ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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 はい2万文字オーバー!!!!(クソデカ溜め息)


「それが乃木の生き様だ」

「しっぽくうどんですか?」

「ああ。ほむらが一番好きなうどんと言ってな。久しぶりに食べたくなったんだ」

「……ふふっ、解りました。今度材料を集めておきますね♪」

「……上機嫌だな? 意外だ」

「意外とは失礼な。私がいつまでも怒った事を引きずる女だと思っているんですか?」

「そ、そんな訳ないだろう」

 

 良かった。説教をされた直後だったから断られるかもしれないという不安があったが無事に作ってくれるようだ。

 ……この私としたことが、授業開始のチャイムに気づかないほど話し込んで皆に大きな迷惑をかけてしまうとは……猛反省だ。これでは断じて、周りの模範たる乃木の人間の行いなどではない……。

 

 だが、まさか私がひなたではない同年代の者と会話で夢中になれる日が来るとはな……。

 ほむらは気が小さいようで姉のまどかとしかまともに話す姿を見たことがなかった。訓練も勇者としては明らかに体力が無くて、動きも褒められたものではなく今後のことを考えると困らずにはいられないのだが……話してみれば、案外良い奴ではないか。

 

 いきなりの私の頼みも引き受けてくれて、うどんに対する想いも立派……もっと早く知りたかったものだ。ひなたがしっぽくうどんを作ってくれるし、いつかほむらが教えてくれた手打ちうどんの店に訪れるのも楽しみだ。

 

「しかしひなた、何故敢えてほむらやまどかに協力してもらえばいいと言ったんだ?」

「あら、私は現地の方としか言っておりませんよ」

「私が声を掛けられるのはあの二人しか居ないと解りきっていただろう。煙に巻くような真似は止めてくれ。ほむらは全く心当たりがないと言っていたが、どういう意図があったんだ?」

 

 ほむらは土地勘があるからと言っていたが、ひなたが望んでいる物がそれだけで見つかるのかと言えば疑問が残る。といっても、どうせ答えてくれないのだろうが……

 だがひなたは何かが引っかかったようで、不思議そうに首を傾げた。

 

「……この際白状してしまいますが、私が若葉ちゃんの力になっていただきたかった人物はほむらさんだけです。まどかさんは誕生日が私の前日ですし、手を煩わせるのは良くないと思いましたので」

「なに?」

「まどかさんにも声をお掛けになるつもりだったんですか?」

 

 思いがけない問い掛けの意味が解らん。ひなたがそうすればいいと暗に私にヒントを与えたのではないか。

 

「まどかはほむらの姉だろう。血の繋がりは無いとは聞いたが……。あいつも丸亀市に住んでいる、現地の人間じゃないか」

「それはそうなのですが……まどかさんは元々本州の他県出身ですから」

「そうなのか…?」

「それもご存知無かったんですか? 今年の7月の始めにお母様の仕事の都合でこちらに家族で引っ越しをなされたそうですよ」

 

 驚いた、まどかは丸亀市どころか香川県の人間ではなかったのか? それも7月ということは、ここに引っ越してから3ヶ月も経っていない。それでは土地勘は私やひなたとさほど変わらないのではないだろうか。それを知っていれば確かに、敢えてまどかに頼もうとは思わないな……。

 ……今のひなたの発言からして、ほむらの方は丸亀市の人間で間違いないみたいだな。そもそもうどん好きだし…………

 

 ……待て、何か変だ。私は何か、とてつもなく大事な事を見落としていないか……!?

 ほむらは自分が養子であると言っていた。丸亀市の人間であるほむらが、つい2、3ヶ月前に引っ越してきたばかりのまどかの家の養子だと……? てっきり私はもう何年も昔からほむらは養子になっているものとばかり……。

 

『あの……全く似てないと思うんですけど…? 私とまどか……』

 

 血の繋がりは無い。元々が親戚という訳でもないだろう。恐らくあの二人は、まどか達鹿目家の者が丸亀市に引っ越してきてから初めて出会ったのではないか……?

 

『……私はしっぽくうどんが……母がよく作ってくれたんです』

 

 ……ほむらがここ数ヶ月でうどん好きになったとは考えられん。あれからは私と同じ、うどんが生まれた時から身近にあって数え切れない程食べてきた、真の讃岐国(さぬきのくに)のうどん好き特有の波長を感じた。あいつの母親が作ったであろう、一番の好物であるうどんを……。

 それならば、ほむらと血の繋がっている本当の両親はどうしたんだ……? 何故ほむらは養子に出され、鹿目の名を名乗っているんだ……?

 

 ここ数ヶ月間でほむらの家族に何が………そう考えた時、一つの考え得る最悪の可能性が思い浮かぶ。

 

「…………ひ、ひなた」

「ど、どうしました? 若葉ちゃん。顔が真っ青ですよ……?」

「……ひなたは……知っているか…? 何故ほむらが鹿目家の養子になっているのか……」

 

 違うはずだ…! そんな事がこんなすぐ身近な所である訳…!

 ……だが、それは世界中の至る所で起こってしまった悲劇だ。そうであってほしくないと他ならぬこの私が目を背けているだけだった。

 私はあの時何と言った……? 気を良くしたばかりに何も考えもせずに、ほむらにうどんを作ってくれる母親というのが、ほむらとまどか二人共の母親であると思い込んで……

 

「……知っています。私とまどかさんは勇者お目付役の巫女ですので、皆さんの個人情報や過去の経歴等は大社から予め伝えられてますから」

「教えてくれ…!!」

「それは……ほむらさんの了承も無しに、部外者の私が勝手に言い触らすのは……」

「くっ……!」

 

 その言葉は尤もだ。一体私に何の権利があって、本人の知らぬ所であいつの個人情報を勝手に暴く。

 

 その重さは他人には絶対に知られたくないと隠したり、逆に大っぴらに明かせたりと人それぞれかもしれないが、どちらにせよ無断で暴くのであれば、人としての礼儀の観点から見れば大いに問題がある。時には信用を失い、相手の心を深く傷付ける事態にもなりかねないのだから。

 

 明日本人に直接聞けば良いのかもしれないが、最早私にとってそれは一刻も早く明らかにせねばならない問題だった。それに、仮に一晩中待って明日ほむらに聞いたところで、その重さ次第では口を開かず判らず終いのままという結果だって有り得る。

 

 私は乃木家の人間だ。先祖代々受け継がれてきた栄えある良家の一族としての誇りがある。乃木家の者として、そのような無粋な真似など言語道断……だが!

 

「決して他の人達には漏らさない!! 頼むひなた……私はあいつに……とんでもない過ちを犯してしまったのかもしれないんだ……!」

 

 私はあの時、無意識の内にほむらを傷つけたのかもしれない……。

 

 不甲斐ないことに、私にはそれが本当にそうなのかという確証が無い。思い過ごしの杞憂かもしれないのだが、その確証を得られる証言をひなたが持っている。

 

 私の罪が真か偽か、仲間を傷つけたか否か……それを確かめるためなら無粋と云われようが構わん!! 乃木の誇りを汚す事になろうとも……否、仲間を哀しませた可能性を見て見ぬ振りし、過ちに気づこうともしない奴に乃木の名を名乗る資格など無い!! 誇りなんぞすぐに捨ててしまえ!!

 

「……私もほむらさんに謝らないといけませんね。謝って済む話ではないのですが……」

 

 伏せ目がちのまま、ひなたはそう呟いた。そこからはほむらに対する申し訳なさがありありと感じ取れる。

 大社が巫女に勇者の個人情報を伝えたのは、その者の背景を理解している事で勇者を精神面に於いてもサポートしやすくするためであろう。秘密厳守だったのだろうが、私が無理を言ったばかりに……。

 

「すまない、ひなた……」

「私が決めたことです。悪いのは私……断らないといけないのにそうしなかった私がいけないんです」

 

 

 ひなたの口から真相が語られる。私の思い過ごしであってほしい……想像したあんな最悪の出来事がほむらの家族の身に降りかかってなどいないのだと心の中で強く願いながら耳を傾けた。

 

 

 私はほむらに、決して言ってはいけない事を笑いながら言った……それが間違いであってほしかった。

 

 

『ほう、香川県の誇る郷土料理とはよく解っているじゃないか! しっぽくうどんをよく作ってくれた、か……大変立派な良い母親を持ったのだな』

 

 

「ほむらさんの本当のご両親は───」

 

 

「………そう…か……」

 

 

『親孝行を大切にせねばな。私は今は両親と離れて暮らしているから母の作るしっぽくうどんは食べられないから羨ましいぞ』

 

 

「この……大馬鹿者がぁぁああああ!!!!」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 わたしがそれを見ようと思ったのは、ほむらちゃんの様子が明らかにおかしかったから。

 

『……私…こんなので本当にやっていけるのかな……あ……』

 

 お風呂から上がって、わたし達の部屋の扉を開けるのと同時にそんな言葉が聞こえた。加えてそう呟いたほむらちゃんがわたしの顔を見た途端、気まずそうに目を逸らして口ごもったから、きっと人に聞かれたらまずかったものだったんだって感じた。

 

『……だ、大丈夫だから、気にしないで…?』

 

 無理やり笑みを作っていたけど、それは誰がどう見ても大丈夫だなんて安心できない偽物の笑顔でしかない。ほむらちゃんがそんな様子である事に違和感を感じながらも、その間にほむらちゃんはいそいそと着替えを手に取って部屋から出て行こうとする。

 

『えっ、ちょ…ほむらちゃ…!』

 

 慌てて呼び止めようとしたけど間に合わなくて、結局わたしの横を通り過ぎて行っちゃった……。どうしちゃったんだろう……不安気にそう思いながら部屋の中に入ったその時、わたしの目にはほむらちゃんの机の上に置かれたままの一冊の上質そうな表紙をした記帳が見えていた。

 

 勇者御記……簡単に言えば、勇者が書かなくちゃいけない日記のこと。そういえば、今日はほむらちゃんはこれを先に書くからお風呂を後回しにしていたんだって思い出した。

 それになのにこれを鞄に入れず、机に置きっぱなしってことはどうしてだろう? わたしがお風呂に入っている間に書ききれなかったなんて、それは変だもん。勇者御記なんて特別そうな名前ではあるけど、ただの日記との違いなんて全然無い。難しく書く必要も無い、ただその日にあった事を書くだけだから。

 

 ……さっきの元気が無かったほむらちゃんと関係があったり……そう思うと、わたしの手はごく自然に勇者御記のページを捲っていた。

 

 

 

 

『………これって……ほむらちゃん……!』

 

 今日の分が書かれた最後のページを読み終わって、ほむらちゃんがどうして元気が無かったのか分かってしまう。そして同時に、わたしの心はとても悲しい気持ちに包まれた。

 ほむらちゃんと同じ勇者の一人、乃木若葉ちゃんと上手くいってない事実……一緒に過ごしている仲間に良くない感情を持っていたなんて、辛かった。

 

 ……ほむらちゃんは、友達を作るのが苦手な大人しい性格の女の子だ。わたしも人の事は言えないけど、ほむらちゃんの場合、わたし以上に受け身なところがある。一度無理だと思ってしまえばそのままずるずると引きずって、ずっとそのまま、良くない事を思い続けてしまうかもしれない。

 

 そんなの……嫌だった。それに、若葉ちゃんがほむらちゃんの事を勇者なのに頑張ってないって誤解しているかもしれなくて、それも同じくらい嫌だ。

 それ以上に、ほむらちゃんのことを何も知らないくせにそう思った若葉ちゃんに、ものすごく……むかついた。

 

(ほむらちゃんがあんなに悩んで、泣いて、苦しんで……それなのに……! どんな想いで…あなた達と一緒にあそこにいると思ってるの……!?)

 

 悔しくて涙が滲む。あの時のほむらちゃんの姿を思い出して……。あのママと喧嘩をしてまで決めた決意を、やる気が無いなら立ち去れって簡単に言われたほむらちゃんがかわいそうで……!

 

(このままじゃ、ダメだよ……! 絶対……若葉ちゃんが間違えていたって、気づかせなくちゃ……! ほむらちゃんと仲直りさせないと……!)

 

 若葉ちゃんが、ほむらちゃんの大事な事を知らないのは仕方のない事ではある。わたし達がみんなと合流したのは色々あって、つい最近の事だから。若葉ちゃん達他の勇者の人達と初めて出会ってから、まだ二週間も経ってないから……。

 でも、だからって、この事はそれで終わらせたくない。それはわたしがほむらちゃんの友達として、家族として……わたしがほむらちゃんの、勇者達の、巫女だから。

 

 いつだってほむらちゃんを助けるって誓った。ほむらちゃんのためなら何だってやってみせると茨の道を一緒に歩き始めた。もうほむらちゃんに辛い思いをさせたくなくて、それがどうしようもなく残酷で避けられない現実が襲いかかって来ようとも、ほむらちゃんの手を離さない。最後の最後まで守りきる。

 

 これが襲いかかって来きた最初の現実なんだ。ほむらちゃんと若葉ちゃん、二人の勇者の不和問題……これを何とかして、本来の在るべき形にするんだ。奇しくもこれはほむらちゃんを想う友達や家族としてだけではなく、勇者を支える巫女としてのお役目でもある。

 

 

 若葉ちゃんに事情を説明して知ってもらう……のは、今はやらない。わたしの考えではそれは根本的な解決にはならないからだ。

 

 だからまずはこの問題を解決するための方法を考えるのが先なんだ。

 そうと決まれば、わたしの行動は早かった。鞄の中から大社から渡されている連絡用の携帯電話を取り出して、不慣れな操作ながらもアドレス帳を開く。

 

 この問題を同じ巫女の彼女にも伝えるべきだと思ったのが半分。訓練でドジして失敗しそうになるわたしをフォローしたり励ましてくれたり、とっても頼りになる彼女の意見を聞きたかったのが残りの半分。

 

『もしもし。どうされました、まどかさん?』

 

 わたしはひなたちゃんに電話をかけた。

 

『あっ、もしもし、ひなたちゃん。こんな時間にごめんね……今大丈夫だった?』

『ええ、構いませんよ。あ、ですが丁度今若葉ちゃんと一緒にいまして。まあお互いに不都合は無いと思いますが、念のためお伝えします』

『えっと……若葉ちゃんと一緒にいるんだ……』

『はい、それが何か?』

 

 今回ばかりはそれは都合が悪いよ……なんて思いながら、それでもひなたちゃんと話ができそうな点はホッとする。

 

『実はその若葉ちゃんとほむらちゃんの事で相談したいことがあって……』

『……詳しくお聞かせ願えますか?』

 

 ひなたちゃんの声色が変わる。わたしがほむらちゃんを支えた巫女だとすれば、ひなたちゃんは若葉ちゃんを導いた巫女だ。それに加えて二人は物心ついた頃からの幼馴染同士。

 危険なお役目を背負った若葉ちゃんを心配する気持ちはものすごく分かる。だからこれがただの相談事だとしても、ひなたちゃんにとっては無視できないんだと思う。

 

『あ、うん、それでなんだけど、できれば若葉ちゃんには聞こえないようにしてほしいの』

『……分かりました。……若葉ちゃん、大社から機密の連絡網が来ましたので、少しの間席を外しますね』

 

 

 

『…………それはそれは……うちの若葉ちゃんが大変申し訳ありませんでした』

 

 数分後、場所を変えたひなたちゃんにほむらちゃんの勇者御記に書かれていた内容を全部伝えた。ひなたちゃんの声も心苦しそうで、親友が良く思われていない事、その親友の横暴な言動に明らかなショック受けていた。

 

『若葉ちゃんは他人の努力を否定するような子ではないのですが……恐らくは、焦っているのでしょうね。強くなくてはバーテックスに勝てない……といったところでしょうか』

 

 ひなたちゃんには若葉ちゃんが必要以上にほむらちゃんに厳しかったのか、何となく理由が判るみたいだった。若葉ちゃんも本当はあんな真似をするような子じゃないって言うけれど……。

 

『そんな事言っても、ほむらちゃんや杏ちゃんは勇者になる前は身体が弱かったんだよ。それについこの間まで入院だって……』

『知らないのでしょうね……私達は皆さんの情報はある程度伝えられていますが、それは私達がお目付役だから。勇者の皆様の間では、彼女達もまだ顔見知りのクラスメイトのようなものでしかないのですね……』

 

 顔見知りのクラスメイト……確かにそうなのかもしれない。集められた理由だってとてものんびりできるものじゃない。ただの小学生だったのに、いつかの戦いに向けての緊迫した毎日を過ごすことになっているんだもん。

 間違いなく不安なのに、そんな状態で周りを見ろって言われても難しいよ。丸亀城の同じ教室で授業を受けているとはいっても、元々は顔も名前も知らなかった全くの他人の集まりなんだから。

 

『まどかさん、是非ともお二人の和解に協力させてください』

『あ、ありがとうひなたちゃん…』

『いえ……若葉ちゃんは昔からよく誤解される子ではあったのですが、今回のは明確にほむらさんの心を傷つけてしまったのですから……巫女として、若葉ちゃんの親友として、このまま見過ごすわけにはいきません』

 

 ひなたちゃんもわたしと同じ想いを抱き、頼れる協力者ができた事が嬉しくて一安心。わたしもまだ若葉ちゃんについては残念なことに親しいわけじゃないから、若葉ちゃんを良く知っているひなたちゃんの知恵は、問題解決の大きなヒントになるだろう。

 

 ただ、この問題の中でも一番厄介な人物は若葉ちゃんじゃない。ほむらちゃんの方が難しいんだ。

 

『若葉ちゃんはとても真面目で正直な子ですから、ほむらさんの勇者御記の内容をそのまま伝えたら反省するはずです。ですがそれだとほむらさんは……』

『うん……わたしもそうだと思う。それでこうしてひなたちゃんに電話をしたってのもあるから……』

 

 若葉ちゃんは反省はしてくれる……でも、きっとそれだけで終わってしまう。若葉ちゃんがただほむらちゃんに謝って、それで納得できるのは若葉ちゃん一人だけ。ほむらちゃんが若葉ちゃんに抱いている苦手意識は無くならないままだ。お互いに納得してほむらちゃんの苦手意識を無くさないと、良くも悪くもない、なあなあな関係がこれからも続いてしまうだろうから……。

 

『ただ仲直りするだけじゃ駄目だと思うの。若葉ちゃんを苦手だって思うことを無くさないといけないの』

『同感です。過去にも若葉ちゃんに苦手意識を持った子を見たことがありましたが、誤解が解けたらお互い楽しそうにお話しされていたことがあります。その時の形が理想ですが、ほむらさんはその方とは違って誤解による苦手意識ではないので……何か方法を練らねばなりません』

 

 ひなたちゃんの言葉に頷きながら、何かいい方法はないかと必死で考える。ほむらちゃんの苦手意識をどうにかする……内心焦って気負い過ぎになっているであろう若葉ちゃんを落ち着かせる……そして、こんな悲しい事が繰り返されないよう、お互いに気持ちを理解してもらうには……。

 

 

 

『『二人の仲が良かったら……………!』』

 

 何気なく呟いた言葉と全く同じものが電話口から聞こえ、一瞬遅れてその言葉の意味を理解した時、もやもやしていた頭の中でハッキリと閃いた!

 

『ひなたちゃん!』

『はい! ピッカーンと閃きました!』

『ほむらちゃんと!』『若葉ちゃんが!』

『『友達になればいいんだよ(いいんです)!』』

 

 

 

 

 

(……なんて言ったのに、どうしてこう、うまくいかないのかなぁ……)

 

 丸亀城を出た帰り道、昨日の夜あったことを思い出しながら、わたしは溜め息を吐く事しかできなかった。一時はうまくいったと思ったんだけど、それはただの早とちりでしかなくて、むしろ逆の方に失敗していたなんて……。

 

「まどか、どうかしたの?」

「………」

「まどか?」

 

 ほむらちゃんが心配そうに声を掛けてくれるけど、このがっかり感と余計な事をしたんじゃないかって罪悪感がわたしを下に俯かせる。

 

 

 わたしとひなたちゃんはほむらちゃんと若葉ちゃんを仲直りさせるために、その後も二人の関係が良いものになるように、二人を友達関係にして仲良くさせようと思いついた。

 

 今のみんなの関係は、まるでただの顔見知りでしかないクラスメイト。わたしとほむらちゃん、ひなたちゃんと若葉ちゃんと言った繋がりしかないように、その輪は狭くて冷え込んでいるかのような窮屈さも感じてしまう。

 二人の件だって、若葉ちゃんがほむらちゃんの事を何も知らなかったことが原因だ。もし若葉ちゃんがほむらちゃんのことをちゃんと理解できていたらあんな事にはならなかった。

 

 だったら……理解して、和解すればいいんだよ。お互いに。

 そうすることで輪を大きく広げるの。わたしとほむらちゃんだけだった繋がりも、ほむらちゃんと若葉ちゃんへと繋げていく。わたしとひなたちゃんで、二人が自然に手を取り合えるようにするの。

 

 そのための作戦だって考えた。

 

『若葉ちゃんは私のお願いなら何でも聞いてくれると思います。藁にも縋りたくなるくらい思いっきり悩んでしまうよう、意味深に教えますね』

『わたしは……なんて言えばいいのかな…? やっぱり、いきなり誕生日プレゼントの話題を振ったら迷惑じゃないかな…?』

『誕生日くらいワガママになっても良いではありませんか。むしろ嬉々としてまどかさんの欲しい物を訊ねられるのでは?』

『……そうだとしたら、てぃひひ。嬉しいな』

 

 何百分の一なんて素敵な偶然から、わたしとひなたちゃんの二人が一番望むものが贈られる。ひなたちゃんが言うには、これなら若葉ちゃんも一生懸命考えて行動するだろうって作戦を。

 

『この際ですし、ほむらさんからは本当に欲しい物をお願いしてみてはどうですか? まどかさんからしてみれば、初めて彼女にお祝いされる誕生日なのですから』

『えっ…でも』

『お任せください。こちらで上手いこと誘導しますので』

『……ありがとう。でもわたし、ほむらちゃんからのプレゼントならきっと何だって嬉しい。それにこれはひなたちゃんの……わたしの大切なお友達の誕生日でもあるんだから、ほむらちゃんにもいっぱい考えてもらう♪』

『まどかさん……はいっ! 私も、大切なお友達のまどかさんの幸せのために、若葉ちゃんに意地悪します♪』

『……あ、でもほむらちゃんが悩みすぎて逆に元気無くなっちゃうのは嫌かも……』

『ま、まどかさん…! ここでそれを言っては私だけが冷たい女みたいではありませんか…!』

 

 ほむらちゃんと若葉ちゃん、二人がお互いを理解できるようにするために、二人にはある課題を一緒に考えてもらう。力を合わせて……協力して、答えを見つける。その中できっと二人は知ることになる。同じ目標を達成するために一緒に協力した仲間が、友達が、いかに素敵な人なんだって!

 

『これが私とまどかさんの記念すべき幸せ誕生日♪ お二人の一緒の笑顔が待ち遠しいその日だけの特別企画! 略して~~~!』

『『ハッピーディアフレンズ♪』』

 

 

 

 

 ゴールはむしろ最初に比べて遠ざかった気がする。今のほむらちゃんは昨日のほむらちゃんよりも、若葉ちゃんと話し合って彼女について理解を深めている。その結果、若葉ちゃんが良い人だって思えるようになったのはとても素晴らしいことだ。それが霞んでしまうほど、若葉ちゃんに失望してしまう事さえ無ければ……。

 

 ほむらちゃんが怪訝そうに俯くわたしを見つめる。辺りはとっても静かで……どこからか誰かが走っているのかせわしい足音のみが聞こえる。そんな音に飲まれるように、わたしの口から愚痴がこぼれて溶け込んだ。

 

「……若葉ちゃんのばか…」

「ええっ? ほ、本当にどうしたの……?」

「ほむら!!」

 

 突然、聞こえていた足音を掻き消す大きな声が周囲に響き渡る。俯きっぱなしだったわたしの顔はその声に、その人が叫んだ名前にハッとして振り返った。昨日までは彼女が口にしなかった名前……今日の二人の心が近づいたか証とも取れるそれを携えた女の子がこっちに駆けつけて来る。

 

「乃木さん…!?」

「若葉ちゃん…!?」

「ほむらっ……私っ……私はお前にっ……! お前にぃ…!」

 

 わたしもほむらちゃんも予想外すぎる出来事に困惑する。こんな時間に寄宿舎に戻ったはずの若葉ちゃんが追いかけて来た……とてもひどく沈んでいる、嗚咽をこぼしながら今にも泣き出しそうな顔をしながら。

 

「若葉ちゃん…! 待ってくださ……あっ! まどかさん! ほむらさん!」

「ひなたちゃんも…!?」

 

 若葉ちゃんの後ろの方、そこには息を切らしながら同じ様に走ってくるひなたちゃんがいた。若葉ちゃんから少し遅れて隣で立ち止まったひなたちゃんの元に小走りで駆け寄って、かがんで両膝に手を当てて息を整えようとするひなたちゃんの背中をさする。

 

「ハァ…ハァ…ほむら…さん……」

「上里さんまで……あの、これっていったい……」

「ほむらさん……若葉ちゃんの……聞いてあげて、くれませんか…?」

 

 何とか振り絞って言われたその言葉を聞いたほむらちゃんは、理解が追い付かない様子のまま恐る恐る視線を若葉ちゃんの方へ。そしてここに来た時から明らかにおかしい若葉ちゃんの泣きそうな顔をもう一度見て、つい一歩後ずさる。

 

「すまなかった!!」

「えっ…」

 

 そんなほむらちゃんに、若葉ちゃんは深々と頭を下げた。ものすごく悲痛な声で……激しい後悔の念が宿った涙声で……。

 突然謝られたほむらちゃんは何が何だかわからないといった表情で固まってしまう。それはわたしも同じだったけど、でも何となくこの謝罪の意味がわかってしまう気がした。

 

「ひなたに教えてもらったんだ! お前の両親の事を……! あの日、お前の家族の身に降りかかった悲劇の事を!!」

「っ!?」

「自分で自分が許せない……! 親を失ったお前に、親孝行を大切にと偉そうに解釈を垂れ、うどんを作ってくれる親が身近にいるから羨ましいとほざいたなど……! 平気でお前の心を踏みにじっていた事に気づかず笑っていたなどと……!」

「……そんな事を…言ったの……? 若葉ちゃん……」

「言ったんだ!! ほむらの事を知らないのをいいことに好き放題……!」

 

 ほむらちゃんが若葉ちゃんに失望してしまった理由がそれなの……? もし本当にそうなのだとしたら……ひどい……。ひどい……けど……

 

「私は……軽率すぎた!! それがどんなに辛い事なのかも知らずに、考えもせずに……ただ自分の浅はかさを押し付けて……お前を……友達を深く傷つけて……!」

 

 若葉ちゃん、とても苦しんでる……。その両目は既に潤んでいて、そして大粒の涙が一つ、アスファルトの地面に落ちていく。一つ、また一つ……いつもの凛々しくてかっこいい若葉ちゃんからは想像できない。そこにいる女の子はあの化け物と戦う宿命を背負った勇者じゃない。か弱い、そして友達想いの、ただの、小学5年生の小さな子供だった。

 

「既に傷つけた……もう遅いかもしれないが言わせてくれ……すまなかった……本当にすまなかった……! だから頼む……許してくれとは言わない……だがせめて私の話を、懺悔を聞いてほしい……!」

「あぁ……うぅ……」

 

ほむらちゃんはその姿を見て、何か言いたいのだけど上手く声が出ないようだった。それもそうだよね……だって今の若葉ちゃんの姿は、ほむらちゃんは全く知らない。

 わたしが把握しているだけでも、ほむらちゃんの知っている若葉ちゃんは、厳しすぎて自分の基準で人の努力を判断する。悪い人じゃないけれど、自分に絶対な自信があるせいで付き合いにくい人だった。

 

 それが今、自分の過ちに気づいて心の底から反省して泣いている。こんな姿を見たら誰だって戸惑うだろうし、どうすればいいのかなんてわからないと思う。

 

「……~~~っ! 乃木さん…!!」

 

 そんな葛藤を断ち切るように、ほむらちゃんが絞り出すように叫んだ。若葉ちゃんはビクッとして顔を上げる。

 

「乃木さんの言う通りですよ……! 私、ものすごくショックだった……! 乃木さんの事がもう信用できなくなるくらい……!」

「そ、れは……」

「なんでそれくらい察せないんですか……。私が養子になったって話を聞いたばかりで……あの日からまだ2ヶ月しか経っていないのに……大切な人が犠牲になったかもしれない人が身近にはいないと思っていたんですか……」

「……返す言葉も…ない……」

 

 今まで抱えていた感情を吐き出すように若葉ちゃんにぶつける。改めて自分の過ちを突きつけられるようで、若葉ちゃんは俯きながら力無く答えるしかなかったみたい。

 一方でほむらちゃんの方も、どことなく苦しそうに見える。それは言葉をぶつける中で今日の事を思い出したからなのか、それとも……

 

「だから、考えもしなかった……乃木さんが自分から謝りに来るなんて……ずっとこの悔しさを我慢するしかないって思ってたのに……」

 

 そこで一旦言葉を切ったほむらちゃんは大きく息を吸って吐く。まるで自分を落ち着かせるかのように。そして今度は真っ直ぐに若葉ちゃんの目を見て口を開いた。

 

「……私も、同じだったんですね……乃木さんがどんな人なのか、勝手に知った気になっていました」

「えっ…?」

「私、乃木さんの事が苦手でした……乃木さんは自分のペースが当たり前だと思いこんで、他の人を気にしないで突き進むから」

「そ、そんなことは……」

「……乃木さんの事が、好きになれませんでした……相手を気遣わないし空気を読まないせいで、無意識に人を傷つけるから」

「う、うぅ……」

「私の中で、乃木若葉という人はそういうデリカシーのない人だって、勝手に自己完結していました」

 

 

「実際は、違った……乃木さんは、とても誠実な人でした。そうでなければ、わざわざ丸亀城から飛び出して来てまで謝りに来るはずがない。普通の人だったらきっと、謝るにしても明日謝ればいいと思うでしょうから。

 ……自分のペースで突き進む? どうしても気持ちが前のめりになるほど一生懸命なだけだよ。……相手を気遣わない? 本当にそんな人ならこんな行動をしてしまうくらい心を痛めるわけがないじゃない!」

 

 ほむらちゃんの言葉を受けて、若葉ちゃんは信じられないとばかりに目を丸くさせる。わたしも、ひなたちゃんも同じだった。あのほむらちゃんがここまではっきりと言うなんて思わなかったから……良い関係とは言えなかった若葉ちゃんを、心で理解しようとしていたから。

 

「乃木さんは……ただ不器用なだけだったんだ。私と同じ、ただそれだけなんだ……。なのに私、乃木さんを誤解していた。乃木さんの事何も知ろうとしていなかった……」

 

 ほむらちゃんの声が震えている。でも決して泣き出していない。むしろ表情にはどこか吹っ切れたものを感じる。

 ほむらちゃんは若葉ちゃんの前に歩み寄ると、その右手を取った。そして両手で優しく包み込むようにして握り締めると、ゆっくりと語りかける。

 

「乃木さん、ごめんなさい。私の方こそ……謝らせてください……」

「ほむ、ら……おまえ……」

 

 若葉ちゃんはまだ呆然としていて、うまく喋れないようだった。それでもほむらちゃんは構わず続ける。

 

「乃木さんの事、もう嫌だなんて思いたくありません……お互い、仲直りしませんか…?」

 

 そう告げた後、ほむらちゃんは若葉ちゃんの手を握ったまま頭を下げた。しばらく沈黙が流れる。さっきまでの重苦しい雰囲気はなく、どちらかと言えば和やかなものだった。多分、お互いにわだかまりがなくなったから……やがて若葉ちゃんがふっと笑みを浮かべ……

 

「……ああ……もちろんだとも……ありがとう……」

 

 ほむらちゃんの手の上に、一滴の水が落ちてくる。ほむらちゃんはそれを見るとクスリと微笑んだ。

 

「乃木さん、意外と泣き虫ですね」

「うるさい……お前だってさっき泣きそうだったじゃないか……」

 

 恥ずかしそうに文句を言う若葉ちゃん。だけどそれは照れ隠しにしか見えなくて、見ているみんなが思わず笑顔になってしまう。

 本当に良かった……二人が仲直りできて。今の二人は誰がどう見ても友達同士にしか見えない。わたしとひなたちゃんが心から望んでいた光景が目の前にあった。

 

「ひなたちゃん」

「はい。やりましたね」

 

 わたし達も二人の後ろで笑い合い、喜びのハイタッチを交わす。思ったより早く見れた、わたし達の誕生日プレゼントがここにある。

 

 

 

「ほむら、明日もよろしく頼む」

 

 ……ん?

 

「はい。乃木さんも……力を合わせて、一緒に見つけましょう」

 

 ……あれ? これって……

 

「上里さんと」「まどかの」

「「誕生日プレゼント!」」

「「……へ?」」

 

 …………………………………て…ないよ

 

 

 

 二人とももう見つけているのに答えにはまだ気づいてないよぉぉ!!!!

 

 なんてこと……ひなたちゃんのヒントが本当に意味深すぎたんだ……。

 これはもう答えを教えちゃっていいんじゃないかな。そう思ったけど、ひなたちゃんは面白いおかしいようでクスクス笑っていた。

 

「うふふ♪ まぁまぁ、良いじゃありませんか。むしろここからお二人が何を用意するのか、とても楽しみじゃないですか」

 

 ……それもそうだね。心配する事はもう何もない。あの二人ならきっと、もう大丈夫だから。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 ……ついに来た。10月3日、あの子の誕生日が…! この時のためにここ数日間、授業と訓練で疲れた身体を引き摺って、乃木さんと二人で色んな所を回った。あれでもない、これでもないと走り回って……私達はついに見つけた。悩みに悩んだ、まどかへのプレゼントと、上里さんが言っていた……答えが解るとそういうことだったんだって気づかされた存在を!

 

「ほむらちゃん、これってどこに行ってるのかそろそろ教えてよ」

「まだだめよ。でももうそろそろ待ち合わせの場所だから」

 

 時刻は昼前、まどかを連れて乃木さんと決めた場所に歩いていく。ちょうどこの日が土曜日で良かった。訓練も休みだから、思う存分今日という最高の一日を作ることができる。

 待ち遠しくて自然に足早になってしまう。待ち合わせの場所に着いた時、そこにはみんなはまだ到着していなかったけど、それでもすぐその姿は見えてきた。

 

「ほむら! まどか! 待たせたな!」

「いえ、私達もついさっき着いたところなので」

「まどかさん。お誕生日おめでとうございます♪」

「ありがとうひなたちゃん!」

 

 一緒に今日の計画を立てた乃木さんと、まどかと同じ主役の一人、上里さん。そしてその後ろから……

 

「まどちゃん誕生日なの!? すごーい! お誕生日おめでとう!」

「ええっ!? タマ何も用意してないぞ!? それ以前に悪いがお金も無いぞ!」

「タマっち! ここで言うことがおかしいよ! まったくもう……お誕生日おめでとうございます、まどかさん」

「………せっかくの休日に連れ出されたかと思えば、そういうこと?」

「えっ、みんなまでどうしてここに……?」

 

 乃木さんと上里さんと一緒に来たのは他の勇者の皆さんだ。乃木さんに頼んで、是非まどかと上里さんの誕生日を一緒にお祝いしてほしかったから、こうして皆さんにも来てもらった。

 

「では、全員揃ったことだし……向かうとするか!」

「はい!」

「どこにですか? そろそろ教えてくれても良いのでは?」

「ひなたちゃんも知らないの? 他のみんなも?」

「何も聞いてないよね?」

「はい……若葉さんも秘密だとしか言いませんし…」

「そんなことよりタマは腹が減ったんだが……まずはご飯にしないか?」

「……どうでもいい。早く帰りたいわ」

 

 ああ……若干二人フラストレーションが溜まっている……。でも到着したら間違いなく、全員一気に喜ぶであろうことは私には分かっている。

 

「安心しろ土居。そんな事を言っていられるのも今の内だぞ郡さん。今から行く所はとっておきの場所だからな」

「私、何だか楽しみだよ! こうやってみんなでお出かけするの、初めてじゃないかな?」

「そうですね。いつもは授業と訓練で忙しいですし、私も休みの日はだいたい寄宿舎で本を読んだり買いに行くかですし…」

「実はそれも皆さんを誘った理由の一つなの。休みの日だから、こうして揃ってリラックスするのも良いんじゃないかって」

 

 まるで友達同士であるかのように、休みの日に一緒に過ごすのも楽しいんじゃないかって。それに……本当に少しでもそうなれたら嬉しいなって……。

 

 次なる目的地へと全員で移動する中、私と乃木さんでそういった感じの質問に答えながら、和気あいあいと進む。そして、その目的地がもうそろそろだという頃になったその時、私達は答え合わせを始める。

 

「ひなたよ、私達は見つけたぞ。お前が求めていたものを」

「まあ」

「二人とも気づいたんだ!」

 

 上里さんとまどかが揃って嬉しそうに感嘆の声を上げる。まどかも上里さんと仲が良いから、きっと二人の間では話していたのかもしれない。

 

「正直、見つかるはずがないと思っていた。お前の説明は意地悪で、本当にそれを求めているのかと疑問に思うしかなかったよ」

「申し訳ありません。ですが…」

「いや、いい。今なら解る。お前の誕生日はまだ一日早いが、今ここで答えを見せよう」

 

 上里さんが望んだ、ここでしか得られないもの……。

 

「本当に、ここにしかなかった。もし私かほむら、どちらかでもここにいなかったらきっと、知らないままだった」

 

 それは手にした人が今まで以上に笑顔で幸せになれる。そして、その人に心躍る一時を与える奇跡のような存在だ。

 

「まさに心躍る最高の一時だったさ……身も心も温かくなって、自然に笑顔が浮き出てしまう」

 

 それなのに、多くの人にとっては珍しくもない。

 

「きっと、多くの人間がこの存在に救われるのだな」

 

 本当にそうだった。全部上里さんの言う通りだった。

 

 

 

 

「この本格手打ちうどん屋麺処 麻渓のことだったのだろう!」

「「………………」」

 

 本格手打ちうどん屋、麺処 麻渓(まけい)……そう、それが上里さんが行きたいと頼んだ本物の純手打ちうどんの名店である! 近年うどんの聖地香川県でも純手打ちうどんのお店は希少になっていた。そんな中でもこのお店は最高のうどんをお客さんに提供する鉄の意志を失わなかった! 創業からあの厄災を経た今なお、相手がどんなに貧しい人でもうどんを美味しく味わえるよう優しすぎるお値段! その味も本来その値段の何倍もの価格を取っても文句は無いほど素晴らしいもの! 麺味も歯ごたえも喉越しも食感も、何もかもが人々に本当の笑顔を与えるキング オブ うどん!! ここには香川県のみんなの想いが一つなるような奇跡も、うどんも、あるんだよ。

 私と乃木さんがこの答えにたどり着いた時、それを見越していた上里さんに並々ならない尊敬の念を覚えた。だから上里さんはあんなことを行ったんだと……乃木さんが、私が見ようともしていないのはこういう事か……と呟いた。乃木さんはこれまで勇者としての責任感に追われていた事を自覚し、丸亀市に来たというのに新しいうどんを追及することが疎かになっていたと……。そして現地の人間に協力……上里さんはやっぱり私を名指しで指定していたみたいだったけど、生粋のうどん愛好家の私なら乃木さんを最高峰のうどんへと導けると読んで……!

 

「忘れていた……私がうどんに馳せた熱い情熱を。ひなたはそれを私に思い出させようと、あのような試練を与えてくれたのだな」

「「…………………」」

 

 うぅぅ……上里さん、なんて良い人なんだろう。乃木さんのためにそこまで……ホロリ…。

 

「へぇ~! どこに行くのかと思ったらうどん屋かぁ! そういやまだ香川のうどんをちゃんと食べれてはなかったな」

「やった~!! 私前々から食べたいって思ってたんだ!」

「香川県と言えばうどん……私も、是非食べてみたいです!」

「……休日にわざわざ外に出てまで来た所がうどん屋? ……安すぎじゃないこれ……食べたら危ないもので作られてないでしょうね」

「「郡さん」」

「っ!? そ、そうね……一応、有名な讃岐うどん、一度くらい味わってみるのも…悪くはないんじゃない…かしら……?」

 

 皆さんからも歓喜と賛成の声が続々と。やっぱり、ここに全員で来ることができて良かった……。

 

「ひなた、まどか。誕生日おめでとう。私からお前達二人への誕生日プレゼントだ。遠慮なくいっぱい、ここのうどんを味わって食べてくれ」

「…………まぁ、本当の正しい答えはお二人とも(アリガトウゴザイマス若葉チャン。)既に見つかっていますし(私、トテモ嬉シイデスヨー)

二人が嬉しそうならそれでもいいかな(ホムラチャンモアリガトー)

 

 

 

 その後、県外出身の皆さんがうどんの魅力に取り憑かれたのは当然の結末であり、言うまでもない。うどん県で生きるって、そういうことだから。

 

 

◇◇◇◇◇

 

「「「ハッピーバースデー! 誕生日おめでとう、まどか!」」」

「ありがとうパパ、ママ、ほむらちゃん」

「あー! うー!」

「てぃひひ♪ タツヤもありがとう」

 

 夜は家族みんなで煌びやかな誕生日パーティー。お父さんが作った豪華なご馳走が並べられ、まどかの心から嬉しそうな笑顔が印象的だった。

 ……こうして、家族みんな揃っての誕生日パーティー……

 

「ほむらちゃん?」

「まどか……これ、プレゼント…」

 

 少しだけ暗い事を思い出してしまったけど、そんなのじゃ今の家族のみんなにも、あの二人にも申し訳ない。すぐに気を取り直して、乃木さんに選ぶのを手伝ってもらったプレゼントをまどかに手渡した。

 

「ありがとう! 開けてみていい?」

「うん…」

 

 その眩しい笑顔にそれを本当に喜んでもらえるか、もらえないか、少しだけ不安な想いが芽生える。袋開け、中の物を取り出したまどかはそれを……

 

「これ……」

「前にお母さんが、女の子はおしゃれした方が良いって……これ、まどかに似合いそうだなって思ったの」

「へえ、良いセンスしてるじゃないほむら」

 

 まどかは、あまり目立ったりするのは好きじゃない。それは一見すると派手に見えて、まどかには絶対似合うと思いながらも本人が敬遠する可能性だって……

 

「……ほむらちゃん、わたしに付けてみてくれないかな?」

「えっ、う、うん…!」

 

 

 

「どう…かな……」

 

 まどかは私よりも髪が短いから、私のような髪型にはできなくて……だから、左右で二つのリボンを使ってツインテールの形を作った。

 

「すごいじゃないか。とっても似合ってるよ」

「流石はアタシの娘だねぇ♪ ほむらもよくやってくれた!」

「ほむらちゃん!」

「わっ…!」

 

 綺麗な赤色のリボンが、まどかをより魅力的に彩った。リボンで結ばれた髪を揺らしながら、まどかは私に抱きついてきた。今まで見てきた中でも特に嬉しそうな、眩しい笑顔で。

 

「ありがとう! 大切にするね!」

 

 

 

 

 

『そうか。喜んでもらえて何よりだ』

「乃木さんのおかげです。手伝ってくださって本当にありがとうございました」

 

 誕生日パーティーが終わった後、乃木さんにプレゼントを喜んでもらえたとお礼の報告をする。電話口でも分かるほど、こっちが上手くいったことを向こうも自分の事のように喜んでいるように思えた。

 

『礼を言うのはこっちの方だ。お前がいなければひなたを喜ばせられなかったのだからな。それに、本当に感謝しているんだ。ひなたへのプレゼントも用意してくれたことにも』

 

 上里さんにもまどかとは色違いのだけど同じプレゼントを用意していた。それを乃木さんに預けて、明日、彼女誕生日に渡してほしいと頼んでいた。

 

「いえ、上里さんにはまどかがお世話になっていますから……それに」

『それに?』

「多分きっと、上里さんがあの頼み事を乃木さんにしていなかったら、今こうやって乃木さんと仲良く話せてはなかったんじゃないかって……だから上里さんにはとても感謝しているんです」

『………本当に、ひなたの言った通りだったな……。見ていなかった。見ようともしていなかった』

 

 突然、電話口の乃木さんの声が低く、真剣味を帯びる。

 

『ほむらよ……聞いてくれないか?』

「……はい、何でしょうか?」

『今まですまなかった』

 

 聞こえたのは、謝罪の言葉だった。話の前後が繋がってなくて、理解がさっぱりできない。

 

「……えっと…すまなかったとは…?」

『……見えていなかった。いや、私は最初から見ようとしていなかったんだ……お前達のことを』

「乃木さん…?」

『覚えているか? 私がお前に真面目にやれ、勇者として無責任だと罵った事を……』

「……はい」

 

 忘れるわけがない。思えばあれが私と乃木さんの始まりとも言える。あの時は乃木さんが恐ろしくて、絶対に、分かり合えない存在だとしか思えなかった……。

 

『……あの時の私は、勇者という存在を過大評価しすぎていた。勇者なら私にできることは他の者にもできて当然だと思っていたんだ。今更、今日のこの日に向けて共に話す中で、そこで初めて鹿目ほむらという人間を見たことに気付いたよ……』

「………それで…」

『……気付かされたんだ……お前は鹿目ほむらであって、私が一人で勝手に思い描いた強い勇者ではない……と』

 

 達観しているかのように、淡々と思いを吐き出される。だけどその中には罪悪感も混じっている。人を一人の人間として思わなかった……そんな後悔の念が強く感じられる。

 

『他の者もそうだ。友奈も土居も伊予島も郡さんも、それぞれが勇者である以前に一人の人間だ。私の思い込んだ都合のいい存在とそう一致するわけがない』

「……どうしてそんなに思いつめて……私も他の皆さんも、乃木さんも、まだまだ小学生なんですよ…?」

 

 乃木さんは真面目すぎる。真面目すぎて頭が堅い……それでも、こればかりは度が過ぎている。

 勇者だからここまで責任感が強すぎるのか……それだけではない、答えを語り始めた。

 

『……あの日、私はバーテックスから逃げることしかできなかった……! 目の前で友を食い殺されたのにだ……!』

「っ!? 乃木さんも……失って……」

『認めたくなかったんだ……。未熟な自分から目を背けて、そのくせ他の勇者が私よりも劣っていたら奴らを倒すなど夢の話だろう? そんな事、あってはならない…! みんなが惨たらしく死んでしまった……その仇を、私がやらずして誰ができる……!』

 

 乃木さんがどうして命懸けで勇者として戦う道を選んだのか、今ようやく分かった。私とは真逆の戦う理由……復讐と……

 

何事にも報いを……奴らに、報いを ……それが乃木の生き様だ』

 

 世界を壊した天の神への叛逆……。

 

 だからか……乃木さんが人一倍厳しかったのは。この人は誰よりも本気で、あの化け物を憎んでいた。私も、バーテックスは憎い。それでもきっと、乃木さんの憎しみの比は私とは比べ物にならないほど大きいだろう。それはそういう理由で戦うことを決意した人間だから……。だから、あの時の私の失態は、そんな決意を馬鹿にされるのと一緒のようなものだったに違いない。

 

「乃木さん、先日の模擬戦は…その、ごめんなさい」

『………いや、あれは私も言い過ぎだったと反省を…』

「いいえ、あの時の私の心が甘かったのは、本当の事ですから……。ただ、えっと……言い訳に聞こえるかもしれませんけど、私が真剣にできなかったのには理由があって……」

 

 それでも、知ってほしい。私は決して軽い気持ちなんかであの場所に立っているつもりはなかった。

 私は乃木さんとは違う……。バーテックスに復讐したいから勇者になったんじゃない。私はただ、人が傷つくのが嫌……。この力は誰かを傷つけるために使うものじゃない。

 

『……そうか』

「………」

『優しいな、ほむらは』

「乃木さん……」

『確かに模擬戦と言っても我々が使っていた物は正真正銘の鈍器だ。身体に当たりでもすれば怪我は避けられないだろう……。お前はあの時ずっと、私の身を案じてくれていたのか……』

 

 私の想いは乃木さんにも伝わる。すると自分の行動が強引だったと思ったのか、溜め息を吐くと鬱屈そうな声を出した。

 

『……やはり、悪いのは私の方か。怪我の危険性を何一つ考えぬまま一方的に勝負をふっかけて、お前の心配を考慮しないまま強引に始めた。そこに公平性なんて物は欠片も無かったな……』

 

 鬱屈そうな声はやがて呆れ果てたようなものに。乃木さんが誰に呆れ果てたのかというと、それはこの場合一人しかいないわけで……。

 

『……というか、それ以前に最低ではないか…? 訓練を初めて数日しか経っていない初心者をいたぶって罵倒していただけというのは……』

「……それは……すみません、否定できない……」

 

 そもそもどうして模擬戦を申し込んだのかと聞くと、答えが返ってくる。どうやら勇者に選ばれた存在というからには、その素質だけではなく選ばれるのに相応しい理由があって当然と思っていたらしい。砕けて言えば、強い敵と戦える能力……武術の心得みたいな物も当然持っていると判断して………ええぇ……?

 

「何故そんな偏った考えが……」

『………その、友奈の奴と合流した日にあいつと組み手をしてな……。非の打ち所の無い見事な武術で私と渡り合って……』

「……私が皆さんと合流した時、小さい頃からずっと身体が弱かったって紹介しましたよね……」

『うっ……』

「………乃木さんのイメージ、ここ数日の間にコロコロ変わってしまうんですけど……」

『あぁ…! 勘弁してくれ…! 私が全面的に悪かった!』

 

 これまでの自分の早とちりや浅い考えや過ちを一遍に掘り起こされたようで悲鳴のような声が聞こえた。私としては別に追い詰めるようなつもりはないのに、乃木さんの今までが今までだから……

 

『だが、ほむらの方こそ私を見くびるな!』

「えっ…?」

『こちらの勘違いとは言え一度や二度は失望に似た物を感じはしたが、私は以前からお前達を心から尊敬している。勇者であるほむら、友奈、土居、伊予島、郡さん、そして巫女のまどかとひなた……お前達には最大限の敬意を抱いているんだ』

「どうして…ですか…?」

『決まっている。バーテックスと戦う覚悟を決めた強い人間だからだ。あの化け物の恐ろしさを目の当たりにしながら逃げずに立ち向かおうとする者を認めずしてどうする』

 

 …………この人は、本当に……

 

「……乃木さん、私に早々にここからいなくなれって言って…」

『そ、それは…本当にいなくなってほしくて言ったんじゃない! 逆なんだ! こんな所で挫けぬよう、敢えて厳しく伝えることでこのままではいけないと危機感を煽るためであって……!』

「……私、あの時とてもショックだったんですよ…?」

『うぐっ…! ……す、すまなかった……』

 

 本当に、誠実な人ね……。

 

 

 

 

 

 こっそりと陰からほむらちゃんを覗き見しながら、嬉しくて笑みがこぼれちゃう。電話の相手はあの若葉ちゃんで、ほむらちゃんは本当に楽しそうに話している。時には呆れたような声を発しているときもあったけど、それだけ、二人が対等な友達関係になれたんだって思うと幸せで……

 

「改めて……ありがとうひなたちゃん。若葉ちゃんにきっかけを作ってくれて」

『いえいえ、こちらこそ。お二人の蟠りが解けて何よりです』

 

 同じ様に若葉ちゃんを覗き見しながら電話をしているらしいひなたちゃんも、全く同じような光景を見ているらしい。ほむらちゃんには聞こえないようこそこそ小声で、わたし達は望んでいた二人の姿を喜び合った。

 

『若葉ちゃん、昔からこうだったのですよ。魅力とも言える真っ直ぐすぎる性格が裏目に出てしまい、結果人付き合いが苦手になってしまわれて……』

「ほむらちゃんもね、自分に自信が持てなくて落ち込みやすい子なの……でも本当は恐くても前を歩ける強さを持っている…わたしの憧れの女の子なんだ」

 

 お互いにすれ違っていた二人がこうして仲良くなれた。バーテックスに滅茶苦茶にされてしまった世界で、友達を作ることが苦手なあの子達は友達になれた。

 

 わたしにとって、こんなに嬉しい事は他にそうない。わたし一人じゃ見れなかった光景を一緒に作ってくれた、一緒に見てくれた友達のおかげでもある。

 

『お誕生日おめでとうございます、まどかさん』

「お誕生日おめでとう、ひなたちゃん」

『私の誕生日はあと数時間後ですけどね』

「あっ」

 

 最高の誕生日をありがとう。わたしにも、まだまだこんなに愛おしい友達がいるんだって思うと本当に心が温かかった。

 

『うふふ』

「てぃひひ」

『……まどかさん、以前から気になっていたのですが笑い方が少々独特なんですね……』

「えっ、そう…?」

『ふふっ、魅力的で良いと思いますよ♪』

 

 みんなとなら、きっとどこまでも一緒に歩いていける。わたしだけじゃなく、ほむらちゃんも……。

 

 

 

 

 後日……

 

「はっ……はっ……! や、やっぱり無理~…!」

「苦しっ…! 走れな……げほっ…!」

「っ…!」

 

 相変わらず1キロも走る頃には体力の限界を迎えそうになる私、伊予島さん、郡さん。これでも基礎体力は最初の頃よりかは増えている……と思いたい。

 明らかに失速し始めた頃、後ろからは体力のある三人が周回遅れの私達を追い越そうとしていた。

 

「……相変わらず、もうバテたのか」

「うぉぉおおおお!!! 今日も一着はタマのものだああああ!!!!」

「まだまだぁ! これからだよ!!」

 

 颯爽と追い越し全力疾走で去っていく土居さんと高嶋さんを見ながら、乃木さんはその場に立ち止まり……

 

「ほら、立てるか?」

「「えっ?」」

 

 走れなくなった人に、優しく手を伸ばすようになっていた。




 長かった……ほんと、ここまで長くする予定は全くなかった……。

 次回は大変長らくお待たせしました!! 本編の続きを書きます!!

 鬱展開よ!! 私は帰ってきた!!
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