ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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 ゆゆゆ6周年にギリギリ間に合ったァ! というのも少々体調を崩してしまって何日か書けなかったのが原因なんですけど……

 何はともあれ祝!ゆゆゆ6周年! この物語に出会えて本当に良かった…


第二十六話 「回復の兆しは無し」

 退院した翌朝、私はお母さんに起こされて一瞬あれ?って不思議に思う。いつもは東郷さんが起こしに来てくれるのに、どうしてお母さんが来るんだろうとぼんやりしている頭で考えて、そして今はまだ東郷さんとほむらちゃんは入院していた事を思い出す。

 

 学校でもあの二人がいなくてとても退屈に思えてしまう。夏凜ちゃんはいるけど夏凜ちゃんもいつもよりも何だか元気がなさそう……私と同じ気持ちなのかも。

 

「……考えてみれば私ってずっと東郷さんとほむらちゃんと一緒にいたんだよね」

 

 中学に入学する前に東郷さんがお隣に引っ越してきて、入学式の日にほむらちゃんと出会って、それからずっと私たちは一緒だった。そんな二人とこれからしばらくの間離れ離れだなんてとっても寂しい。これじゃあ授業にも集中できないかも……二人のことが気になって内容が全然頭に入ってこない。

 

「……って、こんなんじゃ二人に怒られちゃうよ…頑張らないと!」

 

 気合いを入れても結局今日の授業はいつもよりも面白くないと感じてしまう。お昼も夏凜ちゃんがすぐにどこかに行っちゃったから、これまた珍しいことに一人で。静かで物足りないし、なぜだかあの戦いの後からご飯の味が感じなくなっていて溜め息がこぼれてしまう。

 

「……はぁ…早く二人とも退院しないかなぁ…」

 

 二人がいないから今日の学校の楽しみは当社比五割減って感じだよ……残った五割は勇者部の活動の分。

 

「起立、礼。神樹様に、拝」

「さようなら」

 

 よーし! これから待ちに待った部活動の時間! 東郷さんとほむらちゃんの分まで四人で頑張ろう!

 

「夏凜ちゃん一緒に行……あれ? 夏凜ちゃん?」

 

 夏凜ちゃんを誘おうとした所で教室に彼女の姿が無いことに気付く。机の上に鞄も無いし、もしかしてもう行っちゃった?

 

「はにゃ? どったの友奈ちゃん?」

「紗彩ちゃん…夏凜ちゃん知らない?」

「にぼっしーちゃん? ホームルームが終わってすぐに出て行っちゃってたけど」

 

 う~ん……先に部室に行ったかのかなぁ? トホホ、また一人だよ…。

 勇者部の部室に一人で行くことなんて今まで日直のお仕事で遅れる時ぐらいだったのに。その時も部室に行けばみんなで待っててくれていたけど……

 

「……ううん、しっかりしないと! それに風先輩も樹ちゃんもいるんだし! ファイトー!」

 

 本当に辛い事は全部終わったんだし、後はみんなで二人が戻ってくるのを待つのみ! これからは間違い無く楽しくて幸せな毎日がやってくるに違いない。だったらみんなと楽しみながら待っていた方が絶対にいいのだ。

 そう自己完結して私は勇者部部室の扉を元気良く開けるのだった。

 

「こんにちはー! 結城友奈、来ましたー!」

「あ゛あ゛ーー…ああ、お疲れさん」

 

 部室には既に風先輩と樹ちゃんが来ていて、樹ちゃんは読書を、風先輩は扇風機の前で子供みたいに声を上げて遊んでいた。もう七月だし扇風機が用意されたのは嬉しい。部室にエアコンは無いから扇風機が無いと夏は本当に大変だ。

 そこで私は扇風機に当たっていた風先輩の眼帯が医療用の物から黒色の別の物になっていることに気付く。

 

「風先輩、その眼帯…!」

「フフン♪ どうよコレ?」

「ふぉぉぉ! 超カッコいいです~!!」

 

 独特なポーズも決まってて更にカッコいい! それに端っこの方に小さく花が刺繍されているけど、これももっと素敵な魅力を醸し出している。

 

「あれ? 夏凜は一緒じゃないの?」

「えっ? 先に来ていたんじゃないんですか? ホームルームが終わってすぐに教室から出て行ったみたいですけど…」

「来てないわよ? さてはサボりかぁ~? 今度罰で腕立て伏せ千回やらせないと♪」

「夏凜ちゃんならできちゃいそうですね」

「……そうね、サプリキメながら「朝飯前よ!」って言って……代わりに何がいいかしら…ブツブツ…」

 

 う~ん、夏凜ちゃん一体どうしたんだろう。いつもより元気がなさそうに見えたけど、東郷さんとほむらちゃんがいなかったからじゃないのかな?

 ふと樹ちゃんがスケッチブックを私と風先輩に見えるように向けていることに気付く。何が描いてあるのかと思いきや、そこにあったのは絵ではなくて文字だった。

 

『かりんさん何か用事があったんでしょうか?』

「樹ちゃんそのスケッチブック…」

「アタシ提案の声が戻るまでの応急処置よ。しばらくしたら治るみたいだし、少し間ガマンねー」

『これで皆さんと話せます!』

 

 ……樹ちゃんはまだ声が出ないんだ。スケッチブックでやり取りができるようになったのはいいんだけど、樹ちゃんの可愛らしい声がまだ聞けないのは残念。風先輩は左目、私は味覚が感じなくなっているし、みんな早く治るといいなぁ。

 

「でもほむらと東郷に加わって夏凜までいないときたかぁ……今日は衣装について話したかったんだけどねぇ」

「衣装?」

「文化祭の演劇の衣装よ」

「ハッ、そうでした!」

「勇者活動が一大事だからって忘れてたでしょ?」

 

 あはは…うっかり……。でもそうだよ、二学期には文化祭があってまた楽しい思い出が増えるんだ。その頃にはみんな全部治っていて、私達の演劇を見た人達も幸せになれる。そんな風になれるよう頑張らないと!

 

「まあでも三人だけじゃ話し合いもあんまり意味ないし、他のことを……」

『他の部活の手伝いは?』

「そうそう、剣道部から練習に付き合ってほしいって話が……ああこれ夏凜ってご指名だわ、パスね。子猫を引き取ってくれる人はまだ見つからないし、ホームページの更新はアタシ達はできないし……う~ん…」

「ほむらちゃんが作った問題のコピーと配布でしたら」

「それだ! ……あー、テストがあるのよねぇ…夏休入る前に…」

『わたしたちもほむらさんの問題解こうよ』

 

 でもこの仕事も樹ちゃんが問題をコピーをして、その間に風先輩と二人で使用許可を貰った空き教室に長机を並べて、終わり次第三人でコピーしたプリントを運んで机の上にずらーっと並べて……ってすぐに終わってしまう。

 

「案外すぐ終わったわね」

「これからどうします?」

「……しょーがない、退院したばかりだし残りは全力でダラダラしよー!」

 

 まあやることもないし仕方ないのかな? せっかくだし、私はほむらちゃんの問題を解こうかな………

 

「………あづいぃ…」

「扇風機一台じゃ全然涼しくなんないわね…」

『とけてドロドロになりそう。』

 

 暑すぎて全然勉強に集中できない。三人揃って頭から突っ伏して汗を流しているだけで全く捗らないよ…。

 

「……足りない……何か足りない……そうだ…東郷のお菓子が足りないッ!!」

『まず食べものなの!?』

 

 うぅぅ……私も東郷さんが作ってくれるお菓子を食べたい。でも今食べても味は判らないんだろうなぁ。いつ治るんだろう……

 

「……早いけどやることないし人数も少ないし、もう今日は解散した方がいいかしら? どう思う?」

「そうですね。東郷さん達のお見舞いにも行きたいですし」

『すずしくなる方で』

 

 そんなこんなで今日の勇者部の活動は呆気なく終了。でも風先輩と樹ちゃんと一緒にいられたのはやっぱり楽しくて、私はこの部活が大好きなんだなぁって改めて思う。

 部室の中を片付けて、扇風機の電源や照明を消してみんなで部室から退出する。風先輩が鍵を掛けてから職員室に返しに行って、この日は解散となった。

 

「それじゃあ友奈、二人によろしく言っておいて」

『私の分も!』

「はい! 結城友奈、承りました!」

 

 そのまま私は東郷さんとほむらちゃんがいる病院へと向かう。二人は今頃何してるのかなぁ? エイミーもほむらちゃんと一緒にいるし、あの子を可愛がっているのかも。

 道中何事もなく病院にたどり着き、受付で面会許可を貰って二人の病室へ。病室の位置的にほむらちゃんの方が近いからまずはそっちに。そして二人で東郷さんの病室に行って、三人でお話ししようと考えた。けどその必要はなかったみたい。

 

「ほむらちゃん、お見舞いに…って、東郷さん!」

「あっ、友奈ちゃん」

「いらっしゃい友奈、早かったわね」

「仕事があまり無かったんだ。エイミーもこんにちは」

『♪』

 

 ほむらちゃんと一緒に行こうと思っていたけど、既に東郷さんがほむらちゃんの病室の方に来てたみたい。ほむらちゃんのベッドに座って、備え付けられているテーブルにノートパソコンを置いて何やら作業中だった。

 

「東郷さんもほむらちゃんの病室に来てたんだ」

「ずっと一人だと退屈だもの……ほむらちゃんと一緒だとそんな事ないから…ね」

「ええ。一人っきりで入院だと思うと心細いわ。エイミーもいるけど、不謹慎だけど東郷がまだ入院してくれて良かったわ」

「むぅー…残った私が心細いよー。今日の学校は寂しかったんだよ?」

 

 でも二人も変わらず元気そうで良かった! これなら退院する日もそう遠くないだろうし。

 

「ところで二人共、今何やってたの?」

「ちょっと調べ物をね」

「ほむらちゃんも?」

「ええ」

 

 私が中に入るとほむらちゃんは携帯をしまって、東郷さんがパソコンを閉じていたから、それが何なのかは私には分からない。二人で何を調べていたんだろう……気になっちゃう。

 

「なになに? 何を調べていたの?」

「別に大したことじゃないから…」

「いいじゃん教えてよ~! もしかして二人っきりの秘密とか…」

「えっと……それは……」

 

 ううー……東郷さん苦笑いで誤魔化そうとしてる。まさか本当に東郷さんとほむらちゃんの間に二人だけの秘密が!? 今までずっと三人一緒だったのに私だけ仲間外れは嫌だよーー!!

 

「……調べていたのは旧世紀の時代に現存されていた軍事兵器の詳細とそれらの歴史についてよ」

「へ?」

「神世紀にはもう残っていない物ばかりで見られる機会すら無いけど書物には残っているし、探せばネット上でも見つかるかもしれないじゃない? 軍事兵器と聞けば戦争の道具ってイメージを抱くかもしれないけど、あれは人類の叡智の結晶とも言える技術を結集した物なの。無骨な鉄の塊だけど素晴らしいロマンがあって……そうよね東郷?」

「うん、その通りよ友奈ちゃん。かつて日本軍が戦争に用いた兵器にある一方ならぬ美と夢について語っていたの。軍事兵器は大日本帝国、国防の要……調べれば調べるほど胸が熱くなってそれで」

「ゴメンナサイ私が悪かったです。難しすぎて頭が…」

「でしょうね。友奈には言っても分からなそうだから言い渋っていたのよ」

 

 まさか兵器について調べていたなんて……そういえば前にほむらちゃんとゾンビ物の映画を観に行ったけど、ほむらちゃんが最初に興味を惹かれていた部分って派手なガンアクションシーンって言ってたっけ。銃火器とかに興味があるんだった。

 

「それより、来てくれてありがとう友奈」

「うん。友奈ちゃんに会えて嬉しいわ」

「えへへ、私もだよ。ていうか二人がいなかったから今日の学校の楽しさが当社比五割減だったんだよ」

「ふふふ、随分減っちゃってるのね」

「そうなんだよ。夏凜ちゃんも今日は部室に来なかったし、なんだか物足りなくて」

「……夏凜が来なかった?」

 

 やっぱりほむらちゃんも夏凜ちゃんの事が気になったみたい。取り敢えず今日一日の出来事を二人に話しておくと、まず最初に返ってきた言葉が…

 

「「授業はちゃんと受けないと駄目よ」」

「……はい」

 

 やっぱり怒られちゃった……そうだよね、二人がいないから授業に集中できないっていうんじゃ、二人にもいい迷惑だよ。

 

「けど夏凜ちゃんが心配ね。一日中元気が無いみたいだったんでしょ?」

「……他に夏凜におかしな所はなかった?」

「おかしな所? う~ん……特に無かったと思うけど……ねえ、何か心当たりはないかな?」

 

 夏凜ちゃんに何かあるのだとしたら放ってはおけない。夏凜ちゃんの元気が無い理由が分かれば、それを解決するために私が友達として何でも力になるんだ。

 

「……そうね………強いて言うなれば……御役目が終わった事、かしら?」

「御役目が終わった事?」

 

 ほむらちゃんの考えに私は首を傾げる。御役目が終わったって、それは喜ぶべき事であって悩んだり元気がなくなるのとは真逆だと思うんだけど。

 

「燃え尽き症候群ってあるでしょ? 目標を達成した後に生じてしまう虚脱感。夏凜はうちに転入して来るまでずっと勇者としての訓練ばかりの日々を送ってきたらしいから、御役目が終わった今何を目標にしていけばいいのか分からなくなった……とか」

「なるほど……それでどうすればいいの?」

「まだそうと決まった訳ではないけど、一回ちゃんと話し合ってみるべきじゃないかしら。あの夏凜に元気がないってことは何かしらあるわけだし」

「そうだね。勇者部六箇条、悩んだら相談、だもんね」

 

 ひとまず明日何をやるのかは決まった。夏凜ちゃんと話して大丈夫だって伝えるんだ。私達勇者部のみんながいるんだから、何も恐いことなんかないんだって。

 

「……ところで友奈ちゃん、お昼ご飯はどうだった?」

「それって…」

 

 多分東郷さんは私の味覚が感じなくなっている事について聞いてきている。みんなに心配を掛けるのが悪いと思って東郷さんにしか言わなかったけど、ほむらちゃんがいるのに聞いてくるってことは、ほむらちゃんには教えているのかな?

 

「えっと、ほむらちゃんは……」

「あなたの味覚の事は既に東郷から聞いているわ」

「ごめんね友奈ちゃん、勝手に言いふらしてしまって…」

「ううん、気にしないで。きっとすぐ治るから大丈夫だよ!」

「……そう言うってことはまだ味覚は戻ってないのね」

 

 早く戻ってほしいけど、今までこんなになるまで疲れた事がないからいつ治るかまでは分らない。でも私達には神樹様がついてくださるのだから間違いなく良くなって……その時にお腹いっぱいうどんや東郷さんが作るお菓子を食べるんだって思うととても楽しみだ。

 

「友奈ちゃん、あのね……私……左耳が聞こえなくなっているの」

「……えっ…?」

 

 東郷さんが言った言葉の意味が解らなかった。それって東郷さんも私や風先輩、樹ちゃんと同じで、勇者システムの長時間使用の疲労で出た症状があったってこと…? 聞こえないってどれくらい……小さく聞こえるのか、それとも全く聞こえないのか……考えてしまって恐ろしくなった。

 

「……ごめんね。不安にさせてしまったわね」

「う、ううん平気! むしろ東郷さんの方が不安なんじゃ…」

「心配しないで。あの戦いで疲れただけだもん」

「……そうだね。それに風先輩がお医者さんが治るって言ってたって……だから大丈夫だよね」

「……ええ。あんなに頑張ったのに、治らないままなんて残酷な事があっていいわけがないもの」

「うん! 早く良くなるといいね」

 

 大丈夫、恐いことなんか何もない……戦いが終わって、後はみんな全部回復したら楽しい毎日が待っている。私は東郷さんとほむらちゃんの手を取って指を絡ませ、「早く怪我や耳が良くなれますように」と祈りを込めた。

 

 

◇◇◇◇◇

 

「それじゃあ、またお見舞いに来るからね!」

 

 昨日と同じように笑顔で手を振りながら帰って行く友奈を見送り、その足音が遠くなってやがて聞こえなくなるとフッと息を吐く。やはり友奈や東郷と他愛のない話をする一時は良いものだ。心地良くて私達の体の事を忘れることができるのだから。

 でも友奈が帰った今、また考えなければいけない。東郷に目配せすると彼女は閉じていたパソコンを開いて書いていたデータを更新する。

 

「……友奈ちゃんも回復の兆しは無し」

「樹ちゃんは筆談するようになって、風先輩も新しい眼帯を着けるようになったらしいから二人もよ…」

 

 データには異常が現れた私達五人の回復状況の日にち毎の記録が書かれている。けれどもその記録は『全て回復の兆し無し』……満開の後遺症はいったいいつまで続くのか…。

 

「ほむらちゃんは友奈ちゃんに言わなかったのね。痛覚が無くなっている事…」

「……明るく振る舞ってはいたけど友奈だって東郷の耳の事を聞いて不安だったはずよ。今はまだ伝えるべきではなかった」

「……うん…」

 

 いくら辛い怪我が全く痛くないとはいえ、痛覚が無くなるなんて奇妙な症状が出たなんて言えば逆に不安を煽る。あの子は友達思いのとても優しい子……こんな事で苦しめたくない。

 

「やっぱり、風先輩に聞いてみない?」

「……たぶん風先輩も知らないはずよ。風先輩が後遺症の存在を知っているのなら私達に確かめにくるだろうから」

「でも満開による後遺症なら大赦が把握しているかもしれない。風先輩が知らなくても大赦に聞いてもらう事はできると思うの」

「一理あるわね…」

 

 大赦と連絡を取れるのは風先輩と夏凜だけ。そして風先輩は私達勇者のリーダーでもあった。話を通すのは難しくもないはず……その相手が余程捻くれていない限り。

 携帯を取り出し風先輩に電話を掛ける。東郷にも聞こえるようハンズフリー状態にしてテーブルの上に置く。

 

『わ た し だ』

「…もしもし、その滑り具合いは風先輩で間違いありませんね」

『滑ってないわよ! てかその言い方だとアタシがいつも滑ってるみたいじゃない!』

 

 ……いけない、こっちの気も知らないでおふざけに走った雰囲気の風先輩についイラッときてしまった。風先輩がふざけるのはいつものこと……平常心平常心。

 

「すみません、風先輩にお聞きしたいことがあって…」

『スルーされた…って東郷? あんたまでどうしたの?』

「…風先輩は満開後の後遺症について何かご存知でしょうか」

『満開の後遺症? 何それ』

「……実は」

『あ、ごめんちょっと待って…樹先に食べててー』

 

 樹ちゃんが近くにいたみたいで席を離れたようだ。確かに樹ちゃんにこの事を知らせるのは私としても避けたい所ではある。

 

『いいわよ。それで後遺症って…』

「あの戦いで満開をした私達五人全員の体に症状が出ているんです。風先輩は左目、樹ちゃんは声…と言うより声帯」

「そして私も左耳が全く聞こえなくなっているんです」

『うそ……五人全員って……ほむらと友奈も…なの…?』

「……ええ。私は怪我の痛みを全く感じていない……痛覚が無くなっています」

「友奈ちゃんは味覚を無くしています。お菓子もジュースも何も味がしないと言っていました」

 

 風先輩も知らないのは想定済み。彼女はかつて私達を勇者の御役目に巻き込んだ事を後悔していて、何が何でも私達を守ろうとしてくれた素晴らしい人なのだ。後遺症の存在を知っているのなら真っ先に症状が現れたかどうか確認し、心配していただろう。そんな風先輩に教えるのは酷だが今頼れるのは彼女しかいない。

 

『……後遺症って、それは満開をしたからって事で間違いないの…』

「恐らくは……昨日からずっと二人で話し合っていたんです」

「夏凜にも何か異常がないかそれとなく確認したけど何もないと返ってきました。症状が現れた私達五人に当てはまって、夏凜だけそうではないもの……加えて戦いの後に現れたという情報があれば、後遺症と満開を繋げることはごく自然でしょう?」

『……そう…かも………ごめん、こんな事になって……』

 

 力無く返事をする風先輩はやはりショックを受けているのだろう。体に異常が出たのが自分と樹ちゃんの二人だけじゃなかったのだからそれも当然か。

 

「あまり気負わないでください。確かに私は痛覚が無くなっているけど、おかげで脱臼した足が全く痛くないんですよ? 症状だっていずれみんな元に戻るんですから」

「その通りです風先輩。風先輩が悪いんじゃないですから」

『……ありがと。そうよね、病院の先生もすぐ治るって言ってたし…』

 

 まったくこの人は……いったい誰が風先輩が悪いと言えると勘違いしているのよ。風先輩に非は一切ないし、私達がそんな薄情な人間とでも思っているのかしら。

 

「それで風先輩には大赦の方に後遺症についての詳細を確認してもらいたいのですが…」

『そういうことね。大赦なら何か知っているかも…と』

「ええ。回復するまでの具体的な期間とか、何でもいいので情報を知りたいので」

『分かったわ。後で連絡しておくから、二人共あまり無理しないように。ちゃんと体を休めて早く帰って来なさいよ』

 

 風先輩の言葉に私と東郷は揃って顔を見合わせ苦笑する。昨日から東郷と話し合ったりネットで症状について調べたりで、ろくに休んでいなかったから耳が痛かった。痛覚が無いのに?

 

「了解です。大人しく大赦からの吉報をお待ちします」

「私も気をつけます。それでは…」

 

 通話を終えてベッドに倒れ込む。約束したし、現状できることは全部やっただろう。後は東郷の言ったように体を休めながら大赦からの返答を待つしかない。

 

「……ほむらちゃん…」

「……」

「……ほむらちゃんは……ううん、何でもない」

「……そう」

 

 東郷が何を言おうとしたのか、別に口にしなくても分かっている。たぶんそれは今東郷が何も言っていなければ逆に私が尋ねようとしたものと同じ内容だろう。

 

(東郷は……満開の後遺症がいずれ治るものだと、本当にそう思っている?)

 

 勇者は神樹様の力を得てバーテックスと戦う者、すなわち私達には偉大なる神様がついていた。そして満開はそんな勇者達の力を更に増大させた……まさしくあれは神の力と言っていいほど強力で凄まじいものだった。

 

人身御供(ひとみごくう)

 

 私達が症状について調べる中、一度神様についても調べていてこんな言葉を見つけていた。意味は……神に人間を生贄に捧げる事。それによって人々はより強力な神の加護を受けられる。

 

 満開とはもしやこの人身御供だったのではないか……その考えが私の頭から離れようとしていなかった。捧げる生贄とは勇者の体の機能。強力な神の加護とは満開。そして既に捧げられた生贄が元に戻るなんていうことは……

 

 私はただ願うしかない。ただの杞憂だと、考えすぎで本当に治るという可能性が残っている事を。じゃないと……

 

「………あら?」

「ほむらちゃん?」

 

 ふと何か違和感を感じて体を起こす。そして病室の中を見渡してその正体に気づく。

 

「……エイミーはどこ?」

「えっ…?」

 

 ずっと私の側から離れなかった私の精霊、エイミーの姿が消えていた。

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