ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である 作:I-ZAKKU
この場にいるのは巫女三人と、勇者三人……。手術室前で項垂れているだけじゃ何もできないから、彼女たちの無事だけを祈って若葉さんの病室に集まった。当然その場も途端に重苦しい空気が充満してしまうけど、杏さんと球子さん、友奈さんの近くじゃないだけ暗い雰囲気を当ててしまわない分マシなのかも……
「……あの、千景さんは…?」
「精神を病んでいる今の千景さんに友奈さんが負傷したと伝えるのは、あまりにも……。遅かれ早かれ、気づかれることになるとは思いますが……」
「……これから一体、どうなってしまうんでしょう……」
「……私だって、どうなるのかなんて何も、分かりませんよ……」
若葉さんと千景さんのお見舞いに病院に来ていた私とひなたさんが三回目となるバーテックスの四国襲撃があった事を知ったの同時に聞かされた、衝撃的な出来事。その時の私の頭の中は一瞬真っ白になって何も考えられなくなってしまって、その後病院に到着した救急車から運ばれた彼女達の姿を一周回って呆然と見つめていたような気がする……。
ショックは大きかった……大きくないわけがないから。球子さんが、杏さんが、友奈さんが…三人が最後に会った時とは違うとても痛々しい姿になっていて……。親しい人たちが、私とうたのんを優しく笑顔で受け入れてくれた仲間が、そんな目に遭わされて……平気なはずがないから……。心臓を直接鷲掴みにされたように呼吸をすることを忘れてしまったくらいだから……。
「……こんなのって、ないよ…」
「まどかさん……」
「……わたし、直前まで球子ちゃんと杏ちゃんと一緒に…いたんだよ……。球子ちゃん、杏ちゃんを守るんだって……そう言って元気付けてた……なのに…! 二人とも……友奈ちゃんもこんな……こんなのって!!」
手術室に運ばれて行った彼女たちの姿を見送ることしか出来ないで……。戦いが終わった後のみんなとすぐに合流し、一緒に救急車に乗って病院に来たまどかさんもずっと泣いていて……。
「く……そぉッ!!!!」
直後、壁際の方で拳を叩き付けたかのような音を聞いた。声の主の方を見ると、怒りに満ちた表情を浮かべている若葉さんが……その拳を壁に押し当てていた。
その右目には涙が浮かんでいて……悔しくて堪らないという気持ちがありありと伝わってくる。
「若葉さん! まだ怪我は癒えてないのにそんなこと……!」
「……私、が……居ない、ところで、あいつら…が……!」
壁に叩きつけられた、包帯に巻かれたままの若葉さんの拳。決闘があった日から時間が経っているから、少しなら動けるまでに回復してはいるけど完治にはまだほど遠い身体。
折れた歯、傷ついた咥内から紡がれる声だってどれも掠れて……激情のまま強烈に壁を殴ったせいで悪化しない方が変……。だけど戦闘に出られなかった若葉さんの怒りや悔しさは、とてつもなく大きいもので……続きは何も、言えなかった。
「……いったい、今回の襲撃で何があったのですか……?」
そんな中、ひなたさんはどうにか動揺を抑えようとしながら説明を求める。事情を知っている、樹海で戦っていたうたのんとほむらさんに。
「三人があのようになるなど、今回のバーテックスはそれほどまでに強力だったのか……それとも……」
「……ごめんなさい……」
「ほむら…ちゃん?」
「……悔やんでも、悔やみきれないわ……」
「うたのん?」
二人の言葉は何故か謝罪から始まる。そしてそれは後悔に満ちていて……。
私たちは、今回の襲撃で樹海で起こったことを全部聞いた……。
「………っ!?」
「……なんで……なんでまたこんな酷いことばかり!?」
「……また……暁美さんが……」
「………………れ……」
暁美さんが今回は三人を殺そうとしたんだって……聞いてしまった……。
ひなたさんは驚きのあまり絶句してしまって、まどかさんは悲痛な声で嘆く。若葉さんは……俯いていて顔はよく見えない。なんて言っているのかも……ただ、小刻みに肩が震えている。
……私は……話が進んでいく中で、頭の中が今度は真っ黒に塗り潰されてしまう。何も考えたくなくなってしまうくらい…。怒りとか悲しみとかそういう感情で、頭がおかしくなりそうになる……。でも、悲しみだけは一際胸を締め上げていく……。かつて期待して、信頼していた分、それが次々に裏切られている現状がひどく辛くて……。
暁美さんのこと……うたのんを助けてくれたあの人の事、信じたかった……。だって、どうしても忘れることなんてできなかったんだから……あの日私達が二度も失われながらも取り戻してくれた、光り輝いて見えた希望は……。みんなの心の底から涙と一緒に沸き上がった、とても温かな気持ちは……。
なのに今は、こんなにも胸が苦しい。痛くて苦しくてたまらない……。嘘としても思いたくもない冷たい瞳と言葉を置いて私達の元から離れていって、球子さんをあしらって、千景さんを、若葉さんを……時間が流れるにつれてその痛みは増していくばかり……。
そして……今日……。
……私には……もう、無理だよ……。怖いよ……。
「……ほむらさん、歌野さん……そこに」
報告が終わって静まり返るこの場に、ひなたさんの声が響いた。話を聞いてからというもの、ひなたさんの肩は僅かに震えている。聞こえた声も普段とは少しだけ感情が漏れていたように、どこかいつもと違っていた。
「上里…さん」
「……少々、お預かりします」
話す事も辛かったのは傍から見ているだけでも分かるほどに、ほむらさんの顔色は悪くて……。そんなほむらさんの前に近寄ったひなたさんは、そっと彼女の顔に手を伸ばすと、了承を得る前に彼女の眼鏡を手に取った。
「え、あの」
パンッ!!
次の瞬間、乾いた音が響き渡る。突然の事に何も理解できない私たちの前で、ひなたさんは手を振り抜いた姿勢のまま固まってしまっていた。
誰もがひなたさんがほむらさんを叩いたことに気付いたのは、その音が聞こえてから数秒経った後だった。
「ひなたさ…」
「……ッ!!」
パァンッ!!
うたのんの呼びかけよりも早く、もう一度振り抜かれたひなたさんの手。それが今度はうたのんのほっぺたを強く叩く。
驚きながらも呆然としている私たち……。その中でただ一人、叩いた本人であるひなたさんだけが、はっきりとした怒りを露わに、わなわなと手を震わせながら口を開く。
「御自分達が何をしたのか……解っているのですか……!?」
「「…………」」
「バーテックスを目の前に、うどんと蕎麦で口論…!? それを爆破されたから、若葉ちゃんの件を忘れて絡んでブーイング!!?」
いつもお淑やかなひなたさんが心からの激情を露に、叫んでいた。
「どれだけ迂闊な……! どれだけ愚かな……! その無責任の極み、自分勝手な言動がどのような結果を齎すのか、考えもしなかったとでも言うのですか!!!!」
「「…………は…い……」」
「はい、じゃあ……ないでしょう!!!?」
うたのんとほむらさん、この場にはいないけど球子さんに対してとても大きな不満を一切隠すことなくぶつけていく。
確かに……私にはあまりにもショックが大きくて、今になって何が大きな問題だったのかをようやく気づかされた。最初に杏さんに爆弾を投げつけられたっていう話だったけど、その原因はうどんと蕎麦。そこからうたのん達が我を忘れて取り乱してしまったからだってことに……。
うたのんの蕎麦に対する熱意と拘り、ほむらさんと球子さんがうどんには目が無くてのめり込まずにはいられない性分であることは、私たちみんなが熟知していることではある。だけど、今回の事は場を弁えずにそれで暴走してしまったせいで致命的なミスを犯してしまった……。何も非が無い杏さんを巻き込んで、連鎖的に友奈さんをも巻き込んで……だから、ひなたさんのこの反応は当然なんだと思う……。
「ひ、ひなたちゃん……その……気持ちはわかるけど……二人だってずっと後悔して…」
ひなたさんがうたのんとほむらさんを責める光景なんて心苦しいだけ。それに病院に来る前からずっと思い詰めている様子だったから……。二人はひなたさんに言われるまでもなく、迂闊な行動だったことを理解している。
「私だって、傷ついた貴女達を責めたいわけではありません! 本当に悪いのは疑うまでもなくあの方ですから………ただ、ただ……!」
「「「「……」」」」
それでもひなたさんは二人に言わなければいけなかった……。私とまどかさんがショックを受けて言うことができないんだったら、彼女が私達の分まで背負う必要があったから……。仲間を想う心があるからこそ、目を背けてはいけない話だったんだから……。
「……何を……馬鹿なことを、やっているのですか……!」
ひなたさんの泣きそうな声に、うたのんとほむらさんは何も言い返すことが出来ない。他ならない、行動を起こした暁美さん自身から二人は自分たちのせいだって責任をぶつけられている。馬鹿なことをしたんだってとっくに後悔の念に押しつぶされていた。そこからどうしてもひなたさんが言わずにはいられない想いから改めてその過ちを突き付けられて、堪えるように唇を噛み締めていた。
「……私、伊予島さんになんて謝れば……!」
「……ミー…トゥー……」
後悔一色に彩られた雫が一滴、ほむらさんの頬を流れ落ちる。それを見たうたのんも表情により深い影を落とし、罪悪感が一層強くなったみたいで……。
「……少なくとも、二人は当分の間、うどんと蕎麦を食べる資格が無いことは確かです」
「「そんなッ!?!?!?」」
二人の打ちのめされた後の暗い表情が、一瞬で絶望感でいっぱいの真っ青なものになって…………はあ?
「うたのん?」
「ほむらちゃん?」
「「ひぃっ!?!?!?」」
「……何ですか、たった今の顔は!!? うどんと蕎麦を蔑ろにされたがために杏さんの命を危険に晒した方々には当然の報いでしょう!!!!」
「「…………ごもっとも…です……」」
……流石にこの反応は、私とまどかさんも何を言っているのって怒りが顔を出した。二人と土居さん、今回は悪くないけど若葉さん……彼女たちのうどんと蕎麦への愛情は度が過ぎてる!!
「杏さんが心身共に回復するまで、うどんと蕎麦を食べる事を固く禁じます!! 良いですね!!?」
「「……はい……」」
有無を言わせないひなたさんのその宣言を、二人は受け入れるしかない。そうじゃなきゃ、今度は私達も許せない……。
……だけど、問題を起こした二人に今罰を与えても、良いことがあったり誰かが報われることは無いんだ……。
むしろ内容があんなのだとしても、二人を激しく糾弾してしまったんだから、最悪な空気としか言いようがない。誰も何も言えなくなってしまって、重苦しい沈黙がこの場を支配する。
無音が支配する……誰もがそう思った。
「…………の……れ……」
実際には、違った。私達の中で沈黙が生まれたことによって、その呟きが私達の耳に届くようになったんだから……。
今までずっと埋もれていた、蚊の鳴くような小さな呟き。でもその中に含まれていた感情は……
「……おの……れ……!」
怒りは、憎しみは、憎悪は……全てを押し潰さんばかりの激情に満ちていて……
「おの…れ……おのれ……おのれぇええええええッッ!!!!」
「っ!?」
まるで呪われた怨霊のような、血を吐くように絞り出された怒声が、静まり返った室内に響き渡る。
「暁美ィィィィイイイイイイイイイッッ!!!!!!」
「ひっ…!?」
若葉さんが立ち上がって叫び出した。とても若葉さんとは思えないほどの怒号を上げて、暁美さんへの恨みを吐き出す。普段の若葉さんからは想像もできない姿だ。強い憎しみを抱いて、今にもその憎しみを爆発させてしまいそうな危険な様子で……。
「うあああぁああああ!!!!!!」
そのまま若葉さんは外に飛び出そうと駆け出そうと……いけない!!
「だめ!!若葉さん!!!」
あれは若葉さん、自分の今の状態なんかお構いなしで暁美さんに復讐する気だ!!
「っ、若葉!!」
私の声に反応したのか、話していた間ずっと落ち込んでいた様子だったうたのんが顔を上げるのと同時に部屋の出入り口の前に立ち塞がってくれた。
うたのんはまだ勇者システムも持っていないからってのもあるけど、バーテックスの襲撃みたいな緊急事態にいつでも対応できるようにって、ここ最近勇者装束を着込んだまま生活している。
今もうたのんの着ているジャージの下には勇者装束が。身体能力は勇者の力そのままって事で、難なく若葉さんを受け止めることができた。
「離せ!!歌野ぉおお!!!!」
だけど、若葉さんはうたのんを振り払おうとして暴れ出す。炎のように荒い真っ赤な怒りに飲まれて、何も周りを見ることができずにいたから……。
「くっ…! 言ったでしょ!! 今度暁美さんにちょっかい出したら、今度は巫女から殺す気だって!! 何のプランも無くて飛び込んで……あなた、自分だけじゃなくてひなたさん達三人を殺すつもり!!?」
「……っ!?」
「アングリーはオフコース……だけど、ふざけるんじゃないわよ!!」
「歌野……」
「……私達が悪かったから……もうこれ以上は……! 勘弁してよ……!」
振り絞るように言われたうたのんの言葉を聞いて、ハッと我に返ったように若葉さんの抵抗が弱まる。うたのんの声は、とても苦しそう……心の中ではいっぱい泣いちゃってるかのような悲壮感に溢れているように感じられたから……。
「………違うぞ、歌野……悪いのは…お前達では…ない……」
「…んなわけ……」
「諸悪の根源…なんぞ…全て………ぁ、く…!」
「!? 若葉!」
「若葉さん!? しっかり!」
突然目の前で若葉さんが崩れ落ちるように倒れかけた。咄嵯に駆け寄って体を支えた……やっぱり、体中がボロボロの若葉さんにとって、今の行動は全身にかなり無理があったようで……苦しそうに、必死に再発した激痛を堪えている。
「わたし、看護師さん呼んでくる…!」
そう言ってまどかさんが部屋から出て行こうとした。でも、それを遮るように伸ばされた腕がまどかさんの足を止める。
「……いや、いい……大丈夫だ……」
「若葉ちゃん……」
痛みが混じった声色ではあるけれど、若葉さんは私の肩を借りようとして……その意図を汲み取れて、一緒に立ち上がった。そんな若葉さんの表情は辛そうではあるけれど、意識ははっきりとしていて……一応自分の足で歩けるくらいには問題なさそうな感じ……。
「……若葉ちゃん。今はとにかく…体を労わってください」
「そうですよ、若葉さん……。今は若葉さんの体だって、みんなが心配しているんですから……」
「……あぁ」
ゆったりとした足取りで椅子に座った若葉さんの傍に、ひなたさんと一緒に寄り添う。さっきまであんなに荒れ狂っていた若葉さんも、少しだけ落ち着いてくれたみたいで……
「……ゆる…さん……! 決して……!」
「若葉…さん……」
……そんなこと、あるわけがない。仲間を殺されかけて、私達巫女に危害を加えると脅して、若葉さんが許せるはずがないから。
今下手なことをするのは良くないから、動くのをやめただけ。若葉さんにできることはただ一つ……蓄えるしかなかった。憎悪と殺意に塗れた怨念を宿したまま……それを―――
「必ず報いを……貴様に……貴様だけは……!
若葉さんの心の中に激しい怒りの炎が燃え盛っている。それはきっと、消えることは無いのだろう……と、そう思ってしまう程に、深い憎悪の業火に彩られていた……。
◇◇◇◇◆
三人の手術は終わった……。
三人とも命は助かった……それだけはいい事だけど。術後、運ばれて行った病室にみんなで足を踏み入れる。
三番目に入った彼女の病室に特に重い足取りで……ベッドの上に横たわる彼女に、こっちが知っていて向こうがまだ知らないことを伝えに行く。
「……アンちゃんもタマちゃんも……まだ意識が戻らないんだね……」
「……うん」
悲しげに、話を聞いた友奈さんはそう言った。友奈さんの負傷は打撲が数ヶ所と肋骨を3本骨折。鎮痛剤や術後の発熱のせいで意識がぼんやりとしていたけど目を覚ましていた。
だけど杏さんは腕と顔に、焼け爛れるような火傷を負った。爆炎が彼女の左目までを焼かなかったのは奇跡としか言いようがないほど大きな範囲を……。
友奈さんの病室に入る前、私達は最初に杏さんの病室を見に行った……。そこには……私達の知る姿とは似ても似つかない変わり果てた姿の彼女がいたから……。包帯に包まれた顔と左腕。お医者さんが言うには今後再生しない火傷がその内側にある。痛々しいその姿に、みんな涙を堪えられなかった……。
そしてその次に入った球子さんの病室……彼女も、樹海で大量の血を流してしまった。左足を貫かれて全身を激しく打ち付けていて、両方の手の平も鋭利な刃物が食い込んだかのように裂けていた。
それに……数センチ、頭が割れていた……って。
「……私がもっと早く動けていたら、もっとしっかりしていたら……タマちゃんはもう少しはマシだったのかな……」
「高嶋さんは、あの場で誰よりも立派で正しい行いをしていました……。本当に……」
傷だけで見れば、球子さんが一番危険だった。大怪我を負ってなお、球子さんは杏さんを傷つけられた憎悪に突き動かされた。友奈さんが止めに行くのが遅かったら、仮に暁美さんに止めを刺されなかったとしても死んでいたかもしれない。それでもやっぱり、意識は戻っていない……いつ目覚めるかは、わからない……。
それに、球子さんの神器は壊されてしまった。今は大社に回収されて、どうにかして修復できないか専門のチームに預けられたけど、私もその時に一目見たけど、ボロボロだった…。きっと元通りに戻る可能性はかなり低い……。
今後の球子さんの回復と勇者として復帰できるかどうか、みんな締め付けるような胸の痛みを堪えるしかなかった。
「……でもさ、結局私、肝心な所で失敗したし……ホムちゃんが牽制してなかったら、今頃……」
「下手を打ったのも全部私達が……悪いのは、私の方なんですよ……!」
「二人とも、やめろ。自分を、責めるな」
「「…………」」
どんなに辛く後悔するしかないとしても、過ぎ去ってしまった過去はやり直せない。それが取り返しのつく失敗じゃなくて取り返せもしない致命的なもの。だからそれを悔いるのは当然だけど、そればかりにとらわれてはいけないって思うのに、誰もこの絶望を振り払えない。
「……だけど、こうして友奈ちゃんが無事に……とは言えないけど、ちゃんと生きていてくれているのは本当によかった……」
……でも少しだけ、一瞬だけ薄めることなら……そう思ったのか、まどかさんがしみじみと呟く。
「そうそう! 友奈さんは言わずもがなだけど球子さんのレスキューと暁美さん相手にサバイブできた時点で。ほむらさんは二人の応急処置とラスト油断しないでディフェンスの要になって守ってくれて、二人は文句なしのグッジョブだから! 鹿目だけに!」
「…………うたのんはさあ……」
「まあ、気が抜けるようなダジャレが今は有難い……かな?」
うたのんの相変わらずの酷いフォローに、みんなは微妙な苦笑いを浮かべている。それでもまどかさんが言った、友奈さんはちゃんと生きている……死んでいない。それは杏さんや球子さん、ほむらさんにうたのん。みんなの命が失われずにここに。
……暁美さんはみんなの事を居ないものとして扱う……今回のことはもう終わって、掘り返してみんなが襲われる事はたぶん無い。
たくさん傷付いた……身も心も……。今回のことがあったんだから、こっちももう誰も暁美さんに関わろうとする人は居ないはず……。こんな悲劇は訪れない…………
『藤森さんね。私は別にテレビを盗もうとしたわけじゃないのよ。本当よ?』
『どういたしまして。といっても、勇者として当然の事をしたまでよ』
『ここの人々を助ける方法……それを見つける前に自分勝手にここから去ったら、私は大切な人達に合わせる顔がない』
『なせば大抵なんとかなるものよ。できる限りの事は協力するわ』
『白鳥さんと藤森さん、本当に仲が良いのね』
……もう、二度と……。
『……おめでとう、白鳥さん、藤森さん』
誰も関わらなければ…………
「……ッ!」
「水都さん?」
「暁美さん……何…で!」
何故。何故。何で。どうして……。苦しい。辛い。悲しい。そんな気持ちが溢れて止まらない。裏切られた友情、私の中で膨れ上がっていく黒い感情に……呑み込まれてしまいそうになる。
「あのねみんな……一つだけ、いいかな…?」
だけどその寸前、友奈さんが静かに口を開く。それはどこか自信なさげな声だったけれど、不思議と病室に響いてみんなの耳に届いている。
そして友奈さんは……はっきりとこう言った。
「……あの子、たぶんなんだけど……私を殺す気はなかったみたい」
「「「「「……えっ?」」」」」
みんなの声が重なった。
◇◇◇◇◆
友奈さんから思いがけない話を聞いた……だからといってそれは簡単に飲み込める話ではないし、どういうことなのって、ますます疑問が深まるばかりだった。
誰もその答えを導くまでには至らない。気づけば病院の面会時間が過ぎようとしていたし、今日は本当にいろいろと疲れたから、何も考えられそうにない。それに友奈さんを休ませることはとても大事……今日はこの場で解散するって話で落ち着いた。
結局杏さんと球子さんも、未だ意識が戻らない。私もみんなも明日ももちろん様子を見に行くつもりだけど、どうか明日には目が覚めていたらと思うしかない。
「それじゃあ、また明日ね……」
「では……」
私達とは別の方向に。病院の前で別れるまどかさんとほむらさんがお家に帰っていくのをうたのんとひなたさんと一緒に見送る。
心にぽっかりと穴が開いた気持ちは埋まらないままだ……。だけどそれを表には出さずに笑顔で手を振った。
まどかさんとほむらさんの姿が見えなくなったところで、今度は私達が帰ろうかなって話になった時。ふとひなたさんが何かを思い出したかのように呟く。
「歌野さん、待ってください」
「ワッツ? 何かしら?」
いきなり呼び止められて、うたのんは首を傾げる。何を言われるのか何も予想がついていない様子のうたのんに、ひなたさんはうたのんが持っている袋を指さして、凛とした声を発する。
「……その中身、蕎麦の材料だと耳にしていますが今の歌野さんには不要な品でしょう? 腐らせるのもなんですし、よろしければこちらで回収して大社の方で役立てますが」
「…………」
うたのんの表情が気まずそうなものに変わってしまった。そういえばそうだよ…。うたのん今日は朝から知り合いの人を訪ねたり、買い物に行ったり、蕎麦の材料を集めていた。どの素材の明らかにこだわりの物で、量だって見た通りたくさん……。気合を入れてとてもおいしい蕎麦を作るんだって言ってるようなものだ。集め終わって一息ついたタイミングでバーテックスの襲撃があって、それで……。
「いや、その……この蕎麦は……ちょっと」
「…………」
「アハハ……ひなたさん、アイズがスケアリー……ハハッ……」
無言の圧力。うたのんは冷や汗を流しながら苦笑いするけど、そんなもので逃げられるわけがない……ううん、私だって逃がさない。
「……うたのん、約束でしょ」
「み、みーちゃん……」
杏さんがあんな目に合って、いっぱい後悔しているといってもこの罰から逃げるなんてとてもじゃないけど許せない。杏さんだけじゃない、うたのんの事を思うからこそ、ここで簡単に約束を破ることは認められない。そんなの蕎麦が大好きだとしても、私が心から憧れたうたのんなんかじゃないから。
「そ、そうじゃないの…! この蕎麦は最初から、私が食べるために集めた物じゃなくて……!」
「えっ?」
「なんて言うか……」
後ろめたそうに頭を掻きながら、うたのんは言葉を詰まらせている。そして観念したように深くため息をつくと、申し訳なさそうに私達の方を向いて、言った。
「……実は、四国に来てからこっちで仲良くなった子供達がいて……その子達に最高にデリシャスな蕎麦をご馳走してあげるってプロミスをしていて……」
……仲良くなった子供達…? その子達に蕎麦を…?
「……そういえばうたのん、今朝今日は夕方から用事があるって言ってたよね……その事だったの? 時間は大丈夫なの?」
「……じつは結構ギリギリ……あんなエアーの中じゃ言い出せなかったけど……」
なんだ、そういうことだったんだ……。それならそうと早く言えばいいのに………あれ?
……いや、逆に変だよ。どうして、言い渋るような話なんかじゃないのに……私はたった今、うたのんと仲良くなった子供がいるなんて話を聞いたよ?
それは当然、ひなたさんも全く知らないことなわけで……。
「子供達……ですか?」
「毎朝ホワイトスワン農場のお手伝いもしてくれているの。それで日頃の感謝のつもりで蕎麦パーティーを考えて……」
「……そんな話、私初めて聞いたよ?」
「あ、あれ…? 言ってなかったかしら……?」
聞いてない。そんな話は初耳だ。というかそんな話をしていたら絶対に覚えてるはずなのに……。少しの間、私とひなたさんはお互いの顔を見合わせる。
そして、疑いしかない目を一斉にうたのんに浴びせた。
「だからこの蕎麦が無くなると、その子達にお礼ができないというか……」
「「…………」」
「本当なの! お願い信じて!」
慌てて懇願してくるうたのんを見て、もう一度ひなたさんとお互いに顔を見合わせて、溜息を。……まぁ、うたのんだから……。
「……分かりました。そちらの蕎麦をこちらで取り扱う事は致しません」
「リ、リアリー…? 蕎麦パーティー、行ってもいいの?」
「うたのんが蕎麦を食べるのはダメだけどね」
「わ、分かってるって!」
いくらなんでも、あんなに大事な約束を簡単に破るような人じゃないから、うたのんは。うたのんが蕎麦を食べないんだったらそれ以外に問題は無いんだし、だから一先ずは信じれる。ただ……
「ですが、今の歌野さんの反応……イマイチ信用できません」
「……うたのん、絶対何か隠してるよね……私達に……」
「うえっ!? かかか隠ししてなんか……!!」
私達が疑っていることに気付いて、うたのんは露骨に取り乱す。やっぱり何かあるみたいだ。怪しい……怪しすぎる。
「水都さん、歌野さんに付いて行って本当にその子供達に蕎麦が振る舞われるのかの確認、それから一緒になって蕎麦を食べないよう、歌野さんの見張りをお願いしても良いですか?」
「もちろん。付いていっていいよね、うたのん」
「えっ!!?」
「歌野さん……まさかとは思いますが、こっそり食べればバレないと思って……?」
「そそそそそそそそそそんなことするわけが……! ただどうしてもこれは!」
「うたのん、震えすぎ……」
ひなたさんと揃ってジト目でうたのんを見る。さすがにうたのんも観念したようで、両手を上げて降参とばかりに大きくため息をついた。
「それで、どうしてあんなに必死に隠そうとしていたの?」
病院から出て向かうのは、集合場所に選んでいたらしいうたのんのホワイトスワン農場。目的地に辿り着くまでの道中、気になっていたことを訊いた。
「……この際、向こうに着いたら分かっちゃうんだけど……お願いみーちゃん」
「?」
「これから誰と会うのか、みんなにはナイショにしていてほしいの」
「……だから、それがどうしてなのかって訊いて……」
いつの間にかうたのんと仲良くなっていたっていう子供達。それだけならまだしも、私にも言えなかった相手。しかもこの期に及んで他の人達にも内緒にしてほしいなんて言っている。……もしかしなくても私達に知られたくないような相手……正直理解不能で不安でしかない。
一体どんな子達なんだろう……。
『Langsam!!』
…………は?
「ソーリー遅くなって! そっちもみんな揃ってる?」
『Ja. Sie haben darauf gewartet, dass du kommst』
『Übrigens, Herr Utano, wer ist das?』
「あぁあなた! 今日は本当にありがとう! おかげで私も友奈さんも命拾いしたわ!」
「……え、は……え…………はぁ!?!?!?」
ホワイトスワン農場で、私は見た……。顔面蒼白で、両目を大きく見開いて、大きく口が裂けた、真っ黒の衣装に身を包んだ
『Ist das Kind nicht Mi-chan? Utano hat mir viel erzählt』
『Nun, schön, dich kennenzulernen. Vielen Dank im Voraus』
『Ich bin unbeholfen……』
「ひっ……!!?」
ギョロリと動く目玉がいくつも私に向けられる。不気味でしかないその姿を前に足が竦んで尻もちをついちゃう。
そこで目に入る………前に私を鎌の刃を向けて、お腹を殴りつけたこの姿……! 恐怖が一気に沸き上がり、倒れたままうたのんの足に縋りつくしかできない……!!
「……大丈夫よ、みーちゃん。この子たちは全然悪い子達なんかじゃないから」
「……う、うたのん……!?」
『Geht es deiner Schwester gut? Kannst du es aushalten? Ich helfe dir?』
「そういえばあなたは初めましてよね。新しい子が増えるなんて嬉しいわ! 私は白鳥歌野、こっちはみーちゃんよ♪ よろしくね!」
「……………!!?」
うたのんは何ともなく、いつも通り。フレンドリーな雰囲気全開で、笑顔で、あの暁美さんの使い魔と話していた。
使い魔は……前に私を殴ったり、千景さんを襲ったりしたらしいし……うたのんの腕の骨を折ろうとしたことだって……! それ以前にあんな事があったというのに、暁美さんが使役する得体のしれない怪物なのに、うたのんはそれを今、平然と受け入れていて………!!?
……………まさか………いや、そんな………でも、そうとしか思えない……! うたのんは……まだ……
「……まだ諦めていないの……? 暁美さんの事を……まだ……」
信じられない想いで吐き出したその言葉に対し、うたのんは………
「……もちろん許せないって気持ちはみんなと一緒。お腹の底からアングリーなのだって……でもね」
曇り一つない、私が憧れた白鳥歌野という人間そのままの真っすぐで明るい笑顔でこう言った。
「友達だもの」
ゆうほむへの西暦組好感度一覧(A~E判定)
A―大好き
B―好き
C―普通
D―嫌い
E―大嫌い
乃木若葉:F (悪魔の敗北者)
「必ず、この報いは受けてもらう……!!」
上里ひなた:E (宝物を傷つけられた者)
「二度と、皆さんに関わらないでください……!!」
土居球子:F (打ちのめされた復讐者)
「くそったれがァ!!!!」
伊予島杏:E (理不尽な犠牲者)
「………タマっち先輩……みなさん……」
高嶋友奈:C (足掻いた者)
「………どうして…だろう……わからないことばかりだ……」
郡千景:F (存在の否定)
「殺してやる……」
鹿目まどか:C (悲劇に呑まれし少女)
「…………」
鹿目ほむら:E (忍び寄る謎)
「自分の顔や声が嫌になりそう……」
藤森水都:? (裏切られた少女)
「忘れたいのに…忘れられない……」
白鳥歌野:S (農業王)
「この想いに嘘はない」
【使い魔翻訳】
『Langsam!!(遅ーい!!)』
…………は?
「ソーリー遅くなって! そっちもみんな揃ってる?」
『Ja. Sie haben darauf gewartet, dass du kommst(ええ。みんなあなたが来るのを待っていたわ)』
『Übrigens, Herr Utano, wer ist das?(ところで歌野さん、そちらの方は?)』
「あぁあなた! 今日は本当にありがとう! おかげで私も友奈さんも命拾いしたわ!」
「……え、は……え…………はぁ!?!?!?」
ホワイトスワン農場で、私は見た……。顔面蒼白で、両目を大きく見開いて、大きく口が裂けた、真っ黒の衣装に身を包んだ
『Ist das Kind nicht Mi-chan? Utano hat mir viel erzählt(この子がみーちゃんって子じゃないかな? 歌野ちゃんがよく話てくれた)』
『Nun, schön, dich kennenzulernen. Vielen Dank im Voraus(えっと、初めまして、ですね。よろしくお願いします)』
『Ich bin unbeholfen……(私気まずいのだけど……)』
「ひっ……!!?」
ギョロリと動く目玉がいくつも私に向けられる。不気味でしかないその姿を前に足が竦んで尻もちをついちゃう。
そこで目に入る………前に私を鎌の刃を向けて、お腹を殴りつけたこの姿……! 恐怖が一気に沸き上がり、倒れたままうたのんの足に縋りつくしかできない……!!
「……大丈夫よ、みーちゃん。この子たちは全然悪い子達なんかじゃないから」
「……う、うたのん……!?」
『Geht es deiner Schwester gut? Kannst du es aushalten? Ich helfe dir?(お姉さん大丈夫ですか? 立てますか? 手を貸すよ?)』
「そういえばあなたは初めましてよね。新しい子が増えるなんて嬉しいわ! 私は白鳥歌野、こっちはみーちゃんよ♪ よろしくね!」
「……………!!?」
うたのんは何ともなく、いつも通り。フレンドリーな雰囲気全開で、笑顔で、あの暁美さんの使い魔と話していた。