ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
「……そんな……どうして……」
間違えるわけがない。そしてこれが夢や幻なんかじゃない、ちゃんとした現実だって分かるからこそ、今のこの状況が訳が分からない。
樹海化……バーテックスの襲撃に迎え撃つために神樹様が作り出した結界が、戦いが終わったはずの今再び起こっているなんて……!
「バーテックスは全部倒したはずじゃ…!?」
それにさっきの警報……いつもと全然違っていた。今までは「樹海化警報」だったのに、さっきスマホに映し出されていた文字は「特別警報発令」で、アラームもその言葉通り異常に思える特別な音が響いていた。なにかとんでもないことが、起ころうとしていた……。
「落ち着きなさい友奈…! まずは現状確認が先よ……義輝!」
夏凜ちゃんが精霊を呼び出して、自分のスマホをその子に持たせる。動かしかけた右手を一瞬悔しそうに見て、焦りを抑え込むような表情になりながらも左手でスマホを操作している。
本当は夏凜ちゃんだって何が何やら分からない上に、右手を散華してしまってすぐにこんな事になって混乱しそうなはず。それでも私達を不安にさせまいと、強気になって引っ張ろうとしていた。
でもそれは次の瞬間崩れ落ちる。考えもしなかった、とんでもない事態に、夏凜ちゃんと私は足元が覚束なくなりそうな衝撃を受けた。
「な……何よ、これ……」
マップに映し出された異常事態の正体。四国全土を取り囲む壁の方から、小さいけど赤い、敵を示すアイコンが埋め尽くされるように溢れていた。しかもそれは、奥の方からどんどん増えていって、マップを真っ赤に染めていく。
「画面いっぱいに赤い点……うそ…? これ全部がバーテックスなの…?」
ありえない…! だって私達の戦いはもう終わったんだよ!? この前の延長戦が正真正銘の最後だったはず! それなのになんでこんなにも……今までの敵の何百倍、何千倍の量の敵が一度に攻めてくるなんて……っ!?
「……壁の方に東郷さんとほむらちゃんがいる……」
私と夏凜ちゃん、樹ちゃんは風先輩を止めるためにここにいて、東郷さんとほむらちゃんは今どこにいるのか分からなかった。そんな二人が今どうして壁の方に……っ!
今はそんなことを考えるよりも、早く二人と合流する事の方が優先だ! あの場所にはバーテックスがたくさんいるのに、二人だけしかいないなんて危険すぎる!
「助けに行かないと…!」
「樹! 風のこと頼んだわよ!」
「………!」
風先輩はさっきまでのことで、自分一人じゃ立ち上がれないほど大きな罪悪感を感じていた。夏凜ちゃんは許して、私も樹ちゃんも受け入れてはいるけど、それだけではすぐに立ち直ることはできないみたい……。
ここは私も樹ちゃんに任せよう。夏凜ちゃんの言葉に力強く頷いた樹ちゃんを見て、私達は壁の方にいる二人へと向かっていく。
やがて、今回の襲撃してきたバーテックスの姿が見えた。一体一体は小さいけど同じ形をしたものがたくさん。真っ白で、顔の部分には大きな口しかない虫の蛭のような化け物だった。
「な、何よあの気持ち悪いヤツら…! バーテックスは12体じゃなかったの…!?」
「分からない……っ! 夏凜ちゃん、あれ!!」
「んなっ!? 壁が…!?」
四国全土を守る神樹様の壁……その一部が何かが爆発したみたいに大きく欠けていた。そして壁の外側から、あの白いバーテックスが流れ込むように侵入している。この襲撃は、壁が壊れてしまったからなのだろうか……。
ドグォン!!!
「っ、爆発!? 東郷さん!! ほむらちゃん!!」
「ちょっ、友奈っ!!」
突如、壁の上の方で爆発が起こる。きっと東郷さんとほむらちゃんがバーテックスと戦っているんだ……そう思っていてもたってもいられず、夏凜ちゃんの声を聞かないまま急いで壁を登り上がった。
「………え?」
自分の見たものが信じられなかった。さっき聞こえた爆発は、確かにここで起こったみたいだった。爆煙に包まれたそこには、肩で息を吐しながら片膝をついたほむらちゃんがいた。
「……東…郷…?」
夏凜ちゃんも私と同じ反応を示した。ほむらちゃんを見て……じゃない。私達はほむらちゃんが睨みつけている東郷さんを見て、信じられない思いでいっぱいだった。
「はっ…はっ……っ! 友奈……夏凜…!」
東郷さんが……いつもと同じ様な真剣な顔で、ほむらちゃんに銃を突きつけている…?
「……お願い、ほむらちゃん。もう動かないで。変身を解いて大人しくして」
「誰が……くっ…!」
「「なっ!?」」
ほむらちゃんが東郷さんの言葉を否定しようとしたその時、ほむらちゃんの右手に青白い細いレーザーが直撃した。精霊のバリアが発動したけど、今の攻撃はほむらちゃんの周りを浮いている機械から飛んできたもの……東郷さんの武器から放たれたものだった。
「と、東郷さんっ!! 何をしてるの!!?」
「……ほむらちゃんの時間停止能力は敵に回すとこの上なく厄介。抵抗する間もなく無力化させられてしまう……でも、使わさせなければ意味はない」
「な……何…言ってるの…?」
「ほむらちゃんが時間を止めるには、左腕の盾を直接一度回さないといけない。多少荒っぽいけど、その素振りが見えた瞬間に私はあなたを撃って動きを止める。もう何度も説明してるし、何度も実行されたのにまだ続けるの?」
「当たり前でしょう…!」
「あなたを傷付けたくはないのに…!」
何が起こっているのか全然分からない…! なんとなく分かる事は、今二人が争っていることぐらい……でもその原因が分からないよ!!
「あなたがやろうとしている事は私達との永遠の決別じゃない!! みんな傷付いて受け入れられないに決まってるでしょう!?」
「いいのよ。これから先、こんな地獄の中を生きていくのに比べたら。みんなが助かるにはもうこれしかないのよ」
「そんなわけない! まだ私達が助かる方法が「ならその助かる方法っていうのを教えてよ!! 適当な事を言わないで!!!」…っ!」
東郷さんが叫びながら銃の引き金を引く。弾はほむらちゃんを横切り、その後ろから襲いかかろうとしていたバーテックスを吹き飛ばした。
二人は決して敵対し合ってるわけじゃない。けど、お互いの想いが完全にすれ違っているように見えた。
「あ、あんた達! 今は仲間同士で争ってる場合!? 壁が壊されて敵が攻めて来ているのよ!?」
「……壁を壊したのは私よ、二人とも…」
「……え?」
「もうこれ以上、神樹にみんなを傷付けさせないから」
……東郷さんが…壁を壊したって……え…?
その言葉の意味を理解して、心臓がバクバクと音を鳴らす。信じたくない気持ちでいっぱいだった。だけど今のほむらちゃんと東郷さんのやりとり……本当に壊れている壁……全てが嘘だなんて思えなかった。
「友奈!」
いつの間にか白いバーテックスが私にも迫っていた。咄嗟のことで体は動かない。でも夏凜ちゃんが間に入り、正面からそのバーテックスを真っ二つに切り裂いた。ただ、夏凜ちゃんはそのまま剣先を東郷さんに向けて問いただす。東郷さんは大きな狙撃銃の銃口をほむらちゃんに向けているまま……。
「どういうことよ東郷……! 自分が何やったのか分かってんの!?」
「分かってる……分かってるから、やらなければいけないの!!」
瞬間、宙を浮いている東郷さんの武器が再びビームを放つ。いきなりの攻撃に私達もほむらちゃんも対処できなかったけど、それはほむらちゃんの目の前に着弾し、土煙が舞うだけだった。
「くっ…いきなり……なっ!!?」
それがただの目くらましだと気付くには遅かった。私達が気を取られてる内に、東郷さんは狙撃銃の引き金を引いていた。
銃口がしっかり、ほむらちゃんに向けられているまま。
「うわあっ!?」
「「ほむら(ちゃん)!!」」
精霊バリアがあるとはいえ、大きなバーテックスにも大ダメージを与えられる東郷さんの狙撃銃の砲撃が直撃だった。その強力な一撃でほむらちゃんは大きく吹き飛ばされ、壁の上から海へと真っ逆さまに落ちていく。
その様子を東郷さんは悲しげな表情で見届け、壁の外側の方へと跳び去った。その境界で東郷さんの姿が消えたことは疑問に思う暇もなかった。
「東郷さん!!」
「っ! 待ちなさい東郷!!」
いろんな事が起こりすぎて頭がどうかなりそう……混乱してしまうそうになる一歩手前で、私は流されるように東郷さんと夏凜ちゃんの後ろをついて行った。
「……何よ…これ…!?」
「……どう…いう…ことなの…!?」
ついて行った先は、例えるならそう……地獄みたいな所だった。さっきまで私達がいた壁の上の面影は全然無い、炎の海と白いバーテックスがたくさんうようよと飛んでいる。
それに私達が倒したはずのバーテックスまでもが見えるなんて……こんなのは何かの間違いだと思いたかった。
「これが世界の本当の姿」
「東郷さん…?」
「壁の外側の世界なんて、とっくの昔に全て滅んでいるの。そしてバーテックスは12体倒したら終わりなんかじゃない。無限に蘇って襲来し続けるのよ」
東郷さんの語った衝撃の真実は、これが間違いなんかじゃない本当の事なのだと突きつける。
そしてその言葉の意味が解ってしまった。つまり私達はこれからも……戦い続けるの…?
「……この世界にも私達にも未来なんて存在しないの。永遠に戦い続けて…満開を繰り返し……その数だけ散華する…!」
東郷さんの声が震えている。瞳には今にも涙がこぼれ落ちそうで、東郷さんは何かに心から怯えている……そんな切羽詰まったかのように、震える声を荒げて叫ぶ。
「いずれまた…! 大切な友達や……楽しかった日々の記憶も失ってしまうの!!!」
私も夏凜ちゃんも、息をするのを忘れて東郷さんを見てその言葉を聞いていた。こんなにも苦しそうな……こんなにも悲しんでいる東郷さんの姿なんて今まで見たことがない。
「みんながボロボロになりながら……何も分からなくなって、それでも戦い続けて…!! 友奈ちゃんも見たでしょ!? 乃木さんと高嶋さんの悲惨な姿を!! もう嫌なの!! 大切な友達が犠牲にされる世界なんて!! もうどこにも希望なんて残されていないのよ!!!!」
「と、東郷……!」
「これしかないの……私達が救われる方法なんて、もうこの命を棄てるしか…! これしかないのよ…! 偽りの希望で誤魔化された世界を解き放つには…! 私が断ち切るしか…!!」
私達は言葉を失っていた。東郷さんが言ってる事も、やろうとしている事も……たぶんきっと……間違っていると思うのに、それを否定する言葉が何も出てこなかった。
それはこの世界が終わってしまって、それこそ幸せに暮らしている人達も犠牲になってしまうんだって当然分かっている。でも、東郷さんが涙を流しながら叫ぶ姿を見て……目の前で苦しんでいる友達を救うにはどうすればいいのか、全く分からなかった。
「ま、待って…! そうしたらこの世界で生きている人達まで…!」
「分かってよ夏凜ちゃん!! もうこれ以上、大好きな勇者部のみんなが傷ついていく姿も犠牲になる姿も見たくない!!!! 私…もう耐えきれない……耐えきれないの!!!!」
もう夏凜ちゃんも何も言葉を発せられなかった。風先輩が暴走してしまった時とは違う。
あの時は勇者部に入って幸せだったと断言できた。でも東郷さんの嘆きは私達の心を激しく惑わせる。だって……これから私達を待ち受ける未来には絶望しかないんだって言われてしまえば……。
その時、後ろの方から不気味な気配を感じた。慌てて振り返ると、そこにいたのは初めて私達を襲ってきたバーテックスが。
「っ!?」
「友奈っ!」
バーテックスはその体の管のような部分から私達目掛けて爆弾を飛ばしてきた。咄嗟に動いた夏凜ちゃんは動く左手で私の体を抱き抱え、神樹様の結界の中に飛び込んだ。夏凜ちゃんのおかげで私に爆弾は当たらなかった……でも、壁の外の世界に東郷さん一人を置き去りにしてしまった。
「東郷さん…!」
「ダメ…! 一旦引いて……っ!?」
結界の中にあのバーテックスまでもが入り込む。私達を追いかけ、再び管から爆弾が飛ばされる。夏凜ちゃんは左手が塞がっていて、右手も散華……。私は……体が動かなかった……。
「「きゃぁ!!」」
無抵抗の私達に爆弾が直撃する。変身が解け、意識が遠退きながら私達は樹海へと落ちていった。
◇◆◆◆◆
「ぶはっ! かはっ…! げほっ…げほっ…! …くっ……やられた…!」
私としたことが……一瞬の気の緩みで落とされてしまうとは…!
何十メートルもの高さから海に落とされ、樹海化の影響で海にも出現した幹に這い上がるのに体力を消耗してしまった。
それ以前にあの砲撃を精霊バリアがあったとはいえモロに食らってしまったのはマズすぎた。不幸中の幸いか、痛みは散華の影響で全く無いが、肉体にダメージは間違いなく通ってしまっているのか全身に力が入らない。幹に這い上がるのに残った力を使い果たしてしまうとは…!
(ゲージは……っ、残り一つ…!)
悪いことは重なる。やはり強力な攻撃を防いだ代償か、満開ゲージも進んで残り僅かだ。以前満開ゲージが全て溜まっていた時、私の時間停止能力は発動しなかった。おそらくそのような制限があったのだろう。爆弾の方はどうなのだろうか……。
私のゲージが増える条件は、時間停止能力を使う。爆弾で敵にダメージを与えた時に増える事がある。精霊バリアで大ダメージを防ぐ。これらの三パターンだ。
次にこの三つの中のいずれかを満たしてしまえば、再び切り札とも言える能力が失われ……満開をしなければ戦えなくなる。そしてまた、何かを散華で……
「……東郷の言う通り、世界を終わらせる事が私達の救いになるというの…?」
彩羽さんから聞いた通り、この世界はとっくの昔から終わっていた。四国以外の全ては火の海に包まれ、そこを無限の数のバーテックスが蔓延る絶望の世界。
私達勇者の役目は、何度も何度も体の機能を失いながら、無駄な抵抗を続けて永遠に苦しんで、一時凌ぎの延命を繰り返す生贄になること……。
『ならその助かる方法っていうのを教えてよ!! 適当な事を言わないで!!!』
私達が助かる方法なんて思いつかない。いつまでそんな夢を見ればいいんだろう?
だったらいっそのこと、もう戦う必要なんてないじゃない。
壊された壁の外側から大型のバーテックスが姿を現し始める。かつて私達が必死になって倒した存在が、簡単に復活して現れた。確かあれらは射手型と蟹型と蠍型……どっちにしろ、名前を覚えていたところで意味はないわね。
三体のバーテックスは私に気付かなかったのか、それとも戦う意志のない私を敢えて無視したのか、悠々と神樹の下へと移動する。私自身、どうでもいいことだった。
世界が終わってしまえば、生きている間の事なんてどうでもいい……
『………』
生きて
「……え?」
声が聞こえた。
ただ、生きてくれ
辺りに誰もいないのに、その声ははっきりと私の魂に響き渡るようだった。
大切な人がいるなら、その人達のことを思い起こして
ただ、無性に胸が熱く感じる。さっきまで冷め切っていた心が嘘みたいに燃え上がるような気分だった。沈んでいく負の感情が薄れ、暗闇の底から誰かに手を引き上げられるような安心感が包み込む。
お前が生きることを諦めたら、その人達が悲しむことを思い出せ
何が起こったの…? 気がつけば私の目からは一筋の涙がこぼれ落ちていた。でも、それはこの世界の惨状に絶望して流れたものではない。もしそうだとするならば、こんな世界でも私の目には輝いて見えるなんておかしいじゃない……。
お前は決して一人ではない
あなたの大切な人達に、私達の時には叶わなかった……その人達のところへ、必ず戻ってあげて
魂に響く二つの声が、闇を切り払う。
「……大切な人……」
私の大切な人……私にこの世界で生きる喜びを与えてくれた人達……。脳裏を駆け巡る、みんなとの思い出。
───よろしくね、ほむらちゃん!
友奈……私の始まりはあなたからだったわね。ありがとう、あなたのおかげで私は変わることができた。
───慣れているなんて、そんな悲しいこと言わないで。友達が怖がられるのを認めたくないの。
東郷……私と真剣に向き合おうとしてくれたこと、本当に嬉しかったわ。仲直りして、また一緒に笑い合いましょう?
───あなた達にお勧めの部活はここにあるわ!
風先輩……最初は変な部活と変な先輩だと思ってごめんなさい。あなたは私の自慢の先輩だわ。
───嬉しかったんです私。会ったことのない私のためを思ってくれたことが。
樹ちゃん……あなたは十分に立派な人間よ。でも、これからもまだまだ先輩としてあなたを引っ張っていきたいわ。
───あんた達は私の仲間で……友達なのよ…。勝手に悩みを抱え込まないで、私達に打ち明けなさいよ!
夏凜……ええ、あなたはとても頼りになる友達よ。期待してるし尊敬もしている。だからこれからも、遠慮なく頼らせてもらうわよ。
───ほむらちゃん……負けないでね
───私の事は園子でいいんだぜー? ニックネームでもいいよ?
彩羽さん……ごめんなさい、危うく約束を破ってしまうところだったわ。乃木さん……は、次会った時には名前で呼ぼうかしら?
───まるでお姉ちゃん達が戻ってきてくれたみたいで嬉しかった。もっと早くほむらさんと知り合いたかったなぁ…
羽衣ちゃん……私も、もっと早くあなたと知り合いたかったわ。でも、私はいつだってあなたの味方になる。もう辛い思いなんてさせないからね。
つい先ほどまではこの世界を諦めかけていた。それが今はどうか、この地獄のような世界の中でもまだまだやりたいことが残っているんだって気づいてしまった。
……そうよ。例えこの世界がどうしようもない絶望に包まれていようとも、みんなの存在がこの世界に存在する限り希望は残っている。
「みんながいれば、こんな世界なんて何も恐くない…」
『……!』
ふと、いつの間に出ていたのか、エイミーも私の呟きに力強く頷いた。
何も失わせない。東郷、そのために私は戦い続ける。どんなに大きな壁があっても越えてみせる。
「待っていなさい東郷。今からもう一度そっちに行ってやるわ。そして思い出させてあげる」
ダメージを負って力が入らなくなっていたはずの体が動く。両足で幹の上に立ち、神樹の下へと移動しようとしている三体のバーテックスを見据える。
私の手には出現したパイプ爆弾が握り締められ、それを力任せに思い切りブン投げた。
「勇者部六箇条!! なるべく……諦めなぁぁあああああああい!!!!」
猛スピードで大きな放物線を描きながら飛んでいく爆弾。それは三体並んで飛んでいるバーテックスの内の一体、蠍型の尻尾の部分に激突し、爆裂する。
爆発によってその大きな尻尾は千切れ飛ぶ。痛みを感じない化け物共はゆっくりと私の方へと反転し、己の邪魔者の姿を認識した。
(さて、これで……溜まったわね)
私の満開ゲージが全て満ちる。そして目の前には三体の大型バーテックス……だが、絶体絶命というやつではない。
射手型から無数の輝く矢が雨霰の如く降り注ぐ。もう時間停止能力は使えない……。
この障害に立ち向かう覚悟は決まっている。その先に辿り着くためにも……私達の明日を掴み取るために、この体を捧げてやる。何度だって奇跡を起こしてみせる。
「満──!」
「待って!!!」
「えっ!?」
突如、私の目の前に縦長い盾が出現する。人一人ぐらい簡単に守れるほど大きな大盾。それが何もしなければ私に当たるかと思われた全ての矢を防いだ。この盾って見覚えが……それにさっきの声は……。
「彩羽さん…!?」
声が聞こえた上の方へ目を向ける。そこには空中であるにも関わらず、青いレールが浮かんでいた。
そのレールはよく見ると、これまた見覚えのある三叉槍が数え切れないほど重なり合ってできたもの。槍で形成された足場を蹴り、射手型バーテックスに接近しているその勇者の左手にあるクロスボウが光る。
「そこっ!!」
側を漂う白い狸のような精霊が彼女の腕を支え、クロスボウから桜色の光が迸る。光は一筋の矢となり、射線上にいた射手型バーテックスの体を一直線に貫いた。それも一度だけではなく、二発目、三発目、四発目と、次々と放たれ射手型バーテックスを撃ち抜いていく。
宙に出現する大盾を蹴って方向転換し、私のすぐ近くに三叉槍が出現すると、彼女は器用にもその細い柄の上に着地する。
「彩羽さん…どうしてここに…?」
「その声、やっぱりほむらちゃんだね。間に合って良かった」
……そうだった、この人目が見えていないんだった。え? それなのに今の一連の動きをやってのけたの?
「事情はなんとなくだけど分かるよ。誰かが壁を壊したんだよね?」
「……ええ、東郷が。私はあの子を止めなくちゃいけないの」
「……そっか。うん、分かった」
彼女はそう言って再び正面にいる三体のバーテックスに向き合うと、彩羽さんの周りには次々と武器が出現する。三叉槍、鉄扇、ハンマー、大盾がいくつも浮かんでいる。
「ほむらちゃん、美森ちゃんをお願い。バーテックスの相手は私が引き受けるよ」
この瞬間、先代勇者、高嶋彩羽が樹海に返り咲いた。
【高嶋彩羽】
戦闘スタイルがいろはちゃんではなく、もはやモキュの域に達している彩羽ちゃん。アニメのマギアレコードでやちよさんの槍って応用力高過ぎィ!!と思っていました。モキュのドッペル枠でも桃白白みたいなことやってるし……。
メインの精霊は園子様に「モキュ」という名前を付けられています。さて、なんという精霊でしょう? 本編中で白い狸と語られていますが、実物は白いわけではありません。ただモキュ要素を入れたかったために白色になった子です。
彩羽ちゃんのモチーフの花は「シダレザクラ」
シダレザクラの花言葉は「優美」と「ごまかし」
あの人の子孫だから桜、なおかつ彼女に相応しい花言葉だったので速決でした。