ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
帰るべき居場所に帰れない、私の望みを叶える手段は途切れ、神経を逆撫でさせる身勝手な言葉ばかり送られて……何時間経っても変わらない、一生このままの色の無い街並みだ。もう疲れた……怒りも、悲しみも、絶望も、何もかもが虚無になる。
そんな私は、今現在世間を賑わせていた例の物を手に入れて、無気力なままそれに目を通していった。そう、それは乃木若葉の言っていた勇者達の記者会見。彼女達の威勢のいいインタビューが載せられ、四国中大いに盛り上がった大ニュース。彼女達をひたすらに賞賛し褒め称える内容の、どうでもいい記事だった。
『信じてください。姿が見えなくても、分からなくても、彼女は私達と一緒にいるんです。彼女は、勇者なんですから』
「……勝手な事を言うんじゃないわよ。白鳥歌野」
そう言って私は号外発行されたばかりの新聞をクシャクシャに丸め、公園のゴミ箱に叩き込む。
さっき街中で遠目で見た、お祭り騒ぎ状態のたくさんの人達、そして会見で彼女達が語った内容……見事に人々が
勇者は人々の希望であると……。勇者の人智を越えた魅力的な姿しか押し出さず、勇者ならバーテックスに必ず勝てる、救われるとしか考えられないように。
「勝てるわけないじゃない」
私はこの時代の勇者の戦闘能力を知っているのはただ一人、白鳥歌野のみ。仮にも彼女には一時だけ背中を預け、諏訪での戦いや四国に来る道中でその力を見た。小型の雑魚バーテックスしかロクに倒せない貧弱な力を。
魚型バーテックスを見ただけで戦意喪失し、私達が今までに倒してきた奴らのなり損ないみたいな脆いのですら、一人で倒すのは難しいと悔しそうに言っていた程度の力で……。
あの時は厄介すぎる敵だと言いたそうにしていたから、時間停止中の短時間の間に多くの爆弾を出してスタミナをかなり消費してしまったのに結局は爆弾2、3個で全部事足りるくらい弱すぎた。
普通に戦ってあんなのに苦戦するなんて、みんなと比べると弱すぎて冗談としか思えないのに、その程度で謎の自信を持っている。
勇者全員の実力が白鳥歌野と同程度しかないとしたら絶対に無理よ。バーテックスの中には私達が満開をしてようやく倒せる奴がいるっていうのに、普通のバーテックスですら太刀打ちできない彼女達に、世界を救えるわけがない。
「現実は甘くも、優しくもないのよ……」
現に、300年後の私達の世界は救われていない。彼女達は結局世界を救うことはできず、敗れたのだから。
『大社』改め……『大赦』……。バーテックスを倒そうとする勇者に力を与える神である神樹。それを祀る組織が、赦しを求めるようになっている。何に対して? そんなもの、分かりきったことじゃない。
公園のベンチに座り直し、制服のポケットから携帯食を取り出し封を開ける。食欲は昨日から一切湧いてこないけど、最後に何かを口にしたのは昨日の朝、四国に到着する前だ。流石に空腹感はごまかしきれないし、行き倒れなんて末路は嫌だ。
「……勇者部…六箇条……よく寝て…よく食べる………」
諏訪の人達が盾の中に持ち込んでいたたくさんの非常食……どうせ彼らには大社が食べ物や飲み物を提供してくれるみたいだし、私が食べても文句は言うまい。
「………おいしくない……」
……酷い味。全く以て温もりを感じさせない、淡白すぎる味だ。今までにも食べたことが無いわけではないけど、それにしたってこんな……無機質で味気ない、食べることの喜びを感じられないものは初めてだった。
全く喉を通らない……それでも、なんとか口に入れていく。噛み砕くたびに砂の塊でも食べているような錯覚に陥る。パッケージに記載されている味ではある……でも、一方的に虚しさだけが募る最悪な味だった。
「………東郷のぼた餅が…食べたい……」
自然と涙が出てきた。あの子の料理が恋しい。あの日以来、一度も口にしていない私の大好物の味を、思い出してしまったから。もう二度と食べることのできない、優しい味わいを。
携帯を取り出し、電源を入れてアルバムを……大好きなみんなの姿をどうしても見たくて堪らない。ただでさえ色が解らなくなって見えにくくなった視界がぼやけてしまう。
「ぁ……」
……アルバムを開いて、思い出が詰まった写真に縋りつこうとした瞬間、携帯の画面が突然真っ暗に。電源が落ちた……バッテリーが切れた……。
今までバッテリー残量なんて気にする余裕が無かったから、こっちに跳ばされてから一度も充電できていなかった。当然といえば当然か。むしろ今日までよくもった方……でも、写真とはいえこっちでも、とことんみんなから引き離されてしまう現実を突きつけられた……。
傷心の私の左手は無意識の内に頭の上へ……昔から愛用している、トレードマークのカチューシャを取り外していた。
大切なカチューシャの裏側には、一枚のシールを貼ってある。まだ誰も不幸になっていなかった頃、誰も絶望なんて知らなくてもいいことに気づいていなかった頃、一緒に心から笑い合った最高の友達とのツーショットのプリシー……友奈と私の…心からの幸せそうな笑顔……………っ!
「……ぐすっ……うぅ……友奈ぁ……東郷ぉ……風先輩……樹ちゃん……夏凜……!」
耐え切れずに嗚咽を漏らしながら、彼女達の名前を呼んでしまう。会いたいと願ってしまう自分がいる。もう一度会いたくて、声が聞きたくて、抱きしめられたいと思ってしまう。それが絶対に叶わないって解っているからこそ、苦しくて、苦しくて、どうしようもなかった。
◇◇◇◇◇
……どれくらい、茫然としていただろう。気がつけば、辺りは夕焼けに染まりつつあった。
そしてまた、ふと気づく。さっきまで泣いていたはずなのに、いつの間にか泣いていないことに。
頬に手を当ててみる。指先に伝ってきたのは、濡れていない乾きかけの涙の跡だけだった。
泣けないんだ……悲しいのに、苦しいのに、胸の奥に穴が開いたように痛いのに、涙が流れない。感情は壊れてしまったかのように働かず、ただ漠然と動くだけの人形になってしまったようだった。
まるで、私という存在そのものが消え去ってしまったかのような、そんな感覚すらあった。
私は立ち上がり、公園を出て行く。当てもなく歩き続ける。もうどこに行けば良いのかさえわからない。何も考えたくない……何も……。
「ね、ねえ…あれって……」
「うん? どうし……んん?」
「えっ嘘!? えっ、似てない!?」
「似てるも何も……待て待て待て…! 今調べて……!」
「いやいや! 間違いないだろ! 何でこんな所に来てるんだ!?」
少し開けた大通りに出ると、人々がざわめきながらこちらを見つめてくる。老若男女、仕事帰りの大人からカップルや友人達と一緒に帰宅しているのであろう学生達。
彼らの中には携帯を取り出し、どこかに連絡を取り始めたり、写真を撮ろうとする人まで出てくる始末。
一体何事なのかと思っていると、同じ年頃らしき男の子が私に声をかけてきた。
「あ、あの……すいません!」
「……?」
「ゆ、勇者様…ですよね……?」
その一言で、周囲の人々も一斉に私の元へ駆け寄り、あっと言う間に、私は囲まれてしまっていた。
「ほらやっぱりそうだよ! 間違いない!」
「本物だ……テレビで見るより綺麗……」
「握手! 握手してください!」
「…………」
……何なの、一体……。どうして私が勇者だって知って……?
「鹿目ほむら様!!」
「っ!」
メガほむ!? ここにいる人達全員、私の事をこの時代の勇者の鹿目ほむらだって勘違いしている!
「……人違いよ。私は鹿目ほむらじゃない」
「えっ? あっ、ひょっとしてお忍びで来たんですね! それなのに見つけられるなんて、いやー、運が良かった!」
「あのっ! アタシ学校でお昼の中継観ました! 勇者様全員格好良くて痺れました!!」
「勇者様!」
「勇者様!」
私と同じ、暁美ほむらの姿をしている彼女はこの世界を守る勇者として大々的に世間に知れ渡ったばかり。違いは眼鏡の有無と髪形のみ……これで別人と言われて一体誰がそれを信じるというの。
どうして鹿目ほむらなんて二人目のほむらがこの世に存在しているのか……おかげでとても面倒な事態に遭いそうになって……!
このままではまずいと、私は群衆を掻き分けてその場を立ち去ることにした。しかし……
「なんだこの人集り…?」
「あそこに勇者様が来てるのよ!」
「勇者!? バーテックスを倒したっていうあの勇者!?」
「うそっ、どこどこ!?」
「……っ!」
騒ぎを聞きつけたらしい別の集団がぞろぞろと現れ始めてしまい、私の周りには更に人垣ができてしまう。とても抜け出す事はできそうにない人の壁が、私の進路を完全に塞いでいた。
「俺…応援してますから! 絶対勝てますよね、バーテックスに!」
「私のお父さん、あの日から天恐になってしまって……お願いです! バーテックスを倒してください!」
「頑張ってください勇者様!」
……ああ、本当に嫌になる。私は勇者だけど、あなた達を守る勇者なんかじゃない。こうやって、無責任に期待されて……それがどれだけ残酷なことかわかっていないくせに、勝手に希望を押し付ける。私の苦しみを知らないのをいいことに、自分達だけが救われることだけを考えて、都合の良い言葉だけをぶつけてくる。
「勇者がいれば、バーテックスなんて恐くねぇよなぁ!」
「違いねえや! 俺達助かったよな!」
大ッ嫌いだ!! こんな世界!!!
「……ひぃっ!? な、なんだあれは!!?」
「えっ……キャァアアアーーー!!?」
突然、私を取り囲む人達が悲鳴を上げる。目の前の人の目には、はっきりとした脅えの色があった。その人の視線の先にあるものは二つの影……私達を電柱の上から見下ろしているそれらは不気味という表現でしか言葉にできそうにない。
恐れおののく力無き人々……けど、あれって……
「ば、化け物!?」
(使い魔……?)
……ええ。あれは私の使い魔だ。偽街の子供達のような、漆黒の装束を纏う、口が裂けているかのように大きく、ギョロリと目が見開いている人の形をした何か。
昼前に私の前から消えていったものとは異なる……あれは黒髪で鎌を持っていた。今ここにいるのは、二体の使い魔……短髪と、色覚を失った私には白く見える長髪の別個体が、いつの間にやらこの場に現れていた。
『『Gehen Sie aus dem Weg!』』
不可解な叫びを上げながら、二体は同時に地面へと飛び降りると、こちらに向かって走り始めた。突然彼らの前に現れた、スプラッター映画に出てきてもおかしくはない見た目の使い魔が自分達の方へ駆け出す……その正体を知らない彼らにとって、それは恐怖以外の何物でも無いだろう……。
「ひっ……!」
「こっちに来るわよ……!?」
「おい押すなって!」
「いやっ、いやっ! 来ないでぇえ!!!」
二体が近づいてくるにつれ、人々はパニックになり、我を忘れて散り散りに逃げ出していく。この場で動じていないのは正体を知っている私だけだった……が、
「ぐうっ…!?」
短髪の方の使い魔は勢いそのまま、私の制服の襟台を掴むと猛スピードでこの場から走り去る……後ろに倒れた私を引き摺りながら! 首が絞まる!!
「ば…ばか…! 何やってるのよ……!?」
私の使い魔のくせに主に危害を加えるとはどういうことなのか……!? いくら勇者は死ぬことは無いとはいえ呼吸できないのは苦しいのよ!!
しかし透かさずもう一体の使い魔が下から不安定すぎる私の身体を担ぎ上げる。私を引き摺ったままのがさつな使い魔と同じ速さで走るため、首が絞まることは無くなった……体勢が完全に仰向けでもの凄く揺らされながら運ばれている形なのが気に入らないけど。
次の瞬間、使い魔達が勢いよく跳躍した。
「きゃあっ!」
一瞬宙に浮いたような感覚の後、使い魔達の手を通して全身に着地の衝撃を受ける。衝撃その物はほんの僅かだけ……でも浮遊感と一緒に全身で風を切る感覚は……勇者で高所への跳躍、それに落下は慣れてはいるけど……変身していない、生身の状態でのこれは感じる恐さが全然違う…!
「ぐっ……」
使い魔達は着地後すぐに再び疾走、からの跳躍を繰り返す。その間も私は振り回されているだけで、何もできない。まるで荷物扱いだ。
「……っ!」
ジェットコースターのような高速移動のせいで目眩がする……吐き気も込み上げてきた。抵抗しようにもこんな状態で、もしその拍子で使い魔達の手が離れて空中で落下でもしてしまえば……………問題ないわね。死なないし、痛くもないし。
襟台を掴んだままの使い魔の手を離させようと思ったが、丁度その時ようやく二体の足が止まって自分から解放する。身体を支えていた方もゆっくりその場に下ろし、私の身体も自由を取り戻す。
「………」
地面に座り込むような形で俯いて息を整えつつ、取りあえず確認……。途中からは運ばれる形だったけど、最初は思いっきり地面に引き摺られていたから……制服のスカートが汚れて、しかも少し破けてしまっている……。
『!?』
乱暴に扱ってくれた使い魔の脳天に無言で拳骨を叩き込む。痛覚があるのかないのか知らないけど、叩かれた方は頭を押さえて屈み込んだ。
もう一体の方も睨みつけると、ビクッと肩を震わせて見開いた目と大きく裂けた口を開きっぱなしの不気味な表情のまま、ガタガタと震え出した。
……まあ、こっちの使い魔はむしろ被害を軽減してくれた方だし、許すことにしよう。
溜め息しつつ顔を上げ辺りを見ると、ここはどこかのマンションらしき建物の屋上……どうやらあの人集りから私を引き離すためにあんな強攻策に出たらしい。
「……」
さっきまでの出来事を思い返しながら、眼前に広がる町を見渡す。車が走って人通りも多いけど、先程までの喧騒が嘘のように静か……あそこからそこそこ離れた別の町に来たみたいで、この辺りにはあの場にいた人は誰もいないようだった。誰も私や不気味な使い魔やらに騒いでいる素振りの人はどこにも見当たらない。
「……誰が……あなた達なんか……!」
呟くように言った言葉は風にかき消される。やるせない気持ちを抑えきれずに、胸元に手を当てて強く握り締める。
私は戦うつもりなんて微塵もないのに、人々は私が誰なのか認識するや否や殺到した。彼らの希望に満ちた目は、正しくは鹿目ほむらに対して向けられていたものだ。それを何故か同じ姿の私と間違えて、勝手に期待されても困るというのに……!
彼らにとって勇者はただの人間じゃない……奇跡を起こす存在として崇められている偶像なのだ。こんな世界でそんなものを背負う気など毛頭無いし、ましてやそれが私の使命だと思われるなんて冗談じゃない。
だけど、どれだけ否定しても無駄だった。恐らくこれからも、私の姿を見る人々は私が鹿目ほむらであると間違い続けて、その度に私に言葉をぶつけてくる。滅びようが知った事じゃない、こんな世界を守れ……身体の機能を失い続けることになるとも知らず、連中は私に戦いを強要させる言葉を悪意無く投げつけ続けるのだ。
鹿目ほむらに対しての言葉であって、暁美ほむらに対しての言葉でなかろうとも、それは私にとっては呪いのようなもの……。
結局は勇者である私自身に向けられているものと同じこと……! 誰が……お前達なんかのためにこの身体を捧げるものか……! この身体は勇者部のみんなが笑顔でいられる世界を守るための私の身体だ! こんなまやかしの希望に縋る惨めな世界を守るためではない! 大社の道具として生け贄にされるためのものでもない!!
「ふざけないでよ……!!」
改めて自分の境遇に対する怒りと、自分勝手な人々の願いに押し潰されそうになりながら、声の限り叫んだ。
「一体何様だって言うのよ!?」
『『………』』
使い魔達は相変わらず何も言わずに、黙って私の傍に立ち尽くしている。
「…………もう…いい……」
……こんな事をしていても意味がない。いくら叫んでも、泣いて喚いても、何も……。だったら私はもういい。何もしないで……人々の前から居なくなればいい。
「……充電切れだったわね」
携帯を取り出そうとして、肝心のバッテリーが尽きている事を思い出す。充電器なんて元の世界に置きっぱなしの鞄の中、おまけに財布もだ。尤も財布があったところで、中身のお金の製造年が神世紀の物だと偽造硬化や偽札扱いされただろう。
……どちらにせよ、今の私には何もできない。このまま座り込んで泣き寝入りするのが関の山だ。
「……」
ふと視線を落とすと、使い魔達がじっと見つめていた。無言のまま、何かを訴えるような眼差しをこちらに向けている。
「……何?」
『Überlasse es mi!』
訊ねると、二体の内一体、短髪の方の使い魔が、自信ありげに胸を叩く。まるで任せろと言っているかのような仕草だった。
するとその使い魔は走り出すと屋上から別の建物へと飛び移って行く。転々と移動しながら、あっという間にその姿は見えなくなった。
「……行かないの?」
『……』
残ったもう一体は、その場で佇んだまま動かない。何を考えているのか分からないけど、どうでもいい。
私はそのまま、その場に座り込んだ。
◇◇◇◇◇
屋上から見えるモノクロの町並みは、日が落ちかけてより暗くなってきている。真っ暗な夜が来るのもう少しかもしれない。
宿も無ければ食べる非常食も盾の中だから無し、お金も無いこんな状況じゃ、今夜を凌ぐことすら大変だ。このまま、こんな日々が続くなんて考えれば考えるほど気が滅入る。
当然、丸亀城にいるであろう彼女達の元へ行くなんて考えは無い。行けば戦いを強要させられるだけだ。
少し肌寒い風が吹き始めた頃、座っている私の肩がつつかれる。振り返れば一緒にここにいた長髪の使い魔がある方向を指差していて、そこから屋上から飛び出した使い魔が飛び移ってくる姿が見える。
そして私の前に降り立った使い魔の手には、ポケットサイズの物体が握られており、それを得意気に私に手渡してくる。
「これは……モバイルバッテリーじゃない」
『♪』
「…………」
その自信たっぷりでふんぞり返ってる使い魔の額を指で思いっきり弾く。突然のそのデコピンは想定外だったのか、無防備な額に綺麗に炸裂し、呆気なく後ろに倒れ込む。だけどすぐに勢いよく起き上がって騒ぎ出した。わざわざ持ってきてやったのに、褒められこそすれども叩かれる謂われはないと抗議するように、両手を上げてせわしなくバタつき出すのを冷めた目で見つめることしかできなかった。
「……これ、明らかに新品なんかじゃないわよね?」
『…………Äh……』
「……ハァ……」
どこから調達……いいえ、盗んできたのよ……。仮にも私の使い魔が軽犯罪を犯すなんて呆れと溜め息しか出てこない。だけど、遺憾ながら今は藁にもすがりたい気持ちではある……。結果的に盗んでしまって申し訳ないけど……借りよう、今だけ。
「……ちゃんと後で持ち主の所に戻してきなさいよ」
「見つけたぞコラァーーーー!!!!」
ケーブルを携帯に差し込もうとした時、突然背後から怒声が飛んでくる。最近聞いたばかりの少女の声……丸亀城で対面した、勇者の声が木霊し、私と二体の使い魔はその声の主の方を振り向く。
勇者装束を纏った小柄の勇者………名前は確か…………
「………なんて言ったかしら?」
「うぉおおおい!!? 土居球子だ!! タマは土居球子だ!!! 何で覚えてないんだお前ぇ!!!」
……ああ、確かにそんな名前だった気がする。向こうで自己紹介された覚えが無かったから曖昧だったわ。
いいえ、そんなことよりも、どうして彼女がここにいるのか……性懲りもなく、またしても私を説得しに来たのか……。
「言ったはずよね。私達に接触しないでって」
「コイツはお前の仕業か!?」
「……?」
土居球子は私に、ではなく、使い魔の方に怒りの込められた指先を突きつける。それが意外で、何の事なのか分からないでいると……
「そいつがタマの部屋に侵入して、タマのモバイルバッテリーを盗んだんだよ!!」
次の瞬間、私の拳骨が再び使い魔の脳天に突き刺さり、アホの使い魔はコンクリートの地面に崩れ落ちた。
【●●●】
がさつでわんぱくな性格の1番目の使い魔。茶色の短髪。
【▲▲▲】
真面目だが引っ込み思案な性格の3番目の使い魔。薄いブロンドの長髪。
【使い魔のセリフ翻訳】
昼前に私の前から消えていったものとは異なる……あれは黒髪で鎌を持っていた。今ここにいるのは、二体の使い魔……短髪と、色覚を失った私には白く見える長髪の別個体が、いつの間にやらこの場に現れていた。
『『Gehen Sie aus dem Weg!(そいつから離れろ!)』』
ふと視線を落とすと、使い魔達がじっと見つめていた。無言のまま、何かを訴えるような眼差しをこちらに向けている。
「……何?」
『Überlasse es mi!(任せタマえ!)』
「……これ、明らかに新品なんかじゃないわよね?」
『…………Äh……(…………あー……)』