ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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 ……はい、スミマセン、大変長らくお待たせしました……危うく3ヶ月失踪ですコノヤロウ釜茹でにされやがれ。
 活動報告にて言い訳をしましたが、理由は難産です。そしてそれは現在も進行中です。全然進みません。
 ただし幸いにもと言うべきか、その話は外伝パート焔環の章の話。次に投稿するものはこちらの予定で作ってうまく形にできず、時間を浪費してしまいました。

 さすがにこれ以上待たせてはと、予定変更で本編を進めようとこの話を執筆しました。割と普通より早いペースで筆が進みましたコノヤロウ最初からやれ油で揚げるぞテメー。


第六十八話 「爆発」

 とてもとても、辛い事が起こった……でも、へこたれてしまえばそれまで。

 

 どんなに辛い目に遭っても、人は必ず立ち上がれる……これは私達が大切にしている合い言葉。私のプライドに懸けて、守り抜くと誓った。

 

 ネバーギブアップ。信じていれば、夢は叶うのだから。

 

 

 

 願いを胸に。ミラクルは起こる。決して、失われはしない……あなたがそれを教えてくれたのよ。

 

 

 

「んっ、くぅぅ~……よし!」

 

 農業王、白鳥歌野のモーニングは早い。長年使い込んできた私の体内ウォッチはとても正確で、この日もスリープしていた私の意識は朝の4時半にバッチリ目覚める。

 布団を畳んで歯を磨いて、いつものジャージに腕を通すと、さっそく外へと飛び出した。

 

 季節は10月、まどかさんとひなたさんのバースデーもこの前過ぎた秋の真っ最中。そして野菜を育てるのがベストなシーズン! まだまだ日が昇りきっていなくて真っ暗な中を駆けていく。

 

「フンフフ~ンフ~ン♪ 栄養~♪ 満点~♪ ベ・ジ・タ・ブル~♪」

 

 まず鼻歌混じりに最初に向かう場所は、大社にお願いして私に与えられた畑、ホワイトスワン農場。

 

「キャベツ玉葱ほうれん草~♪ ごぼうにイチゴにエシャロット~♪ み~んな大好きホワイトスワン~♪」

 

 ついこの間植えて、まだまだベイビーみたいな物がほとんどだけど、夢や幸せがいっぱい詰まっているのがこのベジタブル達だ。ここで今すくすくと育っているラブリーな野菜を思い浮かべれば気分はアゲアゲ!

 

「立派な野菜に育つのよ。この農業王が付いているんだから♪」

 

 小さな芽に一つ一つ語りかけ、問題は無いかのチェックも済んだ。やるべきことをやった後、ネクストへゴーするために私はホワイトスワン農場を後にする。

 

 少しばかり走った所にあるそこにはこれまたエクセレントな畑が。それを生み出したんだっていう偉大なるその人達を見つけると、お腹の底から大きな声で呼びかけた。

 

「おっはようございまーす! 今日もお手伝いさせてもらってもよろしいでしょうか!」

 

 こっちに来てからお世話になっている農家のおじいさんとおばあさんに元気いっぱいの声を。早朝でも畑仕事の準備をしていたおじいさん達は私を見ると笑顔で迎えてくれた。

 

「おお、勇者様! 今日もこのような年寄りなんかのところに来ていただけるとは……何とお礼を言えば良いか」

「いえいえそんな! むしろお礼を言いたいのはこっちの方ですから!」

 

 これが二つ目の朝の日課、他のファーマーさんのお手伝い。ホワイトスワン農場はできたてホヤホヤの畑だから収穫作業なんてものはまだまだ先の話。種や育てた育苗を植えて、土をいじって、様子を見て……今できる事はそれでエンド。ほうれん草みたいな種まきから収穫までが早い物ならあと3週間くらいで収穫できそうだけど、それだけじゃ農作業にハングリーな私を満足させることはできないわ。

 そこでホワイトスワン農場ができる前からやらせてもらっていた、丸亀城近くのファーマーさん達のお手伝いを続けさせてもらっているってワケ。このシーズンは本来は栽培と収穫の両方で忙しい時期だもの。ファーマーの誼みとして力になりたいの。

 

「余所者の私のワガママなのに大切な畑の土を触らせてもらえるんですもの。感謝してもしきれないくらいですよ♪」

「いやぁ……勇者様にそう言ってもらえるとありがたくてなぁ。儂等の方も笑顔で溌剌している勇者様を見ていると元気を分けてもらえますわい」

「うふふ。なら、お互いにウィンウィンの関係ですね♪」

 

 なによりも、やりがいはとてもビッグだし、未来の農業王としてこのウェーブは見逃せないでしょう?

 

「さて! なんでも任せてください! 勇者アンド農業王、白鳥歌野にできない事などありませんよ!」

「ほっほ。頼もしいですなぁ」

 

 …………

「………あら?」

 

 上機嫌なおじいさんとおばあさんとトークする私の背中に、ふと気配と視線をフィールした。

 この感じ、とても安心する。まだ私達が諏訪にいた頃、楽しげに農作業に励むのを優しげに、幸せそうに眺めていた……みーちゃんが私を見ていてくれるフィーリングだもの。

 

「みーちゃんも来たの?」

 

 私の半身と言っても過言じゃないパートナーが来てくれた。つい嬉しい気持ちを抑えきれなくて、私の身体はガバッと反射的に振り返った。そこには思った通り、私の愛しいみーちゃんが……

 

『………!?』

「えっ……」

 

 私が振り返った瞬間、彼女は慌てて物陰に身を隠した。

 

「勇者様? どうかしたのかい?」

「ごめんなさい、ちょっと気になることが……すぐ戻りますから!」

 

 みーちゃん……じゃない。一瞬見えた彼女は、みーちゃんが着ないようなブラックの服を身に着けていて……それに私は見覚えがあった。

 

 ───骨の一本か二本でも折れば静かになってくれる?

 

 ───やりなさい

 

 あの時、私の腕を折ろうとした二体の使い魔の内の一体だ。

 

「待って!!」

 

 気が逸る。その使い魔が隠れた所に急いで駆け込んだ。

 使い魔は暁美さんの手下? エイミーちゃんみたいな精霊? その正体は何だって構わない。今インポータントな事は、あの使い魔くらいしか暁美さんの事を知っていそうにないことぐらい……!

 先日の件からまたまた姿を眩ました暁美さんの居場所、使い魔なら知っているはず! 教えてもらって……今度こそ話を、説得をするんだから!

 

「あっ!」

 

 使い魔が隠れた物陰には既にその姿は無い。とっくに、離れた建物の屋根や屋上の上をジャンプしながら去っていく……。

 

「待って!! 待ってってば!!」

 

 あんな風に逃げられたら追いつけるなんてムリよ。勇者のスピードとジャンプ力があればまだしも、スーツが手元に無い、生身の私の身体じゃ……。

 

 遠くに跳んでやがて小さくなるブラックな背中に、叫ばずにいられなかった。

 

「暁美さんは今っ……どこにいるの!!?」

 

 届いたのか届かなかったのかは分からない……。結局オンリーワンの手がかりを持っている使い魔は、そのまま未だ太陽の昇りきっていない真っ暗な空に消えていったのだから。

 

「………」

「おお戻ってきた……勇者様、大丈夫ですかい?」

「すみませんいきなり飛び出しちゃって! オールオッケー! 始めちゃいましょう!」

 

 心配をかけちゃうといけないから、ファーマーのおじいさんおばあさんの元にはスマイルで戻って農作業をリスタート。でもやっぱり心の中ではモヤモヤが収まりそうになくて……。

 

 今度からは戦うとは言っていた……暁美さん、次に会えるのはバーテックスが攻めてきた時、樹海でなのかしら……? でも、馴れ合うつもりは無いとも……。

 どういう意味よ、それ……! 今は勇者や巫女だとかそんな物は関係なく、生きていくために人間一人一人が力を合わせる時でしょう……!?

 

 今にも途切れそうだった私達の命を、会いたくても会えなかった友達との出会いを繋げてくれたあなたが……それを否定しないでよ……!

 

「……あっ」

 

 土から引っこ抜こうとした根菜類、慣れ親しんだ作業なのに、引っ張ると葉っぱが千切れるなんてミスをしてしまう。

 ……今は、暁美さんの事を考えるのは止めておこう。農業王を目指す女がマイナスの事を思い浮かべて、一生懸命なファーマーさん達にも、この野菜達にも失礼だわ。

 

 

 

 

 んしょっと……! う~んワンダフル! これまたずっしりとして美味しそうなカボチャ! 流石です! いいですよねーカボチャ! ええもちろん! ラブですラブ! みんなカボチャが大好きですよもう! ほむらさんなんて一番好きな野菜がカボチャだって言っていましたし……えっ良いんですか貰っても!? 私お礼が欲しくてお手伝いさせてもらっているわけでは……いえっ!ありがたくいただきます! サンキューソーマッチ! はいっ、みんなと一緒に食べます!

 

「うふふ~何がいいかしら~♪ ひなたさんに相談して………あら!? もうお昼!?」

 

 農作業に精を出していたら、気がつくともうこんな時間。いやぁ、時間の流れって早いわねー……。

 それに、携帯にメールが着ている。みーちゃんから。

 

みーちゃん:うたのん今どこにいるの? もうそろそろ集合時間だよ?

 

「……オーマイーゴッド……」

 

 やっちゃった……今日は休日だから丸亀城に登校する必要は無いけど、スケジュールが……お昼から外せない用事があったのに、つい農作業に夢中になっちゃって頭から抜けていたわ……!

 

 名残惜しいけど、今日のお手伝いはエンド。そして急いでみーちゃん達と合流しないと!

 

歌野:ソーリーみーちゃん! 今作業が終わったからすぐ向かうわ!!

 

みーちゃん:先にまどかさん達と行くからね。前みたいに汚れたままで来ないでよ? ちゃんと着替えてから来てね

 

 うっ、ネイルを刺された……。前に農作業を終えて、泥まみれのままお店の中に入ろうとしたところ止められて、寮のお風呂で全身オールウォッシュされた事があったもの。今となったら笑い話だけど。アハハハハ!

 あら? それっていつの話だったかしら? 何年前? ってそんな事よりも急がないと!

 

「すみませーん、私そろそろ帰らないといけなくて!」

「やぁ、本当に助かりました勇者様。ありがとうございます」

「こちらこそありがとうございます! またお手伝いに来てもいいですか」

 

 収穫した作物をおじいさん達に渡して、感謝の言葉と共に私はその場を後にする。カボチャのお土産を包んでくれて、笑顔で手を振りながら見送ってくれるファーマーさん達との繋がりが出来たハッピーを噛みしめつつ、手早くシャワーと着替えを済ませるために、私とみーちゃんが住んでいる寄宿舎に向けてダッシュを始める。

 

 ここで一つ説明を。四国にいる勇者のみんなは地元民のほむらさんを除いてみんな大社が丸亀城の敷地内にビルドした寄宿舎に住んでいるの。それはもちろん私や一緒に来た巫女のみーちゃんも同じなんだけど、私とみーちゃんはみんなとは別、丸亀城からは近いけど敷地外の寄宿舎に住んでいるの。理由はイージー、向こうにもう空き部屋が無いから。彼女たちがいる寄宿舎って、若葉ひなたさん友奈さん千景さん球子さん杏さんの六人分の部屋しかないのよ。

 私達が合流するなんて大社にとってはアウトオブ想定。それでも大社は急ピッチで私達が住める寄宿舎をビルドしてくれたの。それで最近完成した……三人分の部屋がある寄宿舎が……。

 

「………暁美さん……」

 

 寄宿舎にアライブ、玄関のキーを開けて、だけど私の体は中には入らないでストップしちゃう。その体は隣の、今は誰もいない彼女のために用意されていた部屋を向いていた。

 いろいろと悲しい気持ち……本当に、四国に来る途中のあなたと一緒にいる時はこんな事になるなんて思いもしなかった。

 

「……どこにいるの?」

「………え?」

 

 何の脈絡も無く、目の前の扉がガチャっとオープン。誰もいないはずの部屋の玄関から、聞き覚えのある人の声が聞こえた気が……

 

「………え?」

 

 ……あれ? なんか人がいるんだけど………ポカーンと呆気にとられて私を見つめている人が。私が探していた人が……!

 

「……あ、暁美さん!?」

 

 間違いなく、彼女は暁美さんだ……! さっきのこぼした声も、今私が見ているその姿だって!

 それを決定付けるかのように、徐々に彼女の表情が苦々しく歪む。その口からはまるで呪いでも吐くかのように、苛立ちでコーティングされた声で呟かれる。

 

「……烏丸久美子ぉ……!」

 

 ………カラスマ……えっ、誰?

 

 

◆◆◆◆

 

『聞いていないわよ。隣人がいることも、よりによってそれが白鳥歌野だということも』

「初めて電話を掛けてきたかと思えばそんな事か?」

 

 暁美ほむらの補佐役に任命されて初めて電話をしてきたあいつの声は不機嫌である事を隠そうとしない。それがあいつが抱いている他の勇者達への印象、そして突き放し害する対応から、完璧に予想通りの形で思わず笑い声が出てしまうところだった。

 暁美が大社に要求したものは衣食住だが、勇者が戦う事を当然視し、それによって一般人からの支持を得たかったのが上の連中だ。下心丸見えのそいつらを脅して、連中を暁美の言いなりになるATM同然に変えたまでは良いものの、そこから次に起こるであろうイベントの発生が以外にも遅いと思っていたところだったからな。

 

「そこはお前が姿を消す前からお前用に準備されていた、勇者の第二寄宿舎だ。お前と白鳥、それから藤森もだな。近隣住民にも勇者の為だと話を付けて大工に夜間でも働かせた、四国外から来たお前達の為に建てた新築だぞ?」

 

 厳密に言えば、急拵え故に食堂や浴場が無い。それら住民達の共有スペースがあって寄宿舎と定義されるため、そこは友奈達の住んでいる寄宿舎とは異なりアパートと言うべきだろうが些細だ。まだ暁美が住み始めて三日だが、この間で一度も白鳥達と遭遇しなかったのはそういった共有スペースが無かったからだろう。

 

『藤森水都もいるの……あんな能天気な役立たずが隣の部屋に住んでいるってだけで不愉快なのよ。すぐに別の居住を用意して』

「それなら大社の人間用の共同生活寮に入寮希望の連絡を入れてやる。許可が下り次第迎えに行ってやるから安心しろ」

『……嫌よ、そんな所。他にもっとちゃんとした所があるはずよ』

「ねぇよ。四国中のマンションにアパートにホテル……一体どこの誰が埋め尽くしたと思っている?」

 

 こいつは大社という組織とそれに属する人間が心底気に入らないようだ。憎んでいると言ってもいいだろう。理由までは知らん……なにせあんな醜い組織だ。心当たりが多すぎる。

 まあこいつの事だ。勇者なんて強大な力を支配できれば人間欲望が爆発する。大社の上の奴等然り、ひょっとすると、ここに来る前の北海道で暁美をサポートしていた組織がろくでもない所だったから、なんて八つ当たり的な理由も有り得るな。本当にろくでなしか否かは知らんが。

 

「新築で、テレビはもちろんネット設備も充実、立地も良い。家具も完備してやった、立派なお前の城だ。その寄宿舎を断る理由なんてどこにも無いだろう? お前の年相応の、ガキらしいワガママ以外に。気まずい同級生とは顔を合わせたくないーって、苛められっ子の発想みたいだな」

『………チッ』

 

 ははっ、苛立ってる苛立ってる。だが暴論を言っているのは暁美でこっちは正論だ。それでいてコイツは冷酷だと判断されてはいるが、根幹では甘々だ。諏訪の人間を救ったエピソード、私しか見ていないだろうがあのカチューシャのプリシーなんかを見れば分かる。

 

「白鳥達と関わりたくなければそうすればいいだろう。そこはお前がどうするかだ」

『………』

「気に入らないのなら向こうを追い出せばいい。藤森を人質にとれば白鳥を武力行使で叩きのめすなんて余裕だろう。わざわざ勇者を相手にするのが面倒だって言うなら、一般家庭を…」

『やっぱり異常者ね、あなた。よくもそんなアイデアが浮かぶものだわ』

「心外だな。私はワガママをほざくお前のために期待に沿えそうなアイデアを出しただけだが?」

『……結構よ。そこまでする必要なんて無い。盾もあるし、相手にしなければいいだけの話なんでしょう?』

「……ああ、そうさ」

 

 コイツは完全に非情に徹しているわけでもない。仮に私がコイツの立場でそこの寄宿舎から出て行くんだとしたらだ、住みやすそうな家を乗っ取って大社に隠蔽してもらう。だがコイツにはそれに躊躇いがある。必要が無いなんて言い訳をしてだ。

 ただし必要を感じれば容赦が無いのもまた事実。その判断を誤れば、私は言い訳のしようも無く上里の怒りを買ってしまうだろう。そうなればここに()()()が呼び出される。それは何としても避けたい……だからこそ、決して失敗はできない。そのリスキーな末路が存在する分スリルは最高だがな。

 

『……今後は説明を省かないで、ちゃんと言ってほしいものだわ』

「聞かれなかったからな……切ったな」

 

 残念だったなぁ、嫌なのに私に論破されて、その部屋で継続だ。だが言った通り、暁美達勇者の寄宿舎は住みやすい一級品だ。悪くはないだろう?

 さて、暁美の期待に応えられなくて上々と言ったところだが、なんか薄いな……。アイツならもっと面白そうなイベントでも引き起こすものと思っていたが、案外大人しい。

 

 すると、またしても携帯が震える。今度の着信は電話ではなくメールだ。送信者は……。

 

【暁美ほむら】

 

「?」

 

 送信者……暁美だと? 今の今まで電話していただろうが。終わって口ではなく文字で文句か? だとすれば、失礼なガキめ…………

 

「………ふむ」

【メッセージを削除します。よろしいでしょうか?】

【削除する】

 

 そのメールを一読し、何の感慨も浮かばず即座に削除の欄をタップする。何せ今のメール、送ってきたのはどうやら暁美ではなさそうだったからな。一々正体不明の奴の話を聞いてやる義理は無い。

 

 誰だかは知らんが、人に頼み事をするならせめて自分の名前くらいは明かすことだ。

 

 

◆◆◆◆

 

 午前にあった新聞取材を終えた私は一緒にいてくれたひなたと共に移動を開始していた。今日の午後は全員で集まる事になっていたからな。リーダーとしての仕事を請け負っていたため遅れてしまったが、他のみんなは既に集まっている頃だろう。

 

「うん? おーい歌野ー!」

「……あ、若葉にひなたさん。こんな所で合流できるなんてラッキーね」

「歌野さんお一人ですか? 他の皆さんは……って、何かありましたか? なんだか元気が無さそうに見えるのですが……」

 

 だがそんな予想は反した。その途中で重い足取りで目的地に移動している歌野と合流したのだ。何だか大きくて重そうな袋を手にしてはいるが、精神的にも落ち込んでいるように見えていた。

 ……いやしかし、歌野の持つ袋も外側からでも実にずっしりとした中身であることが分かる。何だろう……気になる。

 

「ああコレ? カボチャよ。ホワイトスワンじゃないけど、畑で取れたてホヤホヤの」

「……お見舞いの品としてカボチャはどうなんだ?」

「カボチャの話は置いておくとして、歌野さんの事をお聞きしたいのですが……」

 

 むっ、それもそうだ。歌野がこの時間に一人でいることも疑問だ。更に人一倍明るい性格の歌野のこの様子が既にただ事ではない……。

 

 ……まさか、またしても暁美絡みか……?

 

 しかし、いざどうしたんだと聞けば近隣の農家の手伝いにのめり込んでしまったらしい。人助け……実に良い事だが、前々からの約束の時間を蔑ろにしてしまう事は如何なものか。なるほどそれで時間に遅れ、水都に置いて行かれたのかと呆れながらも内心ホッとした。

 

 そう思いきや……

 

「歌野の隣の部屋!?」

「ビックリでしょ? 私も全然気がつかなかったわ。いつの間に引っ越してきたのよって話よ」

 

 歌野からの思いがけない報せに驚愕した。やはり奴が絡んでいたんだ、それはビックリなんて表現では全然足りない。歌野と水都の住むすぐ隣に危険が潜んでいたとなれば当然だ! 一体いつから……どんな手を使って大社の管理する寄宿舎に!?

 

「……歌野さん、大丈夫だったんですか? あなたが暁美さんを見つけた時、警戒心を解いて詰め寄ったと想像するのが難しくないのですが……」

「ひなたの言う通りだ! 怪我は無いように見えるが心の傷までは……」

「それが聞いてよ二人とも! 暁美さんったらすぐに部屋の中にキーをロックして閉じ籠もったのよ!? バンバンドアを何十回もノックしたりインターホンを連打したり大声で名前を連呼したのに全部無視されたのよ!? さすがにショックよ!!」

「何をやっているんだお前は!!?」

 

 歌野……なんという恐れ知らず……! 相手はあの暁美なんだぞ!? そんな傍迷惑な行動をすれば奴なら命を奪おうとする事ぐらい考えられないのか!? というかよく歌野の所行を黙って見過ごしたものだな暁美は!?

 

「さすがにそれは……なんてこと、初めてあの方に同情を……」

「う…むぅ……」

 

 ……ひなたの言うように、とても複雑な心境だ……。

 

 だがしかし、やはり歌野は軽率だと言わざるを得ない!

 

「お前分かっているのか!? 暁美の危険性を……あいつは千景を殺そうとしたんだぞ!?」

「……っ! ……分かってるし……分からないわよ……」

 

 さすがの歌野も、この前の悲劇で揺れているはずだ。だが諦めきれてはいないんだ……歌野はまだ、暁美の事を友と言うのだから……。

 

「……歌野さんが気に掛ける理由も分かるんです……ですが言わせてください。いい加減に切り替えないと、このままでは絶対に良くない事があなたの身に起こってもおかしくはないんですよ!?」

 

 奴はまさしく爆弾だ。下手に触れて爆発を引き起こす。それで心身に深い傷を負うのは誰だ……関わるべきではないのだ……。

 

「お断りよ!!」

「「なっ…!?」」

 

 それでも歌野は奴を信じ続ける……何故だ……!?

 

「誰が何と言おうとも、暁美さんは私のフレンドよ!! 絶対に見捨ててなるものですか!!」

「その友人はあなたの事を同じように思っていると考えているんですか!? 断言できます! 答えは絶対にNOです!!」

「今はそうかもしれないけど、諏訪にいた頃は絶対に通じ合っていたわ!! だったらもう一度分かり合える時が来る!!」

「この分からず屋!!」

 

 端から聞けば歌野の破滅的な願望に過ぎない言葉に思わず苛立ちが募る。我慢ならず、納得できない怒りに飲まれた私の手は歌野の胸元を掴んで……

 

「いっ…つ!?」

 

 手に激痛が走り、離してしまう。

 

「「若葉(ちゃん)!?」」

「ぐっ……だ、大丈夫だ……!」

 

 心配そうに詰め寄るひなたと歌野の姿、そして手の痛みで頭が冷める。そして手の平を見ると案の定、巻かれた包帯から血が滲んでいた。

 

「手を、若葉ちゃん……」

「ああ……すまない歌野。頭に血が上っていた……」

「若葉……」

「……だが……分かるだろう、この手の平の傷……」

「……ええ」

 

 ───あぐぅっ…!

 ───歌野!! どけぇえええーーーーっ!!!!

 

 あの時、暁美は使い魔に歌野の腕を折るように命じた。それを止めるために、私は牽制する使い魔の刃を素手で握り締めた。

 歌野を守れた。この傷に悔いは無い。だがしかし、歌野を害そうとしたこと、この傷を付けた事、ましてや千景の件だ……いったいどうやって許せと言うんだ……!

 

 再び燻り出す怒りを感じ始める。私の大切な者達を次々と不幸に突き落とす奴に……我々の宿願を邪魔され、蔑むような存在を……果たして許して良いものか……!

 

 そして……

 

『ひぃなたぁ~……んっ…! はぁ~~そこぉ~♡』

 

 …………………………

 

「「………え?」」

「あ、私の携帯です。ええっと……水都さんからのお電話ですね」

 

 …………………………………え″?

 

「……おい待てひなた!!? なんだその有り得ない着信音は!!? まさか…まさか!!!?」

「はい、先日若葉ちゃんの耳かきをした際の、気持ちよさそうなトロトロ若葉ちゃんの声です♡」

「なああああああああ!!!?」

 

 ひ、ひなたぁあああああ!?!?!?!? いつの間に録音を……そうじゃない!! よりによって何故そんなものを携帯の着信音に設定しているんだ!!? 正気の沙汰じゃないぞこれは!!?

 

「あ……やっぱり今の、若葉の喘ぎ声だったのね……」

「喘いでいるとか言うなぁあああああ!!!!」

「えっ……じゃあえっと……なんというか…その………エッチね……?」

「あああああああああ!!!!!!」

 

 顔を赤らめないでくれ歌野!!!! 余計に恥ずかしくなって頭が沸騰する!!!!

 

「若葉ちゃん、そんなに大声で叫んで……近所迷惑ですよ」

「誰のせいだ誰の!!? 消せ!!!! 今この場で消去しろ!!!!」

「はい水都さん、申し訳ありません、到着にはまだもう少しばかり時間がかかりそうです」

「聞けぇえええ!!!!」

 

 もはや何も考えられない……! 直前まで感じていた苛立ちは、今すぐにでも全力で走り出したい程の羞恥心で上塗りされる。

 

 そんな私の心境を知ってか知らずか、ひなたの持つ携帯からはハンズフリー故に周囲にも電話口の水都の声が届いていた。

 

 

 今にも泣き出しそうな、震えている声が

 

 

「……なん……だと……!?」

「そんな……どうして……!」

 

 羞恥心の上から更に覆い尽くす、こちらが爆発寸前となる怒りを運んで。

 ……思わず欠けるのではないかというほど、無意識の内に強く歯を噛み締める。傷が開きかけてしまうほど、痛みを忘れて拳を強く握り締める。それでもこの怒りは消え去りそうにない!!

 

「……歌野……暁美の住処はお前の部屋の隣だったな?」

「え、ええ……」

 

 そちらの寄宿舎の場所は覚えている。頭がどうにかなりそうな怒りに満ちる中、鞘を掴んで持ち運んでいた生大刀の柄を持ち直す。

 

「っ! ダメです若葉ちゃん!! 危険です!!」

「こんな話を聞いて……おめおめと黙ったままでいられるかァァ!!!!

「若葉っ!!」

 

 制止する二人の間を突き抜ける。関わる事は間違いであり、それが私達の安全のためだとしても、この感情は止まらんぞ……決してだ!!

 

 今の今まで耐え抜いてきたつもりだった……避け続けていれば奴は我々に手荒な真似はしないと……だが……奴の悪事をのさばらせる事もまた大いなる過ちだった事に今更ながら気づいてしまった!!

 

 暁美が千景に与えた傷は……私達が思っていたよりも遥かに大きかったんだ!!

 

 

◆◆◆◆

 

『──3日前の午前10時に発生した香川県綾川町の山林火災で、高松市消防本部は今日鎮火宣言を出しました。火が強風にあおられて火災が拡大したとの見解ですが、出火の原因については現在調査中で……』

「……………」

 

 付けてあるテレビのニュースで流れているものは、バーテックスの二度目の襲撃の日……決して忘れられそうにない、思い返すだけで苦しくなったあの日に起こってしまった痛ましい火災について。

 これが本当に()()()()()()だったら、きっと私は大変な事があったんだなってしょんぼりするだけだったと思う……。でも若葉ちゃん達が言うには、この山火事の原因は自分達にあるって……。

 

 この前、私はぐんちゃんと合流するためにみんなとは別行動でバーテックスとは戦っていないから知らなかったけど、かなり苦戦しちゃったんだって。最終的にホムちゃんが切り札を使って倒したんだけど、バーテックスの攻撃が神樹様の結界である樹海を傷つけたから、その影響が山火事になって現れたんだって……。

 

 私がぐんちゃんにお母さんに会いに行くように勧めたから………そんな事を考えちゃダメなのに……。

 それか私が初めからぐんちゃんと一緒にいれば、あの子とのトラブルも止められてぐんちゃんの怪我も無いまま、そのままみんなと合流してバーテックスと戦えていたのに……。

 

(……どうしてこう、悪いことばっかり……)

 

 悪いことばっかり頭に浮かぶけど、今この場でそんな顔をしちゃいけないって思い出してハッとした。いつも通りの高嶋友奈の笑みを浮かべて、私は心配事なんか吹き飛ばす気持ちを意識しながら振り返る。

 

「ああごめんっ! ついニュースが気になっちゃって……この辺りに住んでいる人達大丈夫かなぁ~って!」

「………」

「野生動物とかもいっぱい巻き込まれちゃったんじゃないかって思うとかわいそうだし……心配だね……」

 

 ……心配だなんて、どの口が言っているんだろう……。世間一般では原因不明の山火事だとしても、私達の責任だった事実は消えやしない。特に、みんなと違って戦いもしなかった私は……。

 それでもそんな感情は胸の中に押し留めた。この場に相応しくない、表に出しちゃいけないものだから。だから心配しているって気持ちだけを前に出して、それ以外はいつも通りの私のつもりで……ぐんちゃんと接する。

 

「………そうね……」

 

 ……ぐんちゃんは、それだけしか言わなかった。ベッドに横たわって傾けたマットレスに背中を預けてはいるけれど、ずっと俯いていて視線は何も捉えてなんかいない。心ここに在らずといった感じだ……。

 腕に取り付けられている複数の点滴の管。その内の一つと繋がっている輸血パックは赤黒く、痛々しいイメージが拭いきれない。病院服の襟元から覗く右肩に巻かれている包帯も辛いけど、それよりも普段なら私に向けてくれる優しい微笑みが……意識が戻ってから、ほんの一瞬すらも無い事が悲しかった。

 

 ぐんちゃんの怪我は、手術したお医者さんによると肩の傷が全てらしい。その他にはどこも、精々倒れてしまった時にできたと思われる打ち身や擦り傷程度しか無いんだって。その肩の傷も、反対側まで貫通しているけど幸いにも関節や動脈への損傷は無くて、後遺症の心配もほとんど無いんだとか。

 ……ただ、いっぱい血を流しすぎたから衰弱している。いずれ空いた穴が塞がっても、ぐんちゃんの肩には一生その痛々しい傷痕は残る。しばらくは絶対安静……最低でも1ヶ月は入院してなくちゃいけない。当然その間、仮にバーテックスが攻めてきたとしてもぐんちゃんは戦えない。

 

「……ぐんちゃん、傷、痛い?」

「………薬が効いているから……今は、平気……」

「やってほしい事があったら何でも言ってね! ぐんちゃんの怪我が治るまでは私がぐんちゃんの手の代わりだよ!」

「……ありがとう」

「………」

 

 ……今日も、ぐんちゃんは笑ってくれない……。

 

 ふとそこで、外からこの病室の扉がノックされる。ここに来るのはぐんちゃんの容態を看に来た看護師さんか、ぐんちゃんを心配している他のみんなというわけで……。

 

「はい、どうぞ!」

「来たよ、友奈さん」

「おっす千景! 具合はどうだ?」

「お邪魔します、お見舞いに来ました」

「水都ちゃん! タマちゃん! アンちゃん! いらっしゃい!」

 

 思った通り、部屋にやって来たのは私達の大好きなお友達。ぐんちゃんを想うみんなの事が、改めて嬉しくて気持ちが朗らかになるのを感じた。私は。

 

「まどちゃんと歌野ちゃんは一緒じゃないの? 若葉ちゃん達はまだ時間がかかっているのかな」

「まどかはおばちゃん達と先にほむらのとこにいったぞ。たぶん二人で一緒に来るんじゃないか?」

「そっか。ホムちゃんは今日で退院だもんね」

 

 ホムちゃんはこの前の襲撃で切り札の精霊を発動させていた。この切り札っていうのは勇者にすっごい力を宿すから、その分身体にかかる負担も大きいらしい。実際に戦いが終わった後のホムちゃんはヘトヘトで、検査のために入院することになっていた。

 特に異常も無いみたいで無事にホムちゃんは退院できる。ぐんちゃんへのお見舞いと合わせて安心できる話題で嬉しかった。

 

「うたのんは遅刻だよ。急いでこっちに来ると思うけど」

「若葉さんとひなたさんも、もうこちらに向かって来ている頃とは思いますけど、ちょっと確認してみますね」

 

 襲撃が終わったばかりでバタバタとした、勇者としての忙しい仕事に一段落付いた今日のこのタイミングで集まってくれた。

 

「確認の前に……こちらお見舞いです。新鮮なフルーツ、早く怪我が良くなってほしくて」

「美味しそうな物をみんなでじっくり時間をかけて選んだんです」

「わぁ♪ 凄いねぐんちゃん! リンゴにバナナにみかん、おっきいメロン! フルーツの宝石箱みたい! ありがとうみんな♪」

「………」

 

 ……ぐんちゃんは表情一つ変えない。部屋に入った三人を見ると、すぐに顔を逸らして……。

 

「千景さん、元気……」

「………」

「……では、ないですよね……」

「千景! 早くその怪我治してくれよ! あの野郎にやられた怪我なんてさ!」

「………! ……暁美……ッ!」

「……っ!? ち、千景さん……?」

 

 タマちゃんがあの子の事を口にした瞬間、病室の空気がピリついた。今まで無反応だったぐんちゃんを中心に、なんだか重くて怖いプレッシャーが私達に走る。

 

 とても嫌な……冷たい殺気。それがぐんちゃんから……心がざわめく。

 そんな嫌な、ぐんちゃんらしくない感情は……

 

 

 

「千景さん、みんな、お待たせー」

「皆さんが郡さんのお見舞いに来ていると聞いて……」

「まどちゃん、ホムちゃんも!」

 

 

【───無価値な勇者が】

 

 

 理不尽に爆発する。

 

「暁美…ほむらァアアアアアッッ!!!!」

「えっ……ぐ、ぐんちゃん……!!?」

 

 この場にいる誰もがいきなりの事で体が反応しなかった。何が起こっているのか全然飲み込めなかった。こうなる意味がわからなかった……。

 

「があああああああああぁぁッッ!!!!」

 

 肩に酷い怪我を負ってたくさんの血を流して弱っているはずのぐんちゃんがベッドから飛び跳ねるように、新たに病室に入ろうとしたホムちゃんに飛びついた。

 

「っ!?」

「きゃあっ!? ……ち……千景さん!?」

 

 点滴のスタンドがぐんちゃんの動きに合わせて引っ張られて、ベッドに引っかかる……強引な勢いそのまま、ぐんちゃんの腕から一気に針が抜けて……。

 その針が抜けるのと同時にぐんちゃんの腕を引っかくように傷つけて、床に血が巻き散った……!

 

「え……えっ…!?」

「か…は…っ! こおり…さ……!」

 

 痛みを気にする素振りを見せない……。ホムちゃんを強く叩きつけるように床に押し倒して、その弾みでホムちゃんの眼鏡が落ちた。

 

「よくも……!! よくもぉおお!!!!」

 

 そのままホムちゃんの顔を見るぐんちゃんはまるで鬼の形相で……ホムちゃんじゃない、同じとしか思えないほどとても似ている違う人の顔を見ている。ぐんちゃんにとって、憎くて仕方ないその人に恨みを晴らすつもりでしかない。血が滴り落ちる握り締めた左手で叩きつけようと……

 

「だめぇーーっ!!!!」

「何やってんだお前ぇえええ!!!!」

 

 ようやく私達の身体が動いた。ホムちゃんの顔が殴られる前に、必死になって伸ばした手が間一髪でぐんちゃんの腕を掴めた。それと一緒にタマちゃんも後ろから羽交い締めしてホムちゃんから引き剥がそうと叫んでいた。

 

「離して……!! そいつを殺せない!!!!」

「やめて……!! やめてよぐんちゃん!!」

「離せえええええ!!!!」

「くっ……バ……バッキャローーッ!! そいつはほむらだ!! タマ達の仲間だ友達だ!! 暁美のヤツと間違えるなああああーーーッッ!!!!」

 

 それでもなお、ぐんちゃんは私とタマちゃんを振り解こうと暴れ出す。二人掛かりなのに、必死に叫んでいるのに、ぐんちゃんの爆発した感情は止まらない。

 

「けほっ、けほっ……っ!?」

 

 押し倒された背中の痛みと肺の中の空気を吐き出してしまったホムちゃんが苦しそうに咳き込む中、世界の動くスピードが遅くなったかのように感じる。手を掴んで、身体を引っ張って、それでぐんちゃんの暴走を止められると思ったら大間違いだった。

 

「ぅううう"う"う"!!!!」

 

 足が、うずくまるホムちゃんの顔面に迫って……

 

「あぐぁっ…!!」

「っ!!?」

 

 咄嗟に滑り込んで、ホムちゃんを庇うように割り込んだまどちゃんの背中を激しい勢いで蹴りつけた……。

 

「ぅ……ぁぁぁ……っ…!」

「まどかぁっ!!!!」

 

 病室の中にホムちゃんの悲痛な叫び声が響き渡る。痛みに呻くまどちゃんに必死の形相で声をかけ続けて、私も……みんなも……ホムちゃんの叫び声が耳に届く度に胸が苦しくて痛くて仕方がなかった……!

 

「ハァ……ハァ……ッ!!」

 

 なのに……なのに……! ぐんちゃんは変わらず、恐ろしく血走った目をホムちゃんに向け続けていた……! 私とタマちゃんを振り解こうとするのをやめようとしない……

 こんなぐんちゃん……誰だって見ていたいなんて思わない!!!!

 

「もう……いい加減にしてよ!!!!」

「……!」

 

 パァンって……乾いた音が聞こえた。ぐんちゃんの前に立ったアンちゃんが、ボロボロと涙をこぼしながらほっぺたを引っ叩いたんだ……。

 

 その音は、ビンタのジンジンとした痛みは、他の事を何も考えられなかったぐんちゃんの中にも響く。ホムちゃんしか……ううん、ここにはいないあの子だけを見ていたぐんちゃんの景色がようやく戻りかける。

 

「まどかさんを……ほむらさんを……何を……やっているんですか……!! 友奈さんが泣いているのが見えないんですか!? いい加減目を覚ましてよ!!!!」

「……たかしまさん…が……ないて……?」

 

 理解していないように、ゆっくりと腕に組み付いている私を向く。私にはぐんちゃんの今の表情がよく見えていない……溢れ出る涙が全然止まらないから……!

 

 やがてぐんちゃんは、辺りの様子も見渡したみたい……。沈黙がこの空間を支配して……

 

「……ぁ……ぇ……わたし……なにを……」

 

 震えた、ぐんちゃんの声だけが聞こえる。

 

「……だって…そこに……暁美……どこに……」

「……どこにもいませんよ……最初から……」

「………でも…わたし……つかまえて……けって……」

 

 ぐんちゃんの二つの目が、痛みで苦しそうにしているまどちゃんを捉えて、見開かれる。顔も真っ青になって、声だけだった震えがはっきりと身体の方にも現れた。

 

「……ぁ…ぁあ……! ちが…う……!」

「…………」

「 そんなつもり……わたし……! ごめん…なさ……ごめ……っ」

「!?」

「お、おいっ!!」

 

 ふらっと傾いたと思いきや、突然その場で膝から崩れ落ちる。タマちゃんも一緒だったから、倒れそうになるぐんちゃんを支える事ができた……。

 ただ、そのぐんちゃんの身体は赤黒く染まろうとしていた……今の今まで気づかなかった。私の服にも、タマちゃんの腕や身体にも、それが付いている。

 

 ぐんちゃんの意識は朦朧としていた。ずっとこぼれ落ちていたから……肩に空いた穴から……血が……。

 

「傷口が……!? ナ、ナースコール……!!」

 

 叫んだ水都ちゃんが行動に移るけど、もう私は何も考えることができなかった。

 

 堪えきれない、悲しさと後悔だけしか感じられない。あの時、私が間に合って二人を止められていればと思わずにはいられない。到着するまでに何があったのか、それは私はまだ知らないけど、そっくりなホムちゃんの姿を見ただけでこんな事になっちゃった……今、あの時に何があったのか、これだけは分かった……。

 

 ぐんちゃんは心を……プライドをズタズタにされたんだって……。




 次回 決戦乃木若葉
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