ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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「気に入らなくてしょうがない!!」

大赦書史部・巫女様

  検 閲 済

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者御記 二〇一八年十月

高嶋友奈記

 

神世紀四年 追記 

 高嶋友奈です。昔嫌な事があって取り乱してしまって、その時に中身を塗り潰して消してしまいました。今更ですが、大事な御記に勝手な事をして、多くの人を困らせてしまってごめんなさい。

 また、当時のことを知らずにこの勇者御記を手に取った人も、いきなりこんなページで驚かせてしまったと思います。本当にごめんなさい。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

「と い う わ け で わ た し が も ど る ま で の あ い だ お し ご と を お ね が い し ま す……うぅぅ……」

 

 私の家から離れた愛媛県にあるマンションの一室。そこで私はちょっとだけイヤ~な、冷や汗をダラダラ流しながらメールを打ち込んでいた。

 

 今大赦に戻っちゃうとまた若葉ちゃんと鉢合わせしてお互いにまた嫌な思いをするだけだから、しばらくの間はとてもじゃないけど行くことができない。行きたくないわけで。

 例の時間だって限られている。だから思いっきり急ではあるけどしばらく有給休暇のお願いを……直近に色々予定が入ってはいたからそれ全部お願いしますって……。

 

 ……問題なのはその予定の中身。これでも私、メチャクチャ大変な世の中をまとめて人々が安全に過ごせる社会を作り維持しないといけない一大組織の大赦、そこのトップ……。

 そう、このやってもらう仕事は仮にも偉い立場を任されちゃっている私がすっぽかしちゃ確実にダメな案件ばかりなんだけど……それをなんとかしてくれる凄い能力がある人が、私の直属の部下という立場の中に一人いる。

 

 ただし、その後の事が何というか……控えめに言って不安しかない……。任せてしまう仕事を全部ちゃんと片付けてもらえるとしても、ほんと急に何日も休むからいっぱいある大変で重要なお仕事お願いしますなんて言って、怒らない人の方が少ないよね……。

 あの人はそういった事で怒ることはない、むしろニコッと笑って引き受けてくれるだろうけど……その微笑みの中には必ず、悪意がある。ちょうどいい大義名分を与えてくれてありがとうって、悪魔が宴を始めるかのようにあの人の頭の中で悪意が騒ぎ始める……。

 一般的に迷惑や非常識に当てはまることを受けた時の報復は、誰もが顔を引き攣らせてドン引きしちゃうぐらい徹底するタイプ……。向こうに戻った時、確実に厄介なんて言葉じゃ片付けられないしわ寄せが押し寄せてくるのはもう分かり切っている……。

 

 その人は数少ない私の友達曰く悲鳴と暴力が大好きで、人の苦しむ顔が好物だって言うのを、私自身否定しきれない人だし……。

 

「く み こ さ ん……送…信……」

「…………」

「……あぁぁぁああぁぁあぁぁあああ……!」

「ゆうちゃん……」

「……送った……送っちゃったぁ…! どうしよぉ茉莉さぁん……!」

「ボクにはどうすることも………」

 

 床の上でプルプル震えながら頭を抱えて絶叫する私に、数少ない年上の友達の茉莉さんも心の底から同情しているのが分かる顔を向けてはくれる。だけど同時に、茉莉さん自身は私に何もしてやれないって心底申し訳無さそうな顔にもなってて……つまりなんてことだろう、もう助からない……。

 

「仕事ってどれくらい任せないといけないの…?」

「……えっと…社長さんたちとの会談とか……うちに協力してくれる人たちへの挨拶回りとか……大赦の予算の見直しとか、部署の視察とか、会議とか……」

「一般人としては充分凄いスケールなんだろうけど……。それくらいならまあ、偉い人にとっての普通のスケジュールって感じだね……」

 

 ……あぁうんまぁ……普通ならそうなんだろうけど……普通なら……。でも元々は予定にはなかったけど自分から首を突っ込んだりもした物も、私なら力になれるからって次々に引き受けたりしたわけで……。

 

「…………それ以外にも、期間中ぜんぶ合わせて50件ほど……」

「ご……っ!!?」

 

 あ、やば……これって茉莉さんには思いっきり地雷……。

 

「何それ!? いくら立場があるからって仕事詰め込みすぎでしょ!!?」

「だ、だって、なんだか困っている様子だったから……」

 

 だ、だって先日若葉ちゃんの妨害が来るなんて考えてなかったんだもん…! 確かに仕事はいっぱいあるなぁって分かってはいたけど、たくさんの人のために元から全部ちゃんとやるつもりだったんだもん…!

 

「……ッ」

「……茉莉さん……?」

 

 泣きそうな私の顔から、私の頭の中を過った言い訳を読み取ったのだろう。茉莉さんの怒ったような顔が、一瞬で悲しみを帯びてしまう。

 

「……ボクが昔からゆうちゃんのそういうところ……自分はどうなってもいいって思っているところ、本当に嫌い。大嫌いって知ってるよね?」

「…………」

 

 ……茉莉さんの頭の中ではたぶん、昔の事を思い出させちゃったのかもしれない……いいや、きっとそうだ。

 私と茉莉さんは9年前に1度、喧嘩別れみたいな形で離れ離れになっている。お互いに譲れない想いを抱えてしまって、結局お互い理解し合えないまま、それから数年間会う事はなかった。2人とも、もう会えないんじゃないかってそう思っていた……。

 

「……やめてよ……もう……」

「……ごめん…なさい」

 

 命以外のいろんな物を失ってしまった私は。大切なもの、友達も全部………また離れ離れになるのは……いやだ……。

 

 ピロン♪

「わぁっ! 久美子さんもう返信来た!?」

「……絶対あの人連絡来ることが分かってたんだろうね……ボクも一緒に見るよ……」

「うん、お願い……一緒に居て。怖い……」

 

 まだ心の準備ができていないのに、返信を知らせるスマホの着信音が鳴ってしまって私の身体が思いっきり跳ねる。肩が小刻みにガタガタ震え始め、顔がどんどん青ざめていくのを自覚する。

 だって、ここに書かれている物はきっと、ちょっと先の私の未来を運命付けるものに違いない……。そしてその未来を先導している人を私はよく知っている……知っているからこそ、その未来って言うのがとっても恐ろしい物、過酷な物、それ以外が全くと言っていいほど思い浮かばない。

 

 だから……震える指で画面をタップしてメールの内容を開くのが、怖い……。それでも開かないといけなくて……開いた。

 

「…………」

「…………ヒエッ、なに……50件のハードワークとの引き換えがこれって……やっぱりあの人、悪魔だ……」

「」

「ゆうちゃ………ゆッ!?」

 

 そこに書かれている簡素な了承コメント、それからビッシリ書き込まれた今後のスケジュール表を見た私の身体がスーッと軽くなった。何もないのにフワフワと体と視線が少し高い位置で揺れ動くし、少しずつそこから上に上がっているように見える。真下にあるのはぴょこっと跳び出ている短い髪の毛と驚いた顔の茉莉さんだ。

 

『ナンダカカラダガハネニナッタミタイダヨーマツリサーン!』

「……ゆうちゃんの魂が……! 戻って戻って!?」

 

 茉莉さんが体を揺さぶるたびに少しずつ視界の高さが下がって戻っていく。スッと体の重さも元に戻ると、そしたら一気に心の方がズシンと重くなって……どんよりとしたモヤモヤが押し寄せて……

 

「戻った…?」

「…………過労死……エナジードリンクの空き缶に埋もれた部屋で、私過労死しちゃうんだ……」

「ゆ、ゆうちゃんらしくないネガティブ発言……。エナドリ漬けのゆうちゃん……なんだろう、全然想像できない……」

 

 ……まあ、あまり体に良くなさそうだから基本的には飲まないし……でもそれだけヤバいから、これは……。鬱だ……死んだ方が楽になれるかもしれない……。

 

 でもそんな中で、項垂れる私の頭の上に手が乗せられる。優しくて、温かい……そんな手が私の頭を撫でてくれて……

 

「……明日は土曜日だし、亜紗さんも誘って3人で美味しい物でも食べに行こう?」

「…………うん……いく……」

 

 そう言って安心させてくれる微笑みを見せる茉莉さんの存在が、今の私にとっては本当に有り難くて。彼女に抱き着いちゃう。

 

「うぅ~……茉莉さん大好きぃ……」

「うんうん、ボクもゆうちゃん大好きだよ」

 

 頭を撫でられながら背中をポンポンと叩いてくれる茉莉さんの手つきも優しくて、とても心地いい。このままずっとこうしているのもいいなぁ……なんて。

 

 ……でも、このまま悠長にしてなんかいられない。何のために数日後からの私の未来を地獄に変えたんだって話だし、明日は茉莉さんが言ったみたいに大好きな人たちと一緒に美味しい物を食べに行くんだ。

 ……この気持ちを奮い立たせて茉莉さんから離れる。茉莉さんは何も言わずに離してくれて……。

 

 茉莉さんにはこれから私が何をするのかは、昨夜遅くにお邪魔した時に既に話している。納得も、してもらっている……それでもやっぱり、心配そうな視線はその時と変わらない。

 

「……無理はしないで、ゆうちゃん……」

「……ありがとう、茉莉さん」

 

 確約ができないのは私だって辛い。だからお礼だけを言って部屋を出た。

 隣の部屋に入った私は再度携帯を開く。そこに表示されるアイコンをタップし、私の姿は勇者へと変わる。

 

 そして呼び出す……あの子達の───

 

 

 

「…………おねがい……タマちゃん、アンちゃん」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バーテックス……それは世界中の人たちの生活を、命をメチャクチャにしやがった、史上最低最悪の大バカ野郎。気持ち悪い謎の化け物は3年前のあの日突然タマたちの世界に現れて、みんなの大切な日常を壊していった。

 

 そして今、奴らは3年ぶりにタマたち前に……四国に現れやがった。

 

 

 

 

 

 

「千回ぃぃ……!! 連続!!」

 

 ドガガガガガガガガ!ってデカい音を出しながら、まるで嵐みたいな勢いで繰り出される拳は、あの厄介なバーテックスの反射板にひびを入れる。たくさんのバーテックスが合体して生まれた化け物を絶対に倒してやるって覚悟で切り札の精霊を降ろした友奈の気迫は凄まじくて、強烈なラッシュは止まることを知らない。

 

 あんずが撃った矢も跳ね返したし、精霊を降ろす前の友奈の拳も弾いたバーテックスの反射板は硬かったが、今の友奈の拳はそいつを壊していく。ひびは全体に広がり、最後の一撃がそこに……

 

 

「勇者!! パーーンチ!!!」

 バキィ!!

 

 貫いて、反射板を砕ききった。

 バラバラになって消えていくバーテックスの一部。着地してこっちを振り返った友奈の後ろでは、本体の棒状の肉体も一緒に崩れていって、

 

「ブイっ!」

 

 やってやったと言いたいテンションで、笑ってみんなにVサインを見せる友奈にみんなの顔が綻んだ。

 

「友奈のやつ……まったく、抜け駆けて切り札を使われてしまったな」

 

 これでこの襲撃の一番の強敵は消滅する。いっぱいいた白いの、星屑だってみんなで倒したんだ。この戦い、初の戦闘はタマたちみんなの勝ちで終わって……

 

「っ!!」

 

 気づくのが遅れた!! 友奈の活躍でホッとしている若葉の後ろからまだ残っていた星屑が一体近づいていやがった! 既にそいつはデカい口を開いて、後ろから若葉に噛みつく寸前だ!!

 

「若葉!! 危──」

 

ギリ、ブチィ!

「……まずいな。食えたものではない」

 

 ……一瞬過った若葉が食われちまう光景じゃなくて、逆だった。星屑の噛みつきをヒラリと避けるのと同時にガブっと噛みついて、そのまま食い千切りながら刀で真っ二つ…………タマと同じ人間か、コレが…? なんでアレが食えるんだ……おっかなすぎるだろ……。

 

「……タマ、これからは若葉を怒らせないようにする」

「……うん、私も……」

「バーテックスを食うのは勧められそうにない。気持ちは痛いほど解るがやめておいた方が良いぞ、ほむら」

「やりませんよ最初から!」

 

 明らかに心外だって気持ちが伝わるほむらの叫びが響いた直後、このカラフルな樹海の世界全体に花弁が舞い上がる。それを見たタマたちは、これで今度こそ戦いが終わったんだって気づいて一息つく。

 

 いろいろあったが、3年間準備をしてきたタマたちにとっては楽勝! ハラハラしちまう場面もあるにはあったが、それでも今後もやっていけるはずだと確信できる成果を発揮できた。

 

 タマたちならバーテックスにも負けない。必ずみんなであいつらをぶっ倒して、世界を救えるんだ!

 

 

 

 

 戻った直後に大社に今回ついにバーテックスの襲撃が始まったんだって報告もして、大々的にその情報を世間に公表する流れに。

 明日からはなんと会見を開いたりテレビに出たり、これまでの日常が一変する事態になって、タマたち勇者の戦いはこれからだ!ってな雰囲気に……

 

 

 

 

 

 

「みとちゃん……! うた…の…ちゃん……! ぅぅ…ぁ……ああぁぁああ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 ……さ、さっきまでの意気揚々としていたタマの気持ちはどこに行った……?

 

 無事に元の世界に戻って凱旋ムードになるのかと思いきや、そうはならなかった。今はみんなして食堂でどんよりとした重苦しい空気に包まれていたから……。

 誰もバーテックスを倒せて良かったなんて、そんな風に喜んでなんかいない。ここに充満している嫌ぁーーな、物凄く重い空気にみんな耐えきれなくって……。

 

「……まどかさん、大丈夫でしょうか…?」

「大丈夫じゃないでしょ、あの様子だと……」

 

 満ち足りた気分で帰ってきたタマたちを待っていたのは、ボロボロに泣き崩れて悲しんで苦しんでいた一人の仲間の……まどかの姿。その側で慰めていたひなたの言葉も届かないほどの深い悲しみは、バーテックスをやっつけたっていうみんなの活躍を聞いても絶望の淵に沈んだまま、まどかはずっと泣き続けている……。

 

「諏訪の勇者と巫女とまどちゃんは友達だったんだよね……。そりゃあ、辛いよ……」

 

 バーテックスを倒した事よりもショックの方がはるかにデカいもの……諏訪地方との突然の連絡途絶。そこから若葉が導き出した、向こうが陥落してしまったという答え。

 

 無事なのかどうか分からなくなった、諏訪の人の命。まどかと若葉の大事な友達の命……。

 

「つっても、ただ通信が途切れただけで、まだ死んじまったって決まったわけじゃないんだろ…? ひょっとしたら……」

「ひょっとしたら生きているのかも……そう言いたいの?」

「お、おう。そりゃあ……」

 

 決まったわけじゃない。誰も諏訪の勇者達が死んだところを見たわけじゃない。

 それに諏訪の勇者はこれまで3年間ずっとバーテックスを倒し続けてきた、若葉が認めたすごいヤツだって聞いている。そんなヤツがまどか達が悲しむって分かっていながら居なくなるか? 悪いように考えなくたって、今もきっと生きているんだって可能性を信じ続ければ良い。

 けど千景は小さく息を吐くと、小さいけどみんなには聞こえる声で、呆れているような声で言った。

 

「……そう都合良い展開なんて、あるわけないでしょ…」

「うぐっ、千景ぇ…! お前人が希望を持ちたいって時に!」

「ぐ、ぐんちゃん……そんな簡単に悪いように決めつけるのは……」

 

 タマ、それから友奈を見る千景の目。いつもならタマを見るその目の中には千景の鬱陶しそうな意図を感じる事もあったが、今はそいつをまったく感じない。呆れているような声ではあったけど、この時の千景はタマと友奈を一緒の目で、憐んでいるような目をしながら諭すように口を開く。

 

「………気持ちは分からなくはないけど、じゃあどうしてバーテックスはこのタイミングで四国に攻めてきたの」

「タイミングって……」

「諏訪が墜ちたかもしれないタイミング……ですよね…?」

「………」

「もう向こうでバーテックスを足止めしていた人がいなくなった。……滅んだから……。だから今度は……今回からは、四国を攻めるようになったのかも……千景さんはそう言いたいんですよね…?」

「………あ…」

「……伊予島さんも私と同じ考えみたいよ」

「あ、あんずぅ……」

「………」

 

 生きているって思いたくて言ったけど、やっぱりそれはタマがそう思いたいだけ……。千景とあんずの言葉は、下手な期待はしない方が良いってタマの心をグラグラ揺さぶって、もう一度不安にさせる。

 

 今まで特に重く考えた事はなかった。諏訪の勇者の凄さは聞いてた話から知っていたつもりで、そんでいつか四国のタマ達みんなと合流するって思っていた。でもそうなるよりも前にいなくなるだなんて……それから、まどかがあんなに泣き崩れる様を目の当たりにしてしまって……。

 

「なんだよ、それ……!」

 

 なんというか、悔しい……。それになんだか、タマ自身に腹が立つ……。

 だってもしもまどかのあんな姿を見ていなかったら、タマはずっと四国に攻めてきたバーテックスを倒した事に脳天気に浮かれていただけで……。諏訪の事はそこまで重く考えずに、これからはタマ達が戦う番だって意気込むだけだったんじゃないかって思えてしまって……。

 

 諏訪の勇者や巫女と親しかったのはまどかと若葉だけだが、そうでなくてもその二人は、いる場所は違くても、会った事も話した事も無くてもタマ達の仲間……間違いなく。

 

 生存は絶望的。タマ達は仲間を失ってしまった……その事実を悲しみと絶望に打ちのめされたまどかを見た今になってようやく、タマの心をキツく締め付ける。

 

「……あっ」

「……皆もここに集まっていたか……」

 

 そんな中、食堂にはいなかったあいつらも入って来る。決して明るくない表情のまま、これからの事をどうしたものかと考えている2人の目に、タマ達みんなは気づいている。

 

「若葉さん、ひなたさん……あの、まどかさんは……?」

「ホムちゃんも、一緒じゃないの……?」

 

 若葉とひなたとほむらはまどかの側に残ってあいつを慰め続けていたはずだが、その結果が良いようになってないって2人の顔に書いてあった。

 

「……はい。今しがたほむらさんに、お父様に連絡を入れて迎えに来てもらいました……。ですが……」

「……すまない。私にはまどかの悲しみが分かる……だが、それを取り除くにはどうればいいのかが、分からなかった……」

 

 やっぱり駄目だったみたいだ……。迎えに来てもらったってんなら、もう二人は丸亀城には居ないってことか。

 とりあえずは今は、まどかには家でゆっくり休んで気持ちを整理してほしい。ほむらには側でまどかを支えてやってほしい……でも、それであいつの傷付いた心が元に戻るのか……? 友達が死んじまったかもしれなくて、誰よりも心優しいあのまどかが受け止めるにはかなりキツイ話だ……。

 戦いは終わったのに、まだまだこれからなのに……。なんで早々にこんな辛い思いをしなくちゃいけないんだ……。

 

「ねぇ、若葉ちゃんは……大丈夫?」

「………」

「若葉ちゃんだってまどちゃんと同じで、向こうの勇者と巫女の2人とは友達だったんだよね……。無理……していないかなって……」

 

 徐々に友奈の声は小さくなっていた。確かに……まどかの事ばかりに気を取られてはいたが、友奈の言う通りの疑問があるんじゃないか。

 

 諏訪の勇者と仲が良かったのは若葉だって同じだ。近くにいなくたって、これまでずっと支え合ってきた友達が突然いなくなった。タマたち以上、まどかと同じくらいの悲しみに暮れているはず。若葉はまどかと全く同じ傷を負っているはず……。

 今回の実戦を乗り越えられたからって、若葉が精神的に強いヤツだからって、全く傷付いていないって事はないだろう……。これ以上に辛い事なんて、そうあるはずがない。

 

「……大丈夫だ、私は」

「……若葉?」

 

 数秒間無言だった若葉が発した言葉……そいつは明らかに、直前までタマが思っていたのとは違っていた。声色からしてやっぱり傷付いていないってわけじゃない。でも逆だ。その目は。何かを覚悟したような強い意志が感じられたから……

 

「もし彼女たちが今も無事に生きてくれてさえいれば、他に幸福な事など在るはずがない……そう感じずにはいられない。だが変わらない……私がすべき事は何も変わらないんだ。白鳥さん達が生きていたとしても、死んでいるのだとしても……これから私達は戦わなければならない」

 

 言葉から伝わる決意は……。

 

「託されたんだ。白鳥さんから、後は頼む……と。ならばこの私が、こんな所で迷うわけにはいかないんだ。これまでの白鳥さん達の戦いを無為にしない為にも……」

「若葉ちゃん……」

 

 ……若葉は、やっぱり強い……。タマの心の中でもやもやしていた嫌な気持ちが、若葉の言葉で全部じゃないが消えていくのを感じた。

 諏訪の勇者から託された言葉……たぶんきっと、いいや間違いない。それは若葉だけに向けられた言葉じゃない。その諏訪の勇者からの願いはタマたち他の勇者にも向けられた言葉だ。

 

 これからの四国や世界の為に戦い抜く事……仲間からそれを背負ったからこそ若葉は前を向いている。だからこそ、タマたちも若葉と同じ諏訪の勇者達の仲間として、一緒に前を向いて立ち上がらなきゃいけない。そう考えてタマは若葉に強く頷いた。

 

「……だな! それにタマたちはバーテックスを倒したんだ! これからだって……なぁ、お前ら!」

「タマっち先輩……うん! 恐いけど…私も戦う。タマっち先輩や皆さんと一緒に!」

「タマちゃんの言う通りだよ! 白鳥さん達の想いに応える為にも……私も行くよ!」

「何にせよ、私達がやることなんて一つしかないわ。今更怖気づいてしまう場合じゃないでしょ」

「みんな……」

 

 全員の顔つきが自然と変わる。同じ思いを胸にしたみんなの顔つきは、項垂れかけてたさっきまでとは違う、バーテックスを倒した直後と同じもの。やってやるぞって気合が復活し、みんなの意思がまた一つになる。

 

「若葉ちゃんのおかげ……ですね。皆さんの決意が、改めて固まって」

「うん! 流石はみんなの………」

 

 元気いっぱいで返事をした友奈が、喋ってる途中にも関わらず固まる。すると次の瞬間には何かを思いついたのか、もっと嬉しそうな顔でみんなを見ながら続きを話す。

 

「ねえみんな、どうかな? 今までは大社から言われていた事だけど、これからは本当に若葉ちゃんがみんなのリーダーになるっていうのは?」

「……!!」

「なるほど……いいなぁそれ!!」

「確かに、これはとてもいい機会かもしれませんね」

 

 タマもあんずも友奈のアイデアに心から納得する。今までは暫定だったけど、これからは正真正銘若葉がリーダー……。

 実際今日の若葉は大活躍だ。たった今のみんなの決意を固めた事だけじゃない。先陣を切ってバーテックスに向かって行って鼓舞して、あれを見て勇気付けられてなかったらみんな不安を抱えたままで戦っていたんじゃないかって思える。誰よりもしっかりしているし、力だって強い。本当にリーダーに向いているって、今なら誰もがそう思う。

 

 と思ったが、一人そうじゃないのがいた。明らかに想定外だったとうろたえてみんなの顔を見渡す……若葉自身。コイツは……。

 

「なんて顔してるのよ……」

「し、しかし……というか郡さん、何故反対意見を言わない……?」

「どうして私に振るのよ……」

 

 そういや確かに、千景は若葉が暫定リーダーの頃から気に入らない様子を見せていた。今日だって樹海の中で若葉はリーダーらしくないって噛みついてたし……。

 だがまぁ…………はは~ん、タマにはわかるぞぉ? つれないを顔してるけど、結局はこいつだって同じなんだろ~?

 

「……高嶋さんがそう言うし、実際活躍していたし……反論はないわ」

「郡さん……」

「……何、土居さん、その顔は。切り刻んでそぎ落とすわよ」

「べっつにぃ~って何でだ恐いな!?」

 

 相変わらず気難しい奴め! ……まあ、つまりはそういう事だろ。若葉がリーダーとしてやっていく事を認めているからこそ反対意見が無いわけで。

 目をパチクリする若葉だったが、ようやく認識できたのか少しだけ顔を綻ばせる。

 

「……ほむらもきっと同じ事を言ってくれるのだろうな……まどかも……」

「……ええ。きっとお二人も……」

「……承知した。友奈、土居、伊予島、郡さん……この乃木若葉、謹んでその任を受けよう。勇者のリーダーとして、皆を纏めていけるように全力を尽くすと約束しよう」

 

 若葉の宣言に自然とみんなの顔も綻ぶ。これでこそ若葉らしくて、タマたちのリーダーにふさわしい……だが、

 

「固い固い! ってか、前々から思ってたが名字呼びなんてやめろよ親しみがない!」

「そうですそうです! それについては私もタマっち先輩に激しく同意です!」

「そ、そうだろうか……?」

「……私も……名前で呼んでいいわ……」

「「「!?」」」

 

 どうせだったらまどかとほむら、あいつらもこの場に居る時にこの話をしたかったな……。そう思ってしまえば、あんなに沈んでしまったまどかの姿も必然的に思い返してしまう……。

 

 早く立ち直ってくれよ、まどか……立ち直って、一緒にこれからのことを頑張っていこうぜ……。

 

 

 

 

 それから数日後……忙しくなったタマ達勇者のお披露目、マスメディアの取材が落ち着きだした頃……

 

「……土居さん、おはようございます」

「ほむら! まどかは……」

「…………」

 

 寄宿舎に暮らしていないまどかとほむらは普通、ふたり一緒に家から丸亀城に通ってくる。でもここずっと家から丸亀城にやってくるのは、ほむら一人だけ……

 まどかは、まだ、立ち直れていなかった。あの日からずっと、沈んだまま。

 

「昨日もまた、泣いていました……。諏訪の藤森さんと白鳥さんの名前を零しながら……」

「そう……か……」

 

 ……あの日以来、忙しいタマも若葉たちみんなも何度かまどかの事を気にかけて電話をかけたが繋がらないことがほとんどで、早く来いよってメールを送っても返ってこない。同じ巫女仲間のひなたも、来れなくなったまどかの分働いて忙しくなって、まどかの様子を見に行ってやることもできない日が続いている……。

 だから現状ほむらしかまどかを慰めてやれていなくて、それだけにほむらの心中は察せる……。

 

「ご飯も碌に食べてなくて……お父さんもお母さんもタッくんも……みんな心配していて……」

 

 本当に辛そうな想いがありありと伝わってくる……。家族が傷付いている……それなのに何もできない自分の無力感。

 ほむらにとって、一番守りたいと願う幸せが今、悲鳴を上げている……。守らなくちゃいけないのに、守れない……そんな大切な存在を目の当たりにして……

 

「……土居さん。私……いったいまどかに何をしてあげればいいんでしょうか……?」

 

 傷付いていくだけの姉妹なんて……

 

「いつまで続くんだあああああああああああ!!!!!!」

「っ!?」

 

 ああもううんざりだ!! なんだこれは!! 何だってんだこれは!!?

 タマたちは勇者だ。四国を、世界を救うことを託された勇者だ……なのに悲しんでいる友達一人を立ち直せられないままでどうする!!?

 それに……それに!!

 

「ど、土居さん……?」

「た、タマっち先輩…!? どうしたの? 教室の外までおっきな声が響いたけど……」

「あのバカ、いったい全体どういうつもりだってんだ!!?」

「お、落ち着いてください……! い、伊予島さん……土居さんが急に興奮しだして……!」

 

 もう我慢の限界だ!! あいつには絶対になくしちゃいけないとっても大事な自覚が抜けちまっている。そのせいで目の前のこいつがこんな顔をしていることが、タマは気に入らなくてしょうがない!!

 

 あいつは……まどかは……! タマと同じ、大事な役割を持っているんじゃないのか……!? 友達があんな風になって悲しむのは分かるが、いつまでもこのことを蔑ろにしちまってもいい理由にはならないはずだ!!

 

「ほむらぁ!!! 今からお前達の家に行くぞ!! まどかのヤツに文句を言ってやる!!」

「は、えちょ…文句って土居さん!? え、今からって授業は!?」

「っとちょうどいい、あんずも行くぞ! ついて来い!」

「わわわっ…!? だ、だから落ち着いてってばタマっち先輩! まどかさんに何を言うつもりなの!?」

 

 ほむらとあんずの手を引っ張りながら、タマたちは教室から駆け出した。そう、今やらなきゃいけないことをするために。

タマたちは勇者で、友達を立ち上がらなきゃいけなくて……それ以前に同じ想いを持った同志として、その事をあいつに思い出させないといけなくて、タマは感情のままに大声で叫んだ。

 

「お姉ちゃんが、いつまでも大事な妹を不安にさせるんじゃあない!!!!」

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