ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
戦いの幕が開ける。先陣を切った勇者、乃木若葉の魂をも震わせる叫びが樹海に木霊し、それは彼女の後方に立つ勇者達にも届いていた。
「……っ」
「へっ! 若葉の奴、気合い十分だな!」
「……す…すごい……若葉さん……」
先頭に立つ者として、勇者として、若葉は果敢にも異形の化け物『バーテックス』に立ち向かう。かつて多くの多くの人々の命を理不尽に奪い尽くしてきた化け物の群に、若葉は刀を振り下ろしその体を断ち斬っていく。
その姿を見た勇者達の中では様々な想いが駆け巡っていた。例えばそれは仲間の勇姿に血を滾らせる者、自らと彼女を比較する者、眼前に広がる戦場の光景に戦慄する者……。
「よーし、若葉ちゃん! 私も行くよー!」
「乃木さんに負けてられないわ! 農業王のニューストーリーの幕開けよ!」
そして若葉に次いで飛び出した二人の勇者、高嶋友奈と白鳥歌野。親愛なる友の姿に触発された彼女達は恐れという感情を抱くよりも、信じられる存在と共に世界を守り抜くことに確かな喜びを抱く。
戦場に躍り出た二人は打ち合わせをしたわけでもなく、それぞれが同時に左右に散って目の前の敵と対峙する。
「せいやっ!」
「スマッシュ!」
数体の白い化け物が大きな口を開き喰らい付こうとするも、友奈は疾風のような速度でありながらも岩のように重い拳を放ち化け物を打ち抜く。歌野は瞬時に縦横無尽に鞭を走らせ、襲いかかる化け物を次々に打ち倒していく。
「やるなぁアイツら!」
「土居さん! 郡さん!」
「おう! 待ってろよあんず。タマ達がすぐ終わらせてやるからな」
残った勇者達も続く。唯一無二の存在を何があろうとも守り抜く……決して断ち切れることの無い決意を胸に抱いた二人の勇者、土居球子と鹿目ほむら。
鹿目ほむらが前、その後ろを球子が位置取り樹海を駆ける。二人の武器の特徴上ほむらは接近戦を主とし、球子は遠距離の敵にも対処できる故に彼女は前を譲った。それが得策であるものの、球子はほむらが表情を強ばらせ両手で武器の杖をより強く握り締めているのに気がついた。
「援護、お願いします…!」
「ほむら、お前……」
「…………っ」
「……ああ、タマに任せタマえ!」
ほむらの本来の両親は3年前、彼女の目の前で殺された。今現在対峙している白い化け物、バーテックスに食い散らかされた。つい直前までは肉親だったものの身体から咀嚼する度に響いた骨が砕ける音、辺りに飛び散る臓物混じりの赤黒い血、パニックに陥った周囲の人間達の阿鼻叫喚……その時の悍ましい記憶が鮮明に蘇り、再び彼女を耐え難い恐怖が襲いかかっていた。
「……ふざけないで……!」
それでも、忌むべき恐怖の権化との距離が刻一刻と迫る中、ほむらの足取りは落ちるどころか勢いを増す。恐ろしいからこそ、ほむらは挫けるわけにはいかなかった。かつて自分が味わった絶望の怖さを忘れられないからこそ、ほむらは勇者として戦いの道を選んだのだ。
「これ以上……誰も…悲しませない……!」
あの様な絶望を未来永劫閉ざすために。金輪際誰にも自身のような苦痛を味わわせないために。独りだった自分を導いてくれた……最愛の家族の笑顔を守るために。
「惨劇の運命は、覆す!」
地面をより強く蹴って一気に加速する。弾丸のように前に飛び出した彼女は勢いそのまま、憎き化け物の体に強烈な杖の打撃をめり込ませる。その衝撃は直撃を受けたバーテックスの全身を巡り、多くの人々の命を食い散らかした歯が粉々に砕け散る。振り払われた杖に弾き飛ばされたバーテックスは致命傷を負い跡形もなく消滅する。
その杖に宿りし霊力の名は『
魔を討ち返し、生きとし生けるものに平穏安寧を作り出す輝きを秘める。
「やああああああああっ!!」
仇一体を倒すも、彼女の中の炎は消えはしない。一歩前に踏み込むと杖を振り上げ二体目の顎を殴り抜ける。真上へと敵を吹き飛ばし、次は彼女の周囲を取り囲もうとするもう二体の別個体へと、身体を回転しながら遠心力を加えたスイングでそれぞれを殴り飛ばす。
「っ、させるかくらえッ!」
回転攻撃で生じた隙を狙い、群の先頭のバーテックスがほむらに喰らい付こうと接近する。だがそれを彼女の背後で察知した球子が回転する刃、旋刃盤を投擲し逆に切り刻む。
球子の攻撃で切断されたバーテックスが落下。地面に落ちるタイミングを狙い、ほむらはその肉片を杖で打ち上げるようにスイングをかまし、群の他のバーテックスに叩きつけ無事な個体諸共吹き飛ばした。
「よっしゃあっ! ナイスショット!」
「ゴルフじゃないんですってば……」
「え? だってその武器ゴルフクラブだろ? チャーシューメーンってやつ」
「どこの世界にゴルフクラブで化け物と戦う人がいるんですか……」
「まあ何でもいいか! 次行くぞ次!」
倒したところで樹海に侵入したバーテックスはまだまだ残っている。新たな一群が殺意を剥き出しにしながら襲いかかり、ほむらが正面から迎え撃ち、球子が旋刃盤で後ろから援護する。
現状ほむらと球子はバーテックス相手に優位に立てている。それは最前線でバーテックスを相手する若葉、歌野、友奈の三人の活躍が大きい。大抵のバーテックスはリーダーとしてと己の信念に燃えている若葉、それに負けない勢いで怒涛の攻撃を放つ友奈、3年間敵と戦い続けた経験に加え、共に戦う仲間を得て精神的にも絶好調となった歌野の三人に倒される。樹海中に蔓延るバーテックスと言えども、この三人の勇者を突破できるものは半分にも満たない。そうして突破できたものも、ほむらと球子の隙を見せない連携プレーを前に倒されていった。
「タマっち先輩……!」
「なんだ、結構楽勝だな!」
旋刃盤でバーテックスを切り裂きながら球子が満足気に呟く。ふと球子の妹分である杏の声が聞こえた気がし、この調子なら彼女を守り通せる……そう考えながら視界に入ったバーテックスへと旋刃盤を投げつけた。
だが、それが気のせいではなく、球子に迫る危機を伝えるべく発せられた声であった事に気づけなかった。
「っ!? 土居さん危ない!!」
「え…」
順調だったがために彼女達はバーテックスの奇襲に反応が遅れていた。ほむらと球子に倒されるバーテックスを囮にしつつ、死角から大きく回り込んで球子の背後に回り込んだバーテックスが、今まさに球子に食らいつこうと迫っていた。
球子も一度放った旋刃盤を手元に戻すための時間も無く、武器がない今反撃の手段も無い。突如訪れた絶体絶命の窮地に球子の身体は硬直してしまう。
「やらせない…!!」
杏の声に無意識に反応していたほむらが球子に視線を向けた時、瞬時に事態を把握していた彼女は身体を反転して飛び出していた。それはバーテックスに対する恐怖から……共に切磋琢磨し訓練ばかりの日々を送ってきた友達を失いたくなかったから。
「はあああああっ!!!」
バーテックスが球子の頭にかぶりつく直前、猛スピードで飛び出したほむらが振り下ろした杖がその歯に炸裂し口内を殴り抜ける。そのまま勢いに任せて宙で一回転を加えて下顎体を抉り、全身全霊の一撃による衝撃はバーテックスを地面に叩きつけた。
「あ………あうぅぁっ!!」
ただほむらは球子の窮地を救う事だけを考えており、その後の事は完全に失念していた。火事場の馬鹿力と思える勢いのまま飛び出しバーテックスを仕留めたことは良いが、受け身をまったく取れていなかった。ほむらは激しく落下し、殺しきれなかったスピードに耐えきれず派手に転がってしまう。
「ほ、ほむら! スマン、大丈夫か!?」
「い、いたたた……ぅう………なんとか……」
すぐさま球子は倒れたほむらの元へ駆けつける。傍目から見れば打撲は当然。最悪骨折の可能性もあり得る程の勢いであったが、ほむらは痛みに呻きこそしたものの無事であった。神の力をその身に宿す勇者にとって、この程度の転倒では精々軽い擦り傷程度で済んでいた。
差し出された球子の手を取って起き上がるほむら。しかし一難去ってまた一難……これまで二人で制圧できていたバーテックスがこの機を狙い取り囲む。
二人が武器を構え直すも、バーテックスは四方八方から同時に襲いかかる。囲まれて退路を断たれた今、攻撃を避ける事もままならず、目の前のを迎撃しようにも他の個体に襲われてしまえば意味を成さない。
ほむらと球子の表情に苦渋の色が滲み……次の瞬間、上空から彼女達を取り囲むバーテックス目掛けて無数の矢が降り注ぐ。それらの矢はバーテックスに深々と突き刺さり、致命傷を負った個体は一斉に光の粒子となって消滅する。
思い掛けない救援に、二人は矢が放たれた方角に目を向ける。そこにいたのはクロスボウを手に取り、紫羅欄花を思わせる白い装束を身に纏った勇者……伊予島杏だった。
「あんず!?」
「タマっち先輩! ほむらさん! 今です!!」
「っ! うんっ!」
「うおっ、まだ生きてた! でもこれで……てりゃああああ!!!」
彼女達を取り囲んでいたバーテックスは杏の矢を受け殆どが地に伏している。悶え苦しんでいたバーテックスにほむらは止めの一撃を叩き込み、球子はダメージが浅かった残りの敵に向けて扇状に凪払うように旋刃盤を飛ばして一気に切り裂いた。
窮地に立たされたかと思いきや、勇者達は再度バーテックスの殲滅に成功する。ほむらと球子の元に杏が合流し、彼女の瞳にはまだ涙が滲んでいるものの、恐怖に震えてはいなかった。
「あんず、お前……」
「……変身……できちゃった……。タマっち先輩とほむらさんが危なくなって、私が助けなきゃって思って……そしたら……」
「伊予島さん……ありがとう。助かったよ」
「エヘヘ、タマは信じてたゾ! あんずはやればできるヤツだって! 最っ高だぞあんずぅ♪」
戦いが終わったわけではないが、球子は自分達が杏の振り絞った勇気に助けられた事実が嬉しくてはしゃいでしまう。守ろうと誓った存在に逆に守られたのは悔しいと思いながらも、それ以上に誇らしい気持ちに包まれる。
それに、球子の誓いは何があろうとも揺るがない。妹分が見せた勇気は彼女の魂に高らかに鬨の声を上げさせる。
「タマも前に出るから、あんずは援護してくれ!」
「うん!」
「お願いするね、伊予島さん。土居さん、お互いあまり心配かけない範囲で、頑張りましょう」
「だな。よーし、お前ら! タマに続けーーっ!!!」
「「言ったそばから! もうっ!」」
三人の勇者の心が一つになるも、遠慮が無くなった球子が真っ先に前に飛び出す。慌ててほむらも飛び出して併走し、杏もその後ろを近過ぎず離れ過ぎずの距離を保って走り出し、再び湧いて出てきたバーテックスを迎え撃つ。
杖で殴られ凹み飛ばされるバーテックス。旋刃盤で両断されるバーテックス、クロスボウで全身の至る所を貫かれるバーテックス。そして遠方でも鮮やかな剣技や巧みな鞭使いで敵を葬る勇者達の姿がある。
一人の紅の勇者が崖の上からその光景を眺めていた。彼女は杏が球子達の危機に飛び出すまで……否、それよりも前、無数のバーテックスが他の勇者達と交戦を始めてからずっと、抑えきれない恐怖心の宿った目で戦場を見渡していた。
「伊予島さんも…戦えてるのに……変身すら…できてなかったのに……私だけ……」
郡千景……開戦の前には誰よりも冷徹に戦える者を見極めていた彼女自身、ただ一人動けずにいた。
そもそもその冷徹としか捉えられない態度も、本当は彼女の恐怖心の反動によるもの。彼女だけが三年前にバーテックス遭遇しなかった勇者であり、敵の存在や姿こそ大社の入手した映像で知っていたものの、その恐ろしさだけは身に滲みていなかった。
「ぅ……ぁあ……」
故にこの場で彼女が感じていたのは全く未知の恐怖。初めて肌に突き刺さる化け物共の威圧感……千景の本能が命の危機を知らせる信号を最大限に発し、身体の震えは少したりとも収まる様子はない。
何故、他の勇者達が戦えるのかわけが分からない。怖くはないのか……既に三年間も戦い続けている歌野、物事を深く考えようとしない単細胞の球子、生真面目で堅物で天然で馬鹿正直で頑固野武士の若葉ならまだしも……。
だけど杏は自分よりも怯え震えていたではないか……。ほむらは目の前で両親を殺され、誰よりもバーテックスの恐ろしさを理解しているはずではなかったのか……。
千景を襲うのはバーテックスに非ず、寧ろ自分自身。千景は彼女達の中で一番年上であるにも関わらず、諏訪の人々の命を救ったとされる戦場に居ない謎の勇者含め、年下の誰よりも世界の守護に貢献できていない。
かと言って恐怖で固まった身体は動くこともできず、ただひたすらに焦り、悔しさ、疎外感が募る一方だった。
「ぐんちゃん!」
「高嶋…さん……?」
千景が塞ぎ込む中、そこに友奈が跳んでやってくる。若葉と歌野と共に最前線で敵を引き付けていた彼女は、遠くに見えた親友の様子がどこかおかしい事に気づいて二人にその場を任せて戻ってきたのだった。
「どうかしたの? 大丈夫、ぐんちゃん?」
その身体にはバーテックスとの戦いで付いた擦り傷がいくつも……。にも関わらず、友奈は自分の怪我を気にする素振りを見せず、真っ先に千景を気遣うのであった。
特に酷くない怪我だとしても、それは命懸けの戦いで負った負傷だ。友奈の傷は更に千景の心を曇らせる。戦いの使命から目を背け続ける千景は親友にも責められるのではないかと内心恐れ、彼女から目を背けて謝罪の言葉をこぼしてしまう。
「……ごめん…なさい……戦うの…怖くて……あんなに偉そうなこと…言ったのに………私だけ……!」
「そんな顔しないで、ぐんちゃん」
「えっ…」
「大丈夫! 私が側にいるから」
友奈は満面の笑みで千景の手を取った。千景の心を包み込む暗い感情を照らそうとしてなのか、友奈は彼女が思っていたような責めるような言動はしなかった……そもそも、そんな友達を悲しませる考えなど欠片も思ってもない。
「一緒に行こう、ぐんちゃん!」
「きゃあっ!? た、高嶋さん!?」
友奈は千景の手をしっかりと握ったまま、再び戦場に飛び出した。突然の友奈の行動に驚きながらも、千景の手には友奈の心地良い温もりがあった。彼女の言う通り、千景のすぐ側には友奈がいる。そして彼女は何時如何なる時でも離れない、ずっと一緒であると、千景に優しく語りかけるよう微笑みを浮かべる。
「ぐんちゃんならできる! 私達はバーテックスなんかに負けたりしないよ」
二人の姿を認識し、襲いかかるバーテックス。千景と手を繋いでいる方とは反対の方の手を握り締め、放つ。
その一撃を受けたバーテックスの体は弾け、絶命する。懲りず他のバーテックスが二人を狙い迫り来るも、敵の呆気ない幕切れと友奈の心強さに千景の心は揺れ動いていた。
「ぐんちゃんだってとっても強いんだよ。私はいつでもそれを信じてるから、ぐんちゃんも自分の力を信じて!!」
自分の力を信じて……誰よりも千景の事を想う友奈の言葉に報いたい。千景はどんな時でも友奈の言葉に間違いはないと確信しており、怯えていたはずの心の中で一つの意志が芽吹き出す。
友奈が側にいてくれるのならば、バーテックスなど恐ろしくもない。友奈が千景ならできると断言するのならば……。
人間の背丈ほどのサイズの大鎌が振り下ろされ、バーテックスは自身が斬られたことに気づく間もなく両断され、絶命する。
「……できた……?」
「すごいよ! 流石ぐんちゃん!」
バーテックスを斬り裂いた瞬間、大鎌を持つ彼女の手には紛れもない感触が……自らの手で容易く、人々を蹂躙した化け物を倒した手応えを感じ取っていた。
それに加えて千景の成果を自分の事以上に喜び褒め称える友奈。千景の心はバーテックスへの恐怖心ではなく、筆舌に尽くし難い爽快感と確固たる自信に包まれた。
「次、来るよ!」
「ええ!」
バーテックスの再来……しかし千景には欠片の動揺も無く、友奈が手を離すと大きく鎌を振り払い、たった一振りで同時に二体を斬り裂いた。攻撃が届かなかった個体も、瞬時に反応した友奈が飛びかかり拳で打ち砕く。
自分の力だけでも余裕で三体。そして友奈が側にいてくれるのならばまさに無敵。バーテックスは自分達に刈られるだけの存在であり、恐れる必要は何も無かったのだと確信する。
(……私……バーテックスより強いのに……あんなに怯えて……!)
同時に屈辱であったと怒りが湧いてくる。その感情をぶつけるべく、他の仕留めるべきバーテックスを見つけようと辺りを見渡し……。
敵が最も集中する最前線、その圧倒的な数は他の勇者が何の策を持っていなければ戦意を削られかねないほど悍ましく、勝てると言い切る者はいないだろう。
「どうした!? そんなものかバーテックス!! 人類の力を舐めるなァ!!!」
「おかしいわね!! あんた達ってこんなにウィークだったかしら!? 今更謝ってももう遅いわよ!!」
だが現実は違った。本来蹂躙する側のバーテックスは絶え間なく倒され続けていた。二人の勇者、乃木若葉と白鳥歌野が背中合わせで無数のバーテックス相手に無双していた。
鍛え抜かれた若葉の居合い斬りは瞬時に敵を両断し、バーテックスは食らいつこうと口を開く前に散っていく。他の個体の犠牲に隠れて奇襲するバーテックスも最小限の動きで躱し、次の瞬間にはその胴体は切り離される。
歌野の鞭も縦横無尽に泳ぐように飛び回るバーテックスを寸分違わず打ち据える。怪我人とは思えないほど活力に満ちており、本来鞭の特徴から仲間が近くにいる場合の扱いは極めて至難の業であるにもかかわらず、針の穴を通すような精密さで鞭が稲妻の如き勢いで走る。歌野と若葉には決して掠りもせず、彼女達の身体の隙間から神出鬼没に飛び出す鞭がバーテックスを叩く。
明らかに他の勇者達とは常識外れの力を発揮していた。激しい戦闘であるにも関わらず、一度たりとも敵に優位を譲らず圧倒する。
そして何よりも二人は……。
「ねえ乃木さん!」
「なんだ!?」
「前、私が言ったこと覚えてる!? 現実は想像よりベリーヘビー! って!」
「忘れるわけがない!! だがその時の言葉は英語ではなかったぞ!!」
「アハハハハ!! あれ言った時、確かに潰れちゃうんじゃないかってぐらいホントヘビーだったの!!」
二人は苛烈を極めた戦闘で、笑い合っている。
「でも今は違う……何て言うか、私だけじゃなくて乃木さんや暁美さん達がキャリーしてくれてるようなフィーリング!!」
「その通りだ!! もうこれからは自分一人だけに重圧を背負うことはない!! 共に笑い、共に生き、共に苦楽を乗り越えるんだ!!」
若葉の返した言葉に歌野の目にはうっすらと涙が滲む。その言葉をどれほど待ち望んできただろうか……今までは通信機越しで話すだけの、顔も知らない友達でしかなかった。どんなに直接会いたいと願っても決して叶わず、彼女達が共に戦ってくれるのならなんて心強いだろうかと……ただひたすらに夢を見るだけで……。
「白鳥さん……いや……」
「歌野。ありがとう……こんな世界の中で私に数え切れない希望を与えてくれた友よ。今度は私がお前達に報いる番だ」
「…っ! ……何…言ってるのよ……若葉……!」
数え切れないほどの希望を貰ったのは若葉だけじゃない。涙ぐみながらも歌野はありったけの感謝の想いと、これから共に未来へと歩む意を込めて、彼女の名前を呼ぶ。
「さあ! 敵を蹴散らすぞ、歌野!!」
「バックは任せて、若葉!!」
そして二人の快進撃はより勢いを増す。一瞬の内に迫り来るバーテックスは斬られ、逃れようとするものには鞭に打たれる。今の彼女達ならば言葉通りどんな敵にも負けはしないだろう。
「………」
「すごいね、若葉ちゃんと歌野ちゃん」
そんな彼女達を見て、千景は言葉を失っていた。バーテックスなんて…と自信を持った矢先、よりによって彼女が誰よりも嫌う人が自分の手の届かない所にいる気がして……。
その姿に………彼女は感情を抱く。自覚したものは千景の中に、僅かながら負の想いを募らせた。
勇者達の優位は動かぬまま、戦況は新たな段階へ。
彼女達の奮闘によりバーテックスは目に見えて数を減らし、勝利は目前へと近づいていく。そんな中、残ったバーテックスの内の何体かが一箇所に集まり出す。
白い蛭のような個体は形を変え、不気味な気配はより濃くなる。それを見た若葉は表情を強ばらせ、『進化』した敵を睨みつける。
3年前、若葉を敵前逃亡せざるを得なくした一段階上の強敵……それが樹海に現れる。
「進化体…!」
そしてその頃、一人の勇者が四国を守る土地神、神樹の前に立っていた。
突如遠く離れた甲信越地方に出現した、神樹の力を使いこなすイレギュラーな存在。
一度だけ神樹から膨大な力を引きずり出され、内部の神々が混乱する事態に発展するも、その時に捧げられた供物を通して彼女が敵側の存在ではなく、神樹の力を行使できる理由は判明していた。
故に、神樹はその時点で彼女の処遇を決めていた。例え彼女が望まなくとも……何せ、彼女は神樹に選ばれた勇者なのだから……。
「メガほむ」や「かなほむ」こと、鹿目ほむらの武器、「
これって別名「
天沼矛……原作「乃木若葉は勇者である」の終盤に出てたの完全に失念、というか天魔反戈の別名の別名がこれって調べるまで気づきませんでした……。
ただ一応、天逆鉾と天沼矛は位置付けや性質は異なっており、天の神側から神樹側へと移った神々もいることから、そのままゴーサインを出しました。力としては天魔反戈と天沼矛は別物であることをご了承くださいorz