とりあえず、普通の手段は諦めていいですか?『完結』 作:サルスベリ
フワッと思いつく話を並べていくと、フワッとした話になるんじゃないかって思ったら、暴走特急のように走りだしていた。
追いかけても追いつけなかった。
世の中は大変です、色々な苦労が皆さまにはあるでしょうから。
こんな駄文でも『フフ』とか笑ってくれるよう、頑張ります。
さて、今回は真面目に、真面目?
皆さん、大変です、真面目が迷子です、誰か捜索願をお願いします!
炭治郎は思う。
一番の年下はひょっとして自分ではないか、と。
炭治郎は考える。
この状況をどうにかするのが自分だなんて、世の中が間違っていないだろうか、と。
炭治郎は思考する。
アベルが原因だなんて、どうしようか、と。
炭治郎は推察する。
現在の状況を考慮して最もいい打開策を見つけない、と。
炭治郎は気づいた。
つまり、『鬼滅』にいたころと変わらない、と。
「アベルさん」
「え? 俺が悪いの?」
「がんばりましょう! 男ですから!」
謎の応援を受けて、アベルは思った。
『え、それって俺がどうにかするってことか』なんて。
竈門・炭治郎は責任転嫁を覚えた。純粋な少年になんてことを覚えさせるのか、この『軍勢』は畜生である。
「何の騒ぎだ?!」
「やべぇサツだ!」
何故か、アベルがそんなことを言って背中を向けた。
サツってなんだろう、誰もが顔を見合わせている中で、彼は素早く動いて。
「秘儀! ストナーサンシャイン目潰し!!」
そして、巨大な太陽が警察官達の目を眩ませたのでした。
後に真・ゲッターは語る。
『俺の主、あんなことで呼び出して。マジでハンパねぇな』と。
鬼にとって、弱点ってなんですか。
日輪刀で首を斬ること。
それだけですか。
後は太陽とか。
「殺す気か?!」
「申し訳ありません」
青年というか少年というか、男の鬼の言葉にアベルは土下座中。
「なんだあれは?! あんな太陽がどうして出てきた?! あのでっかい赤鬼はなんだ?!」
激昂する彼の背中を炭治郎が『まあまあ』とか宥めている。鬼と見たら即滅してきた少年が、鬼を気遣うなんて。明日は槍が降るかもしれない、なんてアベルは思っているが、土下座は止めない。
「女性の敵」
「鬼畜」
カナエとしのぶのゴミを見るような目線が止まらない。いくら相手が鬼とはいえ、女性を縛って放置してそのまま焼き殺そうとするなんて。
理由を言われたアベルは反論しようとして、言葉を飲み込むしかなかった。待ってほしい、あれは光だけで熱量はない、攻撃力はないんだ。
ちょっとアレンジしてミッドチルダ式の術式が入って、魔力ダメージでノックアウトとかできるけれど、今回は当てるつもりはなかったから、セーフなのに。
「ユシロー落ち着けって」
「止めるな炭治郎! こいつは珠世様を殺そうとしたんだぞ」
「え、俺もだけど」
思わず口に出してしまう炭治郎。
ピタリと止まり、一瞬で顔を向けてきたユシロー。もう漢字を諦めて、ユシローでいいやと考える誰かがいますが、それは今は関係ありませんので。
「・・・・・・・おまえ、まさか、『日の呼吸』の」
「いや俺のはヒノカミ神楽だけど」
「その耳飾りは?!」
「あ、これは」
「まさかおまえは!!」
驚愕に染まった顔をするユシローに、炭治郎はニヤリと似合わない笑みを浮かべて耳飾りを持った。
「やっぱり鬼なら解るんだな。これはな」
「それは!!」
「外して放り投げると、太陽爆弾になる」
自信を持って胸を張って、盛大に答える炭治郎。
「・・・・・・・・・」
ユシロー、指をさしたまま硬直。いやそうじゃない、なんて言葉が彼の顔に書いてあったが、誰もが読み取ろうとしない。
「威力が高めだから使いどころが難しくて。前に使った時は五メートル範囲が消えちゃってさ。大変だったんだ」
「いや、あれはおまえが悪い」
「アベルさんがやれって言ったんじゃないですか」
「何処の世界に流刃若火の炎を込める馬鹿がいるんだよ」
「ここにいます」
胸を張って自分を指差す炭治郎に、アベルはため息をつきたくなった。普段はとても優しく穏やかな少年なのに、鬼関係になるとどうしてこう常識を投げ捨てるようなことをするのか。
鬼が常識の範疇にないから、相手をすると常識を投げ捨てたくなるのかもしれない。アベルは不意に世界の真理に辿り着いた、このままなら知り合いの魔術師が言っていた『根源』を理解できるかもしれない。
「そ、その耳飾りの文様は何処から?」
どうにか場をシリアスに持っていこうと、ダメージが抜けきれない珠世が動いた。
「これは竈門家に代々、伝わったものです」
「では貴方は」
彼女は何かを言い掛け、口を閉じる。その瞳に映るのは、羨望かあるいはようやく見つけた光明か。
「皆さまにお話があります」
決意を秘めた顔で、珠世は全員を見回した。
「鬼の首魁、鬼舞辻・無惨の目的についてです」
彼女の言葉に、誰もが息を飲むように黙った。
路地で話すものではないから、と宿まで戻ってきた一同は重い沈黙が支配していた。
カナエとしのぶからしてみたら、長い間、鬼殺隊が追い求めてきた元凶、その目的を知ることができる。けれど、相手は鬼だ。無惨の手の者が、本当に真実を話すかどうか、疑問が残る。
炭治郎にしてみたら、鬼とはいえ、こう慣れ合った仲。言葉に嘘は感じられないが、鬼を問答無用で斬ってきた彼からしたら、同じ場所にいて話を聞くなんてことは、何処かむず痒い。
そしてアベルにとっては。
「鬼舞辻・無惨の目的は『青い彼岸花』、そして太陽の克服です」
鬼の最大の弱点の無力化。思ったよりも大きな話だとカナエとしのぶは感じて、考え込む。
今まで鬼を倒す時は日輪刀を使うか、あるいは日の出まで粘れば勝てた。それが太陽の光でも死なない、滅びなくなったらどうなるか。
夜の間の警戒では終わらない、一日中の警戒しなければならない。何時、何処で、どんな形で襲ってくるか。今まで日の光が差さない場所に注意していれば良かったのが、それを鬼が手にすることで警戒する場所が跳ね上がる。
それに戦闘時間も増加する。今までは短期決戦だった。どちらにとっても、制限時間があって、それを過ぎたら倒せなくても回避できたのに。
ギュッと知らず知らずのうちに、カナエは拳を握っていた。
鬼殺隊の基本的な戦術が崩れる。日輪刀を持って鬼に対応し、日の光を利用してきた戦い方ができなくなる。
しのぶはひたすら考え込む。太陽の光を克服したなら、自分が使っている毒への耐性は。どのような毒が効いて、どのような毒が無効化されるのか。また一から情報を仕入れないと。
鬼殺隊の二人が考え込んでいる中。
炭治郎は『そうなんだ』と考えていた。
今までは夜だけ。日中もわざと影を作って誘い込んでいたのに、もし鬼の首魁がそれを手に入れて太陽の光を克服したら。
昼間も攻めてくる。あの鬼達は、夜も昼も関係なく。
「好都合、かな」
ポツリと炭治郎は呟いた。
「今、なんて?」
珠世の問いかけは、驚きと共に告げられた。まさか、そんなはずはない、と。絶望的な状況ではないか、鬼が太陽の光を克服したら、どれだけの犠牲が出るか。
「好都合かなって。俺達にとっては鬼が来てくれたほうが、やりやすい」
「貴方は、これがどんな状況になるか解っているのですか?」
「解っています。鬼がそれを目的としているなら、それを確保できたら、鬼の目的を一本化できる。それなら、後は迎え撃てばいいだけ」
「鬼を迎え撃つ? 貴方は鬼殺隊ではないのですか?」
信じられないものを見るような珠世に対して、炭治郎は小さく首を振って答えた。
「俺達は違います」
『鬼滅』の名前は出さない。何処で鬼が聞いているか解らないから。情報の秘匿の重要性はアベルから嫌というほど叩きこまれた。
敵の情報を残らず集める。味方の情報は一ミリも与えない。それが、戦場で戦う時に味方の損害を減らすことになる。
だから、炭治郎は珠世とユシローに自分の所属を告げずにいる。
「鬼を迎え撃つなんて、そんなことをは・・・・まさか」
珠世には思い当たる場所があった。
鬼舞辻・無惨の手勢が攻めても、一匹も戻ってこなかった場所。幾つもの鬼が向かい、一人も戻らなかった街。
人間にとって天敵が鬼としたら、鬼にとっての天敵はその場所。鬼達にとっての『死地』。
「貴方は、貴方達は」
珠世はそう問いかけ、それ以上は言葉にしなかった。
ただ真っ直ぐに見詰めて微笑む炭治郎に、かつての『剣士』の姿を重ねていいた。
唯一、鬼舞辻・無惨を追い詰めたあの方の幻影を。
「どうか、お願いします」
彼女は静かに腰を折った。自然と頭を下げ、願うように言葉を紡ぐ。
「鬼舞辻・無惨を倒すため、助力を。どうかお願いします」
今にも泣きそうな声だなと、炭治郎は感じた。彼はそう思いながら、辛いとか苦しいって匂いを嗅ぎ取っていた。
悲しみと苦しみと、辛さと苦痛。そんなものが彼女から流れていることに、少年らしい心が憤りを叫んでいる。
こんな人が、鬼になっても傲慢にならず、人間相手でも頭を下げられる人が、苦しんで生きていることのないように、悲しんで毎日を過ごすことがないように。
できれば助力したい。今すぐに『はい』と答えたいが。
「俺には、貴方に答えることができません」
彼の中の『鬼滅』としての責任感が、即答を止めさせた。
この身が一人であれば、組織の人間でなかったら、すぐに答えられたのだろうけれど、自分は『鬼滅』の竈門・炭治郎。
自分がはいと答えることは即ち、『鬼滅』全体を巻き込んでしまう結果になる。
鬼は滅ぼす、残らず消す。その誓いで出来上がった都市だから、鬼舞辻・無惨を葬ることを否定する人はいない。
でも、それが鬼からの情報で動けるかというと、半分くらいは否定してくるだろう。鬼に身内を殺された人はいなくとも、鬼による悲劇を多くの人が知っているから。
「そう、ですか」
頭を上げた珠世に、表情の変化はない。ただ少しだけ瞳が揺れて、悲しそうな匂いがした。
隣からは強烈な怒りの匂いがしてきたが、無視しよう。
「俺には無理です。でも、俺の父なら、あるいは」
炭治郎ができるのはここまで。珠世の真摯な態度に答えなかった不義理に対しての、謝罪のようなものはここまでしか出せなかった。
「解りました」
「父には知らせておきます。御二人が来たら、丁重に出迎えてくれるはずです」
「御配慮、ありがとうございます」
再び一礼する珠世に、炭治郎も頭を下げた。
そして人知れず、ギュッと拳を握った。自分は、こんなことしかできないのか、と。強くなったつもりでいたわけじゃない、まだまだ未熟であっても誰かの手助けくらいはできるつもりでいたのに。
珠世とユシローは、そのまま宿を去って行った。きっとこれから『鬼滅』へと向かうのだろう。
「もっと強くなりたいな」
その姿を見送った炭治郎は、ポツリと呟いた。
剣士としても、人間としても、そしてなにより公人としても、強くなりたいと炭治郎はこの時、心の底から強く願ったのでした。
二人を見送った炭治郎が部屋に戻ったとき、カナエとしのぶはジッとアベルを見ていた。
そういえば、先ほどの会話はアベルが加わっていなかったな、と炭治郎は思い出してゆっくりと座りながら口を開いた。
「アベルさん、どうしたんですか?」
「何かあったの?」
「珍しく無口でしたね」
三人から心配され、彼は俯いて唸って、そして顔をあげて唸って。
「いや、彼岸花って『青いもの』もあるよな。そんなに珍しいものじゃないのに、どうして探してるんだろって思ってさ」
アベルの答えに、三人は顔を見合わせた。
「え、なに、どうしたの?」
「あのね、そんなわけないじゃない。青い彼岸花なんて見たことないわよ」
カナエが呆れた顔で告げる。
「そうですよ、アベルさんは何を言っているんですか?」
しのぶが溜息交じりに伝えた。
「俺も見たことないですよ」
炭治郎まで否定してきて。
「え? じゃ、これは?」
不意に、アベルの右手が上がり。
そして、室内の空気が止まった。
誰も声を出さず、誰もが無言でお互いを見回している中。
彼の手の中の彼岸花は、『怪しいほどに青く輝いていた』。
千里を超えるほどでもなく、歩いてすぐに辿り着いた場所。
今までの長い旅路はなんだったのか、と珠世は思わずにいられなかった。
希望さえなかった、絶望もあった。倒せないのではと諦めかけた時もあったのに、僅かな光明が生まれたときにもすがったはずなのに。
「ようこそ、我が都市へ。歓迎するよ」
出迎えたのは病人のような剣士。いや纏う気配が剣士というのは鋭すぎた。これは大正の世の中にはいない、気配が刃を纏うような鋭い覇気。
昔は大勢いた、特に戦国時代にはごろごろと。そんな記憶の中でも、彼が纏う空気は、見た覚えがない。
「対鬼用城塞都市『鬼滅』の統領を務めている、竈門・炭十郎だ」
穏やかに微笑む、何処にでもいる父親。誰にでもそう映る彼の姿は、珠世とユシローにはまったく別に見えた。
抜き身の刀、今にも首が落とされるような錯覚さえ覚える。
戦国乱世を戦い抜いた、歴戦の古強者。
「初めまして、どうかよろしくお願いします」
あるいは、昔にいた刀を持った者達。
サムライ。
「話は炭治郎から聞いているよ、どうぞ」
無防備に背中を向ける炭十郎と、その周囲に笑顔でいる子供たち。その誰もが同じ気配を纏っていた。
あの時、炭治郎はかなり抑えていてくれたと、珠世は今になって気づく。
この都市は確かに対鬼用の場所だ。街を行き交う人々、小さな子供でさえも、同じような気配を纏っていた。
量や質の違いはあっても、誰もが同じ。刃のように鋭い気配と、それを押しこめる意思を持った人々ばかり。
「これが『鬼滅』」
小さくユシローが告げた言葉に、珠世は頷いた。
こうして二人の鬼は、大正の世に残った『侍達の都市』に入って行った。
最後の最後で真面目が見つかりました。これも皆様のおかげでございます。
あれ、もっと笑える話にしたかったのに。
今回の理不尽、『鬼滅』は六歳児が侍みたいな顔している、その一点につきますなぁ。
かつて戦争があった。
戦争なら昔から何度もあった。
ベルカ戦争。小国が世界を相手に戦ったその戦争において、とある空域で伝説を残したパイロットがいた。
B7R、通称『円卓』。そこは上座も下座もない、語るべきは実力のみ。誰もが平等に、階級も生まれも関係なく実力を示せる場所。
「なあ、おまえ、黒髪のお前だよ」
その空域において、唯一の例外があった。
「なんだ? 私に用事か?」
彼は強く、何処までも鋭く飛んでいた。
「赤い目? 日系人じゃないのかよ?」
彼のことを知るパイロットは誰もが口をそろえて言う。
「日本人だが、同じようなものか。何か用事か?」
彼は『鬼神』。
「俺はピクシーだ。次の作戦でおまえの二番機になる、よろしくな」
彼は誰よりも強く、誰よりも速く、そして誰よりも太陽の近くを舞っていた。
「そうか、俺はサイファーだ」
そして平等であったはずの円卓に君臨したことから。
「TACネームだけじゃ味気ないから、俺はラリー・フォルク。お前は?」
『円卓の鬼神』と呼ばれるようになった。
「俺か? 俺は鬼舞辻・無惨、いやムザン・キブツジというべきだな」
彼は何処までも強く太陽に近いところを飛ぶ、『円卓の鬼神』と呼ばれて表舞台に現れ、そして消えて行った。
私はそんな彼を追っている。
なんて話、誰でも考えますよね。