ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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 前後編のつもりでしたが相も変わらず中身を詰め込みすぎた結果、想定外のボリュームで中編ができてしまいました。
 本編の執筆ももうしばらくだけお待ちを…!


「ここでしか得られないもの」

 丸亀城には現在私も含めて八人の子供達がいる。あの事件の後大社が丸亀城を管理するようになり、そこを勇者の通う学校にしたとのことだ。

 ……正直何で丸亀城なんだろうって思う。勇者の存在を世間から隠す必要があるみたいだけど、だからって歴史的価値のある凄い建物をわざわざ学校にするなんて……。しかもちょうど今も建築家の人達が来ては、城内を改築工事して学校として過ごしやすくしてるし……私が生まれた時から地元の観光地として見慣れたお城がそんな風になって、なんだか変な違和感しか感じない……。

 

 ……違う違う、今は丸亀城の事じゃなくて、そこに通っている子供達についての話が大事だ。ここは神様に選ばれたバーテックスに対抗できる存在、勇者の通う学校で、四国中の勇者がここに集まっている。

 それが私、乃木さん、高嶋さん、土居さん、伊予島さん、郡さんの計六人……それじゃあ残りの二人は、それが勇者を支える巫女の二人だった。

 巫女とは勇者と同じで神様に選ばれたもう一つの存在。勇者が誕生した時、その近くにいる才能のある少女もまた巫女としての力が現れる。勇者と違っていることはバーテックスと戦える力は無いけれど、神様の声を聞くことができる。人々を導く神様と唯一繋がれる存在で、神様の力を宿す勇者達の導き手になれるのが巫女である。

 

 だからこそ、その巫女が二人、私達勇者のお目付役として一緒に過ごすことになった。一人はまどか。バーテックスと戦うことになった私をほんの少しでも助けたいからと、巫女として一緒に戦う道を選んだ。

 もう一人が、上里ひなたさん……。あの乃木さんの昔からの幼馴染みで、あの惨劇の日、乃木さんと大勢の人々を島根から四国まで導いた巫女だ。お淑やかで礼儀正しい印象が強いけど、上里さんは普段のほとんどが乃木さんの隣にいる。苦手意識を自覚したのは最近だけど、私が自分から乃木さんに近づくのは……はい。

 

「……上里さんの…誕生日……!?」

「来月4日はひなたの誕生日なんだ! あいつが望むことをしてやりたいのだが、私だけでは力不足なんだ!」

 

 来月4日って、10月4日……まどかの誕生日の次の日……あ、開いた口が塞がらない……。乃木さんからはさっきの授業態度を咎められると思ったのに、まさか頼み事をされるなんて……。しかもまどかの誕生日の事でものすごく悩んでいる私に対して別の人の誕生日についての頼み事だなんて……。

 

 ……というかどうして乃木さんは私なんかにこの事を…? 私がこの人に良く思われていないのは昨日の出来事で明らかなのに……。私もこの人が苦手なのに……。

 

「………す、すみません、無理です……! やっぱり他の人に…」

「そんな事を言わずに頼む! 世界がバーテックスに蹂躙されて間もない……ひなたは私達を気遣って表にこそ出さないが、精神的にも辛い思いはいくつもしてきたんだ。こんな世界だからこそ、私はひなたの一番の友として誕生日ぐらいひなたに心から笑っていてほしいんだ!」

「そ、それは…」

 

 それは私の考えと全く同じだった。まどかに心から笑っていてほしいから、そうなるのにふさわしい誕生日にしたい。でも、私一人じゃ全く分からないで、どうしようもない。

 

「……言いたい事は……お気持ちはよく分かります。ただ、どうしても分からない……どうして私なんかに頼むんですか…?」

「あ、ああ……お前とお前の姉なら、ひなたが望む物の心当たりがあると思ったんだ」

「私と…まどかが…?」

「最初はもう片方の鹿目に声を掛けようとしたんだが、タイミングが合わずちょうどひなたと何やら話し合っていてな……それならばひとまずはお前にと探していた。というか何故こんな所にいるんだ? こんな何もない空き部屋なんかに一人で」

「あっ、いえ…! その……まだここに来て間もないので…さ、散策というか何というか……」

 

 乃木さんの言葉をごまかしながらも、この人が何を言いたいのか解らなくて首を傾げてしまう。

 最初はまどかに声を掛けるつもりだったって……それは多分行動として正しいことだと思う。まどかなら巫女の力を高める訓練を上里さんと一緒にやるみたいだから、あの二人はそこそこ親しい間柄だって知っているから。ただ一方で、私と上里さんはまだ自己紹介や軽い挨拶くらいしかできていない。

 普段から全く話さないただの同級生よりはマシという関係……それが私の抱いている上里さんのイメージだ。

 

「……申し訳ないんですけど、心当たりなんて……あ、ありません……。私、上里さんとはほとんど話さないし……」

「いいから聞いてくれ。確かに今まで事情を説明しなかったせいで混乱させてしまったのは悪かった。反省する……」

 

 ちゃんとした理由があるの……? 接点も無ければ多分嫌っている相手であるはずの私に必死になってまで頼む理由が……。

 

「……知っての通り、私とひなたは幼馴染みだ。物心つく前、私達の母親曰わく赤子の頃からよく一緒だったらしい」

「は、はぁ…」

「それもあってひなたは私の一番の友だ。どんな時でも私の側にいてくれた。私が困っているといつもひなたが助けてくれたんだ。情けない事だが、ひなたがいなくては私一人で生きていけないと思ってしまっている程、あいつの存在は私にとって特別なものなんだ。それで──」

 

 そして乃木さんはいかに自分が上里さんの幸せを望んでいるのか要点を絞って話してくれた。聞いてて二人ともずっとお互いを大切に想い続けて、支え続けているんだって伝わってくる。

 

「……素敵な関係です。とても、心が温かくなるような……」

「鹿目……ああ、ありがとう。そう言われると少し照れるが、やはり嬉しいものだ」

「いえ、本当に、憧れのような関係です…」

「ふふっ、こちらの寄宿舎に越して来てからも毎朝起こしてもらったり着替えの用意をしてくれたり、耳掻きもゲフンゲフン!じゃなかった…今のは言い間違えだ忘れてくれ」

 

 ……特別な友達……もしもいなくなってしまえば生きていけないと思えるほど大切な人……。この乃木さんと上里さんの関係が、私とまどかの関係と似ているかのような感じがした。いや、むしろお手本かもしれない………あれ?

 

「………耳掻き?」

「忘れろ!」

「……えっ…? 上里さんが乃木さんに耳掻きをしてくださるんですか?」

「掘り返さないでくれ!! とにかく! ひなたには日頃から感謝の念を抱かずにはいられない程いつも助けられている!」

 

 意外すぎるワードに思わず反応してしまう。強引に話題を逸らしていたけど………ええぇ…? いや別に悪いことなんかじゃないけど……ええぇ……??

 乃木さん、いつもキビキビとして真面目すぎる印象しか感じないのに、朝は上里さんに起こしてもらっているの、イメージと全然違いすぎる……。着替えの用意をしてもらっているのって、つまり上里さんが乃木さんの服とかを管理していたり把握してるってことだよね…?

 

 ……耳掻きって、やってもらったら確かに気持ちいいよね。力が抜けて顔の表情が緩みそうになるくらい。でもそれをお母さんとかじゃなくて、同じ小学5年生の上里さんにやってもらってるのって……しかもこの感じだと、上里さんのそれは一度や二度なんかで収まらない、日々の日課のような感覚で何度も何度も耳掻きを……。

 耳の穴なんて普通じゃ絶対に見ようともしない所を完全なる無防備で晒して、そこをゆっくり、優しく、カキカキ…カキカキ…と弄られて、言葉にする事も難しい蕩けるような絶妙な快感が走る……。

 

 ふとこの時、私の頭には上里さんに膝枕をされながら、穏やかに横になって耳掻きをされている乃木さんの姿を想像してしまい……。

 

 瞬間、私の脳裏には宇宙を漂うエイミーの映像が流された。

 

「…………………………」

「な、何なんだその顔は!? その目は!?」

「………はっ! す、すみません! 乃木さんが上里さんにはもの凄く甘えているのかもって思うと普段と違って意外すぎて……じゃなかった! 何でもないです!」

「うおい!? 何も誤魔化せてないぞ!」

「ごめんなさい! だって…だって…!」

「う、うぅぅ…! し、仕方ないだろう!? ひなたの耳掻きの腕前は天下一品なんだ! 日々の楽しみにして何が悪い!?」

「甘えてないって否定をしないんですか!?」

「うわああああっ!!! 終わりだこの話は終わり!!」

 

 顔どころか耳まで真っ赤にして叫ぶ乃木さん……。おかしい、こんなの私の知ってる乃木さんじゃない……。昨日私の事を容赦なく糾弾した人が、実は幼馴染みに付きっきりでお世話をされるような人だったなんて……。

 

「……ぜ、絶対に誰にも言うんじゃないぞ…! いいな、絶対にだぞ…! そしてお前も早く忘れるんだ…!」

「ぜ、善処します……」

 

 絶対に忘れられるとは思えない。あの生真面目で鬼のように厳しい、鉄の女という言葉が誰よりもピッタリ当てはまっている乃木さんが必死に頭を下げて頼み込んだり、顔を真っ赤にして慌てふためいたり、実は上里さんには毎日甘えていたり……夢?

 

「……それで、結局どこまで話したか……そうだ、鹿目にしか頼れない理由だったな」

「は、はい…」

「ひなたからの要望なんだ。ここでしか得られない、とある物が見たいと言ったんだ」

「……もう少し詳しく……」

 

「昨日の夜のことだ。お前達姉妹は実家からここに通っているが、他の者達は違う。大社が用意してくれた寄宿舎に住んでいるだろう。

 元は別々の部屋なんだが、私の部屋には日頃からよくひなたがいるんだ。会話があろうと無かろうとも関係なく、一緒の部屋で二人共に時間を過ごす。私にとっても、恐らくひなたにとっても何事にも代えられない、一番幸せで心穏やかにいられる時間だ。

 

 うん? 何だって? 耳掻きはその時にやってもらうのか……って、いい加減その話題から離れろ! ただの失言をそんなにからかって楽しいか!?

 ……違うだと? 普段の私の様子と違って幸せそうだと思った?

 ……普段の私は不幸せのように見えているのか。いや、別に不幸を感じているわけではないが……だが、おちおち弛んでいる暇はどこにもない。昨日も言ったが私達が甘い考えを持って怠惰に時間を浪費する事は断じて許されん。

 私は常に己を律し、訓練に励んでいる。遊び心地の意識など見せるわけがないだろう……だが、言われてみるとそうだな。少なくともひなたと一緒にいる時間はそれから解放されているように思える。お前の言う普段の私とやらとは違う一面で過ごしているというのは強ち間違いではないだろう。

 

 とにかく、昨日の夜だ……ひなたが自分の誕生日の事に触れてきたのが。正直な所、意外ではあった。あいつが自分から祝うよう促すなど今までに無かったんだ。とは言え私も忘れていたわけではない。言われなくても用意はまだだったが、当然ひなたの誕生日は祝うつもりでいたんだ。

 寧ろひなたが自分からリクエストするというなら尚更嬉しかった。何せあいつが一番望む誕生日にしてやれるんだ。失敗なんて無い、ひなたの笑顔を手に入れる方法が目の前に転がっていたようなものだと思った。

 

 その転がっている場所が私の手の届かない対岸の向こう側だと気付く前まではな。

 

『……ここでしか得られないもの?』

『はい。是非とも若葉ちゃんにお願いしたいのです♪』

『分かった。他ならぬひなたの誕生日だ。必ず用意してみせよう』

『ふふふっ、ありがとうございます』

『して、一体何が望みなんだ? 遠慮なく言ってくれ』

『ここでしか得られないものです』

『いや、だからそれが何なのか』

『ですから、()()()()()()()()()()()()です』

『………は?』

 

 ……そんな顔をするな鹿目。嘘など吐いていない。私だって今なお訳が解からないままなんだ。

 ひなたが私に誕生日にねだった物が抽象的どころか少しも要領を得ていない。何故その様な形すら定まっていない物をねだっているのか本当に理解できなかった。真面目に答えて欲しいとひなたを急かしたぐらいだ。

 

『ひなた? ひょっとしてふざけているのか…?』

『まさか。正真正銘、私が今最も目にしたいものです。それがあれば今後は今まで以上に笑顔で幸せになれる……心躍る時間が増えると確信していますから』

『そんなものがあるのか…!? 本当に…!?』

『なければおねだりなんてしていませんよ。実際大勢の方にとってはそうそう珍しい物でもありませんし』

『珍しくない……!? 馬鹿な……世上に疎いとこうも重要そうな存在に気付けないものなのか……』

 

 ひなたの口調はどこか楽しげであり、説明だけを聞けば実に素晴らしい物だ。少しどころではなく胡散臭さも感じてしまうが、もしそれが本当に笑顔で幸せになれる物だとすれば……。

 悲しみや怒り、絶望に包まれている今のこの世界で、まさしく最も必要とされるべき物ではないか。それをひなたに贈れるのだとすれば……これ以上ない最高の誕生日にすることができる。それ以降もあいつが笑っていられる時を再び呼び戻す事だって……だが……。

 

『それで、どこに行けば手に入る? それにいい加減正式な名前も教えてくれないか』

『ここにあります』

『はあっ!?』

『以前からここにありますよ。若葉ちゃんは見ていないだけで……いいえ、見ようともしていないだけで』

『なっ…! それはどういう……?』

 

 まるで哲学なんだ。あいつが欲しい物は「ここでしか得られないもの」……ここでしかの「ここ」とは一体何を指している? 私はどこに行って何を手に入れればいいんだ…?

 それにひなたからは何やら責めるような、呆れているかのような……きっとあれは、悲しんでいるかのような声を感じたんだ……。

 

『若葉ちゃんなら必ず見つけられると信じています。誕生日、心から楽しみにしていますね♪』

『お、おいっ…!?』

 

 そう言ってひなたは私の部屋から出て行った。自分の誕生日の事なのに、肝心な内容のほとんどを教えないまま……。

 名前も解らない、存在すら最早完全に胡散臭く思っている。しかし、あのひなたが望んでいる……それは私にとって何をしてでも叶えてやりたい願いである。例え全く知らない、存在が疑わしい物であっても、私が否定して諦めていい理由には決してならない。

 

 それからというもの寝る間を惜しんで考えた。しかし必死になって考えても思い浮かばず、携帯でそれらしき物を調べようにもひなたからの意味深なヒントでは解らず終いだった。

 全くの無駄に終わり、このままでは駄目だと今朝もう一度ひなたに頼んだんだ。意地悪しないで答えを教えて欲しいと……それなのに……。

 

『教える事はできなくはないのですが、それでは意味がないんです。若葉ちゃんが自分で答えを見つけ出さないといけないものなんです』

 

 ひなたは教えてくれなかった……。何かやむを得ない理由があるみたいだったが、結局私の悩みは振り出しに戻ってしまった。

 だがそこで、ひなたはとんでもない発言を残したんだ。それはひなたにできる、唯一のヒントのつもりだったのだ。

 

『……一つ言い忘れていました。私は初めから、若葉ちゃんお一人の力だけで見つけられるとは全く思っていません』

『……えっ?』

『誰かに協力をお願いするのが良いかもしれません。例えば……現地の方とか』

『………それは……つまり……』

 

 

 ひなたが望む物、それは「ここでしか得られないもの」だ。現地という言葉で「ここ」とやらはこの街……つまり、丸亀市を指しているのではと思い付いた。

 

 丸亀市の人間……私が知っているのは二人だけ。鹿目まどかと鹿目ほむら、お前達だけだ。お前達姉妹の力を借りる事、それがひなたが示してくれた道標だったんだ。

 

 これは私とひなたの問題だった。私があいつとの友情に報いたい、あいつの誕生日を心からの笑顔で飾りたいという想いから始まった。他の者の力を借りるなど全く思いもしなかったし、それでは意味がないとすら無意識の内に考えていただろう。

 

 だが、そのヒントを受け取ってからも時間の感覚が曖昧になりかけるほど必死で考えた。無理だった。私一人では、あいつが望むものを得ることはできないと確信してしまった……だから!」

 

 真っ直ぐ、私と乃木さんの視線がぶつかる。どこか頼りない、分からない事に対する不安が滲んでいる瞳だけど、それでいて綺麗に澄んで光っている。その光には確かで……確かで……。

 

「頼む! この通りだ!」

 

 ……正直なところ、私にも解らないことは多すぎる。上里さんが何を望んでいるのか、上里さんがどうして私とまどかに協力を頼めばいいと考えたのか……だってそもそもの話、私にも全く心当たりが無いのだから。

 

 それにこの人が苦手だって考えは変わらないまま。できるだけ関わりたくないという気持ちも、全然そのまま……。

 

 だけど、それでも、こんなに必死になってお願いをする乃木さんの頼みを断るのは……違う。だって、とっても熱い想いが胸に響いたから。

 

「……わかりました。お手伝い、します…!」

「鹿目…!」

 

 私の口は自然にその言葉を紡いでいた。ほんの一瞬だけ、自分は何を言ってるんだろうって発言を疑問に思ったけど、不安げから一変安堵した表情になった乃木さんを見たら嫌な気持ちには全く……。

 

 ……あれ、ちょっと待って……? 丸亀市にあるもの…………一体何のことを言ってるんだろう……?

 確かに私は丸亀市の人間だ。生まれも育ちもこの街で……だけど私、昔は病弱……。今は勇者の力が宿った影響で長年の病気は無くなって、肉体も体力はこれからしっかり付けていかないといけないけど健康体になっているけど……。

 でも病弱だった頃の私は、この丸亀市で楽しかった思い出とか、この街の誇るものとか、そういったものとは全く関われてない。パパとママが一緒に居てくれる時間が私の全てで……。

 

 結局私も上里さんが言ってる物が解らないままだよ……? それはこれから乃木さんと一緒に考えるのは良いとして、ただ上里さんの誕生日の前にはまどかの誕生日がある。

 上里さんが欲しい物だけじゃなくて、まどかへの贈り物も見つけないといけないけど、私にはそれの当てが全く無いままで、それどころかこれからの時間は乃木さんへの協力で間違いなく少なくなる……ってことは……このままじゃ絶対まどかへの贈り物を用意できないままじゃない!?

 

「そ、その代わり! こっちからもお願いがあります! 乃木さんもまどかの誕生日プレゼントを一緒に考えてください!」

「………ん?」

 

 考え無しで了承してしまった事を早速後悔しかけながらも、どうしてもやっぱり無理ですなんて言えるわけもなくて、言いたくもなくて、咄嗟に思い付いたものがこれだった。

 私一人では答えが解らないけど、もう一人乃木さんが意見を出してくれたらなんとかなるかもしれないって……そんな事は解らないままの乃木さんは何やら固まっている。突然私が言ったことの意味が理解できていないみたいで。

 

「……もう片方の鹿目の誕生日プレゼント? 今話しているのはひなたの誕生日のことだが……」

「その……前日がまどかの誕生日なんです。10月3日……」

「ええっ!!?」

 

 目の前で飛び跳ねるんじゃないかってぐらいの驚きのリアクションをする彼女はさっきの私と完全に同じように見えた。誕生日の事で悩んでいる中、別の人の誕生日の悩み事を共有させられるなんて、普通無いもんね……。

 

「前日とは……な、何という偶然……。そうか、もう片方の鹿目も……ややこしいな。この際だ、二人とも名前で呼ばせてもらうぞ、ほむら」

「え……あ、はい……」

 

 そしてサラッと下の名前で呼んでくるなんて反応に困る。苦手な人にこれからは常に「ほむら」と呼ばれるのか……。

 ……まあ、高嶋さんの時程の戸惑いは無いかな…? 気が付けば「ホムちゃん」なんてあだ名で呼ばれていて、断る間もなく定着していたから……。

 

「うむ、まどかも今度誕生日なのか。めでたい事だが……うん? という事は……ほむらも誕生日ではないか!?」

「えっ? 違いますけど……」

「え?」

「え?」

 

 何故かいきなり見当違いの事を言い出す乃木さん。私の誕生日はここの人達には教えてないし、それも1月であってまだまだ先の話。どうしてそんな……まさかとは思うけど……。

 

「……えっと、乃木さんもしかして、私とまどかが双子だって勘違いして……」

「違うのか…?」

 

 思わず頭を押さえ込む。姉妹だからっていくらそんな短絡的に……。私とまどか、全然似てないのに……。

 

「養子です、私……。他の鹿目家の人達と血の繋がりはありません」

「なんと!?」

「あの……全く似てないと思うんですけど…? 私とまどか……」

「……いや……何と言うか、確かに姉妹にしては似てないと思ってはいたんだ。だが面と向かってその事を指摘するのは流石に失礼かと思ってな……」

「……土居さんには初日に言われましたけど……」

「一緒にしてくれるな。私は乃木家の者として常に礼儀を重んじ、絶やさず空気を読める人間だ」

「………………」

「どうしてそこで目を逸らす?」

 

 いや、だって……その自信は一体どこから……?

 

 ……なんとなく解ったかもしれない。この人は確かに超が付くほど真面目な人だけど、どこか物凄く天然で単純だ。いい意味でも悪い意味でも、とにかく頑固すぎる人なんだ。

 

「……ということはまさか……知らなかったのは私だけ……」

「多分……。土居さんに言われた時には確か伊予島さんも一緒でしたし、上里さんもまどかが言ってるかも……。高嶋さんと郡さんは……」

 

 ……何でだろう、郡さんはきっと大丈夫だと思うけど、高嶋さんも乃木さんと同じ勘違いをしてそう……。だってあの人、未だに郡さんの名前すら『(ぐん) 千景』さんって思ってるし……。私と乃木さんの言う『(こおり)さん』を逆に『氷さん』的なニックネームか何かと思ってそう……。

 

「……ひとまずこの話は置いておきませんか…? それよりも……」

「あ、ああ。ひなただけでなく、まどかの誕生日もだな……しかしそうなると、まどかにひなたの事を頼むのはいけない気がしてきたぞ……」

「主役ですからね……。まどかと上里さんは、誕生日の……」

「ああ。祝われる側の人間なのに、私が不出来なばかりに手を煩わせるのは……」

 

 元々乃木さんは私だけじゃなくてまどかにも上里さんの件の協力を頼むつもりだった。ところがそのまどかも誕生日を控えていたのは予想外だった。乃木さんの考えでは私達三人で上里さんの欲しがってる物を見つけるはずだったのに、現実は私と二人で上里さんだけじゃなくまどかの物も見つけなくちゃいけない。計画が狂ってしまうのはいい気はしないだろうし……。

 

「そもそも私の協力は必要なのか? 正直言ってお前が養子だった事すら知らなかったように、まどかの事も知らない事の方が多い。お前の望むような力になれるかなど解らん。別にほむらだけで十分だと思うのだが?」

「……だと良かったんですが……乃木さんと同じ理由です。何を贈れば良いのか解らなくなって……。それに私だって、上里さんの事はほとんど知らないですし……」

 

 私は上里さんのことはよく知らないけど、乃木さんならよく知っている。乃木さんはまどかのことをよく知らないけど、私なら……付き合いの長さは長いとは言いにくいけど、思いは誰にも負けていない。

 私と乃木さんは共通して大切な人の誕生日を成功させたいと願っている。それなのに自分一人ではうまくいきそうになくて、二人で協力し合えばなんとかなるのかもしれない。

 

「……解った。お前がひなたのために力を借してくれると言ってくれるのなら、その恩に報いるために私もお前の望む力になろう」

「……ありがとうございます」

「なに、礼を言うのはこちらの方だ」

 

 乃木さんは笑ってそう言った。心から感謝しているような、見たことなんて無かった乃木さんの笑顔……。

 ……今まで私が見てきた乃木さんはどれも怖いと思えるものだった。常に睨んでいるようにこっちを見てくるし、無愛想なのに口を開けば容赦なく厳しい言葉が飛んでくる。

 相手が幼馴染みだとしても、誕生日のために必死になって他人にも全力で頭を下げて頼んでくるような人だったなんて、全く思いもしなかった。この人はきっと、厳しくて冷たいだけの人なんかじゃない……何だか少しだけそう感じるようになっていた。

 

「それはそうと早速教えてくれないか? ひなたが一体何を求めているのか」

「………すみません、解りません」

「………」

 

 貴重な乃木さんの笑顔が固まってしまった。

 

「……ああすまない、寝不足気味なせいか聞き間違えたようだ。もう一度言ってくれないか」

「………す、すみません……私にも、上里さんが欲しがっているものが解りません……」

「………なにぃぃいいいいいい!!?」

「ひいっ…!?」

 

 途端に丸亀城中に響き渡った叫び声に思わず竦み上がる。乃木さんが求めていたものとは真逆の事を言ってしまったせいで、単純に次の乃木さんが取る行動が解らなくて恐ろしかったのもある。

 そして乃木さんはさっきまでの笑顔が完全にどこかに行っちゃって、眉間に皺を寄せた怖い形相で肩を掴んで……怖い怖い怖い怖い!!!

 

「解りませんってどういうことだ!? ひなたは暗にではあったがほむらなら力になれると言ったんだぞ!?」

「だ、だからって……! 本当に知らないんです……!」

「ここでしか得られない物で、ここはほむらが住んでいる地元なんだろう!?」

「そんなこと言われても……!」

 

 確かに私は丸亀市の普通の人よりこの街の思い入れは薄いけど、10年間生きていた故郷であることに違いない。地元だからこそ、そんな曖昧な存在なんて知らないってハッキリ言えるのに! 

 

「そもそも上里さんは誰かに協力してもらったらいいって言ったのであって、私が答えを知っているとは一言も言ってないんじゃないんですか…!?」

「…っ! それは…そうだが……!」

「現地の人って言ったのも、ここの土地勘がある人の方が協力してくれたら街中で探しやすいって意味だったのでは……!」

「………あ……。……すまない」

 

 上里さんが私達ならと言った理由としてならこっちの方が自然だと思う。現に私には全く心当たりが無いわけだし。

 言われてみればといった感じで、自分が事を急いていたと気づいた様子の乃木さんもゆっくり手を離す。ただ、てっきり私なら心当たりがあると思い込んでいた訳だから、そうでないと解ってしまった乃木さんは明らかに落胆していた。

 

「ふふ……もうだめかもしれん……。手がかり無しであんな訳のわからない物をどうやって見つけろと言うんだ……」

「そ、そんなに落ち込まないでください……! 私も一緒に考えますから……!」

「そ、そうだったな。ほむらは土地勘があるんだったな……」

「あまり外には出歩けなかったんですけど、この辺りの案内くらいならできますから…! 美味しいうどん屋さんとか知ってます…!」

「うどん屋だと!?」

「お嫌いでしたか…!?」

「そんなわけないだろう!? 私もひなたも一番の好物だ! 是非とも教えてくれないか!」

「……乃木さん……あなたは……」

 

 軽くうどん屋さんの話題を出した途端にもの凄い食い付きを……。あまりにも凄まじい剣幕に一瞬うどんが嫌いなのかと思ったけど、目をキラキラさせて好奇心を抑えられていないこの反応……うどん好きの人間のものだ…!

 忘れていた……乃木さんと上里さんの出身は私と同じ、香川県だった……!

 

「ほむら、まさかお前……!」

「はい…!」

 

 私はうどんが大好きだ。一番好きな食べ物がうどんだ。病気で身体がきつくて全く食欲が無い時でもうどんだけなら食べられた。優しい味と柔らかいのに歯ごたえが凄い麺がスルスルと喉を通って、お腹の中から溢れ出る幸福感がたまらない。さらには色々な具材が乗っかかることでその美味しさは千変万化に拡大する。

 香川県民の血と汗と努力の結晶、いわゆるソウルフードのうどんは最高の料理だ。その奥深い、一種の芸術品とまで言われるうどんを乃木さんと上里さんは一番の好物だと言った……。

 

 乃木さんと上里さんは……仲間だ。

 

「まさかこんな所で我々の同士に巡り会えるとは……!」

「これも香川県の導き……うどんの導きなんですね」

 

 どちらともなく、私達は互いに手を前に出して堅い握手を交わした。今まで乃木さんの事を怖いとか苦手とか思っていたけど、この人も私と同じうどん好きだと知るとどこかホッと安心できる。

 

「──手打ちうどんの店!? 今や香川ですらお目にかかるのが難しくなってしまったというのにか!?」

「はい! 本物の純手打ちにも関わらず、お値段も一杯350円という小学生でも手をつけやすいお値段なんです! もちろん味も歯ごたえも喉越しも食感も、何もかも一級品であることは保証します!」

「おお……おおお……!」

 

 うどんが好きな人に悪い人はいない。気がつけば私と乃木さんはうどんの話に夢中になっていた。私が小さい頃からよく連れて行ってもらったうどん屋さんについて乃木さんに話し、彼女にとって未知のうどんを知らしめると期待に胸を膨らませる。

 

「──私は王道のきつねうどんだな。つゆの染み込んだ油揚げと麺の織り成す調和には感嘆の声しか出ない。ほむらの一推しは何だ?」

「……私はしっぽくうどんが……母がよく作ってくれたんです」

「ほう、香川県の誇る郷土料理とはよく解っているじゃないか! しっぽくうどんをよく作ってくれた、か……大変立派な良い母親を持ったのだな」

「………っ」

「親孝行を大切にせねばな。私は今は両親と離れて暮らしているから母の作るしっぽくうどんは食べられないから羨ましいぞ。そうだ、今度ひなたに作ってくれるよう頼んでみよう」

「………!?」

「あっ、いた! ほむらちゃん、若葉ちゃん!」

 

 ……そんな時、私達がいるこの空き部屋に慌てた様子のまどかが飛び込んできた。それにまどかの隣には、上里さんも……。

 

「ひなた? それにまどかも……」

「あれ? 若葉ちゃん、今まどかって言わなかった?」

「二人とも名字で呼ぶとややこしいからな。まどかとほむら、名前で呼ぶことにしたのだが、構わないな?」

「……うん、わたしは全然いいよ。むしろそっちの方が嬉しいし」

「お二人とも、こんな所で何をなさっておられたのですか?」

「む? ああ、ほむらと色々話していたんだ。それよりもひなた聞いてくれ! ほむらもうどんが好物と言ったんだ。この街の美味しい手打ちうどんの店を教えてくれてな!」

「あらまあ、それはそれは、ありがとうございますほむらさん。ところでお二人は、今は何時何分かお答えできますか?」

「「え?」」

 

 ふと感じ取ってしまった謎の威圧感、そして背筋が冷えるような嫌な予感。私と乃木さんは揃ってぎこちなく、お互いに引き攣った顔を見合わせた。

 ……私がこの空き部屋に逃げて、そこに乃木さんも来て、二人で色々な事を話して……体感的にもそれなりの時間が経っているんじゃないのかな……?

 私は授業が終わって次の授業までの休み時間の間乃木さんから隠れようとしたわけで……休み時間は10分しか……。

 

「……休み時間が終わって…どれぐらい…経った…?」

「……20分」

「20分!? そんなにか!?」

「だからわたし達が探してこいって言われたんだよ…!? 授業が始まるのも遅らせてまで…!」

「いくら待てども戻られる気配がありませんでしたからね……先生が目に見えて不機嫌になられていました。さて、これを聞いてお二人は何を思いますか?

「「あわわわわ……!」」

「あわわじゃないよ二人ともぉ……もう……。でも……うぇひひ、良かった。順調なんだね

 

 私と乃木さんは本能的に上里さんから溢れ出ている威圧感に震えるしかなかった。顔は笑っているのに目は全然そんなんじゃくて、ただただ恐ろしい何かを味わった。

 

 その場は他の皆さんを待たせっぱなしだから説教は後からって言われて……急いでみんなで教室に戻ったら先生にもの凄く怒られて、土居さんが思わず「授業時間減らしてくれてサンキューな!」と言ってしまってついでに怒られていた。

 

 そしてペナルティーで追加の宿題が……私も乃木さんも言い訳ができないくらい悪かったんだけど、ただでさえ少ない自由に使える時間がもっと少なくなってしまった……ハァ……。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 夕方、丸亀城の教室にはわたしとまどかだけが残っていた。ほんのついさっきまでは乃木さんと上里さんもいたんだけど、要件は済んだから寄宿舎の方に帰っていった。まどかと上里さんへのプレゼント今の私達では街中に贈り物を探しに行くには肉体的にも精神的にも厳しいから、明日に改めることに。

 

「うぅぅ……まだ足が痺れたままだよぉ……」

「ごめんねほむらちゃん、こればっかりはわたしも庇えなくて……」

 

 特に、私は未だに立ち上がれないから……。足を崩して痺れが抜けるのを待つことしかできなくて……。

 

 この日の訓練の内容も普段と変わらない。強いて言えば乃木さんが上里さんの誕生日の事とか訓練後の事とか考えていたからかもしれないけど、あまりキツい事を言わなかったくらいかな……。

 訓練後、私と乃木さんは巫女の訓練を早めに切り上げた上里さんに宣言通りの説教をされるはめに……。ずっと正座をさせられて、乃木さんの時とは違う形で心に突き刺さるような言葉を……足が痺れて体勢がきつくなると怖い笑顔で「聞いていますか?」と訊ねてくるの……あぁダメ、思い返すだけでまた泣きそうになっちゃう……。

 

「でもわたしだって、授業時間を忘れてまで誕生日のことを考えられてもそれは嬉しくないよ……」

「……うん、ごめんね。次からは気をつける……って、まどか? 私達、誕生日のことを考えていたなんて言ったっけ?」

「えっ? 言ってはないけど、ひなたちゃんが絶対わたし達の誕生日のことだろうって……違った?」

「ううん、合ってる……じゃあまどかも上里さんの誕生日のことを知ってるの?」

「えへへ、わたしの誕生日の次の日なんだよね。同じ巫女で、誕生日も一日しか違わなくて、親近感感じてるんだ♪」

 

 はにかみながらそう言うまどかから、やっぱり二人は良い関係ができているんだって解る。まどかと上里さんは同じ立場、同じ役目を持っているし、まどかの優しくて真っ直ぐな性格と上里さんの誠実な性格は相性が良かったのかも。

 

 乃木さんも、最初はまどかに声を掛けるつもりだったけど上里さんと二人で話し合っていたから私を探してたって言っていた。私はそれを見てないけど、乃木さんが声を掛けるのを躊躇うぐらい仲良く話していたのかな?

 引っ越す前にいた友達を失ってしまったまどかにこうして新しい友達ができたんだって思うと、良かったねという想いしか出てこない。

 

「ねえほむらちゃん、若葉ちゃんのこと、正直どう思う?」

「えっ? どうしたの急に?」

「ちょっと気になって……時間忘れちゃうくらい話に熱中したってことは仲良くなれたのかなって」

 

 ……まどかと上里さんは仲良くなれて、私と乃木さんは……どうなんだろう?

 でも、昨日というか今朝までと比べてみれば、乃木さんのことを恐いって思う気持ちは薄くなってる気がする。むしろ上里さんのことを心から幸せそうに語ったり、うどんの話をしたり、二人っきりでいっぱい話した時は……なんだか楽しかったかも……ただ……。

 

「……乃木さんは良い人だって思うよ」

「ほんと!? やった」

「でも……正直なところ、乃木さんを友達としては見れないと思う」

「……え?」

 

 今ならハッキリ言える。乃木さんは真面目でとても厳しいけど、そこに悪意なんてものは少しも混じっていない。正々堂々の極みと言うべきか、曲がったことを決して許さない、何事においても正直すぎる善意の塊みたいな人だ。

 

 だからこそ、自分が他人を無意識に傷つけている事に一向に気づけない。善意で放った言葉が相手の地雷を思いっきり踏みつけても笑顔で笑っている。だって、それが悪い事だなんてあの人は全く思わないから。私が苦手な……気を配るという、相手の気持ちを考えようともしない人だから。

 

「良い人だよ、乃木さんは……だけど、あの人とずっと一緒にいるのは嫌だよ……」

「ほむらちゃん……」

「……私、何も言えないもん……。あんな事を言われても、我慢するしかないんだよ……」

 

 詳しく知らないんだとしても、少し考えれば解ることなのに……考えもしないであんな事を平気で言う人と仲良くなんて、なりたくない。

 

「……帰ろっか」

「……うん」

 

 私は乃木さんが苦手だ。それは今朝まではあの人が恐かったから。真面目だけど自分中心で他人を気遣わない人だから。

 

 今は恐いという気持ちこそ薄くなったけど、それのせいで今度はあの人に対してがっかりな気持ちが見え始めていた。




 この作品内では、若葉様及びひなた様は香川県出身であるものの、生まれ育った街は丸亀市ではないという設定です。原作では丸亀市の事に詳しかったですけど、3年間丸亀城暮らしですし、丸亀市出身とは言われてなかった……ですよね? どうだっけ?
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