ほむほむに転生したから魔法少女になるのかと思いきや勇者である   作:I-ZAKKU

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第八十三話 「存在証明」

 赤点回避……昨日からのあれこれを評価するなら、その言葉が一番しっくりくるだろう。

 

 伊予島杏の白く美麗な顔や腕を醜く爛れさせたのは芸術点を加算して75点。爆殺できてないばかりか何故あの規模の火傷で眼球は無事なのよ。

 土居球子を痛めつけたのは良くてもくだらない凡ミスで取り逃がす、40点。

 高嶋友奈も心身共にズタボロにしてくれたのはいい気味でも、端から息の根を止める気がない時点で論外。10点。

 

 鹿目まどかと、それから……あぁ、まったく、何百年経ってもうざいうざい。役立たずのお荷物風情がいつまでも一番足を引っ張ってくる。

 

 あの子には心底ガッカリだ。邪魔者を排除するとか宣いながら、結果はとことん中途半端。鹿目まどかを締め上げた時には舞い上がって変な声が出たというのに、何なのよあの理解不能の体質。意味がわからなすぎる!

 

 だからこの現状はつまらない。つまらなければつまらないしつまらないのがつまらなくてつまらないからつまらない。

 

ツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイ

 

「……それはそれで、最高に面白くはあるのだけど」

 

 意識せずとも、私の口元はニヤける事を止められなかった。最悪な気分に満ちているからこそ、予定調和で確定している全てが壊れた未来が訪れた時に降り注ぐ絶望が齎す快感が楽しみで楽しみで仕方がないのだから!!

 

「くふっ……フフフフ! ヒヒヒヒヒッ!! ……あらやだ、はしたない♡」

 

 片手で顔を覆っても隠しきれない程の笑みは、自分の事ながら気色悪いかもしれない。あらやだ、涎が……。

 

 まったく、本当に仕方のない子だこと。1周回って気分が良いから、あの子のこれまでの不甲斐なさも許してあげよう。

 音もなく出現した安楽椅子に身体を預け、手元に現れたティーカップになみなみと特製の紅茶が溢れ出す。腐った脳漿のような香り、腐臭を孕んだドブ汁のような味わいを嗜める。飲む度に冒涜的な吐き気を催す事ができて、その苦痛もまた格別だ。

 

 『デザート』があってもいいかもしれないが、今日はこれだけでも十分でしょう。今はまだ、『料理』の時間の途中なのだから。

 ティーカップを口元に当てたまま、私は上機嫌で思いを馳せる。香りを嗜みながら、その中身を口に

 

「…ッ!!」

「あら?」

 

 ティーカップが正面からの手に払い落とされる。視界の外でカップが砕け散る音に耳を傾ける暇もなく、眼前に迫った拳が私の顔面にめり込んだ。

 

「………!?」

「なに、来てたの? 悪いけど、おもてなしの用意なんて出来ていなわよ」

「ぐ…黙りなさい……この、ゲテモノが……!」

 

 青い顔をしながら、彼女は忌々しく唾を吐き捨てる。ほんの少しは口の中に入ったから、彼女も私と同じ味を感じたはずだもの。だいぶ気分が悪そう……いいえ、それ以前から彼女はグロッキーだったわね。

 

「まあ来てしまった物は仕方がないわね。歓迎するわ、ほむら♪」

「黙りなさい!!」

 

 本心からの和かな笑みを見せてあげたのに、この子はそれに気を留めることなく、鼻先で止まったままの拳は今度は胸元を掴んで一本背負いを叩き込んできた。

 

「どーーん♪」

 

 私の身体に激突した地面が砕け、崩壊する。

 

「な…!!?」

 

 彼女が立っている所も、地面に走った亀裂は瞬く間にこの虚構の世界中を駆け巡り、ガラス細工のように粉々に砕け散る。

 

「うそっ…うわぁぁあッ!!」

 

 底の見えない真っ暗闇に、彼女は為す術なく落ちていった。私は別に、その辺を適当に浮けるから。

 

「てちょっとちょっと、後先考え無し? まったくもう…」

 

 闇の中に消えてしまう前に、手を延ばす。100mくらい伸ばした所で身体にグルグル巻き付けてキャッチして、近くまでぐっと引き寄せた。その顔は驚愕に彩られている。そんなに驚かれると、悪い気はしないわねぇ。

 

「ハアっ……ハアっ……な、何なのよこれ……ぐっ! 離せ……」

「えっ、良いの離しても? それじゃあサヨナラ」

「っ!」

「あははっ! どっちよ!」

 

 解いて放り捨てようとした途端にしがみつく様が見るからに滑稽だ。あぁ愉快愉快、このまま落としてあげても良いけれど、ここまで来たのだから少しくらい相手をしてあげよう。

 

「で、どうしたの、ほむらちゃん? あなたの方からこっちに来るなんて意外だわ」

「っ……誰が好き好んでお前なんかに会いに来るっていうの……! ふざけないで」

「あら、やっぱりそう……ということは……ふふ、ふふふふふ!」

 

 私の顔を見て、彼女は歯噛みをする。その表情は実に悔しそうであり、憎々しげであり、そして何より恐れを感じていた。あらあら可愛い、素直な感情を見せてくれるのは嬉しいことだわ。

 

「何を一人で納得してるのよ……!」

「あなたがここに来た理由は大体察しがついたわ……あーあ、可哀想に可哀想に。うふふふふふ♡」

「お前は何を知っているの! 答えなさい!! 鹿目ほむら!!!」

 

 忌々しくその名前を叫ぶ。憎悪を込めて、怒りを孕ませて、恐怖を押し殺しながら……必死になって、ほむらはほむらに相対する。あぁ、ゾクゾクする……!

 

「……私の名前を呼んでくれるのね。嬉しいわ」

「やはり鹿目ほむら…………いえ、そんな事はどうでもいい! 私の質問に答えなさい!!」

 

 そんなに慌てなくてもいいのに。この子が知りたい事を知ったところで、決まった運命の歯車を変えることなんて出来ないのだから。

 

「あなたあと数ヶ月で死んじゃうのよ」

「……………え」

「なんちゃって。今のは嘘」

 

 意図せずお腹の底から気持ちの良い笑い声が溢れ出してしまう。だって今の、頑張って私を睨み付けていたのに私の言葉をすんなり真に受けて、理解できないといった間抜け面! ああもう可愛いわね本当に!!

 

 すぐさまもう一度、さっき以上に憤りながら睨んでくるけど、全然恐くない!! 

 

「素直に教えて貰えるとでも思った? ご自慢の讃州中学歴代1位の地頭使って自分で答えを導き出しなさいって!」

「このっ……亡霊が……!」

 

 

 

「亡霊?」

「……!」

 

 スーッと、魂の奥底から冷め上がるナニカを感じた。

 意味がわからない。なんだってこの子は、そんな的外れな言葉を口にしたのだろうか……

 

「誰が? ……私が?? …………何故???」

 

 気のせい気のせい。聞き間違えちゃった。あぁもう、ビックリしちゃって首がゴキャッと音を立てて90度傾いちゃった。

 だってこの私が、あんなに必死になってまで頑張ってきた末のコレが、あんな見当違いも甚だしいモノに収まるわけが

 

「………お前は……鹿目ほむら……なのでしょう。でもこの世界の鹿目ほむらとは、明らかに異なる存在……あまりにもかけ離れているバケモノよ」

 

 やめなさい。口を閉じなさい。

 

「その上で今、讃州中学とも口にした。この世界、この時代には存在していない学校……私の居た世界にしか存在しない学校を認識している」

 

 馬鹿な考えはやめて。

 

「もう1つ、これは以前の話。お前は私にこんな事を言ってたわよね……自分が私に長年寄り添ってきた半身だと。理解不能でも、となれば1つは解き明かすことができる」

 

 ヤメロ

 

「……お前は、私と一緒にこの過去の世界に飛んできた存在。私達の時代に存在していた奴だということになる」

 

 

 

「私達の世界の、私達の時代より300年前の鹿目ほむら……それがお前の正体でしょう? とっくの昔に死に果てた存在……生きている私に未練がましく憑きまとうそいつを亡霊と呼ばずに何と言うのかしら!?」

 

 

 

「ボウレイジャナイ」

「……ッ!!?」

 

 チガウチガウ。マチガッテイル。ワイショウナニンゲンノコムスメフゼイガ、フザケタコトヲイウナ。

 

「ワタシハ、シンデイナイ。イキノコッタ。ワタシノソンザイショウメイヲ、ヒテイスルナ。ワタシハワタシハワタシワタシワタワタタハハハ」

 

 イキテイル。ワタシハ。カナメホムラハ。イキテイル。

シンデイナイシンデイシンデナシシシイシンデイナイワタシハイマココニイルココニココココココニ

 

「……生きている♡」

 

 首が3780度くらい傾いた所で、彼女からの無神経な発言のショックも快感に変わる。

 亡霊亡霊亡霊亡霊亡霊亡霊亡霊亡霊亡霊亡霊……私は亡霊。うふふふふ、11週も回ってくると何かしら? その言葉が実に甘美な響きとしか思えなくなってきた。

 

「…………壊れてる……人の顔で、コイツ……!」

「そう!私は生きている……そして壊れている!! 正反対の二律背反が織り成す狂気の奇跡こそ、この私の存在証明……ふふ! ふふふふっ……」

「……コイツが………鹿目ほむら? あの……?」

 

 嗚呼、ほむらがこのかけ離れたギャップに戦慄している。その表情に至極満足……とは、残念ながらならない。ほむらが指している鹿目ほむらとは、この世界での存在でしかない……

 

()()って、あんなオドオドのうのうと生きてる、冴えない三つ編み眼鏡の小娘なんかと比較しないでもらえないかしら?」

「……違う世界とはいえ、過去の自分なんじゃないの」

「どうでもいいわ。違う世界の過去の自分だとしても、2人も居なくたって今生きているのは私だけで充分だと思わない?」

 

 だから、死んでくれないかしら。出来るだけ惨たらしく。呆気なく。それがここの鹿目ほむらに抱いている、ただ一つのお願いだ。

 

「だからさぁ、あなたにとっても鹿目ほむらは邪魔者なんだから、さっさと消して欲しいものだわ。生きていればバーテックスへの多少の露払いだとか何らかの利用価値があるかもしれないとか思ってそうだけど、事アレに対しては無いわよそんなもの」

「……言われなくたって、いずれ消してやるわよ。得体の知れないものバケモノのお前なんか……!」

「……ハァ……馬鹿ね、私じゃないわよ。あの眼鏡の事よ」

「どちらにせよ同じ事でしょ…!? お前を過去の存在の時点で潰せば、その先の存在のお前が生きている事に矛盾が生じる。タイムパラドックスがお前を殺すことになる!」

「…………へ?」

 

 思わず間抜けな声がこぼれ落ちる。呆気に取られて、ほむらを見つめた。この子は今、なんて?

 

「いや……え? なに? あなた、本気で言ってる?」

「……何よ」

「えっと……いや……その……私が言うのもなんだけれども、頭大丈夫?」

「はぁ?」

 

 言葉を選び過ぎた。いや、この言い方であっていただろうか。とにかく、私が思わず心配になってしまうくらいには彼女はおかしいことを口走ったのだ。だってそうでしょ? よくもまあそこまでトンチンカンなことが言えたものだわ。

 

 ………思い返してみればこの子、乃木若葉と高嶋友奈の2人だけは徹底的に叩き潰しながらも殺そうとしなかったわね。殺せる機会なんてあれほど溢れていながら。

 この子の考えを正とした時に、2人を殺した時のデメリットは…………ああ、なるほど!

 

「ブッッフォゥッ!!!」

「っ!?」

「アッハハハハハハハハハハ!!!! イヒヒィッ!! え!? 何!? 面白い冗談……いや冗談じゃないんだった!! 1人で無駄にコントして……ギャッハハハハハハハッ!!!」

「な、なによ……何が可笑しいのよ……!?」

「関係無いわよ! この世界の無能眼鏡が死んだとしても、私の存在が消えるわけがない! だって、世界が違うんだから!!」

「は……」

「ハァー笑った笑った……まぁ所詮は借り物の力だもの。時間遡行の能力を勘違いしちゃってさぁ!」

「時間遡行の…勘違い……?」

「ええそう、時間遡行は過去にタイムスリップする能力。だけど過去に飛ばされたその瞬間を境に、本来の時系列とは異なる、暁美ほむらという異分子が紛れ込んだ別の時系列が生まれ、分岐する。決して交わることの無い平行世界、パラレルワールドとしてね」

「……パラレルワールド……私の世界とは、違う…? つまり」

 

 流石に頭の回転は速いみたい。今度こそ本当の答えが導き出せたみたいだから、この口直々に答え合わせをしてあげる。

 

「あなたがこの世界でする事為す事善行蛮行一切合切、私達が元いた世界に及ぼす影響は1mmもない。この世界の乃木若葉を殺したとしても、子孫の乃木園子がタイムパラドックスで消えるわけじゃない。高嶋友奈を殺したとしても、元の世界で高嶋彩羽と羽衣が初めから存在しなくなるわけじゃない。尤も、この世界の300年後には存在していないのはその通りだけど」

 

 無駄な心配をし続けて、不要な加減で2人を殺さなかった。なんて愚かな勘違い。それさえ無かったらとっくに連中は失いの底だったはずなのに。たくさん笑わせてもらったけど、それだけは呆れ果てて物も言えなくなるわね……。

 

「それって、運命が……ループしていない……?」

「ループ?」

「そ……それじゃあ、あの勇者システムは何!? 世界が繋がっているからこそ、この時代にはないはずの、変な力を秘めた勇者システムは私の元に巡り来るんじゃないの!?」

 

 んー……勘違いの要因かしら?

 この子の勇者システムって……巫山戯きった存在のアレでしょ。

 

 ……おそらく、あの時の……

 

「だから私は……こうして過去の世界に来るのが運命なんじゃ……」

「はぁあ~~? ……なんの事だか。私の経験したかつての戦いの中で、同じ顔をした暁美ほむらなんて異分子は紛れ込んで来なかったわよ? その変な勇者システムも。白鳥歌野と藤森水都とか諏訪の連中だって、誰の助けも無くあの時死んだわけだし」

「……………」

「まぁ何はともあれ、変な勘違いを拗らせていたあなたに言うべき言葉は…………」

 

 

「ばぁ~~~~~か!!!!」

 

 耳元で叫んであげて、目の前の愚者の顔が露骨に歪んだ。私の心を一層踊らせてくれる、おもちゃにふさわしい道化っぷりだわ! 感情の高揚が抑えきれない!

 

「くっ……! 黙れこの……!」

「ハッ!?」

 

 ゲラゲラ笑う最中、あれ?と、考えが過ぎった。私、調子に乗って話さなくてもいい事をベラベラと喋った?

 

「…………これ私が何も話してなかったら、あなた向こうに戻ったらそのまま直で鹿目ほむらを殺しに行ってたんじゃ……?」

「…………その必要はなくなったみたいね」

「私もぶァーカッ!!!」

 

 ああもうどこまでほむらは愚かなの!? 千載一遇のチャンスだったのに、鹿目ほむらの確殺がぁ!!!

 

「…………なんなのコイツ……」

「くっ、………そうそう! もう変な勘違いも無くなったことだし……これで今度から邪魔者は躊躇する必要なく、じゃんじゃん消していけるわね~♪ 乃木若葉も高嶋友奈も、張り切ってぶっ殺しちゃえ!」

 

 気を取り直して、うんうん、そうじゃないそれでもいい! あの2人に対する露骨な手加減だって、もはや理由なんて無くなった。この子から積極的に動くかどうかはともかく、あの甘ちゃんが過ぎる高嶋友奈はともかく…………自分だけじゃなく仲間までもやられた乃木若葉が、何事にも報いを与える事を信条とするアレが、このまま何もしないわけがない。これはひょっとすると……期待しちゃってもいいんじゃないかしら♪

 

 永き時を経て、私の宿願が完璧な形で成就する瞬間を

 

「…………お前は……」

「うん?」

「お前はかつての仲間達に、怨みでもあるの? ……鹿目ほむら!!」

「仲間……ふふ、くふふふっ……」

 

 怒りたいのか不安から逃れたいからか、仲間を蔑ろにする事に思う所があるのか、糾弾するみたいに声を荒げるも、そんなものは小鳥の囀り程度にしか聞こえない。

 私のことが何も理解できなくて、目の前の堕ちた光から目を背けたいという感情が必死になって隠れようとしていた。

 

 信じられないに決まっている。あなた如きに私の事を分かった気になってたまるものか。

 

「怨み……ですって……そんなもの……そんなもの……

 

 

 あるわけがないじゃない。彼女達は私にとって、魂の奥底から信頼し支え合った唯一無二の宝。私が愛してきた、掛け替えのない仲間たちなんだから」

 

 

 

 

「だから私はそれがグチャグチャにブチ壊されるのを見ていたい!!!!泣き叫び、憎悪し、殺し合い、そして最後は全員で一緒に破滅を迎える大団円を!!!絶望一色の素晴らしい未来のために!!!!

 

 かつての鹿目ほむらの全てを否定するのが!!!この私の存在証明なのよ!!!!」

「…………な……なによ……それ……!?」

 

 かつて中途半端にしか果たす事ができなかった悲願を思い馳せる。夢物語の続きに目を輝かせる少女のように、恍惚とした表情を浮かべて。

 それがこの子供には理解できていない。ひどく戸惑っている様子だ。まぁ、当然と言えば当然だけど……それは良くないわねぇ。

 

「ねぇ? そのためにはあなたの力がもの凄ぉ~く、役立ってくるのよ? 彼女たちを誰でも良いから一人でも欠けさせてくれるだけで、あの子らの破滅が顔を出してくれる」

 

 1度崩壊を始めたら、それはもうとことん崩れるまで止まらない。絶望の連鎖という物は、止めようと思ったところで止められるわけがないからこそ絶望なのだから。

 

「ね? わかった?」

「………ふざけるのも……いい加減しなさい亡霊!! 連中も知ったことじゃないけど、お前の事も、その狂った望みなんかもそれ以上に知ったことじゃない!! 余計なことを抜かさないで……人間を辞めたバケモノなんか、存在すること自体が間違ってるのよ!!」

「ふ~ん? それじゃあ邪魔なアイツらを排除するのはもう止めるつもり?」

「……………」

「……シクシクシクシク……そんなぁ!! あんなに殺る気満々だったクセに、私への嫌がらせってだけでじゃあ止めますって、そんなのヒドイ!!」

「…………チッ」

 

 さめざめと泣き叫ぶ私に対して何て冷たい反応かしら? 無駄無駄無駄無駄。あなたは決して逃れることはできないの。その青く未熟な覚悟なんて、ただただつけ狙われるだけの存在にしかならないの。

 

「もうっ!! あんなに元の世界に戻りたがっていたのに!! 勇者部のみんなを悲しませても良いのね!?」

「………ぐ……!」

 

 ほら、簡単に揺らいだ♡

 

「間違いだらけのほむらちゃんでも、ちゃんと正解している答えもあるのよ♪ 彼女達に任せていたところで、あの子達はこの世界を救う事なんて出来ない。100パーセント、奇跡が起こったとしても、絶対にないって私が一番良く知っているわ」

 

 この時代の勇者は、どうしようもなく貧弱なのだから。たかが進化して強化された未熟な個体のバーテックス如きにさえ、命を削りながらでようやく対等になれる程度の性能で、身の程知らずの夢を見てる塵芥。気合いや根性なんかでどうこうできるはずがないでしょう。

 

 でも、この子なら……連中なんかよりも文字通り住む世界が違うこの子なら……奇々怪々、魔法みたいな未知の能力をも巧みに使いこなせるこの子なら……

 

「でも、連中の邪魔がなければ、あなたにならそれができるかもしれない。勿論1パーセントにも満たないギリッギリの、奇跡を起こさない限りありえない確率だけど、元の世界にだって帰れるかもしれないんじゃないかしら?」

「………」

「素直に受け取りなさいな。あなたにとっても、信じてもいい言葉だと思うのだけど?」

 

 期待を込めて、囁く。

 

「あなた、奇跡や魔法って言葉が大好きでしょう♡」

 

 

絶 対 無 理 だけど☆

 

 

「…………お前がどれだけ吹聴しようとも、私は私の為だけに動く!!」

 

 相も変わらずで睨みつけてくる瞳には色々混じっている。怒り、恐怖は勿論ながら、そこにはちゃんと、今の言葉を貫き通す、目的を果たしてみせるといった決意もある。

 

「うふふふふふ……」

 

 それでいい……希望は持っていないと意味は無い。

 人が絶望に堕ちる時、それは希望に裏切られる時でないと意味は無い。

 

「ファイト」

 

 嘘じゃない、この私から贈る、正真正銘本物の気持ちを込めた言葉には、その言葉通りの意味しか込めなかった。

 

 彼女にもそれが届いた時、この延びた腕で捉えていたはずの彼女の姿は無くなっていた。

 もう現実の方で彼女の意識が戻る頃合いだろう。腐っても精霊の加護は優秀だ。あんなになってもちゃんと命を繋いで目覚めさせてくれるのだから。

 

 

 

 

「さて、お楽しみはこれから……」

 

 カウントダウンは始まった。

 

 

 

 ───あなたあと数ヶ月で死んじゃうのよ

 

 ───なんちゃって。今のは嘘

 

 私が破滅を求めているのは、この時代の勇者や巫女達だけじゃない……当然そこに含まれていなくちゃおかしいでしょう?

 

「何人足りとも、そいつに定められた運命を変えることなんて出来はしないのよ……フフ、フフフ……アーッ八ハハハハハハ!!!!」

 

 頑張って、死に物狂いで全てをかなぐり捨てて。

 戦え。希望に裏切られるその時まで。

 

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