ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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第七十九話 「交錯」

 他の人間と情報を共有することは大事だ。数少ない情報を互いにかぎ集め、一緒に中身を分析して、答えの候補を絞り込める。

 そしてその答えを私が導き出せなくても、相手の知識や頭脳が可能にしてくれるかもしれない。

 

 私の有する範囲の知識では、その答えを出すことができなかった。私の体験を相手に余すことなく伝え、その逆向こうで何が起こったのかを私は把握できた。それでも私達が体験した不可解な現象を解明することは叶わなかった。そう、私の知見では。

 

「…………」

「どうした? 急に、黙り込んで……」

「………………乃木さん、あなたがやられた時の事、もっと詳しく聞かせてくれないかしら」

「……詳しく、とは?」

「いいから詳しくよ。事細かく、あいつから攻撃を受けた瞬間の事を全部」

 

 自分から提案していながら不甲斐ない所ではあるのだが、結果的にここでの私の役割は向こうにこちらの知っている事を伝えるところまでとなり、そこから先は彼女の領分となる。私としても、この展開はまさかと思う他なかった。私にはてんで思い付きもしなかった内容だったが、向こうには引っかかる点があると思案し始め、より細かな仔細を求めてくる。

 

 ならば当然、私は記憶している限りを振り絞り、把握する全ての情報を開示するだけだ。

 

「……姿が消えるのとまったく同時に攻撃が当たっていた。攻撃は恐ろしく硬い金属バットのような何か……たぶんそれはあの女の盾ね。馬鹿みたいに硬いあれなら鈍器としての性能も十分すぎる……。それが頭から足まで、全身に絶え間なく叩き付けられ続けた? 言葉通り、僅かなタイムラグも無く? ………超スピードの殴打……でも、前に白鳥さんが言っていた諏訪での戦闘……超スピードだけじゃ片付けられない……! それにカボチャ……? 距離もあったはずなのに、誰にも気づかれずに回収していたって……」

 

 その間向こうは頷くことすら惜しいといった様子で聞き入っており、硬い表情のままブツブツと私が言った事を復唱しながら、その頭の中では目まぐるしく考えを張り巡らせていることだろう。

 

「……乃木さん、とても重要な事よ……暁美ほむらの攻撃を受けている間、奴以外の周囲の様子は……どうなっていたの…?」

「……いや、周囲の事など……激痛に耐えるのに精一杯、で……とてもじゃないがわから」

「思い出しなさい。今。ここで!」

「…………」

「……そこには上里さんと白鳥さんもいた……だったら、その二人はあなたが無残にやられている最中……ざっと数十秒の間に上里さんの悲鳴とか、白鳥さんの止めようとする声とか、何かしらの反応があってもおかしくはないでしょう」

「! …………いや、そういえば……特に、二人の声は聞こえたりはなかった……が」

 

 やがて情報の開示が終了し、向こうは沈思黙考が訪れ、沈黙が流れる。

 

「……やっぱり、そういう事……!!」

 

 その長い静寂を破られた時、千景の顔は一瞬驚愕の色に染まる。だがそこから屈辱と怒りが再燃するのだろう、直後には複数の感情が入り混じった歪んだ表情が浮かび上がっていた。

 

「攻撃完全遮断のバリアに一時的な記憶の抹消のみならず!? どこまでふざけ倒せば気が済むのよ……!?」

「……なあ教えてくれ、一体全体…何が、解ったんだ?」

「…………ここまで材料がありながら、あなたはまだ解ってないの?」

「……さっきの反応…だと、お前も今しがた、気が付いたばかり…なんじゃ……?」

「うるっさいわね!? あなたの方が判断材料を多く持っていたくせにってことよ!」

 

 八つ当たりするほどだろうか……溢れ出る怒りと憎しみに震えながら、千景は導き出した答えを伝える……

 

 

 

「暁美ほむらは………時間を止める力を持っているわ」

 

 

 

「……時間を…止める…?」

 

 神妙な面持ちで放たれた言葉に、私は思わずオウム返しに聞き返す他なかった。

 その言葉を聞いて最初に思い浮かんだのは、神樹による樹海化時の世界の保護だ。私達が既に2度3度目の当たりにしている現象ではある。世界の時間を止める事で、我々勇者や憎きバーテックスを除いたそれ以外を樹海の外に残して危険な戦場から切り離す……その力と同じ物を、あの暁美ほむらが有している?

 

 ……つまり、どういうことだ? 要は世界の状態を維持し保護できる力であると思うのだが……。確かに、あのような鬼畜な外道でも仮にも人の身。それでありながら神樹と同じ力があるとすれば、それは驚くに値するのかもしれないが……千景がこれほどまでに苛立ちを隠さないほどだろうか?

 

 そんな疑問を感じているのを、千景は勘付いたのだろう……怒り心頭の表情のまま向けられた顔に、みるみるうちに呆れが広がっていく。

 

「……いまいちピンと来ていないわね……」

「む……まぁ……」

「チッ! 自分が時間停止の犠牲者のくせに、これだから頭の固い馬鹿真面目野武士は……!」

「の、野武士……」

 

 あまりにもな罵倒に閉口してしまうが、私の理解が及んでいないのは事実……ここは彼女の説明を待つしかあるまいと、大人しく説明を受ける態勢をとった。

 ブツブツと文句を吐き続けながら時折舌打ちを鳴らすという、余程気に食わない事態だったのだろうが、やがて少しは落ち着いてくれたようで重々しく口を開いた。

 

「時間停止能力……数多くあるゲームや漫画の中でも圧倒的で、チート能力の代名詞の一つ……。個人的には世界を書き換える能力に次ぐ、最強に近い能力だと思っているわ」

「? ? フィクションの話か?」

「……その馬鹿げたフィクションの能力をそのまま、暁美ほむらは使えるって言ってるの。いい? 時間停止っていうのはね、言い換えれば自分だけの世界を創り出せる能力とも言えるのよ」

「……自分だけの…世界……?」

「乃木さんの事だから時間停止と聞いて思い浮かんだことなんて樹海化現象の際の一つだけでしょうけど、それを戦闘方面に活かしているのが暁美ほむら……あいつの時間停止は、一瞬の油断が命取りになる戦場の中であろうとも相手に数十秒から数分間の間完全に無防備な隙を強制的に作り出す」

「なっ!?」

「上里さん、まどかさん、藤森さん……私達勇者以外のすべてが止まった外の世界を以前私達も見たでしょう? 暁美ほむらもそれと同じ状況を任意のタイミングで作り出せるの。それも今度は、私達勇者であろうとも、暁美ほむら以外のすべてを停止させる……」

「数十秒から、数分間もの間、無防備………では……私は……」

「暁美ほむらは自分以外の全ての時間が止まった世界で、あなたを完膚なきまで叩きのめした……そういう事よ……」

 

 ……千景の口から語られたのは、確かな脅威であった。そしてあの日私が味わった不可解な何かの正体を知り、全てを理解し、戦慄した。あの時全く認識できない速さで体中を壊されたのは……なにもできず、無様に地に伏したのは、つまり……

 千景が最初にあのような反応をしたのも今となっては頷ける。実に人間の力を無視した、神に並ぶ所業とさえ思える力……。あの時の私の最大のコンディションなど、その力の前では本当に無力でどうでもいい物に過ぎなかったのだ。

 時間停止とは自分だけの世界を創り出す力……言いえて妙だ。こちらの動きも戦意も何もかもを止めて、攻撃も防御も思考すらも止めてしまう……。そして、奴は何もできない相手の心臓に刃を突き刺すのも、赤子の首を捻るより易々とやってのけるだろう。

 

「そういうこと…だったのか……!」

 

 あの日、奴が私との真剣勝負を持ちかけられても眉一つ動かさずに平然としていられた理由が、その力があったから。現に私はまんまと奴のその力の前に手も足も出ずに地に叩き伏せられた……戦わずしてその光景を奴が見ていたのも至極当然のことじゃないか……!

 最悪にして最凶の……時間停止能力。そして、それを暁美ほむらが持っているという衝撃的事実は、私を大きな絶望へと追いやるには十分すぎるものだった……。

 

「……その時間停止の力に、何か弱点は……あるのか、千景……!」

 

 縋るような気持ちで問うてみたが、そんな物は聞かずとも無いだろう……一度味わい、詳細を理解した今なら分かる……それは無敵の力だ。千景の言うように、馬鹿げたチート能力だ。戦闘中という括りで見ればまさしく、最強としか思えない力ではないか……。

 

 ……どうすれば、その能力を打破して奴を打ち取ることができる……! どうすれば……!

 

「…………あるわ」

「……ッ!」

 

 だが、千景の返答は意外なものだった。

 

「暁美ほむらの時間停止には弱点がある」

 

 時間停止を突破する手段がある。その可能性を帯びた一言に、私の胸中に何かが芽生えていくのを感じた。俯きかけていた顔が上がり、こちらに向けられた千景の眼と交わり、彼女の宿した奴を憎む意志と共に交錯する。

 

「時間停止能力が強力だっていうのは数多くあるゲームや漫画の中でもありふれて当たり前の共通認識……。だけど、そんなありふれた時間停止能力だからこそ、その中にもいくつかのセオリーがあるの」

「……セオリー……では、奴の能力を打ち崩した例も、ゲームや漫画の中には…存在するというのか?」

「結論を急かさないで。……残念だけど、そういったものは大抵が実現不可能よ。作品のジャンルが異能バトル物なんだから、フィクションの時間停止能力を打ち破った例なんてそっちもフィクション染みた特殊な能力ばかりだもの」

 

 目には目を、歯には歯をという訳にはいかないか……まぁ、千景の言うように尤もな理屈だ。現実離れした能力を奴が有しているのだとしても、事実私達にはそれが無い。今ある私達の力で奴を打ち倒すしかない……正直なところ、強大な力の正体を知ってしまった今、それを成す方法など私には皆目見当もつかない。

 が、千景は弱点はあると言った。その言葉を信じ、視線を以って彼女に仔細の続きを促した。

 

「セオリーと言うのは……そもそも時間停止能力は登場する作品によって微妙に異なる性質があったりするの。時間を止められる長さであったり、最大何メートル先の範囲まで止められるのかだったりだけど………今回の場合、能力者以外にも何が止まらないのかが重要になる」

「能力者……以外……? この場合、暁美以外…ということだろうか? ……暁美以外が、止まらない……?」

 

 まさか千景はそう言いたいのだろうか? 先ほど千景が自分だけの世界を創り出すのが時間停止と語ってくれたばかりだが、必ずしもそうではないという事なのか……。疑問符を浮かべながら千景を見やると、彼女はゆっくりと力強く頷いた。

 

「……人形遊びはしたことがあるかしら乃木さん?」

「む……それは、まぁ……幼い頃に、ひなたと……何故今、それを?」

「さすがに人形遊びの説明まではしなくてもいいみたいね……人形はこちらで動かさない限り動かないでしょう?」

「当たり前だ。勝手に動いたら、怖いだろう……」

「そう。動かないからこそこっちで人形の手足や頭を動かしてあげないといけないし、仮にハサミやカッターで刺したり切ったとしても、傷はできても反応なんてあるはずもないし血だって噴き出さない。そしてそれは、大抵のフィクション作品内における時間停止でも同じような事になるのよ」

「…………なるほど……それで、人形の話を、例として挙げた…のか」

 

 昔の思い出を引き合いにして照らし合わせると何となく理解できた。時間停止中動けなくなると、その身は抵抗もできない的になったも同然。つまり、誰かに動かしてもらわない限り動かない、意思や自我を持たない人形のようなものとも然程変わりはないのだろう……。

 ……それだけではない……止まった世界と共に動けなくなったその身は、時間を止めた存在によって体を人形のように動かされる。手足を勝手に動かされるなんて遊びの範疇から外れた、手足を折られ壊される……そういった事になろうとも、人形のように止まっているその身はされるがまま……。

 

「フィクションの中に登場する時間停止の多くは止まっていて自分が認識できない世界の中でやられたとしても、自分がそうなった事に気付かないまま死んでしまうのがよくあるパターンよ。時間を止めた側が止まっている間に刃物を心臓や喉に突き刺して、時間が動き出したらこいつは死ぬなって高笑いしたり嘲笑するシーンはよく見るわ」

「くっ、下種共が!」

「罵倒する相手が違うでしょ……」

 

 いつもより千景の口も妙に饒舌なことも相まっておかげですんなりと今まで知る由もなかった異能能力についての解説が私の頭の中に入り込んで来るのではあるが、話を聞けば聞くほど本当に恐ろしい能力だと思うしかない。だがそこで一点妙な、あの体験とは食い違う点がある事に気付く。

 攻撃を受けても、奴が時間を支配している間はそれに気づくことはできない……だが私はあの時…………

 

「……っ、待て千景! ……これは、暁美の用いる時間停止ではないな!?」

 

 ああそうだ。時間が止まっていたあの時、奴の攻撃を受けた瞬間、私はハッキリとその衝撃と痛みを認識しているのだ。ただ今の話における時間停止能力の性能とは矛盾している。

 そもそも千景は弱点があると前置きし、その後に続けた言葉では奴以外にも止まった時間の中を動けると暗に言っていた……つまり……

 

「時間停止能力の必要最低限の知識はこれでいいわね……確かに時間停止と言えば今の説明の物が最もポピュラーではあるのだけど、作品のメタ的視点で見ればスタンドプレー専用の能力なわけ。使用者も悪役に偏りがちになってしまう……けど、味方側が時間停止能力を魅せる作品なら? だったらスタンドプレーよりも他の仲間と協力する形で時間停止の力を最大限発揮させた方が良いって、出てきているわけよ……使用者以外も一緒に動ける支援型の時間停止能力が」

「!! ………………よく分からんが…………分かったぞ…! もしや触れること……時間が止まっている間に、あいつと触れている間は動けるのか……!?」

「………そのフレーズを使っていながら本当に理解していた人って初めて見たわ……正解よ。時間停止の能力者と能力発動中にその人が間接的にでもいい、触れてさえいればその相手も止まった時間の中を動けるようになる、パーティーの仲間によくあるタイプの時間停止……あなたの体験談を聞いた限り、あの女の時間停止は間違いなくこれよ」

 

 そういうことだったのだと、ようやくあの日の理不尽で不可解な現象の正体に納得ができた。

 私が斬りかかる最中、奴は迫りくる私を世界の時間ごとその場に静止させた。奴だけの時間を創り出した。自らの敵がただの的になり下がり、奴は私の背後にゆっくりと回り込み、後頭部を殴りつけた……その瞬間私の止まっていた時間は動いた。束の間だけ。

 奴が殴るという行程を得て私に触れる……故にこの瞬間だけは認識できていた。攻撃を受けたと。だがその手が離れるのと同時に再び私の時間は止まり、次の攻撃を受けて再び私の時間が動き出していた……だがそれも、奴のめり込ませた盾が私の身から離れるまで……。

 

 異様な硬度の盾を用いて躊躇なく殴る、蹴る、そして壊す。蜂のように刺す間髪入れない猛攻だ。すぐさま触れていた攻撃の手は離れ、私が動けるようになっていた時間は全て痛みで足止めされるしかない……。それが時間停止が解けるまで延々と繰り返られた……それがあの決闘の……顛末。

 

「……弱点というのは……つまり……」

「……時間停止中でも暁美ほむらに触れてさえいればこっちだって動けるようになる。最強のチート能力といえどもあって無いような物よ。間接的にでも、触れてさえいればね……」

「…………触れる事さえできれば……間接的に、とは?」

「例えばあの女の身体の一部にロープを巻き付けて、そのロープをこっちが触れていてもそこから奴とは繋がっているって判定になるの」

「ふむ……言葉通りの意味の、ようだが、本当にそのようになる…のか…?」

「あなたが体験した、奴の腕の盾で殴られた時も動いている認識があったって話が本当なら、確定よ」

「………なるほど……」

 

 勝敗を決めるに直結する無慈悲な能力ではあるが、それを無力化できる瞬間は存在している……。

 奴の実力の程から実現可能かどうかを聞かれればその答えは厳しいものではあるのだが、完全無欠と思われていた能力にも付け入る瞬間があると判れば、全力でその好機を物にするしかないだろう。

 

 ただし、それにも重大な問題が……二つある。

 一つは、奴が時間を止めるタイミングが読めない事……。触れていれば無力化できると知ったところで、その予兆すら不明のままであればこちらも動いたところで不用意な行動となり意味はない……だが、

 

「……それからもう一つ。暁美ほむらの時間停止には発動するための条件がある」

「!?」

「……今思えば、あの時消えたのは盾の中に隠れたからじゃなかった。きっとあれも時間を止めてのうのうと立ち去っていたとしたら……」

「ッ!? ど、どういうことだ……!?」

 

 私の疑問に千景は応える。その千景の眼は、確かな確信と自信を宿していた。

 

「あなたがあの女に斬りかかる直前、あいつは自分の盾を呑気に弄っていたって言ってたわよね」

「あ、ああ……」

「思い返してみると私の時もそうだった……私があの女に斬りかかった時も、あいつは自分の盾を弄っていた。その直後にあいつは私の目の前から忽然と消えたわ」

「……!? 盾を……弄る……?」

「……より正確に言ってあげる……暁美ほむらが腕に身に付けている盾を、ぐるっと回したら…よ」

 

 千景が告げた盾を回すという動作。それを耳にした私は、頭がくらりとするのを感じていた。その動作は……

 

「そんな普通なら意味のない動作……乃木さん、あなたの時はどうだったのかしら?」

 

 その動作は……見た覚えが、ある……。完全に朧気であったその些細な仕草が、千景の言葉から鮮明に形と色を帯び始め、私の頭の中に映り始めていく……。

 あの瞬間、人を舐め腐っているかのように見えた奴の仕草……それはまさしく弄ると言うよりも……

 

「盾を……回していた……!」

「……決まりね」

「それなのか!? 奴が…時間を止める方法は!!」

 

 私も辿り着いた結論に千景は頷いた。

 今までは硬すぎる硬度を持った盾だとしか認識していなかった……だが、それが奴の有する異能の種でもあるというのか……。いや、そもそもがあの盾には異空間に繋がっているなどという、こちらも常識離れの性能もあったのだ。ただの硬すぎる盾だと思うなど、こちらにの考えが甘すぎたのだと今更だが後悔し歯噛みする。

 

 その露骨な怪しさを見落とした甘さがあの日の無様な敗北に繋がり、それによって結ばれた制約が、昨日の悲劇にも繋がったのであれば……!

 

「触れていれば、時間停止を事実上無効化できる……盾を回さなければ、そもそも時間を止められない……それが奴の弱点……」

「……でも色々言ったけど、弱点と言ってもあいつには他にも厄介な爆弾やバリア、底知れない翼の切り札がある。時間停止を無力化して、ようやく初めて同じ土俵に立てるようになるってことは念頭に置いておいて…………事実私は、盾を手放した状態のあいつに……負けたんだから……」

「……ああ、もちろんだ」

 

 ……問題点だった一つは千景が解明してくれたが、残ったもう一つ、今まさに千景が語ったばかりの難所はどうすべきか。

 

 二つ目の大きな問題、奴の豊富な強大なる力だ。爆弾、バリア、時間停止や異空間に繋がる強固な盾、怪しげな複数の使い魔、友奈を惑わせた記憶の改竄……そして球子を死の淵に追いやろうとした、絶大なる力を秘めた翼。分かっているだけでもこれら全て、もしかすると他にもあるやも知れんこれらの対処法を導き出さなければ、勝利はない。

 

「……千景……引き続き、共に作戦を考えてくれ」

 

 ……ならば、見つけるまでだ。

 

「奴をねじ伏せる手段を。これまでの全ての行いを永劫に後悔させるような、敗北を刻み込める術を、共に」

「…………あなたの口からバーテックスじゃなくて人間相手にそんな言葉が出るなんて、少し前まで想像もつかなかったわね……」

「……奴が、人間と同じであるものか…!?」

「………ッ!?」

 

 奴を人間などと思えるわけがあろうか……奴は、もはやバーテックスなんぞよりも悪質な、内側から侵食し厄災を齎す人類にとっての癌細胞に他ならない。

 

「暁美、ほむらが……お前を踏み躙った!杏を焼いた!球子を蹂躙した!友奈を弄んだ!! ……それを許して、なるものか……!! 死んだとて、許されるものか……!!」

「……」

「……この恨みは、奴自身が私に押し付けたものだ。奴が与えた憤怒の炎が、この身を燃やすならばこそ……その炎を燃やし尽くして、奴の全てを灰へと変える……!! 報いを与える!!」

「…! ……乃木、さん……」

 

 感情的になりすぎただろうか……だがこれが今の私の胸の内にある全ての想い。全てが、奴一人への怨みで渦巻いている怒り。

 奴を葬るために、我が身の全てを燃やし尽くしても構わない。そう思わせる程に、私の胸には憎悪が燻り続けているのだから。

 

「………………」

 

 千景はしばしの沈黙の後、一言だけ呟いた。

 

「………私も概ね、同意見よ」

 

 と。千景は私と同じく、私の怒りと怨みの炎を肯定してくれた。

 

 

「二人のトークは全て聞かせてもらったわ!!」

 

 

 突然、そんな一言が扉の外側から投げかけられ、私と千景は同時に視線を向けた。直後、扉は勢いをつけて開かれ、現れたのは……

 

「言いたい事は結構あるけど……でもまずは千景さん! やっとメンタルがリカバリーして良かったわ! みんな本当に千景さんのことを心配してたんだから!」

「……白鳥さん…?」

「っていうか若葉、千景さんの事を知っていたんだったらちゃんとみんなにシェアしなさいよ! なんだか久しぶりのグッドニュースだっていうのに!」

「歌野……お前……」

 

 突然の来訪者……それは歌野だった。普段の彼女よりも数倍増しのテンションになっているようにすら思えるが、それは本人が触れたように目の前の千景の事でだろうか。

 しかし歌野が身に纏っている気迫と言うべきか、雰囲気は……その高いテンションからは想像し難い、一瞬交わった瞳からはとてつもなく硬い決意を秘めているようにも感じられた。

 

「……聞かせてもらった、だと?」

 

 私と千景の会話を聞いていた……いつからだ?

 

「最初から、よ。若葉に話があって来てみれば、千景さんが若葉の病室に入っていくところが見えたものだから。いったい何かしらって思ってずっと扉の前で聞きイヤーを立てていたら……」

「思い切り盗み聞きじゃない。趣味が良いとは言えないわよ」

「あはは、まあまあ! えっとそれでぇ? 暁美さんの能力を全部ブレイクしてやっつけるためには……って時間停止って!! リアリィ!!? 暁美さんには本当にいっつもサプライズされてばかりだわ……!」

「……本当にしっかり聞いていたみたいね……白鳥さん、言い方に気を付けて。あの女を持ち上げているようにも聞こえて、心底不快よ」

「……しかし、聞いていたなら、話は早……い……」

 

 ……盗み聞きについてはこの際別に構わない。それよりもこの話を聞いて歌野も私達と共に暁美の打破に協力してくれるのならばなんとも心強い。

 中距離の敵をも速攻で討てる歌野の鞭は私や千景にはない優れた性能を誇っている。また鞭であれば、距離が多少離れていようとも伸ばして巻き付ける……千景の言った、奴に間接的にでも触れること……奴の時間を止める能力に対して、相性が良いのではないだろうか?

 

 …………だが、たった今の歌野の発言……一つだけ妙な違和感が一瞬あったように感じられたが……。そう、まさしく千景が指摘したかのように歌野の発言にはどこか、嬉々とした何かというか、感心しているかのような……

 

 ……いや、何を馬鹿な事考えているんだ私は……。確かに以前こそ、歌野は救われた恩からかあの外道をあろうことか友と信じ続けてきた。それでも度重なる裏切りに遭い、その愚かしさを思い知ったことだろう。

 だから暁美ほむらが今度こそ完全に敵と分かった今、歌野が以前のように奴を信じようとすることなどあるはずがない……あって良いはずがない。

 妙な違和感は勘違いだ……そうに違いない。

 

「若葉?」

「……そうだ。歌野、お前も奴を倒すのに……協力してくれるな?」

「そりゃあもちろん答えはノウッ!!」

「………はぁ?」

「………」

 

 ………白鳥歌野が、私の友が、そんなことを言うはずがないんだ。みんながあんな目に遭ったというのに暁美を信じるわけがない。

 万が一、億兆が一、目の前の白鳥歌野がそう言うのなら……

 

「若葉、千景さん。この際だからあなた達にもハッキリ言っておくわ。私は暁美さんに復讐する気も、見捨てて追い払う気も、これっぽっちも全くナッシングなのよ!」

「…………そうか」

 

 歌野と水都は暁美と一緒に四国に来た………最初から、仕組まれていたのだとしたら

 

 

 

 目の前の敵の味方は、なんなんだ?

 

 

 

お前は、誰だ?

 

「………みーちゃんが受けたヤバい神託……リアルにヒットしちゃってるじゃない…………友達で、仲間よ!! あなた達と!暁美さんの!!」

 

 机の上に手を伸ばした私は、そこにあった花瓶を掴み目の前のそいつに投げつけた。




 原作ではこのタイミングで温泉旅行なんですってね? いいなぁ……
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