とりあえず、普通の手段は諦めていいですか?『完結』 作:サルスベリ
ついに無惨を追い詰めた、追い込んだ?
そんな雰囲気のお話です。
鬼と人間との差は何か。
無惨の血を入れられて人は鬼となる。
元は誰もが人間だ。誰かの隣で笑っていたり、誰かと話し合ったり、誰かと楽しんだり。あるいは誰かと恋をして、愛して、家族を持って。
そのすべては、鬼となると失われてしまう。
大切だと思った誰かを殺し、奪い、命を食いつくす。
人間として同族を食うことに嫌悪し、誰かを殺すことを駄目だと思うこともなく、ただの餌として人間を見るようになった鬼となった人たちは、そんな大切な人たちの記憶を失ってしまうのか。
人間だったことも忘れ、鬼という別の種族となって、他の種族を食って強さを得て、長い時間を生き残る。
強い生命力、高い戦闘能力、血鬼術という異能。すべてが人間違う、元が人間であってもこれはまったく別種の生き物なのだろう。
人間も呼吸を使って鬼を倒すために努力を重ねた、最初の始まりの剣士が生み出したと言われる呼吸、その派生の呼吸を持って。
けれど、だ。
鬼に抗うために、呼吸を使った剣士たち。その努力を否定するつもりはないが、人間が最も人間らしい戦い方とは別にあるのではないか。
人間は弱い、人間は脆い。人間は他者を欺き、騙し、嘘を並べて傷つける。
そも確かに人間だ。
でも、他者を慈しみ、他者を支えて、誰かのために命をかけられるのも人間だから。
だから、彼らは集団で鬼に向かう。
『鬼滅』の侍達は、集団戦を得意としている。誰よりも人間らしく、誰よりも泥臭くて人らしい。
個人技ではなく集団でこそ、その威力を発揮できる。群れなければ何もできないと、言いたい奴には言わせておけばいい。
これこそが人だから。
一人では無理なことも、二人ならできる。二人で無理なら三人で。そうやって最弱の存在は、地球で最強の地位を手に入れてきた。
「おおおおお!!」
「貴様らなんぞに!!」
刃が振り下ろされる。一つの刃なら、鬼舞辻無惨に届くことはないだろう。彼は鬼の始祖、鬼達の元凶である首魁なのだから、基本能力もそこらへんの鬼より高い。
一つの刃を避けて、相手の剣士の命を奪おうと動かした手は、他からの刃によって止められた。
「貴様らぁ!!」
怒気を持って振り返った先、幾つもの刃が無惨の視界をふさいだ。
集団戦。個人技などいらない、強さなどいらない。たった一人が戦場を支配するなんてことは、遠い昔にもあり得なかった。
一騎当千。確かに強い個人は昔からいただろうが、それが最後まで強かった戦場は過去に一度たりとも存在しない。
強い個人がいたなら、もっと強い集団で立ち向かえばいい。数の暴力の前に、最後まで最強を張れる個人なんていないのだから。
「調子に乗るな!!」
「血鬼術なんてさせると思うの?」
幼子の声がして、周りを囲んでいた剣士たちが一斉に下がった。
何がと無惨が顔を向ける中、小さな男の子が手のひらを打ちおろした。
瞬間、閃光が周囲を揺らした。
無残は知らない、鬼殺隊は知らない。けれど、『鬼滅』の侍なら見慣れた光景がそこにある。
上下左右に斜め。目標を囲むように全方位から放たれる爆弾の結界、逃がさない、回避なんて許さない。
六太の空間転移による爆撃。射出口を悟らせず、一発を放ったら位置を変えるため、爆撃を受けている本人からは視認できず。
「きさま」
爆撃が止まり、無惨が大勢を立て直す前に、再びの刃の雨。
一撃で首を落とす必要なんてない。
一撃で一つの肉片を、二撃でさらに傷を広げて。
「おまえは、ここで削りきる」
遠くの声に無惨が顔を向けた、人がまるで壁のように重なり、次々に刃を振るっていた。
馬鹿なと無惨は思った。これだけの集団の中で刃を振るえば、味方に当たることだってあるはずだ。どれほど狙っても、自分が回避していれば、反対側の味方に当たる危険はあるはずなのに。
それにだ、体を棘のようにして放った攻撃も、相手に届く前に阻まれた。まるで硬い鉄のような感触の後、細胞が焼かれる痛みで棘が灰となった。
「タネあかししてあげようか?」
幼子の声、また男の子の声に無惨が顔を向けても、そこには刃しか見えない。
答えは簡単。この室内に薄く満たされたナノマシンの幕、ナノミストとも呼ばれるそれらが、無惨の攻撃を瞬時に察知して固まって防御、味方への攻撃は薄く反らして当てないように細工する。
「僕のナノマシン、凄いでしょう?」
額にうっすらと冷や汗を流しながら、茂は自慢げに笑っていた。
集団戦において敵味方の攻撃すべてを対処するのは、彼にとってはとても辛いこと。頭が焼けるような痛みの中、彼は少しも手を抜かず、油断せずにすべての制御を行っていた。
「ならばぁ!!」
無惨が飛ぶ。いくら剣士たちとはいえ、いくら侍達とはいえ、空を飛べるわけじゃない。剣の結界も上空はない、刃の届かない場所へ行けば、誰も追って来れない。
「そんなこと」
ハッとした。声に顔を向ければ、光の幕を纏った少女が剣を振りかぶっていた。
「させるわけないじゃん」
反対側からの声に顔を向ければ、そこには巨大な両腕に、巨大な杭のようなものを構えた少女が。
覇王剣の穪豆子と、パイルバンカーの花子。上空に上がった無惨は、地球のエネルギーを乗せた刃と、惑星基地の装甲を貫通できるほどになったパイルバンカーの一撃で、あっけなく地面に叩きつけられた。
悲鳴も悪態も出ず、地面から立ち上がりかけた無惨に、刃の嵐が降り注いだ。
目を開けると見知らぬ場所で。
「あれぇ~~」
童磨はそう呟いて、周りを見回した。
知らない場所だ。また鳴女が命令されて、何処かへ移動させられたか。
「やっと会えましたね」
「あれ、カナエちゃん! そっかそっか! やっぱり君も救われたいんだね!」
童磨は嬉しそうに笑って彼女を見つめた。
周りが暗い、彼女以外の気配はするが、誰がいるか解らない。
「この人が姉さんを苦しめた鬼?」
別の方向からの声に顔を向けると、顔立ちの似た少女がいた。
「君は誰だい? カナエちゃんの妹?」
「ええ」
「じゃあいっしょに救ってあげるよ!」
嬉しそうに笑う童磨に、胡蝶姉妹は笑顔のままで。
「救ってくれるそうよ」
「楽しそうですね」
クスクスと笑う二人に、童磨は同じように笑って。
「皆はどう思うかな?」
「え?」
「皆さん、この人は私たちを殺して救ってくれるそうですよ」
「え?」
一気に周りが明るくなって。
そして、童磨を殺気が囲った。
ビオランテが、ELSが、レギオン(花もいます、親もありです)が、オーラバトラーが、デススティンガーが。
『我がカナエ様を殺すだとぉ?』
『いい度胸だ、しのぶ様に危害を加えるなんて』
アップ済みのターン兄弟が。
「え?」
童磨は思う、なんだろうこの集団は。
「上弦の弐、童磨」
カナエがビーム・サーベルを抜いた。
「貴方はここで討ちます」
しのぶがビーム・サーベルを構えた。
「え? はい?」
童磨は訳が解らない顔のまま、胡蝶姉妹の攻撃に。
いや、胡蝶姉妹親衛隊によって圧殺されたのでした。
鳴女と無惨のネットワークを使うことで、アベル達は残りの鬼をすべて『鬼滅』の中へと呼びこむことができた。
十二鬼月と呼ばれる鬼達は、下弦はこの間の戦闘ですべて消えていたが、上弦の何人かは残っていた。
それらすべてが集められ。
「な、なんだ貴様らはぁぁぁ?!」
漆黒の集団によってすり潰されていった。
「ジー」
「ジー」
「ジー」
「お兄ちゃん!」
「おまえら妹を!」
中には兄妹の鬼もいたようだが、無表情に潰していくG達。身体能力が人間より高い鬼とはいえ、Gに勝るほどではなかった。
次々に潰れていく鬼を、遠くの場所からアオイは、何とも言えない顔で見つめていた。
怖かったはずなのに、前に立てないなんて思っていたのに。
今では可愛そうとさえ思えるから不思議だ。
「ジージージー」
彼女の左右に片膝をついたGが同時に告げる。
側近らしい二匹と、彼女の周りを囲む親衛隊の精鋭三十匹。
『アオイ様に怖い思いをさせる愚か者など、潰れて当然』。なんて、彼らの言葉が解るようになった自分に、アオイは遠いところに来たなぁなんて思っていたり。
ただ前だけを見つめ、横を絶対に見ないようにしているアオイ。
その彼女の隣の戦場では。
見事な大輪の花を背負ったカメのようなものと、その背の花弁に腰かけたカナヲ。
そんな彼女の周りに、入り乱れる数々のモンスター。
『あのカメ野郎だけ美少女の護衛なんて、許せるか』とか、背中が語る、ポケットに入るだろうモンスターたちの集団だった。
「ひぃぃぃぃ!?」
「ピ●チュウ」
こうして十二鬼月は全滅したのでした。
鬼舞辻無惨を倒すことは、日輪刀をもってしても難しい。昔、そう悟った剣士がいたかもしれない。
ヒノカミ神楽が、鬼殺隊の剣士の呼吸と同じものならば、一つ目の技と最後の技が同じ名前なのは、永遠に相手に技を叩きつけて、逃がさずに無惨を削りながら、最後は太陽の光で滅ぼそうと考えていたのだろう。
問題はその呼吸を使える剣士がいなかったこと、恐らく発案者以外に扱える者がいなかったのだろう、とアベルと統合AIは結論を出した。
現在の多種多様な呼吸は、始まりの呼吸に適正できる剣士がいなかったから、呼吸を使うこと、その呼吸に沿った技が発達したり磨かれたりしたのだろう。
その人は、恐らくとても強かったのかもしれない。剣士としては最高だったかもしれないが、きっと馬鹿だったんだろうな、とアベルは思った。
一人で全部やることはない。
個人が背負うことなんてない。
きっと目の前にその人がいたなら、アベルはこう言っただろう。
『任せろって、俺達がいるからさ』と。
アベルは軍人だ、魔導師だ。エースと呼ばれる人や、化け物って言える人を多く知っているし、実際に戦ったこともある。
その人達は誰もが強かった。でも、個人ですべてを行おうなんて考えていなかった。強者であり、絶対であり、一度の敗北もなかった人でさえ、自分一人で全部を行おうなんて考えていなかった。
人間はどんな能力を持ち、どんな強さを手にしても、人間だから。
他種族の血が入ろうとも、魔族とか妖怪とかって種族でも。
どんな存在であっても、孤独には勝てないのだから。
「おまえはさ、無惨」
アベルは肉片をそがれ、いくつかの心臓を潰され、いつくかの脳を潰されていく鬼の首魁を見つめ。
「最初っから間違っていたんだよ」
もしかしたら、彼の最初は不幸だったのかもしれない。
最初に会った時に、彼が鬼舞辻無惨になった時に、隣に誰かがいたなら。
もしかしたら結末は違っていたのかもしれない。
始まりの呼吸の剣士。
始まりの鬼の彼。
どちらも、人並み以上の強さを持っていても、誰かを信じることができない最弱の人たち。
もしも、彼らの隣に誰かいたなら、彼らの強さじゃなくて、彼らの中の人間らしい何かを見つめられた誰かがいたなら。
きっとこんな悲しい出来事の連鎖は、なかったのかもしれない。
逃げれない、何処にも行けない。
「これはおまえがしたことだよ」
男の声が聞こえる、無惨は怒りの目線を向けようとして、視界が消えた。
姉を鬼に殺された刃。
「お前がやってきたことだ」
右手を貫くは、親を鬼にされた刃。
父を、母を、姉を、兄を、妹を、弟を、家族を、知り合いを。
「おまえがしてしまったこと、それが今のおまえを殺す。因果応報なんて言いたくないけどさ」
誰かを失った怒りが、誰かを殺してしまった苦しみが、延々と列をなして鬼舞辻無惨の体に刃を突き立てる。
怒りを忘れるな、悲しみを忘れるな。
刃はそう語る。おまえがしたことだ、おまえが与えた苦しみだ。
「ふざけるなぁぁ!」
無惨の叫びと同時に、彼の体が破裂した。前にも、この手段を使って逃げ延びたから、今度もこれでと考えた彼の肉片に対して。
炎の呼吸。
岩の呼吸。
風の呼吸。
蛇の呼吸。
恋の呼吸。
霞の呼吸。
音の呼吸。
水の呼吸。
鬼殺隊最高の柱の攻撃が、肉片すべてを消していった。
「馬鹿な、そんなバカなことを」
無事な肉片が、自然と集まって人の姿をなす。自分はこんなことしていない、こんなバカなことを。
いい目標だと無惨は悔しく思い、さらに飛ぼうと足に力を込めて。
「逃げんじゃねぇ!」
巨大な刃が彼の体を叩き落とす。
斬艦刀、軍艦さえ斬るような巨大な刃を振るったのは、竹雄。穪豆子と花子が飛ぶより前に刃を振るい。
「もう観念しなよ」
穪豆子の再びの覇王剣のエネルギーの一撃。
「そこに縫い付けられてろ!!」
上空からの一撃は花子のパイルバンカー。真っ直ぐ上から突き刺さった杭が、無惨の背骨を貫通し地面に縫い付けた。
「私が」
「終わりだ」
ヒノカミ神楽。
まだと手を伸ばす無惨に、左右からの一撃。すで体の大半が灰となり、形を保てずに消えていく。
「まだ、まだだ」
体が崩れ、力も入らないのに、無惨はゆっくりゆっくりと床を進み。
「やあ」
「産屋敷、貴様」
やがて彼の前に辿り着き。
「さよならだ、鬼舞辻無惨」
「あ」
誰よりも熱く、誰よりも明るい、太陽そのものの刃が彼に振り下ろされた。
「鬼舞辻無惨、討ち取ったりぃぃ!!!」
「おおおおおおお!!!」
誰かの勝鬨と、大勢の歓声が、長い鬼との闘争の終止符を告げた。
ズルリズルリと蠢く。
誰にも見つからないように。
誰にも悟られないように。
やがてそれはようやく辿り着いた。
青い彼岸花、そこに辿りついた彼は笑う。
「これで私の勝ち」
瞬間、景色が一変した。
周り中が闇、星もない、月もない完全な静寂。
鬼の自分には好都合だ、いや太陽も克服できる自分には今更だ。彼がそんなことを考えていると、何故か体が凍り始めた。
何がと思考する彼に、急激な息苦しさを感じた。やがて息苦しさと、体中が沸騰しそうなほど熱くなり、それでも体は凍りついていく。
「何が」
声がしない、音も響かない。この闇はなんだ、これは何なんだ。
「おまえに何かをいう資格は俺にはないんだけどな」
声にハッと振り返ると、光の膜に覆われた男がいた。
『軍勢のアベル』。そう名乗った男が、金色の巨大な人型の手の上に乗っていた。
「あの状況の中、生きようとするのは立派だよ。でもな、おまえをここで終わらせないと、また同じようになるだろ?」
声は出せないのに、相手の声は届く。
憎らしく睨む無惨に対して、アベルは少しだけ悲しそうに笑った。
「グッドラック。これは俺達の間での最高の礼儀の挨拶だ」
彼の言葉を最後に、無惨は凍りついた。
生物とはいえ、鬼とは言っても。
宇宙空間で生きられるほど、強くはないのだろう。
人は宇宙に出て、今まで住んでいた星が、いかに自分達を守ってくれていたかを、痛いほど感じることがあるという。
だからアベルはここに無惨を連れてきた。
作戦は剣士たちによる集団戦で終わらせる、最後に産屋敷が止めを刺したのは偶然だったけど、あれで終わりとしては良かったかもしれない。
無残の肉片が残り、青い彼岸花に辿り着いたのは、きっと彼の最後の執念だろうか。
生きることへの執念、それを持っていた鬼舞辻無惨には、教えておきたかった。生きていることの意味、自分達を護ってくれる星の存在。
何よりも。
「帰ろうか、KOG」
そう言ってアベルと金色の騎士は姿を消した。
鬼舞辻無惨に何よりも教えたかったこと。
凍り付き宇宙を漂った彼は、千年後に光の中へと消えて行った。
鬼舞辻無惨の終わりとしては、三つのパターンを考えていました。
今回は、その内の二つのパターンを組み合わせました。
集団戦によるすり潰し。
青い彼岸花を得て、太陽を克服した後に、宇宙空間へ放り出して最後は太陽の中へ。
最後一つは、ナノマシンによる細胞崩壊です。
いくら強くても生物なら、細胞が壊死していけば死ぬだろうな、なんて考えた結末です。
では、次はエピローグです。