ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
辺り一面にうじゃうじゃと湧いて出てくるバーテックス。人間サイズなら簡単に飲み込めるほど大きな口と歯を持つ化け物であり、アレに殺されてしまった人々は数え切れない。
一体だけの強さなら勇者一人でも簡単に倒せるし弱い。バット、これまでに私も何百体も倒しているのだけど、バーテックスの恐ろしさはその数にある。倒しても倒しても、バーテックスは大量に襲いかかる。私が鞭をスウィップして一体や二体倒しても、その間に三体、四体と同時にアタックを仕掛けてくるのだ。
それだけではなく、コイツらは知性があるらしいのよね……。執拗に諏訪を守る結界をブレイクしようと仕掛けてくる。もし結界をクリエイトする御柱が無くなってしまえば、諏訪を取り囲む結界が消滅……唯一侵入できるここだけでなく、ありとあらゆる場所からバーテックスが雪崩れ込み、人々はあっという間にジェノサイド……。
まさしくバイオレンス……パワーアップしている勇者だから仮に噛まれたとしても怪我で済むけど、死なないわけではない。バーテックスを前に倒れてしまったら残った奴らに一斉に襲われて、私を含む諏訪の人々はフィニッシュになってしまう。
「白いバーテックス……相変わらずえげつない数…」
そんな雪崩れ込んできたバーテックスをまとめて吹き飛ばした、サドンリーな登場をした白紫の勇者は呟く。メラメラとファイヤーが地面を燃やし、真っ暗なスモークが立ち上る。私はそんな彼女からアイズが離せなかったし、夢にも思わなかったミラクルに心からサプライズし声も出なかった。
オーマイガー、信じられない……そう思いながらも私は一歩ずつ彼女に近付いていった。
諏訪の勇者は私一人だけのはず。そして諏訪の外にいる勇者は四国にいる私の友人、乃木若葉さん達
とはいえ連絡が付いたのが彼女達だけであって、他の地域の生き残りがいるのかどうかは解らなかった。もしかしたら私達が知らない地域の生存者とも考えられる。
「あなたはいったい……」
私の声が聞こえたのか、目の前の勇者らしき少女はこちらを振り向く。彼女の凛としたフェイスと紫のアイズは私を捉える。だけど彼女の顔色はなんだかバッド……青ざめている。
「……あなたがここの勇者でいいのかしら?」
「え…ええ……。あなたわあっ!?」
『~~~!』
「エイミー?」
ブラックキャット? 謎の彼女の側からいきなり私にダイブしてきた。エイミーって名前を呼んだってことは彼女の飼い猫なのかしら? こんな所に連れてくるなんて危ないじゃない……。
ただそのエイミーちゃん…だったわね、私にくっ付いて離れない。テールをブンブン振り回しちゃって……スゴいわね、まるで分身しているみたいにテールが二本見える。
「って、ホントに二本あるじゃない!?」
「……その子が見えているなら、間違いないわね」
「う、うたのーん!」
アンビリーバボーなサプライズの最中、みーちゃんが私達の元へダッシュして近づいてくる。普段なら諏訪の人々と一緒にここから離れた所で私の無事を祈るみーちゃんだけど、今回は激戦続きでしかもおそらく人生のラスト。御柱のある上社本宮で、私のすぐ後ろで見守ってくれていた。
そんな中現れた、バーテックスをエクスプロージョンした謎の彼女。いてもたってもいられなかったんだって私にはよく分かる。だって何もかも分からないことばっかりなんですもの。
「みーちゃん! このキャット、テールが二本あるわ!」
「気になる所そこなの!? 尻尾が二本って……ホントだ……って、そうじゃなくて、あのひゃあ!!?」
「あら、今度はみーちゃん?」
「え…?」
「ちょっ、なにこの子…! あははは! やめ…くすぐったい…!」
みーちゃんが彼女に何やら言おうとすると、エイミーちゃんがみーちゃんのフェイスに飛びついた。みーちゃんの柔らかいほっぺに頭をスリスリ……みーちゃんがキャットと戯れているなんて、こんな可愛らしい光景がもう一度見られるなんて…!
だけど飼い主さんである彼女がやや驚いた様子で、みーちゃんからエイミーちゃんを慣れた手付きで優しく引き剥がしてしまう。あ~ん、もっと見たかったのにー!
「……あなたも、この子が見えるの?」
「え? 見えるって……この猫ちゃんのことですよね…? それってどういう…」
「いえ、別に気にする必要はないわ。ただ、あなたも勇者なの?」
「い、いいえ…! 私は勇者じゃなくて巫女です……」
「巫女……そう……ごめんなさい、この子かなり人懐っこいのよ」
『~♪』
……悪い人じゃなさそうね。さり気ない気遣いができているし、キュートなキャットに懐かれているもの。
……って、大事な事を忘れてた。彼女は何者なのだろうか? みーちゃんも安心していいのか悪いのか、どっちか分からない不安げな表情をしている。
「あなたは…勇者なの…?」
「ええ……話をする暇はないけど」
「……そのようね…!」
彼女は首を捻って少し変わった角度で見返る。私もその視線の先を見て、鞭を握る手に力が入る。
彼女が吹き飛ばしたバーテックスだが、それだけでは仕留めきれない程たくさん残っている。なんたってこれは今までにないバーテックスの総攻撃。朝からずっと戦い続けているのに終わりが見えない。私の身体の至る所に傷ができてるし、今にもダウンしてしまいそうなほど疲れているのによ……。みーちゃんや諏訪のみんなの支えが無ければとっくに死んじゃってるわ。
今にも私達目掛けて突っ込んで来そうなバーテックスが見えるし、それはあと十秒程度で結界に突入するだろう。信じれるかどうかはともかくだけど、今この場にはもう一人勇者がいる。一縷のホープを抱き、私は彼女を信じることにした。
「あなたを勇者と見込んでお願いがあります! 私と一緒に戦って、諏訪のみんなを助けてください!!」
「わ、私も…! お願いします!」
深く頭を下げて、名前も知らない彼女にプリーズする。一瞬でバーテックスの一群を吹き飛ばした彼女のヘルプがあれば……もしかしたら、私もみーちゃんも諏訪のみんなも、無事にアライブできるかもしれない!
「……正直私には関係無いし、こんな来たばかりの所で犠牲を覚悟する筋合いも無い」
「え……」
「ただし、手を伸ばせば届くかもしれない人々の命を見捨てるなんて選択肢は最初から持ってない……。私の勇者部としての誇りと矜持を、手放したくないもの……」
「っ、それじゃあ…!」
「その依頼、この私が引き受けたわ」
「あぁぁ……! サンキューソーマッチ…!!」
ヘルに仏は居た……! 一瞬断られるかと思ったけど、彼女の
そして彼女の両手が淡く光ると、そこに何やら細長いマテリアルが現れる。それを迫り来るバーテックスの群れ目掛けて砲丸投げのようなスタイルで二つともぶん投げた。二つの大きな放物線をドローイング……飛んでいったそれらは、それぞれバーテックスにぶつかり……
ドゴオオォン!!!!
「ワワワワッツ!!? 何今のボンバー!!?」
「……何よその緊張感の無い英語、アメリカ人なの?」
「す…すごい威力……近くにいた他のもまとめて倒した……!?」
空中で大きなエクスプロージョンが二つ巻き起こる。みーちゃんが言うように、そのエクスプロージョンは他のバーテックスをも巻き込んで、奴らを一瞬で燃やし尽くして消滅させた。さっきバーテックスを倒したのもコレなのね……。私は鞭で一体一体をピンポイントに仕留めるけど、彼女は広範囲を一気にボム!ってわけね……。
「さて、あと何度放り投げれば終わるのかしら…………チッ、面倒な事を…」
ただ、やはりバーテックスはラーニングする。三度もまとめて吹き飛ばされたバーテックスは、今度は密集しないでバラバラに散らばって襲いかかって来た。
「みーちゃん下がって!」
「う、うん! 死なないでね、うたのん…!!」
「見守っててね、みーちゃん!」
「あなたも下がってていいわよ。既に傷だらけじゃない」
「気持ちだけで十分! ここは今まで私達が過ごして守ってきた大切な居場所なの。何があっても諏訪の勇者として、ラストまで守りきるわ!」
「そう……勇者というものはどこも同じなのね」
そう言って微笑を見せる彼女は、さっきまでほんの少しだけ抱いていた不安を吹き飛ばす優しさをフィールする。
「エイミーちゃんもみーちゃんと一緒にゴーしてどえええええええ!?!?!?」
「今度は何?」
「なななななななああああ!?!?」
「騒がしい人ね…」
震える指で、私は彼女の周りを浮かんでいるエイミーちゃんを指してアピールする。彼女は全く気にする素振りを見せない所か、口がパクパク、心臓がバクバク動いてる私に溜め息を吐く始末……目の前でキャットが空を飛んでいたら誰でもノイジーにもなるわよ!! ウィングも無いのにふわふわ浮かんでいるエイミーちゃんを見て目玉が飛び出すのかと思ったわ!!
「どうしてキャットが空を飛んでるの!? ホワーイ!?」
「……猫じゃなくて猫又の精霊よ、この子は」
「せ、精霊……? よく分からないけどスゴいわね。ファンタジーだわ……!」
「本当に緊張感の欠片も無い人ね、あなたは」
「そんなことないわよ。ただ安心しちゃっただけ♪」
自分でそう言って、「あれ?」と気づく。身体が軽い……物理的とかそういう意味じゃなくて、私のマインドが。
……ああ、そっか。本当に安心してるんだ。今までずっと一人で戦ってきた。みーちゃんのヘルプと、四国にいる乃木さん達の存在が支えだったから孤独なんかじゃなかった。
でも私が倒れてしまったら、みーちゃんや諏訪のみんなの命が失われてしまう……そんな事態に絶対にさせないために全力を尽くしてきたけど、プレッシャーはとても大きくていつも恐かったのよ。私の大好きなみんなの命は私一人の肩に掛かっているんだから。
でも今私の隣には、一緒に戦ってくれる人がいる。よく知らない人だけど、私と同じ諏訪のみんなを助けるためにデンジャーな戦いを引き受けてくれた。
「お喋りはここまで。続きは奴らを殲滅した後よ」
「オーケー! だけどあともう一つだけ!」
彼女の手元には再びさっきのと同じ物が現れる。何もない所からどうやって出しているんだろうって不思議に思うけど、彼女の言うようにそれは後から聞くとしましょう。
救いがないと思われたこの世界で、ホープはまだ失われてはいなかった。私達の夢はまだ、フィニッシュじゃない……。
「私は諏訪の勇者、白鳥歌野! よろしく!」
「……同じく勇者、暁美ほむら。準備はいいかしら、白鳥さん」
バーテックスが間近に迫る中行われた自己紹介。暁美ほむらさん、か……最高のミラクルだけじゃなくて、面白い偶然もあるものね。
暁美さんがボンバーを投げつけ、私達の命運を懸けたバトルのスタートとなるエクスプロージョンが巻き起こる。さっきとは違ってバーテックスは分散していたから、全部まとめて倒せてはいない。
「やあっ!」
暁美さん一人に任せるつもりはない。ジャンプして彼女が仕留め損ねたバーテックスを叩く。今のスモークがちょうどいい目眩ましにもなり、向こうが避ける前に鞭が当たる。
続けて私を狙って噛みつこうとするバーテックスも鞭で叩く。正面にいる奴らを集中して倒していき、死角から邪魔する奴らはほとんどいなかった。
ドォン!!ドォン!!ドォン!!!
私の後ろから間髪入れずに響く爆発音。歌野イヤーが働き尽くしのスゴい音で、私をバックアタックしようとするバーテックスが倒されてることが分かる。あんなにたくさんいたはずのバーテックスが、実際私が倒してくのはその内のハーフぐらい。しかも常に360度、オールレンジを警戒する必要がない。私は一人で戦っているのではなく、心を守ってくれるみーちゃんに加えて、背中を守ってくれるパートナーがいるのだから。
「ナイスよ暁美さん!」
「安心するのはまだ早いわ! 次が来る!」
「ああもぉーー!! せっかく倒したのにぃ!」
総攻撃って言うだけのことはある。またまたさっきと同じぐらいの数のバーテックスが湧き出て来てしつこく私達と御柱を狙ってアタックする。
「白鳥さん! 上に跳んで!」
言われるがまま真上にジャンプし、さっき私がいた所に彼女のボンバーが投げ込まれる。私を襲いかかろうとしていたバーテックスはそのエクスプロージョンで吹き飛び、私は上空から迫る奴らを鞭で討つ。
「暁美さん、後ろ!」
無理に身体を動かして怪我が痛んだけど、仲間に迫る危機を目にして声を上げる。彼女の背後から大きな口を開くバーテックスに気づき、左腕のシールドで顔面を殴打して噛みつきを逸らしながら、反動を利用して距離を取る。その場にボンバーのプレゼントも忘れずに、彼女も危機を回避して返り討ちにした。
「サンキュー、暁美さん!」
「お互い様」
彼女の後ろに着地して、二人で次々にバーテックスを倒していく。何度か危ない攻撃もあったけど、私達のチームプレイで打ち倒していった。
ようやくバーテックスの数も減り始め、おそらく次がラストであろう一群が迫り来る。だけどそのバーテックスの中には、そいつらとは違う形をした個体がいくつか紛れ込んでいた。
「っ! アレはマズいわね……!」
何体ものバーテックスがフュージョンしてできた『進化体』と呼ばれるバーテックス。当然これまで私達が倒してきた白いのより強さは桁違い。
今まで戦ったことも倒したこともあるけど、倒すのに苦戦したし一体だけが相手だったからだ。それが目の前に……三体も……! 暁美さんがいるとはいえ、これはかなり厳しいわ……。
「……あれは天秤型と山羊型と……牡牛型…かしら?」
「暁美さん、あの進化体と戦ったことが?」
「……ええ、まあ。特にあの鐘が付いてる緑っぽいのは厄介だったわ」
「厄介……でも勇者が二人いれば! コンビネーションアタックよ、暁美さん!」
「その必要はないわ。あの三体は私一人でやる」
「え?」
小型バーテックスを倒しながら、「ジョークでしょ?」という視線を彼女に向ける。暁美さんはこっちを見ないけど、私の言いたい事が伝わったみたいで私の懸念を否定する。
「戦ったことがあると言ったでしょ。あなたは雑魚バーテックスの相手をして頂戴。片付けたらすぐ戻ってくる」
「すぐ戻るって……随分イージーに言ってくれるわね……」
でも小型だけなら優勢に戦えている中、進化体が混ざれば苦戦は間違いない。暁美さんのボンバーは明らかに私の鞭よりもパワーがあるし、進化体相手にも通じるだろう。
……大丈夫。暁美さんの言葉を信じましょう。諏訪を守るためにはそれがベスト。彼女を邪魔する小型バーテックスが現れないよう、私は私の務めを果たすのよ。
「頼んだわ、暁美さん!」
「………もう……倒したわ…」
ドドドゴゴオオオオオォォンンンンンン!!!!!
「え……ええええええええええ!!!?」
進化体がでエアレイドでもあったのかと思えてしまうほどのエクスプロージョン……ものすごいスモークで全く前が見えなくなくて、開いた口がシャットしない。ようやく見えてきた頃には、恐怖の権化のはずの進化体バーテックスが三体ともボロボロで消滅しかけていた。あまりに大きな規模で、進化体の近くを漂っていた小型バーテックスもそれなりに巻き込まれて消えている……。
「ななななななななにをやったの!!? いつあの進化体にアタックしたのよーーー!!?」
「流石に……満開したその日の内に…あの数の爆弾は無理がある……っ!」
「え、ちょっ…暁美さん!?」
ガクッと膝を突く暁美さん。その顔は明らかに疲労困憊……まさかよく分からないけど、今のとんでもない爆撃でかなり無理をしたとか…!?
「使ったばかりでもう満タンになるとか、笑えないわよ……!」
「暁美さん! 大丈夫なの!?」
「くっ、平気よ……! 人の命がかかってるのよ……もう一踏ん張りぐらいできる!!」
「……っ、あなたが作ってくれたチャンス、無駄にはしないわ!!」
何はともあれ、残るは弱い小型バーテックス数十体! 乗り越えられたら私達がウィナー……みーちゃんも、諏訪のみんなも助かる。四国にいる私達の仲間に出会えるチャンスも……私達の夢が未来に繋がることも……。
「だから! 負けてたまるかぁああああああああ!!!!」
ラストスパート。朝からの連戦による疲労と怪我の痛みでもうグロッキーだけど、私の身体に鞭打って咆える。暁美さんも私に応えるよう立ち上がってボンバーの投擲を再開した。
「やあああああああああああっ!!!!」
右手が動かせなくなるほど鞭を振り回しても、それでも私達は止まらない。左手に持ち替えてがむしゃらに私達の敵を倒し続ける。
リミットオーバー……ただ単純に明るい未来をこの手に掴み取るため。愛する人達の笑顔を、これからもずっと見たいから……。
「これで……フィニーーッシュ!!!!」
グリップを握る手に最後の力を込めて振り下ろす。その鞭がバーテックスの肉体にめり込み、真っ二つに両断。それらが光になって消滅し、ここにいるのは肩で息を吐く私と地面に両手を突いて倒れ込んだ暁美さんのみ。諏訪を滅ぼさんとしていたバーテックスはどこにも見えなくて、暁美さんのボンバーで発生したスモークやらファイヤーしかない。
私達は……
「うたのん! うたのーん!!」
向こうからみーちゃんが両目に涙を浮かべながら駆けつけて来る。そのまま私をギュッと強く抱き締めて……温かい……。
「みーちゃん……私達…生きてる……?」
「生きてる!! 生きてるよ!! 私もうたのんも、諏訪の人達も!!」
「……リアリー…?」
「……こんな所で死ぬなんて、死んでもごめんだわ」
「……暁美さん、その言葉おかしくない?」
「……ここで終わるのが…嫌なだけよ。私の墓場はここじゃない」
「………ふ…フフフ……アハハハハ……!」
………生きている。そう実感すると私の目から大粒の涙が溢れ出てきた。同時に笑いも……勝手に出てきて一瞬自分がおかしくなったのかと思った。
今回ばかりは絶対に死ぬんだって思ったのに。乃木さん達に「後はお願いします」という言葉と手紙やらの遺言、遺品も残したのに。
農業王の夢なんてもう叶わないと思っていたのに。みーちゃんの宅配屋さんになって、私の野菜をたくさんの人に届けたいって夢を聞いて最高の気分だった。それが叶わないものだとしても……。
「諦めないで……いいんだ……! 私達の夢……!」
「うん……うん…!」
「……そう、良かったじゃない」
みんな生きている。みーちゃんも、諏訪のみんなも……私達、守りきれたんだ……。
「…え?」
「みーちゃん…?」
『………!!』
「…エイミー…?」
暁美さんの側にいきなりエイミーちゃんが現れる。もうツッコまないわよ?
ただ、エイミーちゃんは何かを必死に暁美さんに伝えようとしているみたいに慌てていて、彼女の手を前足で挟んで引っ張ろうとしている。まるでこの場から避難させようとするみたいに……。
「うたのん! 神託が……バーテックスがあと一体残ってる!!」
そして、私達のいる地面が大きく揺れ動く。
「きゃあっ!」
「んなっ!? ワッツ…! 地震…!?」
「……この地震……っ!? 白鳥さん!!」
何かに気づいた暁美さん。彼女は疲労困憊でまともに動けない身体で私とみーちゃんに飛び付き、庇うように抱き締める。そのままゴロゴロと三人で地面をローリングし離れて、私も気づく。何か異常な事が起きている……それは轟音と共に、さっきまで私達がいた地点を突き破って現れた。その衝撃で私達は吹き飛び倒れる。暁美さんが庇っていなかったら、アレに巻き込まれて私とみーちゃんは……!
今までのどのバーテックスよりも巨大な個体。どの進化体よりもヤバそうなプレッシャーを放つ、間違いなく今まで見てきたバーテックスの中で危険な奴が……。
こいつはもはや『進化体』ではない。バーテックスとは頂点という意味がある言葉……目の前のそいつはまさしくその言葉にふさわしい『完成』した個体。
「魚型…!?」
「なっ…!? やめろぉおおおおおお!!!!」
その巨大なバーテックスは地面を突き破って現れた勢いのまま空を舞う。重力に従って落下し、そこにあるのは御柱……諏訪を守護する結界を作り出す、私達の守りの要。それに巨大バーテックスがその巨体のまま落下し、御柱に直撃する。
粉々に砕け散る御柱。その瞬間諏訪を守ってきた結界が完全に消滅した。落ちた巨大バーテックスの一部が上社本宮を潰し、結界の効力が本当に無くなってしまったことを私達に突きつけられる。
「そんな……結界が壊されるなんて……」
結界があったからこそ、今までバーテックスの諏訪への侵入を阻止できていた。仮に結界が最初からなければバーテックスはあちこちから侵入し、人々は次々に蹂躙され死んでいく。
総攻撃を止められたとして、バーテックスの諏訪への進行は終わったわけじゃない。次に襲撃があった時、規模の大小関係なく諏訪の人々の犠牲は確実だ……。
……いや、それ以前に次があれば……。あの巨大バーテックスは再び跳び上がろうとしている。それも諏訪の内部に向かって……。私も暁美さんも、力は全部使い果たした。もうまともには戦えない。仮に残っていたとしても、あんな化け物に敵うかどうか……。
「……使わなくて済んだと思ったのに……!」
「え?」
「暁美さん…?」
「最初で最後よ。余所で代償を払うのは……!」
残念無念な形相で打ち震えるのは暁美さんも同じ……だけど根っこの部分は私とみーちゃんとは全然違う。私達が感じていたのは絶望……暁美さんはどうしてもやりたくなかった事をやらざるを得なくなった、未練しかないどうしようもない怒り。
「満開!!」
「!?」
彼女が叫ぶと共に、どこからかミステリアスな光が暁美さんに集まってくる。まるで咲き誇る一輪の花のように儚くて美しい……荘厳な輝きと力を放つ。
真っ白なウィングと漆黒のアロー。それらを携えた彼女は舞い上がり、巨大バーテックスに接近し武器を構える。紫の光が集い矢を形作る。それはみるみるうちに大きく、強大になる。
「消え失せなさい! シューティング・スタァァァーー!!!」
辺りを包み込むほどの眩いフラッシュが巨大バーテックスのゼロ距離から放たれる。その大きな光の矢は、その巨体を浮かして呑み込み空高く舞い上がる。一筋の残光が曇りきった空を照らし、雲を突き抜け日の光が差し込んだ。
「……倒した…の…?」
「すごい……あの人…何者なの……」
絶望のシンボルだった、完成体バーテックス。それはたった一人の勇者によって打ち倒された。そしてそれにより、この諏訪への総攻撃にピリオドが打たれる。
怪我人二名、建物の被害数軒、そして犠牲者は0。私達の勝利で幕を下ろすけども、この戦いで諏訪の結界は破られた。もう二度と土地神様は力のない人々を守れない。その事実だけが、私達の心に大きなシャドウを落とす。