ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
(ほむら…! っ…息が…!)
バーテックスの無慈悲な攻撃をまともに受けてしまったほむら。今すぐ助けに向かおうとも風も絶体絶命の状況だ。水の塊に取り込まれ、必死にもがいたり大剣で斬ろうにも変わらない。体力自体立つのもやっとだという現状、息が長く持つはずもなく、まさに風も命の危機に陥っていた。
(こんなの……こんなことって……)
バーテックスの放った水球の中で風は怒りに震えていた。自分がこのまま溺死してしまうのではないかという“死”に対して恐怖するよりも……神樹の下へと飛び去った敵が世界を滅ぼしてしまうという絶望に怯えるよりも……。敵に押し潰された後輩の姿を見て、彼女達を守れず、こんな所で死にかけている自分自身が許せなくて仕方がなかった。
(樹……友奈……東郷……ほむら…)
風がバーテックスと戦う本当の理由は世界を救うために非ず、二年前のバーテックスが原因で引き起こされた大事故で死亡した両親の仇を取ること。それを成し遂げるために風は大赦の指令を反対せず命じられるがまま、掛け替えのない妹と後輩達を命懸けの戦いに巻き込んだ。何も知らない、平凡な日々を送っていた彼女達を……。
自らの過ちを自覚してからは、何が何でも彼女達を無事に元の日常に返す事を望むようになった……否、誓ったのだ。例え自分がどれだけ傷付こうとも、命を落としてしまってでも……
(それなのに……何よこのザマは…! 自分勝手な理由でみんなを巻き込んでおいて、酷い目に合わせて! そのくせこんな所でくたばりそうになるなんて!)
ここで死んでしまえば大切な存在を守ることができないまま終えてしまう。ここで立ち上がらなければ、それこそ大切な何かを永遠に失ってしまう。
(そんなこと…できるわけないでしょうが!!!!)
失ってなるものか……終わってなんていられるか……だからこそ、犬吠埼風の魂の叫びに輝きの心を宿す花は美しく咲き誇る。
「風先輩……ほむらちゃん……っ…!」
激痛で朦朧とする意識の中、東郷は見ていた。圧倒的な力を持つ敵を前にしても立ち上がろうとしていた二人を……その二人をうっとうしいと虫を潰すかのように処理した敵を……。
「友奈ちゃん……夏凜ちゃん……樹ちゃんも…」
平穏な日々を切に願う自分達を塵芥のように思っているのか……あの素晴らしい友人達の命の輝きをくだらないと吐き捨てるのか。東郷の中で燃え滾るかのような感情が湧き上がる。
「よくも……よくもみんなをこんな目に…!」
かつて絶望と不安の海の中を漂っていた東郷に希望を、友達との温もりを、心暖まる居場所を与えてくれた人達を傷付けられた。その事実と仲間達をそんな目に合わせた敵が、今度は世界を終わらせようとしている。みんなで笑い合える、この素晴らしい世界が滅ぼされてしまう。
「……もう…許せない…」
もう誰も傷付けられてなるものか……これ以上奴等の好きにさせてなるものか……風と時を同じくして、東郷美森の決意に愛情の絆の花が煌めき咲き誇る。
オキザリスとアサガオ……絶望に包まれていた樹海の中で咲き誇る二つの花。その輝きは風を苦しめていた水球を弾き飛ばし、東郷に再び戦場へと馳せ参じる力を宿す。
その身に纏うのはこれまでとは比べ物にならないほど力が湧き出る神秘の装束。絢爛豪華な姿はまさしく神の如し。
これこそが“満開”……溜め込んだ勇者の力を解放し、圧倒的な力を手に入れる勇者の切り札。
「……アタシの自慢の後輩に、何してくれてんのよ!!」
瞬時に
「よくもほむらちゃんを! 敵ヲ捕捉、此ヨリ総攻撃ヲ実施ス!」
そのバーテックスを鉢巻を着けながら見つめる東郷。彼女の満開によって現れた戦艦の砲門が開き、蒼く輝く強烈な砲撃が飛ぶ。それも一撃だけではなく、次々と放たれる砲撃は宙の
満開の圧倒的な力により
「ほむら!!」
風は先程まで
「……良かった…生きてる。よくほむらを守ってくれたわね、エイミー…」
『………』
心配そうにほむらを見つめていた彼女の精霊である猫又。どんなに激しい攻撃が襲って来ようとも、絶対に彼女を守り抜くという確固たる意思を持っていた精霊が潰されている間絶えずバリアを展開し続けていたのだった。
「風先輩、ほむらちゃんは!?」
「東郷その格好……ほむらなら大丈夫。気を失ってはいるけどこの子が守ってくれたから」
風達の下へ飛んできた東郷もほむらが無事だと分かってホッと息を吐く。最悪の自体は回避できた。だがそんなものはこのまま動かなければすぐに訪れ、今度こそ何もかも終わってしまう事を忘れてはいけない。
「……ほむらちゃんはここで休んでて。後は私達で何とかするから」
「行こう東郷。アイツを止めないと…!」
「はい!」
現在進行形で神樹の下へ猛スピードで飛んでいる
「くっ…! アイツめ、あんなデカいくせになんて早さ…!」
「ですが今の私達なら…追いつけます!!」
神樹の姿が見える程までに近付くが、風と東郷はバーテックスとの距離を詰める。あと少しでバーテックスを先回る事ができる……その事を理解したのか、
「その攻撃はもう覚えた! 一個たりとも通さない!」
遠くから仲間達がやられるのを見た、東郷自身もその攻撃になす術もなくやられた。
三度目の今回は敵の思うようにはさせない。戦艦の八つの砲門が開き、それらから蒼い閃光が迸る。360度全方位から恐ろしい速さで迫り来る何十もの火球だったが、満開した東郷の砲撃はその猛威を次々と消し飛ばしていく。
「っ…!」
「東郷!」
だが東郷の体は既に限界に近い。満開する前のダメージが消えたわけでもなく、無数に襲いかかる火球全てを撃ち落とす砲撃も彼女に大きな負担を与え、いつ倒れてもおかしくない状態だった。今度
「風先輩……すみません…もう…」
「……ありがとう、後はアタシが!」
頼もしく応える風に東郷も小さく微笑むと、彼女の体が淡い光に包まれる。持てる力全てを使い果たして道を切り開いた代償は大きく、東郷の満開はその力を失った。姿が元の勇者服に戻り、東郷に意識はもう無いのか、あるがまま樹海に落下していった。
東郷が身を粉にして掴んでくれた好機……風の大剣が光に包まれ、目の前の敵を倒すため、瞬く間に巨大化する。その刃は超巨大な
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
『…!』
───大切な仲間達を苦しめた敵を絶対に許してなるものか…!!
風の己の全てを賭けて振り下ろした大剣は、高速で動き出した
「どうだああぁぁぁぁぁ!!!」
風の絶叫が木霊し勇者達の勝利が見えてくる。風にも限界が近付いてきているがまだやれる……そう思っていた。
「っ…!? 何よあの元気っぽい玉…アイツどんだけしつこいのよ…!」
体半分を失ってもバーテックスは死なない。起き上がった
もう戦えない、意識を失った東郷に目掛けて……
「なっ…!? ふざけるなあぁぁぁ!!!!」
ただ風を狙って放っても、満開の力を得ている今の風なら避けられていただろう。バーテックスには知性がある。敵はその事を見通して、風の行動を予測して東郷を狙ったのだ。仲間思いの風なら絶対に東郷を庇うと……絶対に攻撃を受けざるを得なくなると。
風が受け止めた火球はその勢いを増し、爆裂して風を呑み込む。そして黄色の花弁を散らしながらボロボロになった風が……満開の解けた姿で地に落ちる。
「う…ぐ………」
風の全身に激痛が走る。もう彼女も動けない。倒れた仲間を守るために絶好のチャンスを逃したのだ。
バーテックスは人間の心という物をほくそ笑んでこの様に思うだろう……訳が分からない……と。
ともあれ今度こそ立ち上がる勇者がいなくなった。
バーテックスは人間の
「そっちに行くなあぁぁぁ!!!」
遠くから大量の緑に光るワイヤーが飛んでくる。ワイヤーは
「私達の日常は奪わせない! お姉ちゃん達の思いを無駄になんてしない!!」
樹海中に響き渡る樹の声……風と東郷の勇敢な姿に突き動かされて起き上がった彼女も神秘の輝きを放っていた。
満開した樹の背負う光輪から伸びるワイヤーは逃さない。最後の力を振り絞って、大切な者達と共に生きる世界を守る。体半分を失って本来の力を発揮できない今、これで
「満開!」
遠くの空で咲き誇るヤマザクラ……勇者、結城友奈の輝き。新たな力と二つの巨大な腕を浮かべて飛び立った彼女の思いは一つ……大切なもの全てを救う!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ワイヤーに絡まれて思うように動けない
彼女の想いはみんなの想いと同じ。一人だけでは敵わなくても六人の想いが集った今、何者も彼女を止められない。
「勇者部六箇条、ひとーーつ!! 家族や友達を大切にーー!! 勇者ぁ……パアァァァァァァンチ!!!!」
振りかぶった巨大な豪腕が
……
「……あれが御霊…? うそでしょ…」
「お…大きすぎる……それにあの場所って…宇宙!?」
絶望を越えた先にあったのは更なる絶望……それでも友奈は諦めない。
「……大丈夫、御霊なんだから今までと同じ様にすればいいんだ。どんなに敵が大きくたって諦めるもんか!」
どんなに苦しくても諦めない。それが勇者なのだから。
「東郷さん…ほむらちゃん…風先輩…樹ちゃん…夏凜ちゃん……行ってきます!」
自分は決して一人じゃない。みんながいるから戦える。みんなのために、友奈は空高く舞い上がった。
友奈は成層圏近くまで到達する。ここまでの全速力で彼女もすっかり疲弊しており、気を抜いた瞬間に満開は解除されてしまうことだろう。
「勇者部六箇条! なるべく…諦めない!」
そんな彼女の意思を繋ぐのは、大切な仲間達がいるから。みんなと一緒に帰る居場所があるから。そのためならばどんなに大きな壁があっても越えられると信じて、友奈は戦える。
そんな彼女の前に立ちふさがる壁はどこまでも巨大で、堅固な存在か。
「御霊が攻撃!?」
友奈がその攻撃を避ければその攻撃はとてつもないスピードで地上に降り注ぐだろう。そしたら倒れている東郷達は、世界はどうなるか……
「させるもんかあぁぁぁぁ!!!!」
降り注ぐ物体をひたすら殴り破壊していく。一個でも漏らせば守りたいものを壊されてしまう。それが分かっているからこそ友奈は魂を燃やす。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! 勇者部六箇条ぉーー!!! なせば!! 大抵!! なんとかなあぁぁぁる!!!!」
友奈の拳は止まらない。縦横無尽に飛び回りながら何十個もの物体を砕く。やがて最後の一個も貫き、御霊の攻撃は終了した。これで残すは御霊本体のみ。
「あ…」
突如として友奈の体から一気に力が抜け落ちる。御霊の攻撃から全てを守り通すのに力を使い果たし、満開が解除されたのだ。まだ御霊本体が残されているというのに、無情にも指一本ろくに動かない。
「そんな……まだ……」
視界が暗くなっていく。まだ終わっていないのに、もう少しで終わりなのに……
「みんな………ごめんね…」
友奈の心の中に絶望が広がり、目から一粒の涙が零れる。力を失った友奈はそのまま深い闇へと落ちていった。
その時、友奈の体が温かいものに包まれたように感じた。その温もりは彼女の絶望をみるみる内に消し去っていく。友奈が大好きな、彼女の優しい温もり。
「……たった一人でここまでやるなんて……違うわね、私が倒れている間ずっと、みんなが希望を繋いでくれたから今この時があるのよね」
「あぁ……あぁぁ…!」
「後は私に任せて、友奈」
真っ暗闇に落ちる友奈を優しく受け止めた、暁美ほむらの穏やかな顔が目の前にあった。
◆◆◆◆◆
時は僅かながら遡る。友奈が御霊を破壊するべく飛び立った、まさにその時。
「あの上に飛んでいる光って……まさか友奈!? 一人でやるつもり!?」
「そんな…! いくらなんでも友奈さん一人じゃムチャだよ!」
「クソッ! こんな時になんで私は満開できないのよ!」
「私も行きます! 友奈さんを助けないと……あぅ…!」
「樹! あんただってもう限界が近いのよ!? それこそムチャよ!」
「夏凜さん……でも!」
果敢に敵に立ち向かう友奈の姿を見て樹と夏凜は己の力の無さを悔やむ。二人も友奈が無理をしていることはよく分かっている。そんな彼女を助けたいのに樹は途中で倒れかねない……夏凜はその場に行くための満開を使えない。
「その必要はないわ」
「「っ!? ほむら(さん)!?」」
「あの場所へ行くのは……私よ……ぐっ…!」
二人の目が驚きで見開かれる。そこにいたのはバーテックスの度重なる攻撃の前に倒れたはずの勇者、暁美ほむら。右足を引き摺るように歩き、痛むのかその表情は苦痛が滲んでいる。
「馬鹿! あんたの方が誰よりもボロボロじゃない!」
「……大丈夫よ。これを見て」
「それは……ほむらさんの満開ゲージ…」
「私にはまだ満開がある。樹ちゃんも友奈達も、満開で再び立ち上がれた……だったら満開を使えば、私だってまだ戦える…」
「ほむら……」
「それに……何故だか分からないけど、魂が燃えたぎっている気がするの。夏凜の言う通りこんなボロボロだっていうのに、私が友奈もみんなも守れって……私自身が倒れるのを許さないみたい…」
目が覚めてからずっと、ほむらの意識は鮮明だった。全身に耐え難い激痛が走っているというのに、ほむらの体が、魂が彼女を突き動かす。
「暁美ほむらは諦めないのよ。絶望だけしか残されていない未来だとしても、神様が定めたとしても……私はそんな未来を否定する、抗う、叛逆してみせる」
それが暁美ほむらなのだから。
「……約束です…無事に、帰ってきてください…!」
「樹ちゃん…」
「……絶対に帰ってきなさい。生きて…友奈と一緒に…!」
「夏凜………えぇ、約束よ」
最愛の仲間達に捧げる。
「───満開」
地面から白く光る枝のようなものがほむらを包み込み、トケイソウが満開の花を咲かせる。新たに背中側にある複数の紫に煌めく大きなリボンが靡く。ガラスのような神秘的な装束が輝いて見える。神聖なる真っ白の翼が顕現し、彼女に強大な力が満ち溢れる。
「……ふふっ、まさかあの翼だなんて……神樹様も分かっててやってるのかしら?」
自分の変化にクスッと笑うと翼をはためかせて飛翔する。残った二人もほむらを信じて見送った。勇敢なる彼女達に……勝利を…。
「ほむら…ちゃん…!」
「……エイミー、それと牛鬼、友奈をお願い」
ほむらの側に猫又が、友奈の側に牛鬼が現れ、二匹掛かりでほむらから託された友奈を抱える。とはいえ精霊の地の力は非力故に、二匹は友奈を落とさないよう必死に力を込めて浮かぼうとしている。
「……お前達には散々苦しめられた。みんなが傷付いて倒れて、それでも誰も諦めなかったからこそ、私は今ここにいるのよ!」
ほむらが左手をかざすと翼から白い光が手元に収束する。光はやがて一つの弓へと形を変え、同じく右手に握り締めた矢を光の弦に入れる。
「訳が分からない? ならば覚えておきなさい! これが人間達の力……私達、讃州中学勇者部の力よ!!」
ほむらの翼から迸る光が御霊の真上に巨大な魔法陣を描き出す。ほむらが構え、力を蓄え膨大な威力を得た矢の輝きが魔法陣を射抜くと、その矢は魔法陣の中で無数に拡散して降り注ぐ。
「フィニトラ・フレティア!!」
魔法陣から御霊目掛けて放たれる無限にも思える量の矢一つ一つの威力では破壊はできないが、小さいながらも御霊を削り、貫き、壊していく。その傷は徐々に大きくなり、穴を開けてより深い部分へと突き刺さって爆裂する。
中心部へと近付けば近付くほど、御霊の強度は増して矢が弾かれ始める。だがほむらはそれを好機と捉える。強固な守りだからこそ、その先に御霊の弱点が隠されているのだと。
ほむらは御霊の真上を取り、溜めに溜めて最大の威力を誇り出した矢を開けた穴目掛けて構える。これがほむらの最後の攻撃……未来を掴み取る希望の光。
「シューティング・スタァァァーー!!!!」
巨大な紫の閃光が御霊の中心部を砕く。御霊の全体にヒビが広がり……やがて超巨大な御霊は粉々になって消滅した。
「あ…」
結果、ほむらの満開は花弁となって散っていく。空を飛ぶ力も失い、重力に引っ張られて地上に猛スピードで落下を始める。
「ほむらちゃん!!」
目の前で落ちる友達を追うように、自身を抱えている精霊を逆に抱え込んで友奈も落下する。片腕の中で二匹の精霊がもがくが、友奈はもう片方の腕を必死に伸ばす。
「友奈…」
「ほむらちゃん!」
落下しながら伸ばした腕でほむらに抱き付いた。お互いもうまともに動けないが、それでも今この瞬間二人一緒にいられる事に安堵する。
そこにほむらの満開の残滓なのか、一輪のトケイソウが顕現し、二人を包み込む。残された僅かな力で自分達の身を守るための緊急用防護壁を作り出したのだ。
「……なんとか、作り出せた…」
「ほむらちゃん……やったね…」
「ええ……美味しいところ、貰ってしまったわね…」
「ううん、ほむらちゃん物凄かったよ」
ほむらも友奈も、お互い力無く笑い合う。二人共心身ともに限界で、意識を失う寸前でもある。大気圏に突入し始めたトケイソウが蕾となって二人を守る。もしこれが燃え尽きてしまったら二人の命は助からない。
「大丈夫……神樹様が守ってくださるよ」
「……そうかしら……そうだといいわね」
「もー……ほむらちゃんって前からあんまり神樹様を敬ってないでしょ?」
「さあ? どうかしら……ふふっ」
「えへへ…」
もしかしたら命を失ってしまうかもしれないこの状況で、二人は何も恐れていなかった。何故ならお互い側にいるのが最高の友達なのだから。彼女と一緒なら何も恐くない。二人は手を取り合って、相手の顔を見合わせながら意識を手放した。
樹海へと燃え上がりながら猛スピードで落下するトケイソウの蕾を見つけた樹がワイヤーを張り巡らせる。彼女はまだ満開の力が残っており、それで敬愛する二人の命を救うべく力を振り絞る。
だが大きすぎる衝撃を宿した蕾はそのワイヤーを千切り、その後に張られるワイヤーをも引き千切る。
「なんて衝撃なの!? もしこのまま落ちたら…!」
「友奈さんもほむらさんも、絶対に助けてみせます!!」
千切られて新しいワイヤーを張る。また千切られてその度に張り直す。樹もまともに立つ事が困難になってきても、それでも絶えずワイヤーを張り巡らせる。
「止まってえええええっ!!!!」
樹の叫びに呼応するかのように伸びるワイヤー。何度目かは分からないが、遂にワイヤーが蕾の勢いを殺し、それを地面に激突する直前で受け止めた。
「やった! ナイス樹! 見て! あんたが止めたのよ! あんたがあの二人を救ったの!!」
「夏凜さん……私よりもお二人を……」
「わ、分かったわ!」
「お姉ちゃん、私、頑張ったよ……サプリ、キメとけばよかった……かな…?」
蕾の中から出てきたほむらと友奈に駆け寄る夏凜を見て、樹は満足げに微笑み、彼女の満開が解けると、その場に崩れるように倒れ込んだ。
「っ…、樹!? 友奈! ほむら! しっかりしなさい…!」
夏凜の悲痛な叫びが樹海に響くも、誰も反応しない。友奈も、ほむらも、東郷も、風も、樹も……夏凜以外の全員が応えなかった。
「起きなさいよぉ…! ねぇ…!」
「大丈夫だよ、夏凜ちゃん」
その声に夏凜はハッとして顔を上げる。そこには笑顔で夏凜を見つめる友奈と呻きながらも目を開けたほむらの姿があった。
「約束したじゃない。生きて帰るって」
「ケホッ…ケホッ…」
「はぁい…なんとか生きてますよぅ…」
「風先輩、あまり無理をなさらないでください…」
咳き込んで受け答える樹、風を背負って近寄ってくる東郷。全員生きている……その事が分かり、心から安心した夏凜の目から涙が零れる。
「な…なによみんなして……もう! 早く返事しなさいよぉ…!」
樹海化が解除され、戻ってきた讃州中学の屋上で夏凜のスマホに大赦から着信が入る。そして夏凜は誇らしげに伝えるのであった。
「三好夏凜です。バーテックスと交戦、負傷者五名、至急霊的医療班の手配を願います。なお、今回の戦闘で12体のバーテックスは全て殲滅しました! 私達、讃州中学勇者部が!」
【満開ほむら】
ガラスのように輝く装甲と、背中側に大きな紫色の大きなリボンが複数備え付けられている。まどか☆マギカの12話で登場した白い翼が常に具現化され、この翼が満開時の武器となる。翼は変幻自在で応用が利きやすく、その一部をオリジナルの武器へと変形できる。翼から生み出される光が矢となって敵を撃ち抜く他、魔法陣を作り出して矢の雨を降らせたり、威力を蓄えて強力な一撃を放つ事が可能。技名はまどかのものから……というよりも、まどかの技を再現していただけである。矢として攻撃しなくとも、翼自体が攻撃力を持っているのでそのまま叩いたり押し潰すこともできる。
ざっくり言えば帽子とメガほむの姿のドッペルがなく、体もガラス化していない翼が生えた業因のドッペル。攻撃方法は魔獣編での戦闘スタイルに近い。
ところで、「侵食する黒き翼」って一体どんな攻撃なんでしょう? 未だによく分からない……