ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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 お待たせしました! 4月から生活リズムが変化した影響で執筆時間の確保がなかなかできませんでした……。
 代わりと言っては何ですが、文字数多めです。1万5千ぐらい。投稿ペースを早めるよう努めます。


第六十四話 「芽生」

ビーーーッ

 

 若葉ちゃんと歌野ちゃんが言い争っている最中だった。歌野ちゃん以外の私達の携帯から同時に警告音が鳴り響いたのは。

 

「えっ…!?」

「っ! 敵だ!」

 

 今まで歌野ちゃんや私、それからホムちゃんに諭すように喋っていた若葉ちゃんの声色が強くなる。同時にみんなも戸惑いの表情を浮かべるけど、すぐに気合いを引き締めたような雰囲気が出る。

 

「二回目のバーテックス……!」

「この前のもだったけど、バーテックスの奴らいきなりやって来やがるなあ! タマ達の事なんかお構い無しか!」

「こんな時に……ど、どうしよう……!」

 

 それから、なんだかこの世界を包み込む空気が変わった気がした。今この場にいるのが私達勇者だけで、元から辺りも私達の会話する声しかしなかったけど、直感でしかないけど今は本当にこの世界には私達しかいないような気がするの。他のみんな……いつもは一緒だけど今日はここにはいないまどちゃんやヒナちゃんに水都ちゃん、大社の人達、私達が守らないといけない大切なみんなから切り離されているんだって。

 

 この世界の時間が止められている。バーテックスの襲撃からみんなの安全を守るために。

 

「若葉! エマージェンシーだから話の続きは後よ!」

 

 その心はみんなも同じ。さっきまで若葉ちゃんの意見に反論してばかりだった歌野ちゃんも、状況が変わったからすぐにスイッチを切り替えてロッカーの中から何かを取り出していた。

 歌野ちゃんも若葉ちゃんもみんなも、この世界を守りたい。そしてそのためにはみんなの力を合わせることが一番なんだって解っている。

 

 他のみんなも一斉に動き出す。若葉ちゃんは刀を、ホムちゃんは杖を、タマちゃんは旋刃盤を、アンちゃんはボウガンを手に取った。

 

「友奈!」

「………」

「おい友奈ってば!」

「……えっ、何!?」

「なにボーッとしてんだよ! ほらコレ、お前の武器!」

「あっ、ゴメン…! ありがとう……」

 

 タマちゃんから投げ渡される私の手甲。これがないとバーテックスとは戦えない……だというのに、他のことを考えていたせいですっかり自分の武器を取りに行くことが頭から抜け落ちていた。

 

 丸亀城の窓の外で空間が裂けるように広がって、そこから変わった、不思議な色をした光が溢れ出す。光は眩しく輝きながら舞い散る花弁みたいに空を覆い尽くして、世界中を包み込んで、樹海化が始まった。

 

「……よし、我々の手でこの世界を守り抜くぞ! 出陣する!」

 

 若葉ちゃんが力強く号令を言ってから、みんなも揃って若葉ちゃんの気合いに負けないように頷いた。

 

「……大丈夫…だよね……?」

 

 私以外のみんなは……。どうしようもない不安を感じながら私の口からこぼれ落ちた言葉は、樹海化によって生じるゴゴゴゴゴ!って大きな音に掻き消されて、みんなの耳には届かなかった。

 

「えっ…」

 

 それと実は歌野ちゃんも頷いていなくて、どこかポカンとした感じの顔で気の抜けた声をこぼしていたことに気がついた。

 すぐに辺り一面が眩しい光に包まれる直前、私は見た。歌野ちゃんが大事そうに抱えている物……あれは歌野ちゃんの鞭だけじゃなくて、なんだか白っぽいような、黄色っぽいような…………あっ!

 

 そして私達は樹海の上に立っていた。大きくてなんだかカラフルな植物の蔓や根っこみたいな物がどこまでも張り巡らされている。遠くにはたくさんの白くてうじゃうじゃとした小さな敵が、集まり群になって飛んでこようとしているのが見える。

 二度目の樹海化を前に、この前よりかは落ち着いた様子のみんなの姿があった……ことはなかった。

 

「ちょ、ちょっとウェイト! もう樹海化するの!? 私が着替える時間がないじゃない!?」

「「「「えっ?」」」」

 

 慌てた様子で歌野ちゃんが声を掛ける。この前はずっと落ち着いていて、ケンカしちゃいそうだったみんなを止めていた歌野ちゃんが、今度は真逆の反応をしていた。みんな頭の上にハテナマークを浮かべていたけど、すぐにその理由に気がついてハッとした。

 

「そ、そっか……歌野さんの勇者装束は私達と違って直接着替える必要が……」

「待って待ってよ神樹様!? 世界をストップできるなら着替える時間ぐらいプリーズ!」

「お、お気持ちは判りますけど無茶な……神樹様はともかくバーテックスが待ってくれませんよ……!」

 

 私達が手に持っている物はそれぞれの武器だけだけど、歌野ちゃんは武器の鞭とセットで勇者の戦闘服まで抱えている。その理由はこれまで諏訪で戦っていた歌野ちゃんには、私達とは違って勇者システムなんて物は無かったから……。

 

 携帯を操作してタッチするだけで勇者になれる私達だけど、歌野ちゃんにはそれがない。武器だけでもバーテックスをやっつけることはできなくはないけど危険すぎる。勇者装束は私達に必要な装備だから……。

 もう間もなくここにはバーテックスがやってくるのに、今からあの勇者装束に着替えるってなると到底間に合うとは思えない。着替えている間にバーテックスにやられちゃう……。

 

「ほむらは歌野の準備完了まで側で護衛を! しばらくの間は私達で戦線を食い止める!」

「わかりました! 白鳥さん、一旦後ろに!」

「うぅ~……ハイテクなみんなのシステムが羨ましいわ……」

 

 若葉ちゃんが指示を出して、それに従ってホムちゃんと歌野ちゃんの二人は急いでここから走り去って行く。ひとまずは大丈夫……ホムちゃんなら何があっても歌野ちゃんを守ってくれる。そもそも絶対にバーテックスを神樹様もいる後ろの方には行かせないっていう強い意思を若葉ちゃんから感じる。

 

「歌野だけ勇者アプリが無いというのはよくよく考えてみれば大問題だったな……。この戦いが終わったら大社に報告と相談をしなくては……」

 

 それでも困ったように呟く若葉ちゃん。確かに、この前みたいにたまたま勇者装束を着ていたらいいけど、バーテックスの襲撃はいつ来るのか分からないから、普通にしてたら歌野ちゃんは出撃に出遅れてしまうんだね……。

 

 今から始まるのは二回目の命懸けの戦い。一緒に戦ってくれるみんながいるなら、怖くないなんて言えば嘘になっちゃうけど大丈夫。怖くたって、みんなが私に安心を与えてくれるから前を向いていられる……そう思いたかった。

 でも、全員がここにいるわけじゃない……。歌野ちゃんとホムちゃん、それにほむらちゃん……そして……。

 

「……友奈? どうしたんだ、お前にしては珍しく静かじゃないか」

「……ぐんちゃんが……」

「千景さんですか?」

 

 ぐんちゃんが見当たらない……それだけで私の心の中で不安が燻っていた。

 

 ぐんちゃんはちょうど今お母さんのお見舞いで故郷に帰っている。ぐんちゃんはなんだか乗り気じゃなくて、本当は帰るつもりは無かったみたいだったけど……

 ……たった一人の、ぐんちゃんのお母さんのことだから。私とホムちゃんは、お父さんとお母さんは三年前に………それでもホムちゃんには今、まどちゃんと弟くんと同じくらい、本当の子供のように愛情を注いでくれる新しい家族がいる。

 

 私には……それが無い。お父さんとお母さんが一緒だった平和な日常はある日突然終わってしまった……。バーテックスをやっつけられる力があったから、私の周りにいた人達を安全な四国まで守ることで精一杯だったから……。

 二人がどうなったのか、この目で見れたわけじゃない。何も分からないまま、私は大好きだった家族と離れ離れになってしまった……それはとても……今でも苦しいの。

 

 だからぐんちゃんに故郷に帰るように言ったの。お母さんが大変な今だからこそ会わないといけないって……万が一、ぐんちゃんに私みたいな思いをしてほしくなかったから……。

 

 ……まさかそんな時にバーテックスが進行してくるなんて……。ぐんちゃんは私にとって、とてもとても大好きで大切なお友達。ぐんちゃんが一緒にいてくれるって思うだけで無限に勇気が湧いてくる。ぐんちゃんが私を見ていてくれるだけでどんなに恐ろしいバーテックスも全く怖くなくなっちゃう。私にたっくさんの希望を与えてくれる、お星さまみたいにキラキラ輝いている存在……それがぐんちゃん……。

 

 それなのに、ぐんちゃんは私が送り出したからここにはいない。この前の戦いの時でもぐんちゃんが一緒だから、ぐんちゃんを守らなくちゃって、戦うことができたのに……。

 そうじゃない今、ぐんちゃんにここにいてほしい、私を見守っていてほしい、私がかっこよく戦えるんだって信じてほしい、恐ろしいバーテックスから私を守ってほしいって、不安ばかりが包み込んでいた……。

 

 ……ぐんちゃんのお母さんが大変だっていうのに、私があんな事を言ったから、そんな事をしなけりゃ良かった……なんて、ほんの一瞬でも思ってしまった自分が嫌になる。

 

「千景なら大丈夫だろう。あいつだって勇者なんだ。今どういう状況なのか分かってるはずだろう?」

「……そう…だよね」

「にゃははっ! 友奈は寂しがり屋だなぁ! 心配すんなって。今頃千景の方もタマ達に合流しようって急いで向かってるところだろきっと」

 

 励ますように背中を叩いて笑い飛ばすタマちゃんの言葉に少しだけホッとする。そりゃそうだよね……ぐんちゃんだって勇者なんだから、こうして世界が樹海化するならどうするべきなのか、ちゃんと分かっているよ。

 

「千景さんの故郷は確か……高知県でしたよね。流石に今すぐというわけにはいかないでしょうけど、そう時間はかからないはずですよね」

 

 高知県は丸亀市からはそれなりに距離があるけれど、私達勇者の身体能力があれば、ここまで戻ってくるのにそう時間はかからない。

 アンちゃんが勇者システムのマップを開くと、ぐんちゃんが今いる場所を探し始める。私達勇者の居場所ならどこにいても表示される優れ物。マップのサイズを変更して、ぐんちゃんが向かってきているであろう高知県の方まで見えるようにして……アンちゃんの表情が戸惑いに変わった。

 

「……っ!? ゆ、友奈さ…皆さん!」

「アンちゃん……?」

「なっ……!?」

「はあ!? どういうことだよコレ!?」

 

 見せられたマップには、高知県の……そこにぐんちゃんの位置を示す名前とアイコン。それはバーテックスが攻めてくる緊急事態なのに、私達の方に移動していない。

 そして……

 

 

 

「何故だ……何故暁美が千景と同じ場所にいるんだ!?」

 

 

 

 ぐんちゃんのすぐ側に、ずっと行方が分からなかったあの子の名前とアイコンも……。

 

「ってマズい! バーテックスが見えてきたぞ!」

 

 四国を取り囲む壁の方から、たくさんの白い化け物の群れが飛んでくるのが見え始めた。世界中のたくさんの人々を悲しませたバーテックスの群れが、再びその罪を犯そうと私達の目の前に現れて……

 

「友奈! お前は千景の元に急ぐんだ!」

「い、急ぐったって……別に悪いことって決まった訳じゃ……!」

「水都と球子の事を忘れたのか!? それに千景の現在位置が少しも動いていない時点で怪しいだろう!!」

「……っ!」

 

 ……水都ちゃんは私達の元に戻ってくるように涙を流しながら必死になって訴えた。その結果、水都ちゃんは鎌なんて危険な物でお腹を殴られた……。

 タマちゃんも、運が悪かったら窒息しそうなほどたくさんのゴミの中に埋められて、その前の水都ちゃんにやったことを本当に気にも留めず反省なんてしていなかった事を聞かされて……。

 

『ハァ……ハァ……ぃゃ……ぃゃぁ! ぅぅうう…!! ぐ……ごほっ…げっほ……ぅぁあ……ぁぁぁ……!!』

 

 あの子を信じたい……あんな事をする子だなんて信じたくない……。

 絶対に何か理由があるはずなんだ……悪いことばかりに目を向けちゃ駄目なんだ……! そうだよ、そうじゃなきゃ、あの時のほむらちゃんの涙の理由は何って話……!

 

『……高嶋さん、どうしてあんな奴を庇うの?』

『いくら高嶋さんと言えども、今回ばかりはあなたの考えが全く理解できない』

 

「いい加減に現実を見ろ!! 奴は我々の味方ではない!!」

「っ、ぐんちゃん……!」

 

 ぐんちゃんに対して感じていた不安は、新しく芽生えた不安と混じり合って大きくなる。正面の方から近づいてくるバーテックスと衝突しないよう、ぐんちゃんがいる地点に向かって一直線に跳ぶ。

 ぐんちゃんも若葉ちゃんも、私の大切な友達は揃って同じような事を言う。私には何がなんだか、分からなくなっちゃう……ほむらちゃん、あなたを信じる事っていけないことなの? あなたを信じたいって思うこの気持ちは、間違いなの……?

 

 

◇◇◇◇

 

「………?」

 

 その時、私の左手の甲……勇者服の一部である籠手に刻まれたトケイソウの刻印が一つ輝き色付いた。色覚を失った今の私の目には色の変化は判断し辛いけど、これは間違いなく……。

 

「……何故」

 

 ここ数日間言葉を発しなかった口からもごく自然に疑問がこぼれ落ちる。それを聞いたものは誰もいない、私だけだけど……。

 当然時間を止めたわけでも攻撃したわけでもされたわけでもない。相も変わらず無気力に座り込んでいるといきなりだった。

 戦いの意思は完全に放棄した。今更ゲージが溜まろうとも満タンになろうとも、戦いの中でその力を解き放たなければそれに意味はない。だからこの現象に慌てたり戸惑う必要はないけど、脈絡無く一つ狂った力の発動条件が芽を出したと思うと気味が悪い。動くことも考えることも、何もかもが億劫になっている私は久しぶりに頭を回転させた。

 

(……まさか、あの使い魔達……? 時間経過で勝手にゲージが溜まるのかしら?)

 

 新たな異常事態の原因を探るなら、比較的新しく現れた力である使い魔達に注視するべきだろう。私の意のままに六体の使い魔を呼び出せる力。

 言うことに忠実で、命令をこなして今現在私を追跡しているであろう大社から逃げおおせている彼女達。

 便利といえばそうなんでしょうけど、もし使い魔の維持にも力を使い、それが原因でゲージが溜まる可能性は……。

 

(……おそらくそれは違う。それなら今日より前にもゲージが増えないとおかしい。数週間でゲージ一つだけだなんて不自然だわ)

 

 今日になってイレギュラーな何かがあったと考えるのが妥当だろう。以前の満開から今日になって初めて起こった現象……私のゲージが溜まるには大きく分けると時間停止、攻撃、精霊バリアの三つが主だ。ただその中のどれも身に覚えがないから除外するべき……第四の理由?

 

 ……いや、本当に除外してもいいの? 確かに時間停止と精霊バリアは違うと断言できる。前者は私の意思で発動、後者は攻撃された瞬間に直接エイミーが目の前に現れる。両方そんな事は起こってもやってもいない。

 残されたものは攻撃のみ。これも私には身に覚えがないけど……前回からそこそこ時間が経っているはず。そして、攻撃手段は確かに外には存在している。

 

「……バーテックス? それと……やっぱり使い魔」

 

 ……おそらくそれだわ。この世界で再びバーテックスが攻めて来た。それを行動に制限を課した訳でもない私の使い魔達が迎え撃っているだとしたら……。

 使い魔は私に付き従う存在であり、あの満開と散華を経てから現れた、私の力の一部といえる。人型の姿で私の言うことが無くても好き勝手動けるといっても、その実体は爆弾やら他の能力と何ら変わりはないのかもしれない。つまりは私が攻撃していなくても、使い魔の攻撃によるダメージは私の攻撃であることと同じ。

 

 かつてみんなと満開のシステムをレベルアップで例えた事があったけど、経験値が入るのは使い魔ではなく私ということになる。それが単純に手数が数倍になる使い魔達のデメリット……。

 

(……まったく……何やっているのよ。バーテックスと戦う必要なんてないでしょ)

 

 久しぶりに熟考してみれば実に呆れ果てる結論ね。もうゲージが増えようがどうでもいいことには変わりないけど、この時代の勇者の手助けにはなってしまう。

 彼女達の背後にあるのはあの馬鹿げた組織(大赦)の前身。手助けした事を笠に着てますます一方的な要求を飲ませようと躍起になってもおかしくない。

 

 大赦や大社の思惑通り……そんなものは気に入らない。第一こんな世界に私の身を捧げること自体が無意味で無駄で、嫌悪感しか感じない。この世界で私が貢献したところで、みんなに救いが訪れるはずがないもの。マシになるのはここだけで、その代償が私の身体の一部……手足や神経、内臓をドブに捨てると同じじゃない。それに気づかないでただ目の前のバーテックスを狩っているのだとしたら、私の使い魔のくせに連中は愚か者の極みだわ。なんだか、嫌ね……かなり……。

 

「………」

 

 ……ただまあ、長々と不満が過ったけど、これがその通りだと決まった訳じゃない。これは単なる仮説。本当は第四の条件や別の要因があってゲージが増えたという可能性だってある。果たしてこの私の使い魔が本当に救いようのない馬鹿ばっかなのか……。

 

「………ハァ……」

 

 このままここにボーッとしているだけだったら真実は曖昧なまま、シュレディンガーの猫ね……。一応外に顔を出すだけで、世界が樹海化しているのかどうかで答えは分かる。

 それで使い魔がバーテックスと交戦していたら止めさせよう。この時代の問題はこの時代の人間に。これ以上私の力を利用されるなんて真っ平だ。

 

 仕方なく立ち上がって、この空間の出入り口を開く。盾の中の異空間……そこが今の私の唯一の居場所。

 建物は無くても以前諏訪の住民達を匿っていた際の道具はほとんどそのまま……雨風は無く、布団に毛布、水や非常食は豊富。何も無い空間だったけど、住と食は困らない。それでいて外部との関わりを完全に遮断できる……仮設トイレは使う気になれなかったから、公園とかの外にある公衆トイレを使う時以外は……。

 

 問題は私がこの中にいる間は盾そのものが外に置きっぱなしになってしまうこと。中にいる間は外の状況は確認できず、知らない内に誰かに拾われて持って行かれたら面倒だ。ましてやそれが、偶然にも大社の人間だったとすれば……。

 ただそれも使い魔達に常時携帯させ、中にいる私ごと持ち運びを命じてある。決して手放さず、大社やうざい勇者達を私に近づけさせないように……。

 

 外の世界の地面に降り立つ。……今では住み慣れてしまった広すぎる虚無の世界から、異なるもう一つの虚無へ……。

 

「………樹海……最悪……」

 

 そして私の目の前に広がるのは神樹による樹木の結界……どうやら私の使い魔は人の懸念を気にすることなく問答無用でバーテックスに立ち向かう愚か者だったらしい。それでも暁美ほむらの使い魔なの……?

 

 おまけに、決して手放さないよう命じていたはずの私の盾が地面の上に転がっている……。この盾は至って簡単に装着可能だし、何かの弾みで落ちてしまうような柔な代物でもない。にもかかわらず、今まさに戦場と化している世界の地べたに放置とは、躾が全然なってないとでも表現すればいいのか……その必要がある存在なの、使い魔って……以前のエイミーじゃなくて牛鬼みたいなものなの?

 

Hilfe!

 

 盾を回収しつつ自分の力に呆れ果てていると、背中側から当の存在の謎の声。なんとなく焦りを帯びているように感じたけど、そんな事は気にするわけもなく文句を言うためだけに振り向いた。

 

「あなたねぇ……余計な事はするなと言っ……」

 

 思わず言葉を失ってしまう。使い魔だけじゃなかった、そこにいたのは。そしてそれはバーテックスでもなかった。

 

「はっ…! はっ…! あ、あ、がぁあああぁ……ううううっ!!」

 

 蹲るように倒れ、耐えきれない苦痛に悶え、起き上がれそうにない人の姿。彼女の右肩、それを必死に抑える左手が真っ黒に染まっている。そしてそこからポタポタと止まる兆し無く溢れる、彼女の身体を黒に染め上げている液体は樹海の地面までも、その液体()で小さな水溜まりを作っていた。

 

『……!!?』

「……勇者…………えっ?」

 

 傍らにエイミーが飛び出すように現れた瞬間、私の体は動き出していた?

 彼女の側に向かって、途中で足元がもつれて転びそうになるくらい不安定な走りで駆け寄ろうと……。

 

「いた…い……助け……! たか…し…ま……ぁぁぁっ!」

「動かないで……!」

『……!! ……!!』

 

 余程の激痛なのだろう、目を強く閉じて歯を食いしばらないと気が狂いそうなくらい、周りの音なんて気にしてなんかいられないくらい……おかげで私が近寄った事にも気づいていない。

 よく見るために膝を着いてしゃがみ込んだ際に、膝や靴や籠手もろとも手を血で汚しながら傷口であろう肩を抑えている手を退かす。

 そこには小さな丸い穴が。深く、ドクドクと血を噴き出している。そしてもう片方の手で支えている背中側からも、ベッタリとした感触が……この傷、貫通している……。

 

「………っ!?」

『……!』

 

 いつの間にか盾の中から白鳥歌野の怪我の治療で見た憶えのある医療セットまで取り出して側に置いていた。そこから清潔そうなガーゼにビニール、必要そうな道具を手にとってしまう。

 ……何やってるのよ私は……この時代の勇者がどうなろうとも知った事じゃないのに、身体が勝手に動く……。意味のない事だと分かっているのに、目の前で人が重傷を負っているこの状況を放ってはおけないの……?

 

「落ち着いて、深呼吸して」

「はぁ……はぁ……っ!」

「聞こえてないか……」

『………! ………!!』

 

 勇者といえどもたかが中学生。身体に穴が空いた激痛に冷静でいろなんて無茶か……。

 この苦痛を止める手立てなんてありはしないけど、このまま放置してしまえば失血死だってあり得る……ったく! 私が満開ゲージ増加の原因を気にして外に出ていなかったらこの勇者はどうなっていたことか!

 

「上、脱がすわよ」

「……ぐ…ぅぅ……ぇ……っ……?」

『…………!!』

 

 ……本当にしょうがない、止血のためにはまず出血部位を目で確認しないと始まらない。ただしバーテックスの攻撃に耐えないといけない勇者服がたかが鋏で切れる訳がない。

 幸いにもこの勇者の勇者服は羽織るような構造のタイプで怪我をしている肩の部分は露出させやすい。その下のインナーもずらせばなんとか……。

 

「あがぁ…っ!」

「我慢して……!」

『……!! ……!!』

「さっきから鬱陶しいわよエイミー! じっとしてなさい!」

『……! …………』

 

 傷口のすぐ隣の付け根をキツく縛り、大きいガーゼを傷口の上に巻くように重ね当て、圧迫し止血を試みる。その間ずっと忙しなく飛び回るエイミーが邪魔! 心配したいんだったらうろちょろしないで!

 

 何なのよもう……さっきから頭が重い。それに無性にイライラする……!

 血の匂いが原因ね、きっと……。……まさか、こんな血塗れの人の介抱で焦ってるなんてことは無いでしょうし……。

 

 ……元の世界でならともかく、この何もない狂った世界においてそれは無い、絶対……。

 

(……本当に…そう……?)

 

 ……何やかんや思っていながら、結局は良心が勝手にってこと? ……確かにみんななら、どんな状況であろうとも、誰であろうとも、目の前で酷い怪我を負っている人がいれば迷わず救助に向かうに決まっている。私がそんなみんなのことが大好きで、心の底から尊敬していることは言うまでもない。

 

 私も、そんなみんなと同じであり続けたい。勇者部の一員としての責任感故の無意識の行動……無意識の反応、なのかしら……?

 

(……そんな綺麗事で状況が変われば苦労しない!)

 

 感謝されたところで、次に来る言葉は大社からの勧誘に決まっている。みんなの元に返してくれないだけじゃない、更なる代償を支払わせるだけの行為に意味などありはしない。無意味なのに……!

 

「あぁもう……!」 

 

 

 

「……う、うぅぅ……」

 

 かつて色々な知識を取り入れようと独学で勉強したことのある緊急の応急措置のマニュアルを思い返しながら、手当すること数分後。ようやく、少しは痛みに対して落ち着き始めたみたいだ。相変わらずの酷い汗、苦痛に歪んだままの表情に変わりは無いけど、閉じられていた瞳が僅かに開きかけようとし始めている。

 

「……落ち着いた?」

「…っ……? ……ほむ…ら…さ………っ!!?」

「動かないで。応急措置は粗方済んだけどちゃんと医者に看てもらわっ……!」

『……!?』

 

 突然だった。私の顔を見れるようになった瞬間に、無事な方の左手で私の身体を突き飛ばした。

 

「………っ!」

「あっ……つぅぅぅ……!!」

 

 思い掛けない彼女の行動に尻餅をつき、支えを失った彼女の方も自らの血でできた水溜まりの上に落ちる。その衝撃は傷口にも伝わり再び激痛が走ったのだろう。呻き声を上げ、そのまま身悶える。

 しかし、その視線は憎悪に染まりきり私に向けられていた。傷の痛みよりも、今目の前にいる人間に対する憎しみの方が勝っているのかもしれない。

 

「……はぁ……っ……はぁ……っ……いつの…間に……っ!」

「……どういうつもり?」

「……っ!」

 

 彼女は答えなかった。ただ、憎悪に満ちた目で睨みつけるばかり。やがて彼女の口元が嘲るように笑みを浮かべ始める。

 

「随分…と、見窄らしい姿になったじゃない……暁美ほむら……!」

 

 ……開口一番何なのかしら、この憎まれ口は。見窄らしい姿……まぁそうでしょうね。行き場の無いストレスのお陰で眠れない毎日が続き、目元にははっきりと濃い隈が浮かんでいる。自慢だった髪を手入れする気力も失われて、ボサつき枝毛だってできた。お風呂やシャワーなんて無い空間にずっと閉じ籠もっていたから不潔の塊みたいなものだ。そこにあなたの血なんかが至る所にベッタリと付着してしまったら、かつて私をこの世界を守る勇者だなんて騒いだ連中だって近寄ろうとは思わないだろう。

 否定はできない。しかしだからと言って、普通自分がこんな大怪我を負っている状況で迷わず他人を嘲笑するだろうか? 勇者のくせに、随分と陰湿な性格だこと……。

 

「……あぁ、思い出した。確かあなただったわね。初めて会った時からどうでもいいことで一々突っかかってきた勇者は……」

 

 彼女はあの時の癇に障る勇者だったか……。どうでもよすぎて今の今まで存在を忘れていたわ。

 ……名前は……どっちだったかしら、乃木若葉と高嶋友奈がそれぞれ違う名前で呼んでいた覚えがあるけど……。

 

(ぐん)……そんな名前だったかしら?」

「お前がその名前で呼ぶなァッ!!!!」

 

 樹海に轟く一番大きな怒号。それだけでも彼女が私に抱いている憎しみの強さを物語るのに十分過ぎるものだった。

 

「それは高嶋さんが付けて呼んでくれる私だけの渾名!! 高嶋さんじゃない奴が……!! お前なんかが軽々しく口に出していい物なんかじゃないわよ!!!!」

「……あらそう」

「うっ…!? ぐぁああ…あぁ……!」

「大声で叫ぶから」

「だ…まれ……!」

 

 高嶋……高嶋友奈……ね……。友奈と同じ顔、同じ声、そして同じような明るさを持つ勇者の名前。どうやらこの勇者にとって高嶋友奈の存在はとても大きい物だと考えられる。

 友奈の魅力に惹かれ、他の何よりも執着していそうなこの雰囲気……まるで東郷のような愛の形……。

 

(……だから何であの子達と姿が重なるのよ……)

「……何…なのよ、その目は……!?」

 

 友奈や風先輩の時ほど強い錯覚に陥りはしないけど、こうも似たような関係性を感じると不愉快だ。東郷とは似ても似つかぬ容姿なのに、自然とあの子を思い浮かべてしまう。決して手の届かない場所にいるあの子……その代わりにいるのが目の前の人に噛み付く姿勢を崩さない根暗勇者。不機嫌にならない方が難しいに決まってるじゃない。

 

 おまけに勝手に興奮して自分で傷を悪化させている。気まぐれとはいえせっかくの人の好意を無駄にして……もはや完全に呆れ果てているけど、ここまでやって結局ぶっ倒れてそのまま血を流しすぎて駄目でした、なんてオチは実にくだらない。下手をすれば他の勇者達に私のせいだなんて冤罪をかけられてもっと面倒な事態にもなりかねない……。

 溜め息をこぼし、仕方なく残り少しの手当を再開するために歩み寄ろうとし、次の瞬間、咄嗟に後ろに飛び退く。直後に私がいた地点を鋭利な刃が通過した。

 

「っ、寄るな!!」

『……!?』

「………」

 

 彼女は足元に落ちていた紅い鎌を左手で掴むと私目掛けて横凪で振った。完全に私を敵と見なし、傷つけ、あわよくば排除するための一閃。無茶な動作で傷口から再度血が吹き出し、痛みに悶えて膝から崩れ落ちてまで……。

 自分の状態がいかに危険なのか、よく理解していないのかしら? こんな状況でも相も変わらず警戒し続けるなんて、まるで野生動物ね……。

 

「……近寄らないと、あなたのその傷の手当ができないわ」

「……何…言ってるの……!? 誰が私を撃ったと思って……う、ぐぅぅ……!」

「……私のせいだとでも?」

「こ…のっ……白々しい……!!」

 

 一体何を言っているんだか……私が何をしたって言うのよ………。

 ……そういえば、妙ね……。思えばあの傷はどう考えてもバーテックスに付けられたものとは思えない。この世界でよく見かけた白くて小さいのの攻撃パターンは噛みつきや体当たり。対して彼女の傷はまるで銃で撃たれたようなもの。

 仮に射手型が現れて戦っていたとして、その矢をくらってしまったにしては小さすぎる。それこそ本当に銃創のような……。

 

(……そもそもこの辺りにバーテックスがいた形跡すらない? じゃあ一体何にやられて………)

 

「……まさか」

……Verzeihung……

 

 ……さっきから使い魔がずっと私から……いいえ、この勇者から距離を取って離れて見ているのはそういうことかしら。

 思い返してみれば、最初からこの場にはそこの勇者の他に私の使い魔がいた。時間が止まっているこの世界で動けるのは勇者とバーテックス……それから神樹の力が宿る精霊とそこから派生している力、使い魔ぐらいのものだ。ここにバーテックスはいないって事は、残った存在が犯人だと疑いようがない。ましてやこうして私が外に出た理由だって、使い魔が攻撃を行ったから……まさかその相手がバーテックスではなかったとは……。

 

「……どうして毎度毎度余計な事しかしないのよ、この使い魔共は……」

 

 なるほど、そんな怪我をしていながら私に悪態をつき続けるわけだ。彼女はこの使い魔にやられたのね……。

 それじゃあ確かに私を怨んでもおかしくはない。突然撃たれたのに惚けられたら憎しみや怒りしか感じないだろう。でも……

 

「……勇者が聞いて呆れるわ。見た目の雰囲気に惑わされたのか、それとも私への露骨な警戒心が理由かしら? 無抵抗の使い魔が反撃せざるを得ない状況にまで追い詰めたのね」

「はぁ…!?」

「その怪我はあなたの迂闊な行動が招いた結果。自業自得よ」

 

 私に反論する権利は無い……ただしそれは、向こうに非が無い場合。

 

「この使い魔達にはあなた達勇者や大社の相手はするなと言いつけてあるわ。仮に見つかったら捕まらないよう逃げるようにと。無駄な争いは一切許してはいない」

 

 使い魔が彼女に襲いかかったのではない。使い魔のことはまだまだ知らないことが残っているけれども、無闇に人を襲う存在でないことは解る。なにせこの子達は神樹の力によって生まれた存在。それがバーテックスのような悪事に手を染めさせることは、あの神の尊厳を壊す事に繋がるのだから。

 

「そんな無駄な争いの種を相手が一方的に蒔いてきたら? それはもう無駄でも何でもない。やらなければやられる。不合理な事態で散ってしまわないよう、自分の身を守る必要が現れる。時には正当防衛で相手を傷つけて無力化する必要が」

「言わせておけば……勝手に決めつけて……! 元はと言えばそいつが一般人を襲ったから」

「ふん……そんな話ありえないわ。あの神が力の無い一般人を襲う存在を放つだなんて……あなたの早とちりでしょう?」

「なん……ですって……!? その場にいなかったくせによくそんな事が言えるわね……!」

「そういうものだからよ。いた、いなかったなんて本当に些細、問題じゃないの。それどころか、あなたの責任転嫁にしか聞こえない。私は使い魔の正当防衛を主張するわ」

 

 今回のことも、所詮はいつもの出来事と大して変わらない。突然勇者に襲われたけど、やがて勇者の攻撃はバーテックスのように殺気を纏わせる。バーテックスが相手なら、こちらとしても倒すしかなくなる……。

 だからこの使い魔は力を奮った勇者を返り討ちにした。バーテックスを退けるのと同じように。

 

「……この世界を守るために授かった力でしょう? くだらない事に使った自分を反省して、暫くは病院で大人しくしてなさい」

 

 私の事を気に入らないと思うのは勝手だ。私自身彼女達を快く思っていない以上、文句なんて欠片も抱かない。

 ただし勇者としての力をバーテックスではない気に入らない存在を排除するために使っていたなんて……風先輩が大赦に騙されそんな思いをしてしまう程に苦しめられたのに対して、この勇者の理由は羽根のように薄くて軽い、身勝手すぎる動機。

 私と違ってその力で守らないといけない存在があるにも関わらず、その思想は危険だ。もし使い魔ではなく人間を同じような殺意を以て襲っていれば……。

 

(……傷の手当をしたことが本当に馬鹿馬鹿しく思えてきたわ)

 

「近寄るなって言ってるでしょ! 殺すわよ!!」

「じゃあ勝手に、死ねば?」

 

 口を開けばみんなが決して言わないような攻撃的なものばかり。自分の状態を気にするよりも、私の思い通りにはさせないといった敵対心しか出てこない。

 なんて愚かな存在なのかしら……。ただでさえ訳の分からない私自身の献身にムカついていたところでこの反応、もはや応急措置の残りなんて完全にどうでもよくなった。言っても聞かないこんな愚か者なんて。

 

「っ!」

『……!』

 

 そして私は彼女の傍らに置いたままの医療セットを思いっきり蹴り飛ばす。こんな物、もうゴミと同然だ。

 箱が壊れ、中身を撒き散らしながら遠くに転がっていく医療道具。そして突然の私の行動に固まった彼女を、私も冷め切った視線で見下ろす事しかできない。

 

「応急措置はもう結構なのよね? あなたが余計に騒ぐから、まだ終わっていなかったけど」

「………!」

「血、さっきまで収まりかけてたのにまた流れ始めてるわね。このまま放置すれば失血死かしら」

「ぁ………!」

 

 元々ありはしなかったけど、愛想が尽きて興味も失せた。手を伸ばしても掴もうとしない、そんな奴に手を伸ばしても無意味だ。

 

 変な気まぐれという物は起こすものじゃない。覚えておきましょうか……。

 

『………!! ………!!』

「………また……まったく」

 

 エイミーが飛んで、散らばった道具を必死に集めようと小さな前足でかぎ集めようとする。この勇者を何としてでも助けたいのか……。

 

「……あなたも勝手にしなさい。私はもういいわ。そこの勇者の存在価値なんて、無いに等しいもの」

「違う……!!」

 

 踵を返したその時、腹の底から張り上げられた声が響く。

 

「……?」

「お前が私の価値を……決めるな……!!」

「……何? まだ何か言いたいことでもあるの」

 

 相も変わらず憎悪しか宿っていない瞳を向けられる。しかしその中にはどこか不安、怯え、恐怖が滲みかけている。それでも敵対心だけは失わず、思いの限り叫びを上げる。

 

「私は勇者、郡千景よ……!! そこら中の人には無い凄い力を持っている勇者……!! バーテックスを殺して、認められ、愛される!! その役目を放棄した奴が、私の価値を決めるな!!!! 誰も知らない偽物の勇者が!!!!」

「……認め……愛される……?」

「存在価値が無いのは……お前の方よ!! 暁美ほむら!!!!」

 

 彼女、郡千景の糾弾……。それを聞かされた私は……絶句する他なかった……。

 彼女はいったい何のために戦っているの……? 以前、彼女が私達とは違うものを見ているということは何となく察してはいた。でも、もし私が今思っているものが目当てで戦うのだとしたら、それは……!

 

「……終わってるわね、この世界の勇者は……! そんなくだらない有様だから……みんなは……!」

「黙れ……! お前の声は聞きたくもない……!」

「くだらないわ!! そんなもののために戦うあなた達が!! そんな連中が勇者だなんて……!!」

「……っ! なんですって……!?」

「承認欲求……そんな物が目当てで戦う勇者のどこに価値がある!!? 世界の危機に自分勝手な欲望を抱いているからお前達はバーテックスに負けるのよ!!!!」

 

 失望した……! 私達の時代までバーテックスとの戦いを宿命付けられたのも、東郷に彩羽さんに乃木さんに羽衣ちゃん、彼女達が戦いの中で大切な人を失ったのも、みんながあんなに苦しんで地獄を見たのも……何もかも全部、この世界の勇者が不純な動機で戦っていたから……!! 負けてその使命を私達に押し付けたから!!

 許せない……!! バーテックスや大赦だけじゃない、この世界の無能な勇者共のせいで……私達は!!

 

「バーテックスに負ける……? そんなわけない……! 奴らは私の手で葬られる存ざ…」

「黙れ!!!! 現実を甘く見ている愚か者の集まりが、世界を救えるなんて夢を見るんじゃないわよ!!!!」

「こいつ……ッ!! 私だけじゃなく高嶋さんまでも侮辱を……!! 高嶋さんがどれだけ強くて、私達になくてはならない唯一の存在なのか知らないくせに……!!」

 

 ……何も理解してなんかいない。その高嶋友奈は私達に何をした? 彩羽さんと羽衣ちゃんを……自分の子孫を不幸のどん底に叩き落とし、私をこんな世界に飛ばす片道チケットを用意した、諸悪の根元……! そんな奴に望むことなんて、求める価値なんて、たった一つのみ!!

 

「さあね!! 適当な男でも捕まえて、子供でも産んで引っ込んでいればいいんじゃない!?」

 

 300年後の私達の世界に、彩羽さんと羽衣ちゃんを残すこと、それ以外はどうでもいい!!!!

 

「貴様ァァアアアアアアアア!!!!!!」

 

 その時、樹海が大きく揺れ動く。同時に目の前の似非勇者が血が燃えるような紅い輝きを放つ。

 装束が変わる。元の勇者服の上から白いフードが纏われる。今まで以上の殺気を迸るその視線は正面から……そしてその隣、または別の位置からも……

 

 七人の郡千景が大鎌を握り締め、佇んでいた。

 

「「「「「「「その女を殺せ!!!! 斬って!裂いて!削いで!刺して!抉って!刻んで!嬲り殺せ!!

 

七人御先!!!!

 

」」」」」」」




 Q:乃木若葉に求める価値は?

 A:ゆうほむ「さあね!! 適当な男でも捕まえて、子供でも産んで引っ込んでいればいいんじゃない!?」
 上里様「貴様ァァアアアアアアアア!!!!!!」

【使い魔セリフ翻訳】
Hilfe!(助けて!)』

 盾を回収しつつ自分の力に呆れ果てていると、背中側から当の存在の謎の声。なんとなく焦りを帯びているように感じたけど、そんな事は気にするわけもなく文句を言うためだけに振り向いた。


(……そもそもこの辺りにバーテックスがいた形跡すらない? じゃあ一体何にやられて………)

「……まさか」
……Verzeihung……(……ごめんなさい……)」
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