ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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 遅くなって大変申し訳ありません!! 7月は多忙で全然時間も取れず、書けても途中でボツになったりで難産でした。
 超電磁砲コラボや待望のマギレコ2期が始まり気分は上々↑↑ まあ、引き弱の私にコラボキャラが引けるわけないんですけどね……。
 マギレコ2期も第1話のまさかの展開に大興奮でした。
「ほむらちゃんの事はわたしが絶対に助けてみせる。だからさやかちゃんはわたしを助けて。そしたらいつかきっと、ほむらちゃんがさやかちゃんの事だって助けてくれるよ!」ってセリフがあって、この後に本当にこういう展開で助け合うの、私大好きなんです! 魔女化の真相を知った後にも希望に満ち溢れた展開で、本当に観れて良かったと……黒江ちゃんも無事に再登場おめでとう!


第五十五話 「輝」

 ……いつの間にか、寝落ちしてしまったみたい。胸が苦しくて、悔しくて、頭の方も怒りでおかしくなりそうで、今日は絶対に眠れそうにないと思っていたのに。

 

 失われたはずの()()()()()()()で、私がぽつんと一人突っ立っているこの場所は知らない建物の中。けれども、壁に貼られている交通安全を促すポスター、習字にどこか幼さを感じる雑把な絵。そして何よりも、賑やかな子供達の集う教室……どうやらここは小学校のようだ。夢の中の……。

 

「……四度目……」

 

 ……私が満開を使って最初に意識を手放した時に起こる謎の現象。妙に意識が鮮明な夢を見てしまうこれは一体何なのか。

 

 最初に見たものは荘厳な城、次にありふれた普通の町中、三度目は諏訪から四国への移動中、途中で休息をとった時。今度は片田舎に……本当にわけが分からない。

 そして四度目の今回は小学校……小学校なんて、何の思い入れもないのに。

 

「……小学校なんて……」

 

 讃州中学に入学してからのことを思えば実につまらない六年だった。ただ一つの存在だけに執着して、自らの振る舞いを何一つ省みないで孤立して……人は一人で生きていても虚しいだけだって今は思う。今はみんながいるから何もかもが幸福に満ち溢れていた。どうしようもない絶望であろうとも、何も恐くなかった。

 

「……また、ひとりぼっち……っ!」

 

 このおかしな夢から覚めて、その先の現実にみんなは………いない。いるのは違う世界の住民だけ……私が守りたかった存在は、どこにもない。

 友達にも、先輩にも、後輩にも、両親にも、決して私の声は届かない。代わりに私の声を勝手に受け取った何も知らない人が、望んでもいない的外れの想いを返してそれで終わり。誰にも理解されない絶望を独りで背負わされてしまう……。唯一の救いも、昨日無慈悲に断ち切られた……。

 

 神樹だけがそれを可能にすると思っていたのに、返ってきたのは無慈悲な神罰……。神樹に私を助ける意思は皆無だった。散々痛めつけられた後、自分の身体が溶けて消え失せかける感覚が忘れられない……!

 神樹にとって、私の命なんてどうでも良かった。思い通りに動かないのであれば、私の力だけを取り込んで排除しようと……。

 

 神樹には私を使い潰す意図しか持ち合わせていない。逆らうようなら即処分して力だけを回収する……私の存在はその程度の都合の良い駒だった……。

 

 私は……全てを失っていく……。小学生の時のように、私に笑いかけ、心で繋がれるような素晴らしい人達がいない現実だけが返ってくる。

 

 既に肉体の痛みも、命を突き動かす心臓も、人間として当然の温もりも……目の前に広がる世界の彩りさえ失った。

 

 希望への道はどこにもない。

 

 

 

 ふと気がつけば、目の前には下の階へと繋がる階段がある。廊下の壁に背中を預けて立っていただけなのに、この夢の中の小学校を歩いてもいないのに、いつの間にか階段の前に一人立っていて……

 

Du verschwindest von hier

「………え…?」

 

 嘲笑うかのような声と一緒に、何かにドンって背中を強く押されて突き落とされた。足は床から離れて身体は前に倒れ込む。固くて冷たそうな踊り場に頭から落下して……もう一度、誰かの悪意のない嘲笑う声が聞こえた。

 

 

 

 

「………もう……いやだ……!」

 

 再び意識が戻って、世界の方もモノクロの保健室に戻る。たまらず視界を手で覆って、この現実から逃れようと隠してもどうにもならない。指の隙間から見える白と黒の中間のような配色で広がる世界は、比喩表現とか抜きで実際に私が見ている世界だった。

 

 四度目の散華で失われたのは、色彩感覚。色を認識できなくなった私の世界は心身共に照らすような明るさを失い、薄暗い灰色に包み込まれている。

 

 散華で失ってしまったものは二度と戻らない。目の前のモノクロの世界も、私の心も……。

 

 彼女達の笑顔も、二度と……。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「う……む…?」

 

 起床するも、眼前の天井が私達の暮らしている寄宿舎のものではない。いつもと異なる場所で寝起きしていた事に一瞬不思議に思うも、それはすぐに霧散した。

 

「ああそうだった……丸亀城か、ここは」

 

 戦闘後の大雨もあって、全員でここに布団を引っ張り出して寝泊まりしたのであったな。身体を起こし、軽く背伸びする。激しかった雨音は聞こえないことから既に止んでいるのだろう。昨日までの不安が解消されたからか、ぐっすりと快眠できたみたいだ。ただ教室に掛けられた時計を確認するも、何時もより起床時間は少し早い。周りを見渡すと、まだ私以外誰も起きていないようだ。

 

 歌野と水都達の歓迎会、私達の初戦の祝勝会、そして私のリーダー就任記念を一遍に行い大いに盛り上がった。会話は弾み、歌野と水都も友奈や球子や杏とすぐに打ち解け愉快に騒いだものだ。千景も口数こそ少なかったが拒絶することもなく彼女達を受け入れていた。暁美の話題になると露骨に機嫌を悪くしていたが……。

 

「……完成体……か……」

 

 とある呼称を思い出す。それは昨夜、諏訪で歌野達に何があったのかを話してもらった時に初めて私達がその存在を把握したものだ。これまで三年間も戦い続けた歌野ですら、今まで遭遇したことの無かった規格外の超大型の個体が出現したのだという。

 

 歌野がそれを見た時に思った事は、それは頂点という名を冠した敵が完全なる進化を完了させたであろうというものだった。

 

 即ち、完成体バーテックス。

 

 その時の事を話す歌野は歯を食いしばり、表情に怒りの色を表し拳を強く握り締めていた。一目見ただけで桁違いだと分かる、それの放つ威圧感、存在感、そして脅威は進化体の比ではなかったのだと言う。進化体は複数の小型バーテックスが融合したものであるが、それは果たして何百何千以上のバーテックスの集合体であるのか……。

 

 ……この世界を奴らから取り戻すのは困難を極めるのは分かりきっていたはずだ。だがこうして(もたら)された情報から、新たな強敵の存在まで明らかになってしまうとは……。

 

「……暁美の力が鍵になりそうだな」

 

 そんな絶望の象徴とも取れる完成体バーテックスは、暁美が一人で撃破したとのことだ。私自身、昨日の戦闘で彼女の力を目にはしたものの、あれは私達の力よりも突出して凄まじい。

 諏訪では暁美は爆弾や巨大な弓を使ってバーテックスを倒していたらしいが、昨日はそのようなものを使いもせず、一瞬で強固な進化体バーテックスをまるで紙切れのようにバラバラに消し去った。友奈と杏の攻撃が効かなかった個体をだ。尤も、あの後暁美が体調不良を伝えたのは気がかりだが……。

 

 おそらくその力は、これまで彼女が戦ってきた北海道の神によるものだろう。我々の神である神樹や、諏訪の土地神よりも高位の神々なのかもしれん。

 暁美も我々と同様に勇者のアプリを使用していた。北海道にもこちらの大社のような組織が存在していたのだろう。詰まるところ、彼女の携帯端末及び勇者システムには向こうの神々の情報や霊的回路が繋がっているはずだ。

 これらを勇者アプリを開発した大社の研究者達に回して分析、解析すれば、私達の勇者システムもその神々の恩恵に肖れ大幅な強化に繋がるだろう。

 

 水都が言っていたが、北海道は既に滅びていた。それが他の地域の勇者である暁美が諏訪にいた理由であり、完成体バーテックスの恐ろしさとも言える。あの暁美ですら、敗走してしまったという事なのだからな……。

 北海道の勇者は諏訪の歌野と同じく暁美ただ一人のみ。憶測になってしまうが、いくら暁美が強力な力を有していようとも、数の利が圧倒的ならば……完成体バーテックスが束になって襲撃されてしまえば、一人で護りきるには無理があったのだろう。

 

 しかし、今ここには勇者は八人もいるのだ。暁美の勇者システムを我々のものにもインストールし、全員が完成体バーテックスと対抗できる力が備われば、私達が後れを取るなど有り得ない!

 

「……しかし、何というか……人の物を横から掠め取るようで気が引けるな……」

 

 だがそんな中ふと考えてしまった葛藤。我々は神樹から力を得ているのだが、優れているからといって暁美の神の力にも手を伸ばそうとしている。これまで暁美だって様々な苦難を乗り越えたに違いないのに、私達は何の苦労も無しに彼女の力を受け取ろうだなどと……些か卑怯ではないだろうか?

 

「むむむ……」

「どうされましたか? 若葉ちゃん」

「うおっ!?」

 

 考え込んでいると、横からひなたが顔を覗き込ませてきた。さっきまでひなたも眠っていたと思うが、もしや口に出てしまった言葉で起こしてしまったのだろうか?

 

「…おはようひなた。うるさくしてしまったか?」

「おはようございます若葉ちゃん。お気になさらず」

 

 やはり私のせいか。だがひなたは穏やかに微笑み、不快に思ってなどいない。考えてみれば、ひなたはよく私を起こしてくれる。いつもの起床時間もこの時間帯だとすれば、問題は何も無いのだろう。

 

「そうか。私の方も気にしないでくれ。きっと本人に尋ねる方が早いだろうからな」

 

 他のみんなは相も変わらずまだ眠っている。球子と杏、まどかとほむら、歌野と水都が、それぞれ互いの手を繋いで仲睦まじく寝息を立てていた。ただし暁美のペット……ではなくて精霊、エイミーがいなくなっている。歌野と水都によると神出鬼没らしいが、暁美の元に戻ったのだろうか?

 友奈と千景は一緒の布団で眠っている。友奈の方が千景を抱き締めるようにくっ付いて……って、千景の奴、目を開けたまま眠っていないか? うん? 千景の奴、白目剥いていないか!? 顔も真っ赤だし、一体何事だ!?

 

コヒューー……コヒューー…………って、あなた達、なにジロジロ見てるのよ……」

「千景!? 起きているのか!?」

「……ずっとドキドキしっぱなしで……眠れるわけ…ないじゃない……!」

 

 明らかに眠そうにしながら身体を起こす千景……言われてみれば、目元に酷い隈ができている。というかこの言い様だと碌に睡眠ができなかったどころか、一睡もできていないのか?

 

「そ、それでは困るぞ! 今日何があるのか……」

「うるさいわね……高嶋さんが起きてしまうでしょ」

「………すまん…」

 

 ……いや、友奈は身体を起こしているお前に抱き付いたままだぞ。体勢的にも寝かせてやらないと自然に目が覚めそうなものだが、自分から離して寝かせてやろうとは思わないのか?

 

「時間は正午からですし、今からでも睡眠はきちんと取ってもらわないといけませんね……」

「……問題ないわよ……徹夜した事は割とあるし、記者会見ぐらい……」

()()()じゃない! 記者会見だからこそしっかりせねばならんのだ! 人々を希望に導く勇者として!」

「……ああもう……相っ変わらずのバカ真面目ね、乃木さん」

「人々に我々が頼りないと思われては意味がないんだ。だらしない姿で人前に出るのはリーダーとして認められない」

 

 昨日の夜、私達勇者のお目付役であるひなたとまどかの携帯に大社から連絡が入った。それが本日、我々勇者の記者会見を開くというものである。

 何せ、昨日は怒涛の一日だった。諏訪の住民達が四国に逃れただけでなく、初めてバーテックスがこちらに襲撃してきたのだから。そして私達はバーテックスを打ち倒した……大社はこれを期に、我々の存在を世間に大々的に報道する事を決定したのだ。

 

 というか、既に報道されていた。昨日の夜にはテレビで大社が抱えていた情報を明かされ、先程述べたことがニュースに流れていた。訓練を積み重ねた六人の勇者の名前と顔写真と、諏訪と他の地域で戦い抜いてきた二人の勇者……その存在は四国中を駆け巡る。

 大社の狙いは明らかだ……今まで存在を隠していた勇者を明らかにすることで、四国の人々を安心させる方針を採ったのだろう。三年前の殺戮者、バーテックスを滅する人類の希望として。

 

 現に我々は成果を上げている。歌野と暁美が諏訪の人々を救い出し、昨日のバーテックスも撃退した。人々はこれらの事実を把握し、大きな安堵と歓喜に包まれた。

 

 人類を絶望の淵から救い出す、八人の勇者は爆発的に話題になる。SNSではトレンドとやらに挙がり、千景が見つけたとある掲示板ではその事実を嘘か真かで議論する者で溢れかえっていた。尤もそちらは昨日大量の大社のバスが諏訪の民を四国中の居住区に送るべく走っていた目撃情報も合わさり、真実味があるという意見が多かった。

 とはいえ疑いの目を向ける者がいたこともまた事実。大社としては人々を安心させるのが目的故に、即刻勇者達の姿を明かしたい……そういう魂胆もあって、本日いきなりにだが記者会見が開かれる運びとなった。

 

「……あの人達も……観るんでしょうね……」

「うん? 何か言ったか?」

「……気乗りしないって言ったのよ……」

「それは……心中お察しします……」

「…………勝手に人の内面を想像しないで」

「おい千景…」

「いいんです若葉ちゃん。申し訳ありませんでした千景さん」

 

 ……何だ? 今のやり取りでひなたに非は無いと思うのだが……。

 

 ……まあ、文句を言いたいのも分からないこともない。大社の思惑も理解してはいるが、芸能人でもないのに私達の顔や名前が四国中に公開されるといえば良い気はしない。ほむらも杏も難色を示していたのはあいつらの性格上頷けるが、球子と友奈も少々渋っていたのだ。歌野は諏訪の人々に勇気を与えられると大賛成し、それを聞いた他のみんなも納得したという流れだった。

 

「……ん……あっ!?」

 

 突然千景が慌てた声を出す。見れば千景を抱いて眠ったままだった友奈が、その手が緩まり、身体も傾いていて……。千景が支える前にぼすんと音を立てて布団に倒れてしまった。そのせいで彼女の目がうっすらと開き、戸惑う千景を捉えた。

 

「……ん……ぐんちゃん……? おはよう…」

「お、おはよう…高嶋さん……」

「……あ、若葉ちゃんとヒナちゃんもおはよう!」

「ああ」

「おはようございます、友奈さん。他の方はまだぐっすり眠っておられますので、少しばかりお静かに」

「うん! シィーっだね♪」

「ぐっ…!!」

 

 ニッコリと可愛らしく笑いながら人差し指を口元に当てて反応する友奈。そして胸を銃で撃たれたかのようなリアクションをして布団の上に倒れ込む千景……睡魔には勝てなかったのだろう。

 

「あれ? ぐんちゃん?」

……あざとい……! あざとすぎる……! がわいずぎる……! はぁあ~……!

「今は眠らせてやってくれ。うまく寝付けられなくて寝不足らしくてな」

「今のは寝不足とは別の物が原因かと思いますが……」

「ぐんちゃん眠れなかったの? 私はぐんちゃんがぽかぽかしてて気持ちよくてぐっすり眠れたんだけど……」

 

 今度こそしっかりと睡眠をとってほしいものだ。しかし私とひなたはともかく、友奈も起床は早かったのではないだろうか?

 

「友奈ももう少し眠っていてもいいぞ?」

「う~ん、大丈夫かな。ぐんちゃんの寝顔を見るのも良さそうだし」

「ふむ」

 

 確かに千景の寝顔を眺められる機会など珍しそうだが……後で居心地の悪い冷たい視線を向けられかねない。私はそうだな……少々早いがいつも通りだ。訓練所を借りて朝の鍛練に勤しむ事にした。

 ただし私の稽古着があるのは寄宿舎の自室だ。一旦外に出てそちらに戻らねば。

 

 起きている二人にその事を伝え、一人教室を出る。今着ているものが体操服で、後少しで10月に入ることからやや肌寒い。まあこの程度は問題ないが……鍛練していれば自然に身体は温まる。それに有事に備えて身体を鍛える事はとても重要、実に合理的だ。身も心も引き締まり、まさに良いこと尽くめではないか、鍛練というものは。

 

 ガタッ  ガシャン

 

「……む?」

 

 丸亀城の本丸から外に出て、二の丸を通り過ぎたところで、遠くの方から奇妙な音が聞こえてくる。機械が軋むような、歪な音が……。

 ……私達がここに通うようになってからの三年間、一度もこのような音が聞こえた事はない。もしやニュースを見てここを嗅ぎ付けてきたマスコミか何かか? 大社がここを管理するようになってから一般人の立ち入りは禁じられ、門も閉ざされてはいるが、もしや何者かが侵入してきたのではあるまいな……?

 

 ゴトッ  ドッ

 

 ……それにしては、人の声は全然聞こえない。そして歪な音だけが何度も続いている。気になって音の聞こえる方に駆け出し、坂を下っていくと、音の原因と思われる物を発見した。

 

「……何故ここに車が……? それもこんなにたくさん……」

 

 見返り坂の先の広場には数十台にも及ぶ車が並んでいた。小型に普通乗用車、大型トラックなども車種関係無くいろいろな物が辺り一面に。丸亀城の駐車場はもう少し先に行った所にあるのだが、ここに停めては違法駐車……それ以前にこれらは一体誰の車だ?

 車に近付いて分かる範囲で確認を取ろうと、車内やナンバープレートを……

 

 

◇◇◇◇◇

 

「……なに!? 長野に……松本に……諏訪!?」

 

 ……この声は……何でこの時間帯に外に出ているのよ。まだ日も登り切っていないというのに……。

 

「っ! そこにいるのは誰だ!!」

「………」

『!』

 

 ……うるさい。返事を返すのも億劫だ。頭の上のエイミーが何やら反応するけど、私には至極当然どうでもいい。そのまま盾の中の異空間から車を目の前に取り出す。若干地面から離れて現れてしまうから、10センチ程度の高さからだけど落ちて耳障りな音が響く。

 あと何台残っていたかしら? 面倒だけど、盾の中に仕舞っていた所で何の意味も無いし、役にも立たないのよね……。この世界の大赦に、四国中に散ってしまった持ち主の元に届けた方が良いでしょうし。

 

「あ、暁美……と、エイミー…?」

「………」

『~♪』

 

 薄暗い視界の端に見えた、昨日の満開後から白黒になった人間。そんなものを気に留める訳もなく、踵を返して他に車を置くための空いているスペースへと移動する。

 

「ど、どうしたんだ…? 勇者に変身して……」

「………」

「……そ、そうだ! 身体の調子は大丈夫なのか?」

「………」

 

 ……何故付いてくるのよ。昨日の高嶋友奈といい、無視をしているのだから黙って立ち去ろうとは思わないの? そんなお人好し、私にはあの子達で十分なのよ。それ以外の部外者……いいえ、異分子なんて必要ない。

 

「……あ、あの……暁美…?」

「………」

「……ああそうかスマナイ…!」

「………?」

「気を悪くしたのなら謝ろう。だが私としては、仲間としてもっと親密になりたくて……それで呼び捨てにしていたんだ」

「………」

「私の事も良ければ若葉と呼んで欲しい。だから私もお前を……」

「チッ!」

「っ!?」

 

 ……どいつもこいつも、馴れ馴れしくて本当に腹が立つ! 人の気も知らないで好き勝手言ってくれる! 誰がいつあなたと仲間になりたいと言った!? あなたの勝手な願望を私に押し付けないで!

 

『~!』

 

 イライラしながら歩いていると、真っ黒な何かが視界を塞ぐ。触れ慣れたサラサラな毛が、その正体をすぎに明らかにする。

 

「……どいて、エイミー」

『………』

 

 頭から離れたエイミーが私の前に浮き塞がる。いつものように気持ち良さげに喉を鳴らすのではなく、つぶらな目が真っ直ぐ私を捉える。

 そういえばこの乃木若葉とエイミー、互いを知っている様だった。それも、白鳥さんと藤森さんにただ話を聞いただけとは思えない。……エイミー、昨日の夜見ないと思ったらまさか……。

 

「……話を聞いてやれって言いたいの? 私には関係無い相手よ」

「か、関係…無い……?」

『~~! ~~!!』

 

 ……珍しく興奮気味の様子。エイミーは明らかに今の言葉に怒っている。どうやらエイミーはこの世界の勇者達に既に懐いたらしい。

 ……人懐っこい性格って、こんなにも面倒なものだったのね。

 

「……名前なんて、好きに呼べばいいわ。乃木若葉」

「そ、そうか………フルネームか……壁が……」

 

 他人に気安く接するわけがないでしょう。乃木という名字だって、本当はあなた相手に使いたくはないのよ。それは私にとって、付き合い自体は短くとも、同じ様な苦難を得て私達に想いを託してくれた仲間の物だから。

 

「……そ、それでなんだが、この辺りの車は暁美が…? 諏訪の人々の車のようだが……」

「……ええ。大赦が回収して届けやすいようにね」

「なるほど。話に聞いていた、異空間に繋がっている盾とやらだな……大社の仕事量の多さが心配だな……」

「それが連中の役目でしょ。あなたも、諏訪の人々は大赦が心から歓迎するとか言ってたと思うけど、彼らの車ぐらい何とかしないとみっともないわよ」

「………」

 

 乃木若葉が訝しむ様にこちらを見るけれども、大赦に抱いてる悪意や不満なんて隠す気はない。この世界の大赦と私達の世界の大赦がやってきた事はあまり関係無いだろうけど、そんなので納得できない所行を連中は私達に課した。

 金輪際信用しないし利用されるつもりもない。敵ではないけど連中がみんなの身体の機能を奪ったも同然だ。バーテックスと同じか、それ以上に大ッ嫌いなのよ、大赦って組織は。

 

 そして……私がこんな所にいるのも……結局は……ッ!!

 

「……それはそうと、大事な話が二つあるんだ」

「大事な話?」

 

 正直わざわざ聞く必要は無いけど、大事な話と言われたら聞かざるを得ない……勇者部の性分かしら?

 

「実は昨日、大社が我々勇者の存在と昨日の出来事全てを世間に公表したんだ」

「……何ですって?」

 

 勇者の存在は、私達の世界ではトップシークレットなのに……。それにバーテックスとの交戦の事もということは、バーテックスなんて化け物の存在も……。

 ……いいえ、待って。諏訪では住民はみんな白鳥さんが勇者である事、そして彼女がバーテックスと戦っていた事は知っていた。私にはこの世界での勇者やバーテックスがどこまで世間に知れ渡っているのか、何も知らないじゃない。きっとこの世界では常識である事でも知らない事があるのかも……。

 

 しかし、乃木若葉の説明を聞いていく内に、そんな懸念はどうでもよくなった。

 

「───それで今日記者会見が開かれることになったんだ。暁美には是非、北海道で戦い抜いて大勢の命を救った勇者の一人として、四国中の人々を鼓舞してほしい」

「………もう一つは?」

「暁美の勇者システムを、大社に提供してほしい。昨日私もこの目で見たが、あの力は我々の物よりレベルが圧倒的に違いすぎる」

「……レベルが……」

「大社には優れた研究者や技術者が揃っている。暁美の勇者システムを我々の勇者システムにもアップデートすれば、戦力が大幅に上昇する事間違いないのだ!」

「………」

「勿論研究以外の用途で扱わせないのは約束する! 研究が終了次第返却もする! 終始一貫丁重に取り扱う事を誓おう! 我々人類の勝利のため、バーテックスを倒すために!」

「論外よ。両方とも」

『……!?』

「……なん……だと……!?」

 

 ……その熱意だけは認める。ただし、それ以上に私が許せないだけ。

 

「な…何故だ…!? 人々に希望を与えるのも、バーテックスに優位に立てるようになるのも、どうして拒む……!」

「気に入らないのよ。それ」

「気に入らない……だと……!?」

 

 両方とも、大赦がバックに付いている。特に前者は人々を安心させるとか大層志の立派な事を唱いながら、大赦のイメージアップを図る魂胆が見え見えだ。勇者もバーテックスも、存在を明かさずとも世間はごく平和に過ぎていくものよ。

 

「勇者を宣伝材料にするならあなた達でどうぞ勝手にして頂戴。ただし私は大赦の都合の良い道具になるつもりはない……反吐が出るわ」

「……そんなの、お前の想像だ! かつて絶望を味わった者にとって、バーテックスを倒し人々を救った存在は眩しく見えるはずだ! 勇者の存在が希望になるのだぞ!?」

「あらそう。私にはあなた達がそんな大層な存在には見えないわ。滑稽で哀れな、神様にとっても従順で便利な手駒よ」

「……っ!」

『……!』

 

 勇者という存在が希望なんて、一度たりとも思った事はない。勇者でなくたって、あの子達はいつどこでも輝いていた。

 曖昧な存在に縋り付いて、それを希望だと称えて何になる。裏にあるのは大赦の描く、勇者を含む大勢の人々を操り利用しようとする気持ち悪い意図だけだ。

 

「……お前は……人々の想いが解らないのか……! お前が護ろうとした、北海道の人々の想いが……!」

「そうね……知らないわ」

『~!』

 

 重ねた嘘の内容を指摘されても、私には知りようがないもの。それに本当に私が護りたかった人達の想いこそ、乃木若葉の勝手な物差しで言われる筋合いもない。

 

「……私は……お前が歌野達を助けたと知って、闇夜を照らす焔のように……まさに奇跡の象徴であるかのように、輝いて見えた…!」

『……! ……!』

 

 振り絞るようにそう言うと、乃木若葉は踵を返してこの場から立ち去って行く。振り返る前に見えた彼女の表情……怒り、失望、悲しみ、色んな感情が混ざり合った暗いものだった。エイミーがその背中を追いかけようとして、躊躇いがちに私を見る。好きにしてと、乃木若葉とエイミーから視線を外し中断していた車出しを再開した。

 

 私は乃木若葉の期待を裏切ったはずだ。それなのに、罪悪感が湧いてない。一つ目の話を受けるなんて有り得ないのも確かだが、改めて私はこの世界では無関心なんだと気付かされる。やっぱりここは私にとって何も無い世界なのよ。

 

 二つ目の話も実に無意味だ。大赦にこれを預けるなんてとんでもない。そしてこの勇者システムは私にしか適合しない事が明らかになっている。仮に彼女達の勇者システムに同じ物が導入された所で起動しないわ。

 そもそも彩羽さんが言うには、既に私達の世界の大赦が量産化を試みてる。結果は大失敗らしいけど。西暦時代の謎の勇者システムなだけあって、不明な点も多々ある………?

 

 ………西暦時代よね、この世界は。じゃあこの勇者システムは、寧ろ彼女達の方が詳しいんじゃ……?

 保管していたのは彩羽さんと羽衣ちゃんの先祖である高嶋友奈……。彼女がどのような経緯で謎だらけのこれを手に入れたのか………っ!!?

 

 ………確か、高嶋友奈は知っていた……子孫に勇者システムと言葉を遺していたはず……。

 

『何十年後か、それとも何百年後かは分からない。でもこの中身が必要とする人が現れるまで、高嶋家の人間は全てを失ってしまってでも、この中身だけは絶対に守り抜け』

 

 ……これは……私が生まれるのを知っていた? 私が未来から来たことを知っていた!? 過去の世界の人間である高嶋友奈が、未来の世界の人間である私にしか扱えない勇者システムを未来に遺そうとしたのは……私に届けるため……。なんでそんな未知なる物を彼女が持っていたのか……それは……まさか……!

 

「………こうなる事が……運命だった…!?」

 

 暁美ほむらが神世紀300年から西暦の時代に跳ばされるのは、運命によって定められていたことだったとでも言うの!?

 

「……私が今使っている勇者端末が高嶋友奈の手に渡り、そして300年後に……私ではない暁美ほむらが受け取る……」

 

 ……それじゃあ……私はどうやって元の世界に……いいえ……運命が勇者システムを手放す形で巡っているのなら……私の終着点も決まっている……。

 

「……私は……元の世界に帰れないまま……ここで……」




 いつも~モノ~クロ~だった♪ ひとみ~のお~くの~♪

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