とりあえず、普通の手段は諦めていいですか?『完結』   作:サルスベリ

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 ちょっとやりすぎて鬼殺隊に追われることになったアベル君。

 逃げようと思って逃げ出したはいいのですが、大変なことになってしまって。

 色々あって竈門家に居候しているアベル君。

 そんなフワッとした話です。










最近の戦争は、ボスを倒しても終わらない

 

 

 

 

 

 

 その人に会ったのは深い雪が降り始めた頃、山道を歩くのにも苦労しそうな場所で、何故か木の上に座って『お腹すいた』なんて言っていた。

 

 迷子ですかと声をかけると、あの人は驚いた顔をしてこちらを見た。

 

 その人からは不思議とお日様のような匂いと、かなり濃い血の匂いと、それと鉄の匂いがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わず怖い人たちに囲まれたアベル君。

 

 怖い人たち、鬼殺隊の方々と戦うなんてことできないので、思わず逃げることを選びました。

 

 お世話になった人に迷惑をかけたくないから、そんな短絡的な考えで逃げ出したのですが、考えてみればアベル君が逃げたほうが残されたお世話になった人たちが困ることになるのです。

 

 隠したとか逃がしたなんて言われて、逃亡補助なんて罪になったりするのですが、アベル君はそこまで頭が回りません。

 

 ご迷惑をおかけしたなんて思ったら、逃げるなんて考えずに身の潔白を立てた方がいいのに。

 

 けれど、アベル君は大正時代の日本人じゃなくて、銀河航海時代の魔導師なので『逃げる』だけを選んで即決断・即実行。

 

 手持ちのお金の半分を大家さんに転送、この時に彼は致命的なミスを犯したのですが、気づくことなく。

 

 逃げだして何処へ行こうか迷っていたら、カナエさんがいたので『あ、そういえばビーム・サーベルの整備が必要だよな』なんて思ったので、カナエさんの家に設備を設置。ついでに本人に見つかったので、世間話のように説明して相手の返答を待たずに逃げ出して。

 

 山を抜けて森を抜けて、さてお腹がすいたなと思った時に、自分の失敗を知るのでした。

 

 『あ、御金を全部、大家さんにあげちゃった』。

 

 転送システムは同一物体は一つとして考え、同時転送してくれる優れた技術です。

 

 人間同士なら『別の物体』と考えるのですが、無機物はきちんと選ばないと大変なことになります。

 

 この時代のお金は、大体が同じつくりの物体なので、転送システムは考えました。

 

 『あれ、これ全部をやればいいんじゃね?』と。

 

 転送システムは悪くない、悪いのはアベル君。自分が扱っているシステムなのだから、その特性を把握してないのは駄目ですね。

 

 というわけで手持ちのお金がなくて、困っていたところを炭治郎少年に発見され。

 

 『家で食べていきなよ』なんて、自分の半分以下の少年にご飯をおごってもらうことになって。

 

 子供にご飯を恵んでもらうなんて、そんなこと悪いと断ろうにも意外に頑固な炭治郎少年に連れられて、竈門家に来ました。

 

 父と母と子だくさんの家庭にお邪魔して、ご飯を貰って。それでさよならなんてできないアベル君は、竈門家のお仕事を手伝うことにしました。

 

 そのついでに、父親の炭十郎さんの病気も治しましたとさ。

 

 ナノマシン、バンザイ。

 

 そして、冬を越して春を祝い、夏をなんとか乗り越えて、秋になって涼み、やがてまた冬になってを二度ほど繰り返した。

 

 今ここです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?!」

 

「どうしたんですか、アベルさん?」

 

「いやいやいや、二年も経ったんだなぁってさ」

 

「そうですね」

 

 隣で炭を縛っている炭治郎に話しかけたアベルは、深々と頷いてしまう。

 

「二年かぁ、二年だよなぁ」

 

「はい、二年ですね」

 

「居候で二年って。そろそろお暇しようかな?」

 

「ええ!? アベルさん、家が嫌いなんですか?」

 

「いや嫌いじゃないけど、そんなにお世話になるって迷惑じゃないかな?」

 

「父も母も『息子が増えた』って喜んでいますよ」

 

 何処までも懐の深い両親だなぁとアベルは思う。

 

 いきなり長男が連れてきた、身元不明の人物を夕食にご招待。普通は疑うか、やんわりと拒否するのに、そのまま一泊の寝床まで用意してくれて、そのまま居候しても嫌な顔一つしないなんて。

 

「恩義がたまるな」

 

 本当に優しくて暖かい人たちだ。

 

「もう家族みたいなものですから、気にしないでください」

 

「いや、そこまで甘えられないって」

 

「でもアベルさんの細工、評判で注文が来てますよ」

 

「ありがたい限りだね」

 

 炭十郎が気に入って、葵枝が気に入った細工はかなり自信作だ。こっそりと木を切ったり、岩を砕いたり、宇宙戦艦の工作室を使ったりした細工は、二人が気に入って身につけてくれて。

 

 そのまま街に炭を売りに行って、目にとまった人たちから注文を受けて、アベルが作ってまた売れてを繰り返し、それなりに有名になって行った。

 

 有名になった、というかなってしまった。凝り性ではないが、仕事に対しては真面目に取り組むアベルは、妥協って言葉が嫌いだから頑張って作ってしまい、有名になってしまった。

 

 彼は思う、できれば胡蝶姉妹にバレないように、と。

 

「よっと、アベルさん、こっちは準備できましたよ」

 

「じゃ俺も・・・・俺も」

 

 炭を背負う炭治郎に習い、アベルも背負ってみるのだが。

 

 彼の半分の炭しかないのに、しかもこっそり竈門家に伝わる『ヒノカミ神楽』の呼吸を使って筋力を上げているのに。

 

「上がらない」

 

「アベルさんって、意外に不器用ですよね。『ヒノカミ神楽』は一晩中でも踊れるのに」

 

「うううう」

 

「父さんも驚いていたのに。『あんなに見事に踊れる者は初めて』だって」

 

「炭治郎君、そこで止めて」

 

 明らかに妬みや厭味ではなく、純粋に尊敬しか向けてこない炭治郎の眼差しに、アベルは全身が悲鳴を上げているように感じていた。

 

 彼にはマイナスの感情が一切ない。常に人に優しく、誰かの嫌な部分を探すよりは、いいところを見つけようとする、まさに『いい子』だ。

 

 そんな彼だから、アベルが荷物を持てなくても『どうしてなんだろう』と疑問に感じるだけで、『サボっている』なんて考えない。

 

 原因を調べて、どうやったらできるか一緒に頑張りましょう、なんて笑顔で言われたら。

 

 もう、世界の裏側の冷たいもの汚いものを、『仕方ない』って割り切ってきたアベルにしてみれば、まさに鬼が太陽を受けたように溶けてしまいそうだ。

 

「よっし!」

 

 尊敬を向けてくれる炭治郎のためにも。

 

 お世話になっている竈門家の皆さまのためにも。

 

 アベルは気合を入れて、さらに呼吸も全集中で行って。

 

「いざぁぁぁ!!」

 

 グッと腰に力を入れて立ち上がり、そして。

 

「やりましたねアベルさん!」

 

 自分のことのように喜ぶ炭治郎に、アベルはニヤリと笑い。

 

 グギって音がして崩れ落ちました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、今日の炭売りは炭治郎一人で行くことになりました。

 

「はははは」

 

「そんなに笑わないでくださいよ、炭十郎さん」

 

「いやすまない」

 

 豪快に笑う彼は、少しだけ顔色が悪い。

 

 元々、体の弱かった人だ。不治の病さえ患って体力が落ちて、今にも死にそうなところにアベルが来た。

 

 最初に会ったとき、アベルにはどうして生きているのか、とても不思議だった。精密にスキャンしなくても、見ただけでもう末期だと解る顔色と体の動き。正直に言ってアベル達の世界の人たちなら、もう死んでいるかもしれない。

 

「今日の調子は?」

 

「とてもいいよ。大丈夫さ」

 

 話を変えるようにアベルが真顔になると、炭十郎は小さく微笑する。

 

「もともと、もう諦めていたことだからね。今も自分が生きていることが、奇跡のようだよ」

 

「奇跡じゃないですよ。炭治郎君が引き寄せた、必然です」

 

 苦笑するように告げる炭十郎に、アベルは真っ直ぐに告げた。

 

 あの時、自分を見つけなければ、家に呼ばなければ。優しく迎えてくれなければ、きっとこの人はもうこの世にいないから。

 

 今の幸せを、家族全員が揃っている現実を、悲しみを増やさなかったのは間違いなく炭治郎のお手柄だから。

 

「そうだね。私はいい息子を持ったよ」

 

「ええ、自慢に出来ますよ」

 

「そろそろ、もう一人くらい息子が増えてもいいのだけれどね」

 

 優しい瞳を向けてくる炭十郎に、アベルは小さく顔を背けた。

 

「いや俺は、その」

 

「何時でもいいさ。君が我が家に来てくれたら、私達はとても嬉しいよ」

 

 嘘でも打算でもなく、心の底からの願いを受けて、アベルは少し照れくさくて困ってしまう。

 

 障子を挟んだ向こうで、炭治郎以外の竈門家の全員がいることは、アベルにはすぐに解ったけれど、それを指摘して場の空気を壊して逃げることはできなかった。

 

 誰もが心の底からそれを望んでいることが、この二年の共同生活で解っているから。

 

「診察しますよ」

 

「フフフ、この分なら来年の春には落とせそうだね」

 

「まったくさ、本当に」

 

 悪態のように告げながら、アベルの表情は少しだけ笑顔だった。

 

 まんざらでもない、そう心の何処かで思っているのを、彼自身も知っているから。

 

 炭十郎の診察が終わった彼は、その後に穪豆子達に襲撃を受けて、日が暮れるまで遊ぶことになるのですが、この時の彼は医療用システムを使って必死になっていたので、気づくことはありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔、雪はゆっくりと降り積もるから、『深々と降る』なんて言われていることを教えられた。

 

 深く、何処までもゆっくりと、それなのにすべてを覆い隠すように降り積もる雪は、まるで世界のすべてを塗りつぶすようにどこまでも白く綺麗で。

 

 アベルはそんな雪を夜半に眺めながら、小さくため息をついた。

 

「本当に鬼ってのは、暇なのか?」

 

 炭治郎が戻ってこない日の夜、街で遅くなったから一泊してくることは知っていたから、アベルは安心していた。

 

 もし急いで帰ってくるつもりなら、止めていた。戻らずに街にいろと伝えるつもりだった。

 

 急いで帰ってしまったら、この鬼と鉢合わせになっていたから。

 

「貴様は何者だ?」

 

 雪の中を、鬼が歩いてくる。

 

 何処までも冷たい瞳と、何処までも深い闇のような血の気配。今まで会った軍人や、大量殺戮を起こした殺人鬼でも、ここまで濃い血の気配を纏っている相手はいなかった。

 

「何者って言われてもな、この家の居候で異邦人だよ」

 

「ならば、おまえも死ぬがいい。その家に関わったことを後悔しながらな」

 

「後悔ね」

 

 鬼の背後から何かが出てきた。それは一瞬で距離を詰めて、アベルの首へ拳を突きつけようとして。

 

 空を飛んだ。

 

「いきなり始めるって、やっぱり鬼だな」

 

「貴様、何をした?」

 

「何をって。見えない?」

 

 嘲笑うように鬼を見つめる。そうか、見えないか、あの程度の速度で見えなくなるとは、やはり鬼はまだ生物の範疇だ。

 

「私を笑うか、貴様」

 

「怒るなよ。たかが、速度を上げただけだろ?」

 

 アベルの指が鳴る。

 

 音が響き渡り、その音に導かれるように白い影が降り立った。

 

 白い鎧をまとい、左手に楯を持ち、右手に光輝く剣を持つ。

 

 アベルの手駒の中でも、最大級の近接戦闘を行える機体。この機体を出した戦闘で負けたことはない、この機体が立った戦場で一度でも敵の接近を許したことはない。

 

 最強の幻影。

 

「レッド・ミラージュだ。よろしくな」

 

「なんだそれは? 貴様は何者だ?」

 

「アベルだ。『軍勢のアベル』そう呼ばれている」

 

「そうか」

 

 鬼の視線が少し動く。

 

 恐らく伏兵、アベルを正面に固定したまま、迂回して誰かを侵入させるつもりでいるのか。

 

 鬼の表情が微妙に動いた。勝ったとでも思っているのか、鬼を倒せるのがアベルと手駒だけだと思って。

 

「残念だったな」

 

「何?」

 

 一瞬の静寂、そして影が走った。

 

「『ヒノカミ神楽』、炎舞」

 

 短い声に反比例するような圧倒的な熱量。まるで太陽が生まれたような焔が踊り、鬼が跡形もなく燃え尽きた。

 

「炭十郎さん、張り切り過ぎてません?」

 

 あまりにあまりな一撃に、アベルは小さく顔を覆ってため息をついた。

 

「家族に手を出されてまで、温和な男ではないよ、私はね」 

 

 右手に刀を握った男、炭十郎は温和な笑顔を浮かべ、瞳に鋭い殺気を滲ませてアベルの横に立った。 

 

「見事な刀だけれど、これは?」

 

「もらいものですよ」

 

 誰と炭十郎は聞かなかったので、アベルは答えなかった。

 

 言えない、『天照』なんていいたくない。普通に、カフェでお茶している神様の知り合いがいるなんて、とても言いたくないから。

 

「その姿、その技、やはり貴様は」

 

 鬼が何か言いかけたが、アベルは待ってやるつもりは微塵もなかった。

 

「消えろ」

 

 アベルの前、一つの影が躍った。

 

「ガイバー・ギガンティック」

 

 名前を呼ばれたそれは、胸部装甲を開いた。

 

「ギガ・スマッシャー」

 

 鬼は、いや鬼舞辻・無惨はその瞬間に悟った。 

 

 あれは自分を消し飛ばす、細胞の一遍も残さないほどに膨大な『太陽だ』と。

 

「鳴女!!」

 

 無惨が叫び、音が一つ鳴った。

 

 彼の姿が消える間際、膨大な熱量を持ったエネルギーが山の一角を薙ぎ払った。

 

「・・・・・なあ、鬼ってのはそんなに」

 

 アベルの瞳が動く。

 

「偉いのか? まさか空間転移程度で逃げられるなんて、思ってないよな。妨害もジャミングもない、ただの空間転移でさ」

 

 舐められたものだ、とアベルは内心で吐き捨てる。

 

 たかが空間を隔てたくらいで、まったく別の場所へ転移した程度で、『軍勢』から逃げられるなんて思うなんて。

 

「思いしらせてやるよ」

 

 アベルの手が動く。

 

 レッド・ミラージュが巨大な大砲を構えた。

 

 同時に、その横に別の影が浮かび上がった。

 

 細い脚先、細い手足を持った機体は空中に浮かんでいたが、その両足を突き刺すように地面に降りた。

 

「ジェフティ、ベクター・キャノン」

 

 名を呼ばれた機体が両手を上げる、そこへ異空間からパーツが装着され、やがて巨大な砲門を出現させる。

 

 二機が構えた巨大な武器が、エネルギーを満たしてく。

 

 その光景を無惨は見詰めていた。遠目の力で見つめながら、愚かなと小さく呟いた。

 

「愚かなのはお前だ」

 

 アベルの言葉を引き金に、最初にベクター・キャノンが放たれた。通常時でさえ別次元、あるいは位相空間を貫通する攻撃は、鳴女が開いた転移空間を貫通した。

 

 続いて、レッド・ミラージュのバスター・ランチャーが炸裂。開いた空間の隙間に巨大なエネルギーを叩きつけ、それはやがて無惨の城の半分を消し飛ばす。

 

 通常時でさえ、撃てば半日は空間を歪ませる攻撃は、容赦なく鬼の根城をかき乱していく。

 

 アベルはしばらく空間の亀裂を睨んでいたが、小さく舌打ちした。

 

「チ、逃がした。クッソ、チャンスだったのに。あれが鬼の首魁か」

 

「なるほど、あれが。しかし、君も容赦ないね」

 

「俺は元々、こんな戦い方をしていたので。どうです、息子にしたいなんて、思わない方がいいでしょう?」

 

 諦めてと願ってアベルが告げると、炭十郎は刀を鞘に収めながらニヤリと告げた。

 

「教育をやる気が出来てきたよ」

 

「え、まって、なんでそっちに?」

 

「はッはッはッは、是非とも家の子になりなさい。きちんと体を鍛えてあげよう」

 

「待って、炭十郎さん、なんでそこに行きついたんですか?」

 

 笑顔で家に戻っていく背中をアベルは追いかけながら思う、この時代の人たちって逞しすぎませんか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、なんでここの雪は消えてるんだろう?」

 

 翌日、家に戻る炭治郎はそんなことを思ったのでした。

 

 

 

 

 

 




 





 無惨、撃ちとれず!

 空間と空間を繋げるなら、ベクター・キャノンでまず空間を隔てているところを狙って穴を開けて、バスター・ランチャーを打ち込めばなんとかなる、って考えてやってみました。

 結果、逃げられました。

 やっぱりそう簡単に討てたら苦労しないね。

 炭治郎が『ヒノカミ神楽』を使わずに、父親の炭十郎が使って鬼を撃退。

 やっぱり息子の前に父親がやらないとって感じで、フワッと書いてみました。






「炭治郎、ヒノカミ様になりきれないなら、私がやってあげよう」

「え?」

「いざ、『ヒノカミ神楽』円舞」

 父親最強伝説とかやってみたい今日この頃です!







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