とりあえず、普通の手段は諦めていいですか?『完結』 作:サルスベリ
エピローグ、というよりは終幕の方がいいでしょうか。
とにかく、始まりがあれば終わりがある、そういった最終話になります。
山から昇る朝日を、彼女は感慨深く眺めていた。
もう二度と見れないと思っていた、自分がもう一度、朝日を見る時はすべてが終わった後だと。
確かにすべてが終わった、元凶が消えたのだから、終わったのだろう。
「もう旅立たれますか?」
声に振り返ると、お世話になった侍が立っていた。
「はい、ありがとうございます。ようやく、積年の望みが叶いました」
「こちらこそ、貴方のおかげで鬼舞辻無惨を倒す手段が見つかりました」
御世辞でもない感謝に、珠世は無言で小さく頭を下げた。
元凶を倒せば鬼は滅びるというが、もしかしたら自分のように生き残った鬼が、呪を外した鬼がいるかもしれないから。
「鬼を人間に戻す、それはある意味で拷問以上に辛いことなのでは?」
「確かにそうかもしれません」
彼女は手の中にある薬品を見つめていた。
青い彼岸花と鬼のデータから、アベルの軍勢が生成に成功した薬品は、確かに鬼を人間に戻せる。
でも、それは戻せるだけで記憶までは消すことはない。
鬼から人間に戻った人たちは、確実に覚えていることだろう。自分達が同族を、親しい人達を、愛する者を手にかけたことを。
「それでも」
珠世は、真っ直ぐに見詰めて言葉を紡いだ。
彼女が何を語ったか、最後に見送った炭十郎は語ることはなかった。
「貴方の道行に幸いあれ」
遠ざかる二つの背中を見送り、彼はそう呟いた。
鬼舞辻無惨を倒したとはいえ、鬼のすべてを集めて討伐したとはいえ、鬼を知っている人々から不安が消えることはない。
本当にいないのか、あるいは見逃しがあったのでは。
疑いの心は誰の心にもあり、否定できるだけの何かを示すことは、人には不可能だった。
「『鬼滅』はしばらく存続することとする」
深いため息とともに炭十郎が吐き出した言葉に、聞いていた人達は半分が納得し、半分が残念そうな顔をしていた。
鬼殺隊は討伐後に解散、とても長い間、存在していた組織とは思えないほど、あっさりと終わったあの組織に対して、こちらは揉めに揉めた。
鬼はすべて集めた、確かに討伐した。本当にそうなのかと、内部から不安と疑問の声がわきあがり、それは決して無視できない大きさとなってしまった。
アベルは確実と答えても、一度でも芽生えた不安は消えることはない。
「確実に、鬼が消えたと確信したい。皆の気持ちはよく解った。しかし、忘れないでほしい。我らは鬼を倒すための刃を持っているだけで、普通の人なのだから」
困った顔をしながらも、鋭く決意を秘めた瞳を持って、『鬼滅』の統領はしっかりと全員に告げた。
鬼を、人々に不安を与える何かを倒すための組織だから、そのための武器だから。決して、人間同士の争いに使っていい武器ではない。
「もし約束をたがえるならば」
炭十郎は無言で刀を手に取った。
対して、誰もがそれぞれの武器を手に持ち、真剣な顔で頷いた。
解っている、誰もが理解していた。理不尽な力で奪われる不条理さを、普通じゃない手段を持って立ち向かうしかない存在が、どういった結末を迎えるかを解っていたから。
「ならば、良かろう」
炭十郎はそう告げて、微笑んだ。
鬼に襲われ、日常を奪われる怖さを知っている人々なら、道をたがえることなどないだろう、と。
「本当にいいのか?」
「はい、家族全員で話し合った結果です」
アベルの問いかけに、炭治郎は笑顔で腰の刀を抜いて差し出していた。
すでに、穪豆子、竹雄、花子、茂、六太から、それぞれの武器は返却され、最後に炭治郎の『流刃若火』が戻された。
「持っていてもいいんだぞ」
この先、何があるか解らないから、念のためにとアベルが心配する中、炭治郎は笑顔で首を振った。
「大丈夫です、俺達は、俺達の『力』で生きていきます」
「不条理なことがあるかもしれない」
「その時は」
彼は振り返り、笑顔で待っている家族を見つめた。
「また皆で力を合わせて、どうにかしますよ」
後悔なんてない、すっきりした顔で答えた炭治郎に、アベルはそうかとだけ答えた。
念のため、『鬼滅』はまだ続くから葵枝と炭十郎の武器はそのままだが、『鬼滅』が終わったら、海にでも投げ込むと言っていた。
「アベルさん、本当に行くんですか?」
「まあ、俺は元々、連邦の所属だからな」
「このまま俺達の家族になっても」
「悪いな、炭治郎。俺は」
アベルは残念そうな炭治郎の顔に、ゆっくりと微笑みを向けた。
「俺は、『軍勢』だからな」
平穏とは無縁の、平和とは程遠い、戦争の中でこそ生きていけるそういった特殊な人間だから、と彼は口外に告げた。
「解りました。お世話になりました」
「こっちこそ助かった」
「またこっちに来たら、寄ってください」
「その時は必ずな」
お互いに手を差し出し、握手を交わして。
お互いに背を向けて歩きだした。
遠ざかっていく背中を、穪豆子は目を細めて見ていた。
「追いかけてもいいんじゃないか?」
彼女の隣まできた炭治郎の言葉に、彼女は首を振った。
「まだ女が磨き切れてないから」
「追いつけないぞ」
「大丈夫、絶対に追いかけるから」
グッと拳を握って宣言する妹に、兄は『たくましくなったな』と思うのでした。
「貸しておくだけだから、追い付いたら覚悟しろ」
ついでに、宣戦布告ともとれる言葉に、本当にたくましくなったと泣きたくなった家族一同だった。
こうして、一つの惑星は鬼の脅威が消え去った。その後の歴史において、時々、日本に未知の集団が出現して、各国の理不尽な要求を突っぱねたとか、暴走した内部の人たちを叩き潰したとか、そんな話が流れることもあったが、それ以外は何処にでも有る平和な国のままだった。
鬼の伝承は各地で流れる。
欲望の化身として。
願望を大きくし過ぎた愚か者として。
噂話程度に流れるどれもが、最後には光の刃と不思議な呼吸を使った、剣士と侍に討伐される終わり方となっていたのは、多くの歴史学者を悩ませる結果となっていたが。
「一生懸命に生きて、仲間を信じて、一人で頑張らないのよ」
そんな言葉と共に鬼の話は、今日も語り継がれているという。
「なあ、アベル」
某所のとある時間。
「はい、なんでしょう、中将?」
彼は隣に立つ、銀河連邦軍の中将に向かって、敬礼してみた。
「おまえ、正式に連邦軍に入らないか?」
「え、嫌ですけど」
「っつってもなぁ」
中将は深くため息をついて、目の前に広がる光景を眺めた。
「おまえの『嫁さん』の配下、あれ一つで連邦軍が潰れるんじゃないか?」
「え? 嫁? 誰が?」
「・・・・・・・おい小僧」
思わず中将は相手の胸倉を掴んだ。
「カナエとしのぶは嫁だろ?」
「え? え?」
「婚姻届、出てんだよ」
「・・・・・はい?」
まったく身に覚えのないアベル君。何時の間にと驚愕に顔を染めていたので、中将は察したように手を離して、肩を叩いてやった。
「がんばれ、男だろう?」
「・・・・・・はい」
項垂れて答えるアベルに、中将は深く頷いた。
「さあ今日も!」
「人助けに頑張りましょう!」
元気に号令するカナエとしのぶ。
「行こう」
「やりますよ!」
穏やかに微笑むカナヲと、腕組みして仁王立ちするアオイ。
「がんばれー」
可愛い声援のなほ、きよ、すみの三人娘。
「おまえんところは今日もにぎやかだなぁ」
溜息交じりの中将の言葉に、アベルは思う。
どうしてこうなった、と。
後に、銀河連邦に一つの軍団が誕生した。
『蝶屋敷軍団』と提出された書類は、その後に紆余曲折を経て、『超軍団』とか呼ばれることになったとか、ならなかったとか。
このたびは、サルスベリの突発的でどうしょうもない、なんてふわっとした話をよく解らない具合に繋いだ、原作の影も形もない『鬼滅の刃』を呼んでいただき、ありがとうございます。
これにて完結とさせていただきます。
本当に最初は、鬼を倒したいけど、バトル的なものは無理だから、ロボット投入しようぜ、なんて軽い気持ちで始まったお話です。
サルスベリのお話は、何時も最終話から書いてから、第一話といった具合に進むのですが、このお話に限っては本当に第一話から書き始めて、その都度に考えて話を進めて、最終話に辿り着いた形になっています。
チートとバグの主人公が戦うって素敵なのでしょうが、その主人公がチートとかバグを、主人公自身の戦闘能力として持っていない、身体能力最低なんだけど、周りが圧倒的戦闘集団、そんな考えを経て生まれたのがアベル君でした。
他の話でも、同じように回りが絶対強者って主人公もいましたが、彼とは同じ方向を向きながらも、まったくベクトルの違う軍団を率いることなったのは、ノリと勢いです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。皆様の日常の小さな楽しみの一つとなっていたなら、サルスベリにとっては幸いです。
では、これにて。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
最後におまけです。
不死川実弥、約束のカブトムシを貰う。
「おおおおっっしゃぁぁぁぁ!!」
鋼鉄のカブトムシに彼は大絶叫。
「乗れる、触れる、移動できる」
「あ、タイムマシン機能もあるんだった」
「へ?」
その後、実弥が持っているカブトムシを巡って、女リーダーと、細い男と、太めの男の三人組の怪盗達と、時空を股にかけた大騒動となるのだが。
「爆発もするから気をつけてね」
「・・・・あ、はい」
この時の実弥は、知らないことでした。