ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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 お待たせしました! 前回投稿からだいぶ空いてしまって申し訳ありません!
 前回から今回までの間にゆゆゆい4周年が来たり、夏凜ちゃんの誕生日が来たり、アニレコ2期が発表されたり、若葉様の誕生日が来たり、酒呑童子高嶋さんが来たり、酒呑童子高嶋さんで爆死したり……あ……れ……神樹の恵み……ない……。

 もう……いいや……急にすべてが馬鹿馬鹿しくなってしまった。同時に激しい憤りと苛立ちを感じた。なぜこんな苦痛を受けながらガチャを回さなければならないのか。
 SSRすら出さない端末への憤り。TwitterのURゲット報告への憎悪。必死になって神樹の恵みを貯めてもここ数ヶ月ピックアップを排出しないゆゆゆいへの嫌悪感。

 もうガチャを回しても既に終わっているのだ。当たらない苦痛に耐えてまで回す価値があるのか。
(馬鹿みたい……こんな酷い爆死して、苦しい爆死しながら次のガチャ回して……若葉様、弥勒さん、そのっち、東郷さん、刀使ノ巫女の皆さん、チュン助、セイウンスカイ……私、なんで今まで一生懸命ゆゆゆいしてきたんだか、わからなくなっちゃったよ……ガチャなんて、ただ当たらなくて、苦しいだけで……なんで……)

 なんでガチャを回すのかって?

 ゆゆゆ民だからだよ!! 理由なんて、それで十分だ!


第五十三話 「恐怖心」

 世界が樹海化する瞬間に時間を止め、この時代の勇者達から距離を取った私は神樹の元に一直線に跳躍し駆け抜けて行く。

 今頃彼女達は侵入したバーテックスと戦闘中だろう。私達がそうであったように、自分達の世界を守るために無慈悲なる敵と対峙する。

 

 私には関係無い話よ。こんな所で敵と戦って満開して散華するなんて、たった一回だけでも腸が煮えくり返る思いだったのに。これ以上私にとって何も意味を成さない世界で、みんなが悲しむ要因を増やすわけにはいかないのよ。

 

 勿論この世界の人々が死んでしまえばいいとは思ってない。ただ、生きている世界が違うだけ。

 私の戦場はここじゃない。この世界を守るのが彼女達、私は勇者達のみんながいるあの世界を一緒に守り抜く……たったそれだけのこと。

 

 大体この世界は私達が暮らしてきた世界の過去。勇者は世界を守るためにバーテックスと戦い、過程や結末はどうであれ、再度バーテックスが出現して勇者という存在が必要になったとはいえ、300年後の世界は無事に機能している。世界は彼女達の望み通り守られて、私達が生きている神世紀の世界が存在している。

 未来から過去に紛れ込んでしまった私という異物が介入しなくても問題は何もない。私がいなくてもこの世界は彼女達によって守られる。彩羽さん、羽衣ちゃん、乃木さん、彼女達が神世紀で生きているということは、その先祖である高嶋友奈と乃木若葉も犠牲にならず、家庭を築いた事が確定している。

 

 

 

 何も変わらない。私がこの世界にいたところで特別良い事なんて……むしろ元の世界にいるみんなを心配させて傷つけてしまうだけ。

 

 

 

 樹海にそびえ立つ神秘の大樹が徐々により大きく見えてくる。この世界を守る神様の集合体……神樹を前にした時、私の中で逸る想いは最高潮になる。

 気持ちは極限状態に近いのに、心臓は全く動かない。改めて自分の体に起こった変化に言葉に表しきれない気持ち悪さを抱き……一秒でも早く楽になりたい一心で叫ぶ。

 

「神樹ーーーーーっ!!!!」

 

 神樹は私達人間を守り救う神様。神世紀における常識でありながら、それは私達が勇者になってからは手段はどうであれ正しかった事実……。

 

 この時代においてもきっとそれは変わってない、神樹は人間達の味方だって。

 

「私はっ!! この世界から300年後の未来から跳ばされて来た!! その時代に四国で戦った勇者よ!!」

 

 戦いの届かない静かな樹海に響く。私を押し潰そうとする孤独感不安感に耐えながら、震える声で……。

 

 ……そう、怖いのよ……。かつて散華の事を知った時よりも……世界の真実を目にした時よりも……。

 安心感を得るのは、それは神樹に邂逅する時じゃない。遠い諏訪からここに来たのはその安心感を掴み取るためのただの通過点だ。

 

 藤森さんからこの時代には既に神樹が人類を守っていることを聞いて、その在り方が私達の世界のものと一貫していると知った。神樹の力が最大限発揮され人々をバーテックスから守る結界を生み出し、敵に対抗できる少女達に力を与え勇者になれる者が現れる。

 故にこの世界でも神樹は存在しており、その事実が私の願いを叶える唯一無二の方法へと導いた。

 

「跳ばされた原因は勇者に与えられた神樹の力によるもの!! 私達の時代の戦いの最中、その力が暴発して私は過去であるこの世界に来たの!!」

 

 神樹になら私の願いを叶えられる根拠……私は勇者になって最初から時間停止の力を使えていた。時間停止……これは散々神樹が使ってきた力でもある。バーテックスが出現する度に、神樹は勇者以外の世界の時間を戦闘終了まで止めることができる。

 ただし私の時間停止は回数制限も時間制限もある、言わば神樹による時間停止の劣化版だ。完全に使いこなせないのは神様と人間の差でしょうね……。

 

 この事を踏まえて、私の……というか勇者の力は要は神樹からの借り物だ。ただの人間にあんな化け物と戦う手段は無い。戦うために神樹は自身の力を与え、勇者はそれを活用して戦う。

 つまり私達勇者にはできて、神樹にできない事など存在しない。それどころか私達以上に高精度の力を神樹本体なら発揮できる……そう考えた。

 

「────暴発してしまったとはいえ、時間遡行の力だって、人間に譲渡できた力をあなたが使えない道理はない!!」

 

 神樹が私に与えた時間遡行の能力……人間を別の世界に跳ばす力。時間停止とは違って直接神樹がその力を使用するのを見たわけでも体験したわけでもない。だけど私がその力を使えるってことは、神樹も使えないと逆におかしすぎるのよ。

 単純な考えだけど、確実性は高い。私をこの世界に跳ばせる力があるのなら……掻い摘んで言えば、一人の人間を難無く別の時間軸に跳ばせる力が神樹には備わっている。

 

 私では現在(いま)から過去への一方通行……では、私よりも高度にその力を扱えるであろう神樹本体なら?

 過去から未来、元いた世界へ送り返す。神樹だけが私を救うことができるただ一つの存在。

 

 人類のために300年も守り抜いてくれる神樹なら……

 

 私達の味方でいてくれる存在なら……

 

「できないとは言わせない!! 私を元いた世界に戻して!! 300年後の私達の街に返しなさい!!!!」

 

 矢継ぎ早に、まくし立てるような叫びがこの場に響く。神樹の前で全てを明かした。私の正体もここに至るまでの経緯も望みも……。

 私は300年後の世界で戦ってきた勇者……断じて神樹、延いてはこの世界の敵などではない、そちら側の人間だ。

 

 だからこそ信じた。神樹の元にたどり着ければそこで望みが叶う、助かるんだって……。神樹はいつだって私達人間を守って導いてきたから、人間、ましてや勇者の願いを不意にするわけが無い……。

 

 

 

 忘れていた。失念していた。元の世界、大赦と神樹が私達にしでかしたことを……。それを思い出す前に、巨大な薄桃色の何かが私を叩きつけようと目の前まで迫っていることに気づく。

 

「なっ!!?」

 

 咄嗟に横に跳んで転がるように距離を取ると、それは直前まで私がいた地点に轟音と共に突き刺さる。勢いよく舞い上がる土煙と地面を走る振動の大きさが、容赦なく私を襲った事を知らしめる。

 何が起こったのか、一瞬理解できなかった。だってこれは後ろからの攻撃ではなくて正面の……! 神樹の根元から延ばされていて、どう考えてもバーテックスの仕業ではない! この樹海化された世界に張り巡らされている植物と同じにしか……それどころかこれは見ての通り()()()()……?

 

 つまり、私は神樹に攻撃された……!?

 

「何を……!?」

 

 突然の神樹の不可解な行動に憤るも、次の瞬間辺りの地面から複数の根が突き破って現れる。それらは再び私を叩き潰す勢いで……殺すつもりであるかのように襲いかかってきた。

 

「……っ!」

 

 予想外の神樹の攻撃に激しい困惑を覚えながらも迫り来る身の危険は止まりはしない。地面を蹴って振り下ろされる根を避けるも、すぐさま別の根が私へと凪払われる。低く屈み込んで僅かな隙間の差で凪払いは外れ、猛烈な風圧が私を怯ませる。

 バランスが崩れ、風圧によって集中を欠いてしまった私に再度根が凪払われる。爆弾……それは駄目…! 時間停止を………間に合わない!!

 

『!!』

「キャァアッ!!」

 

 根は私の全身に直撃……する直前に割って出現したエイミーのバリアに突き刺さるも、その勢いは収まらずに私達を強烈に叩き飛ばす。痛みは無くてもその衝撃に体は耐えきれず、空中で立て直そうにも動かせない。受け身を取れぬまま私は地面を激しく転がっていくも、エイミーのバリアで致命傷にはならない。けれども、精霊のバリアは決して攻撃を完全に遮断しきれるものではない。強固なバリアであるものの、幾分のダメージは通ってしまう……倒れた私は今のダメージのせいで満足に体を動かないまま、起きられなかった。

 

 ……でも今のは……神樹の根が精霊バリアに直撃した時、そこから何か……荒々しい怒りが伝わっていた。

 思い返してみれば…………ええ、確かにあれは怒りの感情だった。あの攻撃、それより前のも、神樹の隠しきれない怒りが溢れ出していて、私にぶつけようと……?

 

「……どうして……神樹……?」

 

 私には神樹の意図が皆目見当がつかない。勇者である私に突然こんな仕打ちを受ける謂われは無い……。

 

 神様の考えている事なんて、この時の私には解らなかった。その答えを知った時、私は改めて思い知る。神様なんてものはどうしようもない高慢な存在だ。

 

『神樹は人類の味方である……が、それ以前にこの存在は文字通り『神様』。それも多数の土地神の集合体。勇者といえどもたった一人の人間とは天と地の差よりも絶対的な格の違いが存在する。

 その差は対等であると考える事は当然論外。話しかける事すらおこがましく、御法度とされる行いでもある。ましてや勇者としての使命を放棄し自分勝手に意見や希望を垂れる人間など、あまりにも愚かく不敬な身の程知らずに、我を忘れて怒り狂う理由として十分すぎた』

 

 怒り狂う神様がそんな呟きを気にするわけがなく、倒れている私の体に植物の蔓が巻き付けられる。何かを考えるまでもない、この蔓の先にあるもの……これも神樹の一部……!

 先程と同様の恐ろしいとしか思えないプレッシャーが絶え間なく襲う。そのまま絞め殺すつもりなのか、私に巻き付いた蔓がよりきつく食い込み始める。抵抗しようとするとそれも許さないとでも言うように、神樹の方へと引っ張られ、引きずり込まれて……精霊バリアが!? 本当に殺す気……!?

 

「くっ……この……! エイミー…!!」

『!?』

 

 勇者は死なないらしいけど、相手が勇者の力の源である神樹本体ならばそんな保証はどこにもない! 冗談じゃない……! こんな訳の解らないまま別の世界で死んでたまるものか!!

 私は痛覚を散華していて痛みを感じない。そしてエイミーのバリアで致命傷を負うことはない。

 

 痛覚が無いことと精霊バリアがあるからこそ実行できる自爆。私の右手に出現する爆弾……それのスイッチを蔓が巻き付いてる胸元に押し込み起爆を試みる。この蔓を吹き飛ばして拘束から逃れるために。しかしそれが爆発する瞬間、爆弾は光の粒子となって消え失せた。

 

「そんな……!? あっ!」

 

 そうだった……神樹に勇者の攻撃は…効かない……。東郷がそれに失敗したから、バーテックスの攻撃を誘導していたのに……。

 

 そして神樹は今の自爆未遂で更に怒りが沸き上がったのか、乱暴に、乱雑に引き摺り回され、そのスピードに容赦なんてものは欠片もなかった。

 脳が揺さぶられ平衡感覚が狂い始め、振り上げられた蔓は私の体を宙に浮かせ、そのまま逆にしなやかな蔓を振り下ろし地面に叩きつける。

 

「がはっ…!!」

『…!』

 

 激突の勢いで地面が凹む。それでもなお蔓は私の体に巻き付いたまま、神樹はその暴挙を繰り返す。私の体は再び宙を舞い、大きく弧を描きながら反対側の地面に叩きつけ……神樹の裁きという名の怒りの発散は三度、四度と続く。

 

「ぁ……ぐ…」

 

 痛みはなく、どうしようもない衝撃だけが私の全身の内側を震わせる。肺の中の空気は一片も残さず吐き出してしまって呼吸する事がままならず、頭の中がクラクラして意識が朦朧として……

 

 やがて私の体はどこにも叩きつけられなくなる。神樹の気が晴れたのかどうかは知らないけど……いいえ、きっとまだ。蔦は依然巻き付いたまま、ゆっくりだけど私の体を神樹の方に引き摺っている。

 体に力が入らない。精霊バリアがあっても蓄積したダメージは酷く、勇者じゃなければ既に死んでしまっている。どんなに痛めつけられても勇者は死なない……不思議と、この時はそのような事は思いもしなかった。

 

「……温…かい…? ひっ!!?」

 

 体中を包み込む不思議な感覚。どこか安心するような温かさがあり、全身が何かと溶け合うような悍ましさを本能が教える。

 恐怖心だけが私の心を支配する。死なないなんて、嘘としか思えなかった。このまま謎の感覚が私の意識を安らかに手放し……そうすれば、私の意識は二度と戻らない事だけがハッキリと解ってしまった。即ち……

 

「…いや…だ……死にたくない……帰りたい……ひっく!」

 

 このまま…みんながいない真っ暗闇な世界、誰にも気づかれる事なく、怒り狂った神樹に嬲り殺されたら……そう思ってしまった。本当にもう二度とみんなに会えなくて、話すこともできなくて、一緒に笑い合うこともできない。

 

 永遠に失われてしまう。何もかも……

 

「ゆうなぁ…! とうごぉ……! ふうせんぱいぃ……! かりぃん……! ぃつきちゃん……! みんなぁ……!!」

 

 必死に手を伸ばすこともできない永遠の絶望の闇が迫っている。その絶望に包まれた自分の末路を思う……それだけで心が張り裂けそうになる恐怖に震えが止まらない。両目からボロボロと大粒の涙が絶え間なく溢れ出し子供みたいに泣きじゃくる。

 

「いやだいやだいやだいやだぁぁぁあああああああああ!!!!!」

 

 恥も外聞もなかった……。頼れる彼女達がどこにもいない世界、信じられるものなんて何もない独りぼっちの私……。待ち構える永遠の孤独、その事実は死の恐怖と共に私の心をへし折った。

 

「やめて殺さないで死にたくないゆるして赦してぇっ…!!!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいああああああああああああああああ!!!!!」

 

 神樹の元に引き摺られ近づくにつれて、何かと溶け合うような感覚がより鮮明になる。意識も朦朧とし始めて入らない力ももっと弱々しくなる。

 皮肉にも絶望だけが今の私を支えていた。一瞬でも気を抜けばそれで一貫の終わり……それが堪らなく嫌で、死に物狂いの叫びが響く。

 

「たすけて誰かぁ!!! 友奈!!東郷!!風先輩!!夏凜!!樹ちゃん!!乃木さん!!彩羽さん!! イヤァァァアアアアアアア!!!!」

『  、      !! !』

「………え……?」

 

 頭の中に直接声が……次の瞬間、私を引き摺る蔓は光となって儚く消え失せた。私を溶かそうとする感覚も、きれいさっぱり無くなって……代わりに蔓が巻かれていた胸元に何やら重みを感じる。

 

「エ…イ……ミー…?」

『~~~!』

 

 エイミーが私の胸の上に乗っている。そして、その両目からは……涙?

 ……助かった……の…? というかあの声は一体……エイミーなの? たすけて、って……あの蔦が消えたのは……消したのは? 今こうして泣いてるのは……どうしてなの……?

 

「何が………っ!!?」

 

 猛烈な怒気と殺気のプレッシャーが襲いかかる。再び先程の恐怖が鮮明に思い返され、体中の震えが再発した。

 どうやったか、どのような意図があったのかは解らないけど、蔓を消したのはおそらくはエイミー……。そう、決して神樹本体の意思などではなく、殺そうとしたのを邪魔された……今まさにその状況の直後だった。

 

「あぁ……ああぁぁ……!!」

 

 収まってなんかいない、神樹の怒りは。神樹から延ばされた蔓も根も蔦も、今度こそ私を捕らえて……神樹の中に取り込ませようと……!

 

 あんな恐怖、もう耐えられない!! 逃げなければ……時間を止めて一刻も速く!!

 

「……そんな……なんでもう溜まってるのよ!!!!」

 

 盾を回しても時間は止まらない。神樹の絶え間ない制裁で精霊バリアを展開し続けていたのが原因か……既に満開ゲージは全て満ちて……

 

 

 

 

 

 

 

 神樹の蔓が目前まで来ていた。

 

「うわああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 そして、満開の花が咲き乱れる。目の前の恐怖から、情けなく逃げ出すために……。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 上空に現れた、たくさんのバーテックスが合体することで生み出される強化個体、『進化体』

 今まで私達が倒してきた白い個体よりも危険な雰囲気に満ち溢れている。見た目は棒状で、今までのバーテックスのような口は無い。だけど倒せるイメージを捉えるのが難しい……でも、絶対にこいつを倒さないと!

 

「私が!」

 

 アンちゃんがタマちゃんとホムちゃんの後ろから、クロスボウで矢を連射する。金色の矢があのバーテックスを貫く……そう簡単にはいかなくて、バーテックスから赤い板状の物体が出現する。アンちゃんの矢はその板状の物体に当たったけど、その全てがアンちゃんの方に跳ね返った!

 

「危ない!」

 

 跳ね返された矢がアンちゃん達を傷つけることはなかった。タマちゃんが武器で盾のように防ぎ、ホムちゃんも武器で打ち払って守っていた。ホッと安心、一息……でもアンちゃんの矢は駄目だった。あれはただの板じゃない、反射板だった。

 

「だったら私の拳なら!」

「高嶋さん!」

 

 進化体に飛びかかり、力を込めたテレフォンパンチ……は、なんか勇者っぽくないかな? 勇者の必殺技だから……名付けて!

 

「友奈流○拳!!」

「勇者パンチにしておけ!!」

「怒られる!!」

「せいやぁ!!」

「○星拳でその掛け声はデンジャーよ!!」

 

 若葉ちゃんホムちゃん歌野ちゃんが何やら叫ぶ中、必殺技を進化体の反射板に叩き込む。ガツンと拳がきれいに入った音が響く……けど、固い! 反射板には傷一つ付いてなくて、一旦バーテックスから距離を取る。

 

「やっぱり強い…!」

「伊予島さんの矢が跳ね返されて、高嶋さんの拳も効かないとなると……」

「歌野、進化体を相手にする時の策はあるか?」

「まずはクールダウンよ、みんな。確かに進化体はストロングだけど、一体だけなら倒せない敵ではないわ」

 

 勇者パンチ(友奈流星○は不評だったから今度から勇者パンチ)一発では効かなかった。でも私の必殺技だもん、威力はちゃんとあるに違いない。

 だったらやるべき事は一つ。一発が駄目ならもっと殴ればいい! 十発、百発、千発……何度だって叩きつければいい!

 

 そうと決まれば、意識を集中し力を顕現させる。

 

 勇者には切り札がある。神樹様に記録されている力を抽出し、その力を発揮する事ができる。それで精霊の力を引き出せば、勇者は大きなパワーアップができる。

 

「……あれ?」

 

 神樹様にアクセスできない……? えっ、何でどうして!? どうしちゃったの神樹様!? これじゃあ切り札が使えないよ…って……

 

「あれ、何だろ…?」

 

 アクセスできなくてどうしたものかと神樹様の方を振り向いて気づいた。何か白くて光り輝いているものがこっちに飛んできている。物凄いスピードで、流星みたいな勢いで。

 

「みんな! 私が切り札を…」

「待って若葉ちゃん、あれ!」

 

 私が指差した方をみんなが見て全員がビックリした。一体あれは何なのか、神樹様にアクセスできなくなったといいどうなっているのか……歌野ちゃんが声を上げた。

 

「あれって……暁美さん!?」

「「「「「ええっ!?」」」」」

「……何ですって…?」

 

 暁美さんって……ほむらちゃん!? ええっ!? だってあれ空を飛んでるよ!?

 

「詳しくは知らないけど暁美さんって白くて光るウィングが生えるのよ! 諏訪ではそうだったわ!」

「ますます訳がわかりません!」

「おいおいおい! あれこっちに……止まらなくないか!?」

「っ、総員退避!!」

 

 タマちゃんの言う通り、ほむらちゃんは勢いが全く落ちないままこっちに突っ込んで来る。ちょうど私達がいるこの辺りに落ちそうで、巻き込まれたらひとたまりもない。でもそしたらほむらちゃんが!

 

「高嶋さん離れて!」

「ぐ、ぐんちゃんでも…!」

 

 ほむらちゃんだって無事では済まない、受け止めなければと思ったけど、私を心配したぐんちゃんに手を引かれてその場から離される。確かに私一人じゃ無理だったかもしれないけど、罪悪感が溢れ出す。

 

 そして、物凄いスピードと勢いで突っ込んできたほむらちゃん……一瞬だけ見えた、その背には歌野ちゃんが言ってた通り真っ白で綺麗な翼があった。

 

 私達は全員離れていて、そこにいるのは進化体バーテックス。その翼が進化体バーテックスの反射板に触れた瞬間、固くて傷一つ付けられなかった反射板は粉々に砕け散った。

 反射板だけじゃない、進化体バーテックス本体も気がつけば影も形もない。今の一瞬で巻き込まれて消滅していた。

 

「「「「「「!!?」」」」」」

 

 ほむらちゃんが隕石が落ちたみたいに地面に落ちる……そう思っていたけど、彼女は落下したその地点でズザァッーっと滑って体を反転させながらピタリと着地した。

 みんなが何が起こったのか理解できなくて……それでようやく解った事が、あの進化体バーテックスはほむらちゃんに倒された……ってこと?

 

「な……何なんですか今のは……!」

「オウ……諏訪でもそうだったけど、進化体を一瞬で……」

「諏訪でもって……圧倒的すぎませんか…!?」

「ウソだろ……あんずと友奈の攻撃が効かなかったヤツだぞ…!?」

「信じられん……だが現実に……!」

「…………っ!」

 

 みんなの戸惑いと驚きは止まらない。口々に言い合い今の事を必死に受け止めようにも難しいみたいで……いつの間にか、若葉ちゃんの背後に小型バーテックスが一体近づいていた。

 

「若葉ちゃんっ! 危ない!」

 

 若葉ちゃんが振り返ると既にバーテックスは口を大きく開けて喰らい付こうとしていた。このままじゃ食べられてしまう…………ギリ、ブチィ!

 

「……まずいな。食えたものではない」

 

 噛みつきを避けた若葉ちゃんが逆にバーテックスの一部を食べて斬っちゃった……。ホッ……無事でよかった。

 

「……タマ、これからは若葉を怒らせないようにする」

「……うん、私も……」

「バーテックスを食うのは勧められそうにない。気持ちは痛いほど解るがやめておいた方が良いぞ、ほむら」

「やりませんよ最初から!」

 

 でも今ので……樹海に侵入したバーテックスは全部倒した! 私達の勝ちだね、ブイっ!

 切り札が使えなくて一時はどうなることかと思ったけど、ほむらちゃんのおかげでなんとかなって良かったよ。ちゃんとお礼を言わないと。

 

「ほむらちゃ…」

「ハァ……ハァ……ぃゃ……ぃゃぁ! ぅぅうう…!! ぐ……ごほっ…げっほ……ぅぁあ……ぁぁぁ……!!」

「ほむらちゃん!?」

 

 いつの間にかほむらちゃんの背中の翼は消えて無くなってて、ほむらちゃんは酷く咳き込み体が震えていた。それにこれ、ほむらちゃん体、土でいっぱい汚れてる? それに顔も……泣いた跡?

 

「……ゆう…な……?」

「ほむらちゃん! 大丈夫!?」

「………じゃない……」

「えっ!?」

 

 大丈夫じゃない!? どどどどうしよう!!? 戦いは終わったし早く病院!?

 

「……友奈じゃ…ない……」

「えっ? 私、友奈だよ…?」

「…………」

 

 ほむらちゃんは何も言わなかった。でもとても苦しそうで哀しそうで、今にも崩れてしまいそうで……樹海に色鮮やかな花弁が舞う。元の世界に戻るみたいだし、話は向こうで、ゆっくり聞けばいいのかな……。




偶然主人公の死に物狂いの逃亡に巻き込まれた(物理的に)進化体氏「解せぬ」

 満開ゲージが溜まるのって、実際かなりハイペースですよね……。
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