ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
あと、今までバーテックスを無意識に「~型」ではなく「~座」と書いていた事をお詫び申し上げます。
「夏凜ちゃんおはよう!」
「結城友奈………フンッ…」
「夏凜ちゃん昨日の宿題解った? 私ちょっと自信なくて~!」
「……当たり前よ」
「速ーい! 夏凜ちゃん! みんなビックリしてるよ、すっごいね~って!」
「……勇者はね、すっごくないと世界を救えないのよ」
「夏凜ちゃん! 一緒にお弁当食べよ♪」
「あんた今日一日一体何なのよ!」
「あ、やっと聞いた」
今日一日友奈と三好さんの様子を観察していていたがようやく指摘が入ったようだ。朝から何かがある度どころか何もなくても話しかける友奈をここまで怒らなかったのは逆に凄い事なのでは…?
けど彼女がここまで友奈をぞんざいに扱わなかったのも多少は想定内である。私の予想だと三好さんは押しに弱い。友奈に入部を迫られた時に呆気なく戸惑っていたり、入部を決めた後の友奈の頑張ろうという応援の言葉に顔を少し赤らめていたから多分そうじゃないかしら。
詰まる所その原因は彼女のこれまでの対人関係によるものではないか……私はそう考えた。彼女、三好夏凜には心許せる友人がいない。それ故に同じ年頃の私達との距離感が掴みきれずにいるのでは……と。
勿論これは私の勝手な想像、妄想と言ってもいい。私は三好夏凜ではないのだし、彼女の素性も考えも何も知らないに等しいのだから。
だけど彼女が私の思った三好夏凜像に近いのであれば話は早い。押しに弱いという弱点を狙い撃ちにして距離感を狭めていけばいいのよ。
そのために私は吹き込んだのだ。初めて私の友達になってくれた
「ふえ? 何が?」
「何がってこっちのセリフよ! 朝からずっとしつこく付きまとってどういうつもりなのよ!」
「あのね、私夏凜ちゃんとたくさんお話したかったんだ~!」
「はぁあ!? 意味が分からないわよ! 別にあんたと話すことなんか何もないでしょ!?」
「嫌…?」
「うっ…! ……別に嫌ってわけじゃ……」
ふっ、チョロいわね。あんなに否定したのにちょっと引く姿勢を見せれば気まずそうにお茶を濁す。
完成型を強調するあたり勇者になった誇りでもあるみたいだけど、自分自身の本当の気持ちと向き合えていないのよ、あの三好夏凜って子は。
「ねぇほむらちゃん、友奈ちゃん大丈夫かな? 三好さんに嫌われるようなことにならなければいいのだけど…」
「大丈夫よきっと。三好さんも悪い子ってわけでもないだろうし、それに…」
「それに?」
「あの子を好きになる人はいても、嫌う人なんていないわよ」
「……ふふっ、そうね。それが友奈ちゃんの凄いところだもの」
友奈のひたすらに前向きな性格にはいつだって助けられている。お気楽で馬鹿な所も数えたらキリがないけどそれすらも彼女の魅力なのだから。
東郷も私も友奈の温かさは充分身に沁みた。勇者部に入ってから大きくなった繋がりも始まりはこの三人だった。その三人が仲良くなったきっかけだって最初は友奈が生み出したものなのだ。
友奈には安心して私達の命だろうと託せるかもしれない。あの子は人の心を繋ぎ合わせる存在だ。例えはぐれ者の三好夏凜でも私達の輪に入れられる……私はそう信じている。
「あーもう、分かったわよ。一緒に食べればいいんでしょ…」
「本当に!? イヤッホーーー!!! ありがとう夏凜ちゃん!!」
「ああもう、はしゃぐな!! こっちが恥ずかしくなるじゃない!」
「東郷さーん! ほむらちゃーん! 夏凜ちゃんも誘ったよー!」
「なっ…! ちょ、その二人も一緒なの!?」
「それと風先輩と樹ちゃんも誘うんだ~。勇者部六人みんなで!」
「聞いてないわよ! ってこら! 引っ張るな!」
友奈らしいポジティブすぎる行動に東郷が微笑み、私もスマホを取り出してNARUKOで風先輩と樹ちゃんにメッセージを送る。返事はすぐに返ってきて二人とも快諾。彼女達も三好さんを受け入れる気でいるのだと思わず笑みがこぼれた。
◇◇◆◆◆
風先輩が部室の鍵を借りてきたから部室で弁当を食べる流れになる。ちょうど依頼についての話がしたかったらしく、その件もついでに話すみたいだ。
それよりもまずはご飯が先。弁当を取り出していただきますと声が揃うと風先輩が真っ先に私の弁当に気付いた。
「ん? ほむら、その弁当もしかして自分で作った?」
「ええ。よく分かりましたね」
「なんだか形がちょっとだけ崩れてるみたいだったからね。慣れてるお母さんが作るにしては珍しいミスだし」
「少し躊躇ってしまって失敗してしまいました。私も料理はまだまだです」
「へー、でもほむらちゃんのおかず美味しそう」
前に樹ちゃんとケーキを作ってからというもの、以前よりも料理をするようになっていた。あの時はいろいろあったけど大成功で幕を下ろしたが、みんなが幸せそうに食べてくれた事が嬉しくて樹ちゃんと二人で喜び合った。
その体験をしたからもっと料理が上達したいと思う事は別に不思議ではないはずだ。それに勇者部には風先輩と東郷という料理上手が二人もいる。彼女達を目標に頑張り続けるのも悪くはない。
「すごいなぁ、ほむらさんは。私ももっと料理を練習しようかな」
「……やるんだったら絶対に風先輩に見てもらいながらやってね? 絶対だからね? 一人じゃ駄目だからね? 風先輩も、いいですね?」
「どんだけ念を押すのよ……まぁ、それもそうか…」
……果たして樹ちゃんの料理が上達する日はくるのかしら? 先輩として応援するけどそうなる未来が見えない……。
「ねえねえ、ほむらちゃんの作ったお弁当ちょっと食べさせて?」
「ええいいわよ。好きなの持って行って」
「「「あっ、じゃあ私(アタシ)も」」」
「ちょ、あなた達ハイエナ!? 風先輩持っていきすぎです!」
友奈が私の弁当から出汁巻き卵を取っていった瞬間に他の三人が同時に残りをかっ攫っていった。特に風先輩の暴虐で彼女一人におかずの五分の三が略奪された。
食べるのはいいけど量は考えなさいよ! 私の食べる分がなくなるじゃない!
「まあまあ、アタシの弁当も食べていいから」
「私のもどうぞ。お姉ちゃんのと一緒ですけど」
「勿論私のもね。おかずの交換よ」
「……それじゃあ遠慮なく」
「ちょぉい!? アタシの弁当の白飯以外全部ぶんどった!?」
取られた分は奪い返す。ただし風先輩のだけは気持ち多めにいただいた。風先輩が抗議の声を上げるものの口に入れてしまえばこっちのものだ。
そりゃあ風先輩の料理はおいしいもの。普段は明るいけどサバサバしていてオヤジ臭い面が目立つが、伊達に女子力女子力と口癖になっているわけではない。家事全般や料理の事となれば本当に女子力が高いのよね……。
「ほ、ほむらさん、私には少し遠慮を……」
「分かっているわ。樹ちゃんは育ち盛りなんだからいっぱい食べないと。その分東郷から貰うから」
「こっちはたくさんあるから気にしないで食べていいわよ。はい、あーん♪」
「それはやらなくていいって…」
「それじゃあ私が、あーん♡」
「うふふ、友奈ちゃんったら」
「ほむらぁ! アタシのおかず返せー!」
「先に奪ったのは風先輩でしょう!」
お互い満更でもない笑顔でいつも通りのやり取り。否、この二人だけじゃなくて私達五人のいつも通りの平穏な日常の一部分だ。この面子が揃った時こそ馬鹿みたいに笑い合える心地良い一時なのだ。
「……あんた達、食べる時ぐらいは静かにしなさいっての」
和気あいあいとした空気に水をぶち撒いた自称完成型に私達の視線が集中する。彼女の手元にあるプラスチック製の使い捨ての容器に。
「……何よ全員して……交換しないわよ」
「いや、夏凜あんたそれコンビニ弁当じゃないの。栄養偏るわよ?」
一人だけコンビニ弁当を無言で食べていた三好さんに勇者部のオカンこと風先輩が指摘する。たまに食べるのであれば大丈夫だが、もしコンビニ弁当が毎日続くようであれば体を作る中学生という大事な時期なのに栄養が偏るせいで悪影響を及ぼしかねない。
「余計なお世話。私にはこれがあるからいいのよ」
「……にぼし?」
「ビタミン、ミネラル、カルシウム、タウリン、EPA、DHA……にぼしは完全食よ」
いつの間にやら手に取った袋からにぼしを取って食べていた。まぁ確かに栄養満点なのはその通りだろうけど、今日日にぼしを好んで食べる女子中学生なんて聞かないわよ……。
でも見事に一人だけ浮いてるわね……よし、押そう。
席を立って彼女のコンビニ弁当の上に少しだけ焦げ目の付いた出汁巻き卵を乗っける。「はぁ!?」と聞こえたけど無視すると、続けざまに友奈もちくわの磯辺揚げを置いていった。
「な、何なのよ! 交換しないって言ったでしょ!」
「いいから食べなさい。せっかくあなたにも喜んで貰いたくて作ったんだから」
「なあっ…!!? なんで私も数に入れてんのよ!!?」
……半分嘘だ。自分で作った理由は料理の練習を兼ねて……みんなにあげるつもりで作ったわけじゃない。けれどもおかずを交換する事になれば、その時には美味しいと喜んでもらいたいという願望はあったけど。
取り敢えずは彼女のために作った事にしておけば拒絶はしにくいでしょう。友奈も便乗してくれたからますます。
「私は自分で作ったわけじゃないけどこの磯辺揚げとっても美味しかったから、夏凜ちゃんも食べて食べて!」
「私の煮物もどうぞ。たくさんあるので是非」
「むむむ! 後輩達がお弁当で新入部員を歓迎とな? ええい、持ってけアタシの白飯ー!」
「お姉ちゃん、ご飯だけはちょっと……私からも、ハンバーグどうぞ。これお姉ちゃんが作ったんですよ」
「ちょちょちょあ、あんた等!?」
見る見るうちにコンビニ弁当の上に積み重なるおかず(ほぼ煮物、白飯含む)に慌てふためく様を露わにする。まさか三好さんも五人全員におかずを分け与えられるとは思わなかっただろう。
こんなにもお人好しで真っ直ぐな意思を持っているからこその勇者部なのだ。変だとか珍しいだとかいろんな人にも言われるし私自身もそうだと思っているけど、誰もが気に入ってくれた大切な存在に違いない。
「勝手に人の弁当を増量するとか…! 分かったわよ! 食べりゃあいいんでしょ! ったく…!」
勇者部への勧誘もお昼の誘いも、文句を言いながらもちゃんと受け取るのは彼女の良い所ね。絵に描いたような素晴らしいツンデレ反応なこと。
ただこの様に親切にされたことが無いのか、表情はやや困惑気味だ。私の出汁巻き卵を箸で掴むとその表情のまま口にして咀嚼する。
「どうかしら、三好さん?」
「…………まあまあ…」
「まあまあ?」
「……まあまあ、その……美味しいんじゃないの…」
その瞬間、全員の体が自然に動いて喜びを分かち合うハイタッチ。
デレたのだ。三好さんが嫌っている筈の私の出汁巻き卵を食べて美味しいって少し顔を赤くしてデレたのだ。これは私の料理としても三好さんのこれからとしても記念すべき一歩だわ!
「な、なによ……大袈裟ね…」
「夏凜ちゃん、もっと食べていいからね! はい、あーん♪」
「ちょぉっ!!? 自分で食べられるっての!」
「次は煮物を食べてみてください。南瓜も大根も味がしっかり染み込んでますよ」
「あんたのその煮物推しは一体何なの!?」
「夏凜だってにぼし推してたじゃない。あっ、これ、食べてみると案外イケるかも?」
「人のにぼしを盗るんじゃないわよ!」
「……ん、確かに悪くはないわね…」
「人の話を聞きなさいっての! あんたまで勝手に食うな!」
「えっと、私もにぼしをいただいてもいいですか?」
「あーーもう、どいつもこいつも……! もう勝手にしろーーっ!!」
部室に絶叫が木霊する。それは勇者なんていう過酷な御役目を課せられた者とは思えないほど愉快なもので、まだ彼女は納得はしないだろうけど確かに心の距離感は近付いたのだろう。
「友奈」
「うん、なに?」
「今度の日曜…楽しみね」
「うん!」
三好夏凜と心を通わせるようになる時まであと少し。その時彼女は一体どう変わるんでしょうね。