ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
それと誤字報告をしてくださった方々、ありがとうございました。
全員でおっとりするように、のんびりと温泉を堪能する。ありふれた感想になるが、ここの温泉はとても気持ちが良かった。海で遊び疲れた体に沁みる……風先輩のように言うなれば、「あ゛ぁ~生き返るぅ~」というやつだ。
「良いお湯~」
「本当にね、友奈ちゃん」
「あ゛ぁ~生き返るぅ~」
「年寄りか。気持ちは分からんでもないけど」
みんなもこの立派な温泉に大層満足している様子だ。それにこうやってみんなとお風呂に入るというのも珍しい。裸の付き合いというが、案外悪くないものだ。
「というわけで夏凜、女同士なのに何照れてるのよ」
「べっ、別に照れてなんか…!」
「じゃあ何で一人隅っこの方に離れてるの?」
「ぐ、偶然よ偶然!」
「友奈」
「アイアイマム! 夏凜ちゃんこっちにおいで~!」
「ばっ、ばばばばば!! 近付くなーーっ!!」
何も言わないうちに私の意図を汲み取った友奈と夏凜の追っかけっこが始まる。友奈は無邪気に手を伸ばしながら、夏凜は顔を真っ赤にして必死に逃げる。温泉の中を二人してグルグル回り続ける愉快な光景が広がった。
「もう、友奈ちゃんと夏凜ちゃん! 温泉の中で暴れる悪い子にはお仕置きよ!」
「だったらコイツを止めなさいよ! ってしまっ…!」
「夏凜ちゃん捕まえたー!」
「ぎゃああぁぁぁ!! 友奈当たってる、当たってるってぇーー!!!」
ついに友奈に捕らえられた夏凜。その背中には友奈の胸が思いっきり押し付けられているわけで……アレは…同性でも結構恥ずかしいわね……。
「友奈ちゃんの美しく完璧な形をした胸が夏凜ちゃんの背中で圧迫されているあんな柔らかそうに形が変わるなんていったいあの胸の中にはいったい何が考えるまでもないあの胸の中には生きとし生ける者達全ての希望が詰め込まれているに違いないそうそれはまるで大和型戦艦のように雄大で儚い絶対的なものそれを私ではなく夏凜ちゃんが至福の感触を味わうだなんておかしい何かの間違いそうでしょう夏凜ちゃん行き過ぎたやらかしにはお仕置きが必要ね夏凜ちゃんほらこっちにいらっしゃい夏凜ちゃんわぷっ!」
「怖いわよ…」
「夏凜は何も悪くないでしょうが……」
温かいはずの温泉を冷気と殺気が包み込み始めた所で、鎮めるべく東郷の顔にお湯をかける。今回のは今までの暴走の中でトップクラスの危険を感じた。
「うぅぅ、ほむらちゃぁん…! 友奈ちゃんが夏凜ちゃんに取られてしまう…!」
「友奈が誰かに抱きつくなんていつもの事じゃない。ただのスキンシップよ」
「でもお互い裸なのよ!!? 間違いが起こりでもしたら!!」
間違いって何よ……。やっぱり今回の東郷は今までの中で一番ヤバいかもしれない。
でもこうなってしまったのも、元を辿れば私のせいと言えなくもないような……
「……まったくもう…友奈の代わりに私の胸を貸してあげるから落ち着きなさい」
「ほむら~、その台詞はあんたみたいなスラム街が言っても意味ない台詞だぞ~」
「大事なのは大きさではなく心ですよ」
取り敢えず、ここは責任をとって私が代わりになって彼女の心を温めよう。こんな暴走しっぱなしの東郷が側にいては誰も落ち着けないし。というかちょっと待って、今風先輩私の胸の事をスラム街って言った? ほむほむの
不名誉極まりない。「退廃地区なんて運命に屈して終焉待つのみで救いようがないものじゃないの。私の胸を語るならせめて砂漠とかにしてほしい。彼方に広がる絶望的な砂山でも、オアシスという名の希望が僅かながら残っている分、私達は希望を失わずに前を向ける……そういうものを所望するわ。
「……何訳の分かんない事を言っているんだね、チミは……」
えっ、やだ、口に出ていたかしら?」
「う、うん、私には違いはよく分からなかったけど…」
「だったら話は早いわ。風先輩、スラム街は撤回して砂漠にしてください」
「お、おう……どっちもどっちなんじゃ……さっぱり意味が分からんちん。ねえ樹……えっ、なにそのハンドサイン……ちょっとだけ? え、分かったの!?」
「どうでもいいこだわりなんていいから!! 誰かコイツを引き剥がしてーーーっ!!!」
……これは…最初から友奈を引き剥がした方が早かった気がする。
◇◇◇◇◇
温泉から上がって部屋に戻ると六人分、三対の布団が並べられていた。うち一つの布団の上では部屋で待っていたエイミーが寛いでおり、私が寄るとその分のスペースを作ってくれたから、その布団は私とエイミーで寝ることになった。他の布団も次々に決まって中に潜り込む。私の隣は東郷、正面は樹ちゃんである。
「女六人集まって旅の夜……どんな話をするか分かるわね?」
「ええっと……辛かった修行の体験談?」
「違う。修行してたのアンタだけでしょうが」
「日本という国の在り方について存分に語るのですね!」
「それも違う。女子力の欠片もない」
『コイバナ…?』
「イエスその通り! 恋の話よ!」
「もう一度お願いします」
「こ、恋の話よ。何度も言わせないで…」
「鯉の放しですか……随分変わった依頼を引き受けたんですね」
「ラブの話!!」
まーた風先輩の悪ノリが出てきたわね、恋バナなんて。確かに定番といえばその通りなんだけど、このメンバーでそういう話題なんて無いと思うのだけど。
「では、誰かに恋をしている人?」
「「「「『………』」」」」
ほら、やっぱりいないじゃない。隣の人の手が一瞬ぴくりと動いたけどやっぱりいないじゃない。
「フッフッフ、ここは女子力の帝王であるこのアタシのとっておきの体験談を「「「しなくていいです」」」友奈! 東郷! ほむら!」
「風先輩がチア部の助っ人に行って」
「チア姿に惚れた男子生徒からデートに誘われて」
「その生徒が休み時間中に男子達といやらしい写真を見せ合ってる上に子供っぽいから断った……もう耳にたこができる程聞いたわよ」
『私ももう10回は聞きました』
「うげぇ…」
「……ごめんなさいみんな、私があの依頼を風先輩に回してなければこんな事にはならなかったのに…!」
「ううん! ほむらちゃんは悪くないよ!」
『悪いのはお姉ちゃんに告白した人です!』
「そうよ! 風先輩が告白されるなんて誰も予測できないわ!」
「東郷言い方ァ!!」
唯一の恋バナもこれじゃあ、期待できる話なんてもう無いでしょうね。でもみんな美少女なんだし、誰がいつそういうのに出会えるのかも分からないのよね……私達がいる間に絶対誰かは告白されるとは思う……。
「風の話は分かったけど、他に誰かいないの? 告白されたヤツ」
「ほむらちゃんが一年生の頃にたくさんラブレター貰ってるよ」
「「え!?」」
「……え?」
突然飛んできた友奈からのキラーパス。風先輩と夏凜が声を上げ、樹ちゃんも驚きの目で私を見つめる……私自身も驚いている。
「確かに…一日で十通ぐらい貰ってたわね」
「「じじじじじ、十通!!?」」
「うん! 下駄箱を開けるとたくさんのラブレターがドサーッって落ちてた」
「どどどどど、どういうことよほむら!!」
「一年生の頃って、アタシ聞いてないわよ!?」
『1日で10通って、合計はもっとあるってこと!?』
私がラブレターを貰った? そんなことって……
「……そういえばそんなことがあったような……完全に忘れていたわ」
「忘れてたってアンタ!?」
『ふつう忘れられませんよ!』
文化祭のミスコンで優勝してしまった結果、一時期ラブレターが届く日々が続いていた。どうでもいいことだったから全く意識していなかった。
「そもそも全く知らない人から一方的に好意を伝えられてどうしろっていうのよ。思い出したけど、お互いまだ何も知らないならこれから一緒に理解していこうとか書いてあるのもあったけど、こっちは最初から知った事じゃないのに何様だって思ったわ」
「うおお……ばっさり斬るわね…」
「現に今まで忘れてるしね…」
あの頃は勇者部で活動する日々が充実していたし、恋人を作るまでもなかった……というか私が恋人を作る事を考えたことなんて今まで一度もないのよね。勇者部のみんなが魅力的すぎて、男子にはそれらをほとんど感じないから尚更。
「何よりも…女子にラブレターなんか使って告白するなんて、直に目を見て告白する勇気のない根性無しはごめんよ」
「ラブレター全否定!? ……でもまあ、言われてみればそれもあるかも」
「確かに、頼りないヤツが恋人ってのは論外ね」
『ほむらさんビシッとしていてカッコいいです!』
「ふふっ、樹ちゃんのその誉め言葉の方が何万倍も嬉しいわ」
しかし恋人ねぇ……はたして今後、勇者部のみんなの様な男の人が見つかるかしら? 我ながらかなり高望みね。
「ほむらの衝撃的過去はこんなもんね。よーし、それじゃあ次は友奈! 何かきわどいの!」
「ええっ!? いきなりそんな事言われても…!」
「きわどいのなら任せてください!」
「東郷は違う意味できわどいでしょ…」
「夏凜は……って、夏凜?」
夏凜の話を聞こうと思って声を掛けようとすると、穏やかな様子で寝息を立てていた。昼間にたくさん遊んでいたし、体は疲れていたのね。かくいう私も、いつもならまだ起きていられる時間だけど、目を閉じれば自然に眠れるぐらいには疲れている。
『かわいい寝顔ですね』
「しゃーない、今日の所はもう寝ましょうか。夜更かしは乙女の敵だしね」
「そうですね。私も眠いですし」
「あれ? 東郷さんどうかしたの?」
「何でもないよ、友奈ちゃん」
何やら一瞬東郷が不気味な笑みを浮かべていたけど気のせいかしら。
それが気のせいではなかったことを、私達は部屋の電気が消灯されてすぐに気付くこととなる。
◇◇◇◇◇
朧気な視界……それだけではない、頭もぼんやりとしている。そのせいか私は、二年前から全く動かない足を普通に動かして歩いている事に何の疑問も持たなかった。
「ごめん遅れた!」
「もう……だから一緒に行こうって言ったのに」
苦笑いで駆け寄ってくる、活発そうな知らない少女に向けて、自然に言葉が紡がれる。初対面の相手と気安く話すなんて、失礼だと思いつつも違和感が無い。なんだか不思議な気分だ。
「いやぁ、次から気をつけるって」
「次から気をつけるって、これで何度目よ? もう…」
本当に反省しているのかどうか分からない、にへらと笑う彼女に溜め息を零す。でも彼女が毎度遅れてくる理由を知っている以上、非難なんてできるわけがない。
……理由を知っている? 知らないはずの彼女の?
「うん? 何やってんだ? 早く病院に行こうぜ?」
「ええ、そうね。今日は何の話をしようかしら」
わくわくしながらこれからの事を考えると、いつの間にか私と彼女は病院のロビーを一緒に歩いていた。受け付けで面会の許可を貰い、行き慣れた通路を再び歩き出す。
「すんなり許可を貰えたわね。もう病院の人も私達が来るのが分かってるみたいだったわ」
「それは私が後から二人が来るって最初に言ってたからなんよ~」
「うおぉ!? お前いつの間に!」
突然後ろから声が聞こえた。振り返るとそこにいたのは猫の枕を抱えた、上品な顔立ちでありながらも、ぽやーっとしている少女がいた。
「えへへ~、二人ともおはよ~。お~は~サンチョ~」
「おう! 相変わらずロックだな!」
「おはよう。本当、相変わらずなんだから」
やっぱり知らない女の子……でもどうしてだろう、彼女達が側にいると、まるで勇者部のみんなと一緒にいる時のような、心から安心してしまう安らぎを感じてしまう。
……いや、足りない。この二人だけでは欠けている部分がまだ埋まっていない気がする。
「ってか、お前はどうしてここにいるんだ? 忘れ物か?」
「違うんよ~。みんなの分の飲み物でも買ってこようかと思ったんだ~」
「なんだ、だったらアタシも一緒に行って選んでやるよ」
「あっ、だったら私も…」
「さすがに三人はいらないって。先行って待っててくれよ」
「…そうね。それじゃあお言葉に甘えて…」
「んじゃ、また後でな」
「行ってきまーす!」
「ええ、いってらっしゃい」
二人と別れると、辺りを静寂が包み込む。一緒にいて幸せに感じる二人はいなくなったが、私は先程までと変わらずにわくわくしながら目的の部屋へと向かう。
■■■■■も私と同じ気持ちで待っているのを知っているから。早く■■■■■に会いたいから。
目的の部屋の扉を開けると、中にいたその人はいつものように優しく微笑みかけてくる。あの子は私の来訪に、心からの嬉しそうな笑顔を見せる。
───おはよう、須美ちゃん
───今日も来てくれてありがとう
いつの日か、私の親友が言っていた……彼女は星のような人なんだと。笑顔と心の優しさを司る星……し…しぇ……せ? 駄目、英語は分からないし分かる気も起きない。
だけど笑顔と心優しい星のような人と私もそう思っているのだろう。でなければ彼女達の姿を見てこんなに嬉しくなるわけないのだから。
勇者部のみんなとは違う、大切な人達に囲まれた日常……。
懐かしい、かつて一番幸せだった頃の……夢だ。
「………夢…?」
目が覚めるとまだ日も昇っていなかった。当然みんなもまだ眠っている。風先輩が夏凜ちゃんに抱き付くように眠っているのを見て思わずクスリと笑みが零れる。普段は風先輩が夏凜ちゃんをからかう事が多いけど、こうやって見るとやっぱり二人とも仲良しなんだって実感するから。
いつもより早く目が覚めてしまったけど、もう眠気も残っていない。二度寝する気も無く、みんなが起きるまで明け方の海を眺めることにした。
「さっきの夢……ふふっ」
何故だか分からないけど物凄く胸が高鳴っている。夢を見てここまで幸せな気分に浸れるなんて初めてだ。あの夢で出てきた人達は誰だろう。もはや顔もぼんやりとしか思い出せないし、あと数時間もしないうちに完全に忘却されてしまうだろう。だけど今なお温もりが私を優しく包んでいるかのように感じる。彼女達は私の夢だけの存在なのか、もしかすると実在する人なのか……。
「………っ!?」
そして気付く……私がいつも肌身離さず身に付けているリボン。夢に出てきた少女の後ろ姿……。
「このリボン……あの女の子が付けていたのと同じ…」
私が記憶を失った時から持っていたリボン。とても大切なものだと思って一度も手放さなかった、だけど誰の物なのかわからないままだったリボンを…あの子が…。
偶然か、夢の都合のいい解釈か、それとも……
もしかしたら、失ってしまった記憶に関わる人達だったのか……
私は……大切な人達との記憶を…失っている?
「あら? 東郷ももう起きていたのね」
「ほむらちゃん。おはよう」
「おはよう。良い景色ね、海が綺麗で」
気が付くと私の下にほむらちゃんが近寄っていた。挨拶を交わすとほむらちゃんも、私の正面にある椅子に座って海を眺める。
「……どうしたの東郷?」
「えっ? 何が?」
「何やら浮かない顔してるわよ。悩みでもあるの?」
……相変わらずほむらちゃんは鋭い。こうも容易く私の心境を見抜くなんて。
色々考えてしまう……私の過去の事だけじゃない、これからの事だって。
「……ねぇほむらちゃん、私にはね、友達がいたかもしれないの」
「……それって私達以外の人よね。 いたかもしれないって……ひょっとしてそれはあなたが事故で記憶を失う前にってこと?」
「うん……夢を見たの。知らない人だけど、とても幸せで懐かしかった。ただの夢とも考えたんだけど、もしかしたら私には本当にそんな人がいたのかもしれないって……」
本当に私の友達がいるのだとしたら、その人は今どう感じているのだろう。友達に存在を忘れられているとなると、きっと悲しい事に違いない。もし私も友奈ちゃんやほむらちゃん、勇者部のみんなに存在を忘れられてしまったらと考えると、物凄く辛い事なんだと分かってしまう。
本当に私がその人達を苦しめているとなると、申し訳ないという気持ちでいっぱいになりそうだ。
「だったら私が、東郷さんのお友達探しを手伝うよ!」
「っ! 友奈ちゃん!?」
「おはよう二人とも!」
「え、ええ、おはよう友奈……いつの間に…」
ほむらちゃんの言う通り、友奈ちゃんいつからそこに? というか話の内容までちゃんと聞いていたみたいだ。
「二人の声が聞こえて目が覚めたんだ」
「そ、そうなの…ごめんなさい。起こしてしまったのね」
「ううん、気にしないで。それよりも、東郷さん悲しいんだね。友達の事を忘れてしまったんじゃないかって」
「…うん」
「……嫌だよね。大切な人を忘れるのも、忘れられちゃうのも」
優しく語りかけてくる友奈ちゃん。私の心をこぼさないよう、温かく包み込んで受け入れてくれた彼女は心を痛めている。私と、見知らずの私の友達のことを想って……
「そのリボン、肌身離さずだね」
「……うん。私が事故で記憶を失った時に握り締めていた物なんだって。誰の物なのか分からないのに……とても……とても大切な物な気がして…。だからきっと……このリボンは…」
「そっか……やっぱり、その人は東郷さんにとって本当に大切な友達なのかもね」
「……ええ。記憶を失ってもそのリボンをそんなに大事にしてるなんて、並みの思い入れじゃないのでしょうね」
二人の出した結論も私と同じく、私には大切な友達がいたというもの。ますます悲しみが大きくなりそうに感じるも、友奈ちゃんが手にブラシを持って私の後ろに回り込んで来る。そのまま私の髪を解かし始めると、みんなが大好きな元気いっぱいの口調で言い出した。
「だからね、一緒に東郷さんのお友達を探そう! 手掛かりもあまり無いかもだけど、きっと向こうも東郷さんに会いたいと思ってるに違いないよ!」
友達思いの友奈ちゃんらしい、優しい意見が出される。でもそれは、手掛かりなんて実質無いようなもので、困難を極めるはず……なのに、ほむらちゃんもその意見に頷いていた。
「確かに難しそうだけど、勇者部六箇条、なせば大抵なんとかなる、なるべく諦めない、家族や友達を大切に……三つも当てはまる内容よ。私も手伝うわ。東郷とその友達を元通り幸せにしないとね」
「ほむらちゃん……友奈ちゃん……!」
「大好きな友達と離れ離れなんて辛いだけだよ。苦しいし寂しい、だけど一緒にいるならそんな事はない、幸せになれるんだよ。だから私は東郷さんとほむらちゃん、みんなとずっと一緒にいるんだ」
「私もよ。みんなと一緒にいるからいつも幸せなの。大切な存在が欠けたままなんて駄目……失ったのなら何が何でも取り戻して、本当の幸せを得るべきよ」
「……ありがとう、二人とも」
かつて私は大切な友達との記憶を失ったのだろう。名前も顔も、どこにいるのかも何も分からない友達。私一人だけだったら二度と会えないと諦めて、記憶を失った罪悪感で悩み苦しむだけだったかもしれない。
だけど彼女達と一緒なら、いつか本当に再会できる日が訪れるのかもしれない。
「えいっ! 東郷さんに、ぎゅーっ!」
「ふふっ、友奈ちゃんったら」
「ほむらちゃんもこっちにおいでよ」
「はいはい、友奈と東郷まとめてぎゅーっ!っと」
「あはは! 温かいね、東郷さん」
「うん。本当に…温かいね」
「せっかくだし、写真を撮りましょう。始まりの仲良し三人組で」
「それいいね!」
朝焼けの綺麗な海を背景に写し出される写真。私達三人の溢れんばかりの笑顔が咲くその新しい宝物を、私達はずっと大切にするだろう。
私の最高の友達。
◇◇◇◇◇
楽しかった夏合宿も終わり、家に帰りついた私達勇者部+エイミー。これからは文化祭の演劇に向けて活動していくのだろう。去年とは違って、今年は樹ちゃんと夏凜がいる。間違いなく私達なら最高の文化祭に盛り上げられると、そう思っていた。
風:大赦から連絡が入った。バーテックスに生き残りが判明。戦いは延長戦に突入するって…
戦いはまだ……終わっていなかった。
同時刻
「申し訳ありません。貴女様方を現勇者様にお会いさせるわけにはまいりません」
「友達なんだよ? 会わせてくれてもいいんじゃないかな?」
「申し訳ありません」
「さっきからそればっか。もういいよ」
「……やっぱり駄目だったね」
「うん。最初から分かってたことだけど、あんな風にワンパターンの否定ばっかりされてちゃ、イライラするね」
「仕方ないよ。今や私達は半分神様みたいなものだから。どうしても崇められてしまうよ」
「……もうこっちから呼んじゃおっか」
「えっ? 呼んじゃうって……園子ちゃん、前にやって上手くいかなかったんじゃ…?」
「それは樹海化されていない時にやったからね~。今度のバーテックスが攻めて来た時にやればこっちに連れてこれるかもしれない。試してみる価値は十分だよ」
「……分かったよ。次のバーテックスの襲撃の時に賭けよう」
「……早く会いたいなぁ……わっしー…」
「そうだね。須美ちゃんは…大きくなったのかな…」
「わっしーの胸の大きさが最初に気になるなんて、先輩のエッチ~」
「ええっ!!? ちっ、違うよ身長だよ!!?」
「分かってるよ~。先輩はいつも初々しい反応をするから面白くて」
「も、もう園子ちゃん!」
とある隔離された部屋にて、二人の少女が今後の方針を決めていた。そのやり取りは年相応のものでありながらも、他の者は誰も口出しすることは許されない……神の対話に等しいものだった。