ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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 誤字報告ありがとうございます!

 少し遅い気がしますが、ゆゆゆいのエイプリルフールイベント、若葉ちゃんがふゆぅ味溢れていて素晴らしかったです(´▽`) やっぱりゆゆゆいのエイプリルフールイベント最高ですわ~( ´艸`)
 それでこの作品もエイプリルフールで何かしら番外編を書こうとして失敗してこの話の執筆が遅れちゃいました(殴) 何故かものすごく重い展開になってしまったんですよね……何故だ…?
 来年のエイプリルフールこそは……!


第四十七話 「故郷」

 私達の望みは誰一人として犠牲になることなく生き延びること。諏訪の結界が破られてしまった今、不可能になってしまった望み。土地神様には既に結界を治す力は残されておらず、このまま諏訪に残っていても状況は何も良くならない。

 

(……他の結界で守られている地域に逃げられれば……でも……)

 

 人類がバーテックスの襲撃を受けてから三年。生き延びた人類がいるのは諏訪以外には四国しか明らかになっていなかった。

 諏訪から四国までの距離は600キロ以上も離れている。お年寄りの人だってたくさんいるのに、そんな長距離を諏訪の住民全員をバーテックスから守りながら移動するなんて絶対に不可能だ。

 

 ……本当に、悔しくて泣きたくなっちゃうよね、うたのん。無理だと思ってたバーテックスの総攻撃を乗り越えられたのに、私達の大事な存在が壊されようとしているなんて。

 

(……暁美ほむらさん、あの人はどこから来たんだろう?)

 

 突如現れて、うたのんといっしょに戦ってくれた謎の勇者。あの人が来なかったらあの時私もうたのんも、諏訪の人々全員が死んでいたかもしれない……ううん、きっとそう。私達はあの人に命を救われたんだ。

 

 暁美さんは諏訪の勇者でも、四国の勇者でもない。私達が知らない別の地域の勇者……そこは結界で守られているんじゃないかな? それで暁美さんは他に生き残っている人達が暮らしている地域を探して諏訪まで来たとか……。

 ただ、暁美さんがいたその場所がバーテックスに墜とされてしまったとも考えられるんだよね……。でももし本当に今もそこが結界で守られていて、四国よりも行き来がしやすい所だったら……。

 

 確証もない、願望がほとんどだけど、暁美さんがもう一度力を貸してくれて、トラックとかで一度に数十人ずつ避難してそれを暁美さんが守りながら誘導する。その間、うたのんが諏訪にいる他の人々を守る……これを繰り返していけば……。

 

(……それでも、全員は助けられない……! 時間もない…二人の体力が保たないよ……!)

 

 分からない……私達が救われる道なんてないんじゃないかって思ってしまう。今までうたのんが何度も何度も苦しんで、傷を負って、それでも明るくみんなの前を立って道を切り開いてくれた。眩しくて、誰よりも格好良くて、私達の希望だったうたのん……。

 そんなうたのんが、初めて悔し涙を流した。うたのんが絶対に救われない運命しか残されていないとしたら、そんなの酷すぎるよ……!

 

 目が潤みそうになって、すぐに目元を袖で拭う。もう私も泣いちゃだめなんだ……うたのんが悲しんじゃうから……。

 

「へ?」

「あ」

 

 涙を拭って、流れるままに目的の部屋のドアを開ける。彼女が眠っているとばかり思っていたからノックはしなかった。

 でも彼女……暁美ほむらさんは起きていて、何故か部屋のテレビを抱えている。しかもコンセントからプラグが抜き取られていて、まるでどこかに運び出すような様子。その様子のまま暁美さんの目は私の目と見事に交差し、その場でピタリと固まった。

 

「……………」

「……………」

(何この状況…!? なんでうたのんと同じくらい疲れてるはずの人が、体を休めないでテレビ持ち抱えて何やってるの!?)

 

 静かすぎて、シーンって音が聞こえそうな空気が私達を包んでいる。私も暁美さんも一言も発さず、ただお互い目から視線を外さない。

 だってなんて言えば良いのか分からないんだよ……!? 私が人見知りだから会ったばかりの人に言葉を掛けにくいのもあるけど、この人の雰囲気が冷たそうだから特に……。

 

「………誤解よ」

「……え?」

 

 そんな沈黙を破って暁美さんが口を開く。なんだか少し焦ってるような……?

 

「違うわ。えっと……その………巫女さん?」

「あ、えと……水都です。藤森水都といいます…」

「藤森さんね。私は別にテレビを盗もうとしたわけじゃないのよ。本当よ?」

「……いえ、私何も言ってないです……って、あれ?」

 

 命懸けで諏訪の危機を救ってくれるような勇者がこんな所でテレビ泥棒をするわけないよ……なんて思う中、ふとあることに気がつく。まぁそこそこ目立つ変化なんだけど。

 

「いえ、だから本当にテレビ泥棒とかそんなんじゃなくて……ただちょっと…」

「い、いえ…! 最初からそうは思ってませんから…! そうじゃなくて、その格好……」

「格好……この勇者服?」

 

 暁美さんの格好……ここに来た時にはどこかの学校の制服だったのに、今は総攻撃を迎え撃った装束を着ている。こっちもデザイン的には制服に見えなくもないけど、うたのんの勇者装束と似通ってる部分もある。

 でも気になる所は、いつの間にかその勇者装束が無くなっていた事、その無くなったはずの勇者装束を再び身に着けている事だ。いつ制服の方に着替えていたのかも謎だけど……。

 

「その服、どこにしまっていたんですか…? この診療所に来る時には持っていませんでしたよね…?」

「……しまってたも何も……」

 

 暁美さんは何故そんな事を聞くのか分からないといった様子で首を傾げる。私、別に変な事を言ったつもりなんてないけど……。

 でも暁美さんは持ち抱えていたテレビをベッドの上に下ろして、傍らのスマホを取って操作する。

 

(うぅ……質問に答えてほしいのに目の前で堂々とスマホいじるなんて……)

 

 内心落ち込んでいると、突然暁美さんの身体がパッと光って、その一瞬の間に暁美さんの服が制服へと変化した。

 

「えっ!? な、なんですか今の!?」

「ただこの勇者アプリで変身してるだけよ。白鳥さんも同じじゃないの?」

 

 な、なにそれ知らない……勇者アプリって……。つまりこの人はスマホで瞬時に勇者になれるってこと? あ、でも以前まどかさんと乃木さんが、向こうの神様を奉るバーテックス対策組織である“大社”が勇者専用アプリの開発に成功したって言ってたっけ……。

 

「い、いえ……うたのんにそんな近代的な物は無いです……。いつも普通に着替えてます」

「そうなの? いえ、よくよく考えれば無理はないかもしれないわね……」

 

 ……強力な爆弾に、今までに見たこともない超巨大なバーテックスを倒した力。この人がいた地域では既に大社が開発したアプリと同等以上の物が使われている? 諏訪の遥か上を行ってる四国よりもその先を行く……それは一体……。

 

「あの…! 暁美さんは一体どこから来た勇者なんですか…?」

「……讃…」

 

 どこかの地名を言う前に、暁美さんはその口を噤んだ。顔を俯かせてどこか悲しげで……もしかして辛い事を思い出させてしまったんじゃ……?

 

「……私も最初は困惑したわ。まさか長野県にも勇者がいて、諏訪には人間の生き残りがいたなんて知りもしなかったから……質問に答える前に一つ聞いていいかしら?」

「え…あ、はい」

「あなた達は他に人間が生き残っている、勇者がいる地域を知ってる? 私がいた所では他の地域は全部滅びたって聞いていたのよ」

 

 やっぱり私達や四国との間でお互いの情報は行き来していなかったんだ。だけど自分達以外が全部滅びたって認識していたなんて、それってかなり殺伐とした環境だったんじゃないのかな……? いくら強力な力を有していても、自分達以外に生き残りがいないって思っていれば、精神の方が保たないかもしれない……。

 

「私達が知っている所は四国の四県が現在も無事です。中でも香川県には六人も勇者がいまして、バーテックスとの戦闘の準備も整っているみたいです」

「六人……」

「それで……暁美さんがいた所というのは…?」

 

 

 

「………北海道」

「ほ、北海道ですか…!?」

 

 まさかの北海道……北海道からここまでの距離は四国以上に離れている。さっき私が考えた暁美さんの地域に避難する作戦はとても実行できそうにない。

 だけど北海道の人々が無事だったって判った。これは大社も把握できていなかった新事実だろうから、なんとかして向こうにこの情報を伝えることができれば……。

 

「期待はしないで頂戴。勇者である私がそこを守らないで、遠く離れたこの地にいる……それはどうしてか、察してほしいわ」

「っ!?」

 

 その言葉に私は大きな衝撃を受けた。冷静に考えてみれば、遠く離れたこの諏訪の地にわざわざ訪れてまで、自分達の土地を守りを放置するなんておかしい。暁美さん以外にも勇者がいるならばまだしも……

 

「……北海道には、暁美さん以外の勇者の方は…?」

「知らない。聞いたことも無いわ」

 

 北海道に他の勇者はいない……にも関わらず、暁美さんはここにいる。

 

 ……暁美さんは何故わざわざ期待をするなと言ったのか、理由を考え付くのは容易だった。彼女の発言と哀しげな表情が全てを物語っている。きっともう守る意味が無くなったから……だから彼女はこの地に現れたんだ……。

 

「北海道の話はしたくないの、分かってくれる?」

「……はい…」

 

 北海道は既に陥落してしまったんだ。それでも暁美さんは生き残って、完全に滅んでしまったと思っていたこの世界を当てもなく彷徨って、たまたまこの場所に辿り着いた……。

 その偶然が私達の危機を救ってくれた。暁美さんにとって、故郷が滅ぼされてしまったことは悲劇以外の何物でもないのに、それが無ければ私達が死んでいた。

 

「あの…暁美さん。諏訪の人々を……うたのんを助けてくださって、本当にありがとうございます」

 

 私にできることは、彼女に感謝の思いを伝えることだけ。多くの犠牲があったから、私達は一時的にだけど助かった……複雑な心境だけど、私達が暁美さんに助けられた事実は変わらない。

 

「……どういたしまして。といっても、勇者として当然の事をしたまでよ。ただ……」

「ただ……?」

「……ここの結界、壊されたのでしょう?」

「……はい」

 

 暁美さんも事の緊急性を理解していた。

 

「諏訪の結界がもたらす恩恵が私の所と同じならば、この地に残された道は滅亡しか無い」

「………」

「対抗策は?」

「……さっきからずっと考えてはいるんです……。四国や暁美さんのいた所に避難できればって思ったんですけど、現実的じゃなくて……」

「ああ、四国も結界で守られているんだったわ……ね……………」

「暁美さん?」

「………結界……あるのよね、四国には……」

「え? は、はい。四国は神樹様と言われる、数多くの土地神様が集合したとても大きな力を持った神様が守っています」

 

 暁美さんの言葉を肯定すると、彼女の目は大きく見開かれる。何か気になることでもあったのかな……? それにしたって、少し様子が変だ。そのまま暁美さんは俯くと、何やらブツブツと呟き出して考え込んだ。

 

「あのぅ…?」

「……そうよ……何故………思い付かなかったの……四国……いるじゃない……!」

 

 僅かに聞こえるその声は明るく、溌剌としている。少しだけ見えた表情も、隠しきれない歓喜の色が浮かび上がっていた。

 

「……辿ればこうなった……だって……の力……! ……なら…………逆の事だって! 戻る手段……! 行くしかないわね、四国に…!」

「えっ!?」

 

 途中は聞き取れなかったけど、最後の言葉はバッチリ聞き取ることができた。バッと顔を上げた暁美さんは見るからに清々しい雰囲気いっぱいで、その言葉は確定事項であることを意味していた。

 

「あ、暁美さん……四国に行くって……」

「え……ああ、言葉通りの意味よ。私には四国に行く理由があったのよ」

「ま、待ってください!」

 

 暁美さんは諏訪の勇者じゃない。うたのんと違ってこの地を守る責任も無ければ、理由だってない。

 彼女だって最初に、「私には関係無いし、こんな来たばかりの所で犠牲を覚悟する筋合いも無い」と口にしたから尚更……だから暁美さんが諏訪での先の見えない戦いに縛り付けることはできない。一人でこの地を去って四国に行っても文句を言えない。

 

 でも彼女がいなくなってしまったらうたのん一人で絶望的な戦いを背負うことになってしまう……! 暁美さんが諏訪で戦う義理は無いけど、もうこれ以上悪い状況に傾いてほしくない……!

 

「………そうね。ごめんなさい、藤森さん。興奮していて肝心な事を忘れていたわ」

「っ!」

「ここの人々を助ける方法……それを見つける前に自分勝手にここから去ったら、私は大切な人達に合わせる顔がない」

「手を貸してくれるんですか…!?」

「なせば大抵なんとかなるものよ。できる限りの事は協力するわ」

 

 暁美さんは私が懇願しようとする前に、自分から諏訪の問題に触れてきた。勇者とはいえ諏訪の事情とは無関係なのに、危険がいっぱいなのに、力を貸してくれることを快諾してくれた。それだけでも嬉しくて胸が感謝の想いで溢れそうになる。

 

「………………というか……どうなのかしら、これは……? ………検証を再開しないと」

「えっ、何か考えが……!?」

「……もしかしたら……藤森さん、これを見て」

 

 暁美さんには解決への心当たりがあるかのような反応を見せていた。再びスマホを操作して勇者の姿に変身する。戦うわけでもないのにどうしてわざわざ……今度は左腕の円盤型の盾を取り外すとそれをベッドの上に置く。

 その盾の上に、今度はさっき何故か持っていて置いていたテレビを乗せようとしたその時、テレビが盾に吸い込まれるように消えた。

 

「えっ!? な、何ですか今の…!?」

「簡単に説明すると、この盾は異空間に繋がっているのよ。ほら、長年続く某国民的アニメの主人公を助けるロボットのポケットみたいな物ね」

「例えが分かり易いけど、そんな未来の便利アイテムまで持ってるんですか!!?」

 

 つまりあのテレビは本当に盾の中に入ったってことなの!? 異空間って、さっきのあの例えからするとまさか四次元なんてことは……。

 

「といっても、この中身にどれぐらいまでの物の数や大きさが入るのか、まだ私にも分かっていないのよ。訳あって今まで使ったことが無かったもの」

「……もしかして、それでテレビで確かめようと?」

「ここにあったメモ帳やペンといった小物で最初試して、大きさを変えてテレビを入れようとした時に藤森さんが来たの。だけど私の予想なら多分、何でも入ると思う……車とか戦車とか戦艦とか、大きさも関係無く。生きている人間とかも」

「人間……それって…!」

 

 暁美さんの思いついた心当たりに私も考えつく。突拍子の無い、アニメや漫画でしかないようなありえない策なのに、唯一の可能性が感じられる。この地で人々はもう生きられない……でも結界で守られている場所にさえ逃げきれれば助かる。みんなの命が。

 

「この盾の中が本当に四次元空間になっていて、そして人も入れることができるなら、諏訪の人々全員を連れての避難が可能よ」

 

 失われたはずの希望が、再び目の前に現れていた。

 

 

◇◇◇◇◇

 

「とまあ、経緯はこんな所ね。それからは藤森さんに協力してもらっていろんな物をこの空間に入れて検証した。結果は見て分かると思うけど予想通りだったわ。小物やテレビだけじゃなく、明らかに大きさが違うベッドや車も難なく入れられた。勿論私達人間も入ることができた。そしてこの異空間は四次元空間で無限に広がっている。これは直接私達が歩いて確かめた結果、壁には辿り着けなかったから確信したわ。ああ、ちゃんとこの異空間に入れた物は取り出せるから心配いらないわ。ただ、中に入れるのは盾にさえ触れていれば誰でもできるけど、その逆、取り出すのは私にしかできない……検証結果は以上よ。何か質問はあるかしら?」

「……ぁ……え……?」

「無ければ諏訪の人々を集めて頂戴。私は一刻も早く四国に行きたいのよ」

 

 ……言いたいことなんて山ほどある。何でもストレージできる、異空間に繋がっているシールドですって……? これまで何度も暁美さんには驚かされたけど、今度のは群を抜いてアンビリーバボーだわ……。物理法則を無視した、ド○えもんみたいなワンダフルなプランの実行を考えるなんて……。

 でも私の目の前に広がっているこの空間が何よりの証拠。何千人、何万人集まろうとも全く窮屈にはならないであろう広さ、大きさにリミットは無いと言う暁美さん達の言葉。

 

「……す、諏訪のみんなを集めて……それからどうするの…? あ、いえ…! 解ってはいるんだけど、ごめんなさい…! あまりにも唐突で理解が追いつかないの…!」

 

 完全に頭が混乱しちゃってる。だっていきなりこんな事を言われて、みんなが助かるって……心から望んではいたけど、考えていたのと話は別だから……。

 

「もう諏訪では生き抜くことはできないから、みんなで四国に避難するんだよ。暁美さんの盾にみんなを入れてもらって、そのまま四国に連れて行ってもらうの。中は安全だから、みんながバーテックスの攻撃に晒される心配がなくなるの」

「ま、待って二人共…! 諏訪のみんなが助かるんだってならすっごく嬉しい! ソーハッピーよ!? これほどまでに望んだことなんてないわ! でも……」

 

 それでも私は未練がましい事を考えてしまう。これだけでも十分な、ありえないほどのミラクルだっていうのに、欲張ってしまう。

 

「諏訪は……この地はどうなってしまうの……?」

 

 諏訪は私達の故郷……みんなの思い出がたくさん詰まった、私にとって命と同じぐらい大事なものだ。世界の大半が滅ぼされても、今まで私達が力を合わせて守り抜いてきた平穏の証。みーちゃんと暁美さん達のプランは諏訪のみんなこそ助かるけれど、諏訪の大地は含まれていない。

 

「残念だけど、どっちにしろもう諏訪の崩壊は避けられないのよ。仮にこのまま停滞して四国に避難しないとしても、戦場がこの地であるのに変わりはない。それだと犠牲者も出てしまうし土地や街自体も荒らされる。キツい言い方になるけど、あなた達に残された道はもう住民だけが助かるか、助からないかの二択しかないわ」

「……あはは…そうよね……理屈では解ってるのよ……でも諦めたくなくて……」

 

 人がいなくなったとしても、バーテックスは問答無用でこの地を蹂躙するだろう。私達の畑も、街も、山も、何もかもメチャクチャにされてしまうのは解りきっている。だけどみんなが助かる道はこのミラクルしかなくて、諏訪はもう……諦めるしかない。

 

「うたのん、今はしょうがないよ……諏訪の人達を助けることだけ考えようよ……」

「みーちゃん……」

 

 みーちゃんもその点に関しては本当に悔しいのだろう。私と同じでこの故郷を棄てるのは苦しくないわけがないんだ……。

 それでもみーちゃんは四国への避難をディサイドした。それしか方法がないとしても、みーちゃんはみんな助かる方法を選んだんだ。

 

「私だって悔しいよ、悲しいよ……だけど私達が生きている限り、私達が今も生き残ってるように、これから何が起こるかなんて判らない……。だからきっといつか、私達の故郷を取り戻せる時が来るんじゃないかな…!?」

「……っ!」

「四国に行けばみんなが助かるだけじゃないよ、うたのん。やっと会えるんだよ……私達の友達に…仲間に!」

「みーちゃん……」

「もううたのんは一人で戦わなくてもいい……これからは仲間と力を合わせて、一緒に戦って……!」

 

 私達の故郷を取り戻せる時……そうよ、何も今全てを片付ける必要なんて無かったんだ。不可能としか思えなかった総攻撃も乗り越えられた……この先何が起こるかなんて解らないけど、私達は希望に繋げなくちゃいけないんだ。

 

「だからお願い……いつかこの世界を、私達の故郷を取り戻して、うたのん……!」

 

 今私がやるべきこととは、助けられる命を守り抜くこと。諏訪を救うのは残念だけど今じゃない。だけどいつかは必ず救うのよ。諏訪だけじゃない、この世界も……。

 

「……ええ。私も決めたわ!」

 

 今は奴らに壊されるしか道はない。でも未来は……私と乃木さん達が力を合わせる時が来れば、この残酷な世界を変えられるかもしれない。

 

「お待たせしました暁美さん! そしてどうか、私の愛する諏訪の人々の四国への避難に力を貸してください!」

 

 彼女は微笑むと、彼女は地面に手を当てる。その瞬間またしても浮遊感が私の身体を包み込むと、異空間に入る前の診療所の部屋に私達三人がワープしていた。

 

「ワオ…! 本当にシールドの中から出てこられた!」

「感心している場合? バーテックスが来る前に、急いでここの住民を集めなさい」

 

 おっと、そうだったわね。諏訪の住民全員を集めても、その人数をシールドの中に入れるのにかなりのタイムがかかるなんて誰でも分かる。その間にバーテックスが諏訪に入り込む可能性も0ではない。スピーディーに動いて、この地をリーブしないと……。

 

 本来ならば緊急放送でみんなに集まってもらうのがベストだけど、通信機は最後の四国との通信でブレイク……もう使えなくなっている。

 

 だったら……そうね、私の足と、大人にも何人か手伝ってもらいましょう。一軒一軒直接回って、事情を説明してこの場に来てもらう。そして来た人から順に入れてもらえば無駄も生まれない。

 

 

 

 

「──という訳で、皆さん、よろしくお願いします」

「歌野ちゃん……相分かった。儂等は歌野ちゃんを信じるておるからの」

 

 中には私のように、諏訪を出ることを渋る人もいるだろうけど……説得してみせる。いつか必ず私が、私達勇者が、諏訪も世界もバーテックスに奪われたものを取り戻すと約束する。

 

「必ずもう一度みんなと一緒に諏訪に帰ると約束します!」

「……そうだねぇ。このままここにいて、バーテックスに殺されるなんて、死んでしまった爺さんは喜ばないか…」

 

 私が回っている所とは違う場所でも、みーちゃんが駆け回って避難を促していく。

 

「私達はうたのんとは違って、バーテックスと戦う力はありません! だけどみんなの存在がうたのんの力になるんです! 誰かがいなくなるとうたのんは悲しむから……だから、みんなで生き延びてうたのんを応援して、私達がうたのんの心の支えとして戦う時なんです!」

「みとおねーちゃん! わたしもいっしょにいくー! うたのおねーちゃんをたすけるんだからー!」

「水都ちゃんの言う通りだ! 俺達が歌野ちゃんを応援しないでどうしろって言うんだ!」

 

 その甲斐あって、暁美さんの元には次々と人々が集まっていく。決して慌てず、私達を信じて彼女のシールドの中に避難していった。

 

「……凄いわね…白鳥さん、藤森さんも……少なからず混乱する人も出るかと思っていたけど、みんな前を向いて順調に集まって来るなんて……」

「あの子達は私達の希望だからね。諏訪の勇者様と巫女様……と言っても水都ちゃんも私達にとっては勇者様みたいなものさ。あの二人がいたからこそ、私達は今まで生きてこれたのさ」

「…………みんな……すぐ戻るから…」

 

 

 そうしてみんなが協力して避難をスタートしてから10時間、最後の一人がシールドの中に入った。この時点で諏訪の大地に立っているのは私、みーちゃん、暁美さんの三人だけ。飼われているペットも、非常食や避難グッズも漏れなく、ここまで来た人達の車までも入れてもらった。

 サイレントな私達の故郷……今からこの地に人間は一人もいなくなる。それはみんなの命を助けるためだけど、色々大切なメモリーがいっぱい詰まったこの場所をリーブしなければならない。そう思うだけでアイズの奥が熱くなった。

 

「なんとかバーテックスが来る前に終わったわね……白鳥さん、泣くのは早いわよ。四国に着いてから、彼らを無事に送り届けてからにしなさい」

「ワッツ!? な、泣いてなんか……! 私はもう泣かないんだから……!」

「うたのーん! これ、持ってきたよ!」

 

 みーちゃんの声が聞こえた方を見ると、巫女の装束を土で汚したみーちゃんが駆け寄っていた。彼女の両手に大事そうに抱えられていたのは見覚えしかない種が入った布袋と……私が総攻撃の前に埋めた鍬と、四国にいる友達に向けて書いた手紙だった。いつか彼女達が諏訪に来た時に見つけてもらって、未来に繋いでほしかった私の想い。こうしてまた私の目で見ることになるなんて、あの時には全く思っていなかった。

 

「これ……乃木さん達に受け継いでもらうつもりだったけど、もうその必要はないよね?」

「……ええ。彼女達に私達の想いを引き継がせるんじゃない。私達と彼女達で一緒に戦うのよ」

 

 みーちゃんから受け取った遺言の書かれた手紙を破り捨てる。私達は未来に向かって歩んでいくのだから……。

 

「……この鍬見てるとうずうずしてきたわ……! 四国に行っても農業できるかしら♪」

「できるよ。うたのんなら、きっと」

 

 みーちゃんと笑い合って、一緒に故郷に振り返る。必ず取り戻してみせる……私達の大切な宝を。

 

「土地神様が神託で四国まで案内してくださるの。極力バーテックスのいないルートを……それが土地神様が私達にできる、最後の手助けだって……」

「そっか……」

 

 土地神様は三年間もの間、私達人間を守ってくれた。この地を離れるとなっても、辿り着くまで私達を守り抜いてくださる。こちらが最後まで諏訪で戦えないのが申し訳ないのだけど、きっと土地神様も私達を信じてくださるのだ。

 

 私達の勝利を……。

 

「白鳥歌野、行って参ります!」

「今まで本当にありがとうございました! 行ってきます!」

 

 こうして私達は故郷、諏訪の地をリーブした。全ては人々を救うため、そして、未来に進むために。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 四国、香川県丸亀市の一軒家。そのとある部屋に目覚まし時計の電子音が鳴り響く。部屋に二つあるベッド、その一つから一人の少女がまだ少し眠そうに目元をこすりながら起き上がる。

 少女はベッドから降りるともう一つのベッドの方へ歩み寄る。そこにはもう一人の少女が丸まって眠っている。もっとも少女は彼女が既に目が覚めている事に感づいてはいるが……。

 

「おはよう、まどか」

「………」

 

 声を掛けるも無反応。それに少女は哀しげな表情を浮かべるも、同時にこうなっても無理はないと考えていた。

 つい昨日、彼女は二人も友達を失ったばかりだった。訳あってお互い顔は知らないが、そこには確かな絆が存在し、いつか会える時が来るのを心から楽しみ待ち望んでいた相手。

 

「……まだ、無理そう?」

「………」

「お母さんとお父さんには伝えておくね」

「………ごめん…」

 

 涙声で力無く謝る彼女の頭を優しく撫でると、少女は部屋を出る。自分は彼女を悲しませないと、改めて心に誓いながら……。

 

 少女は勇者である。遠く離れた諏訪の地は陥落してしまった。ならばこれからは自分達が世界を壊し尽くす化け物と戦う事を理解していた。

 

「私は絶対に死なないよ、まどか。約束だよ」




【異空間収納】
 三度目の満開で取得した、暁美ほむらの四つ目の能力。散華は彼女の体温。盾に異空間の入口を開き、そこに触れた物を中に収納できる。大きさ、種類、数を問わず、いくらでも異空間の中に入れる事ができ、中身は四次元空間となっているため無限に広がっている。入口を開いている間は誰でも異空間の中に収納することができるが、中身を取り出せるのは暁美ほむらだけ。彼女の好きなタイミングで好きな物を手元や周囲に取り出せる。人間も中に入れることもでき、暁美ほむら自身も中に入れるが、その場合彼女は異空間にいる限り盾を回せないため時間停止能力は使えない。
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