ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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 これからは外伝の最新話を更新する際、本編の一番下になるように投稿し、次に本編外伝関わらず更新するタイミングで外伝パートの該当位置に変更していく形を取っていこうと思います。

 理由としては、作者的に外伝はあまり手を付けてもらえなくて悲しい……。まあ本編が気になって、外伝は外伝でしょという考え方も分かるのですが、私のワガママに付き合って頂けると幸いです。

 そんな外伝の興味がイマイチという方々へ、並びに外伝も楽しんで頂いてくださる方々へ。薄々感づかれている方もおられるとは思いますが、ここで外伝のコンセプトをお伝えします。





 外伝は、原作クラッシャーゆうほむが介入しないのわゆ編です。


「いつか希望の蕾は花を咲かせる」

 わたしが大社で教わった神事を向こうに伝えて、そこから捧げられる神聖な祈りはこれまでよりも諏訪の土地神様の力を高めることができる。結界はより強固になり、大地に芽吹く恵みは豊かになり。バーテックスを討つ勇者の力だってより強く、より堅くなる。

 

 わたしと、諏訪の巫女である()()()()()。二人の巫女による巫女通信は、力になりたいって想いと弱い心を持った自分を変えたいって想いから始まった。

 

「───すまはせたまへる……ちひろのたくなはを……」

『ももあまりやそむすび……いと……いと………あぁごめん! また間違えた……』

「難しいもんね……もう一回いこう!」

『……いたはひろくあつく……だったね……。うん、まどかさんお願い』

 

 心を落ち着かせて、ゆっくり丁寧に祝詞を唱える。水都ちゃんは一生懸命祝詞を覚えようって頑張っている。そんな頑張りを裏切るような真似は絶対に嫌で、何よりもわたしも二人の力になるんだって想いが日に日に強くなっていく。

 

「『とまをす……あやしきひかり……さちたまくしきみたまを……しづめたまえば……』」

 

 真剣に、例え神様の前では無いのだとしても、本当に祈りを捧げるように気持ちを込める。

 健全な祈りによって健全な力が宿る。不純な感情は一切混じらず、純粋な想いを乗せる事だけを心に染み込ませる。

 

「『いまひとたびのめぐみあたえませ』」

 

 これがわたしと水都ちゃんの巫女通信。諏訪への大社の神事内容の共有と復唱、それが終わると……

 

『───ねぇ聞いてよまどかさん! 信じられない! うたのんってばまた……』

「あはは……またやっちゃったんだね」

『みーちゃんの足みたいに大きくて綺麗ねって……収穫した大根を見てそう言ったんだよ!?』

「それはだいぶ酷くない!?」

 

 最近は他愛のない愉快なお喋りに、愚痴も増えてきたんだよね……。

 

『だよね!?  まどかさんもそう思うよね!? 本っ当にデリカシーが無いんだから!!』

 

 気付けば遠慮がなくなって。堅苦しいというか、お互いに敬語を使って話していたのは最初だけ。苗字じゃなくてお互いに名前で呼び合うようになったのもすぐだった。

 

『私もう頭にきちゃって……なのにうたのんってばずっとヘラヘラしちゃって、怒らないで…なんて宥めようとするの!』

「うわぁー……多分それ、歌野ちゃんはどうして水都ちゃんが怒ったのか理由も分かってないんじゃないかな……?」

『絶対そうだって!!』

 

 ……もちろん肝心の神事については真面目にやってるよ!? ただね、普通に話しても水都ちゃんとは同じ巫女だって事もあって会話が弾むから、つい……。

 なんて言うか……若葉ちゃんと歌野ちゃんがうどんと蕎麦でどっちがいいのか討論する時間がとても楽しいって言ってた理由が今なら良く分かるの。それに全部が全部愚痴ってわけじゃないし。真面目な話だったり嬉しくてクスクス笑えるような話だったりもたくさんあるんだから。

 

『怒ったみーちゃんの顔もキュートだけどやっぱり笑顔が一番! スマイルスマイル……とか自然に言っちゃうんだよ!?』

「それって素で言ってそう。だとするとごめん、ちょっと素敵かも。歌野ちゃん、本当に水都ちゃんにいつも喜んでいてほしいからそう言ったんじゃないかな?」

『そうなんだよぉ……!』

「……それでも流石に、大根が足みたいはどうかと思うけど……」

『そうなんだよぉ!!』

 

 わたし達二人はどこか似ていた。自分に自信を持てない人間で、その弱さの改善を諦めかけていて、受け入れようとしていた所が。巫女として、大切な人を側で支えたいと願う気持ちを抱いていた所とか。

 

「歌野ちゃんなりに褒め言葉のつもりだったんだろうね」

『いっつもズレてるんだよ、うたのんってば』

「てぃひひ♪ そこが歌野ちゃんらしいって言うか、歌野ちゃんの良いところだと思うな?」

『むぅ~』

 

 だから、今諏訪で戦っている水都ちゃんと歌野ちゃんの何気ない幸せな日常を聞くと胸が温かくなる。顔は見えないし声が不満気なものだとしても。心から応援している二人が生き生きとしているのがまるで自分の事のように嬉しいの。

 

『……はぁ~。もういいや。どうせいつまで経ってもうたのんには分からないし、ずっと怒ったままってのも無意味だね……』

「怒ったり喧嘩しても、ありのままの歌野ちゃんを受け入れてさ……。偉いし、優しいね、水都ちゃんは」

『仕方ないもん……でもまどかさんに話してだいぶスッキリはしたから。ありがとう。ただ、ごめんね、こんなつまらない話を聞かせちゃって』

「そんなことないよ。ちょっとでも水都ちゃんのためになれるんだったら、またいつでも話を聞くから」

『……ふふっ……本当にありがとう、まどかさん』

 

 この巫女通信の時間が訪れるのがいつも楽しみで待ち遠しい。水都ちゃんも同じ様に思っていてくれたら嬉しいな……。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 うたのんだけが、何もなかった私のたった一人だけの友達だった。ただそれも、誰よりも立派で大人よりも凄くて、うたのんの背中は私にはとても追いつけそうにない。うたのんの横に立つことすら私は不相応だって、自分が惨めになるだけだったのに……

 

『進化体って……状況は!? 怪我をした人や建物の被害とか……歌野ちゃんは!!?』

 

 先日、バーテックスによる襲撃があった。それもいつものような襲撃ではなく、進化体というごく稀に出現する強力な敵が含まれていたもの。

 

 かつて進化体が出現した時、うたのんはその進化体独自の特性に苦戦した。やたらと素早くてうたのんの攻撃を軽々避け続け、一瞬の隙を突いて放たれる攻撃もまともにくらったら一撃でやられかねないほどに強力……そんな恐ろしい存在がバーテックスの中にいる。

 

 その時の進化体は、ヘトヘトになりながら身体中も痛めて、なんとかギリギリで倒せた。

 そして今回現れた進化体は───

 

『怪我人無し……歌野ちゃんも!?』

「うん……!」

 

 なんと、圧勝とまでは流石にいかなくても、幾分かの余力を残して激戦を制した。

 戻ってきたうたのんは、笑顔で私を抱き締めて、その状態で忘れられない言葉を言ってくれた。

 

「前よりももっと、パワーが漲ってきたって……進化体を倒せたのも、みーちゃんが土地神様に祈りを捧げてくれたからって……」

『それって……』

「まどかさんが、私に神様へのお祈りを教えてくれたから……私、本当にうたのんの力に……!」

『~~~ッ!! やったああーーー!!』

 

 同じ巫女の彼女は、うたのんと同じ様に私と同じ目線に立って、綺麗に透き通った本心で向き合ってくれる。

 通信機越しに響く、喜びしか感じていない彼女の叫び声は私の努力を心から祝福していた。

 

『凄い!! 凄いよ!! 水都ちゃんが歌野ちゃんを想う気持ちが、強いバーテックスをやっつけたんだよ!!』

「……うんっ……うん!」

 

 声だけしか聞こえないのがとても残念だった。彼女は今、どんな満開な笑顔で卑屈だった私が成し遂げた成果を喜んでくれているんだろう……。

 

 まどかさんからの惜しみない賞賛と喜びの声は、初めてこの身に実感する成功体験で弛む涙腺をより刺激する。これまで、私は自分自信に対して存在価値を疑問に思いながら生きてきた。何もできない役立たず。人の顔色を窺うだけの臆病な子供。このまま変わることなんてできず、誰かの足を引っ張り続ける嫌な人生を送る…って。

 うたのんがそれは違うと否定して、まどかさんも他の人からすれば良い所は見つけてもらえるってフォローをされたけど、だからと言ってすぐに納得できたわけじゃなかったの。それなのに……

 

「私……初めて自分がやってきた事に誇りが持てたかも……!」

『そっか……良かったね、水都ちゃん』

 

 何かを成し遂げて、それがうたのんのあの笑顔を作り上げた。

 

 今回、ハッキリとした形で私がうたのんの力になれた様を目撃した。毎日欠かさず土地神様に祈りを捧げ続けていく内に、それ以前には感じられなかった神秘的で温かいものを感じ取った。するとどうだろう、うたのんは進化体の襲来という一見危機的な状況を突破したではないか。

 

 うたのんはその理由を、私が教わった祈りで土地神様の力が高まって、それがうたのんの力をより高めたからだって同意してくれて……。

 

『……うん! いっぱいたくさん、自分の事を褒めようよ! これからももっと頑張っていけるように!』

 

 全身を巡るような喜びが、優しさしかない溢れんばかりの歓喜の声でもっともっと加速する。うたのんだけじゃない、私達の事を心から想って力になってくれる彼女の存在は、何よりも温かくて胸に染み込んでいく。

 

「……私なんかでも……ぐすっ…! 本当に、うたのんの力になれるんだ……!」

『えっ? み、水都ちゃん泣いてるの…!?』

「あ、あれ……?」

 

 気が付けば目頭が熱くなっていて潤み、鼻の奥もツンとしてきた。私を包み込むこの感情は、口から出てくる声も震わせてしまうほどに嬉しいもので、我慢しようにもどうしても抑えられそうになくて……。

 

「……まどかさん……私、本当に良いのかなぁ……!」

 

 ずっと、叶わない夢を眺めていた。私にはできっこないって、不相応だって諦めが付きかけていた、明るい夢。

 

「うたのんの背中を見るだけじゃなくて、うたのんの隣に立って……!」

 

 せめて多少まともであればいい……最善から離れてしまった、妥協できるくらいならと願っていたのに。

 

「こんな私でも、うたのんと一緒に、歩いていってもいいのかなぁ……!」

 

 もう一度、今度こそ本当にうたのんの横に並ぶに相応しい存在になりたいと望んでいた。

 諦めたくないと、胸の中で叫ぶ想いがあった。

 

『……歌野ちゃんならなんて答えるのか、水都ちゃんは分かるんじゃないかな?』

「……」

『わたしだって分かるよ。きっと同じだもん♪』

 

 そうだよね……うたのんはきっと、ううん、絶対。私の夢を太陽みたいに眩しい笑顔で肯定してくれる。

 

『ずっと応援しているから。水都ちゃんも歌野ちゃんも、わたしの大切なお友達だから!』

「……ありがとう、まどかさん……」

 

 彼女の言葉は一つ一つに思い遣りがいっぱいにつまっている。それに、最初の頃からずっと、私ですら気付けなかったうたのんとの絆を私以上に、うたのんと同じくらい信じてくれていて……あるものを私に与えてくれた。

 

「ありがとう……私の友達でいてくれて」

『てぃひひ♪ 水都ちゃんこそ』

 

 今までの臆病な自分のままでは得られなかったこれの正体は、たぶんこんな風に呼ばれているもの……『希望』って。まだ小さい、蕾みたいな物だけど。

 

 それでも、いつか希望の蕾は花を咲かせるのかな……。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 諏訪の人達は明るく前向きに生きていくために、みんなで力を合わせて畑を耕して野菜を育てているんだって、水都ちゃんから聞いた時はものすごく感心してより一層彼女達の事を尊敬した。

 この巫女通信が始まる前は、戦いの最前線になっている諏訪で暮らしていて、過酷な現実で誰かの心がいつ限界を迎えてもおかしくはないって不安に感じていたから。

 

「ねえねえ! 今日はどんな野菜が収穫できたの?」

『たくさん穫れたよ。きゅうりにトマトにカボチャ。それにほうれん草に白菜に長ネギでしょ。というかたくさん種類がありすぎて、全部は答えられないや……』

 

 不安で怖れたりしない、まさに生きているって証を持っている人達。そんな風に導いてきた歌野ちゃんと水都ちゃんが立派すぎて、感心する以外の思いが出てこない。

 

『ちょっと食べさせてもらったんだけど、瑞々しくてとても美味しかったんだ~♪』

「いいなぁ~。歌野ちゃん達が育てた野菜……わたしも食べてみたいよ」

『そうだね……まどかさん達も是非食べてほしいよ。そっちに送れないのが本当に残念……』

 

 その言葉を聞いて少しだけ胸の奥がチクリとした。仲良くなれても、お互いに送れるものは通信機越しの言葉だけ。やっぱり会えないことが寂しく思えてしまう。

 

『まぁ、私は虫が苦手だから、あまり積極的には動けてないんだけど……』

「ああ…はは…そうだね……わたしも慣れる気は全然しないよ……。じゃあ歌野ちゃんは虫は平気なんだ?」

 

 それから入れ替わった話題から悲しい気持ちを切り替える。変わりに思い出したのは小さなトラウマだったけど……。

 前にパパが毎日やっている庭の家庭菜園を手伝おうとして、虫が出てきて思わず悲鳴を上げちゃった事もあったりするから……。わたしにはパパみたいに野菜を育てるのなんて無理だって分かった瞬間だもん。それだけでも、小さなことだけどパパだけじゃなくて歌野ちゃんや農家の人達も改めてすごいなぁって……。

 

『そうなんだよ。いっつも平然としてるの。どうして平気なのって聞いたら、いずれは農業王になる女ですから!だって』

「農業王?」

 

 聞き慣れない言葉に首を傾げる。なんだかすごそうだけど、それって将来の夢ってことかな?

 

『私も詳しくはないんだけど、うたのんってば結構本気なんだよね』

「……いいなぁ。夢に向かって一生懸命に一直線かぁ……」

『ふふっ。私、畑仕事をしているうたのんを見るのが好きなんだ♪』

 

 将来の夢なんて、わたしには全然分からない事だから。大切なみんながこれからもずっと幸せでいてほしい……そんな漠然とした願望しか、それっぽいものが無いものだから。

 

『まどかさんは将来なりたいものとか、あるの?』

「う~ん、分からないんだ……水都ちゃんは?」

『私は…………私もまだ、考え中』

 

 やっぱり難しい話題だったりするのかな? そもそも今の世の中は大変な状況で、だれもが未来の事を考えられる余裕なんて最初からほとんど無いかもしれない。こればかりは歌野ちゃんのような人の方が少数派だって、考えればすぐに分かることだった。

 力を合わせて前向きに頑張っているといっても、今諏訪にいる人達なんかは特に……。

 

『今までずっと夢なんて持ったことが無かったもん。何もできない、何にもなれない、つまらない人生を送るんだって思ってたから』

 

 ……ううん。別に世の中が変わってしまっても、例え変わらないままだったとしても、自分にとって一番叶えたい夢を見つけるのは難しいと思う。

 それは自分がそうなれる姿が見えないから。誰かの力を当てにするしかない自分を認めたくないってジレンマが、本当になりたい自分の姿を遮るから。

 

『でもね、最近は違うの』

 

 そんな中で彼女は。わたしと重なった弱さを抱いていた友達は。

 

『こんな私でも、今までとは変わってきているんじゃないかって感じてきているの。うたのんの力になれて……私でも誰かの役に立てるんだって気づけて……』

 

 それでも確かに、変わろうとしていた。変わり始めていた。

 

『うたのんに出会って、まどかさんと出会って……私、少しは前を向けるようになれたから』

「水都ちゃん……」

 

 その声色に嘘や気遣いは感じられない。確かな喜びを帯びた純粋な本音で話してくれていることが伝わってくる。

 わたしと同じ様な弱さを抱いていた女の子なんかじゃない。そこには強く生きる勇者と肩を並べられる姿があった。

 

 その成長をとても嬉しく思うと同時に、ほんのちょっぴり羨望と寂しさを感じてしまうのはワガママなのかな……。

 

 ……ううん。それでもやっぱり、嬉しいな♪

 

『だからね。私もいつかきっと見つけるよ。うたのんにもまどかさんにも誇れる、私の夢!』

「うん! 楽しみにしてるね」

『その時にはまどかさんも、きっと見つけていてね。一緒に夢を語りたいから……』

 

 そしてまた、水都ちゃんの言葉にはわたしへのエールが込められている気がして。信じてくれているんだって、わたしにも弱い存在だとしても変われるんだって。

 

「うん……きっと。約束だからね!」

 

 勇気を、希望をもらった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 これまでまどかさんと色々お話をして、彼女が友達や家族をものすごく大切にしている人なんだって、十分すぎるほど伝わってくる。

 それは彼女といつも一緒にいる四国の勇者だけじゃなく、私やうたのんもバッチリ含まれている。ありがたくて、心強い味方でいてくれて、人柄を好きになる理由は十分すぎた。

 

『それでね、自分や他の人が三つ編みを作るよりも、まどかに作ってもらう方が好きだって、ほむらちゃんが言ってくれたの♪』

「わあぁ……! すっごく素敵!」

『わたしもほむらちゃんの三つ編み大好きだから、喜んでそんな風に言ってくれてとっても嬉しくて!』

「それに比べてうたのんは、昨日と今日と来週も相変わらずデリカシーがない……。ハァ……いいなぁ……」

『あはは…来週もなんだ……。変わらないんだね…』

 

 特にこの「ほむらちゃん」という人について話す時のまどかさんはいつも嬉々としている様子で、ウキウキしてる。

 

 鹿目ほむらさん……私がうたのんを導くように言われたみたいに、まどかさんと関わりが強い勇者の人。それでいて、まどかさんの血の繋がらない妹。彼女にとっては家族とも友達とも言える存在だってことは、一番最初に向こうの勇者の人達についての話題が出た時に聞いてはいたんだけど……。

 

 ただそれにしたって、私が数少ない友達だと思っているまどかさんがここまでのめり込んでいる人はいったいどんな人なんだろうって、当然興味を抱くわけで。

 

『───えっ? ほむらちゃんの事?』

「うん。今は姉妹でも、そうなる前から仲が良かったんだよね? 二人がどんな風に知り合ったとか、どんな風に仲良くなれたのか、思い出話を聞いてみたいなって……ダメかな?」

『うぇひひ……ちょっと照れくさいけど……』

 

 小学5年生の頃、まどかさんの転校直後に、二人で川に落ちた子猫を助けたのがきっかけで出会った出来事から始まって。

 かつては身体が弱く、友達を作れずに孤立していた日々……。それがどれだけの虚無と自己嫌悪と共にあるのか、形は少し違えども私にはなんとなく想像できる。話を聞いた直後の私は心の中で、そんな時にまどかさんと出会えたのは間違いなく幸福だったんだよって、出会った順番を無視してほむらさんに対して自慢気にまどかさんを持ち上げた。

 

 その後に控えていたのは、7月30日の悪夢……流石にそればかりは話をさせる訳にはいかないから、少し飛んで丸亀城で他の勇者の人達との日々を送るようになる前の話に。

 

 ……ほむらさんの人生の中で、最も罪深い悲劇に襲われた直後だったはず。心が壊れてしまってもおかしくない、耐えきったところで、その恐怖の根幹と戦う覚悟を決めるのなんて……

 

 

 

 

「………!」

『──…って、言ったの』

 

 ………感動で、言葉が出てこなかった。まどかさんから語られたのは、尊い一つの家族の話。

 まどかさんとほむらさんの、決して揺るがない確かな絆の在り方。それを教えてもらった。彼女達が出会ったことは運命で定められていたんだって言われても、私にはその通りだと断言する他無い。

 

「まどかさんとほむらさんは、二人で一人……みたいな感じだね」

『そう、かもね……ほむらちゃんが戦うって決めたから、わたしはその近くで助けようって思ったから、勇者のみんなを助ける巫女になるんだって決めたから』

 

 まどかさんにとって、ほむらさんが心の支えになっているのなら、ほむらさんにとってもまどかさんの存在が支えになってる。お互いにお互いを支え合って、守り合っている。

 

『わたしに出来ることなら何でもやってきたつもり……ドジなりに一生懸命頑張ったよ』

「………」

『だから………』

 

 それは何気ない会話の一つだった。けれど私は、その中に隠れていた感情に気が付いた。

 私がまどかさんの心に気が付いたのを、まどかさんもきっと感じ取った。お互いに声を出せず、通信機のノイズの音だけになってしまって。

 まどかさんの、震えるような声で絞り出した一言で、ようやく……

 

『もしも助けられない事が……怖いんだ』

「そう…だよね……」

『ほむらちゃんだけじゃない……他のみんなも……』

 

 最初の頃に話した時からそうだった。まどかさんは力がある勇者でも、誰かが戦う事を恐れていた。大切な存在を失う可能性が、ずっと彼女の側から離れないから。

 

『歌野ちゃんも、水都ちゃんも……』

 

 私だって、怖くないわけがない。うたのんだってそう感じている事態なんだから。

 

『どうすればわたし、みんなを助けられるのかな……?』

「………」

 

 不安になって当然だよ。

 

 ……でも、これは……ちがう。

 

「らしくないよ、まどかさん」

『えっ……?』

 

 今まどかさんが口にしている事は、誰もが口にして当然の弱音。だけど彼女は、鹿目まどかっていう私の友達は、そんなものに負けちゃいけないの。

 

「……そりゃあ私だって、どうしたって不安なのは無くならないよ。でもさ、誰だって一人じゃないから……私にはうたのんも、諏訪のみんなも、まどかさんも乃木さんもいる」

『水都ちゃん……』

「まどかさんにもほむらさんがいる。乃木さんや他の仲間、家族のみんな……私もうたのんもいるんだよ?」

 

 彼女はいつだって優しくて、純潔で、友達思いで、家族思いで、みんなが大好きな笑顔を絶やさない人なんだ。

 

「それに、誰だっていなくなろうなんて思わないよ。誰にだって、まだまだやり残している事がいっぱい……」

 

 自分で言っている内に、頭の中にはたくさんのやりたい事が浮かび上がる。

 例えばそう、これからもうたのんが楽しそうに野菜を育てるのを見ていたい。諏訪のみんなが笑顔で過ごしている姿をずっと見ていたい。

 

 直接、まどかさん達と会いたい。

 

「怖いことだらけかもしれないけど、頑張って生きていれば良い事だって、まだまだいっぱい残ってるんだから……みんな、そのために頑張って生きていけるはずだよ」

 

 夢物語なんかじゃなくて、実現させる未来を作るために。そして、まどかさんが抱いているであろう気持ちを乗り越えてもらう為に、私はこの言葉をを口にする。

 

 私達にとっての、一番大切な言葉。

 

「信じようよ! うたのんやほむらさん、乃木さん、勇者のみんな、友達のみんなを! 私達の希望や夢を!」

 

 私の気持ちを全部乗せて。この想いが届いたかどうか……ただ、言い切ってまどかさんの返事を待つ僅かな間、気持ちが高ぶってしまったって少し恥ずかしさが込み上げてきた。

 

 まどかさんからの返事はすぐに返ってきた。

 

『……なんだか水都ちゃんって、最初にお話しした頃より強くなったよね……』

「うっ……そ、そう? 恥ずかしい……」

『ううん、恥ずかしくない。とても立派だった!』

 

 その声は、私の大好きな優しさに満ち溢れた声だった。さっきまでの不安をどこにも感じさせない、純粋な彼女のままだった。

 褒められて照れてしまう。けれど、やっぱり認められて嬉しいなって、心からそう思う。

 

『……そうだよね……みんななら、きっと大丈夫だよね』

「その意気だよ、まどかさん!」

 

 まどかさんは、みんなの事を心の底から信頼してる。その想いが報われない事なんて、あったら駄目だ。

 例え辛い現実が押し寄せてきても、まどかさんにはそんな支えてくれる大切な人がいっぱいいる。それを忘れちゃ駄目だから……。

 

「ねえまどかさん。これからまた不安になったり、悩み事ができたりしたら、いつでもいいから遠慮なく話して? まどかさんのためになれるんだったら、またいつでも話を聞くから」

 

 いつかの恩返し。ってわけじゃないけど、純粋に私がまどかさんの力になりたい。そう思って口にした言葉。

 

『……ふふ。やっぱり水都ちゃんは強いよ。歌野ちゃんに負けないぐらい!』

「流石にそこまではないよ……!?」

 

 本当にそうなれたらいいなとは思うけれど。

 

 でも、ありがとう。まどかさん。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『神託がきたの』

 

 

 

 

 水都ちゃんと巫女通信を始めて、そこそこ長い時間が過ぎた。たくさん話をして、一緒に神様に祈りを捧げて、いっぱい笑い合えた交流の時間。

 楽しい時間は、もう……諏訪の戦況が、最悪の形に仕上がりかけていた。バーテックスの襲撃で諏訪の結界はやむを得ず、強度を上げるために規模を縮小せざるをえなくて……

 

 これだけならまだ何とかなったらしい。でも、日に日にバーテックスの襲撃頻度は高くなり、そして9月……今月、大規模な襲撃が起こって、歌野ちゃんは少なくはない傷を負ったって……。その時に、若葉ちゃんと歌野ちゃんと一緒に四人で通信した時は問題ないって言ってたのに……今、水都ちゃんが本当の事を言ってきた……!

 

 今や毎日のようにバーテックスは襲って来て、激しい攻撃は水都ちゃんの祈りで強くなっているはずの歌野ちゃんに新しい傷を与え続けて……!

 

 

 

『明日、諏訪に今までよりも大規模の襲撃があるって』

「……う……ううぅぅう……ッッ!!」

 

 瞳いっぱいに涙を溜め込んだわたしに届いた無慈悲な言葉は、それを決壊させるには十分すぎた。

 どうしようもない、絶望感……。考えられる状況が最悪のそれでしかない……。

 

「……なん…で……! どうして……!!」

『………』

「歌野ちゃんとみんなで……挟撃するんだって……作戦はどうなったの……!!?」

 

 なんで大社が告げた作戦の実行に移れていないの……? なんで勇者は今も歌野ちゃん一人だけが戦っているの……!? 歌野ちゃん一人だけで戦わせて……そんなの、歌野ちゃん達を見殺しにするようなものじゃない!!!!

 

「今からでも遅くない!! みんなに言って歌野ちゃん達の助けに行けば……!!」

『……たぶん、無理じゃないかな』

「っ!? 何を言ってるの!? じゃないと……!!」

『ううん……四国と諏訪の間にもバーテックスはいっぱいいるはずだよ……。何の準備もできてないままでこっちの来るのは危険すぎる。それにそんな中で、一日だけで諏訪に到着は……』

「っ……!」

 

 手遅れだった……。わたし達にはもう、この状況を変える事なんてできなかった。

 

『……本当に、ありがとう……まどかさん。こんなにも私達の事を想っていてくれて。……ごめんね……』

 

 言葉が震えるのを必死に抑えて、詰まらせているわたしに対して、水都ちゃんは変わらなかった。

 これまで積み重ねてきた通信の時と同じ……様子で……。

 

「水都ちゃんは、どうしてそんないつも通りなの……? 怖くないの!?」

 

 感情がグチャグチャなわたしは、初めて水都ちゃんの事が理解できなくて叫ぶように言った。今、とても危険なのは水都ちゃんなのに、そんな時にまでわたしなんかの事を気遣ってほしくなかった。自分達の事だけを考えてほしかった。

 

 水都ちゃんはいつも通りの声で

 

『怖いよ。すごく怖い』

 

 恐怖に包まれた、震えた声でそう言った。

 

 そして水都ちゃんが、どれだけ優しくて、頑張り屋さんなのか、今になって思い出してしまった……。

 

 ……わたしは………なんて、馬鹿なんだろう……。怖くないわけがないのに……。ただわたしに、心配をして気丈に振る舞って、頑張っていただけだったのに……!

 

『でも、信じてるから。私にはうたのんがいる。まどかさんがいる。乃木さんがいる……だから』

「……っ!」

 

 ぶわっと涙が溢れそうになるのを、強引に両目を拭って誤魔化す。奥歯を強く噛み締めて、それ以上涙が流れてしまうのを必死に耐える。

 水都ちゃんは頑張っているじゃない……泣いていないじゃない……!! わたしが泣くわけにはいかない……そうでしょ……水都ちゃん……!

 

『あのねまどかさん……私ね、夢があるんだ』

「………えっ……?」

 

 脈絡のない言葉。でもその言葉は……覚えていた、わたし達二人の約束。

 

『私ね、宅配屋さんになりたいの』

 

 水都ちゃんが見つけた、水都ちゃんが誇れる夢。

 

『えへへ……実はこれ、まだうたのんにも言ってないの。まどかさんに言うのが初めてで』

「水都ちゃん……」

世界中の人にうたのんの作った野菜を届けたい。世界中の人に、うたのんの作った野菜を食べてほしい

「うん……」

『もちろん、最初はまどかさん!』

「うん……!」

『ねえ、まどかさんの夢を教えてよ! 約束だったでしょ♪』

 

 ……うん。わたしも、見つけているよ。

 

「わたしの夢は……」

『うん』

「みんなと一緒に、幸せになること!」

『うんうん!』

「水都ちゃんと、歌野ちゃんとも出会って! パパと、ママと、タツヤと、ほむらちゃんと、若葉ちゃんと、ひなたちゃんと、球子ちゃんと、杏ちゃんと、友奈ちゃんと、千景さんと、巫女のみんなと、世界中の人達が一緒に!」

『うん』

「バーテックスがいないせかいで……みんなの夢が叶う、ステキな世界で……一緒に……!」

『……』

「それが……わたしの夢」

 

 もう、涙を堪えるのなんて、できない……。それでもわたしは……約束を。

 

「水都ちゃん、約束。わたし達は……必ず出会うんだから……! 一緒に……幸せになるんだからぁ……!!」

『……うん。必ず……会おうね。うたのんにも、伝えるからね』

 

 そう言って微笑んだ気がして、その日の通信は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会うんだから。約束したんだから。絶対に、水都ちゃんと歌野ちゃんは約束を守ってくれるんだ。

 

 だから……

 

 

 

 

『ザー…ごめ…なさ…ザー…通信の……ザー……悪くて……ザー…』

 

 だから……

 

「何かあったのか?」

『ちょっとしつこい…ザー…バーテックスをザー退治した…だけ…ザー…でもその時…通ザー信機がザー…壊れて……ザーそちらも頑張ってザー……きっとなんとかなりますザー………ザー』

 

 

 だから……

 

「白鳥さん…?」

『私も…ザー…予定よりもザーザー二年も長く……御役目をザー続けられて……ザー』

 

 

 だから……

 

「聞こえているか!? 応えてくれ、白鳥さん!!」

『乃木さん……ザー…ザー……まどかさん』

 

 

 だから……

 

 

『後はよろしくお願いしますザーーーー』

 

 

 

 

「諏訪が……墜ちた……のか…?」

 

 

「いやぁあああああああああああああ!!!!」

 

「!?」

 

「歌野ちゃん!! お願い応えて!! 返事をして、歌野ちゃん!!!」

 

「お、おい落ち着け!」

 

「イヤだ! 歌野ちゃん!! 水都ちゃん!!」

 

「神樹様!! 神様!! 誰か助けて!!」

 

歌野ちゃんと水都ちゃんを助けて!! 死なせないでよぉ!!!

 

「うわぁあああああああああああ!!!!」

 

「わ、若葉ちゃん! これはいったい…!?」

 

「ひなた! いい所に来た…手を貸してくれ!」

 

「気をしっかり持て!! まどか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 一時間後、三年間の空白を経て四国にバーテックスが襲撃を開始した。諏訪の崩壊を……わたしの友達の命が消えるのを、開戦の合図として。

 

 

 

 

 




セクションクリア
メモリア「希望の花」を手に入れました
メモリアは直接付与されています


 感謝から芽生えた親愛の情。純潔な気持ちで育まれる友情は尊く、いつかその姿を目にする時を期待する。花は決して散ることはない。希望を繋いだ絆が今、私たちの胸の中にあるから…
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