ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
さっそく私はマギレコのいろういガチャでみふゆさんがすり抜けたり、大天狗若葉ちゃんガチャで夏凜ちゃんURがすり抜けましたがどちらも初ゲットだったのでハッピーニューイヤーです! どちらも期間ギリギリまで粘ってやる……!
今年もよろしくお願いします!
夏凜さんが出かけてくると言ってから約10分。部室の中にいるのは私と友奈さんだけだった。今日は演劇の練習があるはずだったのに、これじゃああんまり意味がない。それよりも……
「………」
「………」
……みんなどうしちゃったんだろう…? 夏凜さん曰わく、ほむらさんは用事があるとかで早退して、東郷先輩はそもそも学校を休んでいたらしい。お姉ちゃんは昨日のお昼からなんだか様子がおかしくて、友奈さんもいつもの賑やかさが嘘のように静かだ。というよりも、明らかに元気がない。
『大丈夫ですか?』
「………んえっ!? あ…う、うん! 大丈夫だよ樹ちゃん…」
そう笑顔を取り繕って答える友奈さんは見ていて悲しくなりそうだった。俯いてて私のスケッチブックにも全然気が付かないし、演劇の台本だってさっきからページを捲る手が止まったまま。大丈夫だなんて絶対嘘……きっと何か悩んでいる。
『うそ吐かないで、話してください』
「樹ちゃん……その…」
『悩んだら相談 ですよ!!』
「……うん……ごめんね」
やっぱり何かあったんだ……私にも解決のために何かできるといいんだけど……。
ううん、弱気になっていちゃダメ。私だって勇者部の部員なんだもん。お姉ちゃんが造った、私にとって最高の部活……困っている人達を勇んで助ける、とても素晴らしい先輩達の仲間なんだから!
「……昨日ね、東郷さんとほむらちゃんが……その…」
(東郷先輩とほむらさんが?)
「大喧嘩しちゃったの…」
(……えっ!?)
意気揚々と話を聞いていた私はスケッチブックを落としてしまうほどの衝撃を受ける。あの二人が喧嘩、それも友奈さんが大喧嘩と言うほどの。お互い信頼し合っていて、とても出会って一年半と思えないほど固い絆で結ばれている二人が……それこそ嘘としか思えない…!
「こんなこと初めてで……ほむらちゃんがものすごく怒って……」
『どうしてですか! 原因は!?』
あの二人が大喧嘩するなんて絶対に普通なんかじゃない。私が知らない所で何かあったんだ。それも今までにないほどの重大な何かが……。
でも、友奈さんは口を噤んでいた。喧嘩の原因を聞いてもなかなかそれを言い出そうとはしない。私にも話せない……何か、理由でもあるの?
『お願いです 教えてください』
「っ…!」
『どんなに辛い事でも受け止めますから』
「樹ちゃん……うん、分かったよ」
友奈さんは私の目を見て、不安げな表情のまま話してくれた。
私達の体はもう治らない……と。
散華と言われる、満開をすると体の一部を神樹様に供物として捧げられる機能の存在。かつて戦っていた勇者も、いくつもの体の機能を失い今なお治る目処が立っていない事。
そして東郷先輩が、その昔の勇者の人達の話が真実がどうかを確かめるべく自殺紛いの事を繰り返し、自分の命を省みずに粗末にしたとほむらさんが激怒した……。
……友奈さんが……話そうとしないないわけだよ……。私がもう二度と喋れないって、そう簡単に言えるわけないよ……。
「い、樹ちゃん……ごめんなさい…」
どんなに辛い事でも受け止めるって言ったけど……これは……かなり苦しい……。誰にも言わなかったけど歌手になりたいって夢ができたのに、その夢はもう叶わない。みんなが好きだって言ってくれた私の声はもうどこにも無くて、悲しみに押し潰されそうになる。
でも、私だけじゃないんだ……友奈さんは味覚を、東郷先輩は左耳を、ほむらさんは痛覚を……お姉ちゃんは左目を失っている。
『教えてくれてありがとうございます。私は大丈夫です』
みんなだって辛いんだ…! こんな所でへこたれていちゃ、お姉ちゃんの妹として、尊敬する先輩方の後輩として不甲斐ない!
「樹ちゃんは強いね…」
『みなさんのおかげです!!』
友奈さん、東郷先輩、ほむらさん、夏凜さん、お姉ちゃん。みんながいたから私は強くなれた。これからも、みんながいるから私は堂々と前を向いて歩いていける。
だからこそ、ほむらさんと東郷先輩をこのままにしてはおけない。二人とも私が尊敬する、大好きで、かっこよくて、誰にでも誇れる立派な先輩なんだから。これからも一緒に私を引っ張ってもらわないと困るんです!
……そういえば、その現場にはお姉ちゃんもいたんだよね? だとするとお姉ちゃんが昨日から様子が変だったのは、この件が絡んでいると見て間違いないよね……そう思ったまさにその時だった。
私と友奈さんのスマホに同時に通知が入る。偶然のタイミングで一致したのかと思ったけど、スマホに表示されていた送り主は『大赦』となっていた。
本来大赦からの連絡はお姉ちゃんか夏凜さんにしか行かないらしい。どうして私と友奈さんの方に……不穏に感じながらも、私達はその通知を確認する。
『現在、犬吠埼風が暴走し三好夏凜が抑止中。他の勇者も犬吠埼風の暴走を止めよ』
「……!?」
「えっ…!!? 風先輩っ!!」
心臓を殴られるかのような衝撃が走る。お姉ちゃんが暴走しているって……どうして…っ!!
どうもこうもない、きっとお姉ちゃんは感情が爆発してしまったんだ。お姉ちゃんも既に散華の事は知っている。だからこそ昨日からずっと様子がおかしかったんだ…!
自惚れとも言えるけど、お姉ちゃんは妹である私の事をものすごく愛している。そして友奈さん達に対しても心から自慢できる最高の後輩達だと、私が入部する前から何度も語っていたほど大切に想っていた。
私の声やみんなの体がもう二度と元に戻らないと知ってしまって、ヤケを起こしてしまった。散華の存在を隠して私達を戦わせた大赦への復讐……それ以外に大赦に襲撃する理由が考えられない。
止めないと…! お姉ちゃんが今とても苦しんでいるのは判っている…! 許せないって気持ちも痛いほどに……
でも私は見たくない! 聞きたくもない! どんな理由があろうとも、お姉ちゃんが人を傷つける姿なんて!
「行こう樹ちゃん! 風先輩を止めに!」
「………!!」
友奈さんも私と全く同じ想いだろう。お願いお姉ちゃん…早まらないで…!
◇◇◇◆◆
「ああああああああああああああ!!!」
「はああああっ!!」
刀と大剣がぶつかり合い火花を飛ばす。
何度目かも分からない衝撃に刀を握る腕が痺れる。向こうは加減なんてするわけがなく、己の感情の導くままに問答無用でこちらを叩っ斬るつもりだ。
「よくも……よくもぉ!!」
「ぐっ…!」
風の武器は身の丈ほどの巨大な大剣。そして私のはそれと比べると圧倒的に小さい刀だ。複数本同時に扱える利点があるとはいえ、単純に一撃の威力は向こうの方に軍配が上がる。ましてや今の風は感情が爆発していて、ただでさえ強力な威力が増している。
自らの身を省みずに私の命を絶とうと振り下ろされる一撃を愚直に防いだところで、その強い衝撃はどうしても私の身体中に響き渡って悲鳴を上げてしまう。
風の痛いほどの憎しみと悲しみが伝わってくる。
「っ、危なっ…!」
「チィッ!」
紙一重で風の大剣を避け、地面を蹴って後ろに飛んで間合いを取る。ほんの少しでも気を緩めてしまうとコレだ。風を攻撃するつもりはないが、怒りに呑み込まれている風は私を殺す気でいる。その二つの現状によって生じる差は大きい。つまるところ、私はどうしても防御や回避に専念せざるを得ないのだから。
「よく考えなさい、風! こんな事をしてあの子達が報われるとでも思ってんの!?」
「どの口がそれを言うかぁああーーー!!!」
風の指先にある何かが日の光を反射させる。次の瞬間、その手から三本の小刀が私目掛けて投擲された。
(二体目の精霊の能力…!?)
初見の技に驚くも、咄嗟に小刀を斬り返す。だが風はそんなものお構いなしとでも言うかのように、次々と手元に再出現する小刀を放った。
その小刀が向かう先にあるのは私の心臓やら脳天やら……ホントに容赦なく殺しにかかってくる。横に飛び退き降り注ぐ小刀を回避しながら、刀を握る右手に力を込めて……
「考えろ!! この大馬鹿犬部長!!」
「っ!」
風の手元目掛けて全力で投げつけた。大きく横に高速回転する刀と直線上に飛来する小刀が交差する。私の刀は狙い通り新たな小刀を手に取った風の左手へ……既に放たれた小刀は私の喉元へと吸い込まれる様に飛び交い、互いに精霊のバリアが展開した。
「うっ……くっ…!」
「ゲホッ…ゲホッ…! ハァ…ハァ…」
バリアのおかげで私達に怪我はない……が、衝撃は伝わる。風は小刀を取り落とし、私は咳き込んでしまう。それでもどうしてもコイツに言わないといけない。ずっと涙を流し続けながら怒りと憎しみと悲しみがごちゃ混ぜになった風の右目を見て、ここにいないみんなの想いを代弁した。
「あんたの言う通りよ……樹は大赦の連中に夢を奪われた。私だってその事は腸が煮えくり返るほどムカついてる……けどね、樹は言ってたでしょ!? あの子がその夢を見いだせたのは勇者部のおかげだって! あの子の前を歩いてくれた大好きな姉のおかげだって!!」
私にも樹の想いがよく判る。ただ勇者としての御役目を果たすために……その事だけを考えて生きてきた私は勇者部のみんなに絆された。馬鹿ばっかで最初は頭が痛かった。連中の脳天気さに何度も溜め息をこぼした。みんなの優しさが暖かかった。気付けば私もそんな馬鹿共の一員になっていた……否、なりたかった。完成型勇者しか目標がなかった私が、本心から勇者部の一員になるのを望んでいた。
そうなった理由は単純明快。勇者部のみんなのおかげだ。風が、友奈が、東郷が、ほむらが、樹がいてくれたから。最後まで一緒に笑顔でいたいと思える素晴らしい仲間達と出会えたからだ。
「そんなあんたが今何やってるのか分かってるの!? あんたは大赦だけじゃなくて樹が希望を見つけた居場所をぶっ壊そうとしているのよ!!」
だからこそ、勇者部は誰か一人でも欠けてしまえば全てが崩壊してしまう。風は大赦への憎しみのあまり、そんな重要な事実を忘れている。
「ふざけた事を…! そう思っているならなんで何も言わなかった!? あの戦いの前に散華の事を教える時間はいくらでもあったはずだ!!」
「あの時の私は知らなかっただけよ! 知っていたら絶対に伝えていた!!」
仮にみんなに心が開いていなかった昔の頃の私でも、誰かの犠牲を強いると知っていれば動いていた。大赦に厳重に沈黙を命じられていれば分からないが、みんなを誇りに思えている私ならそんな命令は一蹴し、断固として拒否する。
「私があんた達を騙していた裏切り者ですって!? ふざけんじゃないわよ!! 誰が仲間達をみすみす不幸にさせる道を選ぶか!! そんな選択が間違いだって誰にだって分かるでしょ!? 風!!」
いくら風が冷静ではなかったとはいえ、あんな事を言われて何も思わないわけがない。私達の絆を疑われて、状況がこんなのでもそれだけはハッキリと否定しなければならなかった。
でも、私はまたしても知らなかった。今の言葉が風のもう一つの地雷を踏み抜いていたことに……。
「~~~ッッ!!! 黙れ黙れ黙れ黙れぇええーーーッッ!!!!」
「風!?」
「うわあああああああああああああ!!!!」
絶叫と共に接近し、繰り出される大剣の一閃。それに合わせるよう刀を構え……音を立ててへし折れる。
「ぐっ…うわあっ!?」
そのまま大剣は私の体へ。そして精霊バリアが展開するも、大剣は大きく振り回され、私の体はバリアを纏いながらも凄い勢いで吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。壁はまるで車が突っ込んできたかのように大きく凹み、私の体に大きな怪我こそ無いものの、全身に痛みが走ってうまく立ち上がれない。
「ぅうう……あああ…! 違う……アタシはそんなの知らなかった……こんな事になるなんて…!」
「ふ…風…?」
かろうじて見えた風の顔は先程までとは少し違って見えた。復讐の炎に燃えた鬼のような形相から一変、今の風はまるで全てに絶望してしまった幽鬼のようで……
「アタシのせいで……アタシのせいでみんなが…! あっ、ぁぁあああ…」
「あんたの……せい…? みんなって…何のことよ…」
明らかに風の様子がおかしい。でもその様子が未だに危ういのは変わらないわけで、風の動向を警戒しつつ新しい刀を顕現させる。
「……やっぱり潰さないと……みんなの無念を晴らさないと…」
来る…!
「アタシが……!! あああああああああっ!!!」
大剣の切っ先を向けて壁にもたれ掛かっている私に突っ込んでくる。それに合わせ、先程折られた刀に力を宿して投げつける。折れた刀なんか投げた所でほとんど意味なんて無い……が、物が飛んでくれば反射的に避けるか、その大きな得物で弾き落として防ぐかのどちらかだ。とくに後者の場合は自らの勢いをそのまま保てる。
故に風もそのようにしてあの刀を弾くものだと想定して投げた。結果は……予想通りだ。
ドォン!!
「うっ…!? 爆発!?」
初めてのバーテックス戦でも喰らわせた、投げた刀を爆発させる技だ。風の大剣に弾かれた衝撃で爆発し、辺りに土煙が舞う。
「……っ! 夏凜がいない!?」
「ここだああああ!!!」
土煙は風の視界を奪い、それに乗じて風の頭上へと跳躍して二刀を振る。両方峰打ちだが意識外からの攻撃に風は対応しきれず、精霊バリアによって守られる。
だがその攻撃で風が一瞬よろめいたのを見逃さない。刀を手放し風に組み付き地面に押し倒した。
「捕まえた…!」
「離せ!! 夏凜ッ!!」
「ぐっ……離すわけ…ないでしょうが…!」
振り解こうと必死に抵抗する風を押さえる。こんな風の姿を見た私は胸を締め付けられるような苦しみを感じていた。
風の暴走は恐らく樹の件だけではない。最初に別の……もう一つの何かに追い込まれていた所で樹の夢を知ってしまい、感情が爆発したのだろう。風達のマンションに行った時は散華の事を悩んでいるのかと思ったが、この様子から考えるとあまり釈然としない。
「……風、言いなさい。今あんたは何に苦しめられているの? 樹の事だけじゃないんでしょ!?」
「うるさいっ!! お前に何が分かる!!? 裏切り者のお前に、本当に大切なみんなを地獄に突き落とした人間の気持ちの何が分かるっていうのよ!!!」
「っ…!? 風…あんた、まさか……」
「アタシが……両親の敵討ちを望んでしまったせいで、全く関係ない平穏な日常を過ごしていたみんなを巻き込んだんだ!! 樹の未来を奪ってしまったんだ!! 不幸にしたんだ!! アタシが……勇者部なんて作らなければ良かったんだ!!」
さっきの自分の発言を思い出す。『誰が仲間達をみすみす不幸にさせる道を選ぶか。そんな選択が間違いだって誰にだって分かるでしょ』
風は選んでしまったと思ったんだ。誰にでも『間違い』だと断言できる答えを、その敵討ちとやらのために『間違いではない』と考え行動してしまった。その結果友奈、東郷、ほむら、樹の四人を命懸けの戦いに巻き込んで……散華で体の機能を失わせてしまった。
風が許せないのは大赦だけじゃない。深く後悔し絶望するほど自分自身が許せなかったんだ……。
「アタシが何もしなければ樹は声を失わなかった!! 友奈も味覚を失わなかった!! ほむらと東郷だって、あんな大喧嘩をすることなくずっと仲良く過ごせていたんだ!!」
「なっ…!? ほむらと東郷が……それってどういう…」
予想だにしなかった言葉に戸惑ってしまい、それがマズかった。風を押さえつけるという事に意識を割いていた分、驚きでその力が緩んでしまった。
「ああああああっ!!!」
「あっ…しまった…! あぐっ…」
拘束を解かれてしまい、振り回された風の拳が私の頭を殴り抜ける。そのまま風は飛び退き、再び大剣を強く握り締め、その刀身が何十倍にも巨大化する。
「な…!? あ、あんた!! 樹海でもないのにそんなもの振りかぶったら…!!」
辺りに人の姿はないが、縦に振り下ろすのも横に振り回すのも、現実の世界でやってしまえば大きな被害が出ること間違いなしだ。
「黙れぇ!!! 大赦の人間は全部潰す!! それがアタシに唯一できるあの子達への罪滅ぼしなんだ!!!」
「風先輩!! そんなのは違います!! 駄目です!!」
「………ゆう…な…?」
一瞬幻聴かと思った。でもアタシの右目には夏凜の前で立ちふさがっている友奈の姿が映っていた。
「友奈…!」
「ごめん夏凜ちゃん、遅くなって……風先輩!! もうやめてください! これ以上、風先輩が傷つく姿なんて見たくありません!!」
「……っ! 退きなさい友奈!! そいつは裏切り者よ!!」
「そんなわけありません!! 夏凜ちゃんは私達の仲間です!! いつも一緒に笑い合ってきた勇者部の大切な友達じゃないですか!! 思い出してください!!」
「そんな事…!! そんな…!」
夏凜が裏切り者だなんて思いたくなかった。でも現に夏凜はアタシ達を騙していて……
夏凜は最初生意気な新人で、アタシ達を完全に下に見ていた。でも逆に弄り甲斐があって、よくからかって……口ではなんだかんだで文句を言いながらも結局はちゃんと勇者部の活動に参加していた。ただ単に人付き合いに慣れていなかっただけだったんだ。
樹の歌の練習だって、夏凜はあの子のために色々な事をしてくれて……テストがバッチリだったって聞いた時には他のみんなと一緒に喜んでいた。
あの戦いの時だって、危なかったほむらを助けたり、夏凜以外が倒れてしまった時には泣きそうになりながらも必死になって呼び掛けていて……無事だと分った時には本当に涙をこぼしていて……
……あれ? 夏凜って、いつから裏切っていたんだっけ? アタシが今まで見てきた夏凜はどれもこれも大赦の手先なんかじゃない。アタシが知っている夏凜は……勇者部の…
勇者部……は…アタシが巻き込んだ……ぁ、ああ…!
「それでも!! アタシ達を騙していた大赦に復讐しなくちゃいけないのよ!! 満開の後遺症の存在を知らされていたらみんなを巻き込んだりしなかった!! 勇者部なんて作らなかった!! そしたらみんなは……樹は……!!」
友奈の、東郷の、ほむらの、夏凜の、樹の……みんなの笑顔が脳裏を過り……剣を振り下ろす。
「無事だったんだぁぁあああああああ!!!!」
上から迫り来る超巨大な刃を見ながら、私はさっきの友奈の言葉を思い出していた。私は裏切り者なんかじゃない、大切な仲間。いつも一緒に笑い合ってきた勇者部の友達。
……やっぱり、私に大赦の手先なんて肩書きは全く似合わないわね。そんな唾を吐きたくなるようなものよりも、みんなに誇れる最高の肩書きがあるんだって友奈が認めてくれたようで嬉しかった。
「じゃあ尚更! ここで風を止めなくちゃいけなくなったわね!! 友奈! 伏せていなさい!」
「えっ! 夏凜ちゃん!?」
あの大剣を避けるのは論外。後々大変な事になる。
防ぐ? 馬鹿言ってんじゃないわよ。あんなサイズの大剣、防ぐ前にこっちが潰れるっての。
じゃあどうするか…そんなの一つしかないわ!
「やぁああああああああああああ!!!」
地面を蹴って刀を握る。振り下ろされる大剣にこちらも渾身の力を込めて刃をぶつける。
「夏凜ちゃん!!?」
「さあ見なさい!! これが完成型勇者!! 讃州中学二年、勇者部部員、三好夏凜の…!!」
私ならできる。この馬鹿でかい大剣を……ぶった斬る!!
「気合いと……根性と…!!」
左肩が光り輝き、刀が赤く、大きく変化する。力が漲る。大きさからして圧倒的に負けていた私の刀は、風の大剣の刃を裂き始め……叫ぶ。
「魂だぁぁあああああああああああああ!!!!」
アタシの目に広がっていたのは信じられない光景だった。アタシの全てが込められた剣は、その巨大な刀身の半分以上が消えて無くなっていた。
遥か高く上空に巨大な鉄塊が見える。消えたと思った、アタシの大剣の刀身だった。鉄塊は細かく黄色の花弁となって全て消滅していた。
着地した夏凜の手には見たことのない真っ赤で大きな刀。そしてアタシの大剣の消滅している部分には綺麗な断面図が。
(……斬っ…た…?)
その真っ赤な刀全体が一瞬淡く光ると、ツツジの花弁が舞い散り元の刀が現れる。ふと夏凜は自分の右手を触り、次に左肩に目を向ける。
そこにある満開ゲージには色がなかった。
「か…」
「夏凜ちゃん!!」
「……流石にタダってわけにはいかないわよね。右手の感覚がないわ」
「そんな……夏凜……」
そう言って困ったように笑う夏凜を見て、アタシの顔は後悔一色に歪み、大剣の柄を掴む手の力が抜ける。音を立てて大剣は地面に落ちて、花弁となって消滅する。夏凜は……散華してしまった。アタシの暴走を止めるために……アタシの馬鹿な行動のせいで……。
「……馬鹿。なんて顔してんのよ、風」
「だって……夏凜…! アタシのせいで満開を…!」
「風を止められるなら……勇者部を守れるなら、これくらい」
右手を失ったというのに夏凜は笑ってみせた。アタシを止められた事を何よりも安心したとでも言うかのように……
……ああ……なんで今まで最低な勘違いをしてたんだ…! 夏凜は裏切り者なんかじゃなかった…! ずっと前からアタシ達の仲間で友達で……心で通じ合っていた存在だったのに、問答無用で殺そうとして…!
「夏凜、ごめん……! アタシ…取り返しのつかない事を…!」
本当に取り返しのつかない事だ。夏凜だけは無事だったのに、向こうの心配を無下にし、勝手に勘違いして襲いかかり散華の原因を作ってしまった。
……もう私が巻き込んだ四人だけじゃない、夏凜の未来さえ台無しにしてしまった罪悪感が沸き上がってしまう。
「……ん、許す」
「………え…?」
「あんたとやり合ってた私は大赦の手先で敵だったとでも思っておきなさい。勇者部の三好夏凜は仲間としてあんたを止めただけ……それでいいのよ」
「そんなの……納得できるわけないじゃない! アタシはあんたの手を…! みんなの幸せを壊し…」
泣き叫ぶように夏凜に罪を吐き出していると、誰かに後ろから抱き締められる。夏凜ではない、友奈もアタシの目の前にいる。それじゃあいったい……
「……樹…?」
『お願い、もう苦しまないで』
最愛の妹が悲しげな顔で抱きついていた。その手のスマホに表示されていた文字は樹の声。守りたかったはずの存在なのにアタシの暴走でどれだけ深く傷つけてしまっただろうか……後悔に押し潰され、アタシは膝をついて泣き崩れた。
「……うぁああ……ごめん……ごめん、みんな……!」
『私達の戦いは終わったの。夏凜さんのことは辛いだろうけど、許してくれている。もうこれ以上失うことは無いから』
「……でも! アタシが勇者部なんか最初から作らなければ!!」
樹は微笑み、首を横に振る。そして友奈と夏凜に視線を向けると、友奈も同じ様な明るい表情で言った。
「風先輩! 私は勇者部に入った事を不幸だなんて思った事は一度もありません! 世のため人のためになることを勇んで行う……入部した頃から今までずっと誇らしくて、毎日が楽しくて仕方ないんです!」
「前にほむらも言ってたっけ。ほむらも勇者部に入ったから幸せになれたって。勇者部こそがあいつに全てを与えてくれた掛け替えのない居場所だってさ」
「夏凜ちゃんは?」
「同文。てか、言わなくても分かるでしょ」
「「樹(ちゃん)は?」」
二人の質問に樹は満面の笑みで頷いた。そして一枚の見覚えのある紙を取り出してアタシに見せた。樹の歌のテストの際、他のメンバーの五人で書いた寄せ書きだ。
散華なんて知らなかった幸せだった頃の記憶が蘇る。その時のみんなが樹を励ますために書いた、樹に夢を与えるきっかけとなった絆の証。樹はその宝物と言える寄せ書きに自らもメッセージを書き込んだ。
『勇者部のみんなと出会わなかったら、きっと歌いたいって夢も持てなかった。勇者部に入って本当によかったよ 樹』
「…い…つき…」
「みんな同じ想いなんです。だから勇者部を作らなければ…なんて言わないでください」
ずっとみんなを不幸にしてきたと、勇者部を作らなければと後悔していたが、それが間違いだったとみんなが否定する。さっきまで殺されかけていた夏凜でさえ、勇者部に入って幸せだったと笑って言う。
みんなが笑ってアタシを許してくれた。
「……ぅううあああ……ぁああああ!! ああああああああああ!! うわぁあああああああ!!」
涙が止まらない。後悔、罪悪感、憎しみ、怒りに支配されていたアタシが今、それらだけじゃない別の感情に激しく揺さぶられる。愛しい仲間達に受け入れられた嬉しさを感じている。そんないろんな感情がごちゃ混ぜになっているせいか、アタシはただただ泣くことしかできなかった。
樹はそんなアタシを再び強く、優しく抱き締める。姉のアタシが情けないほど涙を流しているのに、樹は一筋の涙も見せない。アタシに心配をかけまいと……アタシの心を守る。
「ほむらちゃん……東郷さん……今何を…」
「東郷!!」
「っ!? ほむらちゃん…!?」
そこはまるで地獄そのもの。誰も知らないその世界で、二人の勇者が抗っていることを仲間達は知らない。
今回の夏凜ちゃんの満開は、勇者の章最終話で風先輩が残ったゲージを全て使用して満開時の武器だけを顕現化したアレの独自解釈です。溜まっていたゲージを全て使用し満開時の刀だけを顕現させたので、見た目の変化はありませんでした。ただし強大な力を得るには神樹に供物を捧げるという決まりから散華は起こってしまいました。とはいえその力は武器のみで、使用時間もほんの僅かだったため、原作の代償である右腕から右手へと少々軽度で済みました。
なお、上記の通りこれは完全な満開では無いため、精霊の追加はありません。諸行無常。