とりあえず、普通の手段は諦めていいですか?『完結』 作:サルスベリ
思いついたことをフワッと形にする。
それがサルスベリでございます。
今回は鬼滅の刃。
理不尽は人か、鬼か、それとも?
散切り頭を叩いてみれば、文明開化の音がする。
「授業で習ったような」
かなり昔のことだから、ちょっと思い出せないのだが、必死に思い出そうとしても出てこないもどかしさ。
「まあ、いきなり森の中だからなぁ」
普通に帰宅していたはずだった。久しぶりの我が家に帰れる、長い長い、とても長くて三年はかかった任務の帰りだったはずなのに。
自宅に帰ったら何をしよう、今まで撮りためたアニメとか見てみようか、新作をやっていないか、外部と遮断されていたから、世間の流れがよく解らないので、帰ったら情報ネットを隅から隅まで見るつもりでいたのに。
なんで森の中。
転移させられたか、あるいはトラップに引っかかったのか、それともまた軍のお偉いさんが『あいつ暇じゃね? 暇そうだよな、暇なら紛争地帯にぶち込もうぜ』なんて行って、強制転送したとか。
最後のが一番、有力かなぁと。
「はぁ、まったくさぁ。ところで」
チラリと彼は自分の足元、転がっているものに視線を向けた。
「てめぇ!! 人間が何してんだよ?! 俺の体を何処へやった?!」
「うわぁ~~生きてるよ。え、なにこいつ、BETAの亜種? それとも調整体? エイリアン系は勘弁してくれよな」
「ふざけんな! おまえこそ何者だ?! 俺は鬼だぞ!」
「え? いやマジで? え、マジもんの妖だったの?」
「知らないのかよ?!」
首だけになって騒ぐ馬鹿を眺めていた彼は、ちょっと引いたように体を動かし、その場に崩れ落ちる。
「うわぁ、妖怪の関係者って。なんでそんなところに飛ばすんだよ。妖怪だったら、もっと対応可能な奴がいるだろうが」
「てめぇ食ってやるからな! 俺の体が再生したら食ってやるからなぁ!!」
「しかも食人種族って。危険宙域に迷い込んだ、いや待った、それなら事前報告があっていいはずなのに」
「てめぇいいかげんにしろよ!! あれ、なんでだよ、なんで俺の体は再生しないんだよ?!」
「再生しないって、あんた弱いランクだったの?」
「ふざけんなぁぁ!! おまえ鬼殺隊だったのか!?」
「鬼殺? え、いや俺の手駒にはいないけど」
なんだろう、何か決定的にこの生首、自称『鬼』とは話がかみ合わない。どうしよう、誰か呼ぶか、それとも銀河連邦あたりに通信を入れて。
そこまで考えて、彼こと『アベル・T・タンロッドレンド』は、深く息を吐いた。
現実逃避は止めよう。もう十分に可能性を模索したではないか。
「あ、うん、良し。で生首殿、今の時代を聞いてもいいかな?」
「人を話を聞けよ人間! 今は大正だ!」
「ありがとう~~お礼に今の時代では発見されていないものをあげよう」
「な・・・・」
そして光が生首を消し去った。
「・・・・つまりあれか、転位とか転送とかじゃなくて、ボソン・ジャンプの事故か、時空乱入に巻き込まれたってことか」
アベルは結論を出して、盛大に叫んだのでした。
「タイムスリップなんていきなり起きるもんじゃないだろうがぁぁぁぁ!!!」
アベル・T・タンロッドレンドは、二十五歳の青年だ。黒髪に黒色の瞳、といったご先祖様の遺伝子を色濃く受け継いだ、一族でも珍しい風貌をしている。
普段の職業は銀河連邦嘱託魔法師。
ご先祖様が色々とやからしたり、世界中に転生者が溢れた結果、そのスキルが子孫に受け継がれた世の中において、ありふれたような職業を持っているので名前だけ聞くと、『普通だろうな』と言われることが多い。
しかし、だ。彼の名前は銀河連邦か、それに反乱しているテロ集団からしてみれば、『え、あいつ』と顔をしかめたくなるくらいに、有名な人物でもあった。
『歩く最終兵器』、『自重を忘れた馬鹿』、『チームワークや集団戦が壊滅的に苦手』、『追い込まれると酷いことを平然とする危険物』と言ったものがあるくらいに。
身体能力的には彼は、他の軍人に遠く及ばない。一般人と比べても、劣るくらいに身体的能力値は低い。
その一方で、『軍勢のアベル』と呼ばれるくらいに、彼の能力値はその一点だけは飛び抜けていて、彼自身も『そうであるなら』とそっち方面に伸ばしていった。
必死に頑張った、必死に努力した、色々な道具を作成しては頑張った。一族の誰もが『大丈夫』と言った時も、頑張るといって夢中で能力を伸ばした。
そして、一族の全員から『いやお前ね』と呆れた顔を向けられたアベルは、今はその能力値を持って誰からも恐れられるほどになったのだが。
なったのだが。
「大丈夫ですか?」
「はい」
その能力以外は、壊滅的に低いのがアベルだったりする。
「本当に大丈夫ですか?」
「はい、あの、大丈夫です」
森の中、能力を使うなんてことは無理でした。しかたないので歩いてみれば、行けども行けども街はなく。人の暮らしている場所さえもなく。
出会うのは人、ならば良かったのですが、出会うのは鬼ばかり。どうしてこう鬼ばかりに出会うのかと愚痴を言いながら、突き進んだ結果。
どうにか辿り着いた場所で死にかけています。
「すみません、山歩きになれていなくて」
「そうですか。でも、ここは街道としては開けた方だと思いますけど」
「え?」
アベル、そっと来た道を振り返る。舗装されていない、泥だけが視界に入る。田んぼがある、田園風景が広がる。
「え?」
「はい」
声をかけてくれた女性に、冗談ですよねという意味で指差しながら顔を向けると、彼女は笑顔で頷いていた。
そうか、ここは大正か。大正ということは、飛行機も自動車もないのか。
アベルはそんなことを思いながら、どうにか腰を上げて立ち上がる。
「ありがとうございます、もう大丈夫です」
「そうですか、それではお気をつけて」
「はい」
綺麗な女性だったな。アベルはそう思いながら、蝶の髪飾りをつけた黒髪の女性と別れた。
街らしき場所についたアベルは、とにかく資金を集めることにした。
人の世は、何時の時代もまずはお金。何をするにしてもお金。
バイトでも探せばと考えていたが、今の時代はほとんどが肉体労働。頭脳労働もあるにはあるが、身元が怪しいアベルを雇ってくれる場所などなく。
結果、肉体的な能力値は低いアベルは今日も賃金を手に入れられず。
「まったくもう」
宿も取れずに野宿することになったのですが。
「人間だぁぁ!!」
「美味そうだなぁ!」
「はいはい」
鬼ってこんなに多いものだっただろうか、オーガが間違えて名乗っているだけなのでは、知りあいにオーガ使いはいなかったから、彼らが鬼と名乗っているオーガなのか解らないけど。
「ああ、お腹すいたなぁ」
非常食は、持っていない。帰宅だけだったから、持ち歩くこともないと油断していた。
「おまえなんだよ?!」
「人間じゃないのか?!」
また別の声がして、自称『鬼』が次々に飛び出してくる。
「人間だよ、失礼な」
「なんで人間が」
言葉の途中で、鬼の体が細切れに『焼かれた』。
「何したんだよおまえ?! 俺達は首を落とされなきゃ死なないんだぞ!」
「え、そうなの? それにしては今まで出会った『自称鬼』は死んでるけど?」
「だからおかしいんだよ! 俺達は日光か、鬼殺の奴らの刀じゃなきゃ死なないはずなんだぞ!」
「へぇ、そうなんだ。じゃ試してみるか?」
いいかげん、鬱陶しくなってきた。
「周辺の生命反応」
アベルの声に反応して、空中にモニターが開く。
『鬼』の反応多数、続々と集まってくる。人間らしい反応はなし、動物の反応もなし。範囲内に『鬼以外』は存在せず。
「街から頑張って離れて良かった~~」
「余裕ぶってんじゃねぇぞ! おまえは逃げられないんだからな!」
「あ、うん、そうだね。でもそれって」
アベルはにっこり笑って、ゆっくりと指差した。
「そっちも同じでしょ?」
森が揺れ、鬼が次々に姿を見せた。
「久しぶりだけど、上手く使えるかな。さてと」
そしてアベルは『唱えた』。
The goal of all life is death。
彼の背中に現れる時計が、ゆっくりと時を刻む。
鬼達はいきなり現れた時計に怪訝な顔をして、動きを止めてしまう。
「いやそこで止まるか普通。本当に、『魔法』を知らないんだぁ」
「何言って」
「遅いって」
アベルの背で時計の針が十二時を示した。
「やっぱ死ぬじゃんか。あ~~腹減った」
森が消え、鬼が消え、白い砂が広がった場所の中心で、アベルは大いに嘆いたのでした。
アベルにとって、魔法は馴染み深いものであっても、常用出来るものではない。彼が使える魔法は、たった二つ。
あの魔法は威力に優れ、範囲に優れてはいるが手加減できずに使用状況が限定され過ぎている。
もう一つは、はっきり言って攻撃力はない。『手駒』の一つの性質上、どうしても必要だったから学んだものだ。
「お腹、すいたな」
砂浜を何とか抜け出して。正直、そこが最も死にそうになったのは、笑い話にしても笑えない。
また街に戻ってと考えていたアベルの前に、鬼が立っていた。
「おまえが・・・そうか」
六つの目、片手に持ったかなり巨大な刀。七支刀が確か、あんなような形ではなかっただろうか。
「えっとどちら様ですか?」
「あの方が・・・・・気にされている・・・おまえを」
「どちら様が?」
フッとアベルの背に冷たい何かが落ちる。これは知っている、解っている。確かに何度も味わったことがある。
これは、殺気だ。
「月の呼吸」
全身が総毛立った。相手の危険性が、相手の攻撃が確実に自分を殺せると解った。
だからアベルは容赦しなかった。
「壱の・・・」
「撃て!!」
光が六つ目の鬼に降り注いだ。
今の時代では開発できていないビーム兵器、プラズマを精製したとか、重金属粒子を使ったとか、色々な種類がある中で、アベルが使うのは『GN粒子』を使用したビーム兵器。
つまり、『太陽炉』のエネルギーを使用したもの。
オリジナルの技術が紛失した中で、アベルの一族は執念でそれを生み出した。
『つまりさ、小型の太陽を入れておけば『太陽炉』じゃね?』。
『おまえ頭いいな!』。
なんて会話が、ご先祖様達の間であったとか。
「太陽が弱点なら、そのエネルギーで作ったビームは天敵だろ?」
「貴様・・・・何者・・・だ?」
「ただの迷い人だよ。今までの鬼とは違うんだな」
「私は」
「まあ、容赦しないけどね」
手足に穴が開いても立っている鬼に対して、アベルは少しも油断しなかった。
戦場では油断したものから死んでいくのだから、出し惜しみなんてしない。
「真・ゲッター」
二人の上空に影が踊る。月の光を背にして浮かんだその姿は、『鬼』のように見えた。
「ストナーサンシャイン」
「お前・・・は」
六つ目の鬼が何か言いかけた時、光が彼を吹き飛ばした。
「アベルって名乗ったろ?」
彼は小さくそう呟いた。
『軍勢のアベル』。
小さいものはナノメートルから、巨大なものは全長一万メートルにも達するほどの様々な『機動兵器』群を、たった一人で操ることからそう呼ばれるようになった。
身体能力は壊滅的、子供にも負けるんじゃないかってくらいに運動音痴な反面で、彼が指揮下の機動兵器群を従えたなら、国家とも戦争できると言われている。
しかし、だ。そんな彼でも手駒達を従えても、出来ないことがある。
それは。
「こら新入り! テキパキと動けぇ!」
「は、はい」
資金を得るための労働、つまりバイトである。
「おまえさん、役にたたねぇな」
「すみません」
今日も彼は現場の親方に怒られつつ、頑張って日銭を稼ぐのでした。
フワッと思ったことを、フワッと形にしてみました。
原作ファンの方、深くお詫びします。
『日光が苦手って、太陽光のどの部分に反応しているのかな』とか、『細胞を焼き尽くしたら再生する細胞がないから、死ぬよね』なんて思ったのが、始まりでございます。
太陽炉を使ったビームとか、もしかしてマクロス・キャノンとか、あるいは波動砲とか。あ、バスターランチャーでもいいのかな。
周辺被害を考えなければ、いけるはずとか思ったりして。
ちなみに、アベルのもう一つの呪文は『ラナルータ』。昼夜を入れ替える呪文なので、鬼が集まった時に昼夜逆転させたら面白いねって思いました。
これともう一つ、没ネタとして『人を食らう鬼がいるなら、その鬼を食らう何かがいてもおかしくない』って、何処かの神父様みたいな発想もあったりします。
では最後に。
原作ファンの皆様、鬼と剣士の戦いが好きな方々、申し訳ありませんでした。