ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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 いろうい尊い……
 若葉ちゃん……あなたのことが、好きだったわ……

 まどマギ10周年おめでとうございます!!


第三十七話 「お姉ちゃんだから」

 私が高嶋彩羽と乃木園子に会いに来た理由は、私達勇者に関わる詳しい話を聞くため。些細な事でもいい、散華で失った体の機能を治す手がかりを得るためだった。

 

 東郷が来たのは予想外だった。一瞬記憶が戻ったのかと期待したがそんなわけない。あれだって散華で失われたもの。おそらく私と同じ理由で訪れたのだろう。断じて私が期待した理由ではない。

 理由が同じならわざわざ部屋を分ける必要はない……が、今は彼女の顔を見たくもない。口を利きたくもない。どうしてもあの時の憤りを思い出してしまいそうになるからだ。

 

 東郷は乃木さんから話を聞けばいい。彩羽さんの手を引いて強引に退出し、別の部屋で彼女から話を聞こうと思った……のだが……。

 

「話して」

「………」

「ほむらちゃんが話してくれないなら、私だって話さないよ」

 

 移動中、彩羽さんはずっと私に東郷との間に何があったのか聞き出そうとしていた。別室に入ってからもそれは変わらない。

 あの件は私と東郷の問題……部外者に口出しされたくないし、掘り返されるのもうっとおしい。無視を決め込んだが、ここで彼女から自分も話さないと脅迫……頭を抱えずにいられなかった。

 

「……あなたには関係ないって言ってるでしょ」

「関係なくなんかないよ」

 

 即答で否定。もう完全に嫌な予感しかしない。

 

「私と東郷の問題…」

「美森ちゃんの問題は私達の問題なんだよ」

「……頑固者」

「それでもいいもん」

「話して。そのために私はここに来たのよ」

「だめ、話さない。ほむらちゃんが話してくれるまで、絶対に」

「そもそも私達の事を話すヒマがないわ。もう時間は夕方なのよ?」

「それじゃあ仕方ないね」

「そうでしょう? なら…」

「ほむらちゃんが諦めてね? 私も教えるつもりだったけど話せないから」

 

 ………芯が強すぎる。この高嶋彩羽という少女、外見や穏やかな雰囲気だけじゃない、決めた事には怖くなるほど真っ直ぐ貫き通す頑固さまでもが“環いろは”そのものだ。

 言葉に詰まり何も言えない私に対し、彩羽さんはふぅっ…と息をつく。「あのね」と真剣な語調で、見えない両目でこちらを見つめてくる。

 

「ほむらちゃん……出会って間もないけど、私はあなたが好きだよ」

 

 ………………?

 

「…………は? えっ? なんでこのタイミングで告白…?」

「えっ? ………いやいやいやそういう意味じゃないよ!!? そうじゃなくて…ほら!! お友達って意味で!!」

「そ、そうよね……ビックリした……友達?」

 

 いやほんといきなり何言い出すのかと思った……。でも普通そこは友達というより人という意味では?

 

「うっ…! 勢いのあまり…つい……迷惑だよね…?」

「……いや、別に構わないのだけど……そういう意味では私も彩羽さんに好感を持っているし…」

「本当!? よかったぁ!」

 

 どうやら自分でも思っている以上に私は彩羽さんに気に入られているみたい。やった事と言えば……初めて出会った時に東郷の下に抱きかかえて連れて行った事、彼女達の代わりに羽衣ちゃんに会いに行った事ぐらいよね?

 でもそのぐらいの事でも私を信用してくれた。お人好しというか、真面目というか……こちらも彼女が良い人だって判っているから親しみが持てるとはいえ、ちょっとだけ心配になりそうね。

 

「それで、何が言いたかったの?」

「……私は美森ちゃんのことも好きなんだ。あの子が私達の記憶を無くしていても、それは決して変わらない」

 

 彩羽さんが語る、二年前から少しも色褪せない愛情。私はその時の彼女達の身に何があったのか詳しく知らない。辛い過去を背負っているのは間違いなく、涙だって枯れてしまいそうになるほど苦しんだのだと思う。

 それでも、そんな過酷な日々を共に笑顔で笑い合えた一時もあったのだろう。築き上げた絆は決して崩れない。彩羽さんが東郷を想わなかった日なんて一度もなかった。

 

「二人の間に何かあって、ギクシャクした雰囲気をしているって分かって、それをそのまま放置するなんて私にはできない。それを見て悲しむ人がいるって判るから」

「悲しむ人……ですって…」

「例えば結城友奈ちゃん……ほむらちゃんと美森ちゃんの大親友」

「……っ」

「ほむらちゃんの友人関係はほとんど知らないけど断言できるよ。あなた達と関わりがある人で、ほむらちゃんや美森ちゃんみたいな優しくて素敵な子を心配しない人なんていないはずだよ」

 

 私達と関わりがある人の中に心配しない人はいない……勇者部のみんなは悲しむ?

 あの時、風先輩は困惑していた。

 

 友奈は……泣いていた…。

 

「何度でも言うよ。これはほむらちゃんと美森ちゃんだけの問題じゃないの。二人を想う人全ての問題なんだよ。私に関係なくなんかない」

「…………」

 

 反論なんてできるわけがなかった。自分達の問題だと言い張って、私は友奈達の心配すらも気にしていなかった。

 今日の学校での事だって、いつもなら友奈は絶対私に話しかけて来るのに、今日はあの子と一度も会話を交わさなかった。あの子の心を傷つけてしまった証拠だ……。

 

「話してくれる? ほむらちゃん達が喧嘩してしまった理由」

 

 ……話さない事は、誰にも理解されない事はすれ違いを生むだけ。だったら……

 

「……話してしまえば彩羽さんにとって辛い事実を伝えてしまう。それでもいい?」

「……羽衣のこと…かな? 部屋から出る時にあの子の名前が出たけど…」

「……ええ」

「聞かせて。二人だけじゃなくて羽衣の名前も出た以上、私は逃げないよ」

 

 話そう。現実から目を背け続けてはただの愚か者だ。今更だがみんなを悲しませる事は私の望む所ではない。

 

 

 

 羽衣ちゃんに会いに行った時、あの子の心は既に限界だった。彩羽さんと乃木さん、あなた達に会えない事、東郷……鷲尾須美の生死すら分からない恐怖、羽衣ちゃんを蝕んでいる病。

 

 私が会いに来たあの日まで、羽衣ちゃんは生きることを諦めていた。どうしようもない孤独感と、病が命を削り続ける毎日。肉体的にも精神的にも追い詰められ、むしろ死ぬことでそれら全ての苦痛から逃れられると考えていた。

 

 私は言ったわ。須美は生きていて、友達と幸せな日々を送れていると。お姉さん達も羽衣ちゃんをずっと愛していて、会いたがっていると。あの子に希望を……生きる目的を与えて助けたかった。

 

 ……羽衣ちゃんはもう……駄目らしいの。現在の医療技術では助からない。余命も残り二ヶ月程度……そう言っていたわ。

 

 ……姉のあなたには重すぎる話よね……。でも、事実なのよ。あの子はもう……生きる事を諦めるしかなかったの。

 

 生きる事を諦めた羽衣ちゃんは妥協した夢を願った。死ぬ前に彩羽さん、乃木さん、東郷に会いたい。それがあの子の最期の願い。

 

 悔しかった…! あの子の助けになりたかったのに、あんなに悲しい願いを抱かせる結果にしてしまったことが…!

 

 涙を流した…! あの子はまだ小学生でしょう…!? もっと幸せな夢を願ってもいいのに、ありふれた日常すら望めないなんて酷すぎるわよ…!

 

 羽衣ちゃんは生きていたいのよ! 本当は彩羽さんに会って、乃木さんに会って、東郷に会って……今度こそみんなと一緒に幸せに生きたいのよ! 何故それを諦めないといけないの! どうしてあの子が死ななくちゃいけないのよ!

 

 ……ごめんなさい、取り乱してしまったわ。不吉な言葉も出したわね…。

 

 ……でも、どうすることもできなかった。彩羽さん、あなたは私に言ったわよね。羽衣ちゃんに笑顔を取り戻してくれてありがとうって……あんな笑顔で迎えられる希望なんて、私は望んでない。最期の望みを与えるつもりなんて無かったのよ。ただ約束したかっただけ……東郷の記憶が戻って、彩羽さん達の体も治って、再会できる時まで頑張ろうって。そこがゴールじゃない、再出発のポイントであってほしかった。

 

 ……結局羽衣ちゃんの望みは変わらなかった。生きたいという本当の望みを諦めて、死ぬ前にあなた達に会う……。

 

 

 羽衣ちゃんがその望みを願いながら苦痛を耐えている間、東郷は自害を繰り返していたのよ…!

 

 勇者は死なないというあなた達の言葉を検証するために十回以上…! あなた達の言った事が真実かどうか確かめるために…!

 

 私は東郷が記憶をなくしていても、心では忘れていないと信じていた。あなた達に初めて会ったあの時、東郷が流した涙を見てそう確信したのよ……なのに…!

 

 東郷はあなた達を信じていなかった! 疑っていた! 記憶はなくても東郷とあなた達の間には言葉で表せないほどの絆があったはず! それを蔑ろにした東郷が許せない!!

 

 加えて信じていなかったくせに東郷がしでかした事は自害! 自分が死ぬかもしれないという考えは絶対にあった! ありながら実行した! もし本当に死んでしまったら取り返しがつかないなんて誰にでも分かるでしょう!!

 

 死ななかっただけよ! 東郷は自分の命を粗末にした! 私達の大切な友達を十回以上も殺しかけた!! 

 

 羽衣ちゃんは東郷に会いたいと願ったのよ!! 生きる事すら諦めた羽衣ちゃんが最期に会いたいと!! 記憶がない!? そんな事聞いてないから知らない!? 関係ないのよそんなこと!!

 

 羽衣ちゃんが諦めざるを得なかった命という無二の存在を、あの子が再会を望んでいる人の命を東郷は実験台にした!! あの子の想いを踏みにじって……許せるわけないでしょう!!

 

 

「……そうだったんだね……」

 

 溜め込んでいた怒りや悲しみ全てを吐き出し、昨日の苛立ちをそのまま思い出した私にかけられた言葉。悲しんでいるのやら同情しているのやら……確かに言えることは、その感情の中には私とは違って怒りというものが感じられなかった。

 

「……ほむらちゃん、もう一度だけ言わせて。羽衣に笑顔を取り戻してくれて、ありがとう」

「……っ! 話を聞いていたの? いらないわよ! あんなに悲しい笑顔なんて!」

 

 最初に聞いた時とは違って、今は彼女も羽衣ちゃんの現状が分かっているはずだ。それなのに何故その言葉が出てくるのよ! 私を煽ってるの!?

 

「ううん、ちがうよ。悲しい笑顔なんかじゃない、ほむらちゃんは羽衣に希望を与えたんだよ」

「……そんなもの…所詮はまやかしの希望よ」

「まやかしでもなんでもない。本当にそうなら羽衣は今でも私達に再会する事じゃなくて、死んで楽になることを考えているはずだよ。幸せなのはどっちの方だと思う?」

 

 最初にあの子を見た時の、全てに絶望して今にも壊れてしまいそうだった羽衣ちゃんの姿。

 夢を見出してからの、私の話を嬉々として聞いていた羽衣ちゃんの姿。幸せそうなのは……あの子が幸せなのは後者だった。

 

「羽衣に須美ちゃんが生きてる事を教えてくれたんだよね。羽衣、きっとものすごく嬉しかったんだろうね」

 

 そうだ。その話をしてからだ。あの子の何もかも諦めて濁りきった眼に希望の光が戻ったのは。

 

「あ! それとほむらちゃん、羽衣にいろんなお話をしてくれたでしょ?」

「えっ? 確かに勇者部の話とか、時間ギリギリまでいろいろと……あなたには言ってないわよね?」

「言ってなくても分かるよ。ほむらちゃんはとても優しい、人を思いやれる子だから、あの子が喜ぶ話をしてくれたって!」

 

 そう屈託のない笑顔で語る彩羽さんの姿が私の記憶の中のあの子の笑顔と重なる。その曇り無き笑顔と、勇者部の話を聞いていた時の羽衣ちゃんの笑顔は全くの同じだった。

 

「ほむらちゃんは間違いなく、羽衣を救ってくれたんだよ。あの子も絶対に感謝してるから、否定しないであげて? ……それと」

 

 ここからが本題。彼女が次に何を言おうとしているのかは簡単に予想できる。

 

「ほむらちゃんが本当に羽衣の事を想うのなら、美森ちゃんを許してあげて」

 

 ……ほら、やっぱり。話す前からその言葉は絶対に来ると分かりきってた。私の気持ちを知った上でぬけぬけと……。

 

「……よくもそう簡単に言えるわね? あなたは東郷のしでかした事の重さに何も感じなかったの?」

「思うところが無いわけじゃないよ。まさか自殺で試すなんて、もし私もその場にいたらお説教してたよ……でも」

 

 彩羽さんはその場で立ち上がり、大きく上半身を前に倒した。

 

「元を辿れば私達が原因です。教えるかどうか、もっと深く考えるべきでした。あなた達には辛い真相を押し付けて、あまつさえ二人の仲を傷つけてしまって……本当に申し訳ありませんでした」

 

 最敬礼の姿勢、最大級の謝罪の意を込めて言葉を紡いだ。

 

「責めるなら私達を責めてください。一生許さなくても構いません。美森ちゃんはただ、私達のせいで気負い込んでしまっただけなんです」

「べ、別にあなた達を責めるつもりは…」

 

 彼女達は私達と同じ被害者だ。責めるなんて考えては初めから無かった。そう言うと彩羽さんはゆっくりと姿勢を戻し、冷めた口調で言い放つ。

 

「……私達を責めるのは間違いだと思うの? それで美森ちゃんが全部悪いって言うつもり?」

「それは…」

「それって犯罪の実行犯が有罪で、唆した黒幕が無罪だって言ってるようなものじゃないかな」

「……あなた達に東郷を唆す意図は無かったのでしょう?」

「例えだよ。確かにその気は全く無かったけど、話をしたせいで実際にトラブルは起こっちゃったんだよ」

 

 彩羽さんは正そうとしている。自分達に責任があるのだと、自身の信念通り真っ直ぐに貫き通す。

 

「ハッキリ言うよ、ほむらちゃん。あなたは美森ちゃんを過剰に責めているだけなの」

「過剰……それは当然でしょう!? 東郷がしでかした事を考えれば過剰にもなるわよ!!」

 

 東郷は私達の、彩羽さん達の、羽衣ちゃんの想いを…!!

 

「………あのね? ほむらちゃん……

 

 

 

 

 

いい加減怒るよ?」 

「……ひっ!!?」

 

 え………なに今の恐ろしいプレッシャー……? 足が震え…え……動かない…? 東郷の友奈絡みで滲み出る威圧感なんて霞んで霧散するレベルのおぞましさ……一瞬彩羽さんの背後に呼子鳥の化け物の幻影が見えた気が……!?

 

「言ったそばからどうして責めるの? 私はそれが良くないって言ったんだよ?」

「は、はいっ!」

 

 反射的に返事をしてしまった……でもアレは逆らえないでしょう…!? 普段怒らない人ほど、怒る時は怖いとはよく言うけど、怒る前から恐怖で膠着するって余程の…!

 

「……ハァ……ほむらちゃん、あなたは美森ちゃんの事をどう思っているの? 許せないとかそんなのじゃなくて、難しく考える必要はない……もっと根本的な意味で、一番中心的な意味で」

 

 東郷の事を根本的にはどう思っているのか? あの子と出会えた事は私のこの人生の中でも特に幸福なものの一つだった。だってあの子と話している時間は……共に過ごしてきた時間は奇跡といえるほど尊いもので……私は彼女を……

 

「…………友達だと思ってるわ」

「それは喧嘩している今も?」

「……ええ」

 

 ……あんな事があっても一度たりとも縁を絶ちたいなんて思わなかった。ずっと友達だと思っていた。友達だからこそ東郷の行動が許せなかった。

 

「このままでいいの? 美森ちゃんと仲直りしないまま、ずっと怒ったままでお友達を悲しませて」

「……分かってる…」

「時間は解決してくれないよ」

「分かってる!」

 

 私達がこのままだと誰も幸せになれないなんて、もう私達だけの問題じゃないなんて分かってるのよ!

 羽衣ちゃんを想うなら許してあげて…なんて……卑怯よ。あの子も私達の事を知ったとすれば悲しむ内の一人じゃない。羽衣ちゃんがこれ以上悲しむなんて嫌……だけど、この気持ちを中途半端に受け入れてはいけないのよ!

 

「……仲直りしたくないわけじゃないんだよね。あくまでほむらちゃんの気持ちの問題……そうなんでしょ?」

「……」

「だったらお互いしっかり話し合おうよ」

「話し合う?」

「そう。美森ちゃんだってさっき、自分が間違いだったって言ってたでしょ。ほむらちゃんはあの時聞き入れなかったけど、それも間違い。想いは否定しちゃだめ……ちゃんとお互い話し合って、受け入れるんだよ」

「……単純ね」

「単純でいいんだよ。友達と仲直りする方法なんて複雑じゃなくていいの。一緒にいたいって思う事が一番なんだから」

 

 話し合いか……それに勇者部六箇条、悩んだら相談。意固地になって目を背けて失敗だった。今更どんな顔をして話せばいいのやら……でも、こればかりはやり通さないと。

 

「ただその前に、ほむらちゃんも美森ちゃんに謝ること! さっきも言ったけど、美森ちゃんを責めすぎたってことを忘れないでね!」

「……年長者の忠告、感謝するわ。私も悪かった」

 

 謝らないと……東郷に、みんなに。

 

「さて、話はこれで纏まって……あ」

「……次はこっちが聞く番ね」

 

 本来の目的は終わっていない。彩羽さんの表情が目に見えて曇る。彼女が知っている、これから伝えられる話が決して良いものではないと解ってしまう。

 

「……本当は話したくない。これはあまりにも残酷すぎるの。絶望して、生きる気力を無くしてしまうかもしれないから」

「そんなに…」

「聞かなければそんなショックは受けずに済む。決定権はほむらちゃんに委ねるよ」

 

 そう前置きするなんて、本心では話したくないというのは嘘偽りないのだろう。でも委ねるということは、彼女は私を信じてくれている。私が絶望に負けてしまうと思っているなら彩羽さんは教えるはずがない。乗り越えられると信じているからこそ、話していいと考えてくれている。

 それにここで逃げたら私達を陥れた運命に屈してしまう。抗って、みんなと再び笑い合える日々を取り戻すと誓った。絶望なんてしてたまるものか!

 

「お願い、彩羽さん」

 

「……───は」

 

 

 

 

 

「……な……う…そ……」

「これが私達が二年前に直接目にした、勇者の……この世界の真相だよ…」

 

 足元がおぼつかない。彩羽さんが語った、この世界に救いなんて……ない。

 

「~~~っ!!」

 

 やり場のないグチャグチャな感情のまま、壁に無我夢中で拳を叩きつける。守るべきこの世界はとっくの昔に……終わっていた。

 

「ほむらちゃん」

「…っ!」

「負けないで……絶望しないで」

 

 彩羽さんの言葉が埋もれてしまいそうな私の心を繋ぎ留める。こんな絶望しかない世界で、彼女は二年間も耐え抜いていた。

 

「……あなたは…どうやってこの事実を受け止められたの?」

 

 私なんかよりも辛い過去を背負っているはずの彼女が、絶望しないで私に希望を託そうとする理由が分からない。仲間を失って、他の仲間と一緒に散華し、妹と引き離されてた……そんな彩羽さんは微笑み言った。

 

「あの子達がいてくれたから。羽衣、園子ちゃん、須美ちゃん、銀ちゃん……私はあの子達のお姉ちゃんだから」

「……一人っ子だから真似できないわね」

 

 でも……とても愛しいと思える仲間達なら……。

 

「大丈夫そうかな…?」

「かなりキツいけど……なんとか…」

 

 精神的にはもう倒れそうだけど……。

 

「もう今日は帰った方がいいんじゃない?」

「……ええ。そうかもね」

 

 いろいろ整理しないと……これからの事、この世界の事。

 

「あ、最後に一つだけ!」

「なに?」

「私を友達だって受け入れてくれてありがとう!」

 

 ……ふふっ、このタイミングでそれを言うのね。私も、出会えた先代の勇者が彩羽さんで本当に良かったわ。

 

「……彩羽さんはあの部屋に戻らないの? 一緒についていくわよ」

「あ、ううん、一人で大丈夫。落ち着いたら戻るよ」

 

 ……落ち着いたら? 少し気になったけど彩羽さんに変わった様子は見受けられない。まあ彼女も疲れたのでしょうね。大丈夫だというなら問題ないのだろうし。

 

 

 

 東郷は……もう帰ったのかしら? 早いところ東郷にあの時の態度と、昨日の事を謝って、話したい。

 

 エレベーターで一階のロビーに降りると何やら大赦の神官達が慌ただしい様子でこちらに近付いてきた。ただ、慌ただしかったのは彼らが私の存在に気付く直前まで。今は仮面越しに露骨に安堵した様子が伝わってくる。

 

「「「勇者様!!」」」

「……肩書きなんかで呼ばないでほしいわ。よくもぬけぬけと声をかけられたわね」

 

 散々騙してきた相手にこうも媚びへつらう様を見せつけられて怒りが湧かないわけがない。そのくせ睨み付けると怯える様も見せて……本当にどうしようもない連中だ。

 

「申し訳ありません暁美様!! ですが緊急の事態ゆえ……お力を貸して頂きたく…」

「お断りよ。図々しいことこの上ないわ」

「ですが…!」

「くどい。誰があなた達に力を貸すと…」

「現勇者の犬吠埼風が暴走しているのです!」

「………は?」

 

 今なんて……風先輩が暴走……?

 

「どういう事よそれは!!」

「ヒィ!? わ、私共にもその…経緯が不明で……何故犬吠埼風が暴走しているのか…!」

「ふざけるな!! 風先輩が何の理由もなくそんな事をするわけないのよ!!」

「お、お助けください!! 勇者様!!」

「黙りなさい!!」

 

 わめき散らす神官共を突き飛ばして病院から飛び出す。風先輩がどこにいるのか、勇者システムを起動しマップを表示する。私達勇者の位置を明確に表示するこの機能により、全員の現在地が映し出された。

 

 風先輩は……讃州市と大橋市の中間ぐらいの地点に。そしてそこには夏凜もいるみたいだった。二人その地点からほとんど移動していないが動いてはいる。おそらく暴走している風先輩を夏凜が足止めしている。その地点にさらに二人、友奈と樹ちゃんも向かっている。

 

(東郷は………え?)

 

 東郷だけは正反対の場所にいた。四国全土を覆う壁の上に。そこから外側へ出て行って……消えた。

 

「壁の外に!?」

 

 私が彩羽さんから聞いた話。壁の外はこの世界の人々に隠された、真実の世界が広がっている。東郷は乃木さんからあの話を聞いて確かめに行った…?

 

「っ! 夏凜、友奈、樹ちゃん! 風先輩をお願い!」

 

 勇者に変身し、東郷が消えていった場所へと駆け出す。

 その真実の世界とは地獄だと聞かされていた。東郷はそんな所に一人で……!

 

 

◇◇◇◆◆

 

「……もう行ったかな?」

 

 ほむらちゃんはいない。そして幸いなことに園子ちゃんもいない。この部屋にいるのが私一人だけで本当に良かった。

 ほむらちゃんの話の割と最初の方からずっと、この時が来るのを待っていた。もう自分に嘘をつかなくていい。誰もいないからごまかす必要もない。

 

 そう思ったその瞬間、私の体は膝から崩れ落ちる。一切の光を失った両目からは我慢していた涙が溢れ出す。

 

 

 

「わああぁぁーーーーーーっ!!!! ういぃぃーーっ!!!! 羽衣ぃいいいい!!!!」

 

 

 

 絶え間なさく流れる涙を拭おうにも両腕も散華していて動かない。仕方なく、床に顔をこすりつけるよう拭うしか……。

 

「ぅうう……うああああああああああああ!!!! やだぁ……いやだよぉ……死なな…いで……羽衣…ぁぁあああ…!!」

 

 最愛の妹の死が、永遠の別れが……。何故そんな時が迫って来ているのに私はここにいるのか。何故あの子の側にいてあげてないのか。

 それは私が勇者だったから……もしそのように責任を押し付けられたら、少なくともこれほどまで自分を責めなかったのかもしれない。でも違う。私がここにいるのは、あの子の側にいないのは何もかも私が望んだこと。選択肢はちゃんと存在したのに私が選んだ答えは妹を見捨てるものだった。

 

『ろっはー先輩……わっしーをお願い。後は全部私がなんとかするから』

『な、何言ってるの!? あんなにバーテックスがいるのに園子ちゃん一人なんて…園子ちゃんが死んじゃうよ!! 私も残って戦う!!』

『ろっはー先輩にはうーたんがいるでしょ。お姉ちゃんでしょ? あの子を一人ぼっちにしちゃダメだよ。側にいてあげないと』

 

 園子ちゃんにだって言われた。須美ちゃんを任されて、羽衣を一人ぼっちにしないでって。最初の散華で左腕を持っていかれて、武器が扱えなくなった私には当然の言葉だったけど。

 

『大丈夫……私は死なないから。だって絶対に死ねないんだもん』

 

 あの時の銀ちゃんと似たような雰囲気で笑って、園子ちゃんは私達を守ろうとたった一人で最低でも二十体以上もいるバーテックスへと立ち向かおうとした。私はそれが怖かった。

 

『いつかまた会えるから……だから、ちょっと行ってくるね』

 

 そう言って園子ちゃんは飛び立った。私はそれを見て迷わずに決めた。悩みすらしなかった。

 

『えっ…? な、なんで……どうして!!』

『須美ちゃんは大丈夫!! 攻撃の届かない安全な場所に避難させたから!!』

『そうじゃないよ!! なんで戻ってきたの!? うーたんの側に居てって言ったじゃない!?』

『分かってる!! 自分でも最低な事をしているって分かってるよ!! それでも!!』

 

『私が園子ちゃんを一人ぼっちになんてできるわけがないでしょ!!!!』

『っ……ろっはーの…馬鹿ぁぁぁぁっ!!!!』

 

『……お姉ちゃん失格だね、私……』

 

 二年前の全てが終わったあの日、桜が樹海に満開の花を咲き誇りながらそんな事を思っていた。目の前からいなくなりそうな幼馴染を追いかけて、最愛の妹を置き去りにして見捨てた。

 二人とも心から愛していた。どちらかが欠けても絶対に後悔したはずだ。私は園子ちゃんを選んで、羽衣を選ばなかった。ただ、それだけのこと。

 

「ごめん…羽衣……!! こんなお姉ちゃんで……ごめんね……ぅぁああああ…!! ああ…あああああああああ!!!」

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