ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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 陳謝!!! 1ヶ月近く空けてしまい大変申し訳ありませんでした!! ちょっと精神的に参ってしまった時期がありまして……完全に乗り切れたのでその点はもう大丈夫です!!
 時間も取れるようになったので執筆ペースも以前のように改善できそうです。もう2週間以上開けさせない。

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第五十六話 「物憂」

 こんなにも晴れやかな気持ちで朝を迎えられるなんて、昨日までのこの時間帯に泣いていた時には思いもしなかった。わたしは今、あの悲しみに押し潰される前と同じような、平穏な時を過ごしていた。

 

「ハァ……記者会見……取材……四国中に生中継……」

「てぃひひ♪ ファイトだよ、ほむらちゃん!」

「……うぅぅ、まどか、巫女はやらないからって他人事だと思ってない…?」

「まさか。頑張れー!って、ひなたちゃんと水都ちゃんと一緒に応援し続けるつもりだよ」

 

 わたしの隣で冷たい水で顔を洗っている、目の前の鏡に映るほむらちゃんの顔は、はっきりと不安である事を示している。昔から人前に立つことが苦手で、緊張してしまうんだってのはわたしも良く分かる。

 だけどわたしの友達が、家族が、これから人々に希望を与えられる存在として注目される。今までのみんなの頑張りをずっと見てきたわたしには、それが誇らしく思えるのと同時に、これから戦いは本格的になるんだって怖くもある。

 

 もちろんわたしの知らない所でほむらちゃん達みんなが命懸けで戦って、酷い怪我や考えたくないような目に遭うかも知れないなんて、不安じゃないなんて言えば当然嘘になる。だけど奇跡は起こって、希望はまだ無くなっていないんだって、今のわたしは知っている。ほむらちゃんやみんなになら、それを絶やさないまま先に進めるんだって信じている。

 

「あったわ洗面化粧室。ふぅ、迷子にならずに済んでよかった」

「過ごしやすいように改築されてるのはいいけど、早く丸亀城の中身を覚えないとだね……」

 

 流れる水の音に紛れて外の方から二人の声が聞こえてくる。ガラガラと音を立てて開かれた扉の向こうから、長い間抱き続けていた夢が叶って出会えた友達の姿が見えた。わたし達がいることに気付くと二人とも表情を緩ませる。わたしも自然に笑みがこぼれて声を掛けた。

 

「おはよう、歌野ちゃん、水都ちゃん」

「おはようまどかさん……と……」

「ええっと………ほむらさん……?」

 

 なんだかタオルで顔を拭いているほむらちゃんにはぎこちない挨拶で、一体どうしたんだろうと思ったけど、すぐにその原因を思い出した。

 

「あ、はい、鹿目です。私」

「ああやっぱり…! ほむらさんの方だったのね、ソーリー…」

 

 ……暁美…さんと…ほむらちゃん、どっちなのか判断できなかったんだ。

 

 暁美さん、どうしてほむらちゃんとそっくり……ううん、同じ姿、なんだろう…?

 声はほむらちゃんより少し低いけど、あれならほむらちゃんにだって普通に発声できるだろうし、眼鏡も髪型も手を加えているだけで元の所ではどう見たところで一緒なんだもん。世の中には自分と似ている人間が三人はいるなんてよく聞くけど、まったく理由にはなってないし、だいたい名前まで一緒なんてそんなこと本当にあるのかなぁ?

 

「いえ、今はご覧の通りですし……」

 

 ほむらちゃんもその事はちゃんと分かっているから、名前を言うのに躊躇されたなんて気にしない。ちょうど今ほむらちゃんは顔を洗っているから眼鏡を外していて、髪も梳いているからいつもの三つ編みじゃない。だから今のほむらちゃんは暁美さんに見えてもおかしくないんだ。特にわたし達より暁美さんと一緒にいた時間が長い二人なら、ほむらちゃんより暁美さんの姿の方が見慣れているだろうし……。

 

 気にしないでと小さく笑って、わたしとほむらちゃんは一歩横にずれる。二人も安心したかのように微笑み返して、わたし達の隣に立って身だしなみを整えだした。

 目の前の大きな鏡にはわたし達四人が映っている。ほむらちゃんと、いなくなってなんかいなかった二人の友達と、一緒に……。

 

「ふう……えっと…まどか、私の眼鏡どこに置いたっけ?」

「ああうん、はいっ」

「ありがとう………ふふっ、まどかなんだか嬉しそう」

 

 眼鏡を掛けて、鏡を見たほむらちゃんがそんな言葉をこぼした。理由が解っているからか、ほむらちゃん自身も嬉しそうに。

 

 笑い返してほむらちゃんの後ろに回って、触り親しんだ綺麗な髪をいつものように編み始める。本当はほむらちゃんが自分一人でできることだけど、ほむらちゃんは何も言わずわたしに三つ編みを任せてくれた。

 最近は歌野ちゃんと水都ちゃんの件で、あれだったから……昨日も一応やったけど、不足しちゃったほむらちゃん分をもっと補いたかったり。なんてね。

 

 気分はここずっと味わったことの無いような上機嫌。ほむらちゃんの髪型を作りながら、こっちに来たばかりの友達に話しかけた。

 

「二人とも、丸亀城でのお泊まりはどうだった? よく眠れたかな」

「ええバッチリ! ……なんだけど、つい気が弛んで寝坊しちゃったから気持ちはちょっとブルー……」

「寝坊? まだ7時ですけど……」

「うたのんっていつも5時前には起きてるから。農作業で生活リズムが決まってたの」

「ふえぇ……5時前って大変じゃない?」

 

 起きる時間と言っても、わたしには考えられないスケールで驚きの声が出た。諏訪で畑仕事をしていたのはよく聞いてたけど、同い年なのに毎日わたし達のパパよりも早く起きて農作業していたなんて、やっぱり歌野ちゃんってすごいなぁ。

 

「この私としたことが……未来の農業王としてあるまじきミステイクだわ……」

「今は畑は無いんだし、気にしなくてもいいってば!」

 

 そしてそんなやり取りを間近で見て思わず笑いがこぼれる。何度目なのかもう解らないけど、こうしてなんやかんや言いながらも愉快に接し合う二人の姿が幸せすぎて、ほんの少し涙が滲む。

 

 この一時が本当に幸せだ。今まで顔も知らなかった友達と、ほむらちゃんと一緒にお喋りできる、他愛のないこの時間が。昨日もいっぱい話したと思うのに、ずっと言いたかった、話したかった言葉はほんの少しも減らないような気しかしない。

 

「……はい! できたよほむらちゃん」

「ワオ、暁美さんからほむらさんにチェンジしたわ」

「どういう関係なんだろ、ほんと……」

「……うん、ありがとう。やっぱりまどかに任せると良い出来だね」

 

 四人で話しながら、ほむらちゃんの三つ編みを作り終える。ずっと好きでやってきた事だから、髪を三つ編みにするのは完全にお手の物。ことほむらちゃんに対しては誰にも負けないと自負してる。

 

「えっへん、ほむらちゃんのお姉ちゃんですから」

「同い年でしょ」

「もう少しで14歳だもーん」

「誕生日、楽しみにしててね」

「えへへ、ありがと」

 

 一応わたしはほむらちゃんの姉ってことになっているけど、友達としての出会いが始まりだから、普段はその辺りの関係は正直意識してないんだよね。わたしもだけど。

 ただ、間違いなく家族だとは思っている。本当に大切な人で、ずっと一緒にいたい人。だからほむらちゃんが誕生日の事を考えてくれて、わたしのことを想ってくれていてすっごく嬉しい。楽しみで仕方がない。

 

「えっ? まどかさん、誕生日近いの?」

「10月3日です。それに4日は上里さんも誕生日なんです」

「リアリー!? まどかさんとひなたさんのバースデー!? なんてナイスなタイミングなの! おめでとうまどかさん!」

「ま、まだだよ、まだ……」

「それでもお友達の誕生日に直接おめでとうって言えるなんて、嬉しいよ」

 

 そして、今度の誕生日は今までとは違う。みんながいて、そこには歌野ちゃんが、水都ちゃんがいるんだ。

 

「寝坊なんかで落ち込んでいるヒマなんて無いわ! みーちゃん! 二人へのプレゼントを一緒にシンキングよ!」

「うん!」

 

 ……歌野ちゃん、水都ちゃん……もうとっくに、貰っちゃったよ。二人からの最高のプレゼントを……。

 生きてあなた達がここにいる。無事な姿のあなた達がわたしの目の前で笑っている。わたしがずっと望んでいた瞬間がここにある。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 身だしなみを整えて四人で丸亀城の食堂に移動する。さっきは少し道に迷いかけたけど、今度はまどかさんとほむらさんが一緒にいるからその心配は何もない。

 

「ここの食堂はセルフサービスなの。お金も大社からだから払わなくていいから、みんな好きな物を食べ放題できるんだよ」

「好きな物! それじゃあ私は当然蕎麦を……って、ワンダフル! トッピングもたくさんあるじゃない!」

 

 まどかさんは諏訪で通信していた時よりも、とっても明るい雰囲気で話しかけてくれる。声しか知らなかった頃とは違って、可愛らしい笑顔と一緒に安心感が伝わって、心がぽかぽか温かくなる。

 ほむらさんも、正直まだ大人しくなった暁美さんってイメージは結構残ってはいるけれど、それでもまどかさんと若葉さんの話に聞いていた以上に良い子だった。穏やかな紫の瞳に、人見知りの私でも一切不安を感じることは無くて、友達として打ち解けるのも時間はかからなかった。

 

「あとここではみんなで纏まって一緒に食べるようになっているんです。ほら、あちらに」

「おーい、こっちだこっちー!」

「タマっち先輩、海老天取りすぎ! 他の人の分も残さないと!」

「朝にまどちゃんとホムちゃんがこっちで一緒に食べるのって何だか久しぶりだね」

「…………眠い……」

「千景さん、2時間くらいしか眠れなかったんだっけ…?」

 

 もちろん他の勇者の方々や巫女のひなたさん、みんな良い人ばっかりだ。親切で、温かくて、来たばかりの私達をすんなりと受け入れてくれて、ここに一緒にいるのが当たり前だというかのように接してくれる。

 

 かつてのうたのんと二人っきりで、滅びを待つだけだった時の恐ろしさなんて、まるで夢だったかのようにどこにも無い。うたのんが守りたかった人はみんな生きている。うたのんが一人で苦しむ必要なんて無い。まだ全てが終わったわけでもないけど、今の私達にはとっても眩しい世界が広がっていた。

 

「あれ? 若葉ちゃんとひなたちゃんは?」

「エイミーちゃんと一緒に暁美さんを呼びに……そろそろ来ると思います」

「……大丈夫かな、ほむらちゃん……」

 

 ……私達を取り巻いていた世界は確かに良い方向に一変した。だけど、まだ全部を手放しで喜べた訳じゃない。暁美さんがしっかりと回復して、もう大丈夫だと分かるまでは……。

 

 そして食堂に若葉さんが入ってくる。頭の上にはエイミーちゃんが乗っていて、隣にはひなたさんもいる。暁美さんは、いなかった……。

 

「む、みんな既に集まっていたか。遅れてすまない」

「ううん平気! それよりほむらちゃんは……?」

「……それなんだが……」

「若葉ちゃん、立ち話もなんですし、ひとまず先に私達も朝食を取りましょう」

「う、うむ。もう少しだけ待っててくれ」

 

 ひなたさんからトレーを手渡されて、急ぎ足でうどんをどんぶりに入れる若葉さん。ただトッピングを乗せる若葉さんの表情、なんだか曇っていた。

 そして二人ともうどんを乗せたトレーを運んで私達のいるテーブルについた。

 

「……さて、何から言えば良いものか……」

「だったら私から言わせてもらうわ!」

「う、歌野…?」

 

 話を切り出そうとした若葉さんを遮って勢い良く立ち上がるうたのん。さっきまでの蕎麦を前にして緩んだ顔なんかじゃなくて、キリッとした真剣その物な眼差しでみんなを見渡す。みんなの視線もうたのんに集まる中、満を持して再度その口が開かれた。

 

「どーしてみんな揃いも揃ってうどんなのよ!!!?」

 

 神妙な面持ちになってまで言うことがそれなの!?

 

「若葉だけじゃない…! ひなたさんも球子さんも杏さんも友奈さんも千景さんもUDOOON!!! まどかさんもほむらさんも流れるようにうどんを選んで……ホワイホワイホワーーイ!!!!」

「……そんなの決まっているだろう。ここは……香川県。我々の総本山だ」

「……まさかここにいるの全員……若葉と同じ…うどん党!!? まどかさん!! あなたはうどん党ではなかったはず……」

「え、えっとね……わたしとほむらちゃんは基本朝はお家で、お昼もパパのお弁当なんだよね……。だから普段食堂のご飯って食べられないし、いつもみんな美味しそうに食べてるから……つい……」

「そ…んな…………ほむらさんもそんなリーズンで…!!?」

「えっ!? わ、私は……」

「残念だったな歌野。ほむらは最初から我々うどん党の一員だ!」

「オーマイガーーッ!!!!」

 

 ……うたのんは四国に来てもうたのんのままだね。若葉さんもうたのんに触発されたのか、急にノリノリになってるし。

 

「……なんてこと……! みんなに蕎麦党のシードを蒔いて、ゆっくりじっくり育てる華麗なるプランが最初から破綻していたなんて……!」

「ふっふっふ、大方まどかの妹なら同様にうどん党ではないと高を括っていたのだろうが、当てが外れたな!」

「ぐぬぬぬぬ……!」

「……あれ? 私乃木さんに何かのマウントを取るためのだしにされてる……」

「……………うどんだけに」

「ぐんちゃん、何か言った?」

「……あのぅ、若葉さんと歌野さん、さっきから一体何をしてるんですか?」

「しらね。麺が延びるしそろそろ食べないか?」

 

 こうなってしまった二人を止めるのはとっても骨が折れる。土居さんの言う通り麺が延びることになっちゃうから、諦めてうたのんと若葉さんを除くみんなで合掌、いただきますと言って、私は目の前の蕎麦に手を着けた。

 

「……それでヒナちゃん。ほむらちゃんは……」

「まだ体調は優れないんですか?」

 

 確かにずっと気になっていた。若葉さんとひなたさんは暁美さんを呼びに行ったはずなのに、その暁美さんはこの場にいない。それに、若葉さんも何か辛そうにも見えたし……。

 

「実は……」

「………?」

「……暁美さんが行方不明になりました」

「「「「「「「え?」」」」」」」

 

 それはあまりにも予想外すぎた。みんなにとっても考えもしなかったことだろう。若葉さんと論争していたうたのんも固まって、青冷めた表情でひなたさんを見つめていた。

 

「保健室はもぬけの殻……こちらに向かう直前まで丸亀城の敷地内を回ったのですが、そのお姿はどこにも……」

「ちょ、ちょっと待てよ…! 行方不明って何だ!? なあ友奈、あいつ寝込んでたって言ってたよな!?」

「えっ…! 寝込んで……う、うん!」

「……それ、何だかおかしくないですか…? 体調が悪いのに一人でどこかに…いなくなるなんて……」

「……ゆ、誘拐…だったり…?」

「…そ、それもおかしいと思う。丸亀城に部外者が入るなんて……」

 

 みんな慌てふためいて、みんなの好物だっていううどんに手付かずのまま。私も到底蕎麦を味わえる気なんて全然感じなくて、ただただ不安だけが募っていく。

 

「……暁美さんの盾は…? 昨日みたいにあの盾の中に入ってるってことは……」

「わかりません。誰もそれらしき物や暁美さんを見た人はいません……ただ、外には大量の長野県ナンバーの車が停められていました」

「それって暁美さんの盾に入れてもらった……!?」

「その可能性は極めて高いはずです。暁美さんはおそらく、自らの意思でここを立ち去ったのかと……」

 

 ……自分から、ここからいなくなった? この四国の勇者達に合流して、人々の前に立ってバーテックスに反撃できるようになったこのタイミングで……。

 

「記者会見を控えている以上、大社に捜索をお願いすることは難しいですし、どうすることもできないのが現状です」

「………」

「……でも、エイミーはここにいたままってことは、後でちゃんと戻ってくるつもりなのでは……」

「……そうだと良いのですが……」

『………』

 

 ……一体どうしちゃったんだろう、暁美さん。私達に何も言わないままいなくなって……。

 結局良くない空気が残ったまま、私達は朝食を食べた。もしこの食堂に暁美さんもいたら、みんなで楽しく明るい気持ちのままだったんだろうって思うと、余計に残念な想いは大きく感じてしまう。

 

 

 

 そして午前10時になって、うたのんや若葉さん達勇者のみんなが記者会見の支度を始めた。記者会見は暁美さん不在で行われることになった。元の予定では八人の勇者が出る手筈で世間にもそう伝わっているから、肝心の人々を護る勇者が一人欠けていたら、それはマイナスの印象を与えてしまうのは避けられないかもしれない。

 みんな頑張っているのに、もしかしたらその事で無責任だって酷い事を言う人が現れるかも知れないと考えると悲しくなって……その時だった。

 

「………上里さん、これ」

「千景さん? 何でしょう……っ!?」

 

 携帯をいじっていた郡さんがそれをひなたさんに渡す。そして画面を見たひなたさんが目を見開いて……

 

「若葉ちゃん! 皆さんもこれを!」

「どうしたんだ、ひなた、千景……っ!」

「これって……!」

 

 みんなひなたさんの周りに集まって画面を覗き込む。それは全く知らない人のSNSの書き込み。貼り付けられた二枚の画像に私達は驚きの声を上げた。一つは昨日の夜に流れたニュースの一場面、四国の勇者のみんなの顔写真と名前が明かされた時の……そしてもう一つが……。

 

『例の勇者の一人じゃね? 鹿目ほむらって子。写真と髪形とか違うけど同じやつだろ』

 

「暁美さん…!?」

 

 隠し撮りのように撮られた画像。今世間の話題になっている人物を見かけたって、確かにその写真に写っている女の子の顔は、私達が知っている顔。そして今もすぐ側にいて一緒に画面を見ている子と同じだった。

 ニュースで顔写真と名前が明かされたのは大社が写真を持っていた六人だけ。うたのんと暁美さんについてはまだ、他の地域の勇者もいるって事しか公になっていない。だからこれはほむらさんの目撃情報として上げられているけど……!

 

「暁美…だよな!? ほむらはここにいるもんな!?」

「制服が…暁美さんのものです、これ」

「ほむらちゃん……っ」

 

 ……暁美さん、本当に知らない所に一人で行ってた。昨日体調を崩したばかりなのに、朝早くからいなくなって……。

 画像に写っている暁美さんは物憂く佇んでいる。鮮明とまではいかない画像だからはっきりとは読み取れないけど……今までの暁美さんと雰囲気が違うような…?

 

「ん~、このピクチャーの場所ってどこなの? 私にはチンプンカンプンだわ…」

「背景のお店に看板ありますね。店名は……検索します」

 

 携帯を取り出すほむらさんを固唾を飲んで見守る。すぐに表示された検索結果を見てほむらさんは深く息を吐いた。

 

「ヒットしました。場所は香川県の観音寺市、八幡町……観音寺はここから25キロほどの距離になります」

「観音寺市……そこにほむらちゃんが…」

 

 私には分からない地名が出てきたけど、言われた通りの距離ならそう遠くまで離れてはいない。

 

「そこまで近いんだったら、今から連れ戻しに行けばいいんじゃないか?」

「っ! た、球子、それは……」

「……不要よ。そもそも自分からいなくなったってことは、あの女にここにいる気が無かっただけでしょ」

「千景さん、暁美さんを悪く言うのはやめて。ほら、朝のウォーキングで慣れない道で迷子になっただけかもしれないじゃない」

「普通、来たばかり町を一人でウォーキングはしないと思いますが……」

 

 連れ戻す……それなら急げば、暁美さんも無事に記者会見に間に合うかもしれない。暁美さんの力は彼女に力を与えた北海道の神様の影響か、うたのんだけじゃなくて若葉さん達四国の勇者よりもかなり勝っているらしい。それに諏訪のみんなを救った実績だって……。

 リーダーは若葉さんだけど、暁美さんの存在は間違いなく大勢の人々にとって希望になる。

 

『……どういたしまして。といっても、勇者として当然の事をしたまでよ』

『ここの人々を助ける方法……それを見つける前に自分勝手にここから去ったら、私は大切な人達に合わせる顔がない』

『なせば大抵なんとかなるものよ。できる限りの事は協力するわ』

 

 ふと、暁美さんの優しい言葉を思い出す。人としての思い遣りに満ち溢れた暁美さん……彼女は……

 

「あの! 私、暁美さんを連れ戻しに行きます!」

「み、水都!?」

 

 暁美さんは必要な人……人々を未来に導くために、私達にとってなくてはならない人だ。

 

「暁美さんがいなくなった理由は分かりませんけど、暁美さんのことは私、よく分かっているつもりですから。あの人は誰かの期待を裏切るような、そんな人なんかじゃありません」

「ぐっ…!」

「若葉ちゃん、わたしも行くよ」

「まどかさん……」

「水都ちゃん一人じゃ道とか難しいかもだし、わたしもやっぱり、あの人の事が心配だから……」

 

 

「よせ!! やめてくれ!!」

 

 

 部屋を静寂が包み込んだ。誰もが息を飲んで、たくさんの驚愕の目が彼女に集まった。

 

「……若葉…さん……?」

「……やめてって……どういうこと……?」

「っ!? いや…それは……!」

 

 視線を向けた若葉さんは顔を真っ青にしている。明らかに失言としか思えない言葉と態度に、誰も、わけが分からなくなっていた。

 

 ただ一人を除いて。

 

「若葉ちゃん」

「……ひなた…」

「私もお二人に同行します。若葉ちゃんと他の皆さんは引き続き、記者会見のお支度を」

「そんな……それでは…!」

「最初から隠し通せることではありませんでした。どう取り繕っても、いずれすぐ……分かってしまうことです」

「………」

「皆さん、驚かせてしまって誠に申し訳ありませんでした。ただ、若葉ちゃんは皆さんを無闇に不安に陥れ悲しませたくなかっただけなのです」

 

 ひなたさんの不穏な言葉と、若葉さんの慌てよう……。誰も口を開けないで動けない。ただ、部屋の隅にいたエイミーちゃんだけがふわりと浮かび上がってひなたさんの側についた。

 

「行きましょう、まどかさん、水都さん」

「えっ…あの…!」

「ひなたちゃん…?」

「……あなた方には先にお伝えします。若葉ちゃんが聞いた、暁美さんの本音を」

「暁美さんの……本音?」

 

 ひなたさんに連れられて部屋を出ても、不穏な空気は欠片も消えなかった。まどかさんも不安と困惑が入り混じった様子でついてきて、同じような私と目があった。

 

 ただ猛烈に、嫌な予感しか感じられなかった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

「……何だったのよ、結局……」

 

 乃木さんと上里さん、一体何を隠してるの? 十中八九あの女(暁美ほむら)絡みだろうけど、例によって嫌な予感しかしないわ。

 

「……勇者をエゴサするんじゃなかったわ……」

 

 たまたまあんな投稿を見つけてしまったせいで変な空気に……高嶋さんが不安そうにしてるじゃない。

 忌々しく思いながらも諸悪の根源となった投稿を睨み付ける。注目されてかいろんなコメントが付いたり拡散されたり……あの女の事が広く知れ渡り始めて、余計に腹も立つ…………ん?

 

『勇者ー! 後ろ後ろー!』

『何これ気味悪い……』

『なんで勇者と霊の心霊写真撮れてんだよww』

『(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル』

 

「……心霊写真…? ………っ!!?」

 

 何故今まで気付かなかった…!? 何故彼女達もみんな気付かなかった…!? 暁美ほむらだけを注目して見ていたから他を見落としたか……!

 

 画像の端に小さく写っている、靄に包まれているような真っ黒な人影。辛うじて見える顔面は真っ青で、真っ赤な口は裂けているかのように大きい。

 そしてその手には先端が酷く曲がったかのような棒……否、あれは棒なんかじゃない。あれとは違うけど、もっとしっかりした形の物を武器とする私には分かる。あれは……鎌。命を刈り取る凶器を手にした人型のナニカは、暁美ほむらだけを見つめていた。

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