ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
神世紀5年 秋
風光明媚な日本庭園風の屋敷。しかし今は月明かりの光だけが、深夜の闇に包まれるこの屋敷を薄く照らしている。屋敷の中はそのおこぼれは通らず、無人の建物と何ら変わりない暗さを醸し出す。
否。無人ではない。この屋敷には紛れもなく、一人の若き家主が住んでいる。たった一人だけが住むには広大な建物ではあるが、その者は間違いなくこの屋敷の中にいた。
「………」
主の部屋の中にある人物は若く、凛々しい面影に幼さはもう無い。神秘的な装束を身に纏い、腰辺りにまで達する朱く麗しい長髪を結わえた、この屋敷の主その人だ。
そこにその人物は片膝を立てて屈み込むように座っている。時刻が夜更けにも関わらず、睡眠を取っていない。部屋の灯りも点いてはおらず、両の目は閉じられてはいるものの、それは今から休むためのものではない。
ただずっと、何かに両手を伸ばして翳していた。何時間も前から食べ物も飲み物も口には入れず、不休で一心不乱に、彼女にしか判らぬ行為に没頭していた。
やがて……
「……っ!!?」
永らく己の意識をそこに潜行させていた女が、両の目を見開いた。瞬間、彼女の全身からは滝のように汗が流れる。体力に自信があろうが、精神を荒々しく削り取った疲弊感は凄まじく、とても無視し押し通す事など出来やしない。
「ハァッ…ハァッ…ハァッ…ハァッ…!! うっ…クッ……っげほっ!! ゲホ…ッ…!!」
それだけではない。呼吸という生命にとって当たり前の行為すら、その手間を惜む程没頭していたのだ。片方の手は震えながらも床に付けて身体を支え、荒い息を繰り返しながらもう片方の手は胸元を強く押さえた。
心臓が激しく脈打っている。床に絶え間なく落ち続ける汗を見つめるしかなかった彼女は、ふと以前に参加した100キロにも及ぶウルトラマラソンにてレコード記録で完走した後の疲労感を思い出していた。今のこの全身を襲う虚脱感はあの時と似ている……と。
「……みえ……た……!」
その時と同じ、清々しい達成感までも。
「……見つ…けた、3つ目……!!」
疲労困憊ながら、彼女の表情は喜色満面に染まった。流れ落ちる汗を拭う事もせず、まるで宝でも見つけたかのように声を上げる。
しかし彼女はすぐに気を引き締め直した。遂に3つ……されど、まだ3つ。
「……次、早く……続けないと……!」
彼女はそう口にすると、再び正面に向かって震える両手を伸ばす。
硬いのか、柔いのか、熱いのか、冷たいのか……それらのどれにも属さない異質な感触が、その手に伝わる。
目の前の闇に、瞳を合わせる。
カッ
刹那、静寂な空間に微かな音が。
部屋の襖が開かれる。それと同時に部屋の中へ飛び込んでくる一つの影があった。疾風の如く駆け抜け、一気に彼女の背後にまで距離を詰めるのは、招かねざる客だった。
だが、それに構わずに彼女は振り返る事もせず。
乱入者は声を発する代わりに、鞘から刀を走らせた。
乱入者の内側は穏やかなる静にして、外側では迸る激動。心は極めて冷静に、対象を屠る事に一切の躊躇が無い白刃が彼女の背後から振り下ろされる。
「時間が無いの」
その瞬間、女は身を少し屈め、強烈な力と目にも留まらぬスピードを以て床を蹴る。その反動は屈み込んだ体制のままだった彼女を瞬時に反転する。
こうして彼女の正面に映るは振り下ろされる過程の透き通る刃。瞬きをするよりも圧倒的に速い、ほんの極僅かな一瞬で襲撃者の正体に気づいた彼女の目には、はっきりとした一つの感情が浮かび上がる。
「邪魔しないでくれるかな?」
数年前から変わることがない、たった一つの固定化された感情。
故に彼女は少したりとも動揺することがなく、真っ直ぐ、岩をも砕かんとする鍛え抜かれた拳を正面から突き出した。
ガキン!
音を置き去りする鋭い拳は、彼女を無視して対象を滅するべく振り下ろされる真剣に迷い無く炸裂する。瞬時に刀身全体にヒビが入り、なお止まらない拳はそのまま打ち抜き、白き刃を正面から叩き折った。
それだけには留まらない……間髪入れず、反対側の拳も迷いなく目の前の人物に放つ。武器を砕いた一撃と同じものを、無防備な襲撃者のその胴に……。
「ッ!」
拳が胴に打ち込まれるよりも早く、その身体は軽やかに真後ろに跳び後退る。常人ならざる突出した反射神経と身体能力が織り成す反応は神速の拳を回避し、両者の距離を数メートル空ける。
拳は空振り固まり、相手の両足が床に着いた時、パラパラと細かい破片が落ちる音と、折れたばかりの刀身が落ちて甲高い音のみが鳴り響いた。どちらとも口を開かないまま、たった一瞬の内の攻防で生じた音だけが流れる。
その無言も、すぐに止む……最初に口を開くのは、彼女の方。
「こんな夜遅くにうちに遊びに来るなんて聞いてないよ?」
傷ついた拳から赤い鮮血が滴り落ちるのを意識の外に流し、彼女は無断で屋敷に入り込んだ乱入者に語りかける。
暗闇の中で月の光のみが空間を照らす。悲しみに彩られた彼女の眼差しが、深い哀れみに包まれた隻眼の襲撃者の眼差しと交差しながら……
「若葉ちゃん」
かつての友に。
「友奈……」
その人物もまた女性であった。左目は眼帯で覆い隠されている。その眼帯を以っても隠しきれていない、額から眼帯の真下、そして頬にかけての大きな傷跡がはっきりと主張している。それでもなお風格と気品のある、端正な顔立ちの美女だった。
残された彼女の右の瞳はどうしようもない憂いを帯びている。目の前にいる人物に向けられる感情の正体はまさしくこれに他ならない……
だが、憂いの中にはもう一つの異なる、憤怒の炎が揺らめいていた。それのみは間近にいるかつての友に向けられるものに非ず。
暗闇と同化している漆黒の気配。若葉と呼ばれたその剣士は折られた日本刀を投げ捨てると、腰に下げたもう一太刀の刀を抜き、闇の中へとその切っ先を突きつけた。
「そいつから…離れるんだ……友奈!」
「…………」
若葉と呼ばれた女性は悲痛に叫ぶが、女は……高嶋友奈は一切意に介さない。
「その感じ、それって……懐かしい物を持ってきたね。若葉ちゃんの生大刀、見るの久しぶりだよ」
「……妙な感覚を覚えてよもやと思って携帯してきた。勘が外れてほしかったが、当たりのようだ……!」
「私も護身用に天逆手を持ってくれば良かったかな? 流石に刀を殴るのはこっちだって痛いし…………およ?」
そこまで言ったところで高嶋友奈の動きが止まった。何か大事な事を忘れているような……彼女の顔にはそのような言葉が描かれていた。
どこか間の抜けた表情のまま、握り締めたままの拳をそっと、ゆっくり、慎重に、上に上げる。
ポタポタ……ポタポタ……真っ赤に染まりきった彼女の手がある。縦に裂けた刀傷からは絶え間なく鮮血が流れ、床に落ち続けていた。
「って、手ぇええええ!! 痛たたたたた痛い痛い痛いっ!? 思ったよりざっくり切れてるかもコレぇ!?」
「お、おい大丈夫か……!?」
剣技の達人が振り下ろした刀を、格闘技の分野の達人がとはいえ素手で殴ったのだ。その結果が刀と拳、お互いの武器が両方破損した。刀という道具と素手という己が肉体……後者は誰がどう見ても大怪我。重症である。
(くっ、私としたことが……! 骨まで断ってはいないはずだが、元々友奈を傷付けるはずではなかったのに……!)
乃木若葉とて、理由あって冷静を保ったままこの場に現ることはできなかった。その上高嶋友奈ではない
とはいえこれは乃木若葉にとって、決してあってはならない事故。目的の対象も排除できていない今、目の前の友の傷との二つで焦りが芽生える……が、
「っ!!?」
突如、傷付いた友奈の拳が淡い光に包まれた。そして光の内側で、傷口が再生を始めた。それも普通では考えられない速度で。
少しずつ裂けた肉は塞がり始め、流れる血液は止まる。やがては一筋の傷跡と既に外に出てしまった血だけが残される。
「う~……怪我が治せなかったらしばらく仕事ができなかったよぉ、も~」
「………!」
拳を軽く振りながら、友奈は涙目涙声で文句を口にした。それだけの反応だった。
対する若葉は呆然としたままで、何も言えずにいた。数秒は。
目の前で友奈の身に起こった傷の高速治癒、超常現象。それを認識してしまえば、若葉の身を焦がし突き動かす炎は再燃する。
なぜなら若葉がここへ乗り込んで来た理由はただ一つ……かつて若葉から、唯一無二の友を奪い去ったとある物を抹消する事。
そしてたった今、高嶋友奈はその存在が確かであることを証明する証となる力を、若葉の目の前で惜しげもなく使用した。
高嶋友奈が所持している、全てが未知なる物質。彼女を……異質な存在へと変えた物……
「変異システムの力か……!」
「その名前、あまり好きじゃないんだけど……」
まあその通りなんだけどね……と、友奈は暗闇の中で苦笑した。
その言葉を聞いた若葉の顔は険しさを増し、刀の柄を強く握り締めたまま懐からある物を取り出した。
「それは……」
「お前とは争いたくはない……だが!」
一見すると、普通の携帯電話……だがそれが普通の携帯電話ではないことは若葉も友奈も、この世の誰よりも深く熟知している。
勇者システム。かつて二人を神の使いの怪物に立ち向かえる程の超人的な力を与える兵装を纏わせる、人類の切り札。若葉は数年の時を経て再びその力を、怪物にではなく目の前の女に行使することを友奈に突き付けていた。
「これ以上失ってしまわないためなら何だってしよう……迷う理由など私には無い!」
「…………」
頼むから退いてくれ……そのような想いで見せつけた若葉の勇者システムは、
「……変身できるの?」
「……っ」
「もうできないんじゃないかな? 若葉ちゃんは」
使えないと。既に確信を持っていた友奈の感情を揺さぶることなど到底不可能だった。
「前に
「………ああ。勇者の力を我々が宿せたのは、この身が穢れの無い無垢な少女だったからだ……。大人へと変わってしまった身には神樹の力は……宿せない」
「……単純に産まれた日が半年以上私よりも先の若葉ちゃんなら、その分私よりも早く大人になってる……でしょ?」
表情こそは、若葉もよく知る彼女が気の置ける友人と接する時と全く同じ、優しく温和な微笑みだ。しかし、その裏にはどうしようもない喪失感による諦めと無念、無力感を大きく孕んでいる……若葉もそれを悟り、また自身もまったく同じものを強く感じ、無意識のうちに視線がやや下がってしまう。
「そりゃあ成長には個人差があるけど、少なくとも私はそう考えたんだ。……それで、どうなの?」
「…………その通りだ。私の勇者としての力は……もう、一滴たりとも残されていない」
「……ほらね」
直後若葉は手にしていた切り札……否、かつての切り札と同じ形をしているだけにすぎない携帯を手放した。床に落ちたのは、この場では役に立たないただの機械……。もうこのシステムに縋っても、彼女の身には何も起きないのだから。
「……仲直りもまだなのに、これ以上若葉ちゃんと喧嘩するのはもうたくさん……」
「…………」
「……帰ってくれないかな? 本当私、時間が無いんだから」
若葉はかつての勇者としての力を失っている……一方で友奈は、この時点ではまだ失ってはいない。その証として彼女はこの時も纏っているのだ。6年前と同じ、超人的な力を与える勇者装束を。
口調は穏やかなままだが、威圧感が存分に含まれている言葉を浴びせる。大人しく立ち去る気が無いなら力尽くでも構わないと、暗に言い放っている。
彼女の神器の手甲こそは無くても、その身体能力は神の加護を受けている。若葉の望んだ結果ではなくとも、先ほど友奈の拳を斬れたのだって友奈が既に疲労困憊の身の上で先手を取れたからに他ならない。疲労のアドバンテージを踏まえても、若葉も知りえぬ謎の力を有した勇者で手加減する気も皆無の様子の友奈と普通に戦ったところで、神器の本来の力も発揮できない若葉に勝機は薄いと言えよう。
ただ、空いた手は今度は刀の柄を握り締めた。元の手もそのまま、彼女は死線を潜り抜けた相棒の神器を両手で持ち、戦闘の構えをより強固に仕立て上げていた。
「例え勇者の力を失っていようとも退くつもりはない!」
「…………」
「言ったはずだ。私に迷う理由など無いと!!」
「……うん……若葉ちゃんなら、そう言うだろうなぁって思ってた」
友奈は笑った。まっすぐな若葉の表情は、決意は、まぎれもなく彼女、乃木若葉の物だ。高嶋友奈が全幅の信頼を寄せた、彼女にとっても心強くて、いつだって勇気で胸を高鳴らせてくれた物だった……だから、このような場でもどうしても、嬉しいという感情は呼応してしまう。
こんなことになってもお互いを信頼し合う絆は、深く無数に傷ついてしまっていても、砕けはしない。決して。
「…………悔しい…なぁ……」
……お互い一生、二度と分かり合えない想いを抱えていても、砕け散る事だけはない絆。
嬉しいが、悔しい。辛い。悲しい。憎い。
「若葉ちゃんはさ、私が今何をしようとしているのか分かってて言ってるの?」
「なに……?」
確信を持ちながらそう言うと、友奈は刀を構えたままの若葉に背中を向けた。
代わりに向き直った先に見るのは……黒く蠢く、不気味な影。辛うじて人型を形どる、友奈によって呼び出された異形の存在……
「何も分かってないでしょ。ただこれが怪しいからって理由だけで私の邪魔をしないでよ」
「だが……それは…! 私達を……!」
「迷惑なんだよ」
「……っ!?」
たった一言、そこに込められていた想いを若葉は何度浴びせられてきたことだろう……。
深い深い、友奈から若葉に向けられる、失望と諦念を……。
……どうしてこんなことに……若葉はそう思わざるを得なかった。これまでに何千回、何万回と、同じことを思った。
しかし、ただ強く思うだけでそう都合良く片付くことなどありはしない。行動に起こすことだって何十、何百と……それでもその溝が元に埋まることなど……なかった。
若葉は……
「……だったら教えてくれ……お前は何をしようとしているんだ!! このままお前がよく分からないものによって破滅する様を眺めていろとでも言うつもりか!!?」
友奈は……
「…………何度も……」
「何度も何度も何度も何度も!!!!何度も何度も何度も何度も!!!!若葉ちゃんには全部話した!!!! その度に全部否定したのは!!!!何も信じなかったのは!!!!若葉ちゃんじゃない!!!!!!」
「くっ……!?」
絶交してしまった二人には……
これまでにも幾度も浴びせられた友奈の叫び……何度目なのかは、もう二人にも分からない。
だが、回数は関係ない。苦しい……初めてぶつけられた時と変わらない、身を引き裂かれるのに等しい痛みは幾度となく、二人を傷つける。
堪える事が厳しい痛みに、若葉の右目に涙が滲む。決して慣れない苦しみに手が震える。
「私達は……あの戦いで生き残った僅かな仲間なんだぞ……! 何故あの日々のように私達は笑い合えていないんだ……!!」
声が嗚咽に塗れ、上手く声を張り上げられずに膝が折れかける。それでも若葉は、今にも崩れそうな自分と必死に戦いながら友を……高嶋友奈を見ている。
「何故なんだ!! 何故我々は今いがみ合っている!? 散って逝ったあいつらの誰が……誰がこの現状を望んでいると言うんだ!!?」
「……誰も望んでなんかないよ」
二人の心には、その目には焼き付いている。大切な絆で結ばれた勇者としての時間を……
「私も、若葉ちゃんも、ヒナちゃんも」
苦しいを、嬉しいを共有できていた輝かしい日々の記憶と光景が今もこびりついているから……
「ぐんちゃんも、タマちゃんも、アンちゃんも」
尚更……
「歌野ちゃんも、水都ちゃんも」
「っ!?」
だから、分かり合えない。
「まどちゃんも──」
「やめろ!!」
その名が友奈の口から出る前に、激しい怒りの形相で叫び遮られる。
若葉の手が、無意識に彼女の失われた左目があった箇所を抑え……言った。
「その名を……出すな……!!」
「…………」
複雑な感情は後ろを向く友奈の背中に掛けられた。友奈はそれに何も返さない。反応もしない。
「……そうだね」
判り切っていた事だったから……今の若葉の、この反応全てが。故に今の彼女の表情は何も変わってなどいなかった。
「……なら、この話も終わりだよ」
「っ、待…」
直後、この部屋全体に乾いた破裂音が響き渡った。若葉の意識は一瞬途切れ……
「ゆう………」
気が付いた時、目の前には友奈の姿も、おどろおどろしい異形の姿も消え去っていた。
「な…………くそっ…」
跡形もなく、まるで最初から彼女達がここにはいなかったのかのように……。
もちろんそのような間違いだったわけがない。ここには友奈に折られた刀とその欠片、そして床には飛び散った友奈の血が残されている。
逃がしてしまっただけだ。摩訶不思議な力を行使した友奈が容易く若葉から離れた……若葉が仕留めたかった異形を引き連れて。
何もできなかった。またいつものように苦しんだだけで終わった。そう認識すると若葉はその場にへたり込み、深く項垂れた。
強く顔を抑え、今の彼女にできることはただ一つ、嘆くことだけ……
「…………教えてくれ……私はどうすれば……どうすればお前を……」
縋るように、自身が忌み嫌う者の名を呼ぶ。
「答えろ…………鹿目ほむら」
◆◆◆◆◆
乃木若葉から逃げた高嶋友奈はその後、誰の手も届かない空にいた。闇夜に隠れ、そこに人がいることなど誰にも分からないだろうが……市内の空中を羽ばたく2羽の漆黒の怪鳥、その片方の背に座っているのがこの世の誰もが知る高嶋友奈その人である。
「……このままここで野宿になるのかな? ああいや、野宿じゃなくてこれじゃあ空宿か! ……なーんて♪」
などと無邪気に冗談を口にしているあたり、平常を取り繕おうとしているのだろう。
若葉との口論の後はいつもこうだ……お互い深く傷つくだけなのに、何度も何度も互いに期待してぶつかり合う。そしてやっぱり駄目だったと、深く落ち込んでしまう。
こうも心の中がモヤモヤしていれば、彼女がやろうとしていたことも間違いなくうまくいかないまま、限界ギリギリの体力と精神力を削り切るだけだろう……そう思い隣を飛ぶ怪鳥の背に座る影を一目見て、残念そうに息を零した。
「……茉莉さんか亜紗さん、今の時間から泊めてくれるかな……」
迷惑を掛けることは明らかだろうが、友奈は数少ない友達を頼ろうかと鳥達の進行方向を隣の県に変える。冷たい夜の風が、癒えない彼女の傷をなぞりながら……