ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
大変長らくお待たせしました! 3ヶ月ぶりの本編更新です!
そして2021年最後の投稿になります。今年は投稿ペースが目に見えて遅くなってしまい申し訳ありませんでした!
来年の目標は遅くても2週間以内に投稿!! まだまだ書きたい展開が本編も外伝もたくさん残っていますし、わすゆ編だって書きたいのでこれからも頑張ります!
そして今後も、どうかこの作品をよろしくお願いします!
その日、四国中に前代未聞の激震が走っていた。
3年前、世界に混沌をもたらした異形の化け物、バーテックス。突如全世界に現れたそれは瞬く間に人類を殺戮し、人類の抵抗は何の意味を成さないまま、滅亡寸前にまで追いやられる。
生き延び、数少ない神による結界で守られている地域に逃れた者も、その恐怖と絶望感は決して忘れられるものではない。当然だろう……化け物には人類が生み出した、人類を地球上で最も力のある生物へと押し上げた力ともいえる兵器が一切通用せず、軍隊も壊滅しているのだ。にも関わらず、向こうからは一方的に蹂躙され、人の命はあっという間に貪り尽くされ潰される。そんな地獄と破滅の象徴、そしてそれを生み出した
人類が今なお絶滅していないのは、まさに奇跡としか言い様がない。だがしかし、結界の外には、世界中には人類を殺し尽くした化け物が溢れかえっている状態だ。いつこの束の間の安息の地が襲われてもおかしくはない。
兵器が効かない不死の化け物から、身を守る術のない人類はこのまま、神に助けを請い願うしか道はない……そんな祈りが、届いたのだ。
ある者は、そんな話は出鱈目だと鼻で笑った。だがそれも、心の中では初めて訪れた人類の転機の報せ故に、無駄に強がりながらも気にせず無視するなんて選択ができた者は極僅か。
ある者は、一刻も早くと嘘か真か真実を知りたがり、ネットや他の人から流れに流れた噂話など、自分達が持てる手段で情報を求め続けた。確かにそれはこれまでの事態を覆す眉唾な話だ。突然の出来事に理解が追い付かなくても無理はない。しかしそれでも、彼らは救いを求めずにはいられなかったのだ。
またある者は、闇に閉ざされてしまったこの世界に訪れた、新たな時代の幕開けだと歓喜した。
だからこそ、人々はこの話題に食いつかざるを得ないのだ。
人類の希望である、勇者の発表を。
多くの報道陣がカメラを構えているのは大社本庁の敷地内にある屋外広場だ。その前方にあるステージに緊迫した様子で身体を向ける。ここで、これからの人類の歴史が再び動きだす重大発表が行われるということで、記者達は少しでも情報を仕入れようと必死だった。
それでも流石はプロとでも言うべきか、彼らは自らの報道という使命を全うするため平静を装っている。固唾を飲んで、その時を待つ。
人類の希望である七人の勇者が姿を見せる、その時を……。
やがて、彼らの前に一人の人物が立つ。記者達は一斉にカメラのフラッシュを焚き、多数の光とシャッター音が包み込む。
「お集まりの皆様、並びに、当配信を御覧の皆様、大変長らくお待たせ致しました」
カメラの前でそう言ったのは、勇者達の身元を預かる組織、大社の神官の男性だ。彼の口から出た言葉は、勇者達の準備が完了した事を告げるもの。記者達の顔にもハッキリとした期待の色が見えている。
「───今からおよそ三年前、世界がバーテックスに襲われた事は、皆様も記憶に新しいことと存じ上げます。強大な力を持つそれを前に、世界中に多くの犠牲者が出てしまったことも」
神官の男性は記者会見冒頭の挨拶を口にする。記者達が求めているものはそれではないため、早く例の少女達を出せという念を抱く。
「しかし、記者の皆様、当会見を配信で御覧になられている方の中にはこのような方もいらっしゃることでしょう。三年前のあの日、バーテックスを打ち倒した少女に救われたという方が」
『!』
「彼女達はそれぞれ、香川県丸亀市、愛媛、高知、島根、奈良、長野、北海道で神に選ばれた存在。唯一バーテックスを滅することができる人智を超越した力を手にした、勇者であるのです」
その力の込もった発言を聞いた記者達は唾を飲み込んだ。この日の前日に、当の大社からこれらの情報は既に発表されてはいたのだが、こうしてこの場で改めて知らしめることで、内心冷静さを失いかけ落ち着きが無かった彼らを抑える結果になる。
「我々大社は彼女達勇者様を導く者として、この四国の地を守護しバーテックスの侵攻を阻む壁をお作りになられた、神々の集合体で有らせられる神樹様の神託を受けました。来るべきその日……勇者様方が世界をお救いになる日のために、彼女達の神聖なるそのお力を鍛え、高める環境を整えよと……今、その時は遂に訪れたのです!」
会場に集まった者達のどよめきが走る。彼らの目的の者達が姿を現すまで秒読み段階に入っていた。逸る彼らを一瞥した神官は、己が使命通りより彼らにその者達の持つ力を知らしめるべく……。
「ある勇者様はたったお一人で3年間もの永き間、バーテックスを打ち倒し人々をお守りになられた。またある勇者様は四国より遠く離れた地方の民を無傷で送り届けた。そして昨日、我等が勇者様は四国に滅びを齎さんと襲撃したバーテックスの群を、見事討ち滅ぼしたのです!」
やがて最後の熱弁が終わる頃、待ち望んだその時は訪れる。とある記者がそれに気づき、近くにいた同僚にカメラを向けるように指示した。他の者達も遅かれ早かれ気づく。
演説している神官の真上、ステージの屋根の上。いつの間にか、そこには数人の少女が立っていた。そして……
「彼女達が勇者! 人類に残された最後の希望にして、我々を輝かしい未来へと導いてくださる救世主なのです!」
これから行われるものは、勇者の存在やその力を疑問視する者、バーテックスの脅威に脅えている者に向けられた、彼女達の実力を示すデモンストレーション。これを見た民衆は神に選ばれた救世主達の偉大なる人類救済の力を、生涯決して忘れる事は無いだろう。
彼らは真っ先に己の目を疑う。屋根の上に立っていた少女の内の一人がいきなり飛び降りたのだ。地上から10メートルはある、その高さから。
この場にいる者も、このテレビ中継を観ている者も、多くの人々が身投げした少女に驚愕し、一瞬先に地に叩きつけられる姿を想像してしまったその瞬間、彼女はごく自然に地面に着地した。まるでたった一段しかない段差から跳んだかのように、スタッと軽い音を立てるだけで。彼らは目だけではなく、耳までも疑うしかなかった。
「勇者達よ! 私に続けぇーーっ!!」
会場全体に響き渡る勇ましい声に、人々は震え上がる。そんな中、少女の声に呼応するように、また別の少女が同じ様に高い屋根の上から飛び降りた。
「いくよ、若葉ちゃん!」
拳を振りかぶりながら。
「てやあっ!!!」
落下の勢いを付けた拳が、彼女に襲いかかる。突然の攻撃宣言に驚く会場内の人々、四国中の人々。だが若葉と呼ばれた少女は顔色一つ変えもせず、半歩分横に動くとその間を殴りかかった少女がすり抜けていき、拳は地面に叩きつけられた。
ドゴォ!!!
『!!?』
殴りつけられた地面が大きく凹み割れ、砕け散る。その衝撃が離れた場所に立っていた記者達の元にも伝わり地が揺れる。これが、人間の力で出せるものなのか? 何の躊躇いもなく高所から飛び降りたり、地を割ったり、勇者の力の一端を目の当たりにして呆然とする記者達に構わず、三人目の勇者がその大鎌を振るう。
「やあっ!!」
「ふっ!」
それに合わせて若葉も鞘から刀を引き抜き振るった。刃同士がぶつかり合い火花を散らして拮抗、激しい金属音が鳴り響く。
しかしそんな状態であってもお互いに顔色に変化は全く無く、同時に鍔迫り合いをやめ距離を取ると、再び刃をぶつけ合う。
振り下ろし、間髪入れずに刈り取るように薙がれる深紅の大鎌。堅実に刃で猛攻を防ぎ、かわし、流れ込むような一閃を走らせる月白の刀。激しく打ち付けあい甲高く鳴る剣戟の音、時折空を切る風切り音を響かせながら両者はお互い一歩も引かず戦い続ける。
……といっても、その実体は勝敗を決める戦闘では無く、演武とでも言えばいいものだろう。先程の地面を砕いた強烈なパンチも、この二人の刃入り交じる猛攻も、相手に当てる気は勿論、ほんの一片の殺気や悪意すら持たない。
彼女達がこれまでに何度も行ってきた模擬戦よりも気軽にやるだけ。ただ単に自分の武器を相手の武器に大袈裟に当て、四国中の民衆に人間を超越した勇者の力を魅せるだけの、ド派手なチャンバラである。
「おい友奈まだか!?」
「………はっ! いけない、見とれちゃってた!」
二人の繰り広げる、舞踊のような鮮やかな攻防。彼女が発してしまった言葉通り、思わずそれに見とれてしまった勇者が自分の残っている仕事が頭から抜け落ちていた程である。
「勇者ぁぁ、パーンチッ!!」
すかさず刃をぶつけ合う二人に向き直った彼女は地面を蹴り、その長い赤い髪を靡かせながらそこに突撃。背後のその気配を察知した大鎌を持った勇者が真横へ飛び退くと同時に、地面をも砕く勇者の拳が今度こそ若葉を、若葉の持つ刀を殴り抜ける。
「おっ…と!」
その衝撃で彼女の身体は浮かび、背後に5メートル程弾き飛ばされるも両足でしかと踏みとどまる。それ程の打撃を受け止めた刀だが、折れないどころか傷一つ付いていない。記者達や民衆に改めてこれら勇者とその武具の攻撃や防御、その類を見ない高さに声も出ないのだ。
だがその隙を逃すまいと、三度拳を振り抜いた勇者だけでなく大鎌の勇者が跳躍。二人掛かりで彼女に狙いを定め追撃を仕掛けてきた。
「ホムちゃんとタマちゃん! 準備オッケーだよ!」
「た、高嶋さん…! あまり大きな声で呼び掛けるのは……!」
そこに新たに二人の勇者が若葉の前に、迫り来る二人に立ち向かうかのように舞い降りる。一人は小柄な橙色の装束を纏った少女。
「避けろよ友奈! そりゃあっ!!」
着地と同時に左腕を振ると、そこから刃の付いた円盤が回転しながら飛び出した。狙われたのは、桜色の勇者……。
「わっ、とっと…!」
咄嗟に後ろ宙返りで見事に投擲攻撃を避け、そのまま連続バク転で後方へと距離をとる。アクロバティックなその動きに至る所から感嘆の声が漏れる。
「郡さん、いきます…!」
「いいから、早く済ませてちょうだい」
その一方で、大鎌を振りかぶる勇者の前には別の勇者が大きな三つ編みのおさげを揺らしつつ、銀色に輝く杖を握り締め正面から飛びかかる。
攻撃対象を若葉からその勇者に変更するかのように周囲に見せつけ、大勢に見られているこの茶番に飽き飽きしているかのような冷めた表情を浮かべながらもそれを迎え撃つ。
ガキィィン!
両者の得物が衝突した瞬間、空気を震わせるほどの凄まじい衝撃波が生まれ両者の間に土煙が上がる。吹き荒ぶ砂埃の中で、衝撃に耐えきれずに後方に弾かれたのは大鎌の勇者。
「ぐっ……!」
元々彼女が相対した勇者の杖は、他の勇者の物と比較しても高い打撃力と衝撃力を誇るのが特徴の神器である。それに加えて今回は、大勢の人々が見ているという状況下で緊張により力加減をやや誤ってしまった事も相まった。
そんな後輩の不甲斐なさと手の痺れにイラッとしつつも、この程度の痺れなら普段の訓練を思えば全然大した事ではない。すぐにスイッチを切り替え、何事も無く冷静に受け身を取って地面に着地……
「キャーッチ♪」
「ふぁえっ…!!? た、高嶋さん!!?」
「ぐんちゃん、大丈夫?」
「は……はぃぃ……」
する前に、着地地点に待ち構えていた勇者によって受け止められた。力強いが、温かく優しい、まるで恋人にする抱擁のような。彼女にとって唯一無二の存在から与えられた幸福は、筆舌にし難い心地良さと一緒に包み込み、直前まで感じていた多少の苛立ちも消え失せるのみ。
そして、その二人を屋根の上から狙う純白の勇者が。連弩を構え引き金に指をかけ、矢を引き絞っている。
「い、今あの二人を攻撃したら、私が千景さんに殺されちゃうんじゃ……」
「ホワイ? 当てる訳じゃないんだし、杏さんが彼女が立っている所にショットするのはプラン通りじゃない」
「それはそうなんですけど……」
「ドントウォーリーよ、杏さん。私が付いているんだから」
「で、ですよね? では歌野さん、よろしくお願いします!」
これは戦闘でもなければ訓練でもない、ただの一般市民に向けたデモンストレーション。ゆえに彼女はその力を見せつけるべく、屋根の上から更に高く上空へと跳び上がった。
勇者という存在、それが今、助走も無くただのジャンプで10メートル以上も跳び上がる。人々の視線が彼女に釘付けとなると、意を決した彼女は引き金を引いた。それも瞬時に三度も。
連弩から連射して放たれた三本の矢は二人の勇者へ。しかし実際に彼女が狙った箇所は地面。二人の勇者から10cm程少しずれた足元だ。
二人が動かなければ矢は当たらない。しかし初めて勇者の力を目の当たりにする人々にとってはその僅かな差だけではわざと外して放たれた物だと気付けない。それも高く上空から放たれた矢となれば尚更だ。
だが何も知らない人々からしてみれば、それは些か心臓に悪い。理解が追い付く暇もなく、矢は勇者の元へ迫っている。しかし、人々の視線が矢を放った純白の勇者に集まっていたがため、最後の勇者が降り立っていた事に気づいた者はいなかった。それに気付いた瞬間、その勇者の手元が高速でブレると同時に一瞬宙でも細長い何かが残像を生み出し……
スパアァンッ!!
強烈な風切り音と共に三本の矢が全て叩き折られ、勢いを完全に失ったそれらが地面の上に落ちた。最後に現れたのは鞭を片手に持つ勇者。上空からの目では捉えきれないスピードで降ってくる細い矢三本を一瞬で叩き折る精密な鞭捌き……彼女も他の勇者と同様、圧倒的な技を見せつけるのであった。
登場した勇者の中で人々が唯一顔と名前を知らない勇者であったが、その功績だけは知っていた。恐らく他の追随を許さないであろう、他の地方をたった一人で守り抜いた偉大なる英雄であると……それがまさしく彼女であった。
上空に跳び上がっていた勇者も、やはり何事も無いかのようにストッと着地する。屋根の上にはもう新たに実力を示す勇者はおらず、会場前方にいる勇者全員が各々の武器を収め、勇者達の演武は終わりを告げる。
『ワァアアアアアアア!!!!』
瞬間、会場内にいる全ての者達が一斉に感嘆の声を漏らし、我先にとカメラのフラッシュを焚いた。
眩い光に包まれる。それでもその人物達は、しっかりとした足取り、真剣な面持ちのまま中央に歩を進め集まっていく。
記者やカメラマン達はその者達から目を離せなかった。同時刻、この光景を現場からのテレビ中継で観ている四国中の人々も同様だ。既にその者達の顔写真と名前は大社が準備できなかった二人を除いて公表されてはいたが……幼さが残る彼女達の可憐な顔立ちでありながら、彼女達の纏っている神秘的な装束、そしてかの神々の力を宿す武器を持つその姿に、人々は圧巻されるしかなかった。
「すごい、本当に本物の勇者なんだ……!」
「あれだけ激しく戦えるなんて」
「でもあんな小さな女の子なのに、どうしてここまで戦えるのかしら?」
「やっぱり特別な訓練なんだろ! 大社が指導してたっていう!」
始まりから終わりまで、彼らはひたすら驚かされ続けた。全員が人間離れした身体能力を持ち、刀や鎌などといった武器を巧みに使いこなす。
こんなに幼い、まだ中学生にしか見えない少女達が……中にはつい数分前までそう思った者も決して少なくはないだろう。しかしその風格は単なる中学生という物で表せることはできないほど威風堂々としているのだと、この場の人物達はそう感じざるを得なかった。
人々は確信するしかない。自分達を守ってくれる勇者様達は、まさに神に選ばれた特別な存在である事を。彼女達なら、あの世界を滅茶苦茶にした化け物を本当に倒しきれるだろうと。
「この世界に生きる全ての者達よ」
『!』
一人の勇者が一歩前に踏み出す。勇者の中でも一番背の高い、凛々しい顔立ちの青い勇者から発せられた凜とした声を、人々は静かに受け止める。
「私の名は乃木若葉。勇者のリーダーを務める者だ」
彼女は自身の名を名乗り、真っ直ぐ前を見据えたまま続ける。その姿を見た者の心臓はドクンと跳ね上がる。彼女の纏う雰囲気に呑まれそうになるのだ。
「絶望しか見えなくなった世界で、三年もの永きに渡る時をよくぞ堪えてくれた。其方達が共に力を合わせ、この未曽有かつ理不尽極まりない天災を生き延びたからこそ、我々は奴等に対抗できる力を高める事ができた。心より感謝を申し上げる」
そこで一旦言葉を区切る。その間、誰もが微動だにせずただ黙って話を聞いていた。彼女が次に何を言おうとしているのか、何を言いたいのか……それは彼女にとって最も重要なものであり、同時に最も重い言葉であるからだ。
「私達は今日この時を持って、ここに宣言しよう。我々はこれより先、何者にも屈しない。たとえどんな障害が立ち塞がろうとも必ず打ち破り、平和を勝ち取ってみせる」
それは、自分達勇者の決意表明。静寂の中、彼女は力強く言い放つ。これから先の困難に立ち向かうための強い意思を込めて。
「人類が反旗を翻す時が来たのだ! 何時訪れるのか知れぬ恐怖に脅える日々は終幕を迎える……我々勇者の手によって!」
『うおおおおおおおお!!!!』
一瞬の沈黙の後、凄まじい拍手喝采が巻き起こった。まるで神への信仰心を捧げるかの如く、または新たな時代の到来を告げるかのように、彼女達勇者を讃える歓声は鳴り止まなかった。
「流石は若葉ちゃん♪ こんなにたくさんの人の心をがっちり掴んだ!」
「…………ふん」
「……本当なら彼女もここにいたはずなのに……」
そんな光景を目の当たりにした、桜のように優美な装束を身に纏っている少女、否、勇者が喜びを露わにする。それに対し、隣にいた紅色の勇者は不機嫌そうな表情を浮かべていたのだが、天真爛漫な彼女は残念なことになのか、不幸中の幸いなのか、この事に気づけない。ついでにもう一人の愁いを帯びた勇者の表情にも……。
「ひぇぇ……! これって全部私達に向けられているものなんですよね……!?」
「あうあぁ……! 心臓がすごくドキドキする……!」
「あんずぅ、ほむらぁ、あんなに派手な事やったってのに何言ってるんだよ。もう少し堂々としとけよな?」
また、リーダーの勇者を挟んだ反対側でも、白と紫の装束の二人の勇者が目を泳がせていた。それでも必死にそんな醜態を撮られないようとする意気込み自体はあるのだが、臆病な性格寄りの彼女達は僅かにではあるが身体が小刻みに震えている。呆れながらも発破をかける小柄な勇者に対し、二人は小さくコクコクと首を縦に振ることしかできない。
今ここにいる彼女達が勇者……人類の未来への命運は、彼女達七人の手に託された。
(……七人?)
その疑問は会場に訪れた者も、ライブ中継されているこの会見を観ているほぼ全ての者も抱くものだった。
事前に公表された情報とは違う。勇者はこの四国で訓練を積み重ねてきた六人、長野県で既に三年間戦い続け、つい昨日四国の勇者達と合流した者……その者を手助けして共にこの地に辿り着いた別の地方の勇者の計八名がいるのだと。にも関わらず、この場にいる勇者の数は一人少ない……。
「質問よろしいでしょうか!?」
当然、記者の一人がその違和感について尋ねるべく挙手した。すると他の記者もまた一斉にそれに倣い始める。
「どうぞ」
それを予想していたかのようなスムーズさで、リーダーである若葉は許可を出す。
「あの、ここには確かに神に選ばれたという八名の勇者がいると聞きしましたが? なのに、ここには七名しかいないというのはどういうことでしょう!?」
「………」
「八人目の勇者とは一体どのようなお方なのでしょうか!? 何故この場に来ていないのですか!?」
「何か事情があるのなら教えてください!! お願いします!!」
「そうですよ! この場には勇者様方が全員揃ってこそ意味があるのです! どうか理由を教えて下さい!!」
やはりこうなってしまうか……若葉はそう歯噛みしたくなる気持ちを抑えながら暫し瞑目した後、ゆっくりと口を開いた。
「この場にいない勇者についてはご心配無く。八人目の勇者は現在四国外のバーテックスの調査任務に向かって行ってもらっている」
しかしそれは、何も知らない民衆を仕方なく欺くための、大社や勇者達にとって都合の悪い事を隠す虚偽の報告である。
「我々の存在と同時に公表されたためご存知だろうが、昨日バーテックスはこの四国に襲撃を仕掛けてきた。我々勇者はそれを殲滅したが、三年にも及ぶ静寂は破られたのだ。今、四国を守る壁の外に忌々しい殺戮者が集結していたとしてもおかしくはない。ゆえに我々の中でも特に戦闘経験が豊富である、他の地方の勇者である彼女に調査に出てもらったのだ」
八人目の勇者、暁美ほむらは非協力的だと言える訳がないのだ。人々を守る勇者がその責務を放棄しているのだと、知れ渡って良いわけがない。
既に大社が八人の勇者がいると公表してしまった手前、その存在を今更否定する事など出来やしない。この場にいる七人の力が本物だとしても、一度期待してしまった人々からの信用は大なり小なり失われてしまうだろう。
「とはいえ、最悪な事態が起こり得るという可能性は限りなく小さい。これはあくまでも慎重に、万が一を想定した急な決定だ。予定とは異なりこの場に勇者が全員揃わなかった事、深くお詫び申し上げる」
しかし今現在、彼女達が最も信頼しているお目付役の巫女達が暁美ほむらの説得に向かっているのだ。例え数時間前が非協力的だったとしても、その説得で考えを改めて、再び勇者として協力してくれる可能性だってまだ残っている。
だからこそ若葉は人々に尤もな嘘の話で隠そうとする大社からの案に賛同した。混乱を招かないよう、もう一度だけ
「……皆さん、私の話を聞いてください」
「……歌野?」
今まで若葉一人が前に出て話していた中、別の勇者も真っ直ぐ前を見据えて一歩踏み込む。勇者、白鳥歌野は迷い無き瞳と言葉を示す。
「四国の皆さん、はじめまして。私の名前は白鳥歌野。ついこの前まで長野県の諏訪市で戦い続けて、昨日この四国にやってきた勇者です」
「おおっ! やはり貴方が!」
「はい。それで私から四国の皆さんに、どうしても言いたい事が三つあります」
この場にいる記者達も、そして他の勇者達も、全員の視線が歌野に集う。
「まず一つ目ですが、これは若葉が言った事と同じです。元々は諏訪の勇者の私がここに来たのはこの世界を救うためです。必ず、バーテックスを倒し、世界の平和を取り戻すことをここで誓います!」
堂々たる宣言にカメラのシャッターが何度も光る。眩い閃光に包まれながらも、歌野は目を背けることなく前だけを見つめる。
「二つ目はお願いです。この四国には私と一緒に、私の大切な故郷の人々がたくさん来ています。みんなが私にとって最高の仲間で、家族みたいに愛おしい人達……大好きで、掛け替えのない、生きる希望とも言える人達なんです」
「おお……!」
「みんなが故郷から離れて、幸せな未来を掴み取るためにこの地に来ました。大社の方々のご尽力で居住区や食料を提供させて頂いたのですが、きっとみんなはまだまだ慣れない日々で大変な時間を過ごすんじゃないかって思うんです。ですから皆さん、もし諏訪から来た来た人が困っているのを見かけたら、是非あなた達の力を貸してください! いいえ、諏訪の人々だけでなく、困っている人には救いの手を差し伸べてほしい! こんな世界だからこそ、それを忘れないでいてほしいんです! それで救われた人が、絶望しか見えない世界で希望を受け取った人が、どれだけ素晴らしいシャイニングな世界を見られるのか……私は知っているから」
慈悲深い言葉に感動した記者達が急いでメモを取る。大勢の人を思いやる、まさに勇者に相応しい言葉ではないか。
そして歌野はこれらの事を語りながら、思い返していた。絶望しか見えなくなった世界で光を、希望を見せてくれた勇者のことを。
「三つ目は……今私が言った事を教えてくれたフレンド……友達こそが、皆さんの言う八人目の勇者なんです」
「歌野……」
「多分皆さんも彼女がここに来ていない事、まだ納得できていないと思います。理由が何であれ、今日という大事な日にいない事は事実だから……」
そのように語る歌野自身、その事実に納得できていないようで儚げであった。歌野は何も知らない人々とは違って、その勇者が四国外に調査に向かった事は大社からのごまかしの虚偽であり、本当の理由は突然何も言わずに失踪してしまったためだと知っている。それが人々に言えない事も、重々承知している。
「ですから、彼女に変わってこの私が言います」
だが歌野はこの場にいる誰よりも、彼女の事を知っている。理解しているからこそ、それを大勢の人々に伝えるのが自分の役目なんだと確信していた。
「安心してください。彼女は決して皆さんの期待を裏切るような人なんかじゃないんです」
「……っ」
「ガッカリしないでください。彼女はどんな時も未来のために、たくさんの人達の笑顔のために戦える人だから」
「………」
「信じてください。姿が見えなくても、分からなくても、彼女は私達と一緒にいるんです」
そこで一旦区切ってそこで一旦区切って、歌野は大きく息を吸った。そして胸を張って、力強く言い放つ。
これが、歌野の伝えたかったこと。歌野が本当に言いたかった、心の底からの本音。
「彼女は、勇者なんですから」
かつて、閉ざされかけてた歌野の心に希望の焔を照らしてくれた少女のように。
◇◇◇◇◇
「「……つ、疲れたぁ~……!」」
同時に深く息を吐いてその場に力無く座り込むのはほむらと杏だ。大人しく気弱な性格のこいつらにとって、やはり大勢の前で堂々とするのはかなり酷な事だったのだろう。緊張から解放された結果、とても先程まで人類の希望と言われていた勇者らしくない、期待している人々には決して見せられない有り様だ。
「おいほむら、杏、まだ今日の予定が全部終わったわけじゃないぞ」
「次は一人ずつインタビュー。それが終わったら今度はポスター撮影があるんだよね?」
「「ええぇ~~!!」」
既に精神的に疲労困憊状態の二人だったが、まだまだ続くと聞かされると露骨に嫌そうな顔を浮かべる。気持ちは分からんこともないし、同情もするが、こればかりはやり遂げて勇者をより宣伝しなければならないのだ。私達にできることは、頑張ろうと二人を励ますことくらいだろう。
「それにしても歌野……お前は……」
「うん?」
「お前は心から、暁美の奴を信頼しているのだな」
……今この中であいつ、暁美ほむらの本心を知っているのは私だけ。みんなには何かがあったと思われてはいるようだが、詳しい事はまだ伝えてはいない。知ってしまえばこの度の会見等で悪い影響が出てしまうと懸念したからだ。
私とて、あいつが言った事が本心であると受け入れたくはない。だが暁美の冷め切った目と冷徹な発言が、何よりの証拠となってしまった。あの時の事を思い出せば今でも暁美に対する失望と怒りが込み上がる……だったが……
「オフコース! 若葉と暁美さんの間に何があったのかは知らないけど、それは若葉の勘違いよ、絶対」
「な、なんだ、私の方が悪者か?」
「ふふっ。ドントウォーリーよ若葉。暁美さんは本当に良い人だって私もみーちゃんも保証するし、昨日だって暁美さんの大活躍を聞いた時の若葉、アイズをキラキラ光らせていたじゃない。もう一度ちゃんと話せば、今度こそお互い分かり合えるって♪」
……やはり、私も暁美を信じたいのだ。歌野があれほどまでに熱く語った勇者なんだ。本当に、私の勘違いであるのならどれだけ良いことだろう……。
勇者達の披露は終わってしまったが、これからも共に戦ってくれるのであれば、いつでも歓迎したい。ひなたとまどかと水都が暁美を探しに行った……既に数時間経ってはいるが、これから四人で戻ってきてくれるなら……。
『観音寺市内で暁美さんを見つけることはできました。ですが説得は失敗。疑いの余地無く、彼女に協力の意思はありません』
そんな希望は、無慈悲に払いのけられた。それも、より最悪な事実を上乗せにして。
「え……何を言って……ひなたさん……?」
携帯のスピーカーを入れるよう、最初にひなたから促されていた。この事実を私だけでなく、勇者全員に伝えるために。
だから、歌野も真実を知ってしまった。歌野が決してあるわけがないと思い込んでいた、残酷な真実を。
『……うた…のん…!』
「みーちゃん…?」
『暁美さん……違ってた……! 別人みたいに冷たかった……!』
携帯から聞こえる声は、ひなただけではない。まどかの声も、そして、堪えきれない涙声で嗚咽をこぼす、水都の声も……。
「……みーちゃん、どうしたの…? なんで泣いて……」
『……水都さんは……襲われ、怪我を……』
「「「「「「「!?」」」」」」」
『大丈夫……ちょっとお腹に痣ができちゃっただけ……』
「暁美が……やったのか……?」
『微妙な所です。暁美さんが直接手を出した訳ではありませんが、下手人は暁美さんの声に反応したように見えました』
「下手人だと!? そいつは何者だ!?」
『……わからないの、あれが何なのか……でも、少なくとも人間とは思えない何かだった……』
「な、何ですかそれって……人間とは思えないって…!?」
私の中で、もはや分かり合えたらという思いはもう、どこにもない。ただ一つ、真っ赤に燃え滾る怒りしか感じられなかった。
水都を……傷つけた……? あいつは自分を友と呼んでくれる者を、自分のために涙を流してくれる者を何だと思っている……!?
『勇者とは神様の都合のいい道具、そして生け贄。巫女とは勇者の腰巾着、護るべき人々の命とは、文字通り見知らぬ関係無いもの……それが暁美さん自身が語った、彼女の価値観の形です』
「な…なんだよそれ……オイ……?」
みんなも徐々に知ってしまう、暁美ほむらの本性。歌野と水都から語られた物とは清々しいほど真逆で、誰もが驚愕するか、怒りに震えるしか選択肢がない。
『それからもう一つ……友奈さん』
「えっ…」
『昨日、暁美さんから何か言われませんでしたか?』
「っ!」
『例えばそう、私達や若葉ちゃんが聞いた言葉に属するもの……勇者としてあるまじき発言を』
全員が一斉に友奈を見る。友奈が既に、暁美に傷つけられたのかもしれないと……
友奈の表情は青ざめていた。今聞いた話が衝撃的だったから……決してそれだけではないに違いない……!
「た、高嶋さん……」
「……し、知らない! 私、そんな事聞いてなんか無い…!」
『…………』
「ほ、ほら、昨日言わなかったっけ…? 私が呼びに行った時ってほむらちゃん寝込んでたんだよ…?」
『……友奈ちゃん……暁美さんがね、言ってたの…。わたし達が友奈ちゃんと同じ事を言って不愉快だって……』
「え……」
『友奈ちゃんが人を傷付けるような事を言うはずがないって、そんな事わたし達が一番よく知ってるんだよ……。……逆に友奈ちゃんが酷い事を言われていたとしか思えないの……水都ちゃんにだって、酷い事を言ってたから……』
必死に弁解しようとする友奈の言動は私達全員が悲しくなるだけだった。声が上擦っている。明らかに、こんな事実が明らかになってなお奴を庇おうとしている……!
「おい友奈! 本当の事を言え!!」
「だ、だからそれは……その……」
「……高嶋さん、どうしてあんな奴を庇うの?」
「ぐ、ぐんちゃん…?」
「上里さんとまどかさんが言ったでしょう? あの女は私達に協力する気が無いだけじゃなく、勇者じゃない藤森さんに手を出したのよ」
誰も、今だけは友奈の優しさが理解できない。自分も傷つけられ、仲間も傷つけられ……にも関わらず、一切の怒りを見せようとしない友奈が、わけが解らない。
「……ごめんなさい。いくら高嶋さんと言えども、今回ばかりはあなたの考えが全く理解できない……受け入れられない」
「そんな…ぐんちゃん…!」
「……そうなって当然ってことくらい……今までの話を聞いたら解るでしょ……!」
……何が勇者だ……暁美ほむら……! お前は勇者失格、それ以前に人間失格だ!! お前に期待した私が馬鹿だった、恩を感じた私が愚かだった!!
勝手にするがいい……誰がお前の力など借りるものか!!
「……暁美さん……っ!」