とりあえず、普通の手段は諦めていいですか?『完結』 作:サルスベリ
時系列が少しあやふやですが、フワッとした物語でございますので、多少はご容赦ください。
フワッと思ったことをフワッと形にする、気楽に楽しく今日も悪鬼滅殺。
いや、大量破壊による殲滅戦かなぁ。
今日も空が青い。アベルはそんなことを思いながら、小さくため息をついた。
自分はどうも、女の子に甘いらしい。
「ありがとうアベル君」
「あ、はい」
嬉しそうに七本の桜色の棒を抱えるカナエに、溜息交じりに答えるくらいいいじゃないか。
あれ一本で、どれだけ貴重な資源を使ったか、どのくらいの価格が消えたのか、彼女は理解してない。説明していないのだから、彼女がしっているわけがないか。
「これでしのぶも安心ね」
アベルが顔を向けると、カナエは少しだけ悲しい顔をしていた。
「そんなに嫌なら『ダメ』って言えばいいのに」
思わず言ってしまってから、しまったと口を抑えた。
「そうね、そうかもしれないわね」
カナエは怒った様子もなく、やはり悲しい顔のまま笑みを浮かべた。
「私はしのぶに鬼殺隊から抜けてほしいの。あの子は、普通に幸せな生活をしてほしいから」
だから、本当はと続けようとしたカナエの言葉を、アベルが遮った。
「自分だけ自由に生きて、妹は駄目って?」
「え?」
「カナエさんは自分がやりたいって思ったことをやるのに、しのぶにはやるなってこと?」
「そ、そうじゃなくてね」
「同じだよ。鬼を殺したい、鬼を狩りたい。そう願っている子に、『やるな』なんて言っておいて、自分はそれをしているなら。説得力はないさ」
冷たい言い方かもしれないけれど、アベルにはカナエの言葉は自分勝手に聞こえる。
彼女達に何があったかをアベルは知らない。胡蝶姉妹が、どういった思いを抱いて鬼殺隊に入ったのか、鬼を狩り続けているのかなんて知らない。
鬼を使った実験をしているから、鬼を普通の人間が狩るために、どれだけの力が必要か解る。一般人では無理、特別な訓練を積んだとしても、簡単なことではない。
かなり勝率の悪い賭け、もしかしたら死ぬかも知れない。そんなところに妹を置いておきたくない、死んでしまうかもしれない世界から妹を遠ざけたい。
カナエの気持ちは理解はできるが、それを願っている本人が妹を遠ざけいた世界にいたら説得力なんてない。
何よりだ、こんな話をしている家の入口の所に、当人の気配があるのならなおさらだろう。
ショックを受けて、逃げ出そうとしたしのぶには悪いけど、そのまま固まってもらおう。
近衛の一機に命令、しのぶの口をふさいで、そのまま拘束。
「妹を危険な目にあわせたくないのよ。姉として当たり前のことじゃないの?」
「そう思うように、妹も姉を危険な目にあわせたくないって思わないって、そんなこと考えてないか?」
「それは、そうかもしれないけど。でも」
「カナエさんのそれは傲慢だ。自分勝手ともいえる」
「アベル君」
ちょっと睨むような視線に、溜息をついてしまう。
とても簡単な話なのに、彼女は理解してない。言葉では解っていても、頭が理解してないなんて。
「君が妹を想うように、妹も君のことを想っている」
「解っているわよ」
「解ってない。君が死にかけた時、しのぶがどんな思いだったか、理解してないから、そんなこと言えるんだよ」
「それは」
カナエが言葉に詰まり、入口の気配が微妙に揺れる。こんな距離で妹の気配が解らないほど、カナエは動揺しているのか。
「相手に『止めろ』っていうなら、君も止めるべきだ」
「出来ないわよ」
「鬼と仲良くなりたいから?」
問いを投げた時、カナエは答えに詰まったような顔をした。
「復讐?」
顔が驚きに染まった。
鬼と仲良く、それは彼女の本心かもしれないが、それがすべてではないらしい。
「アベル君、今日は意地悪じゃない?」
「貴重な武器を七本も強請られたら、意地悪にもなるって。単純計算でそれ一本いくらになると思ってるの?」
「そんなに?」
「そんなに。そうだね、一本でこの時代の豪邸が建つだろうね」
ピシリと二つの気配が固まったのでした。
「後は、話し合いなよ。きちんと言葉に出さないと伝わらないことがあるから、俺達は同じ言葉を話しているんだからさ」
「え?」
まだ気づいてないか、とアベルは呆れながら指をさす。
カナエは釣られるように振り返り、入口から顔を見せたしのぶを見て表情を蒼ざめさせた。
「姉さん」
「しのぶ、あの、これはね」
「アベルさん、ちょっと座敷を借ります」
勢いのまま姉の手を取ったしのぶは、そのまま奥の座敷へと上がって行った。
「ちょっとしのぶ! アベル君!」
「はいはい、姉妹仲良くケンカして内心でも言い合いなって」
「あのね!」
怒った顔で引っ張られていくカナエに、アベルはにっこりと微笑んだ。
「生きている間にしか、人間は話し合えないんだ。何も言えないまま死んだら、残されたほうは辛いだけだからさ」
彼女は、それに驚いた顔で座敷の中へ消えて行った。
「・・・・・・文句が言えるだけ、ケンカできるだけいいことだって、あの姉妹に思い知らせたくないな」
小さく指を弾くと、モニターが日本地図を映し出した。
「・・・・・・最終選別の鬼はいいとして、他の鬼の反応は邪魔かな」
アベルが呟くと、モニターに『作戦開始?』の文字が浮かんだ。
彼はそれを指で弾いた。
地球衛星軌道上。
人の目に映らない漆黒の闇の中、全体を覆うほど巨大なフィールドの中に隠れるようにしてそれらは同一方向へ艦隊を組んで進んでいた。
様々な艦種と、色々な種類の船達が組み上げた、一つの生命体のような艦隊から数隻の戦艦が、ゆっくりと離脱していく。
『作戦開始を受諾。市街地以外の『鬼』への攻撃開始』
離れた戦艦が回転、主砲が地表へ向くように姿勢を修正しながら、各自が決められた座標へと進む。
『目標への衛星軌道上からの砲狙撃を開始。弾頭、『GN粒子圧縮』弾頭使用。誤差修正のため情報統制艦および、偵察機の降下を開始』
後方配置の空母部隊から戦闘機が飛び出してく。
それらは戦艦を追い抜いて地表へと降下しながら、鬼の反応のあった地点の上空へと進む。
同時に、情報を集めて戦艦への指示を出す情報統制艦が、戦艦部隊へ概念伝達を併用した情報ネットワークを構築。
『偵察機部隊、配置完了』
『戦艦部隊、主砲準備完了』
『情報統制艦より全準備及びデータ・リンク完了を報告』
『作戦開始』
短い命令の後、戦艦部隊は一斉に地表へと攻撃開始。
市街地や人が多い場所にいる鬼以外は、この砲撃で周辺百メートルを一緒にこの世から細胞の一欠片も残さずに消えた。
『作戦終了。市街地の鬼以外の反応消失』
「空挺降下は無理か」
他の反応を見ていたアベルは、小さく嘆息した。
二メートル大の機械兵による歩兵師団は準備している。歩兵師団を搭載して地上へ降りる軍艦もある。もちろん航空機タイプもあるのだが。
「意外に周辺に人がいるんだな」
鬼の主食が人間なら、食いつくして反応がないと考えていたら、鬼は食料の消費だけじゃなく生産も考えていたようで、人間の反応が鬼の近くに多い。
空挺降下して鬼を殲滅、なんてことしたら人間も殺してしまう。
アベルは虐殺者じゃない。敵対してきたら容赦しないが、敵対してない人間まで殺してすべて終わらせる、なんてことは考えてないし実行したくもない。
鬼に対しても、最初に自分を襲わなければ放置していい、と考えるくらいに周りの人間に冷めている部分もある。
ただ、顔見知りが危険に陥ったら薙ぎ払うくらい、良く解らない性格破綻はしているが。
今は止めておくか。アベルがそう考え、艦隊に撤収命令。
「さてと」
細工の仕事に戻るか、と手を動かしたアベルは、ふと思い出したように耳栓をしたのでした。
「しのぶはもっと普通に生きてほしいの!」
「姉さんは勝手じゃない! 二人で鬼を狩ろうって約束したのに!」
「それはそうだけど! いつか死んでしまうかもしれないのよ!」
「姉さんだってそうじゃない! あの時だってアベルさんが間に合わなかったら!」
「今は生きているから大丈夫よ!」
「死にかけた人間が言っても信用なんてできない!」
「貴方は姉が信じられないの?!」
「姉さんだって妹の私を信じてないじゃない!」
「信じてるわよ!!」
「じゃあなんで鬼殺隊を抜けろなんて言うの?! 姉さんは勝手よ!」
「勝手って何よ?!」
「昔から姉さんは勝手すぎる! 一人で決めて一人でしようとして! そんなに私は頼りにならないの?!」
「そうじゃない! そうじゃないから!」
「じゃあ何よ?!」
「貴方に何かあったら私は!!」
「それは私だって同じだってなんで解ってくれないの?!」
「貴方が生きていてくれればいいのよ!」
「姉さんが死んだら私はどうすればいいの?!」
座敷から響いてくる怒鳴り声をアベルは聞かない。
最初のきっかけを作ったのは自分だけれど、内容を聞いて口を挟む資格なんてないから。
姉妹の問題は姉妹同士で解決する。そこに他人が口を挟む余地もなければ、権利もないのだから。
と、かっこよく言っているのだが、アベルの体は微妙に震えている。
穏やかなカナエと気が強くても何処か優しいしのぶ、あの二人があんな声で怒鳴り合うなんて。
「世の中、知らないことが多いなぁ」
「アベル君!!!」
「アベルさん!!」
「聞こえない聞こえない。俺じゃなくてお互いに納得しなさいって」
「聞こえてるじゃないの! もう!!」
「貴方はどっちの味方なんですか?!」
耳元で聞こえる声に振り返ってみると、何故か二人が怒った顔で立っていて。
「どっちって」
二人の顔を交互に見たアベルは、ゆっくりと笑顔を浮かべて。
「俺の味方に決まってるじゃない」
「最低!!」
「馬鹿!!」
「いやなにその理不尽」
二人に怒鳴られ、アベルは嘆息したのでした。
鬼が何処にいるか、何処に隠れているか、アベルは知っている。
中でも特に反応の強い鬼は、常にロックをかけて現在位置を把握しているので、不意な遭遇戦はほとんどない。
近寄る前に部隊を展開、最接近を許しても十メートル以内に入らせたことはない。
例え相手が十二鬼月であっても、上弦であっても。
以前、上弦の壱に接近を許してから、そういった警戒網と迎撃網を構築することにした『軍勢のアベル』に、隙はないように見えた。
ただしこれは、鬼に対してのみ。
「カー! カー!!」
人間や動物、ましてや普通によく見かけるカラスなんてものは、警戒網や迎撃網の対象外。
「今日はやけにカラスが多いな」
カナエとしのぶの姉妹ケンカから数日、お互いに言い合ってお互いの想いを知った二人は仲良く帰って行った。
言えないまま離れ離れになったり、仲違いをすることなく、仲のいい姉妹に戻れたようで良かった。
「にしても、カラス多くないか?」
店先から見える屋根の上、それにびっしりとカラスが止まっていて。
「・・・・・・小型の偵察ロボットだったりして」
まさか、とアベルは自分が考えている結論に苦笑してしまう。
最近、鬼の襲撃がないから気が緩んでいたのか。それとも、鬼が襲撃してこないから退屈して、戦う思考になってしまっていたのか。
どちらでもいいか。
今日はカナエもしのぶも来ていない。最近はどちらかが必ず来ていたから、珍しいこともあるものだ。
アベルはそんなことを思いながら、家の中へ戻って細工に取りかかろうとしていた時だった。
『周辺に『未確認の人間多数』』。
不意に脳裏に流れた情報に、手を止めた。
『武装している可能性大』。
続いた情報に、アベルは座ろうとしてた足をそのまま座敷へ向けた。
普通に慌てることなく、座敷の中へと入っていき、後ろ手に襖を閉める。
「状況確認」
外から見えなくなったのを確認し、小さく声を出す。
脳内に周辺地図が表示され、続いて複数の人間の反応が追加、さらに外部映像も添付。
確かに見たことない顔が、この家の周りを囲んで様子を窺っている。
見なれない服装だ。いや見たことがあるような、ないような。それに誰もが手に刀を持っている。
確か廃刀令で刀の所持には許可がいる。持っているのは警察官くらい、とか言っていなかったか。
バレた、と考えるべきか。
アベルは異邦人、今の日本には珍しい外国人だとバレたか。
あるいは、何処からからの流れ者と勘違いされたか。最悪の場合、犯罪者だと疑われているか。
どれにしても、今の状況は不味いか。
捕まって事情を話せば解ってくれるか、こちらがどんな事情を話したとしても疑いを晴らすのは簡単じゃない。
「・・・・・・逃げるか」
資金は十分ではないが、溜まった。
源さん達や大家さんには悪いが、ここは逃げた方がいいかもしれない。犯罪者をかくまったなんて広まったら、あの人達に迷惑をかけてしまう。
家賃分くらいは置いていくか。蓄えていたうちの半分は大家さんのところへ転送して、後の半分で何とか逃げ回ろう。
細工の仕事も慣れてきたから、逃亡先でもどうにか生活できるだろう。
では逃げよう。結論を抱いたアベルは、早々に動き出した。
同時に、周りを囲んでいた何者かが家の方へと近付いてきた。
「遅いよ」
小さく呟きだけ残し、アベルの姿は上空へ。
転送装置なんてこの世界にないから、簡単に逃げられたな。
下を見れば、多くの人間が家の中を探しているのが見えた。
「誰なんだろ?」
しばらく様子を見ていたアベルの視界に、誰かと言い争っている胡蝶姉妹の姿が入る。
「・・・あれ、鬼殺隊だったのかな?」
カナエとしのぶが何か言っているようだが、ここまでは聞こえない。
彼女の周辺にいる剣士は、誰もが同じ服装をしているから、間違いなく鬼殺隊なのかもしれない。あれだけの人間が、鬼ではなくアベルのために集まったということは。
危険だと判断されたか。
「よし逃げよう。面倒はごめんだ」
彼はそう呟き、そのまま『個人用エア・プレーン』を動かして行方をくらました。
「だから! アベル君なら私としのぶで話に行けば大丈夫ですから!」
「こんなに大勢で言ったら警戒されますよ!」
「しかしな」
「危ない子じゃないんです」
「唐変朴ですけど」
「しのぶ!!」
「だって姉さん!」
「目標発見できません!」
「逃したか、お館様がお会いしただけだったのだが」
アベルの完全な勘違いと、ちょっと大げさなお出迎えでした。
そして。
「アベル君?」
「あ、カナエさん、ビーム・サーベルは全部ここに置いてね。勝手に補修と修理と充電されるから」
「え、はい」
「じゃ」
「待って!」
何故か、蝶屋敷に装置を設置して消えたアベルと、そこに思わず返事をした後に、彼が消えてから思い出したカナエがいたという。
「本当にいいの? 見知らぬ人間がお邪魔するのってさ」
「いいんですよ、困った時はお互い様ですから」
「ありがとう、俺はアベル、君は?」
「竈門・炭治郎です」
とある雪山で、二人は出会ったのでした。
というわけで、一気に走り抜けました。
一度はやってみたい、鬼に対しての理不尽攻撃その参です。
いや、衛星軌道上からの砲撃ってどうやっても生物には防げないなぁって考えるわけですよ。
時系列とかすっ飛ばしはお許しください。
短編ですし、胡蝶姉妹との生活だけで終わってしまいそうだったので。
というわけで、次回からは本編に合流。
「ねえ、綺麗でしょう?」
「こ、これは華?」
「ええ、それは貴方の命を吸って咲く華、とても綺麗な赤い華ね」
「ぎゃぁぁぁ」
なんて、何処かの黄金セイントっぽい華を使った攻撃するカナエって、とっても綺麗かもしれない。
いや怖いか。
童磨はこうして、胸にバラの華を咲かせて死にましたとさ。
それか。
「花の呼吸、拾の型『撫子』」
「え、いやそれって」
「重力波砲、撃てぇ!」
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
とか、どっかの戦艦の艦長するカナエと、砲撃されて塵になる童磨とか。
胡蝶・カナエ艦長、いいかもしれない!