ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
諏訪を出て私とうたのん、暁美さんの三人で四国に避難を始めてから半日は経過した。最後に確認できた標識によると、ここはまだ滋賀県。土地神様の神託通り、バーテックスに見つからないように慎重に動いていたのもあり、勇者の脚力での移動としては時間の割にあまり進んでいなかった。道自体、身を隠すために舗装されていない山の中や、狭い所を経由していたし仕方がないけど……。
「みーちゃん、大丈夫?」
「う、うん……大丈夫」
そう言ったものの、結構なんて言葉で片付けられないほど疲れてはいる。安全ルートの誘導とはいえ、長時間神託を受けながら同時に移動もしているのだから心身共に負担が掛かっていた。かと言って、私もみんなのように暁美さんの盾の中に入れてもらって休むことはできない。それだと二人にルートを伝えられないから、何としてでも四国に辿り着くまで頑張らないといけなかった。
「……休憩しましょう。藤森さん、というか私達全員昨日から休み無しじゃない」
「そうね、休むヒマなんて無かったし。みーちゃんもキツいならキツいって言ってくれても良かったのよ?」
バレてた……だけど二人もだいぶ疲れている。無理もない、あのバーテックスの総攻撃があったのだってつい昨日の事だ。ほとんど身体が休まらないまま、人々の避難のためにたくさん動いて、そのまま諏訪を離れたんだから。
うたのんはまだ怪我が癒えたわけでもないし、暁美さんは戦いの後からずっと顔色が悪いのに、全く休めていないから尚更……。
「みーちゃん、周囲にバーテックスは?」
「………少し離れた……4キロぐらい? その街中に小型のが7体……かな。私達の存在には気づいていないみたい」
「危険は無いようね。なら、全員盾の中に入りましょう」
そう言うと暁美さんは左腕の盾を外し、私に手渡した。理屈はよく分からないけど異空間に繋がっているらしいこの盾、一応うたのんの鞭みたいに神様の力が宿っているらしい。
受け取って、裏面に手を入れるように当てようとすると、私の手は盾をすり抜けて、身体が少し浮かび上がったと思うとさっきまでとは違う場所に立っていた。辺りには一緒に避難をしていた諏訪の人々がたくさんいて、落ち着き慌てずこの場所で待機している。それどころか運んできた食糧で炊き出しをしている人も居て、避難生活の中みんなも支え合って頑張っている。
トラブルが無いようで何より……ほっと一息吐いていると、私のすぐ近くにうたのんが現れ、その後に暁美さんも入ってきた。
「すみません、少し休憩させてもらっても良いでしょうか? 皆さんも早いところ、四国に到着して安心したいとお思いでしょうが……」
「いいに決まってるじゃないか。俺達のためにずっと働き詰めで頑張って……みんな! 歌野ちゃん達にも蕎麦とお茶、それから毛布も!」
「ワオ! 蕎麦ですって!? 頂きましょうみーちゃん、暁美さん♪」
「うん! ありがとうございます。神託によればバーテックスの危険は無いとのことなので、しばらく休ませてもらいます」
今外の世界にあるのは暁美さんの盾のみ。バーテックスが寄り付かない場所で、仮に近づいても人間ならともかく、持ち主のいない盾なんてバーテックスはまず気にしないだろう。土地神様も神託で断言してくださったし、万が一近くを通るバーテックスが暴れることがあったとしても、近づく前に私に新しい神託が送られる。心配する必要なんて何も無かった。
「しっかり食べて、しっかり休んでね」
「はいっ! うふふ♪ 蕎麦蕎麦蕎~麦~♪」
「白鳥さん、やけに上機嫌ね…」
「蕎麦はうたのんの大好物なんです」
「……そういえば、長野県は蕎麦が有名だったかしら」
「諏訪のソウルフード、信州蕎麦! あぁ…生きてこのテイストを再び味わえるなんて……!」
暁美さんの言う通り上機嫌で蕎麦を受け取るうたのん。本当に幸せなんだろう。あの絶望の中全員が生き延びて、永遠に失われるかと思われた日常を救われた。蕎麦を味わえる何気ない一時でも、私達にとっては幸福以外の何物でもない。
「はい、水都ちゃんとお嬢ちゃんも」
「ありがとうございます」
「どうも」
美味しそうな香りが疲れきっていた身体を潤していく。私もうたのんと同じで蕎麦が好物だ。お腹も空いてるし、ここしばらくは度重なる不安で満足に食べれていなかった。まだ終わったわけじゃないけれど、希望が持てて気持ちに大きな余裕ができたから内心うたのんと同じぐらい嬉しかった。
「いただきまーす!」
「いただきます」
「……いただきます」
「~~~っ!! ソーデリシャス!!! コレよコレ!! 生きてて良かったーーーーっ!!!!」
ズズッと音を立てながら幸せそうに蕎麦を啜るうたのんを、みんなが嬉しそうに眺めている。うたのんは誰もが認める蕎麦愛好家だから、美味しそうに食べている姿は見ていて気持ちがいい。
そして、そんな幸せそうなうたのんと一緒に食べる蕎麦は私もとても美味しく感じた。またこんな気持ちで蕎麦を食べられるなんて思わなかったから、思わず目が少し潤んでしまう。
「……これが信州蕎麦……凄い…! 今まで食べたどの蕎麦よりも美味しい……!」
「……っ! そうでしょうそうでしょう!? 蕎麦は世界で最も至高なフードだけど、その中でも信州蕎麦は蕎麦界のキングなの!!」
「至高なフードかどうかは知らないけど……食欲をそそる蕎麦の香り、喉越しの良さ、つゆと麺の絶妙の交わり。流石に県が誇るだけのことはあるわね」
「暁美さん、あなた見所があるわ! 最高よ!!」
「蕎麦の感想を言っただけで?」
……………むぅ。
「うたのん、暁美さんもまだ食べてる途中なんだから、詰め寄るのは良くないよ」
「あらやだ、ソーリー暁美さん。一人でテンションがハイになってたわ」
「……別に気にしてないわ。白鳥さんって余程蕎麦が好きなのね」
「いやー、あはは……なんか恥ずかしいわね」
「でもそうね。こんなに美味しい蕎麦をずっと食べて生きていたら好きになるのも納得だわ」
「暁美さんっ!!」
「うたのんってばぁ!」
うたのんが喜んでいるとても幸せな光景のはずなのに、なんだか胸の中がモヤモヤしちゃう。暁美さんにばっかり笑いかけて、犬みたいに落ち着きなく引っ付いて……そりゃあ、暁美さんは美人だし、大好きな蕎麦を認められて嬉しいってのは判るけど、それにしたって近すぎるよ……!
「……くくっ、ふふふ…!」
「……暁美さん?」
「あははははは!」
暁美さんにオープンすぎるうたのんに文句を言おうと思ったその時、暁美さんがいきなり笑い出した。何かおかしなことでも言っちゃった? 私とうたのんがちょっと不思議に思いながら彼女を見つめていると、暁美さんはとても穏やかな……どこか懐かしむような表情で口を開く。
「……白鳥さんと藤森さん、本当に仲が良いのね」
「え?」
「藤森さん、白鳥さんが私に近いからって嫉妬しすぎじゃない」
「はい!?」
「え…えええっ!? ジェラシー!? みーちゃんが!?」
「なななな何を言ってるんですか!?」
「そんなのあなたが一番解っているでしょう?」
「はうっ!?」
バレてる!? 端から見たらうたのんを注意しただけだよね!? でも暁美さんは私が嫉妬していたって確信してるし、実際あのモヤモヤした感情は……なんで判ったの!?
「似ていたのよ。私の友達に」
「似ていた?」
「私の命よりも大切な……二人の友達。とても強い絆で結ばれた、私の誇り」
「………」
「その友達もお互いのことが大好きで、どっちかが誰かと仲良くしていたらもう一人が明らかに嫉妬するのよ。さっきの藤森さんの不満そうな目が、その時の友達ともの凄く似ていたの」
「……それって前に暁美さんが言っていた、諏訪の人々を見捨ててしまったら顔向けできない大切な人のこと……ですか……?」
「あなた達二人は見てて友達を思い出す。あの二人のように固い絆で結ばれているのも、諏訪の人達の話からよく分かったし、実際に今まで見ていて本当なんだって分かった。過酷な世界の中、二人三脚で積み上げてきたあなた達だけの絆……だから安心しなさい、藤森さん。嫉妬なんてしなくても、そこに私が割って入る隙間なんてどこにもないわよ」
儚げに語るその姿からは、暁美さんがその友達のことを心から想っているのだと伝わってくる。私と重なって見えたから、その人達のことを思い出して笑ったのだろう。だけど、暁美さんは故郷を……深く聞くのは良くないよね……。
何て言えばいいのか解らないでいると、うたのんが箸を置く。まだ蕎麦を食べ終えていないのに、珍しく真剣な様子だ。
「……暁美さんの言う通り、私とみーちゃんは誰にも負けない、ストロングでハードな最高の絆で結ばれているわ。ハッキリ言って……私がこの世で一番愛しているのはみーちゃんよ!」
「うたのん!!?」
「「「うぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
「「「あら~♪」」」
『~~~!!』
「キャァァァァァアアアーーーーッッ!!!?」
突然とんでもなく大きな声で、とんでもないことを叫んだうたのん。それはこの異空間の中にいる人達にもバッチリ聞こえ、あちこちから色んな声が上がった。そして私の全身という全身から真っ赤な炎が吹き上がった。
「だ、大胆な告白ね……」
「ぴゃぁああああぁぁああああっっ!!!? ななななななななああああ!!!?」
「……落ち着きなさい藤森さん。心中お察しするけど……」
「だけどもし暁美さんが来ていなかったら、私達の絆はバーテックスに絶たれてフィニッシュしていたわ」
「え? この状態で話を進めるの? 冗談でしょう?」
愛しているって言った!!? うたのんが!! 私のことをこの世で一番愛しているって!!!? それだけでもものすごく恥ずかしいのに、ここにいるたくさんの人達にも聞かれた!!? うたのんのプロポーズ!!!?
「……よくよく考えたらまだちゃんと言えてなかったなって。私もみーちゃんも諏訪のみんなも、暁美さんが救ってくれた。割って入る隙間なんてないって言ってたけど、暁美さんは逆に、ブレイクしかけてできていた隙間を綺麗に埋め直してくれたのよ。それがとってもインポータントだって、暁美さんイマイチよく解ってないわよ?」
「あなたがたった今仕出かした事がとってもimportantだって、白鳥さんイマイチよく解ってないわよ?」
「あら! ビューティフルな発音素晴らしいわ! でもそういうことなの。私達はみんなあなたに感謝している……本当にありがとう。この恩は決して忘れない。一生懸かっても返せないとは思うけど、必ず返してみせるわ」
ぁぁああああ熱い……!! 全身が燃えてるみたいに熱い……!! それに恥ずかしすぎて顔を上げられない!! みんなの好奇な視線が私達にグサグサ突き刺さってる!! これから私はどんな顔をしてみんなの前に立たなくちゃならないの!!?
「別にいいわよ、忘れても」
「んもう、つれないわねー」
「私はあなた達に恩を売るために戦ったんじゃない。あくまで自分を貫くために戦って、その結果あなた達が助かった……それだけのことよ。恩を感じる必要、それを返す必要は無いわ」
言うなら周りに誰もいないときに言ってほしかったのに……誰にも聞いてほしくなかった、私だけに言ってほしかったのにぃ~~!!!
「その方がお互い後腐れ無く別れられるでしょう?」
「えっ? それってどういう……って、あら!? みーちゃん!? どうしたの!? フェイスが真っ赤っか……! ぽっぽしているわよ!?」
「……うわぁ」
「うたのんの馬鹿ぁ~~!!!!」
「んん~っ! ふぅ、よく寝たぁ」
「……むぅ…!」
「疲れも大分吹き飛んだわね、みーちゃん、暁美さん!」
「むぅぅぅぅ!」
「……ソーリーってばぁ……機嫌直してよぉ……」
「知らないっ!」
「ガーン!?」
あの出来事はあっという間に異空間中に広まり、結果諏訪の人々全員の耳に入ってしまった。顔見知りの人もどころか、私とうたのんの両親にもバッチリ知れ渡ってしまって……ほんと、これからどんな顔をしてみんなに会えばいいの……。
「……でも良かったじゃない」
「え…?」
「白鳥さんの曇り無い本音、伝わったでしょ。普通あんな大胆なことできないわよ」
……まぁ、とても恥ずかしかったけど……嬉しくないわけがない。あんなにはっきり言ってくれたんだから、あれがうたのんの紛れもない本心だったんだ。
「………私もうたのんのこと…大好きだよ…?」
「みーちゃん…!」
「うぅぅ…! あ、暁美さん…! 早く行きましょう…!」
「はいはい。御馳走様でした」
分かってましたと言わんばかりに答え、私達三人は再び盾の外に出される。時間的には大分休めたから、異空間に入る前は日が傾き始めていたけど、今は丁度昇り始めていたところだった。
「この分だと到着は……途中でもう一度休息を挟んで明日になるかしら」
「明日……明日になればみんなが助かる……」
「私達の仲間にも会えるのね」
頭の中に土地神様からのイメージが送られる。それで明らかになったルートを二人に伝え、四国に向けての歩みを再開した。
◇◇◇◇◇
いつもの目覚まし時計で起床し、まだ少し眠いけど両目をこすりながら1階への階段を下りる。降りた先の庭の方ではお父さんが家庭菜園の手入れ、水やりをしながら実った野菜を収穫していた。
「おはようお父さん」
「おはよう」
「お母さんは?」
「タツヤが行ってる。手伝ってあげて」
「はーい」
お母さんは毎日夜遅くまで働いている。だから朝が弱くて、それを起こすのが子供達の朝のお仕事の一つである。
「まーま、まーま! あさ! おきてー!」
扉の中から愛する弟の無邪気な声が聞こえる。弟はまだ4才だから、きっと笑いながらぽかぽかとお母さんの布団を叩いているのだろう。力が無いからあの子一人じゃなかなか起きないんだよね。
「タッくん」
「あ! ねーちゃ!」
バンって大きな音が鳴るほどの勢いで扉を開ける。そのままカーテンをバッと開けて太陽の光を一気に部屋の中へ。そしてお母さんの布団をしっかり掴み、勢い良く引っ剥がす。
「起きろーー!!!」
「うわあああああっ!!? ……ぁ」
「ままおきたー」
「おはよう、お母さん」
「……おう、おはよ…ふぁあ~」
これが私達一家、鹿目家の朝。だけどその在り方はいつもとは少し、だけど大きく異なっている。
「……まどかは?」
「まだ、立ち直れていないみたい」
「そうか……無理もねぇか。こんな世の中とはいえ、友達を失っちまってそう簡単に立ち直る方がおかしいよな」
あの子はまだ立ち直れていなかった。諏訪が陥落してしまったあの日から、まどかは悲しみに暮れていた。
白鳥歌野さんと藤森水都さん。諏訪の勇者と巫女で、私とまどかのような関係だった二人。私達とは違って今まで第一線で戦い続け、それが先日遂に……。
私と彼女達に繋がりはない。お互い顔も知らないし声も知らない。だけどまどかと乃木さんは彼女達と何度も通信していて、たくさんお話ししていて、友達と言える関係だった。通信の日には私達家族にその時の話を楽しそうに語って……それがもう無いんだなって……。
「……頼むから、お前は死んだりしないでくれよ…」
「……死なないよ。絶対。みんなと約束したから」
私は勇者だから、いずれ戦わなきゃいけない。世界をメチャクチャにした化け物……私達から大切な存在を数え切れないほど奪った相手と……。
だけど私は絶対に逃げない。これ以上私の目の前で何も失いたくないから。大切な存在を守り抜くために……。
「……最近、向こうではどうよ?」
「この前伊予島さんに私のお気に入りの小説を貸したの。だけど伊予島さん、その小説をお昼食べながら読んでて……それで土居さんに注意されて没収されちゃって……よりによって土居さんがそれを無くしちゃって……」
「……そりゃあ踏んだり蹴ったり、残念だったな…」
洗面所で身嗜みを整えながらお母さんと話す。戦いの宿命を背負っているのは私だけじゃない。他にも五人、そしてまどかともう一人、上里ひなたさんの計八人は学校ではなく丸亀城で日々生活している。みんなは寄宿舎に住んでいるけど、私達の家は市内だからこうして家通いができている。
「でも二人共本を探しているし、そのお詫びってことで伊予島さんがたくさん本を貸してくれて、土居さんも今度私とまどかに美味しい骨付き鶏を奢ってくれるって約束してくれたの」
「おっ、それは良かったな。あの子達もしっかり反省してるってことだ。世の中には謝っても行動に移さない連中だってうようよいるんだ。ちゃんと行動に移せるのは立派さ」
「うん。だから私ももう気にしてないんだ。もしこのまま本が見つからなくても怒らないよ……あ、でも」
「でも?」
「……土居さんが昨日、高嶋さんのきつねうどんの油揚げを美味しそうだからって勝手に食べちゃって、みんなに怒られてた……特に郡さんに……」
「あはは! そりゃああの子の個性だねぇ! 球子ちゃんにしかできないんじゃないかい?」
髪をセットしてもらいつつ、お母さんとの会話は弾む。みんなで命懸けの戦いを背負おうとも、私達は全員中学生だ。普通の中学生みたいなことはできないだろうけど、年相応の日常風景にお母さんは喜んでいる。
実際、お母さんは私達子供が戦うことに誰よりも猛反対していた。何とか説得して、絶対に生きて帰ると約束したから百歩も千歩も譲って折れてくれた。
「結局上里さんに吊されて、乃木さんもうどん絡みだったから弁護してくれなかったの」
「……子供達が楽しそうで何よりだよ。お前達が勇者で、世界がこんな状況でも、毎日悔いなく楽しくやれていりゃあそれでいい……よっし、完成! 今日も可愛いぞ!」
鏡に写るいつもの自分。かつては地味としか思えなかったこの姿も、みんなが認めてくれたから気にならなくなった。
もしかしたら今日にでも命懸けで戦うかもしれない。そうだとしても、私はこの大切な日常を失いたくない。悔いなく、そして大好きな人達とこれからも生き続ける。
その時、階段の方から誰かが慌ただしく走ってくる。足音を響かせながら、その人は私の名前を叫ぶように呼んで洗面所へと飛び込んできた。
「まどか?」
「ど、どうしたの…? そんなに慌てて…」
入ってきたのはまどか。ずっと落ち込んでいたはずの彼女が涙をこぼしながら、今にも泣き出しそうな様子だった。そして、まどかの口から予想もしなかった言葉が紡がれる。
「神託……来たの……!」
「神託? 神樹様から?」
「勇者……諏訪から二人の勇者が…たくさんの人と一緒に……瀬戸大橋に来てるって……!」
◇◇◇◇◇
「……着いた……これが……!」
諏訪からここまでおよそ600キロ、途中二度の休息を挟んで48時間。運悪く遭遇してしまった小型バーテックスも切り抜けて、誰も傷つくことなく、ついに……。
「瀬戸大橋……この先に結界が……!」
私達のアイズに広がる、岡山県と香川県を繋ぐとてもとてもロングなブリッジ。その先の大地を取り囲む巨大なウォールこそ、四国を守護する結界で、私達が望んだものだった。
「行きましょう」
「っ、ええ! みーちゃん掴まって!」
「うん!」
ここまで来ると、もうコソコソ動く必要はない。みーちゃんを抱き抱えて暁美さんと一緒に大きくジャンプして瀬戸大橋の上を跳んでいく。みるみるうちに先へとジャンプしていくと結界はどんどん近くなる。
そして
「入った……結界の中…」
後ろを振り向くと、そこにあるのは四国中を覆い囲む巨大プラントのウォール。ついさっきまで遠目で見えていたそれの先に私達は立っていた。ここには人々を襲う、憎きバーテックスは入らない。ここに私達が辿り着いた時点で、戦う力のない大勢の人々の命が守られる……。
「……それじゃあ、盾の中にいる人全員出すわよ」
暁美さんがシールドを翳す。次の瞬間、瀬戸大橋中に大勢の人々が突如として現れ出す。一瞬で大きなブリッジが埋め尽くされ、全員が辺りがどうなっているのか見渡した。みんなの驚きの声やウォールを見て様々な声を上げる。やがて、その声は一つの全く同じものとなってみんながシャウトする。
歓喜でいっぱいになった、その声を。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』
蹂躙されるデスティニーだったみんなが助かった。諏訪の人々みんなが一つになって、このありえなかったミラクルを喜んでいる。笑っている人も、抱き合っている人も、号泣している人も……全員が生きて、この幸せを享受していた。
「うた…のん…!」
「みー…ちゃん…」
そんな彼らの姿を見て、みーちゃんはぼろぼろ涙を流して泣いていることを隠そうともしなかった。私も前が全く見えていなくて、声もスゴく震えていたけど。
「……生きてる……みんなが生きてるよ……!」
「……うん……うん……!」
「誰も……死んでない…! うたのん……うたのん!」
「みーちゃん……みーちゃん……みーちゃん…みーちゃんみーちゃんみーちゃぁあん!!!! うわああああああああああ!!!! んああああああっ、ああああああ!!!!」
みーちゃんと抱き合って二人で泣いた。一生分どころか来世分も含まれていた思えるほど泣き叫んだ。念願叶って生き延びて、私が守りたかった人はみんなここにいる。今日ほど瀬戸大橋がうるさかった日なんて一度も無かっただろう……数万人の幸せのシャウトが響くことも無かっただろう。
「……おめでとう、白鳥さん、藤森さん。これからのあなた達の未来に希望があらんことを」
「……っ、これは…!」
みーちゃんと抱き合ったままでいると、上空から驚きの声が聞こえた。どこか聞き覚えのある、頼もしくて勇ましい……彼女の声…。
「……勇者…? うたのん…」
前方に何かが着地するような音が聞こえ、みーちゃんから手を離して急いで涙や鼻水を拭う。見えるようになった私のアイズには青い……勇者のバトルスーツに身を包んだ凛々しいフェイスのガールが驚愕の表情で立っていた。
「……うたのん…だと……!? 今そこの君はうたのんと言ったのか……!?」
「っ!? その声……まさか…!」
「……白鳥さん……藤森さん……なのか…?」
向こうは私達の名前を知っていた。そして私達の頭の中には、一人の友達の名前が浮かび上がっていた。
「……あなた……乃木さん…?」
その名前、私達の友達、乃木若葉。その名前を呼ぶと、彼女の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。
「……ああ…! 乃木……乃木若葉だ! 白鳥さん! 藤森さん!」
……オーマイガー…! 四国に行けば必ず会えるんだって解っていた。だけど実際にこうして、ずっと会いたかった友達が目の前にいる。嬉しくて、嬉しすぎて、会えた時に言おうと思っていた言葉が全部吹き飛んでしまった。
「乃木……彼女が……?」
『……!』
「あっ、こらエイミー止めなさい! ……彼女達はやっと会うことができたのよ。邪魔はしない方がいいわ」
暁美さんの側に現れたエイミーちゃんが乃木さんに飛び付こうとしたけど、暁美さんがブロックしてくれた。
その間に乃木さんと私、みーちゃんはゆっくりと前に出る。そうしてお互いに手を前に出し、乃木さんは震える手で私の手を掴んだ。
「生きて…いたんだな…! よくぞ無事で…!」
「心配かけてソーリー、乃木さん…」
「まったくだ…! 最後の通信があのような形で終えるなど……生きているなら生きていると、すぐに連絡すべきだろう…!」
「アハハ……通信機が完全にブレイクしちゃって……」
「……白鳥さん、所々変な話し方になってないか?」
「これが素のうたのんなんです。意外でしたか?」
「……いいや。なんとなくだが、白鳥さんらしい」
そう言うと乃木さんは屈託無く笑い出した。太陽の光で彼女の目元に浮かんでいた涙がキラリと反射する。きっと彼女ももう二度と私達に会えないかもしれないと思っていたのだろう。だけどこうして遂に直接会えて、何気ないトークを交わせる……この瞬間をどれだけ待ち望んできたことか……。
「おかしなものだ。何度も言葉を交わした仲だが、こうして直接話すのは初めてなんだな」
「そうですね。だけど嬉しいです。諦めなくて良かったって……生きてて良かったって……そう思えるから……!」
「……生きていてくれてありがとう、白鳥さん、藤森さん、そして諏訪の皆さん……! ようこそ四国へ。私は四国の勇者で暫定だがリーダーを任されている、乃木若葉と言う者だ! 私達勇者並びに大社はあなた達を心から歓迎するぞ!」
再びみんなの中で歓声が巻き起こる。身柄を約束され、今後の憂いも晴れたに違いない。乃木さんは誠実で、人を一人でも見捨てることなんて無い人だって私達は知っている。そんな人が保証してくれたんだ……みんなはこれからも大丈夫なんだって……。
「ところで二人共。私はひなたが、二人の勇者が人々を連れて四国に逃れるとの神託を受けて、居ても立っても居られなくて飛び出してきたのだが……そのもう一人の勇者というのはどこにいるんだ?」
「ああ、ほら! そちらの彼女よ!」
乃木さんのクエスチョンに、私はハイテンションに手を向けて暁美さんだとジェスチャーする。私達の大恩人で素晴らしい勇者だ。是非とも乃木さんにも紹介したかった。
「……? それらしい者は見当たらないが……」
え? 乃木さん何を言ってるの? そこにいるじゃない……って、私としたことが、ジェスチャーした方には暁美さんだけじゃなくて諏訪の人が何人も彼女の周りにいるじゃない。これじゃあジェスチャーしたところで誰を指しているのか分かりにくかったわね。
「ほら、そこの黒髪でロングヘアーの、暁美さんよ」
これなら乃木さんにも伝わるでしょ。暁美さんしか彼女の周りに黒髪ロングヘアーの少女はいないし。
「……アケミさん……? なあ、ほむら……誰だか分かるか?」
「「「……え?」」」
言葉を失った。私だけじゃなくてみーちゃんも、当の暁美さんも。乃木さんはバッチリ暁美さんを見ている。間違いなく暁美さんに話しかけた。だけど彼女の下の名前を呼んで……誰も乃木さんの前でほむらさんなんて言ってないのに。
「……あなた、どうして私の名前を……?」
「何を言っているんだ? というかお前、イメチェンか? 眼鏡も掛けてないし、髪型もいつもと違うが……。だが、中々どうして似合っているぞ。目元がはっきりとして、郡さんもそうだが艶やかで長い黒髪というものは凛々しく見える」
「……眼鏡……髪型…?」
「ちょ、ちょっとウェイト! 乃木さん、あなた暁美さんと知り合いなの!?」
ストレンジ!! 乃木さんは暁美さんのことをあたかも知っているように話しかける……! そして暁美さんも、明らかに乃木さんの事を知らないような反応をしている。
「はあ? ……いや、そっちこそ待ってくれ。私達、なんだか話が食い違ってないか?」
「そ、そうですよ…! 彼女は暁美ほむらさんって言って、北海道から来た勇者なんです!」
「………はあ!? そんなわけないだろう!? こいつは……「乃木さん!」「若葉ちゃん!」」
乃木さんの言葉を遮るように、空から二人分の、これまた聞き覚えのある友達の声が聞こえる。乃木さんと同じく、私とみーちゃんが会いたかった巫女である彼女はバトルスーツの勇者に背負われ…て………ホワアアアアアッツ!?!?!?
「ええっ!?」
「ど、どういうことだ!? 私は幻でも見せられているのか!!?」
「きゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! エイミーエイミーエイミーエイミーエイミー!!!! 何よこれ一体何なのよこの世界はああああああ!!!! 二人って、混ざりすぎにもほどがあるでしょうがあああああああ!!!!!!」
『~~~!?』
「……なんで……えっ…!? 誰あの人…どうして…!?」
「……え?」
この時私はどうして乃木さんと話が食い違っていたのかアンダスタンド……。そりゃあ、こんなものを見てしまって間違えない方がスゴいわよ……!
乃木さんが勘違いしてだけど、暁美さんを下の名前で呼んでいたのも……もしかすると、私とみーちゃんは彼女の名前を知っている。知っていたからこそ、同じ名前だった暁美さんの名前を知って面白い偶然があるんだと思ったのだから。
違いはある。私達の目の前にいる白紫の勇者は眼鏡を掛けていて、ヘアースタイルがストレートじゃなくて三つ編み……それ以外は完全に暁美さんと瓜二つ。声すらも同じにしか聞こえなかった。
「……わ、私…?」
彼女の名前は鹿目ほむら。私達の友達、鹿目まどかさんの妹に当たり、彼女が見出した四国の勇者である。
推しキャラとの遭遇
【鹿目まどか】
年齢:13才
誕生日:10月3日
肩書き:巫女
身長:152cm
出身:?
趣味:イラスト
好きな食べ物:クリームシチュー
好きな人:家族、友達
外見、性格:鹿目まどか
【鹿目ほむら】
年齢:13才
誕生日:1月8日
肩書き:勇者
身長:156cm
出身:香川県
趣味:特定の趣味は無し
好きな食べ物:うどん
好きな人:家族、まどか
外見、性格:叛逆世界 暁美ほむら(眼鏡)