ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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「あと少しで完成かな?」
「ここもうちょっと書き込も」
「よっし完成! 保存保存♪」
「うん? エラー?」
「……飛んだ…!」


 スキルptが5上がった
 体力が30減った
 根性が10下がった
 やる気が下がった
 「夜ふかし気味」になってしまった
 「なまけ癖」になってしまった


第五十一話 「指揮官」

『♪♩♬♪ ♪♩♬♪』

ビーーーッ ビーーーッ

 

 樹海化警報……およそ300年も昔のこの世界でも機能するのか確証はなかったが、それは杞憂に終わる。私のスマホから鳴り響くそれは、かつて何度も私達を命懸けの戦いに駆り立てた物と寸分違わず。違う世界を生きてきた私までもあの結界内部へと誘う、人の意を考えない神様らしい横暴な宣告だ。

 

 だが、今回だけは例外だ。違う世界を生きてきた私をも誘う……それは好都合に他ならない。

 

 瞬間、世界その物が静止した。静寂が支配する世界の中、けたたましい警報音だけが鳴り響く。他の雑音全てが取り除かれ、私と、この世界の勇者達だけが別の世界に跳ばされているかのようであった。

 

「来たか……みんな!!」

 

 慌ただしく動き出す、この世界の勇者達。それをまとめ上げるリーダーの彼女、乃木若葉。間違いなくこの人が乃木さんの御先祖様とやらで、大赦の礎を築いたらしい初代勇者張本人だろう。何やら堅物そうな印象で、とても彼女の先祖とは思えないほど性格に差がありそうだ。尤も300年も空いていれば、先祖子孫の性格の違いなんて関係無いだろうけど。

 

 ……にしても、彼女達の先祖に会えるとは……別に会いたいと思った事は無いけど。それでもまさか、彩羽さんと羽衣ちゃんの先祖が……高嶋友奈、世の中は分からない事だらけだ。

 私の知る結城友奈と名前が一緒だというのは彩羽さんから聞いていた。元々この高嶋友奈があの子の名前の元であると……。だけど誰がどう見ても見間違えるレベルで顔や声まで似ているなんて、それこそ友奈の先祖なのでは……? 実は友奈と彩羽さん達って親族だったり……。

 

 それに……鹿目まどか、眼鏡バージョンのメガほむもいるなんて……。

 私や彩羽さん羽衣ちゃんの例があるとはいえ、こんな所で勇者や巫女として遭遇するって……まどかは兎も角としてメガほむは何なの、他人なの? 私達も先祖子孫の関係なの?

 深い事情もあってか鹿目家に養子になっているみたいだし、正直ものすごく気になるわ……状況がこんなのでなければ。

 

「各々の神器は持っているな!?」

「っ、はい…!」

「大丈夫!」

「まずっ……! タマの旋刃盤ロッカーの中だ!」

「急げ!」

 

 乃木若葉が指示を出しているが、その表情は多少の動揺こそあれど恐怖に怯えてなどいない。むしろ、読み取れる僅かな動揺すらも徐々に霞み、決意に満ちた眼光が鋭くなる。

 

 背負っているものがある。彼女の強い瞳から、私はそう感じ取れた。幾度もなく見てきた、感じてきた、勇者部(みんな)と似ている想いが伝わる。

 それに胸がざわめく。その感覚はどうしてもみんなの姿を思い浮かべてしまい、私の心を駆り立て強く締め付ける。胸が苦しくなり、浮かび上がるみんなの表情が曇るとより痛くなる。

 

 ……この時代に跳ばされてから、欠片もみんなの事を考えなかった時なんて一度もない。

 みんなが無事にあの戦いを乗り越えられたのかどうかすら知らない。満開をした彼女達が無事でいるのかどうかも解らず終い。

 

 私の無事だって、きっとみんなは知らないままだ……。

 

 

 

「ねぇ、これってバーテックス……? ……みーちゃん? みーちゃん!? って、まどかさんと上里さんも……!? 何コレ固まってるわよ!?」

「……大丈夫よ、白鳥さん。これは私達勇者以外の時間が止まっているだけ。神による人類を守る手段の前触れよ」

「そうなの?」

 

 諏訪では樹海化なんて起きず、白鳥さんはひたすら結界を守り続けていたから飲み込めていないのだろう。でも藤森さんと確か上里ひなた……それから、鹿目まどか……巫女達は凍りついているかのように動かない。

 さっきまで話していた人達が樹海化を知らないまま、唐突にそうなってしまえば、驚き戸惑うのも無理はない。私達が初めて樹海化を経験した時だって…………変ね、思い出せない。いいえ、思い出したくない? なにやら思い出せば死にたくなるような気が………。

 

「………部外者のくせに、随分と詳しいじゃない」

「……私の所でも似たような処置がされていただけ。いちいち突っかからないで」

「……ふん。高嶋さんと同じ名前と容姿の友達がいる……なんて、嘘丸見えのくだらない詭弁を垂れる不審者を警戒して何が悪いのかしら?」

 

 ………さっきからネチネチネチネチと……。この陰気臭い女は本当に勇者なのか、甚だ疑問だわ。

 他の勇者は「郡」や「ぐんちゃん」と呼んでいたかしら。少なくともこの勇者は、白鳥さんや乃木若葉達他の勇者とはどこか違うものを見ている気がする。

 

 まぁ、それは私も同じね。今の私は迫り来る敵ではなく、みんなの事しか考えていない。それ以外の事なんてどうでもいい。他人にどう思われようとも痛くもないし、知ったことじゃない。警戒するのもどうぞご自由に。

 

「ぐんちゃん仲良くだって……わあっ!? なにアレ!?」

「これが樹海化か……うっ…!」

 

 陰湿な勇者がそっぽを向くと、外の空は裂け、世界が幻想的な極彩色の光に包み込まれようとしていた。眩いその光に慣れていない彼女達は反射的に目を閉じずにはいられない。

 すぐにスマホを取り出し変身する。私は世界が神樹の結界に姿を変えるこの瞬間を待ち望んでいた。この時のために、神樹の結界に入るために、諏訪から四国に向かうことを決めたのだから。だけど………

 

 

 

 

 私は戦わない。みんなの元に帰らないといけないから。

 

「白鳥さん、あとは頑張って」

 

 この世界で出会った彼女に呟くのは別れの言葉。同じ世界(とき)を生きていれば、みんなに負けず劣らない素敵な友達になれていたであろう白鳥さんに……元の世界に帰る私はもう、彼女の期待に何も応えないのだから。

 

 この言葉が彼女に届いたかどうかは分からない。多分聞こえていないでしょうね……。

 私は白鳥さんの返す言葉を聞く前に、閃光が世界を完全に包み込んだ瞬間に、左腕の盾を回してその場から跳び去った。

 

 

◇◇◇◇

 

 その時が訪れるのを私達は覚悟していた。この手で破壊者に反逆し、世界に真の安寧を取り戻す。それが私達勇者の役目であり、普通の中学生のような生活を棄ててまで過ごしてきた日々も訓練も、人類の矛となるこの瞬間のために積み重ねてきた。

 

「うわぁーー! 樹海化ってこういう風になるんだ!」

「ワーオ……なんてカラフルな光景なの! というか樹海化って……誰か説明プリーズ!」

「神樹様の霊力によって作られる、対バーテックス用の最終防御結界だ。私自身こうして直接見るのは初めてだがな」

 

 私達の眼前に広がる色鮮やかな木々や蔓で形成されている世界。空も今の時間帯に不相応な濃色だ。事前にこのように世界が姿を変える事を知らされていなければ、戸惑うことは当たり前だっただろう。現に今日四国に来たばかりの白鳥さんは分かり易く驚愕している。

 

「ふぃ~。間に合った~!」

「土居さん、神器は肌身離さず持っていないと……」

「いやぁ、焦った焦った。もし旋刃盤が手元に無ければ戦えないもんな!」

「………」

「……伊予島さん?」

「心配すんなって、あんず! バーテックスなんざこのタマにとっちゃ、ちょちょいのちょいだからな!」

 

 他のみんなの声も聞こえる。滞りなく、大社から伝えられた通り事が動いているようだ。

 

 今私達が立っているこの場所は、先程まで私達が自己紹介を交わしていた丸亀城の教室に非ず。座標となれば同じ地点なのだろうが、地面や建造物に張り巡らされている樹木や蔓で大きく変貌を遂げ、唯一分かりそうであった地形でその場を判断するのも難しい。

 そして、この世界に存在できるのは私達勇者だけとなる。敵の侵攻を勇者がこの結界内で迎え撃つためが一つ。現実の世界での被害を抑えるためがもう一つだ。

 

 故に先程まで私達と一緒だった、ひなた、まどか、藤森さんの三人、巫女である彼女達はこの場にはいない。勇者が八人……それがこの世界にいる人間の数。

 

「みんな揃っているな?」

「ええっと……ぐんちゃん、私、若葉ちゃん、歌野ちゃん、ホムちゃん、アンちゃん、タマちゃん………あれ? あれれ!? ほむらちゃんがいないよ!?」

「ほむらならそこに……あぁ、暁美さんの方か………なんだと!?」

 

 予想外極まりない友奈の言葉に慌てて周囲を確認する。それで見えたのは、私と同じ様な行動を起こす仲間達の姿であった。友奈も白鳥さんもほむらも土居も伊予島も、そして郡さんまでもが残った一人の勇者の姿を探していた。

 

 ここにいるのは私達七人。白鳥さんや藤森さん、諏訪の人達と共に来た北海道の勇者、暁美ほむらの姿はどこにもなかった。

 

「……あの人は樹海に来ていないのでしょうか……?」

「ええっ!? 何だよソレ! 新しく仲間になった意味が無いじゃないかーー!」

「そんなぁ……彼女とっても強かったのよ……」

 

 ぐぅ……! なんということだ……まさか勇者が樹海に現れないなんて、ここに来てそんな原因不明のトラブルに見舞われようとは……!

 彼女だって、樹海化直前の世界の硬直には巻き込まれてなかったはずだ。にも関わらず、尚且つ私達全員が同じ場所にいて、暁美さんだけが樹海にいないとは……神樹様のミスか何かなのか!?

 

「……どうでもいいでしょ。あんな不審者の力を借りなくても、自分の力だけで十分よ」

「……ですが……!」

 

 元々暁美さんを受け入れていなかった郡さんが冷めきった言葉を言い放つ。確かに暁美さんがこの場にいないのは事実なため、我々が何に焦ろうとも嘆こうとも、原因が分からなければそれは対処の仕様がないためどうしようもない。

 だが、前々から気になっていたが、郡さんは我々仲間達を信用しようとしてくれないのだ! 唯一友奈だけには心を許してはいるが、それ以外には誰であろうとも無頓着! 暁美さんがこの場にいない事を割り切るのならまだしも、これでもかと仲間を疑い続ける彼女に物申したい気持ちであった。

 

「……もしかして、あの人一人だけが私達とは違う別の地点に跳ばされた……なんてことは……」

 

 そこにほむらが別の視点からの考えを口にする。その通りだと良いのだが、如何せん確信が持てない。

 

「………いや待て……そうだマップだ!」

 

 我々の携帯にインストールされている勇者アプリ。それには瞬時に勇者に変身できる機能に加え、勇者や敵の位置をマップに表示する物がある。

 すぐに携帯を取り出し、アプリ起動し画面にマップを表示させる。中央に私達七人を示すアイコンと名前。その前方には数多くの赤い小さなアイコン。「星屑」と呼ばれる小さなバーテックスの群だ。

 

「っ、あったぞ!」

 

 私達の後ろ側を位置する地点、そこに一つだけ別のアイコンが動いていた。「暁美ほむら」と正しく名前も表示され、彼女も無事樹海に来ていた事が判明した。

 

 ホッと一息つき……しかし、新たな問題点が浮上した。

 

「これは……」

「おいおいっ! アイツどこに行こうとしてるんだ!?」

 

 同じくマップを見ていた土居も気づいたようだ。暁美さんはマップのアイコンから見るに、明らかに移動している。だがその進行方向は私達やバーテックスがいる方向とは真逆の方に向かっていた。

 そちらは私達が守るべきこの世界の神、神樹様しかない。勇者の役割はバーテックスから神樹様を守ることであり、前線で敵を食い止め戦う事が当たり前なのだ。神樹様の目の前まで追い込まれてしまったのならまだしも、最初から戦わずして後方に向かうなど愚策としか言い様がない。

 

「連れ戻すぞ!」

「敵が今にも攻めてきそうなこのタイミングで? 馬鹿言わないで。あんなのは放っておけばいいのよ」

 

 身体を反転するも、背中にぶつけられた言葉に足が止まる。郡さんが心底呆れたように私を一瞥し、今の私の行動が軽率だと言うかのように、続けざまに言葉を紡ぐ。

 

「戦わない勇者がいた所で、それを気にして戦力を削ごうなんて、それこそ愚か者よ。足手まといは最初から必要無いわ」

「しかし……! 世界の危機だからこそ、勇者みんなで協力して迅速に敵を打ち倒さなければ……!」

「そこにもう一人、戦えそうにない人がいるというのに?」

「……っ!」

 

 その言葉に伊予島がビクッと反応する。伊予島は樹海に来てからはどこか不安気だった。表情も若干恐怖に滲んでおり、俯きながら僅かに肩を震わせている。命懸けの戦い故に怖いというのも頷けるが、郡さんの言い方はまるで伊予島も責めているかのように取れてしまう。

 

「敵前逃亡するわ、戦う前から怖がっているわでチームワーク以前の問題じゃない。勇者としての自覚が足りないんじゃないかしら。よく周りがそんな体たらくで世界の危機がどうのこうの……」

「郡さん、言い過ぎです」

 

 言葉を遮ると、郡さんはどうでも良さそうに顔を背ける。だが確かに今の伊予島の状態のままでは、彼女はバーテックスと戦えるとは考えにくい。もっと強い心を持ってもらわなければ、戦いの中、いざという時に取り返しのつかない事態に陥る危険性だってあるのだから。

 

「伊予島。怖いのは判るが、今私達は前を向いて戦わなければならないんだ。気をしっかり保たなければ、怪我では済まない目に遭う可能性だってあるんだぞ」

「ひっ……! ご…ごめんなさ……」

「の、乃木さん……! その言い方は余計怖がらせるだけです……!」

「え…?」

 

 ほむらの少し焦ってるような、批判するような声で気づく。伊予島は私の説得に顔を上げるどころか、涙を潤ませて、もっと俯いてしまっていた。

 

「おい若葉、千景! 怖がったってしょうがないだろ! あんずもタマ達も、みんなまだ中学生なんだ! 無理強いするなよ!」

 

 ……っ! やって…しまった……。リーダーという立場でありながら仲間達の心境を推し量れぬとは、私の言動が軽率であったことに他ならない。勇者だからとその使命を押し付け、人間にとって大事な意志というものを強制するなど、私の方こそ周りを、仲間を見ていないではないか……。

 

「……兵の士気高揚も指揮官の努めだったわね……乃木さん……場をまとめ上げて役割を成すどころか悪化させて……果たしてあなたにリーダーとしての資質は足りているのかしら?」

「…………」

 

 返す言葉が見つからない。第一、これが初めてではないのだ。過去にも自分の考えを仲間に押し付け場の空気を悪くしてしまった事もあった。

 人類を滅亡寸前に追いやった敵との戦いに不安を抱いて当然なのだ。それを分かっていながら一丁前にリーダーぶって、自分勝手にまとめ上げる。そんな様で自分がリーダーであると胸を張れるわけがない……。

 

「はーいみんな、そこまで! 仲間内で喧嘩はノーよ」

「仲良しはいいけど、話し合いは後にしよっ!」

「「「仲良し?」」」

 

 私達の重苦しい空気を、二人の明るく活発な声が押し退ける。戦前だというのに普段通りに振る舞う白鳥さんと友奈に対し、私達は逆に呆気に取られてしまう。

 

「喧嘩するほど仲がいいって…」

「「「違う!!」」」

「ええっ!?」

「……あの、高嶋さん……私も違うと思います…」

「……同感です…」

「ホムちゃんとアンちゃんまで!?」

「まぁ、ベクトルは違うわね」

「歌野ちゃんも!!? ガーン!!」

 

 友奈、反撃からの追い打ちに加え裏切りに遭い大ダメージ。それでもよろめきながらも立ち直り、気を取り直して言うのであった。

 

「でも、喧嘩の原因を作ったバーテックスがそこまで来てるんだよ。友達相手に怒ったり喧嘩したりするよりも、バーテックスに怒る方が正しいよ」

「!」

「ザッツライト。友達がお互い傷つけ合ってちゃ、私達を応援してくれるみーちゃんやまどかさん、上里さんが悲しんじゃう。それよりも私達を仲違いさせようとするバーテックスにお仕置きする方が断然ベターよ」

 

 二人の言葉にハッとし、目から鱗が落ちるようであった。ここで自分の役不足を後悔し、ズルズルと引き摺るのは間違いだ。情けない姿を晒すのでもなく、負の感情を背負ったままうなだれるのでもない。

 

「そう…だな」

「……高嶋さんの言う通り…ね…」

「……ですね……また悲しませちゃ、だめです」

 

 土居、郡さん、ほむらも気まずそうに顔を見合わせる。彼女達も私と同じで気づけたようだ。不満も苛立ちも仲間に抱くものではない。それを向ける相手は他にいる。

 

 前を向かねばらなぬのだ。勇ましく、誰もが不安に陥らぬよう立つ……リーダーとして。

 

「みっともないリーダーですまない、みんな。だが、目は覚めた」

「タマも悪かったよ。気合い入れて頑張るから許してくれよな」

 

 さっきまでの嫌な空気はもう漂わない。仲直りした土居と互いの顔を見てクスリと笑い合い、友奈に白鳥さん、ほむらも安堵するよう笑みがこぼれている。

 郡さんは微笑みこそしていないが、鋭かった視線は今や気まずさを感じない。どこか穏やかに思えるほど落ち着いていた。

 

 だが、伊予島はまだ怯えている。流れが変わったとはいえ、いきなり恐怖心を抑え込むのは難しいのだ。

 しかしそれを強制するのでは駄目だ。仲間が戦えないのなら、その分私が補って戦えばいい。

 

 覚悟を新たに、他の者も携帯を取り出しアプリを起動する。

 

「変身だ。征くぞ!」

 

 号令を合図に、私達の身体は淡い光に包まれる。それと共に服装も神秘的な意匠を凝らした物へと変化し、力が漲り溢れ出す。

 

 戦装束は花をモチーフとする。四国に来たまま初めから戦装束を纏っていた白鳥さんは、金糸梅を思わせる黄色だ。

 

 私は桔梗を思わせる青と白。

 

 友奈は山桜を思わせる桃色。

 

 ほむらは時計草を思わせる白と紫。

 

 郡さんは彼岸花を思わせる紅。

 

 土居は姫百合を思わせる橙色。

 

 それぞれの花の花弁が光となって舞い散り、神の力を宿した勇者達が樹海へと現れる。

 

「ワオ! やっぱり便利なのね。勇者アプリって……あら?」

 

 だがその数は今この場にいる七人よりも少ない……六人だ。伊予島だけが変身できておらず、戦装束を纏っていないのだ。

 

「……ご、ごめんなさい……やっぱり、怖くて……」

 

 勇者に変身するためにはその者の精神状態が大きく左右される。その覚悟と意志を持たぬ者にはそう容易く扱える物ではなく、伊予島の今の精神状況では適合に失敗してしまったのだ。

 

「心配すんなあんず。タマ達が全部やっつけてやるからな!」

「土居の言う通りだ。焦らなくても良い。その分私が背負おう」

 

 伊予島には伊予島のペースがある。彼女がこの大きな壁を乗り越えられるかどうかは彼女次第だが、私達はそれを成し遂げられると信じるのみ。

 

「白鳥さん」

「ん?」

「もう一度確認だが、本当に怪我は大丈夫なんだな?」

「……まぁ、無理すれば痛むし悪化しちゃうけど……でも戦えないって訳じゃないわ。ドントウォーリーよ」

「そうか……白鳥さん、今まで藤森さんと二人だけに戦わせて悪かった。漸くだ……漸く、私達もお前達の隣で戦える」

「……うん。私だって、この時が来るのをずっと待ってたわ」

「無理はするな。存分に頼れ。あの様な思いをするなど、私も、まどかも、他のみんなも、二度と御免だ」

 

 これは私達四国の勇者にとって初めての戦だ。我々が戦いに備える長い間、白鳥さんは諏訪でずっと戦い続け、何度も傷ついてきた。こうして合流を果たし、彼女達の隣で戦い守る事を、どれほど待ちわびてきただろうか。

 ここで不甲斐ない戦いをすれば、今までの白鳥さん藤森さんの努力を踏みにじるのと同義だ。白鳥さん達のような強き勇者であると胸を張って誇れるようになるために……そして、あの時のような苦しい思いをしないため、させないために。

 

「……ええ。遠慮なく頼らせてもらうわ。だけどね乃木さん、何も私はみんなのお荷物になるためにここに来たんじゃ無いの。みーちゃんと一緒に夢を叶えるため、諏訪のみんなと土地神様との約束を果たすため、あなた達の期待に応えるため……全身全霊で行かせてもらうわ!」

「ふっ……白鳥さんらしい答えだ」

 

 一度は諦めた……諏訪は滅んだものだと、生存は絶望的であると。勇者であること、まどかやみんなの手前できなかったが、本当は泣きたくて仕方がなかった。

 バーテックスと避けようのない残酷な運命を心から憎悪し……奇跡が起こったと知った時、今までに無いほど歓喜に打ち震えた。

 それが彼女達が来た瀬戸大橋では珍しくもなく、まどかも諏訪の全ての人々も同じ様に喜び合い、喜びの涙を堪える人もどこにもない。あのような幸せな光景を最高の気持ちで眺められるなど感無量……そして誓ったのだ。もう悲しみに暮れる人々を増やすわけにはいかない……守り抜くのだ。人々も、掛け替えのない友も、何もかも……。

 

「郡さん、さっきは生意気な事を言ってすみませんでした。言葉ではなく、行動で示します」

 

 強く地面を蹴って前方に大きく跳躍する。勇者の脚力を以てすれば、その一歩で私達とバーテックスまでの距離を僅か数十メートルにまで詰め、敵は一斉に前に出た私に殺到する。

 

 無惨に命を奪う大きな口を開いて私を葬り去ろうと……私達の大切なものを奪い尽くしたその姿を晒し出す。

 

 落ち着け。気を鎮まらせろ。私達が対峙するのは人を喰らう異形の化け物だ。冷静に……それでいて魂を熱く滾らせろ。

 私達が負けることは許されない。亡き人々の無念を晴らし、奴らに報いを受けさせる。研ぎ澄ました反逆の刃を解き放つ……その事だけを考えろ!

 

「うおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 先頭のバーテックスが私に食らいつく瞬間、鞘から解き放たれた刃の一閃がそれを両断する。その後ろのバーテックスも瞬時に斬り裂き、回り込んで噛み付こうとする別個体の攻撃も、それより速く斬りつけ真っ二つにする。

 

 これからが私達人間の反撃だ。忌々しい敵に宣言するように……仲間達を鼓舞するように、雄々しく叫ぶ。

 

「勇者達よ!! 私に続け!!」

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