とりあえず、普通の手段は諦めていいですか?『完結』   作:サルスベリ

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 フワッとしたアイディアをフワッとして書いてみたら、堅苦しい話になってしまったようなので、緩くのんびり理不尽に行こうかと。

 そう考えた次第でございます。











普通の生活って難しい

 

 

 

 

 

 

 

 理不尽って何かをアベルは考えた。

 

 世の中には色々と理不尽なことがある。誰だって『そりゃないよ』と言いたいことも多々ある。

 

「なあ、山神様のたたりの話、知ってるか?」

 

「あれだろ? 山が白い砂になっちまったこと」

 

 言いたいのだが、言ってしまったら非難を受けることもあるので、グッと我慢するのがいい大人。

 

「後な、妙な集団が動いているって話もあるんだよ」

 

「聞いた聞いた、鎧を着込んだ集団だろう? 大正の世にもなって物騒だよな」

 

 いい大人なのだが、グッと我慢をするのは体に悪いのは誰もが知っていることなので。

 

「後な、あいつとか」

 

「あいつか」

 

「あいつだよ」

 

 だから偶には言ってやりたい。

 

 『俺が何をした』って。

 

「ほれ彫り師、もっと細かくな」

 

「無茶いうなよな?!」

 

 だから今日もアベルは言ってやる。我慢して話を聞いて、受け流すのも社交性かもしれないし、いい大人なのかもしれないけれど。

 

 怒鳴り返すのも男らしいと思うので。

 

「いやおまえの仕事だろ?」

 

「仕事でこんな小さな棒に桜並木を彫れって、どんないじめだよ」

 

「いや、おまえって手先が器用だからな。他の彫り師じゃ絶対にできない細工、作るからさ」

 

「いやいやいやいや、そんな理由で細かい細工を頼むなよな!」

 

「いいじゃねぇか。他の仕事、できないんだからさ」

 

 図星をさされ、アベルは怒鳴り返そうとした口を閉じて、細工に集中するのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体能力がとても低いアベルに、この時代のバイトは無理でした。一日でダウンならマシなほうで、一刻も持たないで潰れることがほとんど。

 

 仕事にならねぇと現場の親方とか、飲食店の方々に怒鳴られ、それでも何とか仕事を探して回ってみれば、『仕方ねぇな』と怒鳴った人たちが仕事を次々に探してきてくれて。

 

 この時代、義理人情が凄いったら。アベルは最初は涙を流して喜んで感謝していたのですが。

 

「え、それもダメ?」

 

「お~~い、誰かアベルにこの仕事、勤まる方にかけた奴いるか?」

 

「いや、いねぇだろ。また賭けは流れか?」

 

「仕方ねぇな。次は誰の推薦だ」

 

「俺だ」

 

 なんて話が、戻ってきたアベルの前で行われるわけで。

 

「え、俺って賭けの対象?」

 

「もちろんだ、おまえは面白れぇからな」

 

 固まっているアベルに、誰もがいい笑顔で答えたのでした。

 

「ちっきしょう! 今度こそやり遂げて見せるからな!」

 

 裏側に気づいたアベル君、今度こそと気合を入れて行ってはみたものの、持前の身体能力が上がるわけもなく。

 

「・・・・・」

 

「おい、誰か水持ってこいよ」

 

「飯は今日は誰の『モチ』だ?」

 

「生きてるか、坊主。丁稚でさえできる仕事なんだぞ?」

 

「もう坊主に回せる仕事がねぇぞ」

 

 ボロ雑巾のように戻ってくるアベルに、誰もが最初は笑っていたのですが、そのうちに『え、本気でまたなのか』と心の底から心配になってきてしまい。

 

「うちの長屋でいいなら住みな」

 

 と気前のいい大家さんのおかげで、住み家の確保にまでこぎつけました。

 

「いやおまえ、それはねぇ」

 

「解ってるよ! 本当に解ってるから! 仕事を見つけて賃金を稼ぐからさ!」

 

 呆れる全員を前にアベルは大声で宣言して、色々な仕事にアタックしては砕けて戻されてを繰り返し。

 

「あんた、手先が器用だね。彫り師とか向いてるんじゃないか?」

 

「それだ!!」

 

「え?」

 

 大家が見つけたアベルの手先の器用さから、あれよあれよという間に彫り師となったアベルは、今日もこうして客からの無茶な注文に答えるのでした。

 

「なあ、坊主。おまえさん、ひょっとして『箸に家紋』とか入れられるんじゃねぇか?」

 

「え、待って。源さん、待って。あんた大工だろ? なんで箸に家紋って話をしてるんだよ?」

 

「いやな、知りあいの商家がな、『売れないかな』とかいってるんだけど、誰も彫れなくてなぁ」

 

「そりゃあんな細い棒には無理でしょうが。家紋がどんなものか見たことないけど」

 

「そうかそうか」

 

 ニヤリと笑う源さんに、アベルの中で嫌な予感が膨れ上がった。

 

 最初からお世話になった人だから、できれば断りたくはないのだけれど、源さんはかなり無茶なことを言ってくることがある。

 

 普段は真面目で思いやりがあって、世話好きないい人なのだが、羽目が外れるととんでもないところから、とんでもない話を持ってくることがあるから、油断できない。

 

「試しに、桜並木を彫れ。な!」

 

「・・・・・・はい?」

 

 アベル硬直。

 

 え、何を言ったのこの人。何を試しで彫れって言ったのか理解できない。百歩譲って桜並木を彫れることは彫れるかもしれないが、それを何処に彫れと言ったのか、ひょっとしてあの箸か、あの箸に彫れと言ったのか。

 

 馬鹿なことを言うな、あんな細い棒に桜並木とか正気か。

 

「な!」

 

「源さん、あんた正気か?」

 

「大丈夫だって! おまえならできる! おまえを信じろ!」

 

「無理だって」

 

「いいや大丈夫だ! 俺が信じるおまえを信じればできる!」

 

 何処の名言ですか、それ。アベルが内心で突っ込みを入れていようとも、源さんは引き下がることはなく。

 

「やればできるじゃねぇか!!」

 

「・・・・・」

 

 やるしかないと悟ったアベルは、その後に真っ白に燃え尽き。

 

 箸に見事な桜並木を彫りあげたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彫り師、あるいは彫刻家か。まだ始めたばかりのアベルは、源さんが持ってくる依頼以外は、あまり受けたことがない。

 

 作品が出回り始めたばかりで、周りに知られていないから。アベルに頼みに来る人は全くいない。

 

 それに、名前も『アベル』で通しているので『え、外国の人』と思われてしまい、まだまだ鎖国の固定観念が残っている大正の世には、あまり受け入れられていない。

 

 そんなマイナー以下のマイナーのアベルだったが、作品を見たことある人は細かい仕上がりと丁寧な仕事っぷりに、次も頼むとお願いする人もいる。

 

 中でも。

 

「綺麗ねぇ~」

 

「はあ、どうも」

 

「本当に最初は、こんな男の人が本当にって思ったものだけれど」

 

「ありがとうございます」

 

 丁寧に礼を伝える彼女は、その中でも特に珍しいというか、本当に貴重とも言うべきか。アベルの作品を気に入って、直々にお願いに来るような稀有な人物だった。

 

 確か名前は、とアベルは思い出しながら彼女を見つめる。

 

 最初に街で会った蝶の飾りをつけた女性、『胡蝶・カナエ』のことを。

 

「簪とか作れそうね」

 

「まあ、見本と大体のイメージを言ってくれたら」

 

「いめーじ?」

 

「形とか色合いとかって意味ですよ」

 

「そうなんだ。アベル君はやっぱりハイカラね」

 

 嬉しそうに笑う彼女に釣られるように笑顔を浮かべそうになって、慌てて真顔に戻す。

 

 彼女の後ろ、般若も逃げ出しそうな顔で、妹さんが睨んでいるから。

 

「姉さん、そろそろ帰りませんか?」

 

「う~~んもうちょっと。これなんかどうかしら、しのぶ?」

 

「あ・・・・・」

 

「ほらほら、綺麗な蝶の細工よ。羽の部分、どうやって再現したのかしら?」

 

 カナエが持ち上げた細工は、アゲハ蝶をベースに羽の部分に七色の『ガラス』を入れたもので。

 

「どうやったの?」

 

「いえ、それはその」

 

 アベルは曖昧に笑顔で受け流す。

 

 言えない。まさか宇宙戦艦の工房を使った、反則技で仕上げたなんて言えない。

 

 『もっと優雅にできないのかねぇ』とか源さんに言われて、半ばやけくそになって作ったものも、『おまえさんの実力はその程度か?』なんて呆れた顔で言われ、やってやろうじゃないかと工房をフルに使って作り上げた逸品なんて、とてもじゃないが言えない。

 

「細工師の技法は、秘密ってことかしら?」

 

「まあ、それはそうですね」

 

「真似されたら困るものね」

 

 曖昧に笑顔で頷き返すと、カナエは納得してくれたようで。

 

 いやまねできるもんならしてみろ、とアベルは内心で思っていたのですが、表に出すことなく笑顔のままでいました。

 

「カー!!」

 

 カラスか。何処にいるのかとアベルが視線を動かすと、姉妹の表情が険しいものに変わった。

 

「それじゃ、また来るわね」

 

「失礼します」

 

「あ、はい、また御贔屓に」

 

 珍しいこともあるものだ。あの二人が慌てた様子で出て行った姿を見送り、アベルは礼儀正しい姉妹でもそんなこともあるのか、と思いながらも細工に取りかかったのでした。

 

『ピ!』

 

 小さく警告音が耳元で鳴った。

 

 アベルは鋭く周りを見回すも、追加情報のモニターが開くことはなく、周辺を警戒していた『近衛』が動いた様子もない。

 

 普段の生活で手駒を直接操作することは、アベルはしてない。機体はある程度の自立起動が可能であり、彼が動かさなくとも蓄積された戦闘データから『アベルがこう判断するであろう』結論を導き、オートでの対応を行う。

 

 特に何度も失敗しつつ丁寧に仕上げた近衛は、脅威目標の対応から排除まで自律戦闘が可能なほどに育成してある。

 

 ただし、戦闘時とか任務時には退避させられそうになるので、機能停止で待機させていたので、最初の鬼達との戦闘では使えなかったが。

 

 その近衛の一機からの連絡。近場に『鬼』の反応あり。

 

「またかよ」

 

 もう夕方で、夜に活動する鬼達の時間の始まりだからか。

 

 反応に追加情報、『密度』が先日の『六つ目』に近いものがある。

 

「・・・・街中で襲ってくるなよ」

 

 アベルは小さく呟き、家から外へと出たのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうダメかもしれない。

 

 胡蝶・カナエはそう思った。

 

 何時もと同じ鬼の討伐。鬼を狩って、無事に家に帰り、妹たちと楽しい食事をして一日が終わる。

 

 信じていた、疑わなかった、毎日こんな日々が続いていくなんて、漠然と思っていたのに。

 

 いや心のどこかでは解っていたこと。

 

 自分は鬼殺隊の『柱』だから。鬼を狩っていけば、いずれは何処かで終わりが来ると気づいていたのに。

 

 今まで知らないふりをして、気づかないように蓋をしていたのかもしれない。

 

「もう終わりかな? それじゃ君も救ってあげるよ。今日はね、あの方に頼まれた仕事もやらないといけないからね」

 

 鬼が笑っている。元凶が生み出した、自分達の両親を殺した鬼と同じ存在が、中身の詰まっていない笑顔を浮かべて、近づいてくる。

 

 呼吸が上手くできない、肺が凍っているから。

 

「ごめんね、しのぶ」

 

 小さく口の中で妹へ謝罪しながら、彼女は何とか立ち上がる。

 

 刀を持て、鬼を倒せ、それこそが。

 

「へぇ、君は」

 

「女の人をいたぶる趣味でもあるのか、鬼って」

 

「え?」

 

 刹那、光が目の前の鬼『上弦の弐』を細切れにした。

 

「いくら刀を持っていても女性だろ? まあ戦士に対しての矜持は解らなくもないけど、動けない女性相手にさ」

 

「え? 君は」

 

「名乗ってやらないよ。鬼のせいで、俺は散々な目にあったんだからな」

 

 再び降り注ぐ光の雨の中、鬼の姿が消えて行った。

 

「チ、逃げたか。妙な術の感触はあったけど、解析できるかな」

 

 カナエはゆっくりと振り返った。自分の後ろから歩いてくる姿に、どうしてと声をかけようとして、意識が暗くなっていく。

 

「え、ちょっと待った!」

 

 相手の声を聞き、薄れる視界の中で彼を見て。

 

 ああ、どうして貴方がここに、とカナエは思ったという。

 

「姉さん!!」

 

「え?!」

 

 再び視界が開けると、そこには涙を流した妹の姿があって。

 

「え、えええ?!」

 

「姉さん! どうしたの誰にやられたの?!」

 

「誰にって」

 

 言われて気づく。おかしい、自分は確か鬼の血鬼術で肺が凍ってしまったのではなかったか。

 

 呼吸できなくて苦しくて、体も動かせなかったのに。

 

 普通に息ができる、体が動く。

 

「姉さん! 鬼と会ったの?! どんな鬼だったの?!」

 

「大丈夫よ、しのぶ。もう大丈夫だから!」

 

「でもこんなに血が!!」

 

「本当、こんなに血が流れているのにね」

 

 体の痛みはない。そっと触れてみると、傷口に痛みはなく、それどころか傷さえなさそうだ。

 

「明日、話を聞きにいかないとね」

 

「姉さん、何があったの?」

 

 心配して問いかける妹に、姉は微笑みながら告げた。

 

「面白い人と出会ったの」

 

「・・・・・はぁ?!」

 

 笑顔全開で告げるカナエに、しのぶは思いっきり叫んだのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危なかったな。まさか、カナエさんが死にかけているなんて思わなかった」

 

 二人の様子を『上空の航空機』から見下ろしながら、アベルは小さくため息をついた。

 

 咄嗟のこととはいえ、医療用ナノマシンを使ったのは不味かったか。

 

 前検査なく人体に適合、その後も増殖を続けて身体の負傷などを治療するナノマシンは、アベルの軍団でも滅多に精製できない貴重なものだ。

 

「でも、知り合いが目の前で死ぬよりはいいか」

 

 仲良さそうに話す姉妹を見ながら、アベルはそう思った。

 

「あれ? 一方的に妹さんがカナエさんに怒ってないかな?」

 

 怒鳴り声も聞こえるのは、気のせいにしよう。

 

 アベルはそう思い込むことにしたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 





 二話目です。正直、フワッとなので考えていたのはここまで。

 うん、ギャグが見当たらない。

 周辺被害が抑えられている。

 おかしい、最初の想定では鬼より凶悪な奴がいるぜ、皆で倒そうぜだったのに。






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