蘭と小五郎が可哀想かも……。
犯人の名前はありません。
江戸川コナン。本名、工藤新一。本来は高校生である。
しかし、今は小学生。
謎の黒い男達の取引を見てしまい口封じにと飲まされた薬で、なぜか子供になってしまったのだ。
行き場が無く行き倒れていたところを、カーマン家に拾われたのは記憶に新しい。
アロクド・E・カーマン。
レミディタナ・カーマン。愛称は、レミー。
死体以外は何でも売ってますという、海外から越してきた何でも屋で、二人は養父と養子の関係で血縁関係は無いそうだ。
40代そこいららしいが、ハッキリ言って40代の肉体じゃないアメコミ並みの筋肉の体に、白髪多い少々老け顔のアロクド。生まれつき銀髪のレミーは、細マッチョで、混血なのか東洋人を思わせる肌色をしている。
聞くところによると、レミーは、飛び級ですでに大学を卒業しており、日本に越してきても、今更学校に行くのもなんだということで18歳だが学校には行っていない。その代わり店を手伝っている。
……正直なぜ客が来るんだ?っと言いたくなるような乱雑したゴミ屋敷にも近い有様な店である。
しかし、本当に死体以外は置いているらしく、来る客の要望にすぐ応えて売る。
普通の掘り出し物から、怪しいブツまで……。品は多種にわたる。
子供の姿にされてしまったところを拾って貰って、しかも住まわせてもらって、怪しまれないよう小学校に行く手続きまで全部してくれたことには感謝してもしきれない。
物珍しいモノがあるということで噂は、すっかり広まっていて、そこに新一だった頃のガールフレンドである蘭が小五郎と共にやってきてから、うまいこと取り繕ってくれて、蘭との関係を繋げてくれた。
三流探偵の小五郎を利用する形ではあるが、阿笠博士からもらった変声アイテムで小五郎の声で難事件を解決させるという形で探偵業もしていた。
そんなこんなで小五郎の名は、眠りの小五郎として警察関係者に頼られるほどにまでなっていった。
しかし、コナンは、まだ真なる意味での殺人鬼というモノを知らない。
それは、アロクドもレミーも思っていたことだ。
そして、地獄はある日突然やってくる。
山奥にある隠れた名所として知る人ぞ知るお宿に、毛利小五郎一家と、そのついでとしてカーマン家(コナンもいる)が招待された。
一見するとコテージを思わせる宿泊施設だが、自家製ハム、ベーコン、ソーセージが売りで肉料理が絶品だという。
宿を経営している主人の男も感じが良く、とても穏やかで接客態度も素晴らしい。
お土産にいかがですか?っと、試食にハムの切れ端をもらった際に、アロクドとレミーは、ピクッと止まった。
「コナン…。喰うな。」
レミーがヒソッとコナンに声を掛けた。
「いやー、美味いっすね! こんな美味いハム初めてだ!」
時すでに遅く、小五郎と蘭がハムを食べていた。その絶品な味に心底驚いており、勧めた主人の男も満面の笑顔だ。
夕食には、名物の肉料理がたっぷりと並べられた。
翌朝は、ベーコンエッグで、ベーコンの美味さに小五郎達は驚いていた。
大満足げな宿の主人の男に、昨晩からなにも食べていないアロクド(レミーもコナンも食べてない)が不意に言った。
「炭火で丹精込めて焼かれて絶妙なレア具合の臀部のステーキ。脳を丹念にすりつぶして絶妙な塩加減のパテ。舌を長時間煮込んでトロトロになったタンシチュー。切れ端の肉を余すことなく使ったミートパイ。指や骨を長時間煮込んで出したスープ。人肉ベーコン、人肉ハム、人肉ソーセージ…、どれもこれも、おもてなしの心が込められた絶品だ。」
「おお! おおおお! 分かりますか!?」
宿の主人の男が顔を輝かせて反応した。
途端、アロクドとレミー以外の者達がギョッとして宿の主人の男を見た。
「私は、人をもてなすのが何よりの幸せなのです! ですから特に料理には最高の材料をと何年も何年も追求に追求を重ねてきました!」
「そして、たどり着いたのが、人肉だったと?」
「そうです! 人間は、クジラと同じで捨てるところがほとんどありません! いやー、天下の毛利小五郎さま御一行様方をおもてなしするため…、選りすぐりの材料を私の手で処理して、丹精込めて調理しました!」
「あ、あんた…、何を言っているのか…分かってるのか!?」
「毛利様、わたくしのおもてなしはいかがだったでしょうか?」
「う…っ!」
「蘭!」
蘭が堪えきれない吐き気に、その場で吐き戻した。
「まさか…、もてなしの為だけに殺人をやったってのか!?」
「ええ? そうですが? ご満足いただけませんでしたか?」
「できるわきゃねーーーだろうがーーー!!」
「えっ? えっ?」
「小五郎さん、こういうタイプには説教は無駄だ。」
「アロクドさん、あんたは、なぜこの男が犯人だと分かったんだ!?」
「匂いかな?」
「はっ?」
「過去に…、人肉ハムを売りにしていたモーテルあったのを知っている。そこと似た匂いがした。まさかと思って、レミーに倉庫を調べて貰ったら、まあ…出るわ出るわ…、土に埋めた人間に催眠をかけるための玩具みたいな装置と、催眠をかけたら絞めるためのトラクター……、人間の油が染みこんだロープ。主人さん、あんた、この宿を初めてからハムとかを売りにし始めたのはどれくらいだ?」
「えーと、2年ばかりですかね?」
「お土産売り場に置いてあるハムの数からしても…、昨晩出された肉料理の量にしても…、ひとりや二人じゃないのは間違いないだろう。」
「はい、毛利御一行様方のため、最高の部分を余すことなく使うため、5人ほど…。」
次の瞬間、小五郎が耐えきれなくなり宿の主人の男を殴り飛ばした。
「???」
男は、なぜ殴られたのか分からないで混乱していた。
その様子に憤怒の表情を浮かべた小五郎が男の胸ぐらを掴んで、怒鳴りつけようとすると、アロクドが無駄だと言った。
「その男は、あくまでも“最高のおもてなし”のために食を追求した結果、殺人に至ったってタイプだ。罪悪感も糞も無い。説教するだけ無駄だぞ?」
「しかし!」
「あ、あの…、わたくしめのおもてなしがお気に召しませんでしたか?」
男は殺人に対する罪悪感の欠片もなく、ただただおもてなしが上手くいかなかったことに困惑していただけだった。
その後、警察が来て、行方不明者の名簿に載っている人間の所有品が大量に見つかるという事があったりしたのだった。
また調理場の冷蔵庫と、宿の裏にあるハムなどの製造場を見て、警察があまりの光景に嘔吐するほどであったとか。
この殺人鬼の殺人動機は、『最高のおもてなしのため』ですね。
あくまでおもてなしのための食材調達としてしか認識していないため、罪悪感の欠片もない。
コナンにより、有名になった毛利小五郎を最高のおもてなしで満足させたい、ただそれだけだったのです。
肉料理を名物にしてから、どれだけの犠牲者が出たのかは……、ご想像にお任せします。