ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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 マギレコの静香の衣装ストーリーで、あのくそったれ外道陰獣白豚野郎に過去最大級の殺意が芽生えました。あのゴミが出てくる前までは「いいゾ~コレ」的な感じでニヤニヤしていましたが、出てきた瞬間全てを殺意に変えたヤツは改めて邪悪な存在だと思い知らされましたよ……。

 誤字報告ありがとうございました。


第四十二話 「この力は、化け物には永遠に分からない」

 私が飛び出すのと同時に、敵の姿を認識したバーテックスも動き出す。白くて小さいのが五体前に出て、私を食らいつこうと大きな口を開く。

 

「ハッ!!」

 

 その口が私を捉えるよりも早く、その身を刀で切り裂く。切り捨てたバーテックスの後方を飛んでいたやつも、流れるように刀を振り真っ二つにする。

 勢いを殺さず、次に襲いかかるやつも一刀両断。斬って斬って、私の大切なものを奪おうとする心無い化け物を駆逐する。

 

 小さいのは大したことないわね。動きは遅くて、何よりも脆い。一撃で倒せることから片手の私でも対処は余裕だった。

 

「バーテックス、覚悟!!」

 

 注意するべきはやはり大型のバーテックス。乙女型の管から卵型の爆弾が放たれて、それは歪な軌道で私目掛けて飛んでくる。

 近くの白いやつの噛みつきを避けて、そいつを斬るのではなく踏みつけて跳躍する。爆弾は私が足場にしたバーテックスに当たって爆発する……かと思いきや、その軌道は上に曲がり私を追尾した。それに合わせて、他の白いバーテックスが何体も私に殺到して……。

 

「ちっ…!」

 

 刀を投げて爆弾に突き刺す。白いの数体を爆発に巻き込み、すぐに新しい刀を出現させて邪魔なバーテックスを手当たり次第に斬る。一瞬でも判断が遅れれば、奴らの総攻撃を受けてしまう……。ここにきて、大したことがないと思っていた白いやつらの厄介さが身に染みる。

 

 多すぎる。一体一体は文句無しの雑魚だけど、その物量が邪魔で攻撃が大型まで全然届かない……!

 

「っ!?」

 

 全方位を白いのに囲まれ、対処に遅れが……。前言撤回、やはり片手だけでは間に合わなかったか……!

 

「あうっ…!」

 

 背中側のしとめ損ねたやつの体当たりをくらってしまう。精霊バリアが致命傷を防ぎ、ダメージ自体は問題無くても、その一撃で生まれる隙は致命的だ。その分私の攻撃の判断と実際に斬るスピードにズレが生まれ、パターンは崩れていく。

 

「くっ…! この…!」

 

 二撃目は早かった。再び体当たりをくらって、その直後に三度目……。無防備になってしまった私に食いつこうと、一気に白いのが押し寄せて取り囲み……

 

 

「勇者部六箇条!! ひとおおおおおつ!!! 挨拶はあああああきちんとおおおおおおお!!!!」

 

 一番近くにいたバーテックスの顔面に強引に刀を突き刺し、その突き刺した刀が眩い赤色の光を放ち、周囲を巻き込む爆発を起こす。自分の身を精霊バリアで守りながら、私を囲むウザいバーテックスをまとめて吹き飛ばした。

 

「勇者部六箇条!! ひとおおおおおつ!!!」

 

 爆発に怯まず、大きな肉片となったバーテックスの残骸を踏み台にして爆風を突き抜けて乙女型へ特攻。管から迎撃の卵型爆弾が放たれるも、速攻で刀を投擲して爆弾を破壊する。

 

「家族や友達を、大切にいいいいいいっ!!!!」

 

 そのまま爆弾任せで無防備だった本体に、弾丸のような勢いで斬りつける。体が二つに分かれ、管の付いていた下腹部が重力に従って落下していった。

 

 樹木の幹に着陸し、再び乙女型に向かって跳ぶ。残った体の半分を斬ろうとしたところで、下から巨大なバーテックスが飛び上がってくる。

 

「なっ…! あぁっ!!」

 

 魚型バーテックスの超重量による突き上げに、私の体は上空へと打ち上げられる。全身に強い衝撃と激痛が走り、一瞬だけ意識が飛びそうに……。

 

 でも、勇者は気合いと根性! 私は勇者部を守るために戦っているのよ! この程度の痛みなんかで倒れるものか!!

 

「勇者部六箇条!! ひとおおおおおつ!!!! なるべく……!」

 

 空中で身動きの取れない私に、乙女型が白い帯状の部位で貫かんと伸ばす。その帯による刺突を体を捻って回避し、逆にそれを蹴って乙女型へと接近できた。

 

「諦めなああああい!!!!」

 

 その頭部に刀を全力で突き刺す。先程と同様に刀を爆発させ、頭部を完全に吹き飛ばしてやった。

 

「御霊っ!!」

 

 むき出しになる乙女型バーテックスの御霊。これを破壊すれば、こいつの討伐は完了……。

 

「んな!? 固っ…!!」

 

 すぐさま新しい刀で御霊を斬りつけるが、ガキンと鈍い音が響くだけで傷一つ付かない。私が攻撃する御霊ってこんなのばっかじゃない!!

 パワー不足の私には多分この御霊は壊せない……。手を拱いていると、依然として減らない白いのが口を開きながら迫り来る。

 

「しつこいっての!! はぁぁあああああっ!!」

 

 一旦御霊から離れて地面の両足を付ける。そこで正面から来るバーテックスを見据え、その攻撃を冷静に対処しながら斬り裂く。

 

 斬って斬って、ひたすら無我夢中に斬りまくって……ついにこの時が来た!

 覚悟はとっくに決まっている。私の誇りを……勇者部を守れるなら何も悔いはない。恐くもない。守り抜いた先にみんなの笑顔があるのなら、喜んでこの身を捧げてやる!!

 

 

「さあ!! 持ってけええええええええええっっ!!!!」

 

 樹海が震え、神々しい光が私の体を包み込む。咲き誇るツツジの花の輝きが、私に人間を超越した力を宿す。

握り締めている刀は燃えるような赤に染まり、現れた四本の巨大な腕がそれぞれ大きな刀を持っている。風の暴走を止めた時よりも、圧倒的な力が漲る……これが“満開”……。

 

 新たな腕一本でなぎ払う。たったそれだけで、今私に襲いかかってきていた白いのがまとめて一瞬で消え去った。手応えすら感じられないほど呆気なく、桁違いのパワーに私自身驚かされる。

 

 そして確信する。この力があれば、みんなを守ることができる!

 

「勇者部六箇条!! ひとおおおおつ!!!!」

 

 今度は全力で刀を左から右へと振り回す。切っ先から光が迸り、それが遠くにいた白いバーテックスまでも斬り捨てられる。なぎ払ったその余波でもバーテックスの肉体は崩壊し、消滅していく。

 

「よく寝て…!! よく食べえええええる!!!!」

 

 散らばっているバーテックスにも刀を無尽蔵に投げつける。手元から離れた瞬間に新たな刀が出現し、四本の腕から飛んでいく刀はまるでガトリング銃のような勢いだった。あちこちで白いバーテックスは刀に貫かれて消滅し、嫌でも視界に入っていた奴らの姿はもうどこにもない。

 

「殲…滅!」

 

 残すは乙女型バーテックスの御霊と魚型バーテックスの二体。でも魚型の姿が見当たらない……いや、コイツは地中に潜る能力がある……!

 

「そこかっ!!」

 

 地面から忌々しい気配が漏れ出すのを感じ取り、その場所へと突っ切る。轟音と共にその身を飛び出した魚型に、五本全ての刀を深々と突き刺し巨体を持ち上げた。

 

「勇者部六箇条!! ひとおおおおつ!!!!」

 

 刀で支えて身動きを封じ込め、生殺与奪の権利は完全に私のもの。

 さっきの報復だ。腕をぶん回してその巨体を上空に放り投げ、飛び上がって宙を舞う魚型に追撃の斬撃を刻み込む。

 

「悩んだら…相談んんんんっ!!!!」

 

 刃が肉体を深く引き裂き、その奥で守られる御霊すらも断つ。核を失った巨大な化け物は全身を淡い光となって消滅し、この世界から消え去った。

 

 これで残すは乙女型の御霊ただ一つ……そう思った矢先、何かがこちらへ猛スピードで飛んできた。眩く光るそれに、思わず目をそらしてしまう……それが大きな失敗だった。

 

「しまっ…!」

 

 光るそれは敵からの攻撃。咄嗟に浮かぶ巨大な腕をクロスして身を守るも、光が腕に着弾し爆発する。その衝撃は私を庇った腕を木っ端微塵に吹き飛ばし、直撃こそ回避したものの強い衝撃が残っている。

 

(この満開、攻撃特化か…! 防御力がほとんど無い…! いやそれよりも、今の攻撃はいったい…!)

 

 その正体はすぐに判明した。爆煙を貫いて、白い帯が私の体に浮遊している残った腕ごと巻きつく。強い力で締め上げられ、全身が軋むような痛みが……。

 

「がっ…ああああああああああ!!! こいつ……もう回復を……!」

 

 爆煙が晴れ、目の前にいるのは半壊させたはずの乙女型バーテックス。切り落とした下腹部がくっ付いて、御霊を中心に頭部も再生しかけていた。

 

「離…せ……! この……あ…」

 

 力が抜ける。満開で変化していた勇者服と刀、腕が花弁となって散り、満開が解除される。そして、右足の感覚が無くなった。

 加えて、全身を締め上げられ続ける激痛で意識が薄れる。左手から刀が離れ、満開の反動からか力も入らなかった。

 

「くそ……こんな…ところで……負けて…たまるかああああっ………!!!」

 

 

 

 

 

「……うん……負け…させない………だから……その子…を…離して…!!」

 

 知らない声が聞こえたその瞬間、下から桜色の閃光が昇り、帯を突き破る。拘束の力は弛むどころか完全になくなって、私の体が解放された。

 

「ぐっ……はぁ……はぁ……! い、今のは……!?」

 

 地面に落下し、痛みが残る体をなんとか起こす。そこにいたのは苦しそうに膝をつきながらも、精霊らしき生き物に左腕を支えられている……見知らぬ勇者だった。

 

 ……でも、話には聞いている人物と同じ特徴が……。桜色の髪と、散華で失われた両目を覆っている包帯の……伝説の先代勇者……!?

 

「た……たか、高嶋彩羽!!?」

「決める…よ……!」

 

 なんで伝説の勇者がこんな所に……なんて思ったけど、私に向けての発破であろう言葉を聞いてハッとした。

 彼女の左手のクロスボウが再び輝き、治りかけの乙女型バーテックスの頭部に閃光が連続で飛ぶ。再び頭部は抉れ、御霊がはっきりと視認できるまで削られた。

 

「うぉぉおおおおおおおおお!!!!」

 

 左足だけで思いっきり地面を蹴って跳び上がる。奴の御霊は異常に固い……でも、ここまできて壊せませんでした……って、そんなので終われるわけないでしょうが!!!

 

「勇者部六箇条……!?」

「あぶない……!!」

 

 御霊に向かって刀を振りかぶりながら一直線に突撃……そして、乙女型の管が光る。速さと威力を兼ね備えた光弾が放たれ、その射線上に位置するのは……私……。空中で、この体で避けられるわけがなく……

 

「っ!?」

 

 射線上に誰かが割って入る。光弾は私に直撃する前に……私を庇った高嶋彩羽に直撃し、爆発した。爆煙の中からボロボロになって、変身が解除された彼女が落ちて……

 

「ぶじ…よかった……」

 

 蚊が鳴くような小さな声が、私の耳に届く。

 

「勇者部六箇条ォ!!!! ひとおおおおつ!!!!」

 

 魂の咆哮。私を突き動かすのは最早、勇者部を守るためだけじゃない。

 

 二度も守られた……! 彼女は自分の身を犠牲にして、私を庇ったんだ……! 乙女型バーテックスの攻撃はもうない……彼女が作った好機なんだ! ここで決めるんだ……守られて、託された未来を不意にするような奴は、勇者じゃない!!!!

 

「なせば大抵、なんとかなああああああるっ!!!!」

 

 全てを懸けた一閃は、鋼鉄のような硬度の御霊を両断した。乙女型バーテックスの体が崩れ始め、光となって消え失せる。

 きっと、奴には理解できていないだろう。ご自慢の特性である鋼のような硬度の御霊が、私のこんなちっぽけな刀に斬られたのだから。この力は、化け物には永遠に分からないでしょうね……。

 

 完全な消滅を見届けて、刀の切っ先をとある方に向ける。それは私達の力を見誤り、軽んじている神……神樹へと。世界を滅ぼそうとする化け物にも、残酷な運命にも負けない……それが私達の力。

 

「見たか! これが勇者部の力……人間の力だああああああっ!!!!」

 

 

◆◆◆◆◆

 

 私の体は勝手に動き出していた。樹海を走って、私を守るために戦った夏凜ちゃんの下へと。

 

「夏凜ちゃん!」

「友奈……痛っ…!」

 

 見つけた夏凜ちゃんは刀を杖代わりにし、右足を引きずりながら歩いていた。満開だって……していたんだ。体は決して無事なんかじゃない……!

 急いで駆け寄ってその体を支える。見た目に酷い怪我はないけど、それは精霊バリアで守られていたからであって、痛みは全身にあるはずだから……。

 

「夏凜ちゃん…! しっかりして…!」

「……これくらい平気よ……それよりもあの人、私を庇って……!」

 

 夏凜ちゃんを庇ってバーテックスの攻撃を受けた人がいたのを私はしっかりと見ていた。高嶋彩羽さん……一度しか会ったことがないし、その時もちゃんとお話しできたわけでもない。散華の事を教えてくれた一人で、昔勇者として戦っていた人。

 

 どうして高嶋さんが今ここにいるのかは分からないけど、もしもいなかったらと思うと夏凜ちゃんは……死ななくても、もっと酷い怪我や散華で体の機能を失っていたに違いない。

 そして、私が動いていたら夏凜ちゃんは初めから怪我しなかったかもしれないし、散華もなかったかもしれない。高嶋さんもあんな目に遭わずに済んだかもしれない……それが私の心を締め付ける。

 

「ごめん友奈、肩を貸して…」

「う、うん…」

「……東郷を止めたかったけど……この体じゃ無理…か」

 

 ……やっぱり、夏凜ちゃんの足は散華で……。既に右手も動かないのに、私が情けないせいで……!

 悔やんでも悔やんでも、心のモヤモヤは収まらない。夏凜ちゃんに肩を貸して、ズルズルとその右足が引きずられるのを間近で感じて、また涙が出てきた。

 

「ごめんっ……! 夏凜ちゃん……ごめんね……!」

「友奈……ったく、なに謝ってんのよ」

「……え…?」

「……っ、友奈あそこ!」

 

 その声を聞いて前を向くと、焼け焦げた包帯の切れ端が落ちていて……その先に病衣の女の人、高嶋さんが倒れ込んでいた。

 

「高嶋さん!!」

「あ、あのっ…! 高嶋さん!」

 

 夏凜ちゃんを座らせて、高嶋さんを抱き抱える。気を失っていて……息をしていない。夏凜ちゃんも不安げに顔を覗き込んで、二人で何度も名前を呼びかける。

 勇者は決して死ねないと教えてくれたのは高嶋さん達だ。でも、だからといって、こんな風に死んでいると言われたら納得してしまいそうな酷い状態で、不安にならないわけがない。

 

「高嶋さん!! 高嶋さん!!」

「………だ…れ……?」

 

 目元の包帯が外れたのもあって、高嶋さんの目がうっすらと開くのが見える。光のない濁ったような瞳だけど、目を覚まして声を発した事に気づいて最悪の状態ではないことに少しだけ安堵する。

 

「私です! 結城友奈です!!」

「み、三好夏凜です…!」

「……あ……ゆう…さ……みよ…し……さ」

「ちょっ…! 声ほとんど出てないじゃない!」

「…はいを……さん…げ……て……いき…が」

「無理しないでください…!」

 

 はい……さんげ…って、まさか肺を散華したの…? でも夏凜ちゃんを助けた時に満開はしてなかったんじゃ……?

 ……まさか、来る前にどこかで戦って、そこで満開を……? そんな危険な状態になってまで、夏凜ちゃんを助けにきて、庇って……そんな……。私は友達のピンチに動けなかったのに、高嶋さんはこんな体でも戦って……これが本物の勇者なんだって思えてくる。

 

 両目から大粒の涙がこぼれ落ちる。罪悪感、後悔、無力感……私は何もできない人間なんだって、改めて突きつけられた気がして……でも……

 

「……ゆ…き…さん……ないて…る…の?」

「だって…! 私、何もできなかったから…! 夏凜ちゃんが傷つけられるのも、高嶋さんが頑張っていたのも、ただ見てただけで……! 私も戦っていたら、二人共無事だったんじゃないかって……自分が情けなくて……!」

「うう…ん……ちが…よ…」

「……え…?」

「…あ…たは………な…に……も…わる…く……ない……わた…し……まもり…た…かた……なか…ない…で……」

 

 振り絞るよう明らかに無理をしながら言葉を紡いで、高嶋さんは私に微笑みかける。息ができなくて苦しいはずなのに、私を後悔で傷つかせないように……。

 ここまでのことをさせておきながら、ずっと泣き続けるのは高嶋さんにもっと申し訳なくて……。目元を強く拭って、これ以上涙をこぼさないように……。

 

「……ねぇ、友奈」

「ぐすっ……夏凜…ちゃん…?」

「……見てた? 私の大活躍……最終的には守られたけど、あいつら全部、叩っ斬ってやったわよ……」

「見てた……見てたよ…! 夏凜ちゃん凄かったよ…!」

 

 見ていた。ただ泣いて、恐がっていただけの私はずっと見ていたんだよ。あんなにたくさんいたバーテックスに立ち向かう姿を……。何度も痛い思いをしても決して挫けなくて、勇敢に戦う夏凜ちゃんを……全部……!

 

「凄い、か……私ね、あんた達に言いたかった事があるの。ありがとう……って」

「……え?」

「私、長い間ずっと勇者の訓練を受けてきた。戦うことだけが私の存在価値で……私はただの道具だった……。でも、みんなのおかげで私は……三好夏凜って一人の人間になれたのよ」

 

 それは夏凜ちゃんの紛れもない本音で、友達を想う夏凜ちゃんの優しさに満ち溢れていて。温かい感情が私の心に染み込んでくる。

 

「戦い抜いた力も、凄さも、どっちも友奈達から貰ったもの……お願い友奈、東郷を救って。友奈なら東郷の心だって、きっと変えられる」

「夏凜ちゃん……」

「友奈なら大丈夫よ。あんたは東郷の最高の友達……私の最高の友達……なんだから」

 

 ……そうだ。東郷さんは私の最高の友達なんだ。

 

 夏凜ちゃんも、ほむらちゃんも、樹ちゃんも、風先輩も。みんなが最高の友達で、仲間で、大好きな人達なんだ。

 友達が苦しんでいるんだったら、私も俯いていちゃいけない。誰かが傷つく事が嫌、辛い思いをする事が嫌。みんながそんな思いをするのなら、私が頑張るんだ。大切なみんなの日常を守って、いつものみんなとの日々を失わせない。

 世界にあるのは絶望かもしれない……だけど! 勇者部のみんながいれば、恐くなんかないんだから!!

 

「ゆうき…さん……」

「高嶋さん……」

「わたし…から…も…………みも…り…ちゃん……お…ねが…い」

「……はい!!」

 

 そして高嶋さん……ううん、彩羽さんも私を信じて託そうとしてくれる。誰かの思いに応えるのは、私にとってとても大事なことで、誇れるもの。

 スマホの画面にはもう警告文は無かった。表示されるアイコンをタップし、ヤマザクラの花弁が舞う。

 

 大好きなものを全部守るんだ。友達も世界も想いも全部……みんなが幸せであることを望むから。

 

 それが私、讃州中学二年勇者部部員、勇者、結城友奈だから。

 

 

◆◆◆◆◆

 

「……っ! やっぱこうなるのね…」

「っ!」

「させるか!」

 

 壁の外に戻って来るなり東郷の銃からレーザーが放たれる。盾で防ぎ、問答無用で攻撃する友人に文句を言いたくなるけれども向こうはそうはいかない。続けざまに二発目を撃ち込み、徹底的に私を排除しようとするも、その攻撃は風先輩が大剣で叩いて弾いた。

 

「風先輩、樹ちゃんも…!」

「いきなりほむらを攻撃した件は後でじ~っくり話すとして……やめなさい、東郷」

「すみません。やめるわけにはいかないんです」

 

 東郷の決意は硬い。私だけでなく、風先輩と樹ちゃんまでもがここに来た事に戸惑ったのは一瞬だけで、すぐさま狙撃銃を呼び出して構えるのだから。

 

「東郷、風先輩と樹ちゃんには話してるわ。私達のこと、この世界のこと全てを理解した上で、あなたにやめろと言ってるのよ」

「ええ……確かに信じたくない話ではあったけど……これを見てしまえばね…」

 

 一面灼熱が走る地獄のような世界。そしてあたりにうじゃうじゃと跋扈している小型のバーテックス。私達が暮らす四国以外の全ての街や国、世界がこれだ……。心が挫けてしまってもおかしくはないのよ。

 

「こんなのを知ってまえば、アタシ達の今までは何だったんだって……これからどうなるんだって、そりゃ思うわよね……けど東郷! あんた諦めるのが早すぎるのよ! 勇者部六箇条言ってみなさいよ!」

「………」

「私達はみんなと一緒に、この現実と戦わなければならないのよ。一人では挫けて心が折られる現実に負けないために私達がいる」

「………」

「一人になったら駄目よ。戻って来なさい、東郷」

 

 東郷が今回の行動を引き起こした訳は、偏に私達勇者の存在がほとんどだ。私達をこれ以上苦しませたくないから、私達が苦しむ姿を見たくないから。私達を失うのが恐いから……。

 

 ……私だって同じよ。誰がみんなが苦しむ様を望むというの。こんな世界なんて糞食らえだというのは完全に同意するわ。

 けれどももう一つ、私達には共通して熱望しているものがあるはずよ。それは私達、勇者部の平穏な未来。彩羽さんや乃木さん、羽衣ちゃんもが幸せな日常を享受できる日々。

 

 結局、私はそんな未来を諦めたくない。こんなところで早々に挫けてしまったら、最善の未来に辿り着く可能性なんて本当に0のままだ。でもみんなと手を取り合って運命と戦えば、それはきっと0じゃない。

 

「東郷、私は奇跡の存在を信じる。私達が勇者部という掛け替えのない宝に出逢えた事が奇跡なの。みんなと共に戦うのなら、もう一度奇跡は起こせるって、私はそう思う」

「アタシもよ。今まで勇者部はどんな困難だって乗り越えてきたじゃない。勇者部は一人でも欠けたら終わりなの……あんただって、よく分かるでしょ」

「………! ………!」

 

 私達三人の言葉に東郷の表情が曇る。考えに変化が現れたのか……壁を壊した事を後ろめたく思うのか、私達の理想妄想に失望したのか……。

 東郷は銃口の向きを少し変える。そして顔を俯かせて、小さな声で尋ねだす。

 

「……ほむらちゃんは……知ってるよね? かつての私、鷲尾須美の事を」

「……ええ」

「知ってるよね……私と乃木さん、高嶋さんの関係を……!」

「……知ってるわ」

 

 声は少しずつ大きくなって……やがて感情が爆発した。

 

「……じゃあ……! みんながいても、結局最後は全部失って無駄になるじゃない!!!」

 

 銃口を私に向け直して引き金が引かれる。咄嗟に横に跳んで回避するも、その地点に上に浮かぶ遠隔銃からレーザーが飛ぶ。

 だけどこの攻撃はさっき何度も受けた……。東郷がどのタイミングで、どの角度からレーザーを放つのか、統計上予測できる…!

 

 しかしこれで、予め決めていた東郷と戦う事になった場合の作戦に移ってしまう。不本意だけど、仕方がなかった……。

 

「なっ!? 樹ちゃん…!」

 

 レーザーを盾で受け流し、浮かんでいる遠隔銃に樹ちゃんのワイヤーが雁字搦めに巻き付く。私を一番警戒していた東郷にとって、樹ちゃんの妨害は大打撃となる。空中を自在に動き回る武器を封じられ、東郷は戸惑いの声をこぼした。

 

 東郷は、私が今時間停止能力が使えなくなっていることを知らない。使われては自分の負けだと気付いている彼女だからこそ、私を真っ先に攻撃すると踏んだ作戦を二人には伝えていた。

 

「くっ…!」

 

 流石は東郷。すぐさま狙撃銃で私を狙って撃ってくる。でも、それも想定の範囲内よ!

 

「どぉりゃぁあああああ!!!!」

 

 私の前に立った風先輩が、大剣を大きくスイングする。大きな金属音が鳴り響き、東郷の砲撃とも言える攻撃を防ぎ弾き返す。そのまま風先輩は東郷に向かって走り一気に距離を詰めた。

 

 私が囮になって樹ちゃんが遠隔銃を無力化し、風先輩が前に出て強靭な矛と盾になる。

 そして東郷は私を狙うか迫り来る風先輩を狙い撃つかで悩んだのか、判断が鈍る。東郷の悪い癖よ……思い込みが激しく、予想外の事態には弱くなってしまうのは。

 

「ごめんだけど…! おとなしくしてろぉおお!!!!」

 

 大剣の側面による殴打で東郷の体が吹っ飛んだ。精霊バリアが発動していたけど、そのまま下へと落下していって……心が痛んだ。結局説得はできず、実力行使で止める形になったのだから……。

 

「……ほむら、気持ちは分かるけど今は……」

「……はい……ん、樹ちゃん?」

「……っ」

 

 何か伝えたげな様子で樹ちゃんが指を指す。私と風先輩はその方向に体を向けて、樹ちゃんが何を伝えようとしているのか確認する。

 そこにはあの小さいバーテックスが……結界内へと進行していたはずの奴らが、その行動を止めていた。それも百体以上の数が……意味不明で不可解な行動に、嫌な予感しか感じられなかった。

 

 そしてそれは、予想以上の最悪な形で現れる。

 

「うわっ…! な、なんの光よこれ…!?」

「東郷が落ちていった方向……! まさか…!?」

 

 その青い光はアサガオの花を形作り、その力の威圧感は私達を包み込む。そして下から浮かび上がる、八つの砲門を備えた戦艦。それを操る東郷の瞳には一遍の迷いが無い。

 

「満開……!」

「……っ!? その後ろ、何よアレ…!」

 

 東郷の背後、小さいバーテックスがぐちゃぐちゃに混ざり合いながらも、一体の巨大な化け物へと変化している。そのバーテックスとは、かつて私達全員を苦しめ、散華という犠牲を払う事で辛うじて倒した強敵、獅子型バーテックス……。

 

「三人共……どいてください」

「どくわけ…ないでしょ!!」

「……ごめんなさい」

 

 悲しげに俯く東郷……でも顔を上げると正面を…神樹を見据え、八つ全ての砲門が光る。光は一つの巨大なレーザーとなり、猛スピードで神樹へと放たれる。

 

「まずい…!!」

「させるかああああああああっ!!!!」

「っ!!」

 

 あれが神樹に当たれば世界が終わる……! 風先輩と樹ちゃんと跳んでレーザーの正面に。私は盾で、風先輩は大剣で、樹ちゃんは精霊の力で障壁を生み出しレーザーの威力を削ぎ落とす。

 

「く…っ…ぬぁああああああ……!!」

「だめ……もたない……!! なっ…!?」

 

 突如、私は何かに後ろから体を引っ張られる。それで体勢を崩された私だけレーザーから落ちることとなり……残った二人は満開による超強力な砲撃に耐えきれず、そのまま撃ち抜かれて樹海の樹木に叩きつけられた。

 レーザーは止められなかった。しかしレーザーは神樹の前で突然パッと消え失せる。神樹には勇者の力は効かないのか……?

 

「風先輩…!! 樹ちゃん…!!」

 

 私が先に落ちてしまったから二人が……いや、仮に落ちなくても結果は同じだった……。むしろ私は助かった結果に……どうして…何が起こった…?

 

『……!』

「…あ…エイミー…?」

 

 呼び出してもいないのに私の側にはエイミーがいた。どうやら間一髪のところでエイミーに助けられていたらしい……けど、風先輩と樹ちゃんは倒れていて、変身も解けていた。

 

 そして壁の外から満開した東郷と、完全な姿になった獅子型バーテックスが現れる。東郷は獅子型のに向き合い、自分を餌に行動を促していた。

 

「私を殺したいでしょう? さぁ、私を狙いなさい」

 

 獅子型の前に火球が生み出される。それは徐々に大きくなり、獅子型自身と引けを取らないほど……。

 

 動けるのは私一人……! この世界を守るために力を解放しようとした……その時……。

 

「うおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 ピンク色の光が見えた。遠くでよく見えなかったけど、私にはそれが何なのか一瞬で理解できた。

 

 火球が放たれる。東郷が目的を果たせると安堵したその時、私は絶望ではなく希望を感じていた。私一人だけではなく、あの子が来た。たった一人、この危機的状況の中、友達が来てくれた。たったそれだけの理由で……。

 

 

「勇者ぁ……パァアアアアアンチ!!!」

 

 

 その拳が火球を穿つ。神を殺す火球はその前に、勇者の力で砕かれ爆発した。その中から飛び出した、私達の最高の友達。

 

 やっぱり私達は一人じゃだめなんだ……。

 

「来てくれてありがとう……友奈!」

「遅れちゃってごめんね、ほむらちゃん」

 

 友達がいるから、毎日が楽しくて……仲間がいるから、どんな困難にも乗り越えられて……。

 

 彼女達がいるから、希望が持てるんだ。

 

「もう迷わない。私が勇者部を…」

「……待った、そこ…違うわよ」

「えっ? ああ、そうだね! 私達はこうでないと!」

 

 それを守れるなら、私達はどんな絶望にだって立ち向かっていける。

 

「「私達が勇者部を、東郷(さん)を守る!!!」」

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