ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
「多い…」
「残り七体全部きてるんじゃないのこれ」
遠く壁のギリギリ辺りに見えるのは、二度目の襲撃の時よりも二倍はいるバーテックスの姿。スマホのマップを確認するとやはり敵を示すアイコンが奥に七つ。私、友奈、東郷、樹ちゃん、夏凜が同じ地点におり、風先輩はそこから少し離れた地点からこっちに近付いてきている。
「今回は夏凜ちゃんの時みたいに誰か来ているなんてことはないのね。マップに名前が見当たらないし」
「そりゃそうよ。完成型勇者は私一人だけなんだから………ん?」
「夏凜ちゃん?」
「……ほむら…ひょっとして、あんたが私の名前を知っていたのってこのマップに私のが表示されていたから……なんてオチじゃないでしょうね……?」
「え? その通りだけど……ああ、結局言ってなかったわね」
「………はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
あっ、やば……これは今はお茶を濁して後からそれとなく言うべきだった。……いや、そもそもこれは今更気付いた夏凜の方に非がありそうなものだけど……
「な、何でそれを最初に言わなかったのよ!!」
「言おうにもあの時のあなたって警戒心や敵意飛ばしすぎだったじゃない。もし言っていたら恥を晒したとか感じてますます拗れそうと思ったからやめておいたのよ」
「ぐぬぬぬ……!! 否定できない…!」
「大丈夫よ夏凜ちゃん、笑っていたの風先輩だけだから」
「何の慰めにもならないわよ!」
「……あれ? 東郷先輩も笑ってたような…」
「樹ちゃん、しーっ! 夏凜ちゃんがもっと怒っちゃう!」
まあ東郷の場合は友奈を馬鹿にされた仕返しとしてだから別に言わなくていいわよね。ここは風先輩一人だけってことにしておきましょう。
「ううぅ…! この屈辱、あいつらに全部まとめてぶつけてやるんだから! サプリも増し増しよ!」
「ここでサプリ出てくるんだ…」
「樹もキメときなさい!」
「い、いえ…その表現はちょっと、遠慮しておきます…」
思わぬ形で夏凜がとてつもなくやる気を出すようになってしまった。元々プライドが高くて責任感もある子だから腑抜けたりはしないだろうけど、理由はともあれこの重要な局面で闘志を燃やせるのは良いことね。
「敵さん壁ギリギリの位置から全部来ているわ」
「風先輩!」
「決戦ね。みんなも準備を……って、夏凜? なんだか随分気合い入ってるわね」
「風……この戦いが終わったら覚えておきなさい…!」
「はい? 何のこと?」
既に変身済みの風先輩が飛んできて合流を果たす。夏凜の怒りの込もった理不尽な言葉に困惑するも、状況が状況なだけに深くは考えないみたいだ。私からも後でフォローを入れておこう。
「………」
「緊張しなくても大丈夫だよ樹ちゃん。みんないるんだから!」
「私達六人なら絶対負けないわ。バーテックスに勇者部の底力を見せつけてやりましょう」
「…はい!」
私と友奈の言葉に全員の表情が明るくなる。相手がどんなに強大な存在であろうとも、深い絆で結ばれている私達の前には及ばない。だから私達は戦える……
「さあ、ひと花咲かせるわよ!」
ツツジ、鳴子百合、アサガオ、ヤマザクラ、トケイソウの花弁が舞い、今ここに六人の勇者が現れる。世界を滅ばさんとする敵を打ち倒し、この世界を、大切なものを護るための戦いに馳せる。
人類の敵、バーテックス……その数は過去最大である七体。だがこれは残る敵の数と同じ。要はこれが最後の戦いであり、奴らを殲滅すれば人類とバーテックスの戦いも勝利で幕を下ろす。
「よーし、それじゃあみんな! ここはアレ、いっときましょ!」
「アレって何よ? また何か変なことするのあんた達?」
夏凜と同じく何をする気なのかと思いきや、風先輩が友奈と東郷の肩の上に手を乗せる。それを見て何がやりたいのか解り、私と樹ちゃんもお互いの肩に手を。そして東郷と樹ちゃんも同様に乗せ、一つの輪のように並ぶ。
「円陣? それ必要なの?」
「トーゼン! 気合いを高め合うにはコレっしょ!」
「夏凜ちゃんこっちこっち!」
「ったく、しょうがないわね」
半ば呆れながらも夏凜は私と友奈の間にすんなり入ってくる。あの夏凜も丸くなったものだ。大赦から勇者として送られてきた人間だから、全部終われば彼女との別れが来るかもしれないが、願わくばこの戦いが終わっても彼女とまだ一緒にいたい。この六人で勇者部を続けていきたい。
「あんた達、勝ったら好きなの奢ってあげるから絶対死ぬんじゃないわよ!」
「美味しいものい~~っぱい食べよっと!」
「言われなくても殲滅してやるわ」
「決着を付けて、私達の未来を掴み取るのよ」
「私も...叶えたい夢があるから」
「頑張って皆を...国を! 護りましょう」
「よーし、勇者部ファイトォーー!!」
「「「「「オーーーッ!!!!」」」」」
◇◇◆◆◆
『シュツジン!』
「突っ込むわ! 殲滅!」
「アタシ達も!」
先頭を行く夏凜とそれに続く友奈、風、樹、ほむら。東郷はその場で狙撃態勢に入り、遠方からの攻撃に出る。ほむらは東郷以外の四人の内誰かを時間停止でサポートできるよう、彼女達のちょうど中心の位置をキープして樹海を駆ける。
「バーテックスの移動速度にバラつきがある。あの巨大な奴は明らかに別格だけどまずは……」
一番後ろの地点にいる東郷がマップを見ながら戦況を確認する。七体のバーテックスの内の一体、
敵が多ければ速やかに倒してその利を消すことが重要。東郷は照準を
「一番槍いぃーー!!」
(……今っ!)
真っ先に敵に突っ込んだ夏凜が
バーテックスは時間経過でどんなダメージであっても再生する。そんな初歩級の事を完成型勇者である夏凜が見逃すわけがない。流れるような動作で地面に刀を突き立て
「まずは一体目! 封印開始!」
「すごいよ夏凜ちゃん!」
「他の敵がくる前に倒すわよ!」
傷付いたバーテックスの中からその魂である御霊が吐き出される。この御霊を破壊すれば一体撃破……しかし敵もそう易々と魂を破壊させるはずがない。
「って、こいつ…!」
「御霊がすごい速さで回転を…!?」
「慌てないで! 落ち着いて対処するのよ!」
バーテックスの御霊は個々に特徴を持っている。簡単に傷が付かないほど堅いもの、高速で動き回るものなど、今回の御霊はドリルのように高速回転し続ける特徴を持っていた。
「何回ってんのよ! ちっ…!」
夏凜が刀を投擲しその動きを止めようとするものの、刀は突き刺さらず回転の勢いに負け弾き飛ばされる。夏凜の攻撃は友奈の拳や東郷の狙撃、風の大剣よりも一撃の破壊力が劣る。故に力任せに投げつけられた刀では無理があったのだ。
「ここは私が!」
だが次に続いた友奈が拳に力を集中させて御霊に接近する。夏凜の鮮やかな剣撃にはない敵を打ち砕く力。これまでにも御霊を破壊した事がある必殺の一撃が回転する御霊を打ち抜いた。殴られた部分が大きく凹み、厄介な防御回転が止まる。
ドンッ!!
そして遠方から大親友の作った好機を逃さない狙撃。御霊に見事な風穴を開け、その魂は光となって消滅した。
「ヒュ~♪ ナイス連携」
「ありがとう東郷さーん!」
友奈の笑顔に自身も顔を綻ばせる東郷だったがすぐに先程の敵の行動を思い返して訝しむ。防御態勢も全然なっていない、まるで叩いてくれと言わんばかりの無謀な突出。何故あえて突っ込んできたのか……その答えはすぐに判明した。
「な…何よこの音、気持ち悪っ…!」
「あぐぅ…!」
「頭がっ……コイツは…!」
「はっ! みんなを一点に集める為の罠!?」
五人の前に現れた敵、
「あの鐘が!」
ただ一人範囲外にいる東郷が仲間達の危機を救うべく銃口を向ける。あの鐘を止めさえすれば攻撃はなくなりみんなもまた動けるようになる。
バーテックスがみすみす反撃の機会を与えるわけがないのだ。突如として東郷がいる地点の地面が激しく揺れ出す。謎の地震により銃口の狙いが狂うだけならまだ何とかなった……問題は地面から飛び出した巨大な敵の出現である。
「地面の中を移動するバーテックス!?」
連携プレーができるのは勇者達だけではない。地面の中を泳ぐように移動する巨大な
「ぐっ……うるさい…わね…!」
しかしこちらには
騒音によって頭の中を駆け巡る苦痛に耐えながら、一度時間を止めることができればそれだけで攻略可能。時間の止まった世界ならば厄介な音の攻撃も停止する。その状態で他の仲間の手を取り、連携で鐘を壊して封印すればいいのだから。
だが時間を止めるまでがなかなかうまくいかない。騒音は彼女達の脳や神経に直接攻撃をしているようなもの。そしてほむらが時間を止めるには、彼女の盾に備わっている砂時計の砂を落とす事が発動条件となっている。頭痛や目眩に襲われながらも盾に手を掛けなければこの状況は覆らない。
「あと少し…くぅぅ…!」
あと少しで右手が盾を掴める。そうすればこの苦痛からみんな抜け出せる。
……はずだった。誰もその存在に気付いていなかった。
「っ!? きゃあぁぁっ!!」
「なっ!? ほむら!!」
「ほむらちゃん!!」
新たな襲撃者、人のような形の
だがその小さな体故に他にはない突き抜けた俊敏性を持つ。たった今、時速250キロメートルの速度でほむらに跳び蹴りを放ったのだから。
「あうっ、ぐっ…! エイミー……痛っ…!」
幸いにも精霊バリアが発動したおかげで致命傷にはならなかったものの、3メートルの巨体に時速250キロメートルの勢いが乗った跳び蹴りが直撃したのだ。女子中学生の軽い体は樹海の地面に叩きつけられ激しく転げ回ってしまう。もし勇者の耐久力がなければ全身の至る所が骨折していたであろうダメージ。そうはならなかったが全身が痛むせいでなかなか起き上がれない。
「ほむらちゃん!! くっ、バーテックスめ…! 邪魔をするな!!」
遠くからこの事を見ていた東郷も大切な友達の窮地を救いたかったが、撃った砲撃が
その好機を敵は逃さなかった。
「ぐっ……このっ…!」
精霊バリアが発動するも、そんなものはお構い無しと言わんばかりにバーテックスは片足で立ち体重を乗せて潰しにかかる。おまけに殺意を剥き出しにしながら左足で何度も何度も下のほむらを連続で踏み続ける。
「がはっ…! ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
万能な精霊バリアといえども限界はある。出現した猫又が苦悶の表情を浮かべ、度重なるダメージはバリアをすり抜け、ほむらの体に鈍痛が現れる。
「このままじゃほむらが…ぐっ!」
「この音さえ止まれば……うぅぅ…!」
「……っ! また新しいヤツらが!」
「ダメ……こんなのじゃダメ…!」
大切な人達を苦しめる騒音に一人の勇者が憤る。彼女が最愛の姉と尊敬する先輩達の支えによって見つけ出した夢を、その人達を苦しめる事に使われる事が我慢ならなかった。苦痛なんてもう彼女にとってはどうでもよかった。ただこの最悪な存在を無くせるのであれば、何でだろうと耐えられる。
「……音はみんなを幸せにするもの……なのに……こんな音はダメぇーー!!!」
樹が伸ばしたワイヤーが
「樹ナイス!! 夏凜!! ほむらをお願い!! うおぉぉぉりやぁぁぁ!!!」
「分かってる!! こんのクソ野郎!!! ほむらを離しやがれぇーーー!!!!」
樹の活躍により自由を取り戻した彼女達の怒声が樹海に響き渡る。風は大剣を巨大化させ、近付く二体の敵を渾身の一振りでまとめて両断する。そして夏凜は仲間を傷付けた敵に向けて刀を全力で投げつけ、それは
『!!?』
「……いい加減に…どきなさい!!」
右足で抑えつけながら左足での踏みつけという攻撃だったためか、
ほむらに攻撃力は無いものの、それでも彼女は勇者の力を秘めている。ダメージは無いに等しいが3メートルしかないバーテックスのバランスを崩すには充分だ。ほむらの体から離れ、無様に地面に倒れたところで……ほむら以外の全ての時間が止まる。
「げほっ…げほっ……! ハァ……ハァ…………精霊バリアが無ければ死んでいたわ………さて…よくも散々人を踏みにじってくれたわね…」
誰にも聞こえていないその凍えるような声には止めどない怒りと憎しみが宿っていた。ゆっくり
『!!? 』
「時間が尽きるまで切り刻んであげるわ。痛みは一瞬で永遠よ」
刃がバーテックスの体に当たるとバーテックスの時間も動き出す。だが動けるようになった時にはその部位には鋭い刃がめり込み、抵抗する間もなく体から切り離される。そうなってしまえばバーテックスの体はほむらと刀を通して間接的に触れていないという事になり、再びバーテックスの時間が停止する……これが繰り返される。
『!』『 !?』『!!』『~~~~!?!?』
バーテックスは気付かない。何故自分の体が一瞬の内に次々と切断されていくのか。頭も腕も胴体も足も、予測無しに刃が通って切り離される。咄嗟に自分を攻撃しているのであろう勇者を迎え撃とうにも完全にペースを持って行かれた。防ぐ事もままならず、
そして時は動き出す。
「……っ、ハァ…ハァ……ざまをみなさい……ん?」
肩で息をしているとふと左手の甲にあるトケイソウの刻印が目に入る。一番最初はただ花の形をしているだけだったが、戦いの中で少しずつ色付いていた刻印。この戦いが始まる前は全体の五分の三が色付いていた刻印……
「……全部貯まったわね……満開ゲージ…」
「「ほむら(ちゃん)!」」
「友奈、夏凜……」
「ほむらちゃん大丈夫…? 怪我は……」
「……なんとか平気よ。ありがとう夏凜、おかげで助かったわ」
「……別に、当然の事をしたまでよ」
こんな時でも照れ隠しでそっぽを向く夏凜に二人とも笑みがこぼれる。絶体絶命の状況は何とか切り抜けられた。風と樹の方を見れば両断した
「のんびりしている場合じゃなかったわね。そこの細切れバーテックスを封印して次に行きましょう」
「うん! 頑張ろう!」
「……ちょっと待って、あのバーテックスってどこよ」
「…え?」
夏凜の予想外の言葉に慌てて
「なっ、馬鹿な!? まさか再生して逃げたというの!?」
「ウソっ…! いくら何でも早すぎるわよ!?」
「二人とも、あれ!」
友奈が指を差した先には少しだけ再生していた
問題はそれが何かに吸い寄せられている事だ。欠片一つ残さずまとめて宙を漂っている。
「あわわわ、引っ張られる~!」
「樹、ワイヤー解いて!」
「ええっ、向こうも!?」
「何よアレ……バーテックスが後退……いや、集まってるの?」
風と樹が封印しようとしていた三体のバーテックスも退いている。ダメージを受けて危なくなったからなのか、その考えはすぐに違うと気付かされる。
「あのデカいやつ何よ…? まるで太陽じゃない…」
今まで動かなかった、どのバーテックスよりも大型の存在、
「合体!? そんなことできるなんて聞いてないわよ!!」
「なんて大きさ……これはかなりマズいわね…!」
その
「でもアレを封印できれば五体まとめて倒せるよ!」
「……その通りね。まさにラスボス戦ってわけじゃない」
勇者達に分かり易い目標ができる。あの一体だけ封印できれば残る敵は地面に逃げた
だがそれは、その一体を倒せればの話。
「来る! みんな避けて! わあぁっ!!」
「お姉ちゃん!? きゃあ!!」
「速っ!? うわぁ!!」
「ちょっと! この炎追尾…きゃああ!!」
「避けられな…ぐうぅぅ!!」
火球の一つ一つが取り込んだ
「みんな!! おのれよくもっ!!」
その惨状を遠くから見ていた東郷が強大な敵に狙撃する。東郷の狙撃銃による一撃は射手型バーテックスの巨大矢を破壊できる程の威力を持つ。狙撃は寸分の狂いもなく
「効いてない! はっ!」
そしてそのお返しとでも言うかのように東郷にも火球が降り注ぎ、その体は爆風で宙を舞って崩れ落ちる。
「…冗談じゃ…ないわよ……」
「こんなところで……認めないわよ……」
だがそこで性懲りもなく二人の勇者が立ち上がろうとしていた。先程の火球の嵐をそれぞれの大剣と盾、そして精霊のバリアでダメージを軽減した犬吠埼風と暁美ほむらの二人が……。
バーテックスはこの二人が起き上がろうとしても何とも思わない。どうせすぐに処理できるのだから。
「っ!?」
水の塊を作り出して黄色い勇者を一人捕らえる。これでもう身動きは取れず、放っておけばいずれ窒息死するだろう。もう一人の白紫の勇者は……
「!? 地面が揺れ…! しまっ…」
勇者達の敵は
「時間を……そんな…止まらない!!?」
彼女は自分の能力を過信していた。確かに時間停止の能力は強力で、今までもその力が役に立たない事は一度もなかった。
だが既にその能力は使えない。時間停止能力を使える回数は最大五回、一度能力を使う毎に満開ゲージが貯まり、それが最大値の時には使えなくなる制限を彼女は理解していなかった。
これまでほむらが時間停止能力を使用した回数は四回……それと
ジェミニ「神樹なんてロリコンクソウッドのところに行ってられるか! 俺はほむほむを襲いに行く!」
ピスケス「東郷さんにちょっかい出せたから次はほむほむにダイブしてきます!」
レオ「えぇ…台本通りに動けよ…(時速250キロで移動しながら)」
多くの勇者であるシリーズを見てきた人達からは群を抜いてスコーピオンとサジタリウスとキャンサーが嫌われているけど、実際作中の勇者達からはダントツでジェミニ君が嫌われている概念好き。