ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
お気に入り登録してくださった方はもちろんのこと、感想をくださる方、評価を付けてくださる方、誤字報告をしてくださる方、ここすきを付けてくださる方をはじめとした、応援してくださる皆様に感無量であります。
今後もどうかこの作品を楽しんでいただけると嬉しいです。
春の勇者部活動と書かれた記事を神妙な目で見つめる友奈。特等席とも言えるべき頭の上に牛鬼が乗っている立ち姿も見慣れたものだ。
「うーーー…ん……この写真は…ここで!」
そして勢いよく持っていた写真を記事の空いているスペースに叩きつける。勢いのあまり牛鬼が落ちてしまったけど精霊故にそのままふわりと浮き上がる。
「今日も閲覧者数はバッチリね。あとは子猫の写真と学校の連絡先を載せて…」
東郷は勇者部のホームページの更新。今受けている子猫の飼い主探しの呼び掛けだが彼女の手際が良いおかげで順調にいきそうだ。向こうとは違って……
「あ~~も~~! ストーリーが思いつかーん! 夏凜何かいいアイデアある?」
風先輩は秋の文化祭でやる劇のストーリーの考案中。この前の夏凜の誕生日に友奈の発言から劇をやるという事が決まったため早速製作に取りかかっていた。ただ何度もペンが止まったり、途中途中で唸り声を上げている事からかなり難航しているのは明らかである。
「急に話を振らないでよ。分からないわよそんなの」
「なによー、にぼしなんか食べてて、あんた今ヒマでしょー? 一緒に考えてよー。つか何で今にぼし貪ってんの?」
「健康に良いのよ」
「ふ~ん……こりゃ夏凜が“にぼっしー”て呼ばれるようになる日も遠くないわね」
「なによそのゆるキャラみたいなあだ名!?」
それからにぼっしーはさっきまでポスターを作っていたけどもう完成させたみたいだ。にぼしを食べていたところを風先輩に捕まっている。
「お待たせーにぼっしーちゃん! ポスター作ってくれてありがとう! 見せて見せて!」
「誰がにぼっしーだ!! ったく、これくらいできて当然よ」
「おおっ! 良くできてる!」
ぶつぶつ言いながらも渡したポスターは彼女らしくレイアウト全体が綺麗に整っており、友奈と東郷が感嘆の声を上げるほどで文句の付け所は無いと思える出来栄えだった。ある一点を除いて……。
「……えっと、妖怪?」
「猫よ!」
ポスターに描かれていたのは所々はみ出るほど乱雑に色付けされた荒々しそうな獣。可愛さの欠片もなく、多分このポスターを見た人は困惑し苦笑いを浮かべるだろう。これでは東郷の言う通り化け猫の類の妖怪にしか見えない。ひとまず彼女も風先輩と同じで絵のセンスは無い…と。
「いいから夏凜手伝ってよー。この際猫の手じゃなくてにぼしの手でもいいから借りたいんだからさー」
「にぼしに手なんかあるか! というか人をにぼしに例えるな!! 私じゃなくてほむらに頼めばいいじゃない」
「……悪いけど今忙しいの。にぼっしーがやって頂戴」
「そのあだ名定着させる気!?」
別に苦ではないのだが如何せん数が多い。この時期になると多くの生徒から期待されて、その上勇者部でこの作業をこなせられるのが私しかいないからこその問題なのだ。
「ほむらも毎度毎度大変よねぇ。期末テストの対策問題作るのって」
「作ること自体はもう慣れましたからそこまでは。ただ全教科全学年分ですので時間が掛かってしまうのが難点です」
テスト勉強期間が近付く頃になると解説付き対策問題の作成及び配布が私の主な仕事になる。重要な部分のピックアップはもちろんのこと、教師の出題パターンの統計からテストで出てきそうな問題を予測して作る。この対策問題さえきちんとやっておけば、テスト当日に高得点を取ることができると多くの生徒達から喜びの声が上がっている。
教師の仕事を奪っている気がしなくもないが、これだって人助けの範疇。それに成績向上で学校の評判も勇者部の評判も上がる、誰もが得をする解決策であるのだ。
「全教科全学年分ってあんた……どんな頭してんのよ…」
「1年生の頃から高校の内容もマスターしてるって言ってたよね、ほむらちゃん」
「前々から思ってたけどマジでやばたにえんよ。アタシにもその頭の良さ分けてほしいわ……」
「昔は勉強やストレス発散の運動しかやることがなかったのよ。あの頃はこんな形で役に立つなんて思わなかったわ……よし、はい東郷これ」
「うん? なにこ………」
「今作った英語の対策問題。そこにある問題は全部できるようにしておいて」
「お断りします」
今回も前途多難ね。どうやって東郷に英語を学習させるか……前は友奈を一日間妹にしていいという条件付きで何とか勉強させたけど、今回もそれが通用するか……
「………はぁ」
「ん? どしたの樹」
部室に樹ちゃんの溜め息が聞こえ、みんなが樹ちゃんの方を見る。樹ちゃんの前にはタロットカードが並べられており、私達にはよく分からないものの何らかの結果が出ていた。
「今度の音楽の歌のテスト、ちゃんとできるか占ってみたんです。そしたら……死神の正位置、意味は破滅、終局……」
「不吉な…」
「占いって当たるも八卦、当たらぬも八卦って言うしきっと大丈夫よ」
「こういうのってまた占えば全然違った結果がでるもんだよ」
「そうだといいけど…」
風先輩と友奈が励まして再度占われる。全員が注目する中、めくられたカードに描かれていたものは無情にも死神の絵。もう一回、死神……さらにその次、死神……
「はあぁぁ~~……」
「お、同じ絵柄が四回連続で出るなんてラッキーじゃないかな!? フォーカードって確か強い役だったし!」
「死神のフォーカード……」
「え、え~っと……」
樹ちゃんの占いはよく当たると評判だし、ここまで悲惨な結果だと悪い予感しかしない。落ち込む妹を見かねた風先輩が黒板の前に立つと、「今日の勇者部活動 樹を歌のテストで合格させる!」と書き込んだ。
「アタシ達勇者部は困っている人を助ける。もちろんそれは同じ勇者部員も一緒よ」
そんなこんなで始まった、樹ちゃんの歌のテスト対策。私も机に広げていた筆記用具やプリント類を片付けてその話し合いに参加する。問題作りは家でもできるし、ここでかわいい後輩を放っておく方がどうかしてる。今優先すべき事は樹ちゃんの方だ。
「歌が上手くなるのに適した方法があります」
「はい東郷言ってみ!」
「歌声でα波を出せるようにするのです。良い歌や音楽というものは大抵がα波で説明がつきますから」
「んなわけないでしょ!」
間髪入れずに東郷にツッコミをかます夏凜。東郷のシュールなボケにきちんと対応できている……夏凜の勇者部への加入はこんな形でも恩恵を与えているのね。これからは私達の心労が少し楽になりそうだ。
「期待してるわよ、夏凜」
「何の事かさっぱり分からないけど、さり気なく面倒事を押し付けなかった今? てか樹って歌うのが苦手なわけ?」
樹ちゃんの声は綺麗で可愛らしいから歌が下手だというイメージは掴みにくい。夏凜の疑問に私だけでなく友奈と東郷も同じように首を傾げていた。
「そんなことないわよ。一人で歌うと上手なのよね」
「その、誰かに見られていると思うと緊張してしまって……」
「確かにそういうプレッシャーを感じやすい人はいるわね」
樹ちゃんは引っ込み思案な性格だし、一人で人前に出るのに慣れていないから不安なのかも。
「だったら習うより慣れろ!だね。みんなでカラオケに行こうよ!」
「樹の特訓にもなるし気分転換にもなるしでいいじゃない。よーし、これより勇者部は作戦の第二段階へと移行する! カラオケ店に行くわよー!」
「あんたが行きたいだけじゃないでしょうね?」
「やーね、1から10まで全部樹のために決まってるじゃないの」
などと言いつつも行く途中でお菓子類を買い込んだあたり、劇のストーリーの考案の息抜きもある程度含まれていたはず。
◇◇◆◆◆
「イエーー! 聞いてくれてありがとー!!」
やはり息抜きがしたかったのか、真っ先に曲を入れた風先輩が歌い終える。まあ今更だし娯楽施設で楽しむなと言う方がおかしいわけで、今は樹ちゃんの克服が上手くいくよう楽しむ事が大事だろう。
「ねえねえ夏凜ちゃん、この歌知ってる?」
「……一応知ってるけど」
「じゃあ一緒に歌おう!」
「いやいいわよ。別に楽しむためにここに来たんじゃないんだから」
「そうよね~? アタシの後に歌ったんじゃ……ゴ・メ・ン・ネ~♪」
ニヤニヤした顔で指差したモニターの画面には先程の風先輩の92点という好記録で評価コメントも良いことしか書かれていない。これをわざわざ夏凜に見せ付けたということは明らかに挑発の意味しか持ち合わせていないわけで……
「……友奈、マイクを寄越しなさい」
「へ?」
「早く!!」
「はっ、ハイィ!」
「チョロい…」
こうして夏凜は友奈と二人デュエットでポップな歌を歌うことになったのだけど、挑発されて歌ったにしては楽しそうだ。夏凜も来た当初はピリピリしていたけど少しずつトゲが無くなっているのが分かる。カラオケなどの娯楽は積極的ではないものの、友奈と一緒に楽しげに歌える余裕ができたのは本当に良いことだ。
「夏凜ちゃん上手ー!」
「フッ、これぐらい当然よ」
風先輩と同じ92点を叩き出して得意気に言い放つ。三人共すごいけど、これは逆に樹ちゃんにプレッシャーを与えていないわよね?
「次は樹ちゃんだけど大丈夫?」
「は、はいっ…!」
端から見てもだいぶ緊張しているのが伝わってくる。マイクを手に取り緊張した様子のまま曲のイントロが流れ、歌詞の通りに歌い出した。
けれどもその声はかなり上擦ったり噛んだり音程を大きく外したり、樹ちゃんの綺麗な声が全然活かしきれていなかった。やはり人前だとまともに歌えなくなってしまうみたいで、その歌の間は失敗ばかりで終わってしまった。
「………はぁ…」
「やっぱり堅いかな」
「誰かに見られてると思ったらそれだけで…」
親しい人達の前ですら緊張してしまう以上、クラス全員が見てる状況で歌うのはもっと難しいはず。
樹ちゃんは普段は大人しくてあまり自分を表に出そうとしないけど、ここ一番では誰よりも強い意思を発揮できる充分に立派な子なのだ。何か切っ掛けがあれば緊張を跳ね除けられるとは思うけど……
……仕方ない。ここは一つ、私も恥ずかしいけど樹ちゃんのためにアレを解禁しよう。人前でただ歌うよりも恥ずかしい事ができる人がいればそれが励みになるのかもしれない。
『♪♩♬~』
「あ、私の入れた曲」
「「「「っ…!」」」」
「えっ、なに…!?」
荘厳なイントロから始まる音楽、そしてこれは東郷の選曲。新入部員の夏凜以外の私達四人が一糸乱れぬ流れるような起立からの敬礼、状況が呑み込めない夏凜はただ呆然とするだけだった。
「………ふぅ…」
「な、なに今のは…?」
「東郷さんが歌う時はいつもこんな感じだよ」
「次は是非夏凜ちゃんもやってね?」
東郷の軍歌も終わったし、次は私が選んだ曲でしょうね。鞄から例のキーアイテムを取り出して装着。いつかこんな日が訪れる時が来るかもしれないと思って、常に忍ばせてきた甲斐があるってものね。
「あっ、ほむらちゃんそれ久しぶりだね!」
「あの時のネコ耳!?」
「「「ぶーーっ!?」」」
「あー、あー、あ~、よし!」
「いやよし!じゃないわよ!!」
東郷と風先輩が前の時のように吹き出し、さらに今回は夏凜も加わって仰天した。声のトーンとキャラも切り替えた所でイントロが流れ出す。この曲はこの世界のカワイイ系アイドルグループの物で、そちらの要素をかなり詰め込んだ、わりと痛くて聴くだけでも恥ずかしくなるような曲であるのだが……。
「ほ、ほむらァ!! あんたもうそれをやるなって樹の時に言ったでしょーが!!」
「にゃあにゃあにゃあにゃあ♡」
「ニャアァァァァァァ!!!?」
「こ、今度こそほむらちゃんのこの姿を写真に収めないと……!」
「ゴロゴロにゃぁん♪ ぺろっぺろっみゃぁみゃぁ♪」
「ぬはっ……」
「ちょぉっ、風! 東郷!? ……目を開けたまま気を失ってる……何よこれ……何よこれーーー!!!」
「にゃあにゃあにゃあ♡」
「ほむらちゃんかわいいーー!! にゃあにゃあにゃあ♪」
「にゃあにゃあにゃあ♪」
「合いの手を入れてる場合!? 風と東郷がこんな事になってるのに!?」
「えーっと…たぶん大丈夫です。前もこうなりましたけど普通に起きてきたので…」
「いっぴきでにゃあ♪にひきでにゃあにゃあ♪さんひきでにゃあにゃあにゃ~ん♡」
「「にゃ~ん♪」」
「どうなってんのよこの空間はーーー!!」
「夏凜が騒ぐから100点取れなかったじゃない」
「うるさい!! あんたはもっと自分のキャラを守れ!!」
「……ぐうの音も出ないにゃん」
「やめろ!!」
「ほむらさん、どうしてまたネコ耳をやったんですか?」
「ほら、私が恥ずかしさに耐えながらネコ耳付けてカワイイ系の歌を歌う姿を見れば樹ちゃんの自信に繋がるかと思って」
「ほむらちゃん恥ずかしかったの? わりとノリノリだったような……」
「…………言われてみれば…」
「意味ないじゃない!!」
「たぶんだけど……」
その後は風先輩と東郷をやんわりと起こしてカラオケ再開。目が覚めた風先輩が頭を押さえながら「……とりあえずほむら……明日吊す…」と言っていたが、みんなで楽しい時間を過ごしていった。
◇◇◆◆◆
「まったくほむらのヤツめ! 自分がどれだけ恐ろしい武器を持ってるのかよく考えろっての!」
「もういいでしょ? みんなたくさん楽しめたんだから」
家に帰り着いてからもほむらさんへの文句を言うお姉ちゃんを窘めながらも笑みがこぼれる。なんやかんや言って、お姉ちゃんもカラオケが楽しかったみたいで内心では確かに笑っているのが見て取れるんだもん。
私の歌の練習にはあまりならなかったけど、それでもみんなが歌うのを聴けて大満足。スマホで撮ったみんなとの写真を見ながら幸せな気持ちになれた。
「そうね……およ、メールが来てた。んんと……」
「……お姉ちゃん?」
「……ううん、何でもない。それよりもご飯にしましょ!」
「……うん」
……何でもないなんてきっと嘘。だって今メールを見た時のお姉ちゃん、何か思い詰めていたみたいだったもん。それを私に心配かけまいと隠そうとしている。
勇者の事を隠してた時もそうだった。私やみんなを大赦からの指令で巻き込んだんだって苦しそうにしていた。お姉ちゃんは大変なことをずっと一人で抱え込んでいる。
小学生の頃、お父さんとお母さんが死んじゃって……その日からお姉ちゃんは私のお姉ちゃんで、お母さんでもあった。お姉ちゃんの背中が一番安心できる場所で、お姉ちゃんがいれば私はなんだってできる気がして……。
でも私はお姉ちゃんの後ろに隠れてばっかりで……もし私がお姉ちゃんに守られるだけの私じゃなくて、お姉ちゃんの隣を一緒に歩ける、守れる私だったら……
「喉にいい食べ物とサプリよ」
「………」
次の日、夏凜さんが部室のテーブルの上にズラーッと沢山の食べ物やよく分からないサプリを並べていた。それらを一つ一つ詳しく説明してくるけど私には難しくてよく分からない。でも夏凜さんが私のためにここまでやってくれてるんだということは分かってとても嬉しかった。
「夏凜ちゃんは健康食品の女王だね!」
「「健康のためなら死んでもいい」って言いそうなタイプね」
「言わない。さぁ樹、これを全種類飲んでみて。グイッと」
「全種類!?」
気持ちは有り難いけどさすがに無理です! ましてやこの量、絶対に気分が悪くなっちゃいそうで…!
「待ちなさい。樹ちゃんを薬物中毒者にするつもり? 一つか二つで充分よ」
「ほむらさん!」
それに待ったを掛ける救世主のほむらさん。昨日の罰で部室の隅っこの方に吊されているけど私の危機を救おうとしてくれている。一つ二つなら問題もないし、このまま夏凜さんを説得できれば…!
「サプリ素人の上に吊されて手も足も出ないやつが口を挟むんじゃないわよ。樹を歌えるようにするにはこれくらい必要なのよ」
「いやいくらなんでも多すぎじゃ……夏凜でも無理でしょ? さすがの夏凜さんでもできないことを他の人にやらせちゃ……ねぇ?」
「はあ!? そんなことないわよ!」
「できないことをできるって強がらなくていいのよ?」
「くっ…! いいわよ! そこまで言うんだったらお手本を見せてあげるわ!」
「え?」
お姉ちゃんの煽りとほむらさんの言葉に反発し、誰かが止める間もなく夏凜さんはサプリを次々に飲み込んでいった。挙げ句の果てにはそれらをオリーブオイルで流し込むという危険なことまで……。
そんなことをやってしまえばどうなるか、想像は全然難しくない。顔を真っ青にした夏凜さんが口を抑えながら部室から飛び出して行くのをみんなが見ていた。
「やっぱり飲むのなら一つか二つにしましょう」
「はい」
その後戻ってきた夏凜さんに勧められたサプリを飲んでも私の歌はよくならなかった。喉の調子よりも緊張の問題みたいで……どうすればいいんだろう。
「明日は緊張を和らげるサプリを持ってくるわ!」
「やっぱりサプリなんですか!?」
「あの家のお母さん、子猫の事考え直してくれてよかったね!」
「うん…」
学校に戻る道をお姉ちゃんと二人で歩きながら先程の出来事を思い出す。今日の活動は最近の子猫の飼い主探しの依頼で二匹の貰い手がついたから二手に別れてから引き取るものだった。ほむらさんだけは部室に残って問題を作っていたから私とお姉ちゃん、友奈さんと夏凜さんと東郷先輩で別れた。
けど私達が引き取りに行った先で、その家の子が子猫を連れて行くのが嫌で泣いて反対していた。私はどうすればいいのか全然分からなかった。このままじゃケンカにもなっちゃいそうだと思ったし、この家では飼えないって聞いていたからこの子が悲しむだけで何も良くならない気がして……。
それをお姉ちゃんがその家のお母さんとお話しして考え直してくれることになった。あの子にも笑顔が戻って本当に良かった。誰も不幸にならずに済んだんだって心から安心したのだった。
「……ごめんね、樹」
だからそんな風に落ち込んでいるお姉ちゃんが私には分からない。
「…なんで謝るの?」
「……樹を勇者部なんて大変なことに巻き込んでしまって……アタシが大赦に樹を勇者部に入れろって命令された時、やめてってさっきの子みたいに泣いてでも言うべきだったのに……そしたら樹は勇者にならずに済んで普通にいられたのに……」
「何言ってるのお姉ちゃん」
違うよ。お姉ちゃんは私を勇者部に入れた事を後悔しているみたいだけど、私は勇者部に入れて本当に嬉しかったと思ってるんだよ。
「お姉ちゃんが勇者部に入れてくれたから私は幸せなんだよ。憧れの人が何人もできたし、勇者になったことも嬉しいんだよ。私が守られるだけじゃなくて、みんなと一緒に戦えるようになれたんだから」
「樹…」
「だからお姉ちゃんも無理しないで。一人で辛い事を背負い込まないで。私だってお姉ちゃんに幸せでいてほしいんだから!」
お姉ちゃんには私達が付いているんだから。みんなだって後悔はしていないはずなんだ。勇者部に入ることが他の何よりも幸せなことなんだから。
「ありがとう、樹」
「えへへ、どういたしまして」
「さーてと、部室に戻ったら樹は歌の練習ね」
「あぅ…そうだった…」
こっちはまだ不安だけど頑張らなきゃ…! みんなが応援してくれてるんだから!
そして歌のテストの日がやってくる。
「次は犬吠埼さん」
「は、はい!」
ここ毎日ずっと練習してきた。勇者部の活動で他にやることがあるにも関わらず、みんな私のために色々な手を尽くしてくれた。心臓がばくばくしてるけど…大丈夫……きっとできる…!
「始めますよ」
「………っ!」
でも一度前を見てしまうだけで決意は揺らいでしまう。目の前の何人ものクラスメートが全員私を見ている。ここには私一人しかいない。いつも助けてくれるお姉ちゃんも、支えてくれる先輩達もいない。それだけで私はどうしようもない不安に押し潰されそうになっていた。
「……やっぱり……あっ…!」
教科書に挟まれていた一枚の紙が落ちてしまう。緊張のせいで歌う前から上手くいかないせいでますます不安に感じてしまう……前に見えた。落とした紙に書かれていたメッセージを。
『テストが終わったら打ち上げでケーキ食べに行こう 友奈』
『周りの人はみんなカボチャ 東郷』
『大丈夫。樹ちゃんは今までも、これからも、とても強い子よ ほむら』
『気合いよ。頑張りなさい』
『周りの目なんて気にしない! お姉ちゃんは樹の歌が上手だって知ってるから 風』
「……っ」
「犬吠埼さん大丈夫ですか?」
「はい!」
気が付くとさっきまでの不安は消えてなくなっていた。代わりに心がとても暖かい。溢れそうなほどの幸せな気持ちでいっぱいになっていた。
『ほむらちゃん恥ずかしかったの? わりとノリノリだったような……』
『…………言われてみれば…』
『意味ないじゃない!!』
『たぶんだけど、ここにいるのがみんなだからじゃないかしら』
『どういうことですか?』
『聴いてくれたのがみんなだから、恥ずかしいって感じるよりも嬉しいや楽しいって感じる気持ちの方が大きかったんだと思うの。私にはこんな風に気持ちを分かち合える人達がいるんだなって』
『……その気持ちを分かち合える人二人を倒したのは誰よ』
ふとあの時のほむらさんの言葉を思い出す。そしてその意味も。
私は一人なんかじゃない。私はみんなと一緒にいる。私には気持ちが通じ合っている大切な人達がいる。みんなと一緒なら、何も恐いことなんかない。勇者としてだって、この歌だって!
「樹ちゃん、歌のテストうまくいったかな…」
「大丈夫よ。あの子はアタシの自慢の妹なんだから」
「それに私達の後輩なんだもの。信じて待ちましょう」
「…………」
「夏凜ちゃん、さっきからずっとそわそわしてるけど大丈夫よ。樹ちゃんならきっと」
「だ、誰がそわそわなんか…!」
部室の中の声が聞こえてくる。私の歌のテストをずっと支えてくれた人達の声。扉を開くとみんなの視線が同時に私へと向いた。
「樹ちゃん…」
「歌のテストは…」
「ど…どうだった…?」
「バッチリでした!」
「「「「「やったーー!!」」」」」
みんなが一緒だと思えば声が乱れるなんて事はなかった。リズムに合わせて自分でも最高な歌声で歌いきれた。それが分かった途端にみんなは自分の事の様に大喜びしていた。
「やったやったー!」
「はい!」
「きっとみんなカボチャだと思ったのが良かったのね!」
「あはは、ありがとうございます!」
「お疲れ様、樹ちゃん!」
「ほむらさん! 私とっても幸せな気持ちで歌えました! 夏凜さんもありがとうございます! 頑張りました!」
「私は別に……よくやったわね」
そしてお姉ちゃんの方を見る。お姉ちゃんもずっと私がちゃんと歌えるんだって信じ続けていた。本当、誰にも負けない自慢のお姉ちゃんだよ。
「皆さん、私のために本当にありがとうございました! 遅くなりましたが私の歌、ぜひ聴いてください!」
◇◇◆◆◆
「あのね、お姉ちゃん。私、やりたいことができたよ」
「なになに? 将来の夢でもできた? お姉ちゃんに教えてよ?」
「……秘密」
「なによー。誰にも言わないから……ね?」
「だーめ、恥ずかしいもん……でもいつか教えるね」
樹に夢ねぇ……何かは分かんないけど教えてくれる時が楽しみだわ。
……その時までに何も起こらなければいいのだけど。
樹が家に帰るなりどこかに出掛けて家にはアタシ一人。今アタシを苦しめているのはこの前の大赦からの連絡だ。
『最悪の事態を想定しろ』
夏凜もバーテックスの出現が相当乱れていると言っていた。もしかすると次の戦いは過酷を極めるのかもしれない。
……大赦から派遣された夏凜以外のみんなはアタシが巻き込んだんだ。みんなはその事を許してくれたけど、もしあの子達の身に何かがあれば……
……そんな事には絶対にさせるわけにはいかない。何としてでもみんなを守らなくてはいけないんだ…!
『♪♩♬♪ ♪♩♬♪』
「……っ!? 樹海化警報…」
来てしまったの…最悪の事態が…!
四度目の世界の時間の停止と辺りを包み込む樹海の花吹雪。スマホを握り締め、大切な存在を守り抜くための戦いへと赴いた。
来てしまった……ついに来てしまった……次回は気になられていた方も多いであろう総力戦です。咲いてしまう……咲いてしまうぅぅ…!!