ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
『魔法少女まどか☆マギカ』の外伝作品である『マギアレコード』
環いろははそのマギアレコードの主人公である。世界から存在その物が消えてしまった妹を探すために一人で強力な魔女とウワサと呼ばれる敵が跋扈する街、神浜市にやって来た魔法少女だ。
性格は真面目でお人好し。だが社交性に難ありで、人との距離感を測れずに孤立し、一部の人間としか良好な関係を築けない。
しかし彼女は物語の中で成長していく。妹の手掛かりを探す中で出会った友達や、家族と言えるほどの固い絆で結ばれた仲間達と共に。やがて環いろはは彼女達のリーダーとなり、絶望的な危機の中から見つけ出した妹を救出。そして暁美ほむらの因縁の相手である、最悪にして伝説の魔女『ワルプルギスの夜』を撃破するまでに至った。
そんな環いろはと全く同じ外見の少女は、自らを
「……た、高嶋…いろは…?」
「勇者……って……二年前に…?」
動揺しないわけがない。外伝作品故に『マギレコード』は『まどか☆マギカ』と同じ世界観の物語。メインストーリーにもまどマギのキャラクターだって関わっている。それはこの私、暁美ほむらだって登場しているのだ。
いわば彼女も私と同じくまどマギ世界のキャラだということ。私だけかと思ってた、この世界に生きるまどマギキャラが他にもいた事実。加えて彼女も勇者の御役目を担う身で……両目を覆う、痛々しい包帯の衝撃は言葉に言い表せないほど大きく、状況の理解が全く追いつかなかった。
そんな環いろは……高嶋彩羽は困ったかのように薄く笑う。混乱させてしまって申し訳なく思っているのか、作中でよく見た苦笑いだった。
「そうです。一応あなた達の先輩……って事になるのかな」
「……その先輩がどうしてここに……いえ、どうして私達がここにいるのですか…?」
「っっ…!」
……? 彼女の雰囲気が少し…変わった…?
「……それは、私達がここにあなた達を呼び出したから…なの…!」
「呼び出した?」
「……いきなりの事で本当に悪かったと思ってる…思っていますっ…! でも…あなた達を呼び出せるチャンスがこのタイミングしかなくて……!」
何かを必死に堪えるように、その結果肩が震え、涙声のようになっている。
……ますます分からない。彼女はいったい何なの…?
「せんぱ~い? ろっはーせんぱ~い?」
「っ、ゴメン! 今行くから!」
「今のは……」
この場の誰の物でもない間延びした声が聞こえ、高嶋彩羽はハッと気を取り直す。そういえば先程彼女は、呼び出したのは
「皆さん、度々申し訳ありません。私に付いて来てくれませんか」
「………」
「お願いします」
その場でゆっくりと後ろに回ると、彼女が来た時と同じ所を歩いて戻っていく。友奈と東郷と顔を見合わせ、困惑しながらも彼女の後ろを付いて行った。
高嶋彩羽の歩く速さは一歩一歩慎重に、踏み締めるようにゆっくりだ。両目が本当に見えていないのだろう。それでどこにもぶつかったり躓いたりしないことも驚きだが、一点の疑問が心臓の鼓動を速くしていた。
彼女のあの目はバーテックスとの戦いで失ってしまったのだろうか、それとも……
「あの、よければ肩を貸しましょうか…?」
「……ありがとう、優しいんだね……でも大丈夫です。もう慣れてしまって、気配とかで分かるから……今待たせている子には心眼だね~って言われているんです」
「……一つ、聞かせて」
「はい、何でしょうか?」
「あなたのその目は、バーテックスにやられたものではない……違うかしら?」
「っ!?」
「えっ……ほむらちゃん、それってどういう……」
私の考えが間違いであってほしかった。同時にそれは東郷も行き着いた最悪の答えであり、外れる事を願っていた。歩みを止めた高嶋彩羽は、今度は私達を振り返る事無く、答え合わせを始める。
「……よく、分かりましたね。その通りです。この目はバーテックスとは別の……きっと今あなたが考えている通りのものが原因で失いました」
「そんな……」
希望は完膚なきまでに砕かれた。東郷もそうなのだろう。彼女の表情は青ざめ、体も小刻みに震えていた。
満開の後遺症……しかも彼女は二年前の勇者であり、きっと満開したのも後遺症が現れたのも二年前。
後遺症は治っていない。二年経った今なお。
「ほむらちゃん!? 東郷さん!? ね、ねえ! どうしちゃったの二人とも!?」
「……友奈…ちゃん……私達…もう…!」
「……詳しい話は向こうで。身勝手な話ですが、早く皆さんをあの子に会わせたいんです」
そう言った高嶋彩羽は再び歩きだす。私はショックで茫然としながら、彼女の後を付いて行くだけだった。
そして見えたのは祠とこの場に相応しくないベッド。その上で横になる、左目と口元以外の全身に包帯を巻かれた、高嶋彩羽と同じ患者衣の少女の姿があった。
「…お待たせ。呼んできたよ、園子ちゃん」
「ありがとう、ごめんね~ろっはー先輩。そして……
会いたかった~、わっしー……」
園子と呼ばれた少女は東郷を見つめながらそう言った。わっしー…と、親しみと懐旧の込められた眼差しで。
「と、東郷さんの知り合いなの?」
「………いいえ、初対面だわ」
「園子ちゃん……」
「………あ~、はは…ごめん、ろっはー先輩。つい…」
「ううん、気持ちはよく…分かるから…」
「えっとね、わっしーっていうのはね、私達の大切なお友達の名前なんだ~。いつもその子の事を考えていてね……つい口にでちゃうんだよ~。ごめんね…」
彼女達にわっしーという友達がいるというのは分かったけど、それじゃあどうして東郷をあんな目で見つめていたのか。それに思い返せば高嶋彩羽も東郷の質問に答えた時に嗚咽混じりの声になっていた。
二年前……大切な友達……東郷………っ、まさかそんな事は……一応、心の中に留めておこう。
「自己紹介が遅れたね~。私は乃木園子って言うんだ~。高嶋彩羽先輩とは小さい頃からの幼馴染で、同じく二年前に戦った勇者なんよ~」
「わ、私は結城友奈です」
「……暁美ほむら」
「……あなた達が友奈ちゃんとほむらちゃん…」
「……東郷美森です」
「…………美森ちゃん…か…」
「…素敵な名前だね……」
悲痛な心の声を隠しきれていない。やっぱり、彼女が東郷を見る目は私達とは違っている。あんな悲しそうな目を、私は今までに見たことがあっただろうか……
「改めまして、あなた達をここに呼んだのは私。ろっはー……彩羽先輩も一から十まで手伝ってくれて、歩けない私に代わって道案内もしてもらったんだ」
「あの…私達、樹海から戻ってきたと思ったらここにいたんですけど、どうやって呼んだんですか?」
「そこの祠、あなた達の学校の屋上にもあるでしょ? バーテックスとの戦いが終わった直後なら、それを使って呼べると思ってね~」
「そんな事ができるんですか!?」
「こう見えても勇者だからね。しかも私達、そこそこ強かったんだから」
そんなそこそこ強かった勇者が、こうして失明だの全身包帯まみれで歩けないだの、私達が返す言葉なんて思い付かない。否、口にしたくないのだ。残酷すぎて…。
「……皆さんに先程の説明の続きをします。私のこの両目だけじゃない他の部分も、園子ちゃんのこの体も全て、バーテックスに負わされた負傷ではありません」
「そ、そうですよ…! バーテックスじゃないんだったらどうしてそんな酷い姿に…」
「……満開よ」
「正しくは…その後の後遺症……」
「……えっ? 満開ってほむらちゃん、東郷さん……どういうこと…?」
「……すごいね、二人はもう気付いたんだ。ってことは……三人とも満開したんだよね? わーって咲いて、わーって強くなるやつ」
「しました……夏凜ちゃん以外…私達五人…」
運命は残酷だ……切に望んでいた希望はとうに失われ、残された絶望からは逃がしてもくれない。
救いなんて何も無かった。私達が未来を目指して命を賭けた戦いは、最初から光の欠片もない暗闇に包み込まれていた。私達はあるはずのないその欠片を必死になって探していた、哀れな道化だった。
「それじゃあ結城友奈ちゃん、聞いてね。東郷美森ちゃんと暁美ほむらちゃんも、確認のために…ね」
「分かり…ました…」
「咲き誇った花はやがて散ってしまう……花一つ咲けば花一つ散る。花二つ咲けば二つ散る……それは満開も同じ。満開の後に“散華”という隠された機能が発動するんだよ」
「……花が散ると書いて……散華というわけね…」
「この場合の散華は
「!!?」
突きつけられた真実に友奈は言葉を失った。既に察していた私と東郷も、ショックは大きく呼吸することさえ忘れていた。
「ま、待ってください! 確かに私は味覚を感じなくなって……東郷さんも左耳が聞こえなくなったって聞きました! でもほむらちゃんはどこも悪くなってなんか……ほむらちゃん!!?」
「えっ? ………あ…」
驚愕した様子の友奈にいきなり右手を掴まれる。視線を右手に落とすと、私の手の平からは血がポタポタと流れ落ちていた。そして指先にも血が付着し、爪の間には破れ血濡れた皮が……いつの間にか悔しさのあまり、ずっと強い力で拳を握り締めていた。それで爪が手を刺していた事に今ようやく気付いた。
慌てながら友奈はポケットからハンカチを取り出し傷口を止血する。その手は震えていて、友奈も重なる衝撃に戸惑い動揺していた。
「悪くならないはずないんだよ。知らないのはそれはあなたが彼女から教えてもらっていないだけ。ほむらちゃんが失ったのはその様子からして……うん、痛覚ってところかな?」
「……そうなの…ほむらちゃん…?」
「……ええ」
「そんな……どうして教えてくれなかったの!?」
「っ、あなたがそれを言うの!? 友奈だって東郷以外に教えていないじゃない!!」
「っ! ……ごめん…心配を掛けたくなかったんだよね…」
「……いえ、私の方こそ…責めるような言い方をしてごめんなさい…」
私だって全然余裕がない。友奈に自分の後遺症の事を黙っていたのは事実だというのに、ああやって怒鳴って八つ当たりをしてしまった。あの子が今心を痛めているのを分かっていながら……最低だ…私…。
「満開は強力な力、神の力をふるえるようになる。でもそれには散華という代償を伴う。その代わり、勇者は決して死ぬことはなくなるんだけどね~」
「死ぬことはなくなるって……そ、そうだよ! もしあの戦いで満開がなかったらきっと、世界は終わって私達は死んでいた……。死んでしまう事と比べたらいい事なんじゃないのかな…」
「いいわけ無いよっ!!!」
この場に木霊した一人の少女の絶叫。突然のその声に私達だけではなく親しい関係であるはずの乃木園子までもが驚き、四人の視線が同時に彼女、高嶋彩羽に集まる。
「確かに勇者が死ななくなったのはいい事かもしれない!! 満開の実装がもっと早かったら
「ろっはー先輩……」
「でもね、こんな体にされて、本当に生きていると言えるなんて思えないんだよ!! 何も見えない、好きな人の温もりも感じられなくて!! 勝手に祀られて、自由も奪われて、ずっと管理され続ける日々が……私達は生きてるんだよ…? 人間なんだよ…? なのにどうしてこんな事になってるの…? 私はただ……
「ろっはー……」
「それなのに…! また美森ちゃん達が満開で苦しむなんて! こんなのってないよ……あんまりだよ…!」
彼女の両目の包帯が滲み出す。溜まりに溜まった悲しみは出会ったばかりの私達は受け止めきれず、ただ茫然としながら彼女が泣き崩れるの見ていることしかできなかった。
「……ろっはー先輩はね、とーーっても優しい私達のお姉ちゃんなんだ~」
かける言葉が見つからない私達に、乃木園子が哀愁を漂わせながら呟いた。この中の誰よりも高嶋彩羽の事を理解している人なのだ。彼女の悲しみを誰よりも知っているのだろう。
「私とあと二人、勇者の子がいたんだけどね……みんな、ろっはー先輩の事が大好きだったんだ…」
「……それがさっき彼女が言っていた……幸せに生きてほしいって言ってた人達なの…?」
「うん。三ノ輪銀と鷲尾須美……そしてろっはー先輩の妹さん……その子は
乃木園子はより凄惨な真相を紡ぎ出す。彼女が姉のような存在と語った人の身に降り注いだ悪夢の詳細を。
「二年間、ろっはー先輩は羽衣ちゃんに会えていないの。大赦の人間が満開した私達を神様みたいに奉ったせいでね……」
「家族にすら会わせてくれないの…!?」
「酷い話だよね……それにろっはー先輩と羽衣ちゃんのご両親は大赦でもトップクラスの立場で、娘の羽衣ちゃんのお見舞いにすら滅多に来れない人達で……今の羽衣ちゃんは狭い病室でひとりぼっち……それなのにだよ」
「そ、そんな……高嶋…さん…」
「みんなを守るために満開して戦い続けてこうなっちゃって……その結果が今の私達なんだよ」
最愛の妹と離れ離れになり、自身も永遠の暗闇の中に閉じ込められた少女、それが高嶋彩羽だった。それは乃木園子だって同じ。彼女は満開して戦い続けたと言った。全身に包帯が必要になるほど、数えたくもないほど何度も……。
「満開の代償として体の一部を神樹様に供物として捧げていく。それが勇者システム」
「私達が……供物…?」
「大人達は神樹様の力を宿すことができないけど、選ばれた無垢な少女達にならできる。私達にしかできないこととはいえ……ね」
体の震えが止まらない。友奈も、東郷も、彼女達の身に起こった最悪の事象のショックが大きく、何よりも一番辛いのが、私達勇者部にもその最悪が直面している事を理解したということだ。私達の大切な居場所が滅茶苦茶にされてしまうかもしれない恐怖に包まれている。その不安に押し潰されそうで……怖い。
「で、でも! もうバーテックスは全部倒したんです! 生き残りだってさっき! だから…!」
「……そうね。もう戦うことはない……これ以上悪い事にはならないのよ…」
「……倒したのはすごいです……私達の時は追い返すので精一杯だったから」
「ろっはー先輩……大丈夫…?」
「……うん、ごめんなさい皆さん。取り乱してしまって、情けない姿を見せてしまって」
座り込んでいた高嶋彩羽が俯きながら謝るが、情けないなんて思うわけがない。ずっと悲しみを背負って生きてきた少女を誰が笑えるというの。
「失った部分はずっとこのままなんですか…? みんなは治らないんですか…?」
「……治りたいよね。私も治りたいよ……歩いて友達を抱きしめに行きたいよ……ねぇ、ろっはー先輩…」
「そうだね……羽衣に大丈夫だよって言って抱きしめて安心させてあげたい……中学生になった須美ちゃんの姿を見たいよ…」
力無く答える二人はその望みが叶わない事を受け入れてしまっている。諦めている。ただのありふれた日々すら二度と手の届かない場所にあるのだと……
これが勇者の成れの果て……必死になって世界を守り抜いた結果がこれだというの…?
周囲から足音が聞こえる。それも複数人のもの……無言のままぬっと現れたのは仮面を付けた神官の装束を纏った人間。
その仮面の特徴な紋章で気付く。この人達は大赦の人間だ。神官達は一言も言葉を発する事なく私達を取り囲む。不気味な光景だが嫌な予感もする。
乃木園子は私達を呼び出したと言ったがおそらくは無断でだろう。私達が二人の存在と満開の真実を知ってしまった以上、彼らが私達に口封じとして危害を加える可能性も存在する。
スマホを取り出し、いつでも勇者に変身できると威圧するには十分な状況だ。
「彼女達を傷付けたら許さないよ」
「下がってください。この方達は私、高嶋彩羽と乃木園子の大切なお客人です。無礼は許しません」
今までのものとは思えない冷徹な言葉が発せられる。どこかのほほんと間延びしていた乃木園子の言葉、穏やかで優しい高嶋彩羽の言葉……それが嘘のように思えてしまうほどの圧が掛かった声に、神官達は私達から距離を取って跪いた。
「あれだけ言ったのに会わせてくれないんだもん。自力で呼んじゃったよ~」
「私達は彼らに崇められているんです。満開で神樹様にいくつもの体の機能を供物として捧げられていますから……この目だけじゃくて、実は両腕やら臓器やら……暁美さんと同じで痛覚だって…」
……なるほどね。大赦は神樹様を崇める組織……あの二人はまさにその神樹様の写し身というわけでもあるのね。……全然釣り合ってなんかないじゃない。神様として崇める事よりも、一人の少女として見てあげなさいよ…。
「悲しませてごめんね。大赦の人達曰く、このシステムを隠すのは彼らの思いやりでもあるんだよ。でも私達は……」
「ちゃんと言ってほしかった……分かってたら…怖いって分かっていても……それでもあの子達ともたくさん遊んで、たくさんお喋りできて……幸せだったはずだから……」
「だから……伝えておきたくて…!」
「ぅぅ……ぅぁああ…!」
ぽろぽろと涙をこぼし、嗚咽混じりになりながらも必死になって伝えられた二人の心……
彼女達は自分で涙を拭う事すらできない。勇者として戦い、神様のように崇められている存在が、どうしてそんな簡単な動作さえできなくなっているのよ。
それが満開なのだ。勇者の切り札が聞いて呆れる。希望なんてどこにもないじゃない……
「っ…」
東郷の目からも一筋の涙が落ちる。車椅子の車輪を動かして……彼女が何をしようとしているのか察した。
私には何もできない。たった一つを除いて。
不完全だけど今ここであなたとの約束を果たすわ。東郷、いいえ……
確証があるわけではない。自分なりに持ち合わせの情報から推理して出した答えだし、根拠が不十分な所もあるって自覚はある。でも偶然にしては妙に納得する情報も多い。
「ほむらちゃん…?」
私はずっと手に持っていたスマホを操作する。体を一瞬光が包み込み、光は白紫の花弁となって散っていく。勇者に変身した私は、乃木園子から少し離れた所で泣き崩れている高嶋彩羽の下へと歩いた。そして勇者の力を以て彼女を横向きに抱きかかえる。いわゆるお姫様だっこだがこの際なんでもいい。
「ひゃぁっ!? えっ…えっ!?」
「動かないで。暴れられると落としてしまわない保証はないから」
「……ありがとう、ほむらちゃん」
「あの…! どうなってるのこれ!?」
高嶋彩羽を乃木園子のベッドの上に運ぶが、いきなりお姫様だっこしてしまったことで混乱させてしまったみたいだ。まあ、さっき出会ったばかりの人にお姫様だっこされれば無理もないか。
そして東郷はそんな高嶋彩羽と乃木園子、車椅子から身を乗り出すと二人まとめて抱き付いた。その目からは二人と同じ様に涙がぽろぽろこぼれ落ちている。記憶はなくても、彼女の心が覚えている。東郷は彼女達の大切な仲間だったのだから……
「ごめんなさい、私……思い出せなくて……!」
「えへへ……仕方ないよ~」
「……嬉しいなぁ。思い出せていないのに泣いてくれているんだよね。私達のために……」
「そのリボン似合ってるね」
「……このリボンはとても大切なもの……それだけは覚えている…けど…!」
「……自分を責めないで。今の私達には十分すぎるもん。とても……あったかいよ」
涙は流れているままだが、彼女達二人の表情に笑みが戻っていた。二年ぶりの再会……東郷の記憶が欠けていて完璧な形とまではいかないが、再び巡り会えたのだ。あの二人だってずっと再会を望んでいた。少しでも報われてほしかった。
「方法は……このシステムを変える方法はないんですか!?」
「……もしあるのならば、今ここに彼女達も私達もいないわ」
「……そろそろ遅くなっちゃうね。彼女達を町に返してあげて。それと暁美さんの手の治療もお願いするね」
友奈の叫びも否定しまうことしかできない。今は彼女達の心を少しだけ救うことしかできなかった。そして話ももう終わり……
「待って暁美さん!」
「ろっはー先輩?」
「さっきはありがとう。おかげで願いが一つ叶ったから……本当はもっと話したい事もあるんだけど、また会えるかな?」
「……ほむらでいいわ。私もまだ、話したい事があるから」
「……ほむらちゃん……負けないでね」
先代勇者、高嶋彩羽と乃木園子……二人の少女に見送られ、私達三人は大赦の神官に促されるようその場を後にした。
帰りの車の中、私達は何も話さない。現実が重すぎて、不安で……
「勇者部六箇条、なるべく諦めない…!」
「友奈ちゃん…」
「友奈…」
「必ずなんとかする方法を見つけて見せるから」
私も諦めてなるものか……勇者部のみんなをこのまま終わらせてなるものか…!
余談
園子は元々彩羽の事は『ろっはー』というニックネームで呼んでいたが、彩羽が中学生に上がる際に『先輩』と付けるようになった。