ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
タマにとって、昨日みんなの前に現れた新しい勇者の登場は、そりゃあびっくらこいた。
八人目の勇者だっていうその存在だけで一万ぶっタマげ、見た目と声がどっからどう見てもほむらその物で名前まで同じだって事で三万ぶっタマげ、んでもってあんなにヤバそうだった進化体バーテックスを一瞬で倒しちまったのでもう三万ぶっタマげだ。
タマが勇者になった時の二万七千ぶっタマげと、初めてみんなと手打ちうどんを食べに行った時の三万ぶっタマげの記録をあっと言う間に塗り替えやがった……。とにかくスゴい奴が新しく仲間になったんだって認識で、興奮していたんだ。
そう、仲間なんだって思ってた……心強い仲間が増えたんだって……。
「あっ………みんな……おかえり……」
「記者会見、お疲れ様でした」
「まどか……上里さん……」
「ああ、ただいま……」
記者会見やインタビューとか全部終わって丸亀城に帰り着いたタマ達を出迎えてくれた、まどかとひなた。二人とも揃って暗い表情のままだ。
とても、言葉通りタマ達を労えているとは思えない。もちろん全く無いってワケじゃないんだろうけど、それ以上に別の事が二人をそんな顔にしてるんだろうなって事は誰もがすぐに分かっていた。みんな、同じ事でショックを受けているんだからな……。
「……二人とも、みーちゃんは?」
「泣き疲れて……今は保健室で眠っています」
「……みーちゃん……」
「歌野さん……」
中でも一番苦しいのはきっと歌野だろう。まだタマ達と出会って一日しか経ってないが、歌野と水都は互いにものすごく信頼し合っている、立派なパートナーみたいな関係だってのはすぐに分かったんだ。
タマ達四国の勇者とは違ってたった一人で戦ってきた歌野と、それを支える巫女の水都だ。タマにとってのあんず、若葉にとってのひなた、ほむらにとってのまどか、千景にとっての友奈みたいな物だって。
「……行ってこい、歌野」
「……ええ」
そんな水都の心が深く傷ついたと知って、しかもそれをやった奴が仲間だと思ってたヤツで……。
若葉に促されて一人で保健室の方に歩いていく歌野。昨日初めて会った時から明るく、タマや友奈と同じくらい元気で気持ちが良いヤツだったのに、今はその背中があまりにも小さく見えて、まるで泣いているみたいに見えた。
「チッ……気に入らない空気ったらありゃしないわ」
「歌野ちゃん……っ」
「高嶋さん?」
「歌野ちゃんについて行く。二人のことが心配だもんっ!」
そう言うとすぐに歌野の後を走って行く友奈。そんな友奈の表情も、やっぱりどこか曇ってる。
タマ達は今日勇者として、四国中の人々の前でバーテックスを倒すんだって宣言したばかりじゃないか……。なのにこんなにもテンションが全く上がらない空気、嫌すぎるにも程があるぞ……。
いや、タマにだってこんな風になってしまった原因は解っている。暁美の奴が、まさかあんな事をするなんて誰にも予想できなかった事なんだ。アイツと数日間一緒だった歌野と水都ですら裏切られたようなもので、心の整理がつかないんならしょうがないと思う。
でも、だからと言ってここでウジウジしててどうなるってんだ。そんなのどこも勇者らしくないぞ……。
「……私の考えが甘かった……」
タマと同じで丸亀城全体を包んでいるかのような重い空気に耐えかねたのか、若葉の奴が口を開く。その声音は重く沈んでいて、けどその中には隠しきれない悔しさや怒りがあった。
「未練がましく話し合えば何とかなると思い込んだ私の……今朝の時点で気付くべきだったんだ…! そのせいで水都は………っ! あいつを仲間に引き入れるなどという事は考えるべきではなかった……!」
「乃木さん……」
そう言って唇を噛む若葉。その拳も強く握り締められ震えていた。若葉の奴、ずっと後悔していたんだな……でも、暁美がまさかあんな奴だったなんて誰も想像できなくて当然だろ……。歌野と水都から聞いてた話とはあまりにも違いすぎだったんだからな……。
「若葉が謝ることなんかじゃないだろ。少なくともタマは、若葉はリーダーとして正しいことをやったんだって思ってる」
「若葉さん、私もタマっち先輩と同じ意見です。暁美さんがそんなに冷たい人だったなんて、誰も信じたくはない事だったんですから……」
若葉は何も間違ってなんかいない。むしろ一度説得に失敗して暁美の本性を垣間見たのに、それでももう一度あいつを信じようとして、仲間として迎えたい心を失わなかった。それはとても勇気がいる事で、そして勇者として本当に正しかったと思う。
それを、仲間を傷つけられるなんて最悪な形で裏切られた若葉の心痛もあまりにも大きいだろうし、タマなんかよりもよっぽど辛くて悲しいはずだ。
……やっぱり、どうしてもタマも暁美の奴に対してイライラしたものを感じずにはいられない。若葉も歌野も水都も、それから友奈までも……いや、結局は暁美の事を信用していたタマも、あんずも、まどかも、ほむらも、ひなたも、千景も、タマの大事な仲間達全員を裏切って悲しませたあいつが許せない……!
◇◇◇◇◇
こいつもお前の仕業か暁美ィィイイイ!!!!
今、タマの目の前に立っているコイツは、盗まれたタマのモバイルバッテリーのコードを携帯に差し込もうとしていた!! その傍らには、寄宿舎の自室に戻ったタマに不法侵入とかいう予想外の衝撃を与えた不気味で変なヤツが立っている!!
マジで驚いたんだぞ!? 部屋に戻るとそこにいたのは本来いるはずのない人間…ですらない! 鍵もちゃんと掛けていて、鍵を開けてタマは部屋の中に入った……それなのに肌の色が真っ青で目ん玉ギロギロさせながら人の部屋の中をうろちょろ物色していたんだ……ビビって腰を抜かすかもしれないだろ! タマは抜かさないけどな!
勇者だから、タマは咄嗟に勇者システムで変身してそいつを捕まえようとしたけど、意外にすばしっこく飄々と避けやがる。その隙に変身の時に邪魔だからと床に置いたタマの鞄を掠め取り、中の大社から支給されたモバイルバッテリーだけを抜き取って、そのまま部屋から逃げやがった……なんか既に割られている窓から。
色々あって疲れていてイライラしている所に突然変なヤツが現れて、タマのモバイルバッテリーを堂々と盗みやがった!! おまけにただでさえ散らかっているタマの部屋がしっちゃかめっちゃか!!
叫んでタマも窓から飛び出し、しつこく逃げ回るそいつを追いかけ回して今に至るってわけだ。ちょこまかとしやがって、すばしっこいわ隠れもするわで何度見失いそうになったことか……。
というか、おかしい……本当に何なんだこいつは……。地面からのジャンプで軽々と建物の屋根の上まで跳べているのも、勇者のタマが全力で追いかけても、その距離がなかなか縮まらないなんて、どう考えても普通じゃない。
なんか途中誰かから電話が掛かってきたけど、電話に出た隙に完全に逃げられて見失うかもしれないし、それどころじゃない。そもそもタマの怒りは有頂天なんだよ!!
「見つけたぞコラァーーーー!!!!」
そして、最終的に辿り着いた先にこいつがいた。タマ達の仲間になることを拒んだ、冷たい目をした勇者が……! 暁美ほむらがいた!
「…………」
暁美はただひたすら無言でタマを見つめる。タマのイライラを気にも留めない様子で、まるでどうでもいい物でも見るみたいに。
「………なんて言ったかしら?」
「うぉおおおい!!? 土居球子だ!! タマは土居球子だ!!! 何で覚えてないんだお前ぇ!!!」
こ、こいつ……! なんて失礼なヤツだ……どうして何も言わなかったのか、ただ単にタマの名前を忘れていただけだった!!
人を舐めた発言でますますイライラするタマに対し、暁美は付きまとうタマをあしらう時の千景と全く同じ声色と表情で、心底うっとうしくてうんざりしているかのように口を開く。誰がうっとうしいだ!!
「言ったはずよね。私達に接触しないでって」
ハァ!? 何様だこいつは!? じゃあお前が今その手に持っている物は何だ! どうしてそこの変なヤツに盗まれたタマのモバイルバッテリーを持っていて、今にも使おうとしているんだ!
「コイツはお前の仕業か!?」
ビシッと暁美の隣にいる変なヤツに指を突きつける。暁美がモバイルバッテリーを持っているのも、こいつがこの変なヤツに盗んでくるよう言ったからに違いない!
よく見れば似たような変なヤツ、そっちはモバイルバッテリーを盗んだヤツとは違って髪が長いしブロンド色のも反対側にいる。あんずのに似てる……って、何変なことを考えているんだ! あんずがこんな変なのと一緒なわけ無いだろ!
一体何なんだ、この変な奴ら……暁美の仲間なのか? いや待て……そういえばまどかが言っていた、水都を直接殴って傷つけた、人間とは思えないヤツってこいつらのことか!
「……?」
すっ惚けるつもりか!? あからさまに首を傾げてもこのタマはお見通しなんだ!
「そいつがタマの部屋に侵入して、タマのモバイルバッテリーを盗んだんだよ!!」
ゴツン!!
「いっ!?」
………な、なんだぁ…? 突然暁美が泥棒した変なヤツを拳骨で殴りやがった。スゴい音がしたし、倒れるのも顔から行ったぞ、オイ……。
倒れたそいつは起き上がらない。よほど今の暁美の拳骨が効いたのか、うつ伏せに倒れたままピクピクと痙攣しているぞ……。
『Das ist keine Überraschung……』
もう一体の変なヤツが倒れたのに近づいてその体を揺らす中、暁美は手で両目を覆って天を仰ぐと、思いっきり深い溜め息を吐いた。
「……どこから調達してきたのかと思えばよりによって……ハァ……」
「な、何やってるんだ、お前……?」
どっからどう見てもほむらにしか見えないし、声だってメチャクチャ似てる奴が、目の前でまさかのバイオレンスな行動にちぃとばかしビビった……。こいつとほむらは別人だって解っちゃあいるんだが、あいつそっくりな姿でこんな事をするのをいきなり見てしまうと、一瞬混乱しそうになってしまう。
「……ってそうじゃない! おいコラお前! 盗んだ物を返せ!」
ハッと気を取り直し、モバイルバッテリーを持ったままの暁美の方に一歩前に踏み込む。言ったところでどうせ素直に返すとは思えないが、大人しく黙ってこのままおめおめと引き下がるタマじゃないぞ!
「………ん」
「えっ、とぉっ!?」
一瞬反応が遅れてしまったが、意外なことに暁美はタマの言うことを聞いて、持っていたモバイルバッテリーをこっちに放り投げた。無事にキャッチして、盗まれた物はこうしてタマの手の中に。あまりにあっさりと返してくれたものだから、タマの方が戸惑ってしまう。
「確かに返したわ……これで用件は済んだでしょう…」
「お、おぉう?」
「それじゃあ」
「……イヤイヤ、待て待て待て待て!!」
思わずツッコミを入れてしまうタマ。本当に返してくれたなら別にいいけどさ……それよりどうしてタマの頼みを聞くような真似をしたんだ? 何か裏があるんじゃないかって勘ぐってしまうだろ……。
「……どういう風の吹き回しだ? 自分で言っておいて何だが、普通すんなり盗んだ物を返すか?」
「……何を言ってるの? 土居球子、あなたは人様から盗んだ物を使うのに抵抗が無いのかしら?」
「盗ませたヤツが何言ってんだ!?」
何なんだこいつは! ホント意味不明だ! もう訳がわかんないぞ!
「だぁあああ!!!! 何なんだお前は!! 急に居なくなったと思ったら丸亀城に車バラ蒔いて、記者会見からいなくなって、水都を怪我させて、それで今度はタマのモバイルバッテリー盗んで返して何がしたいんだよ!?」
「……最後の一つについては私は悪くないと言わせてもらうわ。コレが勝手にしたことだもの」
「知るかーーーっ!! こっちは部屋の中荒らされて窓ガラスまで割られてるんだぞ!?」
イライラとか暁美の妙な言動のせいで消化不良なのが合わさって、最早訳わかんなすぎて頭ん中グッチャグチャのタマである。間違いなく怒ってもいいはずのに、すんなり返してくれたのと、向こうは何だか少し同情の込もった目でタマを見やがるから変な感じしかしない。
そしてもう一度深い溜め息を吐き、うどん倉庫の過剰在庫でも見るかのような「かわいそうだけど、信じられない捨値でワゴンセールに並ぶ運命なのね」ってなかんじの冷たく残酷な目で、デカいタンコブから煙を出して倒れている変なヤツを見やって指差した。
「……もう、それ連れて行っていいから。掃除や雑用なり何なりこき使っていいから、それで納得して帰って頂戴」
「いるかぁああっ!!」
なんでそんな得体の知れないヤツを連れて行かなきゃいけないんだよ!? そもそも部屋をメチャクチャにしただけじゃなく、水都をやったのもコイツなんだろ! そんなヤツとタマを一緒にしようとするんじゃぁない!!
「もう一度だけ言うけど、それを盗んだのはそこのアホ使い魔が勝手にしただけ」
「ゼェ……ゼェ……! ……ほ、ホントかよ……」
「……確かに携帯の充電が尽きて困ってはいたけど……窃盗しようだなんて考えは思いもしなかったし、私は無関係よ」
でもそれなら暁美がすぐに返してくれた事の理由にはなっているのか…? 暁美自身が盗みに関しては否定的だったから、持ち主のタマに返すのに抵抗は無かったってところなのか……?
「……わかったよ。盗むようにお前が指示したんじゃないんだな?」
「ええ」
「そっか、取り返してくれてありがとな」
「…………」
……正直なところ、若葉達の想いを無下にして裏切ったこいつに礼を言うのは釈然としないが、それでも盗まれた物を素直に返してくれたこと自体は感謝している。それに、直接相手にこういう言葉を伝えるのは大切だからな。例え相手が誰であろうとも、気さくに接してやることができるのはタマのたくさんあるカッコイイポイントの内の一つだ。
しかし暁美はこちらの言葉に対して何も答えず、呆けたように黙ってタマを見つめるだけだった。
「……なんだよ。何か気に入らないことでもあるっていうのか?」
「……風…ぱい……」
「んあ?」
「……いいえ、何でも無いわ」
「……何で急に不機嫌そうになるんだよ」
小さくて聞こえなかったが、あいつ今何て言ったんだ? だがそれを問い詰めるよりも早く、突然暁美はくるりと踵を返し、そのままこの建物の屋上の出入り口へと向かってしまう。
「お、おい! どこ行く気だよ!」
「さあね。そんな事、私の方が知りたいぐらいだわ…」
「ちょっ、待てよ! お前行く所っていうか、四国に身内とかいるのか? 北海道から来たんだろ?」
タマがそう訊ねると、暁美の足が止まる。だが振り返りはせず、背中を向けたままだ。
「……いないわ」
「じゃあ、どこに行こうとしてるんだ? もうそろそろ夜で真っ暗になってしまうぞ」
「あなたには関係ない」
「んな事言ってる場合じゃないだろこの馬鹿!」
やっぱり思った通りだ! こいつ自分から丸亀城を出て行ったくせにアテなんて全く無いんじゃないか!
「……お金は? 中学生なんだし、いっぱいあるってわけじゃないんだろ」
「…………」
「図星だな……今はホテルだって諏訪の人達の受け入れに回されているし、空いてる所が見つかっても安くはないってことくらい知ってるだろ。お前今の所持金いくらなんだ? どうせすぐに尽き…」
「0」
「ほらやっぱりってうぉおおおおい!!!!? お前よくそんなので丸亀城から出て行こうと思ったな!!? アホだろ!? お前もあの変なヤツと同じでとんでもないアホじゃないかぁ!!」
アテどころか何も、これっぽっちも考えが無い、逆に恐ろしくなるほどのノープランの家出じゃないか!! つーか0って、こいつはお金の重要さが解ってないのか……って……
……水都が昨日言ってたな……。暁美は諏訪に来て初めて自分の故郷以外に人が生きている地域があるって知ったって。それじゃあ北海道から出てもお金なんて使う必要どころか使える場所なんてどこにも無いって思っていれば、1円も持っていなくても全然おかしくはないか……。
とはいえ勇者なのに宿無しっていう問題以前に、年頃の中学生の女の子として夜中でも町中を徘徊するとか、キャンプでもないのに野宿でホームレス生活とか、マジで笑えないマズすぎる話だ……。なんかタマにニュースである女子中高生の家出の末路みたいな事態とかになるかもしれんし、そうじゃなくてもそのうち勇者なのに警察に補導されて、めっちゃややこしい事に……こんなんほっといていいワケがないだろ!
「ああもう、一緒に戻るぞ!」
「丸亀城に?」
「それ以外に何があるってんだ!」
「それには及ばないわ」
「無一文のヤツが言うセリフか!」
こんな状況でどうして拒み続けるんだか……家もない、お金もない、そしてさっき何気に携帯の充電も尽きたとか言ってたな……詰んでるじゃないか。やっぱりこいつ頭おかしいぞ。タマならこういう場合絶対帰るっていうのに……。もしタマが今の暁美のように戻りたくない時……それは……。
「わかったぞ! さてはお前、丸亀城に戻るのが気まずいんだろ!」
「………」
「自業自得だからな。それは流石のタマも知らないぞ」
こいつの人々を蔑ろにする発言、そして必死に説得しようとした水都をそこにいるヤツを使って殴らせた……そう簡単に割り切っていい問題なんかじゃない。なあなあで済ませていいわけがない。
「言っておくが、タマも他の奴らもお前が若葉や友奈やまどか達に言ったこと、水都にやったことはスゴくムカついてるんだ。許してなんかない。でもな、タマは鬼じゃない。それはあいつら全員だってそうだ。お前が心から反省してあいつらに、特に水都に謝って、元通りの関係に仲直りできたら許してやらんこともない」
だから暁美にも全部言わなくちゃいけない。こいつがいったいどんな酷いことをやらかしたのか、深く考えさせなくちゃ意味なんて何もないんだ。
後悔するならぶっちゃけ誰にでもできる。だからタマが求めるのは二度とそんなことが起きないよう、こいつの考え方が変わることだ。
「わかったか暁美? 気まずいのはお前が後悔しているからだ。でもそれは元はと言えば…」
「戦いを強制する連中の巣窟に戻るつもりはない」
「んなっ!?」
タマのいい話を問答無用でぶった切った暁美の声は、全くこれっぽっちも温もりを感じさせなかった。タマの言葉が暁美に響いている様子……そんなもの、どこにもない。
自分が友達に何をやったのか、罪悪感なんてひとかけらも抱いていない。それでいてまたしてもタマ達を見下すような発言をかまし、とことんタマ達を何とも思わないかのような態度……いい加減、堪忍袋の緒が切れそうだ……!
「強制なんてしてないだろ!」
「八人目の勇者なんて、本人の了承を得る前に勝手に英雄認定して世間に公表した大社が、姑息で狡猾な組織が戦えなんて命令しないとでも?」
「それは……」
正直、そうかもしれない。だって、そりゃそうだろ……悔しいが、暁美の勇者としての実力はタマ達より上だ。歌野を助け、昨日だってみんなこいつが進化体をあっという間に倒した瞬間を見た。
その力さえあれば、今まで以上にバーテックス相手に優位に戦える。この世界だってきっと救うことができるのに、それを全く活かそうとしないことが実に不可解だ。
こいつは本当に、この世界すらどうでもいいと思っているのか……!
「……どうしてお前は戦わないなんて言うんだ? 仮にもお前は勇者なんだぞ」
「それを聞いて何になるの。何を言われようとも私の答えは変わらない……何も、良いことなんて有り得ない」
「いいから答えろ。それが水都を……お前が友達を傷つけてまで断る理由なのか、タマに教えろ。もしふざけた理由を抜かしたらここでお前をぶん殴ってやる」
「………………」
脅しじゃない、マジでやってやるつもりだ。タマが変身していて、向こうがそうじゃない状態だとしても、手加減なしで思いっきり顔面をブン殴ってやる。
そして暁美は、観念したようにため息をつく。
「私は……こことは別の世界の人間だから」
「……は?」
「この世界に私が守るべき物は一つもない。だから戦う理由が無い……と言っても、その様子だとやっぱり信じてないわね」
ブチッ…! ……バーテックス以外にここまで怒りが湧いたヤツ、こいつが初めてだ……!
「信じるわけがないだろ!! この期に及んでふざけるのも大概にしろーーーッ!!!!」
言うに事欠いて、戦わない理由が違う世界の人間だからぁ!? こいつは自分が宇宙人か何かとくだらない冗談でタマを騙せると!? 真剣に聞いたタマをおちょくって、本当にこいつが水都を何とも思わず傷つけた最低なヤツだと確信した!!
「タマ達みんな……昨日までお前の事を仲間だと思ってたんだ!! 歌野と水都はお前を友達って言ってたのに……ちくしょうがああああ!!!!」
携帯の充電がなくて変身できなくても関係ない! こいつは絶対に許しちゃいけないヤツだ! 暁美に飛びかかり、怒りのまま握り締められたタマのパンチはこいつの左頬に吸い込まれる。
ガァンッ!!!
「なっ…!?」
「ねぇ、土居球子。もう一つだけ教えてあげる……私の敵はバーテックスというのは語弊がある。正しくは、無駄な争いをする馬鹿が敵よ」
タマの渾身のパンチは、暁美に届いていなかった。タマと暁美の間に割り込んだヤツ、勝手にタマのモバイルバッテリーを盗み、暁美に制裁されてずっと倒れていたあいつの
『was zum Teufel machst du da!』
「ぐあ…!」
直後、そいつはタマの腹に突き刺すような勢いで蹴りを放つ。咄嵯に反応しきれずに喰らってしまったタマは吹き飛ばされ、後ろに吹っ飛ばされる……だと!?
勇者に変身して強くなっているタマをだぞ!? こいつ、こんな不気味な見た目のくせに勇者並みのパワーがあるっていうのか!?
「そして愚か者が相手なら、私は手段を選ばない」
「うぐぐ……って、ああっ!」
倒れた身体を起こしたタマが見たものは、屈み込んで屋上に落ちた何かを拾っている暁美の姿。その手にあるのは、あいつに返してもらったばかりのモバイルバッテリー。
「あなたがやるって言うのなら、今度は使わせてもらうわよ。恨むなら敵の目の前に簡単に落としてしまったあなた自身を恨むことね」
「ド、ドロボーーーッ!!」
タマの叫びも虚しく、暁美はコードを自分の携帯に差し込みやがった。充電切れだったあいつの携帯が点灯し、起動準備の状態に……あいつ、さっき自分で盗んだ物を使うのは抵抗がどうのこうの言ってたくせに!!
だが、実際これはかなりマズい……! あいつ、タマを殺る気か!?
歌野が暁美の武器は超強力なボンバー、つまり爆弾だと言っていた。ここは樹海でもなくてただの町中にあるマンションの屋上だ。さすがに爆弾なんて危険な物をこんな所で使うなんて考えたくもないが……相手はあの暁美なんだ! 爆弾を爆発させないなんて確信があるわけない!!
だったら、携帯の電源が入りきってない今の内に止めるしか……!
「携帯を捨てろ暁美!!」
タマの武器、旋刃盤をあいつの持っている携帯目掛けて飛ばす。携帯を手放して避けないと、お前の手が大変な事になってしまうぞ!
だが、そんな暁美に向かう旋刃盤目掛けて、またあいつの使い魔が行動に出る。さっきタマのパンチを受け止めた楯を、タマの旋刃盤と同じように飛ばしぶつけやがった!
「なっ、コイツも旋刃盤か!?」
勢いを完全に相殺されたタマの旋刃盤はそのまま弾かれた先に落ちる。即座にワイヤーを引っ張り回収するも、次の瞬間、暁美の携帯が光り、それはあいつの身体を丸ごと包み込む。
光が消えて無くなると、そこにいたあいつの服装は制服じゃなくなっていた。こんな所までもほむらと瓜二つの白と紫の勇者服。そして、左腕の丸い盾……暁美が勇者に変身しやがった……!
「くっ…! おい暁美! 爆弾はやめろ!!」
あいつが爆弾を使えばこのマンションに住んでいる人達が危ない! 頼むから関係ない人達まで巻き込まないでくれ!
「土居球子、上よ」
心の中で必死に説得していると、突然あいつが人差し指を上に向ける。上を見ろってか? 馬鹿言うな、今こいつから目を離すわけにはいかんだろ!
「大社に伝えて、私の持ち込んだこのゴミの山はあなた達に処理をお願いするって」
「ゴミの山……?」
「うぉおおおおおおおお!!?」
私の目の前にあるのは中身が詰まってパンパンに満ちた大きなゴミ袋、その数ざっと60といったところかしら。今までずっと私の盾の異空間の中の一角に集められていた、避難中の諏訪の住民が出したゴミ山の一部だ。
異空間から物を取り出す際は私の手元だけでなく、目に見える所から自在に取り出せる。今のは土居球子の頭上数メートルの高さに出現させて、それが彼女に降り注ぎ埋もれてしまった。
勇者といえども、この大きさとこの数のゴミ山に埋もれて脱出するのには時間がかかるでしょう。モバイルバッテリーも、今度は返す必要はないわね。襲いかかってきたのは向こうから……自衛のために敵から奪った、それだけだもの。
「土居球子、あなたと話していたこの時間、何故かあの人と話しているような錯覚ばかり感じて………とても不愉快だったわ」
ふんっ……我ながら、実に馬鹿馬鹿しい。あんなのと風先輩が何度もダブって見えていたなんて。
どうでもいいゴミ山はもう見る価値も無い。一瞥もせず、この場から飛び去った私は……これから、どこに行けばいいのかしらね……。
暁美ほむらがマンションの屋上からいなくなった後、残されたゴミ山には一つの黒い人影が残っていた。
主は後から追いかけるなり、他の仲間と合流して一緒に向かえばいいと考えていたその使い魔は、一体だけこの場に残っていた。
先程まで一緒だった仲間はゴミ山に埋もれた存在を気にすることなく、既にこの場からいなくなっている。残っているこの長髪の使い魔は、せっせっとそのゴミ山を少しずつどかしていた。
『…………!』
『♪♬♩♪ ♪♬♩♪ ピッ………タマっち先輩!? やっと繋がった! 今どこにいるの!? タマっち先輩のお部屋が荒らされてて心配で……!』
「……あ、あんずぅぅぅ……! 助けてくれぇえええ!」
その声を聞いた使い魔はホッと胸を撫で下ろして一安心。いずれこの場に来るであろう彼女の仲間達に救助を任せ、一体遅れてその使い魔もこの場から去っていった。
【使い魔のセリフ翻訳】
倒れたそいつは起き上がらない。よほど今の暁美の拳骨が効いたのか、うつ伏せに倒れたままピクピクと痙攣しているぞ……。
『Das ist keine Überraschung……(そりゃそうだよ……)』
タマの渾身のパンチは、暁美に届いていなかった。タマと暁美の間に割り込んだヤツ、勝手にタマのモバイルバッテリーを盗み、暁美に制裁されてずっと倒れていたあいつの
『was zum Teufel machst du da!(何しやがんだ!)』