ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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 前回早く投稿するよう努力すると言っておきながら遅くなってるじゃないか!!(殴)
 難産でしたごめんなさい。ボツで合計4000字近く書き直してました……

 また、先日活動報告の方に載せましたが、本作品の外伝も執筆中です! あくまで現段階では予告という形ですが、楽しみにしていただけると幸いです。


第三十四話 「とても謎なんだ」

 私は大橋市の病院を訪れていた。この前羽衣ちゃんに会いに行った所とは別の大きな病院。昨日の夜に春信さんから連絡が届き、高嶋彩羽と乃木園子との対面許可が通ったのだ。

 にも関わらず、ロビーに人の気配がほとんど感じられない。普通なら患者が少なからず見えるものなのに、ここには病院の職員しかいなかった。

 

 気味が悪い。これも間違いなく大赦の異常なまでの秘密厳守の賜物だろう。

 

「この病院はあの二人専用の……勇者専用の受け入れ先というわけですか」

「神聖なる神樹様の勇者様方を一般人と同等の扱いをするわけには参りません。それ以前に勇者様の存在も世間に知れ渡って良いものでもありませんので」

「それを聞いて私達が納得するとでも? 夏凜もこんな所に閉じ込めていいと思っているの?」

「………」

 

 結局はこの人も大赦の一員か。妹思いは本物だろうが、肝心の行動が何もできずに今でもずっと誤解され続けている人だ。立場を捨ててまで夏凜を守る事はきっと無い。

 別に彼を非難したいわけじゃない。事は組織の一員がどう主張したところで変わりはしないレベルで根付いてしまっている。非難すべきは大赦という組織に対して。人を人とも思わないふざけた連中をどう認めろというの。

 

 エレベーターで上の階に上がると人の気配はますます薄くなる。そして通路や壁には至る所に大祓(おおはらえ)で用いられるような人形。飾られている注連縄(しめなわ)に鳥居まで……彼女達は前に神様扱いされていると口にしていたが、こんな異質な空間に二年間も祀られているの…!?

 

 やがて奥の大部屋の前まで来ると、春信さんは一礼し来た道をそのまま引き返す。この場にいるのは完全に私と彼女達だけなのだろう。今度は前のように大赦の神官が邪魔する事もなさそうだ。扉をノックすると、「は~い、どうぞ~」と、間延びした声が返ってくる。開けるとそこにいたのはベッドに横たわったままの乃木園子と、逆にベッドから降りて乃木園子に寄り添うように立っていた高嶋彩羽が。

 

「こんにちは~」

「こんにちは、乃木さん、彩羽さん」

「こんにちは、ほむらちゃん! また会えて嬉しいよ!」

 

 ……やけに彩羽さんは上機嫌ね? 相変わらず目元の包帯で顔が隠れているけど、それでも今満面の笑みだというのが分かるもの。

 

「ほむらちゃん、本当にありがとう」

「? 何の事かしら?」

「連絡を通してくれた大赦の人から教えてもらったの。私達に代わって羽衣に会いに行ってくれて、励ましてくれたんだよね。会った事の無い、たった一度話を聞いただけのあの子のために色々してくれて……何度お礼を言っても言い足りないよ」

「ろっはー先輩ってば、その事を聞いてからずっとあなたに会いたがっていたんだ~」

「羽衣に笑顔を取り戻してくれて、ありがとうございます!」

「私からも、本当にありがとう。私にとってもあの子は妹みたいな子だからね」

「彩羽さん、乃木さん……それくらい大した事じゃないわ。むしろ私なんかじゃ役者不足だと思っていたから……羽衣ちゃんの身内であるあなた達にそう言ってもらえるだけで、報われた気がする」

 

 本音を言うと、私は羽衣ちゃんに会いに行った事を少し後悔していた。羽衣ちゃんを苦しめている現状を前になす術無く、のこのこ帰った。それが私自身が抱いていた印象であり、あの子を救えたとは思わなかったからだ。

 でも、彩羽さん達はこんな私に感謝してくれて、決してそんなことはないと否定するような喜びを見せていた。それは羽衣ちゃんが私に見せてくれた笑みを思い出させる。そんな笑顔を見せられてしまったら、羽衣ちゃんに会いに行って良かったと思えてしまうじゃない……。

 

「ところで!」

「園子ちゃん?」

「乃木さん?」

 

 急に横たわった姿勢のまま、勢いよく声を上げる。私を捉える左目は妙にじと~っとしているが、何か変なことでも言ったかしら?

 

「……彩羽さん……羽衣ちゃんときて……乃木さん? 私だけ名字~?」

「……そこなの?」

「あはは…」

 

 神妙な表情で何かと思えば……別に知り合って間もないのだし、不思議でもなんでもないでしょうが。

 

「だってだってー! ろっはー先輩も高嶋さんって呼ばれるなら分かるよ。でも彩羽さんなんだもん」

「確かに、そういえばそうだね……ああ、下の名前で呼ばれるのが嫌ってわけじゃないよ?」

「あー、なんというか……その方がしっくり来るのよ」

「えぇー?」

「しっくり?」

 

 別人だということは分かっているけど、声も見た目も『環いろは』なのだから。「環さん」と言うならまだしも、名字が違うからそう言えるわけがないし、自然に下の名前で呼んでしまうのよね。

 

「私の事は園子でいいんだぜー?」

「……考えておくわ」

「そのっちとかそのこりんとか、ニックネームでもいいよ?」

「ふふっ、そのこりんって最初に須美ちゃんが言ってたニックネームだ」

「私はいいと思ったんだけどな~。そのっちって呼ばれるのも大好きだけどね」

「へぇ……東郷ってあなたの事をそう呼んでいたのね」

「そうなん……えっ!?」

「ほむらちゃん……今なんて…!?」

「東郷があなた達の仲間、鷲尾須美だという事は既に知っているわ」

 

 最初は二人の東郷に対する感情の違和感から。そして彼女から聞いていた話と重なり合っていた事象。彩羽さん達の話に含まれていた内容と照らし合わせると、今までの疑問に納得できてしまう真相。

 違和感はやがて確信へと変わり、羽衣ちゃんの反応でそれが間違いなんかではなかったと明らかになった。

 

「……いやぁ、ビックリした。本当にすごいよ。この前も話す前から散華を理解していたから頭良いなぁって思ってはいたけど……」

「まさか須美ちゃんの事まで目星が付いてたなんて……だからあの時も……」

「昔から地頭が良いのよ。誰よりも明晰な頭脳の持ち主だと自負してるわ」

「うわー、すごい自信……」

 

 おっと、こんな事を話してる場合じゃなかった。私は詳細を聞くために彼女達に会いに来たのだ。

 

「……あの子の足と記憶喪失は、散華によるもので間違いないかしら」

「うん。二年前の最後の戦い……その時に初めて勇者システムに満開が実装されたの。それで須美ちゃんは二回満開を使って……」

「二回? 右足と左足と記憶で三回ではなかったの?」

「最初の散華が両足だったみたい。あの時は体の異常に変だと思っても戦うしか道がなかったの」

 

 散華で失うものは、時として複数箇所選ばれてしまう事もあるのね……。となると、東郷の満開はトータルで三回。

 

「あれ? ちょっといいかな?」

「ん、ええ。何かしら?」

「ほむらちゃんはさっき、わっしーが満開をした回数が三回だって思ってたみたいだけど、それってどうして?」

「どうしてって……さっき言った通りよ。足を別々にカウントしていたから」

「ええ?」

 

 何故か乃木さんはおかしいと言いたげな様子で思案する。私の発言に何やら納得がいかないようだが、変な事を言ったつもりもないのだけど……。

 

「ん~……あんなに賢いほむらちゃんのことなら簡単に精霊と結び付けられると思うんだけど…」

「精霊…………っ!」

 

 ……もしかしてそういうこと…? 最初から疑問に思っていた事だけど、そこまで深く考えなかった事だが。でも、もしそれが正しければ辻褄が合う。

 

 東郷の精霊は、彼女だけ最初から三体もいた。他のみんなは一体だけだったのに……でもその後は精霊が増えた人が現れて、その共通点は満開だ。

 

「まさか精霊の数は、勇者が満開を繰り返す度に増える……」

「そうだよ。本当に今まで気付いていなかったの?」

「……だとすれば、どうしても腑に落ちない事実があるのよ」

 

 勇者システムを起動し、乃木さんにも画面が見えるようにしながら操作してエイミーを呼び出す。彼女も私がどうしてその考えに至らなかったのか、理由が分かったようだが、彼女達にとってあり得ないはずの事実に首を傾げた。

 勇者に最初に一体の精霊が与えられ、満開でその数が増える。東郷の今現在の精霊の数は四体。その内満開で増えた精霊が三体だ。他の精霊が増えた友奈、風先輩、樹ちゃんの三人も、初期精霊と合わせると二体。夏凜は満開しなかったから、初期精霊の一体のみ。

 

 では私は? 満開をしたにも関わらず、精霊は増えることなく初期精霊一体だけだ。

 

「気付かなかった訳はこれよ。私も満開したのに、精霊はこの子一体しかいないのよ」

「それは……変だね。私もろっはー先輩もたくさん満開はしたけど、その分精霊は増えてるのに」

「………それって…」

 

 もし私にも精霊が追加されていたら、残る夏凜との相違点を比べて精霊の数=満開回数+1という法則を見つけられていただろう。

 やはり私の勇者システムだけおかしい? でも確か以前に風先輩経由で大赦に確認した時、私の勇者システムは元は失敗作という話があった。もしかしてそのせいだったり……。

 

 そう思っていると、彩羽さんが神妙な様子で口を開いた。

 

「……ほむらちゃん、私はあなたにどうしても謝らなくちゃいけない事があるの」

「何を突然……謝るって…?」

「あなたは本来、勇者に選ばれる人じゃなかったの。適性値は合格ラインギリギリ、なまじ才能があるぐらいで、戦いに出すのは危険すぎるって判断されていたのに……」

「ろっはー先輩、それじゃあほむらちゃんがとても弱い勇者だって言ってるみたいだよー?」

「へ!? あ、いや、そうじゃなくて! 決してほむらちゃんの事を悪く言うつもりは無くて!」

「分かっているわよ、そのくらい……それで?」

 

 彩羽さんが悪意を持って人と接する事は絶対無いだろう。それほど心が澄んでいて立派な人だというのはこの僅かな時間の中で十分分かっている。乃木さんは彩羽さんのリアクションを楽しんでいるきらいがあるわね……。

 

「……さっき言いたかったのは、本当はほむらちゃんは勇者に選ばれなかったはずなんだ。でも、私の家から見つかった勇者システムのせいで……あなたにしか扱えない勇者システムを高嶋家がずっと保管していたせいで、勇者の戦いに巻き込んでしまったの」

 

 高嶋家が保管? それってどういう……この勇者システムにそんな経緯は……いえ、これはまたしても大赦の姑息な隠し事の一つというわけね。

 ……問題はそこじゃない。彼女が謝りたかった事とはつまり、私が勇者になるきっかけを与えてしまったと、そう責任を感じているのだ。

 

「……一つ確認だけど、まさかあなたが私を勇者に推薦したとは言ってないわよね?」

「そんなわけないよ! 私はもう誰も勇者になってほしくない! 家に保管されていた物の正体が勇者システムだって知ったのも、大赦に押収されたのも、ここに祀られた後なんだよ」

「なら、彩羽さんが責任を感じる必要は無いわ。あなたは何も知らなかった。私を勇者に選んだのは結局大赦だから、責任は全て向こうにあるわ」

「でも…!」

「ハァ……うちの先輩といい、先代勇者の先輩といい、気負いすぎよ」

 

 おそらく彩羽さんは、自分がもっと上手くできれば私を勇者にさせずに済んだと後悔しているのだろう。でも私は勇者になった事自体は後悔していない。勇者として戦ったからこそ守れた大切な存在があり、大切な仲間達にも出会えた。

 大赦に騙されていた事は業腹だが、仮に最初から全てを打ち明けられていたとして、きっと私は戦う道を選んでいたと思う。選択肢がそれしかなくても、守りたいものを守る。それが暁美ほむらの道標なのだから。

 

「ろっはー先輩、私も同じ意見だよ。高嶋家といってもろっはー先輩は当主じゃなくて、単なる長女だもん。当時あれを処分する権限なんて無かった……それに、ほむらちゃんに与えて勇者にする話を聞いた時は誰よりも猛反対してたじゃない」

「そうなの?」

「……結局は神樹様の神託が最優先事項だって言われて、全く取り合ってもらえなかったけどね…」

「それじゃあ尚更、あなたは私を危険から遠ざけようと最善を尽くしてくれた。結果がどうあれ、感謝こそすれど恨むなんて筋違いもいいところだわ」

「……ありがとう……ごめんね、また情けない所を見せちゃって…」

 

 後悔を払拭され、嬉しくも格好悪かったと思ったようで困ったように笑いを見せる。彩羽さんらしい、感情を表に出すのですら正直で、ますます彼女の事が気に入った。

 …っと、いけない。話が逸れたわね。

 

「結局私の勇者システムっていったい何なの?」

 

 元々これについて話していたんだった。イレギュラーの根本と言える謎の勇者システム。大赦が生み出した勇者システムの失敗作と聞いていたが、それは私に隠すためのフェイクであり、本当は高嶋家が保管していたもの。謎すぎて異常さが溢れてしまいそうだが……

 

「……さっきも言ったけど、私も昔から何かを家の家宝として大切に保管している事しか知らなかったの。だからそれが勇者システム……正しくは勇者システムが内蔵されていた、ものすごく古い壊れかけの携帯端末でね。それを聞いた時は驚いたよ」

「私も~。小さい頃から収めてる箱しか見せてもらった事がなかったからね~。触らせてももらえなかったんだ~」

「古い携帯端末…?」

「そうなんだよ~。箱自体も元はかなり上質な木箱っぽかったけど、もう何百年も経ってるみたいでかなりボロボロだったから、当たり前と言えばそうなんだけどね」

「厳重に保管しすぎちゃって一度も箱から取り出した事が無いって……

 

 『何十年後か、それとも何百年後かは分からない。でもこの中身が必要とする人が現れるまで、高嶋家の人間は全てを失ってしまってでも、この中身だけは絶対に守り抜け』

 

 ……偉大な御先祖様がそう言い遺したらしいの」

 

 偉大な御先祖様って……それに勇者システム。夏凜が言っていたが、その御先祖様というのはもしや……

 

「……その御先祖様というのは……初代勇者?」

「うん。今から約300年前の私と羽衣の御先祖様。初代勇者、高嶋友奈が遺したものだって…」

「友奈?」

 

 偶然かしら? あの子と同じ名前だけど……。

 

「ほむらちゃんのお友達の結城友奈ちゃんの名前と同じだけど、友奈って名前は御先祖様から端を発したものなんだって。産まれた時に両手で逆手を打つような所作をした子供にはその名前を付けるって、そんな縁起担ぎがあるの」

 

 なるほど……要はあの子の名前はかつて存在した勇者のものを受け継いだようなものと。偶然ではなく、むしろ起因となった存在だったのね。

 

 でも、今一番気になるのは名前の事ではなく、初代勇者、高嶋友奈が遺した勇者システムだ。彼女がいたとされる300年前にも勇者システムは使われていた? だったら私の勇者システムも、高嶋友奈がこれを遺した300年前のものなの?

 

「分かっている事って本当に少ないの。元の携帯端末は勇者システムが内蔵されていただけで普通の物。端末自体壊れかけで電源も入らなくて、大赦が勇者システムだけを抽出して量産化目的で研究もしたらしいけど、それで判明した事は一人を除いて勇者ですら扱えない勇者システム……とても謎なんだ」

「謎ね……」

「謎だよね~」

 

 三人揃って首を傾げる。どうして私はそんな勇者システムを使えてるのよ……。仮に300年前の勇者システムが特定の勇者にしか扱えない代物だとして、それを後世に遺した意味は何なのよ……。

 

「精霊さ~ん、あなたは何か知ってるんじゃないかな~?」

『………』

「精霊が喋れるわけないじゃない…」

「困ったときには猫の手にも縋る思いって言わない?」

「微妙に違うよ園子ちゃん……あれ?」

 

 話が難航してしまったその時、彩羽さんが何かに気付く。首を動かして、塞がれた両目の先にあるのはこの部屋と通路を行き来するための扉だ。

 

「二人とも、扉の向こう側に人の気配が…」

「おおー、ろっはー先輩の心眼だぁ」

「人? もしかしてまた大赦の神官が来たの?」

 

 前回と違って今回はちゃんと許可は取っている。話を邪魔される理由は無いはずだ。

 

「ううん、ちがうよ」

「………そうなの…」

「神官なら複数人で来るけど、感じる気配は一人分だから」

「あれれ? ほむらちゃん、どうして少し落ち込んでるの?」

「一瞬自分が白くて小さなマスコットみたいになった感覚が……何でもないわ」

「ふーん? まあいいや、入ってきていいよー」

 

 神官でないとすると誰なのか。乃木さんが外にいる人物に声をかける。しかしその人物は扉を開けようとはしなかった。

 

「あれぇ? 聞こえなかったかなぁ……入ってきていいよー!」

 

 入ってこない。

 

「あれれー? ろっはー先輩本当にいるの~?」

「うん、間違いないよ……どうしたんだろう?」

「……私が見てくるわ」

 

 乃木さんは歩けないし、彩羽さんは両目が見えていないし、両腕だって動かせないらしい。私は彼女達の客だができないことをやらせるわけにはいかない。

 扉の方へ歩き出したその時、外からキッ…と、音が漏れた。何度も何度も…何度も聞いたスキール音。車椅子の車輪から鳴ったそれに、自然と早歩きになり扉を勢い良く開ける。

 

「………東郷…」

「っ! ……ほむらちゃん…」

 

 そこにいたのは果たして、昨日怒りに任せて殴った友達の姿だった。




次回

???「潰してやる」

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