快勝という結果で幕を下ろした。

 

 

 

「あ! ほむらちゃーん! 東郷さーん!」

「友奈ちゃん! 大丈夫? 怪我はない?」

「うんっ、平気だよ! それにしてもほむらちゃん、いきなりいなくなってビックリしたよ」

「えっ? まさかほむらちゃん、戦闘中だというのに友奈ちゃんを置き去りにして別行動してたというの?」

 

 学校の屋上に戻って早々に友奈を置き去りした事を暴露されて東郷の目から光が失せる。僅かながら殺気も溢れて…先程まで協力し合っていた友達に向ける目じゃないわよそれ!?

 

「違うわよ!? あの時は時間がなくて急いでいただけで、決して友奈を蔑ろにしたわけじゃないのよ!? むしろみんなを守るために別行動が最適だったわけで!」

「冗談よ。友達だもの、ほむらちゃんが友奈ちゃんを見捨てる事は無いって知ってるから」

「……友奈が絡んだ東郷の言葉が冗談に聞こえないのは何故なの、友達なのに…」

 

 東郷が友奈に向ける愛と私に向ける友愛、初めての出会いが数週間違うだけでこうも扱いの差が大きいのは解せないわよ。私だって東郷のことを大切に思っているのに……流石にそれは東郷も同じでしょうけど。

 

「おーい、そこの2年生トリオ、一旦集合」

 

 我らが部長様の召集を受けて全員の無事を確認する。今回も怪我人無しの文句無しの大勝利。三体同時と分かったときにはどうなることかと思ったけれども、やっぱり私達五人に勝てるわけないのよ。

 

「これで残るバーテックスも残り八体、このまま勢いに乗って世界を護りましょう!」

「「「「オーー!!!!」」」」

 

 

◇◇◆◆◆

 

「あの、皆さんに相談があるんですけど、いいですか?」

 

 二回目の戦いを終えて再び戻って来た日常。戦いで疲れてはいたけど勇者部の活動に励むと不思議とそんな物はどこかに吹っ飛んじゃう。

 多分それはお姉ちゃんと、とっても頼りになる三人の先輩のおかげ。この人達がいるから、こんな私にも寄り添って支えてくれる素晴らしいお姉ちゃん達だから私も頑張れるんだと思う。

 

「樹ちゃんが相談って……何かな?」

「皆さんって言っても、風先輩は? 職員室に行ってくるって出て行ったばかりよ?」

「お姉ちゃんには言えないんです…」

 

 何が良いのか一人でずっと考えて、気がつけば半年も経っていた。大事な事なのに半年も考えて結局何も思いつかなかったのは情けないけど、こればかりは何がなんでもやり通したかった。

 

 今日は4月27日、たった4日でとても大切な日を迎えるのだから。

 

「今度の日曜日、お姉ちゃんの誕生日なんです」

「あっ、そうよ、5月1日は風先輩の誕生日じゃない」

「「そうだった!」」

 

 ほむらさんがその事に気付くとすぐに友奈さんと東郷先輩も行き着いた。お姉ちゃんの誕生日がいつなのか知っていたんだ……。

 

「去年は誕生日を知った時には既に過ぎていたんだったわ……水臭いんだから…」

「風先輩ってそういう所があるのよね。周りの事となると一生懸命なのに、自分の事となると消極的になるというか…」

「今年こそは去年の分も合わせて盛大にお祝いしないとだね!」

「ええ。となれば何を用意するか…」

「プレゼントは何がいいかな? 風先輩の欲しい物って何だろ? 樹ちゃん知ってる?」

「えっ? あ、いいえ、それとなく聞いてみたんですけど何もいらないって…」

「ハァ……樹ちゃんに気を遣ってるのね。どこまで水臭いのよ」

「まあそれが風先輩のいい所でもあるわけだから。それじゃあ風先輩が欲しいと思ってそうな物は……」

「「……女子力?」」

「……イネスだったら置いてあるかしら?」

 

 先輩達の中でどんどん話が進んじゃってる…! ほんとはプレゼントは何がいいか相談するつもりだったのにいつの間にか皆でお祝いする事が決定している!?

 

 でもこれって皆さんもお姉ちゃんをお祝いしたいから真剣に話し合っているんだよね。

 ……嬉しいなぁ、お姉ちゃんを大事に想ってくれる人が私以外にもいるなんて。お父さんとお母さんがいなくなってからは私一人でお祝いしていたお姉ちゃんの誕生日。それがもう一人じゃないんだ……皆も一緒にいるんだ……。

 

「ほら樹ちゃんも、皆で一緒に考えようよ!」

「…っ、はいっ!」

 

 そっか……前にほむらさんが言っていた、勇者部に入れば幸せになれるってこういう事を言うんだね。

 

 

 

「さぁ、入って樹ちゃん」

「えっと、お邪魔します…」

 

 今日は4月30日の土曜日、私はほむらさんのお家に来ていた。初めて来たけど大丈夫かなぁ、ほむらさんのご両親には会った事がないから緊張しちゃう……。

 

「ふふっ、緊張しなくても大丈夫よ。両親は二人とも仕事に行ってるから」

「ふえっ!? 口に出てました?」

「顔を見れば判るわ。でもちょっとだけ残念ね……二人にも樹ちゃんを紹介したかったのに」

「紹介だなんてそんな…私なんて…」

「とっても可愛らしくて頼りになる後輩ってね。きっと二人も気に入るだろうし」

「そ、そうでしょうか…?」

 

 いくらほむらさんのご両親と言っても大人の人に気に入られるのはむず痒いかも。なんだか申し訳ないけど、私の人見知りな性格はあまり良くなっていないから。

 

 でもいつかはお姉ちゃん達みたいに誰とでも進んでお喋りができるようになりたいなぁ。そのためにも勇者としてこの世界を護らなきゃだし、勇者部の一員としてこれからもっと頑張らないと!

 

「こっちよ。必要な物は全部揃っているから」

「ありがとうございます。あまり経験がないので迷惑を掛けると思いますがよろしくお願いします」

「まぁ私もケーキを作った事は無いのだけど…勇者部六箇条一つ、なせば大抵なんとかなる。頑張りましょう樹ちゃん」

 

 ほむらさんに通された一室、キッチンには小麦粉、卵、牛乳、砂糖、バター、他にもたくさんの様々な材料や調理器具がズラリと並んでいた。私とほむらさんは今日ここで明日のお姉ちゃんの誕生日に出すお祝いの手作りケーキを作る班なのです。

 

 先日の話し合いの中で出された結論はお姉ちゃん以外の勇者部のメンバー全員で料理を振る舞おうという事になった。

 お姉ちゃんの欲しい物は分からないけど好きな食べ物だったら皆が知っている。そういう話が出た所で皆で真心を込めた料理という意見が出てきて満場一致で受理された。

 

『それじゃあ風先輩の好物のうどん班と、誕生日のお祝いケーキ班に別れなきゃだね』

『うどん班はハードル高いわね。あのうどん魔王の舌を唸らせないといけないのだから』

 

 そう、お姉ちゃんは自他共に認めるうどん狂。一年間365日毎日うどんを摂取し続ける生粋の中毒者(ジャンキー)。素人の作るうどんで満足させるのはバーテックスを全滅させる並みに困難。

 

『その大役…私が務めさせていただきます!』

『東郷さんがうどん班なら私も!』

『こうなる事は読めていたわ。樹ちゃん、私達はケーキ班よ』

『えっ、もう決まったんですか!?』

『東郷は横文字を選ばないし、友奈は東郷から離れない……よく覚えておいて』

 

 こうしてあっさりと役割が決まって、日程も決めて今に至るというわけです。

 でも大丈夫かなぁ…私って普段お姉ちゃんに料理をさせてもらえないし、いくらほむらさんも一緒だとしてもむしろ足を引っ張るんじゃないかな……

 

 ううん、弱気になってちゃ駄目! お姉ちゃんをお祝いするんだもの、美味しいケーキを作ってお姉ちゃんに喜んでもらうんだもん!

 

「早速作りましょうか」

「はい!」

「私が小麦粉を量っておくから樹ちゃんは卵を割ってハンドミキサーでかき混ぜて頂戴」

「分かりました!」

 

 バキッ ヌチャッ

 

「………は?」

「ああっ! ごめんなさい!!」

「え、ちょ……ええぇ…?」

 

 いきなりやっちゃったーー!! 力加減を間違えてテーブルに卵の中身が飛び散っちゃったーー!! ええっと拭く物! キッチンペーパーどこ!?

 

「……えっと……気を付けてね…?」

「ごめんなさい本当にごめんなさい!!」

 

 テーブルに飛び散った卵を拭き取りながら何度も頭を下げる。こんな序盤で失敗するなんていくらなんでも酷すぎるよ! ほむらさんにも失礼だしお姉ちゃんのお祝いケーキで失敗は許されないのに、私のバカー!!

 

 今度こそ! 力はあまり込めないでひびが入る程度に…! ……よし! 後はボウルに入れれば……

 

 バキャッ ビチビチ

 

 ……黄身が…黄身が潰れて中に……殻の破片も一緒に中に……まだ割らないといけない卵が残っているのに……

 

「……まあ破片を取り除けば済む事だし…」

「うわぁーーんほむらさーん!! 役割分担変わってくださーい!!」

「いや、樹ちゃんに小麦粉を任せるのは既に嫌な予感が……分かった分かったわよ。泣かないでよもう…」

 

 面目ないですぅ……。うぅぅ……ほむらさんの今の目、お姉ちゃん達が変な事をやらかした時に向ける目に似ている。思いっきり呆れてるんだ……わざとじゃないんですよぉ…

 

「そこにレシピがあるから見ながらやってみて。小麦粉……ブチ蒔けないでよ…?」

「はい! 任せてください!」

 

 これなら私にもできる筈! 必要な分の小麦粉を出してふるうだけだもん! 簡単だよきっと!

 えっと……小麦粉100グラム? これって少ないんじゃないのかな? お姉ちゃんが食べるケーキだしもっと多めの方がいいよね多分……

 

 ほむらさんの方はまだ飛び散った卵の殻を一つずつ取り除いているみたい。余計な仕事を増やしてしまって本当にごめんなさい……。

 でももう絶対に失敗はしませんから! こっちの作業は私に任せてください! なんたって私はあのお姉ちゃんの妹なんですから!

 

「………犬吠埼樹

「ひゃぅわぁぁっ!?」

 

 一瞬で背筋が凍りついた。ものすごくドスの利いたトーン、ごく稀にほむらさんがお姉ちゃんや北村先輩に向ける軽蔑に近い冷め切った目、バーテックスに対して出していたであろう殺気……

 

 ほむらさんと仲良くなれて早数週間、どうやら私は初めてこの方の怒りを買ってしまったみたいです。

 

「……何をやっているの?」

「な、何…とは…? 私…何か変な事をしてしまったんですか…?」

「質問を質問で返さないで」

「ひっ…!」

 

 怖い怖い怖い怖い!! 目を逸らしたいのにほむらさんの雰囲気が怖すぎて首も目線も微動だにしない!? 蛇に睨まれた蛙ってこういう事を言うんだ……ひえぇぇ!

 

「もう一度聞くわ…何をやっているの?」

「こ、ここ小麦粉の量を量っていました!!」

「レシピには100グラムって書いてた筈なのに見間違いかしら? 私の目には500グラムって表示されてるように見えるのだけど」

「そそれはそのっ、100グラムだとお姉ちゃんには少ないのかなと思って…!」

「お菓子作りにおいて材料の分量は正確に量らないとダメになるのよ。風先輩に最初からグチャグチャに崩れたケーキをプレゼントするつもり?」

「ええぇー!? それじゃあ私、さっきのよりももっと酷い失敗をしてたんですか!?」

 

 そんな……私はただ純粋に大きいケーキになるのかと思ってアレンジしたのに逆効果だったなんて……私、なんてバカな間違いを…!

 

「酷いなんてレベルじゃないわよ。それに…」

「ま…まだ何かあるんですか…」

 

 アレンジは小麦粉の量を勝手に変えた、ただ一つのみ。いくらなんでも他にも間違えがあるだなんて、そんな事あるわけ……

 

「これ、小麦粉じゃなくて片栗粉よ」

「ごめんなさーーーい!!!!」

 

 反論の余地は皆無です!! 致命的すぎる間違い、とろっとろなケーキができてしまうじゃないですか!! そんなものはもはやケーキじゃありません!! ゲルじゃないですかぁ!!

 

……そもそもどうして片栗粉がここに? ケーキ作りに必要ないから取り出していないのに

「ギクゥッ!?」

 

 ボソッと呟かれた言葉であるものの、罪悪感で敏感になっていた私にははっきりと聞き取れた。実はほとんどの材料をほむらさんに用意してもらうのは気が引けたから、いくつか必要そうな物は家から持ってきていた。

 ほむらさんの準備の手際が良かったから言い出せなくて、持ってきた物の中に小麦粉だと思い込んでいた片栗粉があってそれを使ってしまって……

 

「……ほむらさん、非常にお見苦しいのですがお願いしてもいいですか」

「何かしら」

 

 ……私、勝手な事しかしていない……

 所詮私は私であって、お姉ちゃんや皆さんみたいにいろんな事ができるわけじゃない。それどころか皆の足を引っ張るだけの存在でしかないんじゃ……

 

「……私が一緒だったらお姉ちゃんへのケーキを作るなんて無理です、絶対に失敗しちゃいます。私は別の贈り物を考えますので、誠に勝手ですがほむらさんがお姉ちゃんに美味しいケーキを作ってください!」

「……そう」

 

 そうだよ、こうするのが一番いいんだよ。だってあんなにてきぱきと手順を教えられるんだもん、間違いなくほむらさんは料理上手なんだよ、私と違って。

 

 私がほむらさんの邪魔さえしなければ何もかもうまくいくんだよ。ごめんなさいほむらさん、迷惑ばかりかけて……

 

「私は嘘を吐きたくないし、出来もしない約束もしたくない。嫌よ」

「…っ、どうしてですかっ! ほむらさんなら私にはできない事が簡単にできるのに!」

 

 まさか断るだなんて思っていなかった。というかおかしいよ、私がいない方が絶対にいいのにどうしてそんな意地悪をするの……

 

「……樹ちゃん、さっきの問い詰めた事は謝るわ。私も不安で気が立っていたの……ごめんなさい」

「……えっ?」

「始める前に言ったでしょ? 私もケーキを作った事は無いって。だから上手く作れるかどうか不安だった」

「……ほむらさんって料理上手なんじゃ…?」

「それはあなたの思い込みよ。実際の料理経験は片手で数えられる程度。それと勇者部の活動で風先輩と料理教室の手伝いに行ってその時に教えてもらっただけよ」

 

 ほむらさんの予想外の告白に驚いてしまう。あんなに気丈に振る舞っていたのに実は不安だったって…とてもじゃないけど信じられない。

 だって私の中のほむらさんのイメージは一見クールそうに見えるけどとっても優しくて何でもできる憧れの人。苦手な事があるなんて思った事すらなかった。

 

「そんな素人に先輩のお祝いケーキを作る大役全部を押し付けないで。プレッシャーで絶対上手くいくとは思えないもの」

「でも私なんかがいた所で……」

「それに、二人で風先輩のためを想って作ったケーキなら最高の出来になると思うの。なんたってお姉ちゃん思いの樹ちゃんが一緒ならね」

 

 気落ちしている私に掛けられる、私が抜け出す事を認めない優しい言葉。お姉ちゃんと話している時みたいにどうしても安心してしまう。ほむらさんの優しさに鬱屈な気持ちが薄れてくる。

 

「料理は愛情なんて精神論、ありきたりでよく聞くと思うけど本当にその通りなのよ。樹ちゃんが風先輩の作ったご飯を食べて味が美味しいと思ってそれで終わり、じゃなかったでしょう? 風先輩がどれだけ樹ちゃんを大切に想っているのかも伝わった筈よ。

 あなただってその気持ちを風先輩に届けたいとは思わない? 私は届けたいわ。二人で一緒にね」

「……届けたいです…! 私もほむらさんと一緒に…お姉ちゃんに喜んでもらえるケーキを作りたいです…!」

 

 私の答えに微笑んでから軽く頭を撫でられる。それが心地良すぎてさっきまでの鬱屈な気持ちはどこかにいってしまった。

 

 今あるのは私を慰めてくれたほむらさんへの感謝の気持ち。今度こそほむらさんの期待に応えたいという熱意。そして……

 

「再開しましょうか。私も樹ちゃんのフォローを頑張るから、樹ちゃんは私のフォローをお願いね?」

「はい!」

 

 

 

 

「ちょっとー、樹ー? 折角の日曜日だっていうのにどこに連れて行くつもり?」

「いいからいいから♪」

 

 翌日私は家の中で家計簿をつけていたお姉ちゃんを強引に連れ出して外へ。お姉ちゃんの様子を見ると今日は自分の誕生日だっていう事を忘れてるみたい。

 

「到着ー!」

「ここって…東郷の家じゃない」

「お邪魔しまーす!」

「えちょ、樹…?」

 

 お姉ちゃんに有無を言わせず東郷先輩のお家の中へ。お姉ちゃんの目には私がインターホンも押さずに勝手に中に入ったように見えて驚いていた。そんなお姉ちゃんも、ここは東郷先輩のお家だからと遠慮がちに侵入するみたいに入ってくる。

 

「ちょっと樹…いくら東郷の家でも勝手に入るのはマズいって」

「大丈夫だよ。今日来るってのは話し合ってるから」

「えっ? てゆーかそろそろ何なのか教えなさいよ…」

「うふふ…もう少し♪」

 

 もう少しで皆が待ち望んだ瞬間がやってくる。

 お姉ちゃんにまだ気付かれないよう、ポケットから細長い円柱状の小道具も取り出しワクワクが止まらない。

 

「あっ、お姉ちゃんここ開けて」

「あーもう、後でちゃんと説明してよね」

 

 パパパーーーン!!

 

「うおぁっ!!? 何」

 

 パーン!

 

「ひぁあっ!!? えっ樹!?」

「「「風先輩! お誕生日おめでとうございます!!」」」

「……えっ? 東郷……友奈とほむらも…? 誕生日って……今日はええっと、5月1日でしょ? アタシの誕生日は5月1日よ……んん? ……今日じゃん!?」

「やっぱり自分の誕生日を忘れてたんだ? お誕生日おめでとうお姉ちゃん!」

 

 私のクラッカーのタイミングが少しずれちゃったけど逆に面白いリアクションが見れたかな。大混乱中のお姉ちゃんからしてサプライズは成功したみたい。

 

「樹!? まさか今日連れ出したのってこれのため!?」

「うん! 皆と一緒にお姉ちゃんの誕生日をお祝いしたかったの!」

「まさか自分の誕生日を忘れていたなんて……」

「まあいいんじゃない? こうやって上手く驚かせれたわけだし」

「風せんぱーい! 主役はこっちですよー! 早く早くー!」

 

 去年のお姉ちゃんの誕生日には無かった愉快すぎる声が心に響く。一昨年に失ってしまった家族の形が別物になって蘇ったみたいな嬉しさに満ち溢れていた。

 

「ほら友奈、私達が持ってこないといけないんだからあなたはこっち」

「はーい、それじゃあ風先輩、ごゆっくり~」

 

 私達と入れ替わりで部屋から出て行くほむらさん達。二人は今から私達が頑張って作り上げた証を取りに行ってくれていた。

 

「えっとごめん、アタシまだ状況を整理しきれてないんだけど…」

「風先輩ったら…去年はお祝いさせてくれなかったではありませんか。なので皆で話し合って盛大にお祝いする計画を立てていたんです」

「あはは……そうだっけ?」

「そうですよ。ただまあ、風先輩の欲しい物は分からなかったので、皆で料理を作ったんです」

「お待たせしましたー!」

 

 早くも友奈さんが大きなお鍋と大量の揚げ物や具材が入った容器を運んできた。友奈さんと東郷先輩が昨日お姉ちゃんのために頑張って作った特製うどんである。

 

「風先輩の大好物のうどんです! 麺は東郷さんが素材を厳選して打った手打ちうどん! トッピングの揚げ物もかき揚げや海老天、イカ天、ちくわ天と充実したラインナップ! さらに私がじっくり時間をかけて煮込んだお肉たっぷりの肉うどん! 東郷さんイチオシのさっぱりとしてスルスルと喉を通るおろし醤油うどんも用意しています! 生卵も温玉だってありますよー!」

「ぬおぉーー!? なにこの量!? 嬉しいけど多すぎじゃない!?」

「去年お祝いできなかった分まではりきっちゃいました!」

「……ひょっとして根に持ってます?」

「持ってないとは言い切れないけど悪い意味ではありませんよ」

 

 友奈さんと東郷先輩の張り切った成果にお姉ちゃんが圧倒される。私もここまでやるとは正直思っていなかったかも。

 それだけお二人もお姉ちゃんの事が大好きなんだと思うとますます幸せな気分になっちゃう。

 

「樹ちゃん、はいこれ、持っていきましょう」

「ほむらさん……はい!」

 

 とっても不思議な感じ……私の誕生日じゃなくてお姉ちゃんの誕生日なのに、私の方がものすごく貴重なプレゼントをもらったみたい。

 もし昨日私が途中で諦めてしまったままだったらそうは思えなかったに違いない。私ならできると信じて、頼って、助けてくれたほむらさんのおかげで……勇者部の皆のおかげで私は今ここにいられるんだ!

 

「ん? 樹、ほむら…何これ?」

「私達二人で作った手作りケーキだよ」

「……ぱーどぅんみー?」

「手作りケーキ。昨日二人で頑張ったんですよ?」

「あぁ!? 手作り!!? あんたら二人がぁ!!?」

「お姉ちゃんの喜ぶ顔が見たくて……ジャーン!」

 

 驚きのあまりお姉ちゃん震えちゃってるよ…。

 

 でも本当に上手くできたと思う。酷い失敗の連続だった私がこんなにも立派なケーキを作れたんだって、感極まって泣いちゃったぐらい美味しそうなケーキ。

 それを早くお姉ちゃんにも見てもらいたかった。箱を開けると皆が私達の努力の証に注目する。

 ふんわりとしたスポンジを包み込んだ真っ白な生クリーム、それを鮮やかに彩るフルーツ、チョコレートのプレートにはお祝いと日頃の感謝を込めたメッセージを添えて。

 

「はわーっ! すっごく美味しそう!! これほんとに二人で作ったの!?」

「結構苦戦したけどね。樹ちゃんのおかげで無事完成したわ」

「やるじゃない樹ちゃん! さすが風先輩の妹ね」

「そんな! 私一人じゃ絶対に無理でした! ほむらさんのおかげです!」

 

 私なんてまだまだ、ケーキ作りも人としても未熟だもん。あの時ほむらさんが私が必要だって言ってくれたから頑張り続けられた、支えてくれる存在が側にいたからやり通せた。

 

 だからこそ、いつか私もほむらさんみたいに誰かを励ませる人に、心を支えられる立派な人になりたい。

 

「……樹が……ほむらが……!」

「お姉ちゃん?」

「……まさかこのパターン…」

「……あの樹とほむらがアタシのためにケーキを作るなんてぇ…!!! う”ぉぉぉぉぉん!!!」

「わあっ!? 風先輩大号泣!?」

「それだけ嬉しかったって事なのよ」

「というか私もセットなの?」

「もう…お姉ちゃんったら」

 

 まだ将来の夢すら決まっていない私がまず目指すこと。今は憧れの人を追いかけるだけだけど、いずれはその隣を一緒に進めるような心の強さを持ちたい。

 

「あ”り”がどーみ”ん”な”ぁ”!!! ざい”ごう”の”だん”じょ”う”びよ”-!!!」

「何て言ってるのか分からないよ……これからもよろしくね、お姉ちゃん♪」

 

 勇者部の皆と一緒にそんな未来を迎える時が待ち遠しいです!

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