ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
私達が勇者に選ばれてから早くも一ヶ月半、初日とその次の日の進行を最後にバーテックスは一体も出現していなかった。
「あーもう何なの。連日攻めて来たかと思えば今度は放置?」
「まさかあれから一ヶ月半も何も無いとは思いませんでしたね」
「あー……タイクツ、ふぁあ~」
風先輩の不謹慎な呟きを受け流しながらも私だって内心少しは同意だ。勇者に選ばれたというのに毎日毎日やることといえば勇者部の活動。大事な一時を過ごしているのだけど、バーテックスはそんな勇者部の時間を奪う存在でもある。
だからこそこのお役目を早々に達成して憂いのない日常を取り戻したいのにも関わらず、肝心の敵が来ない。一気に四体も倒されて様子見でもしてるのかしら?
加えて今日の勇者部の依頼は特に無し……暇だ…。こんな時は脳内でまどマギのアニメを再生するに限る。一字一句、細かな描写の再現も慣れたものね。
「あまりにも暇すぎて、さっきからずっとほむらさんが放心状態です……」
……どうにかして彼女達にもまどマギを布教する手段はないかしら? ほむほむは別人に設定し直す必要ができてしまうけど。でもそれをしてしまえば最早まどマギではなくなってしまうし……
「任せて樹ちゃん、私に時間が過ぎ去るのがあっという間に感じる取って置きの提案があるわ」
「……アタシそれ嫌な予感がするんだけど…」
「時間のある今こそ、勇者部として国防の何たるかを書類化して全校生徒に向けて配って国を想う意思を育みましょう」
「やっぱりそれか!!」
「……ん、何話してるの?」
ちょうどMagiaまで終わった所で何やら風先輩と東郷が会話してるのに気付く。キリもいいし、私もこの会話に混ざろうかしら。
「他にやる事が無い以上、必然な選択ではないですか。さぁほむらちゃん! 風先輩も! 日本国民として当然の責務を」
『♪♩♬♪ ♪♩♬♪』
東郷の言葉を遮るように鳴り出すアラーム。私と友奈と樹ちゃんがはっとしてスマホを確認すると案の定樹海化警報の文字が…。
「っ…! バーテックス…!」
「ナイスバーテックス!」
「さっきよりも不謹慎な事を…」
「むっ……仕方ない、また今度ね」
「………何が?」
何がナイスだったの? 結局何の話をしていたの? 気になる事が分からないままだけど、今はそれよりもこっちを優先させないと……。
三度目の樹海にて全員が早々に勇者へと変身して身構える。前回は恥ずかしながら油断していて先制攻撃を許してしまった。
ほむほむとしてはそこいらの敵相手に後れをとるわけにもいかない。クールに、可憐に、ミステリアスに敵を屠る。それこそがほむほむ……時間停止が強力とはいえ攻撃手段が欲しいものね……
「来た…!」
「あれが五体目…」
「今回は一体だけね」
「東郷は位置に着いて。絶対に仕留めるわよ!」
五体目のバーテックスは四つの突起が目立つもののその詳細は不明。
風先輩の号令を聞いて東郷が離れた地点に跳び銃を構える。私達四人は固まって奴を迎撃する態勢に。前回の戦いみたいに時間を止めて東郷に蜂の巣にしてもらうのも良いのだけど、そしたら他の三人、特に風先輩が「毎回二人だけに戦いを押し付けるのは反対」と却下済みだ。
戦いに巻き込んだという負い目を抱いていた風先輩なりのケジメなのかもしれないけど、私としてはみんなが無事に生き残れれば問題ないというのに……
「久しぶりの戦いだけど大丈夫かな」
「え、えーっとですね……ここをこうして」
「ほうほう」
友奈と樹ちゃんがアプリの説明を確認する。緊張する気持ちは分かるけど敵の前よ? 射手型のバーテックスだったらとっくに攻撃していたわよ。
でもそうしないって事はあれは遠距離型ではないって事。というかあのバーテックスは何型なのかしら? 見た目で判断しにくい姿ね……私もスマホで確認しましょう。多分攻撃はされないでしょう。
「……山羊だったのね。分かりにくい……え?」
「えぇい! なせば大抵なんとかなる! 四の五の言わずビシッとやるわよ! 勇者部ファイトー!!」
「「オーー!!」」
「……誰? 三好夏凜って」
バーテックスの名前を確認するために開いたアプリのマップ、それには私達勇者とバーテックスの名前と位置が表示されている。
その中に私達の位置から少し離れている所に見知らずの名前が一つ、三好夏凜。
その座標の所へと目を向ける。そこには一人の赤い装束を纏った少女が。バーテックス目掛けて三本の剣を投擲した少女、三好夏凜と目が合った。
三好夏凜は一瞬驚いたように目を見開くも、自身が投げた剣がバーテックスに直撃し爆発が起こると不敵に笑う…というよりドヤ顔ね、アレ。
「フン、ちょろい!」
「えっ、何あの子!?」
友奈達も彼女の存在に気付き、突然の乱入者の登場に動揺していた。敵なのか味方なのかもよく分からない存在ではあるものの、あの姿、武器、彼女の側を浮いている精霊、アプリに名前が表示される事からして間違いない。彼女、三好夏凜は勇者だ。
「封印開始! 思い知れ、私の力っ!」
「あの子、一人でやるつもり!?」
三好夏凜はさらに追加で剣を投擲し、バーテックスにダメージを与えていく。その中の一本が地面に突き刺さると早くも封印の儀式が行われる。
傷付いたバーテックスから御霊が吐き出され弱点が剥き出しになるも、御霊はどれも特異な性質を持つ。非常に堅いもの、高速で動くもの、今回は……
「うわぁっ!? ガス!?」
「前が見えない~!」
「!? エイミー!? みんなにも精霊が…!」
この場にいない東郷を除く私達全員が御霊が撒き散らしたガスに覆われる。前方が見えなくなるほど濃く、勢いもそれなりに強い。
でもこのガスが殺到すると同時にエイミー達精霊が現れてバリアを張っていた。このバリアは勇者が致命的な攻撃を受ける時に自動的に現れる物。つまりこのガスは私達にとって有害な物である可能性が高い。
「みんな退避! おそらくこれは毒ガスよ!」
「うえぇ!? マズイじゃんそれ!!」
慌ててガスが届いていない場所へと跳躍して難を逃れる。けれども彼女は毒ガスなんてお構いなしに御霊へと接近していた。
「ハッ、毒ガスだろうが何だろうが、私を止められると思うな!」
「脳筋ね、彼女…」
「いや、そもそも本当に誰なのよ…」
いくら精霊のバリアがあるからとはいえ、強引に突破する姿を見れば呆れざるを得ない。けれど目の前が見えないほど濃いガスなのに、的確に御霊の位置を把握するセンスは驚嘆に価するわね。
「殲…滅!」
『諸行無常』
一瞬の内に御霊を切り裂き、御霊はおなじみの光となって昇り消える。まさか私達が何もする事無く戦いが終わるなんて……
東郷もやや困惑気味に私達の所へ来ると彼女、三好夏凜も溜め息混じりに近づいてきた。そのまま無言でみんなの顔を一瞥すると今度はあからさまな溜め息を吐いた。
「ええっと……あなたは誰…?」
「……ふん、他の奴等は全然大したことなさそうね。こんな連中が神樹様に選ばれた勇者ですって…」
開口一番罵倒するとは…礼儀知らずもいいところね。……他の奴等?
「突然現れて危険を省みずに敵に特攻するなんてどういうつもりかしら? 三好夏凜さん?」
「っ…! ……どこかで会ったかしら…?」
「………………さぁ、どうかしら?」
「なに今の間…?」
まさかこんな所でほむほむプレイの再現ができるなんて!! 当然私達は会った事は無いのだけど、マップを見たから名前だけは知っていたというしょうもない答えなのだけれど!! でも嬉しさのあまり反応が遅れて樹ちゃんにツッコまれてしまったのは痛い。
「……あんた…名前は?」
「……暁美ほむらよ」
「そう……あんたが大赦が言ってたイレギュラーの勇者ってわけね」
「イレギュラー? ほむらが…?」
ちょっとあなた、どこまで杏子みたいなやり取りしてくれるのよ!! 気持ちが高ぶって舞い上がっちゃうじゃない!!
……イレギュラーの勇者? え? 待って待ってどういう事? 確かに原作のほむほむもイレギュラーの魔法少女だとキュゥべえから警戒されていた。真相は別の時間軸からやってきた魔法少女だったからその存在を知られていなかったというもの。
まさか私自身すらもイレギュラーだというの? 名前も外見も声も暁美ほむらだけれど立ち位置までもがほむほむとして再現されていたの?
……わけが分からないわ。私の何がイレギュラーなのよ。前世の記憶持ちという事も、暁美ほむらというアニメキャラクターだという事は誰にも知られていない筈よ。知られていない以上、その事で私をイレギュラーだと判断はしないでしょう?
「あ、えっと、私は結城友奈って言います!」
「あんたには聞いてないわよ、チンチクリン」
「チン…!? えっと…あなたは三好夏凜さん……でいいんだっけ…?」
……かなり気になる事だけど彼女は大赦から聞いたと言っていた。風先輩経由で聞いてもらえば答えが分かるかもしれない。
「イレギュラーは何で私の名前を知っていたのかしら……そうよ、私は三好夏凜。大赦から派遣された正真正銘正式な勇者よ」
「それじゃあ私達と一緒に戦ってくれるんですか?」
「フン、あんた達は足を引っ張るだろうから邪魔よ。今の戦いも、そこのイレギュラー以外は鈍すぎて話にならないわ」
……この子は一体何を言っているのかしら? 何やら勝手に私を警戒しつつも持ち上げてる感じがするのだけど。
「暁美ほむら!!」
「……何」
「あんたがイレギュラーだろうと私には関係ない! 勇者として最強の存在は私をおいて他にいないのよ!」
「…………」
「それを忘れないことね……それじゃあ!」
好き勝手に言うだけ言って一人どこかに跳び去っていった。残った私達は呆然としながら樹海化が解けるのを待つだけだった。
わけが分からないよ……私が一体何をしたって言うのよ。何なのよあの子一体……。
◇◇◆◆◆
「アーッヒャッヒャッヒャッヒャ!!!! それじゃああの三好夏凜って子、そんな事に気が付かないままどこか行っちゃったってこと!!? マップに名前が出てたのに気付いてないって……ヒーッヒヒヒ!!! 笑いが止まんない…苦しい…!!!」
「お、お姉ちゃん、そんなに笑ったらあの人に悪いって…」
「だってぇ!! そのままほむらを警戒してライバル宣言染みた真似までしちゃってたのよ!! こんなの絶対可笑しいわよ!!」
「そうよ樹ちゃん。あんなに強がっていたのにそんな単純な事を見落とすなんて笑ってしまっても不思議じゃないわ」
「東郷さん、それはちょっとどうかなって…」
「だってあの子、友奈ちゃんをチンチクリンなんて失礼なことを言ったのよ? 少しくらい笑っても罰は当たらないわ」
「ブレないわね東郷…」
私が名前を知っていた訳を話すと風先輩が笑い転げて東郷までもがそんな先輩を肯定した。私がその場で言えばよかったことは置いといて彼女の勘違いに身悶えている。
ほむほむプレイの被害者が誕生してしまったわね……まあいいか。
「それよりも気になるのは私がイレギュラーなんて呼ばれてる事ですよ。風先輩は何か知りませんか?」
「ハーッ…ハーッ………ごめん、アタシも初めて聞いたわ。大赦からは何も言われてないし…」
「何か変だったよね? 名前の事以外にもほむらちゃんに不信感を持っていた感じだったし」
「……大赦に聞いてみる。ちょっと待ってて」
風先輩がスマホを取り出し大赦にメールを送る。バーテックスが現れた事、三好夏凜という勇者が乱入した事、その勇者が暁美ほむらをイレギュラーの勇者だと言った事を。
しばらくすると大赦から通知が入る。みんなが息を呑み、風先輩がその通知を読み上げる。
「……勇者、暁美ほむらが使用するシステムは元は勇者システムの失敗作である。他の勇者と比べ類を見ない極めて特異な力を宿すものの、それ故に使いこなせる素質を持つ者はいない。適性値が他の誰よりも優れている勇者、結城友奈でさえ100%不可能だという結果が出ている。そのためこのシステムは失敗作として記録ごと抹消される筈だった。
しかしただ一人、このシステムに適合する者が特定される。その者こそが暁美ほむらである。彼女は勇者としての素質は確かに備わっているものの、他の素質を持つ者と比べるとその値は著しく少ない。勇者、犬吠埼風の半分にも満たない。にも関わらず、失敗作の烙印を押された勇者システムの適合値が異常な数値を叩き出した。何故このような結果になるのかは不明の一言に尽きる。勇者として劣等と判断されていた者が、使える者はいないと判断されていた強大なシステムを使いこなせるというのは明らかな異常に他ならない。
これらのことから大赦内では、暁美ほむらを異質な勇者、イレギュラーと捉える者も少なくない。
……ふざけんじゃないわよ。ほむらに得体の知れない勇者システムを使わせていたって言うの…!」
読み上げた風先輩は怒りを露わにしていた。他のみんなも明らかな戸惑いを見せている。この通知の中で異質だの異常だの危険極まりない言葉が多様されていた。そして私の勇者としての素質についても他よりも劣るとも。
みんなが抱いた感情は「不安」だ。もしこの異質なシステムとやらのせいで私の身に何かが起こってしまうのではないかという不安。
「……ほむら、やっぱりあんたは戦わないで」
「……私に何か異常な事が起こるかもしれないからですか?」
「そうよ!! 誰も使えないって曰く付きのシステムなんて…やっぱり時間停止なんて能力はおかしいものだったんじゃない!!」
確かに時間停止は世界そのものに対する力、それを軽々しく使えるなんてひょっとしたら何か裏があるのかもしれない。
でもそれはあくまでも、かもしれないという仮定にすぎない。
「私も嫌です! それに今までの戦いでほむらさんは充分活躍してくれたじゃないですか! 後は私達に任せてください!」
攻撃する手段は無くても四体のバーテックスを難なく封印できるようにサポートした。
でもたった四体だけだ。まだ三分の二近く残っている。
「護りたい人が後ろで支えてくれるだけでも力になると言ったのはほむらちゃんよ。お願いだから私達にあなたを護らせて…!」
間違い無く言ったわね。でもあなたは私以外にも他に絶対に護りたい存在がいるでしょう? その人にも私と同じ事が言えるのではないの?
言わないのは友奈を戦いの場でも護るつもりだからでしょう。だったら私だけ後ろで護るのは筋が合わないじゃない。戦いの場で私を護って護られなさいよ。
「これからのバーテックスは私達四人で何とかするよ。あの三好夏凜って子もいるし戦えない事は無いよ!」
「それには及ばないわ」
「「「「ほむら(ちゃん)(さん)!!」」」」
みんな揃って勝手な事ばかり……もしもの事に怯えて悲観的になりすぎなのよ。
私は暁美ほむらよ。大切な存在は何が何でも見捨てない。例え自身が出口の無い迷宮に閉じ込められようともね。
「みんなが戦いに行くのを黙って見ていろですって? 冗談じゃないわ。もしそれでみんなの身に何かがあれば私は何て後悔すればいいの? いたら助けられたかもしれないのに、自分の身に何かが起こる可能性があったから、我が身可愛さに戦いを放棄した自分を許せると思うの?」
「それは……」
「もちろんみんなが私を心配して言ってくれてるのは分かっている。だけど私だってみんなの事を心配しているんだって忘れないで」
勇者部六箇条、家族や友達を大切に。勇者部に入ったからこそ繋がり合った絆なんだ。私はそれを決して失いたくない。
「そもそも異質な勇者システムといえども私には使いこなせると書いてあったんじゃない。怪しい事に変わりないけど大赦からは問題無いと判定されているのよ」
「……本当に大丈夫なの…? 今までにも何も異常は無い?」
「あれば真っ先に伝えてるわよ。悩んだら相談、でしょ?」
「……判ったわよ。でも絶対に無理はしないで。あんたの身に何かあればアタシ達は……」
「その言葉、そっくりそのまま返すわ」
「ほむらちゃん!」
「きゃっ! 友奈…?」
「絶対にいなくなったりしないで……いつまでも一緒だからね…!」
「……ええ。当たり前よ」
思い掛けない私の勇者脱退の話も無事に収束する。少し焦ったけれども、やっぱり私は彼女達に大切に想われていたのだと実感した。
ええ、だからこそ私は勇者として戦うのよ。大好きなみんなとこれからももっと一緒にいるために。
「ふ~ん、暁美ほむらさんの勇者システムについて教えちゃったんだ~」
「特別秘密にする事ではないと判断した上での行動です。事実彼女に害を成す可能性はありません」
「………嘘つき。どうせ大事な内容は伝えていないんでしょ」
「……あの勇者システムは全く以て謎のままです。有り体に伝えるわけにもいきません」
「……一体何なんだろうね、私の御先祖様が家宝にしてまで隠し持っていた勇者システムだなんて…」
「ん? あれ? 追記ってある」
「えっ!? まさかまだほむらさんの勇者システムについて書かれてるんじゃ…」
「うんにゃ、違うっぽい……はあ!?」
「何が書いてあったんですか!?」
「もしやバーテックスの出現についての予測とか?」
「……明日あの三好夏凜って子がウチに転入してくるみたい…」
「「「「へ?」」」」