ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
そんな何よりも思い入れのある作品故に、何としてでも完結させたい意思があります。投稿ペース低下気味が現実ですが、作者ながら私もこの作品の結末を読みたい読者の一人でもあるのです。
数多くの化け物が漂うその場所に向かって、私達二人は全力で樹海の中を駆け抜ける。仕方ない理由があったといっても、この遅れは1秒でも早く取り戻さないといけない……私達二人が考えているのはこれだけだった。
そして戦場が近づく。刀で斬り裂かれた化け物が地面に落ちるような音、彼女達のそれぞれの特徴的な武器が発射される際の音、それらが私達の耳に届き始めていた。
「ほむらさん! 歌野さん!」
「! 来たか……!」
到着と同時に私達二人は揃って大きく飛ぶようにジャンプする。そこで戦う皆さんを襲うタイミングを窺っている敵の上から、それぞれ杖と鞭の一撃を叩き込む。
「加勢します!」
「お待たせ!」
私が殴りつけたバーテックスはそのまま地面に叩きつけられ潰れ、白鳥さんに鞭で抉るように打たれた個体も空中でその体が弾け飛ぶ。
「待っていたぞお前ら! よし、若葉のとこに行ってくれ!」
バーテックスと交戦中の乃木さん達に合流した私と白鳥さん。目の前にたくさん、何十体も、もしかすると百体はいるのかもしれないバーテックス……。
こんな数を相手に今まで皆さんに任せっぱなしだったと思うとやっぱりどこか申し訳なく思えてしまう。もちろん白鳥さんが悪いなんて少しも思っていないけど、だからこそ皆さんの疲労を肩代わりするように気合いを入れ直して戦わないといけない。
ただそんな決意も、ふと気づいた疑問に阻まれる。
「……高嶋さんと郡さんは……どちらに……」
たまたまご実家に帰省していて元々一人別の場所にいた郡さんだけじゃない、私達が離れるまで一緒にいたはずの高嶋さんもこの場にいない?
前回の襲撃と同じで乃木さんは獅子奮迅の動きでバーテックスを倒している。でも、どういうわけか前衛は乃木さん一人だけ。その数十メートル少し離れた後方、左右で土居さんと伊予島さんが乃木さんの援護と回り込もうとするバーテックスを遠距離からの射撃と投擲。三角の陣形を組んでバーテックスと戦っているみたいだけど、敵は前衛の乃木さんに集中しているせいか、その分前回には無かった疲労の色が見え見えだった。
「はあっ!」
すぐさま白鳥さんは乃木さんの近くに駆け寄り、喰らいつこうと口を開くバーテックスを叩く。
「若葉、ポジションチェンジよ! 迷惑懸けちゃった分、今度は私が前に出るわ! 下がってて!」
「……そうは言ってられない。休んでいる暇なんてあるものか。っ、せやあっ!」
跳躍し、上から迫り来るバーテックスを斬りながら、乃木さんは白鳥さんの言葉を拒否する。
私も前の方に出て杖を大きく振り回す。恐怖心はやっぱり、どうしても完全に拭いきれるものじゃないけど、怖がっているだけだったらまたしても大切なものを取りこぼしてしまう。それを覚えているから、私はこの杖を握っている。
「ええーーいっ!!」
前から飛んできたバーテックスの顔面に振りかぶった杖がめり込み、勢い任せに振り抜き吹き飛ばす。そのまま飛んでいった先に浮かんでいた別の個体と激突し、共に地面を転がり動かなくなって消滅する。
「ナイスショット! 素晴らしいスイングだわ、ほむらさん!」
「白鳥さんまで……ゴルフじゃないんですって……! それよりも乃木さん! 高嶋さんと郡さんは!?」
「……千景の方で緊急事態が起こった。だから友奈をそっちに向かわせたんだ」
「き、緊急事態……!?」
「実は……ちぃっ! また……」
「ウラァッ!」
またしても目の前に迫り来るバーテックス。それは後ろから飛んできた円盤に切り刻まれるも、すぐにまた別の個体が何体も集まっては次々にやってくる。
「大丈夫かーお前らー!」
「球子さんナイスアシスト!」
「……説明している時間すら無いか……! とにかく今は友奈を信じろ。我々は勇者としての使命を果たす! ほむらは西、歌野は東だ!」
「……わかりました」
「オーケー」
郡さんの事は気になるけど、気にしすぎてずっと引きずっていれば取り返しのつかないミスだってあるかもしれない。
ただ前だけを向いて、戦わなくちゃ……! ここは今、世界や人々の未来を懸けた戦場なのだから……。
「総員出撃!」
号令と共に左右に飛び出す私と白鳥さん。群れを成したバーテックス目掛けて飛びかかり、同時に後ろの方から伊予島さんの矢が飛んできて数体のバーテックスを貫く。
「私達の世界から、いなくなって!!」
伊予島さんの攻撃で既に絶命しているバーテックスもろとも、全力の一撃で殴り飛ばす。
着地後、間髪入れずに再度跳躍。ただひたすらに、目の前の殺戮者を除くために杖を振り下ろし、振り回し、叩きつける。
───いやあああぁあぁあぁあぁあああぁあああ!!!!!!
三年前の……初めてバーテックスを殺した時の事を思い出しながら……。
(……っ……パパ……ママ……)
その度に、どうしても脳裏に地獄の過去が過ってしまう。あの時の私の意識は、気が狂いそうな光景による恐怖と絶望が逃してくれなかった。ショックで失神することを、既に勇者としての力が芽生えていた私を神樹様が許さなかったから……。
耳に響くのは周りの人達の悲鳴だけじゃない。固いものが砕ける音。柔らかいものが潰れる音。赤い液体が床と私の身体に飛び散る音。これらは全部、私の両親だったもの……。
その音が止んだ時、音を出していた赤黒く染まった巨大な口が腰を抜かして座り込んでいた私に向けられる。大きく開かれたその口の中には………。
───あっ、ああぁぁああああッッ!!!!!!
化け物が私に喰らいつく前に、手が勝手に動いていた。それまでは恐怖で少しも動かなかった手が、近くに転がっていた錆塗れの杖を掴み取ると同時に身を庇うようにがむしゃらに振り払う。
その杖の先端が化け物の横顔にめり込んだ瞬間、化け物の顔の一部が抉れて消し飛んだ。杖に宿っていた神様の力が初めて日の芽を浴びた瞬間だった。
だけど私にはそんな事に気づく余裕は無い。化け物に殺される……その一心で叫びながら、私は杖を振り続ける。
両親を惨たらしく殺したバーテックスを、自分でも訳が分からなくなるほどに無我夢中で、力を宿したばかりの杖で、何度も何度も叩きつけて……殺した……。
その時と全く同じ感触が今、再び伝わるのだから……。バーテックスの姿が、その恐怖が、感触が、今なお私に地獄を見せ続ける。
前回もそうだった……きっとこれからも、バーテックスがこの世に存在し続ける限り、あの悪夢が消え去る事なんて絶対にないんだ。
───ほむらちゃん!!!!
………うん……分かっている。忘れないよ。何があっても。
「……!」
次々とバーテックスを倒していくも、突如として数体のバーテックスが中央の一ヶ所に集まり始める。グジャグジャと気持ち悪い音を発しながら、それらは一つに融合し姿を変える。
「出たわね進化体!」
全長2メートル程の白くて口だけのバーテックスから、青白く細長い顔を持った巨大な姿に。その大きさ、どう見積もって30メートル近くはあるかもしれない……。
「デカくなっただけか……?」
「どうなんだろう……?」
進化体は今まで以上に油断ならない相手。この前はあの人が倒したけど、それでも高嶋さんと伊予島さんの攻撃を受けつけなかった……。
その事を踏まえて、後方で援護射撃していた土居さんと伊予島さんが慎重になりながらも前に出る。白いのはもう……目に入る範囲で目立つ敵はあの進化体くらい。援護射撃よりも、ここからは全員前に出て一斉に戦う方が……。
次の瞬間、進化体が動き出す。その何メートルもある巨大な口を開くと一瞬そこがパッと明るく光ったように見えた。それが何か、直感的に分かった事は、極めて危険なものであるという事……。
「うおおおおおっ!?」
「きゃああ!!」
「球子! 杏!」
狙われたのは直前に動きを見せていた土居さんと伊予島さん。彼女達に無数の光が雨霰となって降り注ぐ……!
ゾッとする光景を一瞬想像しそうになるも、土居さんが武器である旋刃盤の刃を回転させながら、盾のように構えて矢のような攻撃を間一髪防ぐ。隣にいた伊予島さんを守りながら。
「び、ビビったぁ……! 何だコレ!? 矢!?」
進化体の攻撃は続く。土居さんが防いでいるけどあんな鋭い攻撃が当たってしまえば良くて重傷……最悪だと……!
そんな中、白鳥さんが大きく跳躍し、進化体に攻撃を仕掛ける。
「こんのぉ……! 大人しく倒されてなさ…ってわわわっ!?」
「白鳥さん!」
進化体は土居さん達への攻撃を止め、即座に飛びかかる白鳥さんに顔面を向けて再び激しい攻撃を放つ。
「くっ……はぁあああ!!」
空中の白鳥さんに走って避ける手段は取れなくても、彼女は俊敏な鞭捌きで自分に当たりそうな矢だけを叩き落とす。それでも雨のように数多い攻撃は白鳥さんの身体を掠り、肌を傷つける。
攻撃に移ることはできず、急いで着地した後に地面を蹴って走る。その後にも絶え間なく放たれた矢が降り注いでは突き刺さり、滑り込むように樹木の陰に逃れた白鳥さんは辛うじて敵の攻撃から逃れることができた。
「はぁ…はぁ……デ、デンジャラス……! どうしましょう、あんなタイプの進化体なんて初めてだわ……!」
「次が来るぞ! 全員避けろーーっ!!」
「……っ!」
白鳥さんに攻撃が当たらない事を悟ったバーテックスが、今度は攻撃対象を周りにいる私達へと変更する。顔を動かしながら絶え間なく矢を放ち、それは次々に私達全員に襲いかかる。
「みんな!?」
「ちぃっ……! 今のうちに誰か叩け!」
「乃木さん……っ、うわあっ!?」
私に、乃木さんに、土居さんに、伊予島さんに、容赦ない矢の嵐が射線をまるでレーザーのように自在に薙ぎながら飛んでくる。他の誰かが狙われていると知って動こうとも、少しでも近付けば今度はその人が狙われる……近付けない……!
白鳥さんは諏訪で何度か進化体とも戦ったことがあると言っていた。流石に簡単に倒せる存在ではないと分かっていても、白鳥さんが逃げて隠れざるを得ないとなると、なんて厄介な相手だというのか……。
そもそも、白鳥さんが進化体に近付けなかった。攻撃が激しすぎて、それをかいくぐる事が難しい。当然なことに、近付かないと攻撃が当たらないのに、進化体の攻撃は私達を寄せ付けそうにない……。白鳥さんだけじゃなく、近接主体の私や乃木さんにとっても不利な相手だ……。
「私が!」
接近が無理でも、伊予島さんの武器は遠距離の敵をも射抜けるクロスボウ。側に立っている土居さんよりも前に出て、私達を苦しめるバーテックスを倒そうと美麗な輝きを秘めた矢が連続して放たれる。
一直線に飛んだ矢は今私に注意が向いたままのバーテックスの横顔に全て突き刺さり、神聖なる神樹様の力が弾け炸裂する。
「よし、当たった! 良いぞあんず!!」
「………ううん」
……普通のバーテックスなら、今ので倒せていた。でも、今戦っているのは進化体……伊予島さんの矢が何本も当たっていながら、その部分の表面だけが吹き飛んだだけで全然堪えていない。巨大過ぎるからか、伊予島さんの矢が大して効いていなかった。
「ダメージが足りてない……! もっとたくさん撃ち込まないと……!」
伊予島さんも攻撃ができる勇者が限られている事を理解していた。離れた所から攻撃するしか打つ手がなくて、それができるのは伊予島さんと土居さんのみ……。
自分達がやらなければ、世界に未来はない。故にその焦りからか、伊予島さんは敵を見る前に再び攻撃の構えを取る。
「いかん! 戻れ杏!!」
「えっ…」
「伊予島さん!!」
伊予島さんが複数の矢を放つと同時に、バーテックスも伊予島さんに大量の矢を放つ。伊予島さんの矢は飛んでくるバーテックスの矢を正面から破壊するも、それによって彼女の矢の方も相殺されて壊される。
だけど、物量では伊予島さんは完全に負けていた。今の一瞬で伊予島さんが矢を5本速射していて、バーテックスの矢を5本破壊したとする……残りの飛んでくる矢は数え切れないほど残っているのに。
「させるかこんにゃろーーッ!!」
後ろから駆け込んできた土居さんが、合流ざまに伊予島さんの身体を抱きかかえ即座に後方に跳躍して離脱する。直後に今まで伊予島さんが立っていた地点に矢が突き刺さり、最悪の事態は避けられた。
「セーフッ……! 怪我はないな?」
「タマっち先輩……ありがとう……」
「全員物陰に隠れろ! 奴の射線上から離れるんだ!」
とはいえこのままじゃいつ誰かがあの矢を受けてしまっても不思議じゃない……。危機感を孕んだ乃木さんの声に従い、私達は降り注ぐ矢を避けながら大きな樹木の陰に身を隠す。
背後の樹木に無尽蔵に放たれる矢が突き刺さる音が耳に響く。容赦なんてあるわけなく、ただ私達を抹殺しようとしながらも、ただ単にその辺を飛ぶ虫を鬱陶しいからと潰すような殺意のない意思だけがそこにはあった。
「うぅっ……速いし、数も多い……!」
「攻撃のタイミングどころか近づく隙が無い……。無闇に突っ込めばあっという間に剣山だ」
伊予島さんが悔しそうに呟くのを、乃木さんも同様に肯定する。敵の矢は完全に伊予島さんを上回っていた。数も速さも……威力は同じでも、攻撃がかき消されてしまう。
「くぅ~! 友奈も千景もまだ戻ってこないのか! こっちがこんなに大変だって時に!」
……私達は今、絶体絶命の崖っぷちに追い込まれている。遠距離からの一方的な攻撃に為す術無く、全員揃って隠れて身を守りながらチャンスを窺う……そんな余裕すら、私達には無いのだから。
「……っ、な、何よこれ……ツリーが枯れてる…?」
「くっ……影響が出始めたか……!」
たくさんの矢が突き刺さった樹木や地面が少しずつ、色黒く変色する。この樹海は神樹様が世界を守るために生み出した結界だ。その結界が傷つけられれば、元の世界にも悪影響が生じる。その事を目の前の変化が私達に改めて現実を突きつけた。
「このままじゃ……世界が……」
───ほむら
みんながいる世界が壊される……。かつて一度はぐちゃぐちゃに噛み潰された私の世界。
そこに、手を差し伸べてくれた家族がいた。
───ほむら
抱きしめてくれた両親が。
───ねーちゃ!
心を温めてくれる弟が。
───ほむらちゃん
光をくれた……あの子が導いてくれた世界を壊させない!! 絶対に!!
「ほむらさん!?」
「お、おい……!」
危険だとか、怖いとか、そんなものよりバーテックスに世界を壊される方がもっと嫌だ。臆病な感情はいらない……隠れていた樹木の陰から飛び出して、自分の体の内側に意識を集中させながら私の姿を捉えたバーテックスを睨みつける。
「戻ってほむらさん! あなたの武器はパワー系の近接メインじゃない! あいつとの相性はベリーバッドよ!」
「いや待て歌野! ほむらは
神樹様の概念的記録の中に意識を潜行。そこにある無数の存在の中から、私の想いに呼応する力にこの身を預ける。
私に適応してくれた
だけどその瞬間、私は己の唯一の武器であるはずの杖を、何もない地面目掛けて突き刺さるような勢いで投げつける。
「なっ……?」
武器を棄てた……そんな風に完全に初見かつ初耳の白鳥さんを一瞬勘違いさせたかもしれない……。私は武器を棄てたんじゃない。私のこの体と一緒の力を宿した神器、天魔反戈は水の中に沈むように樹海の地面の中に吸い込まれる。
これにより、この結界内と……私達人間が生きてきたこの世界全ての思念と繋がった。
「
……解ります、あなた方の想いが……。痛いくらい、それを果たせなかった無念が伝わってきます……。
栄誉、誇り、正義、国、友人、家族、未来……理由は様々でしょう。辛い苦悩に押し潰されそうになったことも、本当にその道が正しいのか解らなくなったこともあったでしょう。中には力や欲に溺れ、人道に反する行いをしたものもいたかもしれない。傷つけたのかもしれない……だったら今度こそ、一緒に正しい力を人々のために使いませんか?
あなた方はみんな、現実に裏切られた……そうでしょう? 必ず勝つと誓ったのに、理不尽な化け物はその決意を嘲笑いながらあなた達を貪り尽くしたのだから。
私はそれが嫌なんです。勝手でごめんなさい、あなた達のような目になりたくない。あなた達とは違う結末を手にしたい。私はあなた達が切望したものが……大切な人達と一緒にいる未来が欲しい!
それが勇者、鹿目ほむらのたった一つの道しるべ……だからお願い、私にみんなを守らせて!!
無色の炎が立ち上がり揺らめく。その炎の数は幾千を越える。熱を帯びず、近くの物を燃やさない。そう、これは既に燃え尽きてしまった炎……命の炎。
そして、私の両手にも無色の炎がまとわり付いていた。それは周りの炎とは似て非なる、精霊古戦場火の力を宿した私の燃え上がる魂の炎。
進化体バーテックスが放った矢が間もなく私の身体に突き刺さる……そうなってしまう前に、両手を素早く前に出すと共に手の炎が瞬時に形を変え、確かな質量を持って実体化する。
周りに浮かぶ無数の炎も、全く同じ形に変化する。大きさも含めて同じ……あの膨大な炎の数全てが正面に向けられた。
無色の炎から、鋼鉄の黒い塊に。Personal Defense Weapon……またの名を『MP7』。ドイツ製の、サブマシンガンとアサルトライフルの中間にあたる性能を誇り、世界各国の軍隊でも採用されていた兵器である。
「撃てぇーーーーー!!!!」
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!!!
両手の二丁のMP7のトリガーを引くと同時に、全ての兵器が一斉に火を噴く。両手の二丁に共鳴するかのように、宙漂う幾千の燃え尽きた命までもがトリガーを引かせている。
災禍を砕くは決意の弾丸。私達が耳を劈く銃声を響かせ放った銃弾が、バーテックスの放つ矢を次々に撃ち抜き破壊する!
「ええええーーーーっ!!? ガ、ガガガ、ガンスリンガぁーーー!!!?」
進化体バーテックス……それは巨大な口から恐るべき速さと数の矢を放つ破滅の使者。誰も近づくことを許さず、矢は全ての邪魔する存在を射貫く。
……ええ、確かに厄介だった。だけど伊予島さんがやってみせた……彼女は後れをとってしまったけど、攻撃を加えればその矢を壊せることを証明してくれた。厄介であって、完全なんかじゃないって!
古戦場火……私の切り札の精霊は、戦死者の魂を呼び起こす。この世界で命を散らした兵士達の記録から、彼らの命を預けた兵器を具象化、再びこの世界を守るためにその力を発揮する。
……人間には戦争という悲しみばかりを紡いだ歴史がある。世界中で、それも何千年も……ううん、人類が誕生した時から争いばかりを繰り広げた。兵器とは、人間が人間をいかに楽に、たくさん殺すために生み出された。それは実際に、数えるのも馬鹿らしくなるぐらいの命を奪った。
だけど兵器というものは何も人を殺める事だけが存在意義じゃない。護るためにも引き金は引かれる。それは自分だったり、友達だったり、その人が思う大切な物を奪われないよう立ち向かうために。
そんな守りたいという願いを込めた世界中の軍人達……彼らは一人残さず、大切な物諸共バーテックスに殺された。
バーテックスには、人類が生み出した兵器は効かない。どんなに殺傷能力が高い危険な兵器を使ったとしても、神によって生み出されたバーテックスには傷一つ付けられない。抵抗虚しく、彼ら世界中の軍人達は……。
「人間を……嘗めないでーーーー!!!!」
古戦場火の力で具象化した兵器には、神器と同様に神樹様のご加護が宿る。かつての敗因だったダメージの無効化はすり抜けて、兵器本来の力をバーテックス相手にも発揮する。
ねぇ、進化体バーテックスの矢は速いよ。数もたくさんあるよ。
だけど、彼らが使ったこのMP7は秒速750メートル、それに一分間に千発もの弾丸を発射できる。
加えて……三年前にバーテックスが見向きもしないで適当に殺した世界中の軍人達の魂が今、揃って銃口をそっちに向けている。
その数5793丁。それが同時に弾丸を連射していて、その程度の矢でどうにかできると思う?
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!!!
「……すっげぇ……!」
ダメージレースはこちらが優勢。完全に状況をひっくり返して、古戦場火による弾幕はバーテックスが矢を放ったそばから破壊する。そしてその他の弾丸もバーテックスの表面に無数の弾痕を穿つ。
(MP7じゃあ決定打にならない……)
流石に巨大な進化体に対してMP7だとダメージこそあるだろうけどジリジリと削るぐらい……。ならばと、全てのMP7が形を変える。
対戦車擲弾兵器、『RPG-7』。これもバーテックスに蹂躙された兵器の一つ。だけど同時に全身にとてつもない疲労感が……それもあって、周りに浮かんでいる同一の兵器が大量に消失する。
「人類の反撃を……食らって!!」
倒れない……こんな所では。構え直した新たな兵器の引き金を引き、数百のRPG-7が穴だらけのバーテックスに飛来する。
ドゴオオォン!!!!
「きゃあっ……!」
ものすごい爆風と衝撃がこっちの方まで流れてくる。倒れそうになるのをなんとか堪え、持っていたRPG-7を杖代わりに突いてもたれ掛かる。
爆発による黒煙が上がる中、そこにあの厄介なバーテックスの姿はどこにもない。あの爆撃で完全に消滅して……。
「はぁ…はぁ……やった……」
もたれ掛かっていた兵器と周りに浮かんでいる物も全て光となって消滅し、身体中に宿っていた精霊の力が消え去った。少し離れた所ではカランと音を立てながら、私の本来の武器である杖が地面の中から飛び出して転がっている。
「ぁ……」
そして不意に目眩が……。強大な力を宿す精霊の力を使った影響なのか、いまいち力が入らない。そのままフラッと後ろに倒れて……
「「「「ほむら(さん)!!」」」」
後ろから駆けつけてきた仲間達が支え、受け止めてくれた。
「みなさん……」
「ほむらさん凄かったです! 進化体バーテックスを一人で倒すなんて!」
「やりやがったなほむら! 大金星だゾ、お前ぇ♪」
「全く、精霊の力を無茶をして使うとは……だが、よくやった、ほむら」
「ていうか凄すぎよ! 切り札が使える勇者システム……ますます羨ましいわ!」
「……ふ…ふふっ」
……良かった。私、ちゃんとこの世界を守れたんだ。一時はどうなることかと思ったけど、誰一人失わずに今回の戦いも乗り切れた。
そう思っていると樹海に色鮮やかな花弁が舞い上がる。バーテックスを全て倒したから、世界が元の形に戻るんだ。
「終わりましたね」
「ああ」
今回疲れたけど、何事もなく戦いは終わった。まどかや上里さんや藤森さん、お父さんお母さん達に早く会いたいなって思いが出る。
「……ところで、結局友奈さんと千景さんは来なかったわね……」
「……っ! そうだその話だ!! 暁美が千景の元に……」
「私が何ですって?」
突然、低いトーンの私の声が聞こえた。ううん、私の声じゃない……その声を持つ人を、私達全員は知っているから……。
やがて樹海に舞う花弁が完全に消え去ると、私達は元いた丸亀城の外に立っていた。直前までその場にいなかったはずの、彼女まで一緒に……。
「暁美……!」
目の前に立っているのは、全身を真っ赤な血で汚した、私そっくりな勇者……。凍てついた眼差しは私達の誰をも見ようとはしていない。ただ単に、言葉にできそうにない異様さだけを醸し出していた。
かなほむ「ねんがんの じゅうかきをてにいれたぞ!」
ゆうほむ 1 そう かんけいないね
>2 殺してでも うばいとる
3 ゆずってくれ たのむ!!
使い魔 『was machen Sie!(な、なにをするきさまー!)』
【古戦場火】
鹿目ほむらの切り札の精霊。古戦場火が過去に地球上で戦死した兵士、軍人、騎士、武士の魂の記録を読み取り、それらの者が使った武器を魂の残留思念から具象化する。この際元の古戦場火も魂と同じ武器に形を変え、それが指令塔ともなるほむらの武器になる。これらには神樹の力が宿るため、バーテックス相手にも極めて有効。
周囲に浮かぶ武器は元が実体を持たない魂故に宙に漂うだけだが、ほむら自身の攻撃がトリガーとなり、同じ様に対象を攻撃する。読み取る魂を変えることで武器も変更でき、その気になれば戦車や戦闘機も具象化可能。ただしほむらが潜在的に抱いている武器のイメージが強力であればあるほど、彼女に精神的負荷がかかってしまう。それでも強力な武器を歴史上死亡した兵士の人数分使用可能であることの利点は高く、精霊の中でも圧倒的な物量と火力を誇る。
一方、他の精霊下ろしとは異なり、能力発動中でもほむらの身体能力は一切変化しない。例え星屑の攻撃を食らってもほむらにとっては無視できないダメージになるなど、防御力は最低クラス。