ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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第三十八話 「この世界の秘密」

「……なるほどね~。そっちはそんな事があったんだね~」

「………」

 

 すっかり泣き腫らした私の話を聞き終えた乃木園子は黙ったままだった口を開く。私は俯いたまま、先日の自分の行動を後悔しているままで今度は私が口を閉じる番だった。

 

「つまりあなたはもう二度とほむらちゃんに許されないまま、嫌われ続けるって思うんだね」

「……っ!」

「ああっ、ごめん! 泣かないで~!」

 

 直接告げられたその言葉に再び涙がこぼれる。私の自業自得とはいえ、彼女に話しかけてもらえない、目も合わせてもらえない日々がずっと続くと思うと耐えられない。そんな世界が怖くて仕方がない。

 

「大丈夫だよ~」

 

 そんな中、乃木さんはにっこり笑って確信めいた表情で私を宥める。私のためを想って言ってくれるのだろうが、そんな言葉だけでは報われない。

 

「……大丈夫って…何を根拠に…」

「う~ん……根拠っていうか、ただの体験談だね」

 

 そう言った彼女の様子は、先ほどの笑みとは違った憂いを帯びたものに変わっていた。今乃木さんは体験談と言った。それがこの話の中で表すことはつまり……。

 

「私もね、前にろっはー先輩にものすごく怒った事があるんだ~。それこそ絶対に許さない、死んでも許さないって思った事が。何度も何度も……ろっはー先輩に酷いことを言った事がね」

 

 やはり……そして、意外な人物との不和だった。乃木さんが高嶋さんに対して?

 彼女達の間に何があったのかは分からない。でも、乃木さんと高嶋さんの間にある絆はおそらく、私とほむらちゃん達との絆と同等のものだったのだろう。

 それが昔無くなりかけて……今の彼女達にはそんな過去があったとは考えにくかった。乃木さんはまるで私を安心させるかのように、再びにへらと笑って言った。

 

「でも許したんだ~。お互いしっかり謝って、仲直りできたんよ~」

「……本当…?」

「ほんともほんと~。私でも仲直りできたんだから、わっしー達も大丈夫だよきっと~」

 

 私とほむらちゃんは彼女達とは違う。実際にまた今まで通り仲良く過ごせるようになるのかは分からない。それでも、乃木さんがここまで励ましてくれた事は嬉しくて、見えなくなっていた希望の残光が照らしたかのように感じられた。

 

「……それよりも、選りに選ってほむらちゃんが連れていったのがろっはー先輩の方だからね~。運の尽きってやつだよ~」

「え!? 運の尽き!?」

「今頃苦労してるだろうな~、ほむほむ~♪」

「ほむ…ほむ…?」

「ほむらちゃんだからほむほむ。ニックネーム考えてみたんよ~! どうかな~?」

「……どうって……ふふっ、可愛らしい渾名ね」

「でしょ~! わっしーやっと笑った~」

 

 乃木さんに言われて本当に自分が今笑っていた事に気づいた。最後に笑ったのなんていつだったか……ここ数日は全く記憶に無い。

 私達勇者達の今の状況は断じて笑えるものではない。それでも、またみんなで笑い合える日々が戻ってくるのなら……。

 

「って、ごめんごめん、またまた間違えた~。わっしーじゃなくて東郷さんだったね」

「……いいえ、わっしーでいいわ。記憶は無いけど、かつての私は鷲尾須美という名前だったのだから」

 

 この前初めて……いえ、二年ぶりに再会した乃木さんと高嶋さんは私の事を知っているみたいだと、あの時から既にそのように察しが付いていた。乃木さんは私を見ながら「わっしー」と呼び、高嶋さんはその名前で呼んでしまわないよう意識していた。

 

 二年前、適性検査で勇者の素質を持っていると判断された私は大赦の中でも力を持つ鷲尾家の養女になった時期が存在していた。当時の大赦は身内から勇者を排出する決まりがあり、鷲尾家は分家である東郷の家の娘である私を……。

 

 そこで私は彼女達と共に神聖なる御役目という名目で勇者になり……散華してその当時の記憶と足の機能を失った。

 私の両親はその事実を知ってて黙っていた……。

 

「よくわかったね~。ほむほむもそうだけど、やっぱわっしーもすごいな~」

「……ほむらちゃん? やっぱり彼女も?」

「うん。わっしーが鷲尾須美だって気づいていたよ。とても賢くてほんとにビックリだよ」

 

 ほむらちゃんの発言からして乃木さん達と私の関係に気づいているかもしれないと思っていたけど、まさにその通りだった。だからあの時高嶋さんを私の前に連れてきてくれたんだ。

 

 そして、私達の関係が分かっているからこそ、私の事が許せなかったんだ……。

 

「満開の力の代償が少なく、まだ使えると判断された私は次なる戦いに回されたのよね…」

「悪い言い方だとそうなっちゃうね……事実だけど」

 

 乃木さんは見た目通り。高嶋さんは動く事自体はできるようだが両目を失明していて、気配で分かるとは言っていたけど、だからといって完璧に把握はできていないのか歩く速さはかなりゆっくりだった。それ以外にも散華している所がある以上、彼女も私のような使い回しをする利点は無かったのだろう。

 

「引っ越しの場所が友奈ちゃんの家の隣だったのも仕込まれたもの…」

「彼女は四国全域で実施された検査で適正値が一番高かったんだって。大赦側は彼女が神樹様に選ばれるだろうって考えてたみたい」

「風先輩と樹ちゃんも、援助という名目で元は別の街にいたのを讃州市に引っ越させた」

「彼女達のご両親は大赦の人だったんだ~。向こうにとっても都合良かったって…」

 

 大赦はいろいろ計算づくで、私達みんなを勇者にしていた。でも一つだけ分からない事がある。

 

「……ほむらちゃんは? 彼女は適正値はむしろ低かったのでしょう?」

 

 ほむらちゃんは失敗作の勇者システムを使える異質な勇者としての烙印を大赦から押されている。けど、ほむらちゃんは生まれも育ちも讃州市。小学校は違うけど友奈ちゃんと同じ、転校なんて一度もしていないはず。

 ほむらちゃんにしか扱えない勇者システムの存在と、彼女がこの街で勇者に選ばれたのは、果たしてどちらもただの偶然? それともこれらも、大赦が何か仕組んだことなのか。

 

「……んー……多分それは……」

 

 しばらく考え込んでいた乃木さんは自信無い声で言った。

 

「偶然じゃないと思う」

「っ…!」

「わっしーにも教えるね。彼女の勇者システムについて」

 

 そして伝えられる、あの時大赦が黙っていた物の本当の姿。失敗作ではなく、高嶋家で保管され続けていた西暦時代の勇者システムだという事を。

 

「それと、ほむほむに伝えそこなった事があるの」

「え、ええ…」

「ほむほむは多分知らないんだよね……自分の名前のルーツ。誰がほむらって名前を付けたのか」

「ほむらちゃんの名前……身内の方ではないの?」

「私もたまたま知ったんだ~。今の勇者達がどんな人達なのか教えて~って、ここに来た神官さんに聞いて。その人が14年も前に彼女のご両親に伝えたみたい」

「!? まさか!」

 

 乃木さんはさっき、ほむらちゃんが勇者に選ばれたのは偶然ではないと言った。でも、今なら私もはっきりと頷ける。

 

「彼女の名付け親は神樹様だよ」

 

 偶然ではない。ほむらちゃんは初めから神樹様の息が掛かって存在。勇者に選ばれる事が生まれる前から決められていた存在だった。

 

「驚きだよね~。彼女はただの人間でも勇者でもない。正真正銘、神樹様に選ばれた存在なんだよ」

「……じゃあその勇者システムというのは始めから、ほむらちゃんを戦わせるためだけに用意された物……」

「それはどうだろうね~。西暦時代だから300年も前から狙っていたのかって言われたら反論に困るんよ~」

 

 そう締めくくられるも、そこは深く考える必要はなかった。これで確定したからだ。大赦も神樹様も始めから私達を狙って犠牲にするつもりだった…!

 思えば満開してからは大赦が家に援助をし始め食事の質が上がって、みんなと行った合宿での料理も豪華なものだった。あれは労っていたのではなく、形は違えども乃木さんや高嶋さんと同様祀っていただけ…!

 

「どうして私達がこんな…! 神樹様は人類の味方じゃなかったの!?」

「……味方ではあるけど神様だからね~、そういう面もあるよ。そもそもこの世界は……」

「この世界は……なに?」

「……わっしーにも知る権利はある………ねえ、この世界の秘密……この世界の成り立ち、知りたい?」

 

 質問の意味がよく分からない。でも、この場面で出てきたその質問はとても意味深なものに思えて他ならない。

 この世界の秘密…? 私達の……きっとほとんどの人が知らない何かが隠されているの?

 この世界の成り立ち…? いったい彼女は何を知っているの?

 

 ……大赦は私達を騙し続けている。私達に知られては、街の人達が知ってはいけないことがまだある?

 真実が今、私の目の前にあった。もう何も知らないまま、騙され続けるなんてまっぴらごめんだ。私は乃木さんを見つめながら頷いた。

 

「……わっしーがどういう結論を出しても、私もろっはー先輩も味方だから。いつどこでもどんな時でも味方だから……そこだけは、安心してね」

 

 その言葉が告げられ、その次には世界の真実が語られた。

 

 

 

 乃木さんと別れた後、私はいてもたってもいられなくて四国を取り囲む壁へと向かっていた。変身していれば海なんて関係なく跳び渡る事ができる。一刻も早く、彼女から語られた最悪の真実を確かめなければならなかった。

 

「壁の向こう側は綺麗な景色だけど……これは…」

 

 私の視界に映るのは、夕陽で輝いて見える海や山々だ。とてもウイルスが蔓延しているとは思えないほど美しい見事な風景。この壁が私達を守っているからこそ、今まで誰もが平穏に暮らせているのだと、小さい頃からそう教わっていた。

 

 この壁の向こう側は、ウイルスが蔓延している危険な地帯。乃木さんの語った真実からすると、今までの私達の常識は崩れ落ちる。

 

 意を決して前へ……瞬間、世界が地獄に姿を変えた。

 

『壁を越えれば神樹様が見せていた幻が消えて、真実が姿を表すよ』

「…………え…?」

 

 つい今し方までの美しい景色は消え失せた。宇宙のような空間を廻る灼熱。それは火の海としか言い表せられない非情な地獄。

 私が今立っているところは、見慣れた壁の樹木でできた地面なんかじゃない。超巨大な黄金の大樹……神樹の造り上げた結界の本来の姿。私達の世界は、それは宇宙規模の結界の中に……。

 

「これが本当の世界の姿……!? はっ…!」

 

 いたるところに泳ぐように飛び回っている、人よりもふた周りは大きい白い生命体。百体、千体、その程度では数え切れないほど夥しい数の化け物が跋扈している。

 

 その生命体、彼女が言っていた。西暦時代、人類を滅亡寸前に追いやった、ウイルスという偽の媒体で隠され続けていたものの本当の正体。

 

『天の神様が粛清のために遣わせた生物の頂点……バーテックス』

 

 うようよと漂うバーテックスが私の存在に気づく。そいつらの正面を見てしまった。人間の一人や二人、簡単に食い殺せるほどの大きな口。本能の赴くまま肉を喰い散らかそうとする悍ましさを漂わせながら、その大きな口を開いて私に襲いかかってきた。

 

「くっ…!」

 

 衝撃でおかしくなってしまいそうな頭をなんとか切り替えて手元に銃を呼び出す。そしてそのバーテックスに撃ち込むと、その体は弾けて消滅した。みんなで戦った、大型のバーテックスとは違ってこいつらは雑魚……そこまで大した存在じゃない。

 

「っ…! あっ!」

 

 一体だけなら……この小型のバーテックスは四方八方至る所から何体も襲いかかる。倒した所でその数は全く変わらない。

 自分でも見ていたはずだ。このバーテックスは百体、千体なんかでも全体の1%に遠く及ばないほどもっと多い……それこそ、星の数いるのだと。

 私一人なんかでは……勇者達のみんなが集まったところでは……乃木さんと高嶋さんが来てくれたところでは……この数は倒しきれない。

 

「うあっ…!」

 

 徐々に倒す量よりも攻められる量の方が上回り、噛みつきを避けるも体制が崩れて倒れてしまう。このままじっとしていたら奴らの餌食に……そう思って立とうとするも、地面の感覚がおかしくてうまく立ち上がれない。

 

 そして見てしまった……私が今倒れ込んでいるここは地面ではない。バーテックスの口の上……

 

「いやあああああ!!!!」

 

 散弾銃で撃ち抜く。何度も、何度も、何度も…!! 倒せてはいる…! それなのに目に見える数は少しも変わらない…! 無限に増え続ける敵を倒せない…!

 こんな数の敵と戦って、私達に終わりが訪れる時が来るというの!? 戦って、抗って、倒れて……それで私達は終わりじゃないの!!

 

「もういい加減に…!!」

ドン!!

 

 私を狙って襲いかかってきたバーテックスの内の一体が爆発した。私はまだ撃っていなかったのに、一体何が…!

 

「東郷!!」

「っ!? ほむらちゃん…!?」

 

 そこにいたのはあの病院で別れたはずのほむらちゃんだった。あの時にはちゃんと合わせてもらえなかった紫色の瞳が、動揺しながらも心配している目が、私をしっかりと捉えていた。

 

「伏せて!!」

 

 ほむらちゃんが手に持っている筒状の物体を、私を取り囲んでいるバーテックスに投げつける。その物体……爆弾はバーテックスに当たると爆発を起こし、周囲に爆煙が舞い上がるも、その煙の流れは突然停止した。いつの間にか、私の手はほむらちゃんに握られていた。

 

「ほむらちゃん…どうしてここに…!」

「一旦退くわよ! ここは危険すぎる!」

「う、うん!」

 

 ほむらちゃんの時間停止能力で全てのバーテックスが動かなくなる。呼吸を整えて視線を動かし、驚愕の光景を目にした。

 

 少し離れた地点で小型のバーテックスが蠢くようにひしめき合っていた。動きは完全に停止しているものの、有り得ないものの姿までもが一緒にあった。

 

「……あれは……乙女型バーテックス…!?」

「友奈ちゃんが倒したはずの……復活している…!?」

 

 ほむらちゃんも気づいた。今は動きが止まっているけど、小型バーテックスが何体も集まって、合体して、かつて私達が命がけで戦っていたバーテックスへと姿を変えていたのだった。

 

 あれは蠍型バーテックス…

 

 あれは射手型バーテックス…

 

 あれは獅子型バーテックス…

 

 どれもこれも、私達が倒したはずのバーテックスが全て復活しようとしていたのだ。あんなに苦しい思いをしてまで、満開をして体の機能を失ってまで倒した敵が、何事もなかったかのように存在していた。

 

「……バーテックスは……12体なんかじゃない…! 12()()だった!?」

 

 どうしようもない絶望感が私達を包み込む。私達の戦いは一体何だったのか……。

 倒しても倒しても復活し、いずれまた攻めてくる。そのたびに私達勇者は迎え撃って、満開して散華で体の機能を失いながら一時しのぎの防衛をし続ける…?

 

 何度も体の機能を失いながら……何回も絶望しながら…?

 

『体は二度と戻らないまま、最後はこうして祀られる』

 

 

 

「はあ…っ……はあっ…はっ…う…ゲホッ…ゲホッ…!」

「……っ…アレが……世界の真実……!」

 

 二人で地獄から脱出し、元いた壁の上へと戻ることができた。それでも私達が受けた衝撃はあまりにも大きすぎて、私は膝をついて激しく咳き込み、ほむらちゃんは顔面蒼白となっていた。

 もうあんな化け物はどこにもいない。身を焦がすような灼熱の海もない。あるのはとてものどかで綺麗な……偽物の風景。でも人々にとってこの偽物こそが本物で、私だってほんの数十分前まではそう思っていた。

 

 知ってしまったんだ。この世界というものは、私達勇者の犠牲で成り立っている……。

 

「う………ああ……ううううっ…!! ああああああああああああっ!!!!」

「東郷………くっ…!」

 

 脳裏に浮かぶ、みんなの姿……みんなの笑顔が…消える。

 

 友奈ちゃんが…! ほむらちゃんが…! 風先輩が…! 樹ちゃんが…! 夏凜ちゃんが…!

 これからもみんなが終わり無い戦いで体の機能を失い続ける苦しみを味わう…!! 味覚を、目を、声を、痛覚を失って、これ以上の代償を払わなければならないなんて…!!

 

 高嶋さんみたいに両目とも失ってしまえば……そうなったら二度と大好きなみんなの顔も見ることができない。両腕を失ってしまえば……もう二度とみんなの温もりを手に取ることができない。

 乃木さんみたいに全身隈無く散華してしまえば……大赦に幽閉され、祀られて、一生を犠牲に…! 大切な人達と引き離され、孤独な毎日を送る生き地獄じゃない…!

 

 そしてもう一度……記憶が失われてしまったら……

 

『園子ちゃん……』

『………あ~、はは…ごめん、ろっはー先輩。つい…』

『ううん、気持ちはよく…分かるから…』

 

 みんなが私の事を忘れてしまったら……

 

『と、東郷さんの知り合いなの?』

『………いいえ、初対面だわ』

 

 

 

 

タイセツナヒトヲウシナエバ

 

 

「駄目…!! 絶対に駄目よ、そんなの…!!」

 

 嫌だ…! もう嫌だ…! みんながあの二人の時のように大切な思い出を忘れて、悲しい思いをさせるなんて…!! 私が……みんなに忘れられてしまうことなんて絶対に耐えられない!!

 それなのにどうしてまた戦わなくちゃいけないの!? どうして幸せが訪れないと分かっていながら、無駄な抵抗をして一生苦しまなければならないの!?

 

 考えなきゃ……みんなを助けなきゃ…!!

 

「忘れたくない……忘れられたくない…!!」

「…っ……落ち着きなさい、東郷!」

「ほむら…ちゃん…?」

 

 泣きながら必死になって打開策を考えようとすると、ほむらちゃんが膝をついて私の両肩を掴む。あの地獄を体験したからかかなり疲弊していても、それでも何とかして私を気にかけるようであった。

 

「……落ち着いて……悪い方に考えないで…」

「でも! これから先、私達には絶望しか…!」

「きっとあるはずよ! 私達が助かる方法が……そうじゃないと…!」

 

 ほむらちゃんの言葉は私の心が壊れてしまわないようにかけられた物。だけどそこにあるのはいまいち説得力に欠ける、ただそうであってほしいという希望を口にしただけだった。

 けれどもそう言われても全く思い付かない。私達を取り囲む絶望は光を通さない漆黒で……その中からみんなを助ける方法なんて全然分からなかった。

 

 それでも考える。何が何でも、この救いようのない世界から、運命から、みんなを救わなければならない。

 

 

 

「あった」

「……え?」

「たった一つだけ……みんなが助かる方法が」

 

 見つけた……みんなを救うことができる方法、この地獄から解放される手段が。

 

「……見つけたって……本当に…?」

「ほむらちゃん、危ないから少し離れていて」

「え、ええ…」

 

 困惑しているほむらちゃんは言われた通り私から手を放し、後ろへと跳ぶ。私が何をするのか気づいていないけど、きっと分かったら……彼女の事だ、間違いなく止めるだろう。それこそが私の掛け替えのない大好きな親友、暁美ほむらという人間なのだから。

 

「……ほむらちゃん……私、あなたに会えて、友達になれて本当に幸せだったわ」

「……東郷…?」

「この前の事は本当にごめんなさい。でも、もう許してなんて言えない。むしろ許さないでほしい」

 

 これから私がする事は、彼女の想いを分かっていながら裏切る行為。もう二度と彼女の友達を名乗れない。

 

 それでいい。嫌われてもいい。この地獄からみんなを解放できるのであれば……みんなが二度と苦しむ必要がなくなるのであれば。

 嫌われて辛くないと言えば真っ赤な嘘。でもそれで苦しむのはほんの一瞬にすぎない。それだけでみんなを救えるのであれば私は喜んで実行できる!!

 

「何をするつもりなの!? 東郷!」

 

「この世界を…私が終わらせる!」

 

 狙撃銃を呼び出し、私の行動の意図に気づいたほむらちゃんは盾に手を伸ばす。私が壁の地面に向けて引き金を引くのと、時間停止のために伸ばした彼女の手を予め配置していた精霊の川蛍による遠隔銃で弾くのは同時だった。

 

「なっ…!?」

 

 時間は止まらない。狙撃銃から放たれた砲撃は地面を大きく抉り、壁の一部を破壊した。

 

 

◇◇◆◆◆

 

 その頃、他の現勇者達は全員同じ場所にいた。風の暴走を止め、彼女が大勢の人を傷つけるという最悪の事態を回避した。その直後だった。

 

 四人の携帯から異常なアラームが鳴り響く。

 

「特別警報……なに…これ…」

「戦いは終わったはずじゃ…何で敵が来るのよ!?」

 

 彼女達に今なにが起ころうとしているのか、分かるはずがない。慌てふためく中、彼女達にとってもう二度目にする事はないと思っていた樹海が世界を包み込んだ。

 

 

 そして……

 

 

「な、なにこのアラーム…? 樹海化警報ってこんな音だっけ…?」

「……ろっはー先輩が端末壊したからじゃない? 昔から酷い機械音痴だもんね~」

「ええっ!? うそっ、私のせいなの!?」

「あー、やっぱりだ……特別警報発令って書いてる」

「それじゃあ私関係ないよね!? ……って、特別警報ってまさか……」

「……どうするの? ろっはー先輩は」

 

 かつて世界を守った二人の勇者の下にも、それぞれの扱った勇者端末が届いていた。




 次回は少し遅れます。1月中に投稿できたらいいんですけど……。
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