ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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 まず最初に謝ります。本ッッ当にスミマセン!!!!
 すっごい痛い!! 書いててすっごく胸が痛かった!!


第五十七話 「接触」

「……暁美さんが……そんなことを…!?」

「今朝若葉ちゃんが直接彼女から聞かされたそうです。記者会見を控えた皆さんを困惑させる訳にはと、今まで黙ってましたが……申し訳ありません」

「な、何かの間違いじゃないんですか……!」

「……水都ちゃん……」

『~~! ~~!』

 

 観音寺市に向かう電車の中。これからあの方と向き合わねばいけないためお二人に伝えましたが……水都さんには、酷な話をしてしまいました。私や若葉ちゃん、皆さんとは違い、水都さんと歌野さんはここ数日間あの方と行動を共にされていました。更にはお二人や諏訪の人々が生き残れたものは暁美さんに依るところが大きい……単純に言えば、暁美さんは彼女達の命の恩人に他ならないのです。

 

 そんな暁美さんが、人々の希望として前に出ることを気に入らないと一蹴し、記者会見を拒絶……。多くの人々の期待と想いを背負うはずの勇者がそんなものなど知らないと平然と言い放ち、勇者の存在自体も神様の便利な駒であると侮辱されたなど……断じて信じたくはないでしょう。

 

「……暁美さんは……これまでにうたのんを馬鹿にしたり嘲ったり、そんな事は一度たりともありませんでした……むしろ……」

「……ひなたちゃん。わたしも正直、その、信じられないよ……」

「まどかさん……」

「暁美さんはまだ出会ったばかりで、ちゃんと話もできてないよ…? 知らない事だらけだけど………でも、信じたいよ……」

『………』

 

 まどかさんも反論なさいますが、残念ながら確信を得るような根拠は持ち合わせていないようでした。おそらく、暁美さんを同一人物であるかのように似ているほむらさんと重ねておられるのでしょう。

 昨夜お聞きになられた諏訪でのエピソードを認知してから、まどかさんにとっても暁美さんの存在は恩人に近い。ご自身の最愛の家族と極めて酷似している外見を持ちながら、決してどんな人も見捨てない優れた人格者……これ否定されてしまったとなればまさに信じていた方からの裏切りに……。そして残るは、妹と同じ姿をした無情な人……まどかさんにとっても受け入れ難く、辛いものは大きいはずです。

 

「私も若葉ちゃんも、暁美さんを信じたいという想いはお二人と一緒でした。だからこそもう一度、今度は私も腹を割って話をするべきだと思い若葉ちゃんと共に暁美さんを追求しようとしたのですが……」

「その時には、もう……」

「はい。暁美さんが丸亀城からいなくなられた後でした」

「……暁美さん、誰にも何も言わずに……」

「若葉ちゃんに直接思想を暴露した直後の失踪です。……おそらく、あの方は丸亀城に戻る気は無いのだと思われます。すなわち私達に協力する意思も人々を護る責任の放棄と同様、稀薄なのです」

 

 いつか必ず明らかになる時が来るとは言え、それを皆さんに知られる訳にはいかなかった。先導して人々を守り戦う勇者であると宣言する当日に、皆さんを困惑させて精神を疲弊させる訳にはいかなかったのです。暁美さんの記者会見不参加だけならどうとでも理由をでっち上げる事はできました。昨日の事で体調不良は周知の事実だったのですから。ですが失踪されただけでなく、まさか偶然SNS上に拡散されて水都さんとまどかさんが連れ戻しに向かう事になってしまうとは……。

 

「ま、まってひなたちゃん…! ほむらちゃんが言ってたよね? エイミーは丸亀城に置いたままでどこかに行ったってことは、ちゃんと戻る気があるかもって…」

「確かに、エイミーちゃんは暁美さんの精霊と呼ばれる存在……。若葉ちゃんやほむらさん、勇者の皆さんが神樹様にアクセスして強力な力を顕現させる“切り札”もまた精霊と呼ばれるものが起因しています。この子がもたらす恩恵の有無は分かりませんが、そう易々と手放して良い存在で無いことは間違いないでしょう」

「だったら決めつけるにはまだ早いよ…! 偶々外に出て行っただけかもしれないでしょ…? 若葉ちゃんに言った事が本当だとしてもだよ? それって記者会見に出るのが嫌だってだけで、わたし達に協力する気その物が無いって言い切れないよ…!」

『………』

 

 ……まどかさんの主張は、エイミーちゃんを丸亀城に置いてきたままだから暁美さんは私達の元に戻る気はあった……

 

 しかし、暁美さんと行動を共にしていた水都さんと歌野さんから昨夜聞いたはずです。普通の猫や犬ならその主張は通りますが、このエイミーちゃんは普通ではない存在なのですから。

 

「まどかさん……エイミーちゃんは暁美さんの精霊です。飼い主の迎えを待つようなペットなどではないんですよ」

「え…?」

「……そうだよまどかさん。この子はいつでも、私達の前からパッと消えて居なくなれるんだよ。それですぐに、暁美さんの側に一瞬で出て来れるの」

「…あ……」

 

 エイミーちゃんは神出鬼没……忽然と目の前から煙のように姿を晦まし、そしていきなり暁美さんの側に召喚されるかのように現れるのです。丸亀城にエイミーちゃんを置いていったところで、この子は自力で彼女の元に戻ることが出来ます。わざわざ彼女が丸亀城に戻る必要なんて、どこにもないのです。

 

「そうですよね、エイミーちゃん」

『………』

 

 心配そうにまどかさんと水都さんの顔色を伺うかのように下から覗き込むエイミーちゃんに訊ねると、ゆっくりとその頭を下げていました。エイミーちゃんは猫ではなく精霊なのでとても賢いという表現で良いのかは分かりませんが、私達人間の言葉を完璧に理解できています。

 その結果、頷いたのですこの子は……やはりいつでも暁美さんの元に戻れるということです。寧ろ今こうして私達に付いて来ていること自体少々意外でしたが、お二人を気遣うような身振り素振りから察するに、この子はまどかさんと水都さんが少なからず傷付いてしまう事が分かっていたから……でしょうか?

 

 ……俯いて悲しげに呟かれるまどかさんと水都さんの姿が痛ましい。

 水都さん達を救い、人々の生存に尽力しながら数日間行動を共にした暁美さん。若葉ちゃんの人類のための頼みを払いのけ、彼女の故郷の人々を見下し想いすらも躊躇無く切り捨てた暁美さん。

 

 何故こうも180度正反対なのです……。水都さんと歌野さんの知る暁美さんなら、私達は間違いなく信じることができるでしょう。

 

 しかし後者なら、恐ろしい。若葉ちゃんが話した暁美さんが本当なら、もしかすると、彼女は故郷の北海道の人々に感慨を持っていない……そんな可能性が存在するのではないのでしょうか…?

 

 北海道を護る勇者は暁美さん一人のみ。ところが北海道は既にバーテックスに滅ぼされたとのこと。暁美さんは北海道でバーテックスに敗走し、たった一人生き残り諏訪に逃げ延びた………

 

 …………考えたくはありません。ですが、暁美さんの思想から一つの疑念が生まれてしまう。負の感情とは恐ろしいものです。一つの悪い点を見つけてしまえば、他に有ったりしないのかと不安で新たな悪い点を探ってしまう。見つけてしまった所で、何も良いことなんて無いと分かっているのに……。

 

 あの方は本当に、北海道の人々を護るために戦っていたのでしょうか? どうでもいいと思っている人のために、その命を懸けて戦っていたのでしょうか?

 

 本当は彼女は北海道の土地も、力無き人々の命も、使命も、全てを捨ててきたのではないのでしょうか……?

 

「……エイミーちゃん、暁美さんは『次は、観音寺。観音寺です。お出口は』……」

『………?』

「……ひなたちゃん?」

「……いえ、なんでもありませんでした。お気になさらず」

「観音寺……確かここで……」

 

 ………これ以上の邪な考えは止しましょう。これは私の勝手な憶測。これ以上なく最も最悪で卑劣極まる最低な印象を当てはめようとする、暁美さんへの侮辱とも取れる行為です。

 第一、北海道の人々を見捨てておきながら、諏訪の人々の命を救っているというのは矛盾しているではないですか。それこそ命懸けで、疲労困憊で倒れ込んでしまうほど戦われるなんて……。

 きっと、今の私の考えは正真正銘、あってはならない愚かな勘違いなのですよ……。

 

 目的地である観音寺の駅に到着し、電車から降りる私の後ろを明らかに重い足取りで付いて来るまどかさんと水都さん。心構えをしていただくため説明は不可欠だと思ったのですが、そう簡単に割り切れる事ではありません。

 

「お二人とも、大丈夫ですか?」

「……うん」

「……元々私から暁美さんに話を付けるつもりでしたし、任せてもらっても結構ですよ?」

「…ううん、大丈夫! 暁美さんはきっと良い人だもん…!」

「水都ちゃん…」

「……言うはずがないんだよ……あんなに優しかった人が……四国に無事に辿り着いて私達が助かって、笑顔でおめでとうって言ってくれた人なんだよ…!」

「……本当に、信用なさっているのですね」

 

 私自身、暁美さんの本心を直接聞いた訳ではありません。若葉ちゃんが聞いたから……それだけで私が暁美さんをどう思うのか、理由は十分のつもりでした。

 

「彼女が水都さん達の知る暁美さんであると確信を得て一緒に帰りましょう。若葉ちゃんの勘違いだと笑い話にできるように」

「…っ、はいっ!」

「それだと若葉ちゃんが少し可哀想な気が……でも…ふふっ、そうだね。それなら若葉ちゃんが悪者になった方がみんな幸せになっちゃうね」

「ええ! 若葉ちゃんも暁美さんも含め、皆さんが」

 

 水都さんがこれほどまでに心を痛め、熱く語ってくださったのです。本当に冷酷な方なら、ここまで庇う理由など無いはずです。

 大切な友人の想いを無下にする訳にはいきません。私も直接彼女と話し、その本当のお気持ちを見極めなければなりません。この際若葉ちゃんが間違えていたで全然構わないのです。罪悪感で悶えることになるのでしょうが、それを慰めるのもまた一興ですし♪

 

「それで暁美さんはこの町のどこにいるんでしょうか?」

「………どこでしょう? そもそも今も観音寺市にいるのでしょうか?」

「ええっ!? ちょっ、ひなたちゃん!?」

 

 ……肝心な事が抜けていました。電車を利用したので千景さんが例の投稿を見つけてから30分も経たずにこの場に来れたのですが、その時間分暁美さんもどこかへ移動している可能性大です。

 新たな目撃情報を求めてSNSを探れば良いのでしょうか…? 運頼みで時間もかかるでしょうが、それしか方法が……

 

『……!』

「あれ? エイミー?」

『……! ……!』

「え、エイミーちゃん…!? ま、まってよ…!」

 

 突然何かをアピールするかのように飛び回るエイミーちゃん。そして次の瞬間何の迷いもなく、真っ直ぐ前方の道を突っ切って行ったのです。

 慌てて私達はエイミーちゃんの後を追いかけます。幸いにもそこまで速く飛んでいる訳ではないので走る必要はありません。途中チラチラと私達の方を振り返る様子も見せているので、先程のアピールはどうやらエイミーちゃんは付いて来てほしいというもので良いでしょう。

 

「もしかして、暁美さんの居場所が解るんですか?」

『!』

「そうみたいだね…」

 

 なんと、まあ……流石は精霊と言うべきでしょうか? ここまで付いて来たのは私達を案内するためでもあったのですね。水都さんは諏訪出身、まどかさんも3年前にご家族と丸亀市に引っ越しって来られたばかり。私も観音寺に来るのはこれが初めてではありませんが、土地勘が明るいという程ではないのでエイミーちゃんには大助かりです。

 

「……どこまで行くんだろ…」

「千景さんの見つけた情報じゃ八幡町だったよね……。標識だともうそこに着いたみたいだけど……」

「もう2キロくらい歩いてるんじゃ……」

「エイミーちゃんの動きに迷いはありません。確実に暁美さんの元に近付いているはず……っ!」

 

 休みなしで歩き続ける私達に少々疲労の色が見えだした頃、私達は遠くに一人の女の人の姿を捉えました。

 

 真っ黒な黒髪を靡かせる後ろ姿が……。目の前の学校、観音寺中学校の前で茫然と立ち尽くしている、私達の探し人が。

 

「暁美さん……」

「……上里ひなた」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 私って、どうしてこんなことになっちゃったの……。

 

 町中を彷徨い歩きながら私は考える。この町は私が13年間過ごしてきた故郷の讃州市……ではなく、『観音寺市』と違う名前だった。私の故郷があるはずの場所なのに、違う名前の町が堂々と鎮座している……どうしようもない不愉快を感じ、同時に激しい虚無感に包まれた。

 

「ここも……」

 

 どうして私がこんな偽物の町にいるのか……自分でも分からない。現実に絶望して、そこから逃げるようにあの城を飛び出した。そして気が付いたらこの町にいた……もう何時間も宛もなく、偽物の町を歩き回った。土地に面影はある……けれども致命的に違う、モノクロのこの町を……。

 

 私の家があるはずの場所は駐車場だった。友奈の家と東郷の家がある場所には別の知らない建物が建てられていた。風先輩と樹ちゃんが住んでいるマンションは無く更地だった。夏凜のマンションはあったけど、ここにあの子はいない。誰もいない。

 みんなで何度もうどんを食べに行ったかめやも、楽しい思い出を作ったカラオケ屋も……。勇者部の活動で何度も回った私の故郷が……故郷じゃない……。

 

「うっ…うぅぅ……!」

 

 幸せだった。友奈に出会ったあの日から。友奈と東郷と友達になってから。東郷が作ったぼた餅を友奈と取り合った、子供みたいに過ごした時間が。風先輩に勇者部に誘われた日から。世のため人のためみんなと勇者部の活動に勤しんで、多くの人達から心からの笑顔を貰ってから。ただの学校生活でさえ毎日が楽しい事で満ち溢れていて、クラスメイトとの何気ない会話だって充実していた。樹ちゃんを先輩として導くのだって、どんどん立派に成長していくあの子を見ていれば嬉しさでいっぱいになった。夏凜が何事にでも一生懸命で素直になれない不器用さを持っていながらも、その頼もしさは私達のすぐ隣にあって、彼女と友達になれた運命に感謝だってした。

 

 これまでのことがあったから、私は過酷な戦いを頑張ってこれた。例え痛覚を、心臓を、体温を失ってしまっても、大切なみんなが側に居てくれるなら何も惜しくない。恐くない。私が大好きな存在を護れるなら、散華なんてどうでもいい。何を失ったって構わない。だってそうすれば私の隣にはみんなの笑顔があったんだよ……?

 

 ……それなのに……どうして……?

 

 どうして体温だけじゃなく、色覚までこんな所で失ってしまったの…? どうしてこんなどうでもいい所で二回も散華したの……?

 体温の散華はまだ、納得することはできた。いくら違う世界とはいえ、あのまま放っておけば何百何千という犠牲が出ていた。勇者部の誇りにかけて、業腹であってもあれが最善の手だったとハッキリ分かり切っているから飲み込めた。

 

 それで…私の役目は終わりで良いじゃない!! 私をみんなの元に返してくれても良いじゃない!!! 訳が分からないまま殺されかけて、命からがら逃げ出して、私は世界の色を失った!!!

 四国にまで辿り着けば私の願いは叶うと思っていたのに、大勢の人間の救助に協力したというのに、その見返りがこれなの!!?

 

 私の戦場はここじゃない!! この世界には私が守りたい存在なんて何一つありはしない!! 求めてない!!

 

 

 

 

 

 

 ……なのに…何なのよ……この狂った運命は……。

 

 曰く付きだった私の勇者システム……それはこの時代から遺されてきた物だった。300年も昔のこの時代から、私に専用の勇者システムが送られていたなんて衝撃の事実を知ってしまった。乃木若葉が言うには、この時代の勇者の誰よりも圧倒的に優れている勇者システム……そのルーツを考えれば答えは一つしか考えられなかった。

 

 繰り返されていた。私、暁美ほむらが時間遡行するのは……。私が今持っているこの勇者システムは、私じゃない()が使っていた……。そして今度は別の……更に未来の()に受け継がれるよう、運命はループする……。

 

 勇者なんて、変身するための勇者システムが無ければただの人。勇者システムを手放すなんて、ただの人間となった私はみんながいる元の世界に戻れるのか……きっと、戻れない……! あの傲慢な神が人間の望みを叶える訳がないのは昨日分かったじゃない!!

 

「駄目だ…駄目だ…駄目だ…駄目だ…駄目だ……」

「ちょっと何アレ……」

「独り言? 気味悪っ」

 

 帰らないと…みんなが悲しむ……。私達は六人で勇者部……誰一人として欠けちゃいけないのに……。

 まだまだたくさん、やるべきことは残っているのに……。まだまだたくさん、話したいことはいっぱいあるのに……。

 

 何よりも、私はまだ……あの子に……っ!

 

「───て、ないのに……!」

 

 

 

 観音寺中学校……ここもやっぱり違う……。校舎の形は非常に似通っている。というか、おそらくこれが後の讃州中学になるのかもしれない。

 でも、今のこの学校には勇者部なんて部活動は存在していない。勇者部は風先輩が作った部活だから……私達の大切な…居場所だから……! 

 

「……会いたいよ……みんなぁ……!」

「暁美さん……」

 

 ………私の名前を呼ぶ声……だけど、あの子達の声なんかじゃ…ない……。

 

「……上里ひなた」

「暁美さん…!」

「……まど……鹿目まどか」

「暁美さん。探しました」

「……藤森さん」

 

 私が会いたいのはあなた達なんかじゃない。

 

「……エイミー、あなたね?」

『………』

「相変わらず好き勝手やってるのね。どうして彼女達がここにいるのかしら?」

『……! ……!』

「……いいわ。何を言ってるのか全然分からないもの」

 

 無駄に人懐っこい性格のせいで、どうでもいい人達と引き会わせるなんて困った精霊だ。私の精霊ならそれくらい察してほしいものなのに、嫌に頑固な子だ。

 

「暁美さん、どうして突然居なくなられたのですか」

「そうだよ。何も言わないまま出て行って、みんな心配してたんだよ…!」

「……別に、心配してほしいとも探してほしいとも頼んだ覚えはないわ」

「心配するに決まってるじゃないですか! 暁美さん、昨日の戦いが終わってからずっと体調が悪かったんでしょ!?」

 

 ……あの子達が普通に言いそうな事だわ。やっぱり彼女達はみんなと芯の部分が似ている。お節介で、優しくて、人を信じて思いやれる。

 

 非常に不愉快だわ。みんなの代わりに彼女達で心の隙間を代用して埋めろと言われたようで。

 

「とにかく、一緒に丸亀城に帰りましょう? 若葉さんの…」

「何故?」

「え、な、何故…?」

 

 あんな所にいた所で私に何をしろと言うのかしら? 乃木若葉には協力しない旨を既に言った。薄情と言われたところでもう知った事じゃない。この時代は彼女達の時代であって、私にとっては忌むべき世界……もう何もかもがどうでもいいのよ。

 

「……ハァ。藤森さん、私諏訪で言ったわよね? できる限りの事は協力するって」

「はい。おかげでうたのんもみんなも助かって」

「できる限りの事は協力し終わったわ。もう私があなた達に手を貸す義理はどこにも無い」

「………え…?」

「他の勇者達に伝えておく事ね。後はあなた達で勝手に戦って頂戴」

 

 三人とも言葉を失い目を見開く。乃木若葉から聞いていないのかしら? リーダーなのに報連相もまともにできていないとしたら、全然リーダーに相応しくない。無駄に熱血で生真面目な性格かと思えば実は無能。それで乃木さんの先祖ですって? 笑えないわ、全く。……そういえば暫定のリーダー……だったわね。

 

「……暁美さん、それは本心で仰るのですか?」

「本心に決まってるじゃない。どうしてこれ以上関係無いもののために命を張らなくちゃいけないのよ」

「…っ、勇者がたくさんの人達にとっての希望だからだよ! バーテックスを倒して、人々が平和に暮らせる世界を取り戻すためだって、暁美さんも…!」

「姦しいわよ鹿目まどか。あなたは……あなた達は確か、巫女だったわね。命を賭けもしない勇者の腰巾着のクセに、偉そうな事を言うのね」

「っ!?」

「それに今の、何も私が戦わなくてはいけない理由になってないわよ。勇者は誰であろうとも関係なく、死ぬ気で戦って平和の為の礎になれと……仲間や妹の事を何だと思ってるの?」

「違っ…!?」

「違わない。私はね、妹や仲間の為ならそれこそ全ての責任を受け止めて、全てを敵に回そうとした人を知っている。あなたは……何? 言うに事欠いて結局全てが他人任せじゃない」

「そんな……わたしは……」

 

 どの時代も変わらない。勇者は実に都合のいい道具だ。中学生を……小学校を卒業したばかりの樹ちゃんですらためらい無く矛に仕立て上げようと画策し、それを正当化させる連中が蔓延っている。元の世界でもはらわたが煮えくり返り、ここでもその風潮を広めようとしている。実に屑共の巣窟としか思えない世界だわ。

 

「な、なんでそんな酷い事を言うんですか!?」

「事実よ。藤森さん、あなたはよく知っているはずよ?たった一人の勇者だから、白鳥さんは何度も何度も戦って傷付いた。勇者は生け贄よ。その他大勢が生を貪るための」

「やめてよ!!! どうしてうたのんをそんな風に言えるの!!? うたのんがどんな想いで戦ってきたのか、暁美さんは知ってるんじゃなかったの!!?」

「そうね、彼女が持っているものはとても立派な志だとは思うわ。勇者という言葉も眩しいくらい似合ってる。でも彼女が大勢にとって都合のいい道具である事実は変わらない」

 

 感極まってか、藤森さんの目から涙がこぼれ落ちる。……本当にどうでもいいのね。あの涙を見ても、何の感情も湧いてこない。罪悪感も感じない。数日間一緒にいた人間であっても、勇者部のみんなと比べたら全く。

 

「……友人であろうとも容赦なく言葉の刃を突き立てるとは……見損ないました!」

「……友達? 私が? 高嶋友奈と同じ事を言うのね。本っ当に不愉快……」

「友奈さん……?」

 

 ……何よこの反応。今の私の言葉と昨日高嶋友奈を拒絶した事、簡単に結び付きそうなものなのに。

 

「……高嶋友奈から聞いてないの?」

「……何のことですか…?」

「……そう……友奈なら、そうなるものなのかしら……どこまで人の心を踏みにじれば気が済むのよ…!」

「………っ!? まさか昨日!? 友奈さんに何を言ったのですか!」

「……本人に聞けばいいじゃない」

 

 友奈と同じ顔で、声で、いかに友奈が言いそうな事を言う高嶋友奈……その存在はただひたすらに不快よ。それに、私がこんな所にいる元凶の一人……! 思い返すだけでも怒りがこみ上がる!

 

「友奈さんまで……! ……とても…残念です…! 若葉ちゃんが言っていた事は本当の事だったのですね…!」

「……なんだ、ちゃんと乃木若葉から聞いていたのね。てっきり頼りない無能なリーダーを持ったと思ってあなた達を哀れんでいたもの」

「……今何と仰いましたか? 若葉ちゃんが頼りない……無能……ですって?

 

 …………怖っ、突然何? というかそれを撤回してあげたのだけど。でも経験上分かる……これを説得するにはかなりの労力が必要だわ。だったらわざわざ説得する必要は無い。たかが巫女一人の怒り、どうってことはない。

 

「嘘だ!!!!」

 

 突然、藤森さんの叫びが木霊する。目にいっぱい涙を溜めて、それが溢れて絶え間なく流れ続けている。

 

「暁美さんは私達を助けてくれたのに!! うたのんの背中を護ってくれたのに!! 私達の叶わない夢を叶えてくれたのに!!! あんなに優しかったのに…どうしてなの暁美さん!!!」

「藤森さん……」

 

 ……あれ……? 藤森さん、どうして泣いてるんだっけ……? あんなに苦しそうに……心から悲しんでいる。私が……あの子を泣かせた…?

 昨日長年の願いが叶って、歓喜の涙を流していた彼女が、今はそれとは正反対の涙を……私……

 

「お願いだから……嘘だって言って!!!! 私達を助けてくれた時の優しい暁美さんに戻ってよ!!!!」

「……私……っ…」

 

 

 

「こんなの……暁美さんの故郷の大切なお友達だってきっと悲しむよ!!!!」

 

 私の心の中に湧き出ていた罪悪感が一瞬で霧散した。代わりにマグマのように煮えたぎった怒りが私の心を包み込んだ。

 

 直後、学校の屋上から真っ黒な影がこちらに瞬時に飛来する。不気味なほどに目を見開き、裂けているかのように大きい口はまるで残酷な笑みを浮かべているよう。そしてその手には、姿同様真っ黒な鎌が握られている。

 

「……………え?」

 

 そいつは……四度目の満開で新たに現れた()()使()()()は、その鎌の刃を藤森水都の首筋に当てた。小さな赤い雫が垂れる。

 

「『………取り消せ』」

 

 私の口から……使い魔の口から同時に言葉が紡がれる。夥しい殺気のような怒りを放ちながら……鹿目まどかと上里ひなたも状況を把握できないのか微動だにしていなかった。

 

 藤森水都は……

 

「『何も知らないあなた如きがッ!!!! あの子達の事を口にするんじゃないッ!!!!』」

「水都さん!!?」

「水都ちゃん!!?」

『………!』

 

 使い魔は鎌を彼女の首筋から離すと、その正面に回り込んで鎌の峰で彼女の腹部を突いた。その一撃で意識を失い、アスファルトの上に倒れ込み、二人とエイミーが慌てて彼女に駆け寄った。

 

「水都ちゃん!! 水都ちゃん!!」

「『次は無いと思いなさい』」

 

 ……殺しはしない。流石に絶対に越えてはいけない一線ぐらい分かっている。でも、もう一度人の心に土足で入り込むような真似は絶対に許さない!!

 

「暁美さん、あなた……!」

『~~!』

 

 エイミーが私に飛び付いてくる。そして、私の腕に思いっきり噛み付いた。

 

「…っ!? エイミーちゃん!?」

「……痛くないって、分かるでしょ」

『~~! ~~!!』

 

 ポケットから携帯を取り出して、エイミーをこの場から消す。どうせすぐ勝手に出てくるんでしょうけど、いい加減勝手な事ばかりするエイミーにお灸を据えなければいけないもの。

 

「……あなたも、いつまでここに居たままなの?」

『……Tschüss

 

 最初に試して召喚してからずっといたから。しかもエイミーとは違って一般人にもその姿が見えるから少しうんざりしていた。

 もういいと使い魔に言うと、そのままこの場から煙のように消えていなくなった。残されたのは私と、気を失った藤森水都を介抱している巫女二人……。

 

()()接触し(さわら)ないで」

 

 勇者の姿に変身し、飛んでこの場から去っていく。やっぱり、後悔も罪悪感も何一つ感じられなかった。




 ○ーみんたすけて! ゆー○んたすけて!!

【使い魔召喚】
 四度目の満開で取得した、暁美ほむらの五つ目の能力。散華は色彩感覚。子供サイズの人型の使い魔を召喚する。使い魔は基本的に勝手に行動するが、常に暁美ほむらが望んだ行動を取る。召喚の際に満開ゲージは変わらないが、使い魔がバーテックスにダメージを与えた場合にゲージが上昇する。精霊とは異なり一般人にもその姿は視認できる。

 現段階で使い魔は六種類召喚可能。満開を繰り返す事でその上限が増える。

 使い魔の戦闘能力は一体が西暦の勇者一人とほぼ同等。

【■■■】
 鎌を持った6番目の使い魔。黒髪。根暗な性格。

【使い魔のセリフ翻訳】
 ポケットから携帯を取り出して、エイミーをこの場から消す。どうせすぐ勝手に出てくるんでしょうけど、いい加減勝手な事ばかりするエイミーにお灸を据えなければいけないもの。

「……あなたも、いつまでここに居たままなの?」
『……Tschüss(……じゃあね)』
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